いふ☆すた EpisodeⅣ~大地はやさしく受けとめる~ 中盤

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ひとしきり、手を繋ぎながら路地を散策したあとに、私とこなたは適当なお店でランチを取ることにした。
お店に入って、思い思いの品を注文し、それを食べ終えた私たちは、今、紅茶を片手に、デザートを堪能している最中だ。
しかし、相変わらずだけど、こなたって…食べるの下手なのかな?
こなたの周りには、たくさんとはいかないものの、目にあまる程度には、食べカスやソースの汚れが飛んでいる。
私が気を使って、紙エプロンを頼んでいなければ、彼女の真っ白なワンピースも、その餌食になっていただろう。
あぁ、今だってほら…
頼んでみたら、結構大きなサイズのものが来たチョコレートパフェに、一生懸命戦いを挑んでいるこなたは、全くと言っていいくらい気にとめていないみたいだが、

「ほら、こなた。ほっぺたにクリームがついてるわよ?」

柔らかそうなほっぺたに白いクリームが見事にトッピングされている。
格闘をやめ、こちらに向けた彼女の瞳は、嬉しそうに細く伸び、私とこなたの間をさえぎるチョコパフェをはじに退けながら、ずいっと私の方に顔を差し出す。

「そういう台詞は、指ですくい取ってくれながら言うのがセオリーだよ?かがみん♪」

なに、恥ずかしいこと言ってんのよ。

「そんなの何処の世界のセオリーだ!」

そんな私の抵抗を気にもせず、さらにずずいと顔を寄せてくるこなた。
ちょ、近いわよ。ほら、店員さんが見てるって!

「ほらほら、恋人同士なんだからさ~。
予行演習だよ?私に気にせずやっちゃいな?」

いったい誰の予行演習なのよ…もう。

「もういい、わかった。観念したわ…
ほら、これでいいのね?」

こなたの温かなほっぺたで、溶けそうになっているホイップを、人指し指ですくい上げる。
この程度のことなのに、触れただけでドキドキしてしまう私は異常なのだろうか?
私の一連の動作が終わっても、なお、私を見つめ続ける彼女の瞳を、まっすぐ見られないまま、横目で抗議を言葉にする。

「…なによ」

「…それでかがみはその指に付いたクリームをどうするのかな?…って」

「うっ! な、ナフキンで拭くに決まってるでしょ!ヘンな事、想像するな!」

「あれあれ~? 私は質問しただけだよ?そうか、かがみはヘンなこと…想像しちゃったんだぁ。」

「な!」

「ねぇ、かがみ。そのホイップ、パクってさ。食べてみてよ」

「やっぱりヘンなことさせる気じゃない!」

「えーっ、定番のシュチュじゃん。常識だよ。かがみにやってほしいなぁ~♪」

「ぅうう~っ、い、いやよ。そんな恥ずかしいこと!あぁもうそんな目で見るな!
どうしてもやりたいならアンタがやればいいじゃない!」

「ほぇ?」

私はクリームがついた人差し指を、こなたの前に真っ直ぐ突き出す。
…あれ?何かがおかしい。いま、私は混乱してとんでもない事を言ったような…
呆けていたこなたの表情が次第に赤く色づき、口元がにやりとした形をつくる。
私の台詞『アンタがやればいいじゃない』ってのはつまり……!

「…あっ、違っ!」

あわてて引っ込めようとする腕を、手首から力強くこなたが掴む。

「…むふ、かがみも意外と大胆だねぇ…もう遅いよ!」

――パクッ… ぺろ

「――――――――――――ッ!!!」

「うん、甘い」

「………」

「あれ、かがみ?」

たぶんこなたは、ここで叫びながらくってかかる私を期待していたのだろう。
捕らえられた腕はそのままに、肩を小刻みに振るわせながら、俯き、顔を芯まで赤くさせて、何も言ってこない私を不思議そうに眺めている。
てか…もう限界。

「…で」

「で?」

「出るわよ!お勘定!!」

「うぉ、かがみ!?」

勢いよく立ち上がり、椅子の倒れる音がお店いっぱいに響く。
周りの注目を集める結果になったが気になんてしてられない。

「え?ええ?私まだ食べきってないよ?かがみ、ちょ、落ち着いて…」

「知らない! ばか! バカこなた!!」

「あっれぇ~、やりすぎちゃった? かがみ、ゴメンて、ねぇ。かがみぃ~、まってよぉ!」

半分涙目で立ち去る私。
指先にまだ、かすかにこなたの唇の…舌の感触が残っている。
思い出すたびに卒倒しそうでまともに彼女を見られない。

……

「ごめんね、かがみ様ぁ」

お店を出て、しばらく進んだところにある公園で、ベンチに腰を下ろしながら、私の目の前にいる彼女のほうを、上目遣いにじと目でにらむ。

「様付けで呼ぶな! …もう、いいわよ。でもあんな事、二度とやんないで」

「…かがみがやれって言ったんじゃん…」

「返事は?」

「はい!」

やや…本当に『やや』ではあるが、落ち着いて来た。
でも、さっきのやりとりがまだ尾を引きずって、顔を赤らめたまま私。
だけど、いつまでもこうしていたら、貴重な時間の無駄になってしまう。

「次…どこ行こっか?」

こなたも同じ考えなのだろう。ただ、すこし申し訳なさそうに言う彼女の表情がおかしくて、ついつい口元に笑みが出てしまう。

「ふふ、こなたの好きなところでいいわ」

「その答え方が一番難しいんだよ… う~ん、じゃあさ!」


……


「うりゃ~!! 10連コンボぉ!」

「…で、なんでゲーセンなんだ? いつでも行けるじゃない…」

独特の暗さや雰囲気に、けたたましい電子音。さまざまな光があたりをランダムで照らしている。
どこでもいいといった手前、文句を言えた義理じゃないのだが…
まあ、こんなところをデートコースに選ぶあたり、こなたらしいといえばこなたらしい。

「あ、かがみ。負けてる負けてる!」

「え?あっ…まって! ぁ…あっ!」

隣に座るこなたのことが気になって、画面を真剣に見ていなかったのがいけない。
画面に表示されるのは、負けを意味する英単語。

「…あ~、だめだねかがみぃ。よし、嫁のカタキは私がとる!」

「誰が嫁よ…」

こなたはご機嫌に財布からいくつかの百円硬貨を取り出すと、台の上に並べ、その一枚だけを機械の中に投入する。
私から席を奪うと、その横に私を座らせ、にっこりブイサインをとったあとゲームに集中を始める。
あれ?そういえば、なんか…

「ねぇなんだか周りに人が集まってない?」

私達の周りには、いつの間にか人だかりが出来ていた。

「そりゃあ、こんな可愛い女の子が二人ずれで並んでたら、目立つだろうしね」

「おもにアンタの背格好が目立ってんのよ! あと自分で可愛いとか言うな!」

「じゃあ、こんなに可愛いかがみが?」

「と、とりあえず恥ずかしいから可愛いは禁止!
…だけど、ねぇこなた、ちょっと怖いよ。ここ離れよ?」

男性の壁は私達を見ているのか、それともこなたのプレイを見ているのか。
少し、いやな雰囲気に、流石の私も不安になる。

「…大丈夫、かがみは私が守るから…」

またこいつは…

「また何かのアニメネタか? ね、行きましょうよ」

「…本心、だよ」

「ん? 何か言った?」

「ううん、そだね。そろそろ行こうかぁ」

そういって彼女は私の手を取った。

……

「ちょ、かがみ! 近い、近いから!」

「アンタがプリクラ撮りたいって言ったんじゃない。このフレームだと近づかないと撮れないんだから、もっと引っ付きなさいよ!」

「そ、そうなんだけどさ… にゃぁ!かがみ、髪! 私の髪、さわっちゃダメだよ!」

「なによ、そんなの… 私の髪の毛をいつも弄ってくるくせに」

「とにかくかがみは私のにさわっちゃダメなの!
あ、言ってるそばから! あぅ…」

「アンタの意外な弱点を発見したわ。へぇ?髪の毛が弱いんだぁ。うりうり」

「か、かがみ!いい加減、怒るよ!あ、かがみ、ほっぺた。ほっぺたくっついてるから!」

「わかってるわよ、我慢なさい? この角度が一番可愛く撮れるんだから…
ほら笑って、撮るわよ?」

「にゃぁぁぁあぁあっ!!」

……

「次、どこに行くの?」

「かがみは行きたい所、ある?」

…正直、『 私 』 は 『 彼女 』 と行ける所なら何処でも良かった。

「う~ん、私は何処でいいかな…」

二人でなら、たぶん、何処に行ったって、その一瞬、一瞬が素晴らしく輝くものになるはずだから。

「私も…でも… そうだねぇ、あそこにかがみと行きたいかな?」

「彼氏とのデートなんでしょ? 私と行きたい所に行ってどうするのよ」

二人でこうやって手と手を取り合って、歩くだけでもいい。
寄り添って、お互いの温かさを感じ取るだけでもいい。
この一瞬が、今、辛い現実に立っている『 私 』を優しさで包み込んでくれている。

「あぁ、そうだったね…。でもさ、行こうよ」

「うん…いいわよ」

たとえ、これが偽りの時間であったとしても『 私 』はかまわない。
『 私 』が手に入れたかったものの全てが、今ここに…あるのだから。


……
…………


「ふぅ~…、ちょっと休憩ね」

その後もいくつかの場所を、まるで時間を惜しむかのように駆け足で回った私とこなた。
私達は再び駅前の広場に戻ってきて、その、石造りのベンチに体を預ける。
ひんやりとした感触が腰の辺りに心地よく広がり、歩き疲れていた私を少しだけ癒してくれた。

「あ、そうだ。かがみ、ゴメン!」

「え、なに?」

そう、急にこなたは立ち上がる。さりげなく肩を預けていた私は、急に生まれた喪失感とともにバランスを崩す。こなたはくるりと私に向き直ると、今日で何度目かになる申し訳ないといった顔を作り、私の顔の前に人差し指を突きつけた。

「ちょっと寄ってく所があるんだよね。かがみはここで待っててよ」

「え?いや、私も行くわよ」

立ち上がろうとした私だが、こなたが差し出していたその人差し指に眉間を押され、立ち上がることはかなわない。

「どういうつもり?」

「寂しがらなくってもすぐ戻ってきてあげるからぁ。そこで大人しく待っててよ」

「寂しいなんて、いって…ないわよ」

「ふふ~ん、分かってるって、かがみん。
じゃ、行ってくるね。まっててよ~!!」

「あ、ちょ…!」

こなたはそう言い残し、駆け足でその場から離れていく。
蒼い髪を揺らしながら人々の間をすり抜けていくこなたを見送ることしか出来なかった私は、ふと、すぐ横に、置き去りにされたこなたの白いつば広の帽子があるのに気がついた。

「…あんたの主人って、何を考えているのかしらね」

その帽子を手に取り、それに向かって独り言に近い言葉をかけてみる。
かすかに彼女の香りが感じられるそれを、形が崩れないようにやさしく抱きしめた後、自分の頭にかぶせてみる。少しだけサイズが合わない帽子を、乗せるだけの格好で、そのまま、上半身をベンチの背もたれに預け、私は静かに空を見上げた。
つば広の帽子によって、半分、隠されてしまった空。
瞳に写りこんだ半分の空は、徐々にではあるが、青かった色がその濃さを増し、夜に変わる準備をしているかのように感じられる。
おそらく、太陽は隠された向こう側で、白く強い光から、やさしいオレンジの光に変わっていっているのだろう。

そうか…もう、こんな時間なんだ。

正確な時間を確認したりはしない。
すれば、この大切な時間も、もう、終わりが来てしまうような気がしたから。
楽しい時間は本当に一瞬の出来事で…
長く苦しんでいた時間は、永遠ともいえるくらいに感じてしまう。
そして私は、これからも茫漠としたこの世界で緩やかに流れる時間を、同じだけの苦しみを感じながら歩いていかなければならないのだろうか。
…いや。
この想い。
こなたに感じるこの想いを、忘れることが出来たのなら。
想いは罪。苦しみは罰。
この罪は、きっと、その茫漠たる時間がゆっくり洗い流してくれるはず。
いつか、この想いを、こなたを親友と呼べるところまで帰すことができたのなら、この罰も消えていってくれるだろう。
そして、彼女への想いと、同じだけの想いを…私は彼に捧げてあげなくちゃいけない。
こんな卑怯な私を、それでも好きだって言ってくれる彼だから。
愛して…あげなくちゃいけないんだ。



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