いふ☆すた Episode LAST ~やがてその実は大樹となる~

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街にある灯火がひとつ消えるたびに…
空の輝きは、またひとつ、明るさを取り戻す。

まるで、地上にあった光が、星となって、空へ昇って行くみたいに。

七夕の日は、もう終わり。

それでも、空に映り込んだ星々の川は、さんさんと、その輝きを取り戻し、逆に地上にあるものを薄く照らし出しているようだった。

いつか…街からは人の気配が消える。
暗闇と、星の海だけが支配するこの世界で、私だけが、一人、取り残されているような。
そんな錯覚に、私は身震いした。


――カン…

ふいに無音だったこの世界に、音が生まれた。

――カン、カン…

また。
まるで、金属の板を叩いているような音。

それは次第に近づき、大きくなり、規則正しい音色を響かせ、私以外の存在を、世界に確かに主張する。

だが、それは、絶望の音色。
私を終わりに導くもの。

一定の調子で響いていた音は、ふいに止まり、代わりに私の心臓の音だけが、やけに近くで鳴り出した。

かちゃり…と、静かに、私がいる世界を隔てる一枚の鉄の扉から音が鳴る。
きぃ…と、錆付いた蝶番が静かに軋み、それが、来訪者の存在を確かに知らせた。

月も無い、星々の灯りだけで薄ぼんやりと照らされたビルの屋上で、輪郭さえはっきりと分からない距離にいるのに、私はその存在が誰なのか…はっきりと確信を持って分かってしまった。
私はその存在の名前を呼ぶ。

「…こなた」

「………かがみ…」

少しの間を置いて、それは私の名前を呼んだ。

「…なんで、来たのよ」

何故、ここが分かったのかは聞かない。
わかったところで、彼女がここにいる事実は変えられないのだから。

「かがみに…会いたかったから」

「私はこなたに会いたくなかった…」

私は出来るだけ冷淡に聞こえるようにそう返す。でも、

「それでも…会いたかった。会えてよかった…」

彼女は一歩、私に近付く。
建物の影を抜け、次第に輪郭が分かるくらいの距離になる。

「かがみ、なんでそんな所に、いるの…?」

こなたは私の様子を見て、そう言った。
それをあえて無視するように、私は話題を変える。

「…アンタにさ…、メールを送ろうって思ってたのよ。ひどいこととか言っちゃったし…
それで、文章を色々と考えてたら…こんな時間になっちゃった。
アンタが来るの分かってたら、そんなことしなかったんだけどね…?」

「違う、そんなこと聞いてない!かがみ…質問に答えてよ。
なんで『 そんな所 』にいるの…っ!?」

こなたが暗がりから、そう、叫ぶ。
七夕伝説では、確か織姫と彦星を分かつ為に、星を集めて天の川を流したんだっけ。
でも…天の川なんて、そんなロマンチックなものは今、私たちの間には流れてはいない。
今、私とこなたの間を隔てているのは、こなたの身長よりわずかに高い程度の金属の柵。
それが、外と内を分けている。
こなたは内。すなわち鉄柵に囲まれた屋上の中。
私は外。鉄柵の外。
わずか60cmにも満たないコンクリートの足場に自らを乗せ、そこからさらに外には、底の見えない深淵が、只々わだかまっているだけだった。

「かがみぃ…っ!」

「…今、丁度、メールが出来たところなんだ。送るね?」

こなたを見つめたまま、腕をだらりと下げ、左手だけを動かして送信ボタンを押す。
一瞬の間をおいて、彼女の方から短めのメロディが流れ、メールを着信したことを知らせた。

「…送ったわ」

「…うん」

「……見ないの?」

「…うん」

「…そう…」

「………かがみ、帰ろ?」

私は黙ったまま首を左右に振る。

「…みんな、待ってるよ?」

もう一度。首を縦には振らない。
頑なな私に焦れたのか、こなたはまた一歩、私に近づく。

「かがみ。…なんで?」

「嫌いって言ったじゃない。もう…関わらないで…」

「そんなの、嘘、だよ」

「ホントよ」

「じゃあさ…かがみの胸の…なに?」

「 !! 」

こなたの言葉に反応して、私はとっさに腕で胸を庇った。
かすかに、チャリッ…と金属のすれる音が鳴る。
こなたに見られてしまったのかと思ったそれは、しっかりと私の胸元に収まり、セーラー服によって隠されていた。
そうだった、そもそも、この暗闇の中では見えはしないのに。
嘘に対して反応し、動揺はきっと彼女に伝わった。

「…やっぱり、付けててくれてたんだ。ネックレス」

「これは…違うっ!」

「違うならなんで付けてんの?嫌いな人から貰ったものなら普通は絶対付けないよ?」

「これはたまたま…。別に付けたくて付けたわけじゃ…」

「そう、じゃあさ、いらないなら返してよ」

「―――ッ!」

暗がりの輪郭が動き、片手を私の方に差し出すのが見えた。

「それ、結構高かったしさ。かがみがいらないなら売っちゃって…」

「嫌っ!」

「 … 」

「嫌…よ。こなたがくれたものだもん。こなたに貰ったもの…だもん」

私はまるで、大好きなおもちゃを取られまいと、必死に抵抗する子供のようだ。
胸元を両手で庇い、押し付けるようにして、それがまだ私のもとにあることを確認する。

「そうだね。私がかがみにあげたものだもん。返してなんて思ってないよ?それはもう、かがみのものだよ」

こなたはそっと、手を下ろす。

「ねぇ…かがみ。私は好きだよ。
今でも疑うことなく、かがみのことが、大好き、だよ…」

「…!」

「…かがみは?…嫌い?…本当に?
答えてよ。嘘なんて聞きたくない。かがみのホントが聞きたい。ホントのココロが聞きたい…っ!答えて、お願い…」

「…」

こなたは私の答えを待った。
耳鳴りがするぐらい、無音の間が辺りを支配する。
数分はたっただろうか。それでもこなたは待ち続けた。

…静寂を奪ったのは、泣き虫な誰かの声だった。

「すん…ぐすっ…ぅぅ…」

「かがみ?」

「……………嫌い…」

「かがみ…っ!」

「…な、わけないじゃない…っ!!」

もう、偽れないんだ。
こなたは私の想いを知っている。
どこで気付かれてしまったんだろうか。
でも、今はそんなこと、どうだっていい…

「好き…好きっ…大好き…っ!」

想いがあふれた。
今まで溜め込んでいた何かが堰を切ったようにとめどなく私の瞳と唇からあふれ出す。
想いは言葉になって。
悲しみは涙となって。

「大好きなの…こなたのこと、ずっと、ずっと好きだった!
初めてこなたに会ったときから、忘れられなくて…
一緒にいるだけで…私はそれだけで幸せだった…
でも…」

「…でも?」

「でも、いつの日か、この想いは、親友に寄せるそれじゃないって気付いたの。
私…こなたのことを愛してるんだって…そう気付いたとき、私はとても嬉しかった。
私でも、こんなに人を愛することが出来るんだって嬉しかった。
愛した人が他でもないこなただったことが嬉しかった。
…だけど、同じくらいに悲しかった…」

「…私が女、だったから?女の子を好きになるのが嫌だった?」

私は首を横に振る。

「こなたのせいじゃない。こなたはこなたよ。女性であるとか、そんなことはいいの。
悲しかったのはそこじゃない。
私が悲しかったのは…みんなを悲しませることだった…」

「かがみ、わかんないよ…どういうこと?」

「…まず、私の中のこなたの顔が歪むのが見えた。
次にお母さん、お父さん、つかさ…、みゆき…大好きな人たちの悲しみに歪む顔が順番に見えていった…
私の勝手な想い一つで、たくさんの大好きな人が悲しむのが見えた…」

「!…っそんなの、わかんないじゃん! みんななら、もしかしたら受け入れてくれるかも…」

「うん、そうね。私の信じるみんななら…。
でも、それ以外の人は?私達のことを知らないほかの人たちは? みんながみんな、受け入れてくれるの?
…もし、私がこなたに想いを伝えて、そして、こなたに受け入れてくれたなら…って、夢にだって何回も見た。私はこなたのものになるだけで、それだけで幸せだって感じることが出来た! 『 私は 』どんなに否定されても、蔑まれても、こなたの傍なら幸せにでいられる…っ!
でも…こなたは? ほかのみんなは…?
私の幸せのために、きっと悲しい思いをすることがある。
世間や社会なんてものから、私のために拒絶されることだってあるかも知れない。
私は好きなの…
みんな、みんなっ…大好きなの!!
こなたを大事に思うのと同じくらい…みんなのことを愛…してるの…っ
ほんとは誰一人悲しませたくなかったの…
辛い思いをするのなんて、私一人で十分よ…全部、私のせいなんだから」

「かがみ…」

「…この想いを刈り取ろうって思った。全部なかったことにしなければ、こなたの親友のまま居続けることが出来ないから。
だから、告白をされたときも、自然の流れなんだと受け入れた。
他の誰かを好きになれば、この想いも忘れらるかなって…
でも…全然忘れられなくって、ココロはどんどんこなたを求めて行って…
アンタに彼氏が出来た言われたとき…心臓が裂けるくらい痛かった。
そして…こなたとのデートの日…
この場所で、アンタの想いがどこにあるのか、私は知ってしまった」

「…気付いてたの?あの時…」

そう、あの時、私は気付いた。
こなたの想いがどこにあって、私の想いがどれほど大きいものなのか…。
そして、今までこなたにしてきた仕打ちが、どれほど残酷だったのかに気付いてしまった。
こなたは私を好きだった。では、私に彼氏が出来たとき、どれほどこなたは悲しんだだろう。
心臓が裂けてしまう痛みに耐えて、それでも彼女は笑ってくれた。それでも私を好きでいてくれた。
そんなこなたを私は避けたんだ。
あの時、こなたの想いが、悲しみが、つぶさに私のココロに流れ込んできた。
誰一人悲しませたくないなんていう偽善者の私。
こんな私を好きになるなんて間違っている。

「ごめん…ごめんね……謝っても…謝りきれないよね?」

「かがみは何も悪くない!ががみ…謝って欲しくない!」

「ううん、私は悪いわ。だって、こなたにひどいこともした」

「…あのことなら大丈夫。なんとも思ってないよ。だから…」

「…お願い、こなた。優しく、しないで…」

「かがみ…」

「こなたの想いに気付いてしまった私は、きっと何かの拍子にこなたに想いを伝えちゃう。だから…アンタのことを嫌いって言った。
嫌いになれるはず…ないのにね。
忘れたくても忘れられなくて、嫌いになりたくても嫌いになれなくて。
欠点とか、そんなところ全部含めて、アンタのことを好きになったのに…
自分でも、どうしようもないくらい、こなたのこと、好きなのに…」

「 … 」

「…でも、そう言えば、きっと、私のことなんて嫌いになってくれるって思ってた。
私をこなたが罵ってくれたなら。
私のことを避けてくれたなら。
大嫌いって…言ってくれたなら…って。
こなたも私のことなんて忘れて、新しい恋を見つけたり、色々な楽しいことを見つけられるって思ったの。
なのに…なのに…あんたは…っ!」

私は両手で顔を覆う。鉄柵を持っていた手を離したために、私の体は大きく揺らいだ。
指の隙間から、こなたが駆け寄ってくるのが見える。

「―― かがみっ!」

「―― 来ないでっ!」

こなたは肩を跳ねさせて、その場で止まる。
お互いの距離は、いつの間にか五歩程度まで縮まっていた。
金属の柵が、お互いを分かち、息づかいさえ聞こえる距離で、私達は限りなく遠い場所に立っていた。

「なんでアンタは好きなんて言うの?あんなにひどいことを言った私に…っ!
好き…なんて言われたら…、私、私は…っ!
…ねえ、こなた。もう、私は限界なの…
想いを偽ったまま生きていくのも…想いに正直になることにも…っ!
だから、お願い。楽に…させてよ…」

そっと、彼女から視線を外し、60cm向こうの崖下を見下ろした。
光さえ飲み込んでいるように見える闇。そこへ、少しだけ足を動かす。

「!、かが――…」

「…最期に、お願い…
私のこと…嫌いになってよ。…ううん、全部忘れてくれていい。
私なんて最初からこなたの傍にいなかった。
そうすれば、私がいなくなっても、こなたはきっと笑えるよ。
アンタは笑顔が一番似合うんだから…」

「かがみ!そんなのっ!!」
「お願いよっ!!」

二人の叫びは同時に空の闇を切り裂いた。
その後に来る静寂が、私達の胸に刃となって降り注ぐ。
お互いがお互いのことを思ってやってきたことなのに…
今、私達はここにいる。
どこで、選択を間違えたんだろう。
私は、こなたの思いを消そうとした。みんなが不幸になることを恐れ、自分が誰かを傷つけるのを恐れ、結果として、みんなを傷つけてしまっていた。
そもそも、つまらない執着心で、こなたの傍に居続けようとしたことが、間違いだったんじゃないだろうか。
始めから…想いに気づいたその時から、私はこうするべきだったんだ。
そうすれば…こなたが私を好きになることも無く、みんなが幸せでいられたのに…

「かがみ…」

最初に静寂を破ったのはこなただった。
こなたは小さく消えいりそうな声で、私の名前を呼んだ。


「…かがみ。…もし、私が、かがみのことを嫌いになったら…
かがみは生きていて、くれるのかな…?」


そう、こなたは言った。
表情は俯いていて見えない。
私はその質問には答えずに、こなたのことを見続けた。
沈黙は肯定。
そう、彼女は受け取ったのだろう。
くるりと私に背を向けると、立ち去るように二歩ほど、出入り口に向かって歩いて止まる。

「…嫌い…」

「!」

「――かがみのことなんか嫌いっ!大っ嫌い!!」

こなたは叫んだ。
自らが望んだはずの言葉なのに、視界がぼやけ、辺りを白に塗り替えた。

「…時々、優しくしてくれないとこ、嫌い!
…私の話を聞いてくれないとこ、嫌いっ!
…実は寂しがり屋なとこなんて大っ嫌い!!」

こなたは続けた。

「素直じゃないところとか、甘えるのが下手なところとか、宿題を私の為にとか言って見せてくれない事…とか、全部、全部…嫌い…っ!」

私の瞳には再び涙があふれていた。
すん…と鼻をすする音。だけど、それはいつの間にか二重に重なって聞こえるようになった。

「…ぐすっ、ぅ……か、かがみのこと…なんて…嫌いっ!すん……き、嫌…い…ぐす…かがみぃ…嫌い…嫌い…っ!」

泣いているのはこなただった。
後姿が小さくしぼみ、弱弱しく肩を震わせながら、只々、私を嫌いという。

「かがみのバカッ!……ひどいよ。あんまり…だよ…!」

「こなた…」

「だって、そうじゃんっ!!」

こなたは振り向いた。
そして真っ直ぐにこちらを見る。
瞳から大粒の涙を流しながら、それを拭うこともせずにじっと意思をもった視線で、私の瞳を射抜いていた。

「かがみ、さっき自分で言ったじゃん!
かがみのこと、忘れられるわけないよ!嫌いになんてなれるわけ…ないよっ!
…欠点とか、そんなもの全部ひっくるめて、私はかがみのことを大好きなのにっ!!
……
かがみにも…出来なかったこと、私に出来るわけ、ないよ…」

「こなたっ…」

「ごめん、かがみ…嫌いになんてなれない。それだけは、絶対に出来ない…っ!」

「……そう、だね。ごめん。…こなたの気持ち、全部、分かったから…」

私は再び足元を見た。

「まってっ!」

「もう…止めないで」

もとより止まるつもりは無い。
こなたが来る前から決心はしていた。
こなたに送ったあのメールだって、謝りたいだけの文面じゃない。
私の最期の想いを、こなたに託したかっただけなんだ。
本当は、送るつもりも無かったけど。

「ごめん、こなた」

私は上体を下に落とす。
柵をもつ右腕の、力を徐々に抜いていき…

「――まって、私も行くから」

「― え?」

わずかに目を放した隙にこなたは鉄柵の頂上付近までよじ登っていた。
そこから、サーカスの曲芸のようにさぁっと飛んで、私のすぐ傍に降り立つ。

「おっとと…」

「こなたっ!」

ちょっとよろめき、落ちそうになるこなた。
なんとか自力で姿勢を回復するのに安堵し、そして、こなたに追いつかれそうな自分にいまさら気が付く。もう、お互いを隔てるものは何もない。

「い、いや、来ないで…っ!」

後ろに下がりたくても、もう後が無い。
このまま、飛んでしまっても良かったのに、混乱した私の頭では、それが思いつかなかった。

「違うよ…かがみ」

いやいやする私に向かって、こなたはそっと左手を差し出す。

「…二人で、行こうよ…」

「え?」

「かがみを一人では行かせない。二人で、行こ?」

「こなた…、アンタ、どういう…」

つもりなの?って言う前に、こなたは声で遮った。

「…かがみの幸せが、もう、こうすることでしか残ってないのなら、もう、私は止めない。
だって、私のやりたいことって、かがみを幸せにすることだから…」

こなたは続ける。
薄明かりで間近に見るこなたの表情は、もう、涙に濡れた、小さな少女の顔ではなかった。

「でもね、私は自分に素直になることにしたんだよ。
私自身の、本当のホントの幸せはね…」

それは意思に満ちた女性の顔だった。


『かがみのとなりに、ずっとずっと一緒にいることなんだもんっ!!』


「もし、かがみが一人、ここでいなくなっちゃったら、この先ずっと私は一人。そんなの絶対耐えられない。きっとどうにかなっちゃうし、私はもうかがみがいないと生きていけない体になっちゃったんだよ」

こなたは少し、おどけるように私に告げる。

「だ、ダメよこなた。私一人だけでいいの。こなたまで付き合う必要なんて無い!
ほら、彼氏がいるんでしょ? その人のこと愛してあげればいいじゃない…っ!」

「私の幸せはかがみじゃないとダメなんだよ?
…っていうか、ゴメン、かがみ、騙してた。私、彼氏なんていないんだよ~。ゴメンネ」

「はぁ?軽っ!…てか、やっぱり…」

「…やっぱりってことはもうみんなにバレバレだったんだねぇ。恥ずかしい…」

「なんで、そんな嘘を付いたのよ!」

こなたは本当に恥ずかしそうに照れた笑いを作りながら開いていた手でぽりぽりと自分の頬を掻く。

「…かがみがさ、私から離れていっちゃったじゃん?
…で、私なりにどうやったらかがみのそばにいられるのかってそれはもう必死になって考えたんだよ。
そしたらね、かがみと共通の話題が出来れば、もっとかがみのそばにいられるんじゃって…
かがみに彼氏が出来たんなら、私も作っちゃえばいいのかなぁ…って思ったんだけど、私って全然そういうのに興味なかったから苦労したよ~。
まず、女の子が好きな話題ってなんだろうって…私も一応女の子なんだけどね…全然わかんなくて、そういう雑誌を買ったり、つかさやみゆきさんにも聞いたりして、おしゃれとかにも気を使って…。
あとは彼氏なんだけど…かがみ以外の人と手をつないだり、二人でしゃべったり~なんてのがまったく想像できなかったんだよ。だからかがみと予行演習をして、それから作っても良かったし、頃合を見て別れちゃった~でもよかったんだ」

「あんたねぇ…」

「…初デートはやっぱり好きな人としたかったしね」

「な…っ!」

「そんなわけでかがみ…私の決心はもう揺らがない!」

こなたが真剣な顔に戻った。

「かがみが飛ぶなら私も飛ぶ!かがみをもう、絶対に離したり、あきらめたりしない!
…だからかがみ、選んでよ…」

こなたの両手が目の前にある。
差し出された手。そして後ろに広がる虚空を見比べた。
私の足が、徐々に虚空に飲み込まれる。そして…

「こなた…。卑怯だわ…っ!」

私は反動をつけ、駆け出した。

「――かがみっ!」

こなたの両手と胸の中に。

「こなたぁ…っ!」

半ば体当たりをするように、私はこなたの体に抱きついた。
勢いで、そのまま鉄柵にこなたの体がぶつかり、ガシャンと金属のしなる音が、宵闇を揺らした。

「痛っっ… あ、危ないよかがみ…」

「なによ、卑怯者。こなたは私を離さないんでしょ?受け止めてくれるって信じてた…」

こなたは腰が抜けたように、鉄柵に預けた体をずるずると、下に落としていく。
私もこなたに抱きついたまま、それに習って体をこなたに預けてた。
正面から絡まるように、抱き合う私達。
お互いを隔てるものはもうすでにない。
息づかいや、心臓の音とか、汗の香りとか、体温とか…
そのすべてを感じ取れる距離に、私達はいた。

「かがみん、卑怯者って…ひどいよ~」

私の頭をなでながら、こなたが言う。

「卑怯者よ…っ!こなたを犠牲にするようなことなんて、私に出来るはずないじゃない!
わかってて言ってたわよね?だからアンタは卑怯者。始めっから選択肢なんてなかったの」

こなたの胸に顔を埋め、涙を流しながら私は言った。

「…うん、分かってた。かがみがそんな子じゃないって信じてた」

「卑怯、だよ…ぐすっ……私は、みんなのことを思って…。全部、台無しじゃない…」

「それも分かってる…でもね、かがみは遠慮しすぎだよ。もっとみんなを頼らないと」

「でも…私は…」

こなたは悩むように、難しい顔を作る。

「ん~~…ねぇ、かがみ。もしさ、私がかがみのために自分を犠牲にして何かしてあげたら、嬉しい?」

「…嬉しくない」

「しかもかがみには黙ってやってたとしたら?」

「…許さない」

「なんでかな?」

「…こなたが私の知らないところで、私のために傷つくなんて絶対に嫌…」

私の答えににんまりと微笑み、嬉しそうに私の頭を両腕で抱く。
こなたの以外にしっかりとやわらかな胸に顔が埋もれ、すこし苦しくもあったけど、私はそれを受け入れた。
まるで、聞き分けのない子供を諭すように、優しく、ゆっくりとした口調で話を続ける。

「そういうことなんだよ、かがみ。誰もね、かがみに犠牲になって欲しくなんだ。
かがみは…優し過ぎるんだよ。でもね、それって残酷だよ。
かがみがみんなの幸せのために、自分を犠牲にしていって…
それで、かがみのことを大切に思っている人たちはホントに幸せでいられるのかな?
たぶん、すっごく傷つくよ?
かがみが幸せを投げ出して傷ついていくの見て、ホントにホントに悲しむよ?」

「じゃあ、こなたは…幸せのために誰かが傷つくことになってもいいの?
他人が不幸になる結果になっても、自分が幸せならそれでいいの?」

「…それも違うね」

「だって、そういうことじゃないっ!」

「一番大切なことはね、幸せであることを投げ出さないことなんだよ」

「…どういうことよ」 

私は、胸に埋もれた顔を上げ、こなたの顔を見た。
質問の答えを探ろうと見たこなたの顔からは慈愛以外のなにも感じられなかった。
私は仕方なく、こなたが続きを話すのを待つ。

「…確かにさ、自分の幸せだって思うことが、他人を傷つけたり、不幸にしちゃうことはざらにあるよ?
でも、だからって、自分の幸せを投げ捨てる必要なんてないんだよ。
大切なのはその先、不幸になってしまった人に、私は何をしてあげることが出来るのかを考えること。そして自分が出来る範囲のことで、少しでも幸せにしてあげられるように支えてあげること。
自分を含めた全員を幸せにすることをあきらめないこと。
私はそれが大切なんだと思うんだ。
だから今、ここにいる。
私の幸せから、目を逸らさずに。かがみを幸せにすることから逃げ出さないように」

こなたは顔を落とし、私の髪に顔を埋める。
くすぐったいような感触が、こなたの呼吸と共に生まれる。

「かがみとずっと一緒にいることをあきらめない。これが…私の答えかな?
かがみは…?かがみは何を望むの?私がかがみにしてあげられることは何?」

こなたは私を抱く腕の力を緩め、私の顔を覗き込む。
すこし、不安に濡れた瞳が私の答えを求めてる。
答えは、きっとたくさんあって、こなたが今言ったことも、その無数の答えの中の一つでしかないだろう。
だから、悩んで、苦しんで、それでも前に進むしかなくて…
…みんな、幸せになるためにどうしたらいいかを考えてる。
こなたが今、示した道は、きっと険しい。
でも…

「私の幸せは…こなたとずっと一緒に歩いていくこと…
それは、他人を不幸にする道だってあきらめてた…
でも、どうあがいても、誰かを不幸にする結果が待ってるのなら…私も逃げない。
自分から逃げない。幸せになることから逃げない。不幸から…目を逸らさない…っ!」

「かがみ…じゃあ…っ!」

「一人だったらたぶん無理だと思う。でも…こなたが一緒なら。こなたと二人なら…」

「かがみ、二人…じゃないよ?」

こなたは笑った。

「私もね、ついさっきまで気付かなかった。気付かせてくれたのはつかさだよ。直接、言われたわけじゃないけどね。」

「つかさが…?」

「かがみの…本当の想いを教えてくれたのもつかさだった。
つかさがいなかったら、今も私は子供のようにうずくまって泣いてるだけだったと思し、かがみを、助けることも出来なかった。
ここでまた、かがみを抱きしめられたのも、ほとんどつかさのおかげかな?」

「…私も、さっきこなたが言ってたこと。みゆきにも言われた気がするわ。
なのに私ったら気付けなかった。みゆきに悪いことしちゃったかも…」

「あはは…もう二人に足を向けて寝られないねぇ」

「ふふ、そうね。みんなにいっぱい助けられちゃった…」

二人して見つめあい、笑いあって、そして私達の視線は自然と、星の川が流れる空に移った。

「明日、二人でさ。お礼をしようよ」

「何がいいかしらね」

「いっぱい心配させちゃったからねぇ。
とりあえず…仲直りしたってのと…あとは、やっぱり恋人宣言かな!」

「…それってお礼になるのか?」

「当たり前だよ~。で、なんて言おうか。かがみは私の嫁ぇ!!って、教室の中心で愛を叫ぼうかな?」

「…じゃあ、私もこなたは私のお婿さん!って叫ぼうか?」

わたしのその台詞に、怪訝そうに眉をひそめるこなた。
私は笑顔でそれに答える。

「…かがみん、変わった?」

「私はなにも変わってないわよ。ただ、アンタの前では素直になることにしたの」

私のその答えに、こなたは大げさに瞳を丸くした。
そして、また、今度はひどく面白いことを見つけたように、にんまりと微笑んだ。
はは、何よその顔。
私が変なことを言ったみたいじゃない。

「…それは素敵な至上最大級の変化だよ」

真っ直ぐに私の瞳を捕らえる彼女の瞳。
上目使いのまま、私もその瞳を見上げていた。

「ふふふ、違いないわね…」

私が今、したいこと、彼女の瞳を見る限りでは、伝わっているらしい。
少し潤んだ二人の瞳が交差する。
それは、とてもとても自然な動きで、二人の間の距離は限りなく無くなっていった。
そうなんだ、こなたの前では素直になろう。
あと5cm… あと3cm… 1…  …



……
…………

いつか、空に輝く星々の川は、その灯火を地上へと返す。
暗闇は消え、遮るものの無い地平の向こうから、
朝の日の、柔らかな空気と共に、光の象徴が顔を出す。
照らし出された私達は、ビルの屋上に一つに重なるような一本の長い影を作り、
そこでようやく恥ずかしそうにのそりと二人で起き上がると、
立ち上がって二本の影を作り、そしてまた、お互いが求めるように、一本の長い影に、戻った。

まるでその影は一本の大きな樹木のように…

限りなく一つに…


『いふ☆すた Episode LAST 

~やがてその実は大樹となる~』


…END  









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  • かがみはもしこなたに嫌われてしまっても、自分だけは好きで居続ける気だったのかなぁ。
    そんなかがみの心理を思うとなんだか胸が…
    すれ違いまくる二人が幸せになれてよかったです。
    -- 名無しさん (2009-04-13 14:54:46)
  • め・目から汗が・・・ -- 名無しさん (2009-04-01 17:42:25)
  • めっさ泣きました・・・
    最初から最後まで泣きました・・・
    2人ひ幸あれ!! -- チハヤ (2009-03-30 18:33:44)
  • 読んでる途中で、こんなに心がしめつけらた作品は初めてです。
    読んでる途中で恩わず涙してしまいました・・・
    でも、やっぱり2人は幸せになれるのですね。
    エピローグ、期待していますw -- 名無しさん (2009-03-30 02:30:22)


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