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何気ない日々:梅雨晴れのち夕立“二人の気持ち”

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匿名ユーザー

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何気ない日々:梅雨晴れのち夕立“二人の気持ち”

「かがみは私に、あんな事絶対言わないのに・・・どうして?」
公園から駅まではそんなに距離は無かった。全力で走ったのだから、後ろにかがみの姿は無いのも当然だ。
丁度私が駅に着いたとき、バケツをひっくり返した様な土砂降りの雨。そろそろ追いついて来ても良さそうなのに、かがみが追いかけてくる様子は無い、かがみは大丈夫だろうか。まだ、呆けてあのままだったら、もうずぶ濡れになってる。心配だけど、走って戻る勇気が無かったし、傘も無いしね。駅の購買の傘なんて雨が降った瞬間に完売だから。
「私は、かがみがあんな事を言うのを望んでいなかったのかな・・・ううん、違う、望んでいたはずなのに。でもそれは映画のワンシーンの言葉としてじゃなくて、本当の気持ちで、でもそれはありえなくて・・・」
ぶつぶつと呟く私の横に座っていた男性は、それが嫌だったのか立って遠くの椅子へと向かった。どうでも良い事だった、今の私には、かがみが心配だった。心配なのに、拒絶したような行動をとってしまったことが怖くて、携帯で電話をかける事も出来ない。意気地無しすぎるよね、私。
 でも、どうしても走って戻る勇気が無くて、ただ椅子に腰掛けていることしか出来なかった。頬を流れる涙にも気がついていた。けれど、恥ずかしさを感じることも無く、また拭う気にもなれなかった。
 かがみが私を好きになるはずが無い、そう決め付けていた。私はそうする事でこの気持ちが親友への裏切りであったとしても許されるものだと信じていたかった。
「かがみが私を好きなはず・・・」
無いなんてどうして私は、決め付けられるのだろう。そこで、お父さんが言っていた事を思いだした。“イメージや思っていた姿、想像していた虚像と違う”つまりは、気持ちはコインの裏と表とは違って、嫌いと好きに二分するだけではないという事だ。私はかがみが好きだけど、かがみは絶対にそんな気持ちを私に抱かない。それは臆病な私が想像して願っていた姿、思い込んでいた虚像。
 かがみが同じ思いを持っていてくれるかも知れないと思う事は怖くて、想像しなかった可能性。でも、それも考えてよかったんだ・・・いや、考えておかなければいけなかったんだ。あんな風に突き飛ばしてしまったんだ。かがみは、私に拒絶されたと思っただろうか、嫌われてしまったと思っただろうか。かがみが傷ついた分だけ私の心も傷ついていく様に胸が痛かった。でも、きっとそれは、かがみが受けた傷の痛みの何分の一でしかないんだ。
「かがみ・・・」
私はホームから見える雨を落とし続ける、灰色の空を見つめて呟いた。そして心の中で謝り続け、涙が溢れてしゃくり上げて泣く姿を見られていても、涙を、気持ちを抑えることは出来なかった。


「寒い・・・わね」
このまま、凍えてしまえたらこの気持ちも凍えてくれるかしらね?そんな事を思い、馬鹿な考えだと泣きながら笑い飛ばした。きっと凍えてもこの気持ちは凍えないだろうから。
駅にはまだこなたがいる。今は何て言って冗談にすればいいのかわからない。服が濡れて体に吸い付いて気持ちが悪い。そして、胸が痛かった。
「こなた・・・」
呟いた言葉が白いもやになって消えていく。私も一緒に消えてしまいたかった・・・あれ程、思っていたじゃないか。気持ちを暴走させてはいけないって、言ってはいけない気持ちだと。なのに、私は映画のラストシーンに託けて言おうとしてしまった。そして結果がこれだ、笑うに笑えないなら、泣き笑うしかない。学校への待ち合わせ、どうしよう。一緒に登校するのはまだ許されるのだろうか、せめて友人でいたいな。
 雨に打たれながらそんな事を考えていた。体温が急激に奪われていく、寒いわね。でも、どこに行く気にもなれず、公園にある、錆付いて惨めな姿になったジャングルジムに背中を預けて、両手で体を抱くようにして、立っているのがやっとだった。
 見上げれば雨が目に入る。それが涙と交じり合って、私の目から零れていく。何時までこうしているつもりなのだろう。このまま、雨に打たれて溶けてしまうまでだろうか。
 私は、拒絶されたんだ。でも、こなたは、嫌いだとか気持ち悪いとかそんな言葉は言わなかった。まだ、きっと間に合う。
「わかっていたのに、気持ちを表に出しちゃいけないって、私って馬鹿ね」
乾いた笑い声が、公園の中で響く。けれど、その笑い声は、誰の耳に入る前に雨音に消されていった。
 少し体が冷えすぎたのか、立っているのもなんだか辛くなってきた。どうしよう・・・電車が出るのは、私の記憶に間違いがなければまだまだ先だろう。駅に行くわけにも行かず、ここに居続けるわけにもいかない・・・では、どこへ行けばいいのだろう。
「かがみ先輩!?」
どこかで聞いたことがある声。髪が水分を吸って頭が重いが、声の方へ顔を向けると、そこには、ゆたかちゃんが居た。髪と同じ色の可愛らしい傘を差して、その後ろには、髪と同じ色をした傘を差したいつもゆたかちゃんの傍らにいる・・・そう、みなみちゃんだったかしら、頭が上手く回らないわね、二人が立っていた。
「・・・どうしたんですか?」
「ちょっとね。電車に乗るなら早く駅に行った方がいいわよ?この雨だと、座るスペース所か立つスペースだって危ういと思うしね」
震える唇が喋ったにしては何時も通りの声だった。二人は、ただ私の事を見ていた。どうして、こんな所で雨に打たれているのか、どうして、自分は駅に行かないのか、その答えを探すように。
「私は、まだ駅にはちょっといけない・・・用事が・・・あってね。だから、ほ、ほ、放っておいて、大丈夫よ」
上手く言葉が出ない。雨が降る前はそんなに寒くは無かったのに、今は体の底から、心の底から凍りつくように寒い。どちらも冷え切っているみたいだから。たった一つの想いを除いては。
「・・・ゆたか、傘をかがみ先輩に」
みなみちゃんがそう言う。ゆたかちゃんの事を何時も気にかけている彼女が、そのゆたかちゃんに傘を私に差し出せというのだ。私はかなり驚いた。もっともそれを表情に出せる程の余裕は無かったけれど。それに、もう傘を差しても意味がないくらいに濡れている、だから断らなくちゃいけないわね。
「気にしなくて・・・いいのよ?身長が違うと、どちらか濡れてしまうし」
それは経験に基づいた事からの言葉だった。たった十二センチ違うだけでこなたの背中はびしょびしょになっていたのだから。
そして、今の私には、雨を凌ごうという気分でもなかったし、このまま打たれ続けていたいとさえ思う。
 ゆたかちゃんの傘を受け取ろうとしない私を見るに見かねたのか、みなみちゃんは、私に自分の傘を傾けた。そんな事をしたら貴女が濡れてしまう、それに・・・私が泣いていることが知られてしまう。
 私は強がりで見栄っ張りなのに、その癖本当は寂しがり屋で。泣いていることが知られてしまったら事情を話さなければならないだろう。ゆたかちゃんと違ってみなみちゃんはみゆきの知り合いという事もあって、ある意味鋭い。それはつかさやみゆきの鋭さとは違うけれど、でも、この拒絶された想いをもう誰にも知られたくなかった。だけど、もう寒さと胸の痛みで動けなくて・・・。
「どうしたんですか・・・?」
涙が頬を伝わる感触がまた戻ってきた。言いたくは無い。言わなければみなみちゃんはずっと傘を私に傾けたままかもしれない。ゆたかちゃんは、そんなみなみちゃんの事を心配そうに見ている。・・・その視線が私にも向けられているという事には気づけなかったけれど。
「なんでもないのよ」
精一杯の虚勢だった。必死に仮面を被って笑ってみせるけど流れる涙は止まらなくて、もうどうしていいのかわからなかった。
本当は叫びたかったんだと思う。それが例え八つ当たりだとしても、こなたに拒絶されたんだって、もう友人ですらいられないかも知れなくて、それが怖くて泣いているんだって・・・喚き散らしたかったのかもしれない。けれど、それは強がりで見栄っ張りな私には出来なかっただけの事。
 その言葉に、聞いてはいけないのか、聞くべきなのか戸惑ってしまっているみなみちゃんは、優しい人なんだなと思う。ゆたかちゃんが言っていた以上に、優しくて気遣いの出来る人。私の好きな人も、そんな気遣いが出来るのよ?そんな事を思ってしまう。誰よりも元気でマイペースなのに、どこか、誰にも気づかれない所で気を使っているあいつ。そんな優しくて大好きな“親友”を私は、この想いで裏切って、この想いで傷つけて・・・ああ、駄目だ、お願いだから、傘をどけて。涙はもうどうしようもなく流れ続けていて、止まりそうも無くて、どうしていいのかわからないのだから。せめて、もう涙を見るのはやめて・・・お願いだから。
「本当になんでもないのよ、だから、もうしばらく・・・このままで居させてくれないかしら」
寒さなんて、もうわからない、だから唇も震えなかった。
「みなみちゃん、かがみ先輩・・・」
ゆたかちゃんは、みなみちゃんがわかり辛いが凄く戸惑った表情を浮かべているのに対して、私が涙を零しながら笑顔で放っておいてくれてという状況が上手く飲み込めずに戸惑っていた。とにかく、傘をどけて欲しかった、涙を流している姿を見られたくはなかった。
「お願いだから放っておいてっ!」
私は笑顔という仮面が剥がれた顔で、悲鳴にも近い叫び声を上げた。もう我慢の限界だったのもあるが、みなみちゃんが濡れていくのをゆたかちゃんに心配させたくなかったし、自分勝手な行動で友人の心を傷つけてしまったのに、それで涙を流しているのをゆたかちゃんからこなたに伝わるのも怖かった。傷つけた人間に泣く資格など無いというのに、私の目からは未だ涙が止まらない。もうどれくらいの時間流れているのだろう、どうして涸れてくれないのだろう。
 二人はそんな取り乱した私の姿に虚をつかれたのか、目を丸く開いて固まっていた。その隙に傘を傾けているみなみちゃんの手を彼女が濡れない様に動かす。
「ゆたか~?みなみちゃ~ん、車近くまで持ってきたよ~」
聞き覚えのある元気な声。こなたがそういえば、前に元気に動き回るイメージがあるから、豹って言っていた気がする。さっきから私の考えの中心はこなたがいる。だからなのか、傷つけてしまった痛みが、傷つけてしまった事への心が零す血液が涙に変わって零れ落ちていくのだろうか。
「私は、そろそろ行くね」
そう言ってこの場から去るつもりだった。駅へ向かおうとしたのに、私の目に映ったのは砂利の混ざったむき出しの地面と水溜りで、体には衝撃が走った。それなのに、不思議と痛みはわからなくて、何が起こったのだろう、頭が上手く回らないのは寒さの所為だろうか。
「かがみ先輩!?」
「・・・大丈夫ですか?」
二人の言葉に、あぁ、私は転んだんなぁと言うことにやっと気がついた。お気に入りの服も私も泥水を浴びて泥や砂利まみれで惨めだった。それでも立ち上がる気になれなくて、今の私にはその姿が、相応しいとさえ思えてならなくて・・・。
 二人は手を伸ばすべきかどうかを凄く迷っていて、私は私で起き上がれないでいると、不意に片腕を引っ張り上げられて立たされた。
「大丈夫かな?あ~あ、折角のお洒落さんが台無しになっちゃってるねぇ」
明るい声、私に言っているのだろうか。何時の間にか側に来ていたゆいさんに私は起こされたらしい。あのまま雨の中で泥のように解けてしまいたかったのに。
「すみません、ありがとうございます」
お辞儀をしようとしてふらついてしまう。寒さで色んな感覚が麻痺している気がする。それなのに、傷つけた痛みだけはズキズキと心を針で刺すような痛みを出し続けていた。
「んー、電車は行っちゃったみたいだねぇ。かがみちゃんだったねー、一緒に乗っていく?お姉さんが送って行っちゃうよー」
ゆいさんは、優しく聞いてくれる。でも、こんなにびしょ濡れで泥まみれの私が車に乗せてもらうのは申し訳ない気がする。
「かがみちゃん、遠慮することはないよ~。さぁ、おいで」
ゆいさんが手を掴む。その手はぎゅっと強く掴まれていて振り解くことが出来なかった。もっとも、ぎゅっと掴まれていなくても今の私には振り解く力は無くて。手を引かれるままに歩いた。
 どうしてだろう、誰も掴まない手。それは、あの日にバスで繋いだ手、あの日にお見舞いで涙味の口付けの味を感じた時に繋いでいた手。今は、泥で汚れてしまった手・・・あの温もりも想いも何もかも、全てはあのバスの日から始まった。いや、きっとそうじゃないんだ、あの日に私は知っただけの事。一体何時、こなたに想いを馳せたのか何て理由、わかりはしない。でも、もう始まってしまった、動き始めてしまった想いを消してしまう事なんてきっと出来ない。なら、私はどうすればいいの?誰も答えはくれない。
「さぁ、乗った、乗った~。ゆたかとみなみちゃんはちょっと荷物で狭くなっちゃってるけど二人で後部座席の方にお願いするね~」
何時の間にか、ゆいさんの車の前まで連れて来られていた。空けられた助手席のドア、後部座席が狭くなっているのは、きっとここに物が積んであったからだろう。座席に座ってもよいものだろうか、泥水に濡れた服、きっと座席を汚してしまうだろう。
「シートの事は気にしなくていいから、乗った、乗った~。お姉さん、警察官だからね~。ほっとけないしさ」
半ば強引に助手席に押し込まれた。シートを汚してしまったな、そんな事しか思い浮かべられなかった。心配してくれたことを感謝するとか、そういう事を思いつけない程に私は消耗していたらしい。
「シートベルトをしてくれたまへ~。よし、じゃぁいくよ~」
私がシートベルトをしたのを確認すると、ゆいさんは車を発進させた。髪から水滴がたれてくるのか、膝の上においた手の甲が濡れている。
「何があったのかな?お姉さんでよければ相談に乗るよ~」
「友人を傷つけてしまったんです・・・」
私は、言いたくないのに言葉を口にしていた。誰かに聞いてもらいたいと思ったのかもしれないし、このゆいさんの雰囲気に口を動かしていたのかもしれない。
「きっと仲直りできるよ。そんなに泣かなくったってさ」
手の甲を濡らしているのは、どうやら私の涙らしかった。そういえば、まだ目から顎に温かい水滴が流れるのを感じる。
「そうだと良いんですけど・・・凄く傷つけちゃったから、どうしたらいいのか、わからなくて」
同性に告白されそうになるのはどんな気持ちなのだろう。しかも、信用している友人から。どれだけ、こなた、あんたは傷ついたのかな?それを考えると涙の量が増えるばかりだ。
「そういえば、今日、こなたお姉ちゃんが出掛けてたからもしかして・・・」
「・・・ゆたか」
「あ、ご、ごめんなさい」
私は言わなくていい事ばかり口にしそうだった。想いを支える堤防は決壊しかけているようで、口にしてしまう。
「そう、私はこなたに酷い事を言って傷つけちゃったのよ、ゆたかちゃん」
後は言葉にならなくて、泥に汚れた手で涙を如何にか止めようと、嗚咽をどうにか堪え様と頑張ったが、どうにもならなかった。
「こなたと喧嘩しちゃったわけだ、しかし、あのこなたが友人と喧嘩だなんて、お姉さんびっくりだ」
ゆいさんは相変わらず明るい声で言う。それが気遣いだという事には気がつけるくらいになっていた。涙が零れるほど、私の頭は冷静になっていくのに涙だけは止め処無く溢れ続ける。
「ごめんなさい、でも、止まらなくて・・・。私が悪いのに、私が泣いてちゃいけませんよね」
「かがみちゃんだけが悪かったのかな。こなたには、悪いところ無かった?」
あるはずが無い。きっと怖かったのだ、友人が言うはずの無い言葉を口にする事が。
「喧嘩って言うのは、お互い悪い所が無いと出来ないものだからねぇ」
そもそも、喧嘩というのが私の嘘だから。だから、一方的に私が悪いの、こんな気持ちを持ってしまった事が。
「本当は、喧嘩したんじゃないです。こなたに・・・友人が言っちゃいけない事を・・・」
「何をって聞いたら野暮かな?」
何時の間にか、家の近くまで来ていた。言ってしまって気味悪がられて、車から降ろされても何とか歩いて帰れるだろう。どの道、こなたから聞くことになるだろうから、私が今ここで言ってしまっても、結果は同じ事。気味悪がられるのが早いか遅いかの違いに過ぎない。
「こなたに・・・す・・・」
嗚咽で上手く喋れなかった、何とか抑える。もう誰かに聞いて欲しかった、みゆきに聞いてもらうだけじゃ足りなくて、母に聞いてもらうだけじゃ足りなくて、私の不安の海はどこまでも果てが無い程に広かった。
「こなたに好きだって・・・伝えようとしたんです。二人でみた映画のシーンの説明に託けて、告白しようなんて卑怯な真似をして、こなたを凄く傷つけてしまったんです」
車内の空気が張り詰める、当然だろう。想ってはいけない気持ち、異端視される気持ちなのだから。
「かがみちゃんは、こなたが好きなんだねぇ」
張り詰めた空気なんてなかった、ゆいさんは事も無げにそう言った。どうして、どうして受け入れられるの?
「お姉さんそう言うのは良くわからないけど、でも、それはきっと悪い事じゃないとないと思うよ」
「そうなの・・・かな・・・」
敬語を使うことも忘れて、呟くように言う。悪い事じゃないのかな、でも良い事でもないはずだ。その後は会話も無く、私の家の前で車は止まった。
 シートを汚してしまったこともあり、私は母を呼んで一緒に謝罪した。謝罪した後の会話はただ聞いていただけだったが、ゆいさんは特に気にした風も無く、それじゃまたね~と明るく行ってしまった。失礼にも、その姿を私は、あまり関りたくなかったんじゃないだろうかと思ってしまった。
 雨の中、家にも入らず呆然と立っているだけの私を、母は脱衣所に連れて行き、お風呂は沸くのに時間がかかるからとりあえずシャワーで温まってきなさいと告げた。私はといえば言われるがままに頷いて、シャワーを浴びた。お湯が肌に当たるたびに走る痺れる様なジンジンとした感覚、最初温かいとは感じなかった。それほどまでに冷え切っていた事に驚いたが、黙ってシャワーを浴び続けた。
 温まって外に出ると着替えが用意してあり、それを着て、私は自分の部屋に向かう。中に入った所で操り人形の糸が切れてしまったかのようにフラフラとして、ベッドに座り込んだ。寝転ぶ気にはなれず、ただ座っていただけ、涙も何時の間にか止まっていた。
 しばらくの沈黙の後、不意に遠慮がちなノックの音、そして、つかさが入ってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「よく、わかんない・・・」
大丈夫と聞かれて大丈夫と答えられる状態でもなかった。心の中はグチャグチャで、想いだけが先走りそうで、また泣きそうになって・・・。
「お姉ちゃんが帰ってくる前にね、こなちゃんから電話があったの。お姉ちゃんの携帯繋がらないからって。その、さっきはごめんって伝えて欲しいって」
「こなたが謝ることなんて何にも無いのに、どうしてあいつは謝るんだろう」
私の言葉はもう、うわ言の様だ。目に映るつかさの姿でさえ夢の中の様で、ふわふわしたおかしな思考感覚だった。
「お姉ちゃんは、こなちゃんに・・・言ったの?」
つかさも知っているのか。こなたから電話があったのなら知っていてもおかしくは無いか。
「最後までは言えなかったわ。でも、もう友達でもいられないかも知れないわね。つかさにも迷惑掛けるかもしれない、ごめん」
「だ、大丈夫だよ。こなちゃんだって、その、お姉ちゃんの事、好きだって悩んでたんだから!!」
言い終わってから、つかさはしまったという顔をした。どういう事だろう、こなたが私の事を好きで、悩んでいた・・・?
「意味がわからないわよ、つかさ。私はあいつに好きと言おうとして突き飛ばされたのよ、拒絶されたのよ?それなのに、こなたがどうして私を好きなのよ」
「えっと、それはその、あの、お姉ちゃんがこなちゃんを好きなのも私知ってて、あの、うーんと・・・」
言葉を探しているつかさに立ち上がって肩を持って、問いただしたかったが。肩を持った所でどういう言葉を言えばいいのかが、わからなくなってしまった。
「あのね、だから、お姉ちゃん・・・と、とにかく大丈夫なんだよ」
「意味がわからないわよ」
疲れていた所為だろうか、急に体から力が抜けて、転びそうになったのを何とか堪え様として、結局つかさを押し倒す形でベッドに倒れた。
「ごめん、すぐ退くから」
そうは言ったものの体に力が入らない、何だか凄く疲れてしまって、動く事が出来ない。涙が出てきた、まだ仲直りの出来る可能性に、拒絶されてはいないかもしれない可能性に。
「お姉ちゃん、たまには私を頼ってよ。頼りないかもしれないけど、頑張って力になるから!」
「じゃあ、少しだけお姉ちゃんをやめてもいい?」
「えと、うーんと、それは困る・・・かなぁ」
「ほんの少しだけ・・・いいかな?」
「ほんの少しだけならいいよ」
つかさの胸に顔を押し付けるようにして泣いた。声を上げて、感情をさらけ出して、それは姉としての強さを外す事だから。
 そんな泣きじゃくる私の頭をつかさは優しく撫で続けていてくれた。


どうやって家に帰ってきたのか良く覚えてない。けれど、家に着いてすぐにかがみに謝ろうと思って携帯にかけたが、繋がらなかった。直接の方がいいと思ったけど、拗れる前に謝っておきたかったから、つかさにメールを送る事にした。
「イメージと現実かぁ」
電話を終えて呟く。かがみが私を好きになるなんてありえないと思った。でも、どうやら現実は違うらしかった・・・確信は持てないがあの時の私が突き飛ばしてしまった、かがみの反応を思い出すともしかすると、あの言葉は本当の気持ちだったんじゃないのかという可能性もあるかな、なんて思い始めていた。
「でも、かがみはあんな事思わないし、そんな事言わないはずなのに」
私は冷えた体を温めようとコーヒーでも飲もうと思い、そんな事を呟きながら居間に入った。テーブルには、曖昧な表情をしたお父さんがいた、私の独り言は聞こえていたらしい。
「絶対そうだって事は無かっただろう?」
「でも、かがみがあんな事を言うなんて思わなかったし、そんな可能性無いと思ってたよ」
「それで、こなたはどうしたんだ?」
「かがみを突き飛ばして逃げただけ・・・」
「そうか。しかし、こなたとしては、かがみちゃんが好きなんだろ?お父さんは、認めていないわけじゃぁないし、同じ気持ち同士で良かったじゃないか、どうして突き飛ばしてしまったんだ?」
「わかんない・・・でも、かがみがあのまま、雨に打たれていたらどうしよう」
かがみがあのまま、傷ついたまま、あの場所にいたらどうしよう。今からでも戻るべきなのだろうか・・・わからない。
「そういえば、偶然ゆい達が、かがみちゃんにあったらしくて、かがみちゃんを送ってくれてるらしい電話があったな」
「そっか、ゆい姉さんが・・・良かった」
心から良かったと思う。あのまま、かがみが雨に打たれていたらと思うだけで胸が締め付けられる気分だった。それだけ好きなのに、私は・・・かがみを突き飛ばして逃げたのだ。
卑怯じゃないだろうか、いくら信じられなかった事で取り乱していたとはいえあれでは、拒絶されたと思う以外には無いのだから。
 まぁ、座ったらどうだ、こなた。そう告げられ、私の前には湯気を立てて入る熱めのコーヒー。座って一口飲むと、また思っていたのと味が違った。朝飲んだコーヒーとは明らかに違う、いや・・・これは何時ものインスタントコーヒーの味だ。
「味が戻っただろ。実は朝の分はな、こなたが飲んだので丁度最後だったんだよ。で、あのメーカーを飲んでいる近所の人が同じ福引で、うちがいつも買っているメーカーのインスタントコーヒーを貰ったたらしくてなぁ、その人はお父さんが、自分が買っているインスタントメーカーのコーヒーを福引で当てたのを見てたらしくてだ。電話をくれて、交換する事になったんだよ」
「でも、何か変な感じだネ。朝と味が違うだけなのに、元の味に戻っただけなのに、逆に変な違和感を感じるよ、まぁ、飲みなれてるからいいけどさ」
二口目には、さっきの違和感が嘘の様に無くなっていた。違和感・・・かぁ。かがみが私の耳元で愛の言葉を囁く・・・そういうシチュエーションが既に違和感だらけで信じられなかった。
「こなた、今朝のイメージと現実の話なんだが・・・」
「うん」
「イメージはイメージでしかないと思うんだ。現実とは違う、まぁ、そこはオタクとして生きてきた中で学びとっていると思うが・・・これをかなたが聞いたら激怒するに違いないな。と、話が逸れたな。つまりだ、こなたにとってかがみちゃんは女の子を好きにはなったりしない、ましてや自分に対してそんなことはありえない、というイメージがあったんだよな?」
「そうだよ。かがみは私なんか好きになったりしない、そんなことありえないって思ってた」
でも、そうじゃなかったらって考えられていたら今日の事を受け入れられていたのかな。わからない・・・いや、たぶん、そうじゃなかったら何て、思えていてもきっと受け入れられなかった。きっとかがみは決意を、私のような弱い決意じゃない、もっと強い決意を固めていたのかも知れない。
「かがみは、きっと勇気を振り絞ったんだよね・・・それを私は踏みにじった」
「いや、そうとも限らないぞ。かがみちゃんが今日、本当にそういう事を話すつもりだったかどうかは、かがみちゃんにしかわからないんだ。そこが既にイメージになってしまうんだよ。予測とも言えなくは無いが、恋愛感情となるとそこはその場の勢いもあるからな」
確かに、あの時に私があの映画のラストシーンの事を聞かなければ、かがみは口にしなかったかもしれない。それは、お父さんの言う通り、かがみにしかわからないけどさ。
「私はどうしたらいいかな?」
「そうだな、よく考える事じゃないかな。かがみちゃんは今日突き飛ばされて、拒絶されたと思ったはずだ。きっと、こなたを傷つけてしまったと酷く落ち込んでいるに違いない。ゆいの話だと、あまりにも目が虚ろだったから、警官として放っておけないと言ってたからなぁ」
どうして、私を傷つけたと思ってしまったんだろう。悪いのはわたしなのに、かがみじゃないのに・・・どうして?
 お父さんは私の表情から心のうちを読み取ったのか言葉を続ける。
「かがみちゃんも、こなたと一緒で、絶対にそんな気持ちを抱かないと思っていたからじゃないかな。前に遊びに来たことがあったときに感じた事なんだが、しっかりしているけれど芯が少し弱い子なんじゃないか?かがみちゃんは」
どうだろう。つかさを守って生きてきたのだから、強いんじゃないかな・・・でも寂しがり屋で強がりだから・・・本当は脆く弱いのかもしれない。それは、私も同じようなものだけど。
「お父さんはさぁ、どうして変だとか思わないの?私の気持ちとか・・・」
「ま、お父さんとしてはだな、こなたが幸せならそれでもいいんじゃないかと思っただけだが・・・」
冷めたコーヒーを一口飲んでから続ける。
「普通に恋愛して、普通に結婚したほうが無論幸せになれる確率は高いだろうな。世間からは冷たい目で見られるわけだし・・・でもなぁ、こなたには強い味方がいたろう?つかさちゃんってさ。普通は姉に想いを寄せている、それがたとえ友人であっても同性愛に関して味方になるって決意を固めるのは簡単な事じゃ無いと思うんだよ。だから、つかさちゃんをみて、あえて反対する気は無くなったんだがなぁ」
「そんな事で決めちゃっていいの?」
「いや、それはかなり大きい事だと思うからなぁ」
私も冷めたコーヒーを飲む、するとカップは空になった。つかさは、かがみと双子で、私と親友で、味方だけど・・・どうしてつかさは味方になるって言い切れたんだろう。そして、かがみには味方はいるのだろうか。
「お父さん。私、部屋に戻るね」
「まぁ、よく考えるんだぞ」
よく考えるか・・・どうすればいいのかわからない事だらけだ。
 部屋に戻って、首にかがみがつけてくれたチョーカーを指でなぞる。金属のひんやりとしたハートの感触。
「かがみ、ごめん・・・ごめんなさい」
その声はもう、かがみには届かない。お互いに傷つけてしまったと思い込んで涙する。何だ、わたしとかがみはどこまでも同じ道を歩いていた事に気がつかなかっただけなんだ。
 だからこそ、決めなくてはいけないと思うんだ。かがみと世間の茨道を歩くのか、この想いを封印してかがみの心を傷つけてでも、違う相手を見つけてもらうか。

―選ばなくちゃいけないんだ。

 私はもう一度チョーカーについた金属のハートをなぞる。かがみがつけてくれる時、こんな可愛いものは私には、似合わないと思った。けれど今ははずす気になれない。考えが纏まるまでは着けていよう、そう思いつつ、バルーンニット帽を乱暴に脱ぎ捨て、ベッドに倒れこんだ。





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