ふとしたことで

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 あの日からちょうど一年が経った。
 クリスマス・イヴだというのに、相変わらず私は、今年もいつものコスプレ喫茶でアルバイトをしている。

「あ、こなたちゃん。今日はもう上がって良いわよ」

 大半のお客が掃けて一段落した所で、サンタの格好をした店長兼オーナーが、私にそう伝えてきた。

「えっ、良いんですか?」
「ええ、もうすぐしたら、パティちゃん達も来るしね。せっかくのクリスマスをバイトだけで消化するのも嫌でしょう?」
「あ~、すいません。それじゃあ、お言葉に甘えて…」
「ついでに、あの娘にも『今日はもう上がって良いよ』って伝えといてね」
「は~い、お疲れ様でしたー」

 私はオーナーに挨拶を済ませると、ちょうどお客さんの残した食器を片付け終わった相方に声を掛けた。

「お~い、かがみ。今日はもう上がって良いってさ」


    「ふとしたことで~ふとしたことで~」


 ようやくベンチから立ち上がった私は、体中にこびり付いた雪を振るい落とす。
 下ろし立てのマフラーは雪と涙のせいですっかりずぶ濡れになってしまっていた。

「…はぁ、終わっちゃったな…。私の初恋」

 そこにもう涙は無い。
 悲しみはまだ残っているけれど、晴れ晴れとした気分だ。
 やれる事をやって、それでもダメだったんだ。
 後悔してないと言えば、まだ嘘になるかもしれないけれど、納得は出来たと思う。
 これからは後ろを振り返らずに生きていこう――。

 私は自分の周囲360℃を見渡し始める。
 夜の闇と街灯の光が、白一色に包まれた公園に幻想的な雰囲気を醸し出している。
 そして、一周させた視線の先に――人の姿があった。

「えっ……」

 私の思考が一時停止する。
 一瞬、幻でも見てるんじゃないかと思った。
 でも、そこにいるツインテールの少女は、息を切らして、ずっとその場に佇んでいる。

「ごめん…。雪のせいで電車が動かなくて…遅くなった……」

 呼吸を整えながら、かがみはそんな事を言ってきた。

「…な、なんで…?」
「……あんたがここで待ってるって言ったからじゃない。それ以外に理由なんてあるわけ?」

 そ、それはそうだけどさぁ…。と、私は口籠る。

「…か、彼氏が居るんだよね…?」
「うん。さっき別れて来たわ」
「え…ええっ!?」

 かがみの衝撃的な一言に、私は本気で狼狽する。

「…まぁ、それは中途半端な気持ちでアイツと付き合おうとした私が100%悪いんだけどね…。あ、べっ、別に喧嘩別れしたとかじゃないからね。さすがの私も、仲が悪くなったから他の誰かに乗り換えようとするほど性悪な人間じゃないから…。それだけは信じておいて…」
「う、うん……」

 頷きはしたものの、私の心臓は現在物凄い勢いで稼動を続けている。
 かがみが今この場に立っている事、そして、彼氏と別れた事の意味を考えれば――。

「あ、あのさ――」
「…ごめんね、こなた」
「へっ?」

 その事を聞こうとした私の言葉を遮って、かがみが突然頭を下げだした。
 困惑する私を前にして、かがみは更に話を続ける。

「私…ずっと自分の気持ちを誤魔化してた……。こんな感情、誰からも受け入れて貰えないって思ってたから、ずっと自分の中でそれを無かった事にし続けてた…。でも、そのせいで、こなたも、つかさも、アイツも……みんなに苦しい思いをさせちゃった…。あの日、こなたに告白されて、私はやっとその事に気付いたのよ…。それでも、私はあんたの事を選べなかった。本当に…ごめんなさい……」

 何度も私に頭を下げるかがみの瞳から、光る物が止め処なく流れ落ちていく。

「…泣かないでよ。かがみ」
「軽蔑されても仕方が無いって思ってる。でも、お願い、聞いて……」

 潤んだ瞳が真っ直ぐな視線で私を見つめる。
 かがみは胸一杯に空気を吸い込むと、ハッキリと分かる声でこう叫んだ。

「私もこなたの事が好きっ!」

 体中に電撃が走ったようだった。
 冷え切った筈の心に、乾き切った筈の瞳に、暖かな命の結晶が溢れ出す。
 もう我慢なんかする必要が無かった。

「かがみぃ!!」

 私はかがみの体に飛び付いた。

「こ、こなた…。こんな私でも許してくれるの……?」
「ずっと好きだったんだからっ! ずっとかがみとこうなりたいって思ってた……。でも、絶対に叶わないんだと思って諦めてた……。ホントに辛かった……。もう…私を一人にしようとしないで……お願いだから……」

 止まらなくなった涙を堪え切れないまま、私はありったけの想いをかがみに告げる。

「こなた……こなたっ!」

 かがみが凍えきった私の体を包み込むようにして抱きしめる。
 抑えきれない衝動に身を任せ、私達は何度も口付けを交わす。
 体温の温もりが、どんな暖房器具よりも暖かく感じられた。

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

§

「ここから近いんだっけ? そのホテルって」

 去年と同じ、カップルと親子連れの比率が多い、イヴの夜のアキバからの帰り道。
 腕を組み、その肩に体を預けながら、私はかがみの話を聞いている。

「うん。お父さんが出版社のパーティーとかで良く招待される場所でね。そのコネを使って部屋を取って貰ったのだよ~。クリスマスとかは何ヶ月前から予約が埋まっちゃうらしいからね」
「へぇ~。使えるものは何でも使うわね…」
「当ったり前じゃん! 私達の1周年記念なんだから、そこは豪華にやらないとさぁ…」
「私は別に、家でいつも通り一緒に過ごすのも悪くは無いかなって思ってたんだけどね」
「え~? だってさ、ウチで過ごしたら、いっつも良い所で、お父さんやらゆーちゃんやらが部屋に入ってくるからねぇ。今日ぐらいは誰の視線に怯える事無くかがみんと過ごしていたいなと乙女心に思うわけですよ~」
「そんな事言って、アンタは結局私を押し倒したいだけだろ?」
「うっ…。ソ、ソンナコトハナイデスヨ…?」
「分かりやすい嘘よね、それ。……まぁ、そういうのも悪くは…ない……かな?」

 顔を赤らめながら、小さな声でそう呟くかがみを見て、私はニヤニヤを隠せない。

「むふ~。そういう所が可愛いんだよね~かがみんは♪」
「うっ、うるさい!」

 ……とまぁ、こんな感じで、一年という節目を迎えた“新しい日常”を私達は過ごしている。
 この一年間、本当に色んな事があった。
 辛い事も、悲しい事も、嬉しい事も、全て二人で分かち合って過ごしてきた。
 それでも、まぁ…ねぇ…?
 ずっとかがみと一緒に居たいと願っては居たけれど、まさか本当に“かがみと結婚出来る”とは思ってなかったよ……。
 昔の私にこの事を聞かせたら、「それなに? チート?」って真剣に言われそうだよね…。
 なんだかんだ言いつつも、私はこれ以上無いくらいの幸せな人間だと思う。
 理解ある人に守られて、素敵な友達に囲まれて、最愛の人が傍にいる。
 それだけは…これからも、ずっと忘れないで生きていたいな……。

§

 今日、一つ嬉しい事があった。
 私とかがみのバイト先に“あの彼”がやって来たのだ。
 その隣りには、可愛らしい素敵な彼女を連れて――。
 彼には心の底から幸せに欲しいと思う。
 私が奪ってしまった幸せの分も含めて……。

「……ねぇ、かがみ?」

 信号待ちの交差点で、私はかがみに問いかける。

「ん、どうしたの?」
「…かがみはさ、運命って信じる?」
「う~ん…。そうね…」

 かがみはわりと真剣な顔をして、その質問の答えを考えようとしている。

「…確かに、運命的な存在や出来事はあると思うけど、結局は本人の努力次第なんじゃないのかな? 自分の人生は自分で切り開かないとね」
「…かがみらしい答えだね」
「まぁ、そうだけど…。でも、どうしたのよ? 急にそんな事聞いてきたりして?」
「ううん…。ただ、ちょっと頭に浮かんで来ただけだから」

 怪訝そうな表情を見せるかがみの姿を見て、満足した私はそれだけを告げて、また視線を前に戻した。

 ――人生とは偶然の上に成り立っているのか、それとも必然というレールの上を走っているだけなのか。
 そんな哲学じみた真理を、以前にも私は触れようとした事がある。
 私達は“ふとしたこと”がきっかけで出会って、恋をして、お互いを傷付け合って――そして、今日を共に生きている。
 これは偶然の上に成り立った奇跡なのか、それとも必然という名の規定事項によって成り立った結果なのか?
 ――いや、今は止めておこう…。
 今の私にとって、そんな答えは必要としていない。
 今はただ、この幸せを噛み締めて生きていこう。
 かがみと一緒に――。

 今年のクリスマスに、氷の結晶は舞い降りてこない。
 それでも人々は、それぞれの思いを胸に今日を生きている。
 ある人は恋人と出会える奇跡を喜び、ある人は今日というこの日を妬ましく思い、ある人は今晩現れるサンタクロースの存在に胸を躍らし、ある人は誰かの為に涙を流す。
 信号は青に変わる。
 それぞれの想いが交錯する人々の波の中へ私達は吸い込まれていった――。


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  • 下の方でこのssをバカにしている豚のことは気にしないで下さい、あなたの作品はとても素敵なものです!これからももっと素敵な作品をつくっていって下さい!...まぁ今言っても遅い気がしますけどね -- チョココロネ (2014-03-28 01:22:09)
  • 最後はハッピーエンドですね♪ -- かがみんラブ (2012-09-15 00:28:09)
  • ↓ ありえないしょwwこなかがじゃないじゃんww -- 名無しさん (2010-09-21 18:48:33)
  • いいねえ//
    そのまま、かがみがこなくて、こなた失恋ってのも見てみたい -- 名無しさん (2010-09-06 16:41:34)
  • 自分は、このシリーズ好きです!!更新される度にハラハラドキドキしていました。
    これを読んだあとに「6月の〜シリーズ」を読むと、また違った面白さに出会えました。
    作者さんの作品を楽しみにしている者の一人として、ずっと書き続けて欲しいと願っています。

    -- 名無しさん (2009-06-30 20:34:24)
  • (2009-06-01 03:03:12) の方へ
    おそらく、他の私の作品のコメ欄では管理人であるかささんが、保管庫の治安維持の為、あなたのコメントを消したようですが、それでは多分何も解決しないと思うので、ここのコメントだけは私の独断で復活させて頂きました。
    まぁ…ね、確かにご指摘の部分に関しては、こちらのストーリーの構成力不足や、技量不足だと言わざるを得ないと思います。
    それに関しては、こちらの方もあなたの意見に納得していると、認識して頂いた上で、敢えて言わせて頂きます。

    私は別にあなたの為にSSを書いてる訳じゃない。

    確かに、あなたにとっては最悪のSSだったのかもしれませんが、だからといって、各作品のコメ欄にその褒め殺しだか、嫌味だか良く分からない気持ち悪いコメントを垂れ流す行為は、ハッキリ言ってあなたの自慰行為でしかない。
    「ふとしたことでを見てからこの作者のこなかがが楽しくなくなっちゃった」

    どうぞ、楽しくなくなって頂いて結構です。
    なんなら、金輪際私の作品を観なくても全然構いません。

    あなたにとってこのSSが「最悪のこなかが」ならば、あなたは私にとって「最悪の読者」です。

    他に私の作品を楽しく読んで下さった方には申し訳ないですが、とにかくこの人の、「(技量的には未熟でも)人が丹精込めて作り上げたSSをコケにする姿勢」だけはどうしても許せなかったので、こう書かせて頂きました。

    もしも、他の方も私の作品を読んで、不快な思いをした方が一定以上いるのであれば、私は人を不快にさせる為にSSを書いている訳ではありませんので、自らの作品を保管庫から取り下げる覚悟も出来ています。
    その場合は遠慮なく申し上げてください。

    以上です。お目汚し失礼しました。 -- カローラ◆cKDLcxC5HE (2009-06-01 21:52:27)
  • 作者の技量と人生経験、こなかがの周りの人達の人徳が輝いてるSSですね。
    未だかつてなく最悪なこなかがですね。めちゃ面白かったです。
    こなたは絶対にやっちゃいけないことをやったけど頑張った。精算した。
    かがみは…このままじゃだめだろ。かがみが苦しみを乗り越える話やけんちゃんに謝る話が足りないって。
    作者は、せっかくこんなにえげつない展開を用意したのに土壇場で周りに助けさせすぎだろ。どうみてもバッドエンド。 -- 名無しさん (2009-06-01 03:03:12)
  • 落として・・上げて・・
    ほっとしました。

    7月の花嫁と微妙につながってる? -- 名無しさん (2009-03-01 19:46:24)
  • いやぁ実際どうなるかと思いましたがハッピーエンドで終わってよかったw 途中からダメだったのかなと一瞬思いましたが何度もいいますがハッピーエンドでよかったですw -- 名無しさん (2009-03-01 19:31:31)


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