殺人考察

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1
 私は今、公園の砂利道を歩いている。ちょうど一年前、こなた、つかさ、みゆきを誘ってお花見に来た公園だ。今日も桜は満開。温度よし湿度よし雲一つなし。風は緩やかに吹き、陽射しは穏やかだ。屋台もひしめきあってにぎわっている。絶好のお花見日和だろう。
 だが、今日の目的はそこじゃない。
 大股でずんずん歩く。
「あのー…かがみんや?」
 後ろからちょこちょこついてくるこなたが遠慮がちに話しかける。
「…何よ」
 極めて不機嫌に返事をしてやる。
「せっかくの春休みに何のご用かなー…と…。しかも私一人に…」
「いいからついてきなさい」
 有無を言わさぬよう、命令する。
 今日呼び出したのはこなた一人だ。それも当然だ。今回の一件、こいつが全てを考え、こいつが私を陥れ、こいつが私をコケにしたんだから。他の人たちは、まあこなたの策に乗っかっていたといえ、ある意味被害者でもある。真に責められるべきはこなた一人だろう。
 この場所を選んだ理由は簡単だ。家の中では邪魔が入るかもしれないし、一度行ったことがあるから、だいたいどこに何があるかわかっている。
 さすがにお花見にはちょうどいい日のせいか、人は多かった。なかなかいい場所が見つからない。公園をぐるっと半周して、5、600mばかり歩いたところで、ようやく人気のないところが見つかった。幹の太い、立派な桜の木が2本、寄り添うように立っている陰に隠れて、誰も座っていない木のベンチがひっそりと備え付けられているのが目に入った。ここにするか。
 桜の木の合間を抜けて、ベンチに腰掛ける。ひんやりした感触が、ちょっと心地いい。こなたにも隣に座るよう促がす。
 一息つく。
 こなたが先に口を開いた。
「えーと…それで、何のお話?あ、これギャルゲだったら『実は俺、お前のことが…』ってシーン?こんな人気のないところで、桜は綺麗だし、野外だし…」
「黙れ」
 こなたがちょっと身をすくませる。
「あの…かがみ、怒ってる…?何で…?」
 本当に分からないのか、こいつは。あれだけのことをしておいて。
 しょうがないので言ってやる。
「春休みに入る前!あんたがやったことよ!」
「前?私が?うーんと…」
 いらいらしながらこなたが思い出すのを待つ。
「さんざん私をバカにしてくれたでしょうが!」
 それでようやく思い当たったようだ。
「あーあーあれか。え、でもあれはもう終わったことだし…かがみもなんも言わなかったじゃん」
「春休みに入るのを待ってたのよ!この数日間、どんだけ私がじりじりしてたことか…」
「ええー、でもあれはあれで楽しくなかった?」
「楽しかったのはお前だけだろうが!」
「いやー、でもひよりんや黒井先生もけっこうノリノリで…」
「元凶はあんただって言ってんのよ!」
「むー…」
 こなたが少し頬を膨らます。こいつ、自分が何をしたかわかってないのか?
「…それで?結局かがみは何が言いたいの?」
「…取りあえず、あんたの計画の全容を聞きたいわね。よく考えてみると、おかしいところがけっこうあるのよ。そのツッコミも含めて、仕返しさせろ」
「…帰っていい?」
「ダメ」
「えええー…」
 こなたが露骨に嫌そうな顔をしてぶつぶつ言い出す。しかし、私の受けた屈辱を考えれば、付き合ってもらわないと困る。こなたを睨みながら話し始める。
「じゃあまず、最初の事件なんだけど…」


2-1
「みなみちゃんが殺されたわけだけど、殺したのはゆたかちゃんの方でしょ?」
「あー、うん、そうだね。私はかがみやつかさやみゆきさんがゆーちゃんの行動に気づかないように、話とかして気を引いておく役割だった。みなみちゃんが4階まで行ったとき、先頭に立って迎えに行ったのもゆーちゃんだしね」
「そっか。なら、私は4階で扉が開いた瞬間を狙って刺したんだと考えたけど、それであってるのね?」
「そうだよ。そのためにゆーちゃんを先頭にしたんだし」
「わかった。でも、あのとき私は田村さんと話してて現場に到着するのが遅れたんだけど…私が見たときのあの現場、思い出してみるとおかしいのよ」
「何が?」
「みなみちゃんは、胸を刺されて死んでたわけでしょ?」
「そうだね」
「普通胸を刺されて即死したら、前のめりに倒れるんじゃない?横ってのもありかな。みなみちゃんは壁をすぐ背にしていたから、壁にもたれかかってずるずるいったのかもしれないけど、それで脚を折って体育座りみたいな格好になったり、その後脚が横に倒れたりすることはあっても、脚が伸びることはない。すぐ後ろが壁だから、後ろに倒れるってこともないわね。なのに、あのとき、みなみちゃんは仰向けに倒れてて、エレベーターのドアにはみなみちゃんの脚が挟まって開閉を繰り返していた…。あの状況で胸を刺されたのにどうやったら脚が投げ出されるのよ?」
「え!?うーん…」
 こなたはさっそく答えに詰まる。
「ていうか、あの場面どうやってつくったの?血溜まりとかは4階へ行くまでにみなみちゃんが自分でまいたんだろうけど、あの格好になるためには、最初っから座ってなきゃならないわよね?」
「うん。みなみちゃんには最初から倒れててもらった。で、ドアが開くと同時に脚出して、エレベーターが動かないようにしたんだけど…」
「なるほど、エレベーターを止めるためだったのね。…でも、この最初の事件、1階で一緒に乗ったつかさたち以外の他のお客さんが2階じゃない階を押して、みなみちゃんが一人になれなかったらアウトだったじゃない。それに3階で人が乗ってくるかもしれない。ショップの人には協力してもらったとしても、誰が来るかもわからないお客さん皆に協力してもらうことはできないでしょ?そこはどうなの?」
「いや、さすがにお客さん全員には教えられないけど、あのときエレベーターに一緒に乗った人たちは全部サクラ。皆2階で降りてもらうことになってた。だから何も知らない人が入ってくるのを防ぐために定員オーバーになるまでぎっちぎちにつめこんだんだよね。もし万が一何か予定外のことが起きて、4階で止まれなかったら…3階で止まっちゃったり、私らが目の前にいない階までいっちゃったときは、2階の時点で既に刺されてたってことにしようかなと。2階で一番最後に降りてもらったのもゆーちゃんだったし、人いっぱいいたからそれにまぎれて刺したことにしても不自然じゃないし」
「ふむ」
「かがみと私はエレベーターに乗れなかったけど、それに特に意味はないんだよ。取りあえず最低みなみちゃんとゆーちゃんが一緒に乗ってさえいればよくて、あとは定員オーバーになってればよかったの。乗れないのは誰でもよかったんだよ」


2-2
 納得はする。
 だがまだこんなものですますつもりはない。
「それからまだあるわよ。私も、ここをもうちょっと考えてれば真相に自力で辿りつけてたかもしれないんだけど…なんでみなみちゃん、3階で降りようとしなかったの?」
「そりゃあ、色々準備する時間が必要だったから…」
「いや、そういうことじゃなくて。みなみちゃんが何も知らなかったとして、3階を素通りする意味がわからないってことよ。わざわざ殺されるために4階に行ったようなものじゃない。エレベーターには、つかさたちの他にもお客さんが乗ってたけど、みなみちゃん以外は全員2階で降りてるから、他の誰かが4階を押したってこともないわね。なんで4階まで行ったのよ?」
「…ああ、そういうことか。むーん…ほら、みなみちゃん、しっかりしてるように見えて、意外に間が悪いこととかあるらしいし、押し間違えたとか…それでなんとか…」
 こなたは微妙な笑いをつくる。
「ちょっと苦しいわね…。じゃあもう一つ言わせてもらうけど、ゆたかちゃんは最初っから真相を知ってたわけだよね?」
「そうだね。最初の事件の実行犯はゆーちゃんじゃないといけないし」
「でもあんた、最後に、ゆたかちゃんには『ギリギリまで一緒にだまされててもらった』って言ってたわよね?」
「ぅ」
 こなたがのどに物を詰まらせたような声を出した。
「ゆたかちゃん最初っから全部知ってたじゃない。ギリギリっていつまでよ?」
「ええーっと…」
「あのさ、これ、無理にゆたかちゃんを共犯にする必要なかったんじゃない?そうすれば、みなみちゃんの死体を見たときのショックで気絶したとか、元気なように振舞ってたとか、演技じゃなく、もっと自然にできたと思うんだけど。あんただって、ゆたかちゃん『お芝居が下手』って言ってたじゃない」
「…でも、そうするとゆーちゃんを私が殺す理由がなくなっちゃうんだよね…」
「そんなのどうにでもなるじゃない。決定的な瞬間をどっかで見られてたとか、気づかれたとか。だいたい、ゆたかちゃんはあんたとは従兄弟であって姉妹じゃないんでしょ?だったら、ゆたかちゃんの親もKの妹の死亡に関わっていた、とかすればよかったんじゃ?」
「あ、そっか。までも、ゆーちゃんがみなみちゃん殺害の実行犯っていうのは、かがみからの考えられるつっこみの何パターンかを想定したときに考えた、あくまで一つの形だからね」
「オッケー、だいたいわかった」
 ちなみに、私があのとき思った、『後にして思うと~』の『後』っていうのは、みゆきとゆたかちゃんが殺された後、つかさが殺される前の時点のことだ。つかさが殺された後は、とてもそんなことを考える余裕はなかった。

 風が、ふわっと吹いた。
 桜の花びらが一枚、私の膝の上に乗った。


3
「それで3人でゲームして、黒井先生に聞いて、『罪の色』が関係してるとわかるんだけど…。まあここはいいわね。実際にゲームを進めたのはあんただし、これはあんたのシナリオ通りだったわけね?」
「うん。かがみたちだとゲームの進め方とかわかんなそうだし。ゲームじゃなくて本とかメモにしちゃうと、一気に情報が入ってきて、黒井先生が絡む余地がなくなるからね」
「…で、次の事件、ゲームー屋で黒井先生が殺されるんだけど…。私、これがすごく気になってるのよね」
「何が?」
「黒井先生、殺される理由がないじゃない!」
「…あれ?そうだっけ?」
 心なしか、こなたの顔がひきつっている。
 声もなんだか空々しい。
「そうよ!『罪の色』に書かれた話とあんたの話を通して考えても、黒井先生は全く関係ないじゃない。あんたが殺人に及んだ動機は、Kの妹の仇を討つためでしょ?Kの妹が死んだのは、陵桜学園での色々なできごとと改築工事中の工事現場での不幸な事故だった。でも、それって黒井先生が赴任してくる相当前の話だって言ってたじゃない。『罪の色』にはKの妹が死んだ原因が色々書いてあったけど、教師は直接的には一回も出てこなかった。だから、あんたがKの妹を殺した人たちの娘を殺していくというのが動機として成立しても、黒井先生がKの妹を殺した人たちの誰かの娘だったってことはありえない。そもそも、黒井先生は『ウチが赴任する相当前の話』って言ったわよね?だったら、黒井先生はKの妹が死んだ時点で既に別の学校の教師だったってことじゃない。陵桜学園には関わりようがないのよ。黒井先生の親族も誰も話には出てこなかった。それからもう一つ。あんた最後に『私の親しい友だちの全てが、あの事件の関係者の娘』だって言ったね?『友だち』とは言ったけど『友だちや先生』とは言っていない。ここでも黒井先生が入っていないのよ。これだけの否定材料があるのにどうして黒井先生を殺したの?」
「んと…ああんもう、かがみつっこみ厳しいよー…」
 こなたが情けない声を出す。
 ほんのちょっと溜飲が下がるが、私の怒りはそれくらいでは収まらない。
「あんたの計画がそんだけ甘かったってことでしょうが!ほら、いいから答える!」
「ちょっと待ってよ…」
 私は少し息をつく。
 こなたは必死に頭をはたらかせているようだ。うなりながら頭をぐるぐる回している。
 先に自分の考えを言ってやる。
「まあ、普通に考えて、『罪の色』に関わったから、ってことなんでしょうけどね」
「うーん…。みゆきさんが言ってたみたいに、少なくともここで『罪の色』を渡しちゃうわけにはいかなかったんだけどね」
「…それについては、もうちょっと聞きたいこともあるけど、それは後に回すとして、だったらどうして黒井先生に見つけさせたのよ?それに、『罪の色』に関わったから、っていう理由だったら、黒井先生だけが殺されなくてもいいじゃない。田村さんが言ってたように何部かは刷ってあるんだったら、読んだ人なんて他にもいる筈でしょ?」
「うぐ…んん…強いて言うなら…黒井先生が死にたがってたから…かな…」
「はあ!?」
「いやね、さっきも言ったけど、黒井先生ノリノリで…。私のプロトタイプの計画の決定稿では、本当は黒井先生死なない筈だったんだけど…『こういう企画があるんで、みゆきさん学校休む日があります』って黒井先生に言ったら…『まあ受験終わったし、授業もあるけどないようなもんやし、ええやろ。それより、それ、おもろそうやん!ウチも一回死んでみたいなー!皆ばっか死ぬなんてずるいずるいー!泉なんて、いっちばんおいしいとこどりやないかい!ウチだけのけものかい!動機とか、そういうとこはうやむやにして、なんでもいいから殺してみてーな!』とか言ってきて…。それで仕方なく黒井先生も殺すことにしたんだけど…」
「何それ…」
「だから、一応『罪の色』に関わったから…的な感じではあるんだけど、本当は動機なんてないんだよね…」
「ひどい話だな…」
「『罪の色』はもう製本しちゃってたし…どうしようか私も困ったんだよ…」
 二人で嘆息する。

 桜の木の合間から、カップルが歩いているのが見えた。ゆっくりと歩くその二人は、何か囁きあっているようにみえる。たまに笑いがこぼれた。あの二人、一年後も同じようにしてるのかな…とか、ぼんやりと考えた。


4-1
「それから、メイディッシュでみゆきとゆたかちゃんが殺されるわけね」
「そうなるね。みゆきさんには早々に退場してもらいたかったんで。あんまり後まで残してると、真相絶対ばれて生き残ってた人に教えられちゃうし…」
「でもみゆきが殺された順番は3番目、序盤というより中盤よね?」
「えーと…かがみの周りの人を殺していくんだったけど、それも最初は遠くから、徐々に身近な人にしていった方が緊迫感出るかなって思って。いきなりみゆきさんだと、その後みなみちゃんやゆーちゃん殺してもちょっとショック小さくならない?だから、まずみなみちゃん。黒井先生は、ゲームー屋のゲームのイベント日程の都合上、私らに協力してもらえるのがあの日しかなかったんで、2番目に死亡。それからできるだけ早くしようとしたら3番目になったの」
「そっか。じゃあ、ゆたかちゃんをここで殺したわけは?」
「ま特にはないね。生き残ってもらうのは誰にするかもう決まってたから、いつかは殺さなきゃいけなかったし、あとはタイミングだったんだけど、今まで二人同時ってのはなかったから、やってみようかなーって。それに、あんまり時間かけすぎると、殺された人たちが学校行かない期間が長くなっちゃうから、さくさく進める必要もあったしね」
「ふーん…。ところでさ、あのとき、私とつかさにゲームの謎解き任せてあんたはみゆきとゆたかちゃんつれてったわけだけど…あれ、私たちでも解けるって確証はあったの?」
「…正直半々だと思ってた。一応ヒントはばら撒いておいたんだけど、カードとか、ひまチャきとかね、それで気づいてくれるかなーってのはわかんなかったなー…。でも、かがみ成績優秀だし、結構鋭いとこあるじゃない。いつか私らがちっちゃくなったときも、かがみの推理、かなりいい線まで当たってたし、今回の一件も、ブラフとはいえ、私が犯人、まで辿りついてたわけだし。つかさもいたしね。いないよりましだったでしょ」
「おい!」
 こいつにつかさを見下されるとむやみにむかっ腹が立つ。
「ごめんごめん…。で、もしかがみがその日のうちに気づいてくれなかったら、次の日かなりおっきなヒント言って、またメイディッシュ行こうと思ってた。…実は、遅くとも2日以内に気づいてくれないと非常にまずかったんだよ」
「え?なんで?」
「だってさ、ラストの日って何曜日だった?」
「日曜日ね。…それがどうしたの?」
「え、わかんない?休日の学校に呼び出すには、ここでこれ以上時間とられちゃうと、一週間以上ずれ込むことになる。さすがにそれじゃ展開が遅すぎるでしょ」
「休日じゃなくてもよかったんじゃないの?」
「んー…グラウンドにマットひいたり、死んだ人全員呼び出したりちょっと色々あったからね。他に人がいっぱいいて、ついでにかがみに自由に学校内をうろつかれると真相話す前にばれる可能性があったんだよね」
「言われてみればそうか…」
 こいつもこいつなりに考えてるんだな…。
「黒井先生を殺す日が一番動かせなかったから、黒井先生に合わせて連続殺人起こしたわけ。みなみちゃんが月曜日、火曜日に情報集めて、黒井先生が水曜日、みゆきさんとゆーちゃんが木曜日、つかさが金曜日。でラストが土日のどっちか」
「…あれ?」


4-2
 そこまで聞いて、違和感に気づいた。
 おかしい。
 おかしいよ。
 私確か、つかさが殺された次の日にこなたが犯人だって分からなかったっけ?でも、真相が分かったのって日曜日だよね…?
 それってどういうこと…?
 混乱しかけた頭を正常に戻すべく、首を一回転させる。
 だから。
 つまり。
 土曜日はどこへいったの…?
 黙り込んだ私に、こなたがちょっと眉を上げながら尋ねる。
「どしたのかがみ?」
「こなた、確認するけど、ラストの日って確かに日曜日だったよね?」
「そうだよ」
 ちょっと寒気がしてきた。
「変なのよ。私、つかさが殺された次の日にあんたに真相言われたのよ?」
「…は?」
 こなたが間の抜けた声を出す。
「…何言ってんの?」
「でも、私が覚えてる限りではそうなのよ」
「覚え間違いかなんかだと思うけど…」
「うーん…私が土曜日何してたか知らない?」
「…かがみ自身がわかんないこと私がわかるわけないじゃん。昭和58年6月的に時空が歪んだりしてたんじゃないの?あっちはループだったけど」
 こなたのわけわからんたとえは無視して真剣に思い出してみる。
 つかさが殺されて、警察に事情聴取されて…それは確かに金曜日だった。普通に学校があって、その放課後に色々あったんだから。しかし、それからの記憶が曖昧だ。泣いて泣いて泣き疲れて眠って…また泣いて…。何もする気になれず、ご飯ものどを通らなかった。そんな状態で外出したってこともないと思う。
「…一日中ずっと泣いてたから時間感覚がおかしくなったのかしら…?」
「うんと、それについてなんだけど…一応ちょっと心当たりがあって…もしかしたらかがみのそのタイムパラドックスも解決するかもしれない」
「何かあったの?」
「ふっふっふ…。それはもうちょっと後のお楽しみということで…」
 こなたが不敵な表情を浮かべる。
 むかつくので声をちょっと荒げる。
「今話せ」
「いやー、今だと流れ的にちょっと…。今はみゆきさんとゆーちゃん殺しの話じゃん?ちょうどいいときにちゃんと言うから…」
「本当だろうな…」
 こういうときにこいつほど信用できないやつもいない。適当な理由をつけてのらりくらりとはぐらかしたり、時間が経つにつれてきれいさっぱり忘れてたりしそうな気がする。
 忘れないように頭にしっかり叩き込んでおく。
「わかったわよ…。じゃあ、これについてはいったん保留で…話題を変えるよ?みゆきはいつから知ってたの?」
「みゆきさんに真相伝えたのは、あの日のメイディッシュで。みゆきさんが物分りいい人で助かったよー。うすうす感づいてはいたみたいなんだけどね、やっぱりちょっとびっくりしてた。でも、『みなみさんも黒井先生もご無事で本当によかったです』って笑ってたよ」
「みゆきも不憫よね…」
 みゆきは人がいいから、もしかすると一番の被害者かもしれない。
「それで、その日のうちにつかさが電話で黒井先生の誕生日きいてきたときは思わず『思い通り!思い通り!思い通り!!』って叫びそうになったね!ここはかなーりギャンブルだったからねー」
 今さらながら、こいつの手の平の上で踊らされ続けていたことに、再び怒りがこみ上げてきた。
 密かに拳を握り締めながら、声を出す。
「なんでそんなまわりくどいことしたのよ」
「え?そりゃ、みゆきさんに真相話すのと、現場づくりの時間稼ぎ。あんまり簡単な謎だとすぐ解かれちゃって、事情話す前に来られちゃうじゃん?だから、その日のうちに解けるかどうか、くらいのレベルでちょうどいいと思ったんだよねー。レベル調節すんの苦労したよー…」

 そのとき、ちょっと強めの風が吹いた。
 桜の花びらが風にあおられて舞い散る。私とこなたにも花びらが降りかかった。
 私は手の平で身体を払う。こなたもうわ、うわ、と言いながら、長い髪にはりついた花びらを払っていく。
 少しの間、会話は中断した。


5-1
「それで次が…つかさか…」
 無意識のうちに声が震える。
 トーンも自然低いものになる。
 待て待て。まだ落ち着け。
 冷静な思考力を戻す。
 いい?大丈夫だね?
 よし。
「で、この殺人なんだけど…どう考えてもおかしいのよ」
「何が?」
「まず確認しておきたいんだけど、さっき言ってた、生き残る人っていうのは、最初から私で確定だったのよね?」
「そうだよ。かがみが『ショッキングな事件』を望んだんだから、かがみ以外の人をがんがん殺していこうと。巫女のカードをずっと残していったのも、その意味だったしね。それで、犯人はつかさか私だったってのが一番ショックだろうけど、つかさは演技下手だし性格的に無理があるから殺すことにして、犯人は私。そんで最後に私も死んじゃうのが最高の形かなって。だから終盤ではともかく、途中でかがみにネタバレするってのは考えてなかったなぁ」
「わかった。…でもさ、そう考えると辻褄が合わないのよ。つかさが殺された日、つかさ、誰かに呼び出されてゲーメイトに行ったのよね?まあ、あんただろうけど」
「そうだよ。あの手紙書いたのは私」
「その手紙、どこにあったの?」
「ん?かがみの下駄箱の中に」
「…おかしいと思えよ。あの手紙、何でつかさじゃなくて私宛てだったのよ!しかも私の下駄箱にあったぁ!?」
「…ふっはははは…今回の件の最大の矛盾点に気づいてしまわれましたな?さすがはかがみんだ。褒めてつかわすぞよ」
 こなたがあさっての方角を向いて低く笑う。
「ごまかすな!それで!答えは!?まさか、つかさがあの手紙を“偶然”手に入れることまで計算してたっていうんじゃないでしょうね」
「いやー、そこまでは考えてなかったよ」
 そこでちょっと可能性を考えてみる。
「…ん?ちょっと待て。つかさにはいつ真相を伝えたの?」
「えーとね、実はつかさに真相言ったのは私じゃないんだよ」
「そうよね、あの日の放課後は、あんた、私と『罪の色』を探しにに行っててずっと一緒にいたもんね。あんたと私が別行動になったのは、あんたがゲーメイトに一人で入ったときだけよね。でも、その後すぐ私も入っていったんだから、そんな短時間でつかさに真相伝えて、納得させて、着替えさせて、殺しまでできるとは思えないわ」
「そゆこと。とすると、つかさに接触できた人は限られてるよね?」
「…田村さんか」
「そのとーり。つかさがアキバに行った後、ひよりんにお願いして真相全部言ってもらったんだ」
「じゃあ、少なくとも、手紙を手に入れた時点では、つかさは真相に気づいてなかったってことなのね?」
「うん。それは間違いないと思う」
「だとすると、つかさが真相知ってて、私の下駄箱から手紙を抜き取っていた、っていうのはなくなるわね…」
「…実はこの件に関しては…極大のミスと超ラッキーが重なったものだったんだよ…」
 こなたが塾の講師のように片手をあげて、くいくい動かし始めた。


5-2
「どういうこと?」
「よく思い出してみて?あの日の朝、私、かがみたちと一緒に登校したよね?でも、そのときには既にかがみの下駄箱には手紙が置いてあった…。つまり、あの手紙置いたのは私じゃないんだよ」
「そうなるわね」
「あれを置くように頼んだのは、ひよりん。既に死んでるみゆきさんやゆーちゃんが動き回ってるのを見られちゃまずいから、死んでる人に頼むわけにもいかないしね。でも、生き残ってる面子を考えると、私が挙動不審なことしていると、ラストにもっていく前に犯人だとばれちゃうかもしれないからいつも通りにしなきゃいけない、かがみは当然除外、つかさも演技下手だからギリギリまでだまされててほしかったんで教えられない、とすると残ってるのはひよりんしかいないんだよね。それでひよりんに、『朝私らが登校するより前に来て、つかさの下駄箱にこの手紙を置いといて』って頼んだけど…ひよりん、苗字が同じだから、間違ってかがみの下駄箱に手紙置いちゃったんだよ…」
「それでか…」
「これは痛いミスだった。かがみの下駄箱の方から手紙が出てきたのをみたときは超焦ったよ…。つかさが読んだときに、絶対かがみを守るために動くようにってわざとつかさ宛てじゃなくてかがみ宛てにして書いたのも、ここではマイナスになったしね。かがみが読んだら普通に自分宛てだと思っちゃうじゃん?つかさ殺す前にかがみに私が犯人だったってばらしちゃってもショック半減だし、でもここでかがみを殺すことにしてつかさを驚かしてもつまんないしね。かがみが手紙に気づかないで、つかさの方がこの手紙拾ってくれたのはほんとにラッキーだった。このおかげでシナリオは軌道修正せずに進んだわけだし、シナリオどおりだった場合の唯一不安だった点も自動的に解消されちゃったしね」
「唯一不安だった点?」
「うん。シナリオどおりならかがみ宛ての手紙がつかさの下駄箱に入るわけだけど、それだとなんでかがみ宛ての手紙が自分にきてるんだろうってつかさが疑問を持つかもしれなかったんだよ」
「そりゃそうか…」
「でも、ひよりんのミス、結果的にはラッキーでなんとかなっちゃった」
「舞台裏でそんなことが…」
 私一人をおちょくるためだけによくまあそこまで色々やったもんね…。
 何度目かのため息をつく。
「なるほどね。手紙の件についてはわかったわ。じゃあ次。『罪の色』を工事現場にとりに行ったときのことなんだけど…。エレベーターが勝手に降りてきたのは、リモートスイッチっていうのがついてたからでいいわ。でも扉があのタイミングで急に閉まったのは?あれもあんたがなんかしてたの?自分の身を危険にさらしてまであんなことをやるとは思えないけど…」
「んー…あれについては私もよくわかんない。びっくりしたよ。タイミングばっちりだったもんねぇ…。まあ、きっとあれだよ、ほら、かがみフラグ!」
 こなたが喜色満面で言う。
「…何言ってんの…」
「だーってかがみ助けてくれたじゃーん?あれは、かがみにああいう行動を起こさせるために起きたことだと思うわけよ!」
「…もういい、次」
 こいつの頭の中はいったいどうなってるんだ…。
 というか、私にフラグ立てて一体何をどうしようというんだ…。


5-3
「さっき後回しにしたことだけど…」
「さっきって?」
「黒井先生の話のとき。『罪の色』をいつ渡すかってこと。黒井先生が渡すことができずに、このときにまで引っ張ったってことは、何か意味があるんだよね?」
「えと、元々『罪の色』はここで手に入れるつもりだったんだよ。黒井先生はさっきも言ったようにイレギュラーだけど、シナリオを変更させない程度に無理やり組み込んだのね。で、ここで『罪の色』を渡す意味なんだけど、一つは当然中身を読んでもらって、私の殺人の動機を知ってもらうってこと。もう一つは、これはみゆきさんとゆーちゃんを殺したときと同じ。私たちが『罪の色』探している間に、ひよりんにつかさに真相話してもらって、納得させて、つかさが死ぬ時間をつくりたかったの。つかさじゃみゆきさんとは違って、絶対すぐに納得なんてしないだろうから、ちょっと長めの時間をつくりたかったんだよね。殺人予告の謎解きはもうしちゃったし、他に意味のある、時間を潰せる行動っていったら、『罪の色』を探す、ってことくらいしかないわけ。黒井先生が先に渡しちゃうと、つかさを説得する時間がなくなるから、渡せなかったと」
「そういうことか…」
 だんだんと全容が明らかになってきた。
「あ、それからもう一つ。秋葉原に着いたとき、田村さんが一人で倒れてたわよね?あれは、つかさを一人にするためって解釈でいいのね?」
「そうそう。取りあえず理由は、つかさがひよりんを犯人の一味だと勘違いしてぶん殴った、ってことにしといて、つかさが単独になる、正確には、私と二人きりになれる場をつくったの」
「え?でも待って?あのとき、私は足がいうこときかなくなっちゃってこなたが一人でゲーメイトに入っていったけど、私や田村さんが一緒に入っていったらどうするつもりだったのよ?」
「そだね、そのときは『手分けして探そう』って言ってなんとかばらけるつもりだった。で、『私は最上階から探すから』って言って、つかさと二人になれる場をつくろうかな、とね。つかさには私が入る頃にはもうコスプレして死んでてもらったし。『罪の色』を工事現場に取りに行ったとき、ちょっとだけ私とかがみ別行動になったじゃん?そのときひよりんと連絡とって、状況確認したんだよね。んで、大丈夫そうだったからアキバに直行した」
 こなた…冬のコミケのときとかにも思ったけど、こいつ、勉強以外のこととなるとすごいがんばるのよね…。最初はしどろもどろだったけど、徐々に私の質問にはっきりと答えるようになってきた。怒りが収まったわけじゃないけど、ちょっと呆れ気味に驚いてもいた。

 いつの間にか、少し日が傾いていた。
 ここに来たのはお昼過ぎだったから、結構な間話し込んでいたことになる。
 桜の木が、私たちにつくる影も、少しずつ形を変えている。



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  • なかなかおもしろかったですよ。 -- 名無しさん (2009-08-18 03:09:49)


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