5年越しのラブレター・後編

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結局、あの日の約束が果たされることはなかった。

別に今更、時間のことくらいでグチグチと言おうとは思わないし、気にもしていない。
私の心はただ、こなたに会うことだけを望んでいた。

「来ないの…かな」

空を見上げ、最も望まない結末を想像する。

「こなた、今日のこと忘れちゃったの…?」

嫌な考えばかりが心を支配する。
こなたはきっと、今もどこかで自分の目標に向かって頑張っていて、私のことなんか構っている暇はないんだって。
私の気持ちは…こなたに伝わることなく終わるんだ。

「…っ……こなたぁ…」

押し寄せる不安に耐え切れなくなり、涙が頬を伝う。それはとめどなく流れて、私の心を黒く塗り潰す。
私、今でもこんなにこなたのことを想っていたんだ…。

ねぇ、こなた。
私はまだあんたを好きでいていいの?
あんたは私のこと、どう思って………

『大丈夫だよ。私は絶対忘れない』

ふと、こなたが最後に言っていた言葉を思い出す。
あの時…こなたに会った最後の日、彼女は確かに忘れないって言ってくれた。
私が不安にならないように、最高の言葉を残してくれた。
それなのに私は…その言葉を、彼女を信じることなく全部諦めるの?

駄目、私がこんなんじゃ。だって、私はこなたを信じたいから。

再びこなたを待つ決意をした私は木の幹を背もたれにして、その場に座り込む。時計を見ると時間は6時、約束の時間から2時間経っている。
夏は日が長いと言えども、夕焼けは徐々に姿を隠し、薄暗く染まった空を、月がほのかに照らし始める。

「待ってるから…ずっと………」

あの笑顔を見るまでは…。





―――。


目を開けると、既に景色は真っ黒に変わっていた。
星が綺麗に光り、月もさっきよりはっきりと姿を現していた。
慌てて携帯を取り出し、時間を確認する。
PM8:04…約束の時間から既に約4時間経っていた。

「私、寝ちゃってたんだ………」

何してるんだろう…。もしかしたら、その間にこなたが来ていたかもしれないのに。大事な時に居眠ったりして、ホント救いようの無い馬鹿だ。また涙を流しそうになり、思わず目元を押さえる。大丈夫、きっと大丈夫だから…。
こなたはもうすぐ私のところに…

「おはよう、かがみん」
「え…?」

今確かに声が聞こえた。
懐かしい…けど今もしっかり覚えている、私の大好きな声。…こなたの声が。
必死になって辺りを見渡しても、人影一つない。
なんで…なんで?

「こな、た?…こなた!こなたっ!!」

誰もいないのに…私は必死でこなたを呼んだ。
5年も待ち望んだ再会が、今を逃すと二度とないような気がしたから…。

「こなたぁ!!」
「おーい、かがみ。ここだよ」
「…ここ?」

木の上から声がする。
ゆっくりと上を向くと、そこには確かに、座り込むこなたの姿があった。月の逆光になっていたけど、私には何もかもが鮮明に映って見えていた。

「良い夢見れた?」
「こな…た………」
「よいしょっと…」

身体をゆっくりと持ち上げ、こなたは木の上から飛び降りて来た。

「あ、あんたねぇ…いつまで人を待たせるのよ!!」
「第一声がそれとは…やっぱりツンデレだね」

こなたの言葉に心の中で納得してしまう。
あんなにも待ち遠しかった存在が目の前にあるのに、私の口からは嫌みしか出なかったんだから。

「それに、私だってかがみが寝ている間待ってたんだよ?」
「嘘!?…何時にここに来たの?」
「んー、6時半前かな?」「そっか…」
「遅れてごめんね」
「…いいわよ、お互い様なんでしょ?」

こなたは高校の時より大分背が高くなっていた。見た限り、私と同じかそれ以上か…。顔もどこか大人びた雰囲気があって、色気が出た感じがする。

「今日のこと、忘れてるのかと思った…」
「忘れるハズないよ。…言ったでしょ?」
「…うん。来てくれてホントに良かった」
「おー!ナイスタイミングのデレだね!!」
「うっさい」

だけど変わったのは見た目だけみたいで…昔と同じように、淡々と話せることが嬉しかった。

「おほん、それでは早速開けてみようか」
「…そうね」

まだまだ話したいことはあったけど、当初の目的を忘れてはいけない。
今日は私の気持ちを整理する日でもあったんだから。

「掘るもの持ってきた?」
「私は一応…持ってるけど」
「そっか。私も埋める時に使ったやつあるから、二人で掘ろっか」
「うん」

缶を埋めた位置を詮索し、大体の場所を二人で掘り始める。

「やらな「やらないわよ!」
「か、かがみ。ツッコミが偉く俊敏に…」
「誰のせいよ、全く…」

埋めた時と同じネタを話すこなたを見ると、5年前に戻ったみたいだった。
このまま本当に時間が戻ってしまえば、またこなたと一緒にいられるのに…。

黙々と手を動かし続けると、カチンとスコップが何かに当たる音が聞こえた。

「これは来たんじゃない?かがみんや」
「そう、みたいね…」
「いよっし!最後のスパートぉ!!」
「………」

こなたは無我夢中で掘り進める。するとあっという間に缶の上部が出てきた。
こなたはまだ半分埋まった缶を掴み…

「うおりゃぁぁぁ!」

力任せに引っ張り出した。土があちこちに散らばって、私の方にも飛んできていた。

「ちょっと!?土が飛んで来てるわよ!」
「土も滴るいい女って言うでしょ?」
「そんなこと言うか!」
「だって早く見たかったんだもん」
「もう………」
「さて、開けようか」
「…うん」

ビニールテープを丁寧に剥がし、缶の蓋をゆっくりと開ける。
中には少し黄ばんだ封筒が………一つ?


「私の手紙が………ない?」

缶の中に入れ忘れた?
いや、それはない。こなたが入れたところをちゃんと見ていたから。

「な、なんで手紙が無くなってるの!?」
「んー…」
「どうしよ…もし誰かに見られてたりしたら………」「ねぇ、かがみ…」
「何よ?」
「実はね…」

こなたは苦笑いしながら、ポケットから何かを出す。こなたの手の平には見覚えのある四角くて白い………手紙?

「それっ…」
「うん。かがみの書いた手紙」
「なんでこなたが持って…!?」

頭の中が混乱し始める。
手紙は缶の中に入れていたのに、今は確かにこなたのポケットから出てきた。
突然の事過ぎてワケがわからない。
そんな私を見て、こなたは気まずそうに頬を掻きながら、話し出した。

「あの日、缶を埋めた後ね…もう一回掘り返したんだ、これを」
「…え?どうして」
「手紙の中にどうしても入れたい物があってね、その為に掘り返したんだ」
「入れたい…もの?」
「うん。自分の封筒の中に入れようと思って、私の手紙を取り出したつもりだったんだけど、暗くて良く見えなくて…それがかがみの書いたやつだった」
「………」
「最初は見るつもりなんて全く無かった、だけど………」

血の気が引いて、顔が青ざめていくのが分かる。
私の表情を見て何かを悟ったのか、こなたは申し訳なさそうな顔をしていた。

「…見ちゃったのね?」
「うん、ごめん」
「…謝ることないわよ」
「………」

じゃあこなたは…あの日から私の気持ちを知っていたんだ。
そしてそれについて5年間、何も返事が無かったということは………

「…ご、ごめんね、あんなこと書いてさ!流石にこなたでも困ったわよね?」
「かがみ…」

こなたはこれ以上私と一緒にいたくなかったから、関西に行ったんだ…。

「あの時の私ってば…どうかしてたの…。」
「そんな…」

今日遅れたのも、私に会うのが嫌で嫌で…でも仕方なく来てくれて…。

「もう、そんなしんみり…しないで…よ……」
「かが…み」
「い、今は…ちがうの…っ。…そんな…気持…ち…、…な…い………から…」

ねぇ、こなた。
私、どうして泣いてるのかな?やっとあんたに会えたのに。

あの時決めたじゃない。こなたの気持ちが私と同じじゃなければ…諦めるって、笑い話にするんだって。

泣くな、私。
これじゃまた、こなたに迷惑がかかる。折角の再会が台なしに…

「かがみ?」
「……な、に?」
「ごめんね」
「えっ?」

…謝罪の言葉と同時にこなたが私を抱きしめてきた。夢にまで見た温もり、匂いが伝わってくる。
私の全てをこなたが染めていく…。
きっと私に同情して…こんな優しさをくれたんだ。

「泣かないで…」
「こなた……」

今が永遠に続けばいいのに。何もかも全てが満たされた、この時が…。

「…かがみ、このままで私の話聞いてくれる?」
「………何?」
「私ね、この手紙を見た時、凄く嬉しかった。かがみが私と同じ気持ちで想っていてくれたことが、本当に」
「え?」

こなたが…私と同じ気持ちだった?だってこなたは私が嫌で関西に行ったんじゃなかったの…?

「私もかがみのこと、好きだったよ。ずっと一緒に、馬鹿やって笑い合って…幸せになりたかった」
「こなた…」

私、勘違いしてたの?
いや、でもそんな上手い話があるはず…。

「でもね、いくらずっと一緒にいたいと思っても世の中は甘くないんだよね」
「………」
「だからさ、もっとしっかりしなきゃと思った。私がかがみを守れるように、支えられるように…自立しないとって」
「こなたが…私を?」
「うん。…高三の夏からなんて遅いかもしれないけど、やりたい仕事必死で考えた。かがみに甘えてしまわないように、自分の力だけで頑張りたかった」

こなたの話を聞く限り、私との将来の為に、大学進学を選んだということになる。だから本当にビックリした。こなたの成長ぶりに…。

「まさか…それを理由に関東を離れたの?」
「あはは、そうなるかな?でも流石に辛くてさ、こっちを発つ日…駅のとこでこの手紙見たこと言って、私の気持ちも言っちゃおうかと思った」

結局我慢したけどね、なんて付けたしながら、こなたは自嘲気味に笑っている。今思えば確かに…こなたは最後に何か伝えようとしていたように見えた。

「わざわざ関西の大学を選んでさー、目標の実現の為にひたすら頑張ったよ……」
「…で、どうだったの?」「ふふん、努力が実ってね…それなりのとこに就職出来たんだ。しかもこっちでね!今日遅れたのはどうしても外せない仕事が入ってたからで……ってありゃりゃ!?か、かがみ?」
「良かった…ホントに………」

嬉しさで思わず涙が出た。手で拭おうとしたけど、こなたに抱きしめられたままだったのでそれは不完全に終わる。
それを見たこなたは私の肩に手を置き、私との距離をゆっくりと空ける。

「これでやっとね、かがみと対等に向き合える気がする」
「………こな…た」

夢にも思わなかった、こなたからの言葉の数々。もう怯える必要は無いんだよね?臆病者の私とは、今日でお別れ出来るんだね。
返事を返そうと息を吸ったその時…

「そういえばかがみ。私の手紙、見てくれた?」
「ふぇ?ううん…まだ」
「じゃあ、はい。読んで」
こなたは缶の中から自分の手紙を取り出し私に渡した。ゆっくりと封筒を開けると、中からは二人で一緒に写った写真と、一枚の手紙が入っていた。
こなたが入れたいと言っていたのは、きっとこの写真だったんだろう。二人共、とてもいい顔してる。

しばらく写真を眺めた後、それを封筒にしまい、続いてまじまじと手紙を眺める。B5のルーズリーフを使う辺りがこなたらしい。
四つ折にされたそれを開く。

細かく引かれた罫線を無視して、あの頃と同じ汚い字で一言書かれていた。


“私も愛してるよ”


「こな…たぁ…」
「迎えに来たよ、かがみ。遅くなってごめんね」


―――。

私の想いを乗せた最初で最後のラブレターは、最高の形で返事が返ってきた。

こなたという、掛け替えのない人を連れて…。






“こなたへ
何だか改めて手紙を書くのも変な感じがするわね。
授業中だから内容も大して浮かんでこないし…まぁ適当に書いておくわ。

こなた、この手紙を読む時あんたは一体どんな人になってるのかな?
相変わらずのオタク?ギャルゲやエロゲに入り浸ってるのかしら(笑)
お父さんの後を継いで作家とか?もしもそんなことになっていたら、あんたにもっとラノベを読ませておくべきだったと後悔しちゃうかもね。
まぁ、そういうことは…これを読む時に全部分かるからいっか。今よりはまともな生活を送ってるよう、祈っておくから。

そうだ、こなた。
私ね、ずっとあんたに言いたいことがあったの。
手紙だから何だか上手に言えないんだけどさ…。

私ね、こなたのことが好きかもしれない。友達としては勿論よ?
でもね、何とも伝えづらいんだけど…私の好きはね、もっと特別なものみたい。友達として、じゃなくて…あんたを一人の人として、好きなの。
あはは!馬鹿みたいな話でしょ?私だって驚いてるんだもん。女の子同士でそんなことあって良いハズないのにさ。でもね、この気持ちだけはどうしても抑えることが出来ないみたい。

あんたにこの想いを受け止めろとは言わない。
無理に答えを出してくれなくていい。

だけど覚えていて…。


今この瞬間、柊かがみは誰よりも泉こなたを愛しているということを…。


かがみより”




終。


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コメント:
  • GJ! -- 名無しさん (2013-12-10 21:17:39)
  • GJすぎます。
    本当に涙でそうになりました。
    これからも頑張ってくださいー。 -- 名無しさん (2008-01-13 01:57:43)

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