分かったこと

このページを編集する    
かがみと一緒に暮らし始めて数ヶ月。 私には分かった事がある。
それは私が世界で一番分かっていると思っていたかがみはほんの一部分に過ぎなくて、
私の知らないかがみがまだまだたくさんいると言うことだ。



『分かったこと』



◇朝、ベットにて


夢と現実の境目、まどろみの中に私はいた。
ついいつもと同じ時間に目がさめてしまったのだけれども、考えてみれば今日は週末、お休みだ。
となれば、今私が起きるのはひどく非生産的であり、この場合二度寝を楽しむのが心の平穏にも非常によく、かつ生産的ではなかろうか?うん、絶対にそうだ。
ぼーっとした頭で結論づけた私は、睡魔に身を任せ、再び瞼を閉じた。
唐突かもしれないけど、朝の布団の暖かさは魔性だと思うんだよね。どんなに歳をとっても全然慣れる気配もないし、むしろ悪化の一途だよ。
ああ、この魔性の化身に挑んで敗れていった勇者がどれだけいる事か!もっとも、私も何度も敗れ去ってる勇者の内の一人なんだけど…
で、なんでこんな話を持ち出したのかと言うと、今抱いてる抱き枕がそんなものとは比べ物にならないくらい気持ちいいって話をしたかったんだよね。
目閉じてるから何なのかよく分からないけど、この抱き枕はすごい!暖かいし、柔らかいし、抱き心地も凄くいいし…それにいい匂いまでするんだよ!
どれ、ちょっと触り心地をみてみよう。
私は目を閉じたまま、枕に頬擦りをしてみた。するとどうだろう。ほどよい弾力がプニプニと返ってきたではないか!
まさに魔性、魔性の抱き枕だった。 魔性の布団に抱き枕。こんなコンビに私が敵うはずがない。

早々に意識が遠のいて、そして私は夢の世界へ……

「……た!……きろ、おい!」

今まさに落ちようとしたその時だった。
枕の方から声が聞こえた。うん、目覚まし抱き枕とは珍しい。でも、今の私は気にしない。
さあ、気を取り直して再び夢の世界へ…

「起きろって言ってんでしょうが~~!!」

突如聞き覚えのある怒鳴り声と一緒に、大地震を思わせるような揺れが私を襲った。

「んもう!なーに?何の用?」

さすがに目を開けずにはいられなかった。嫌々ながら目を開けるとドアップのかがみの顔が目に写った。

「やっと目が覚めたか。ほら、起きろ!朝だぞ~。それから、抱きつくのをやめれ。」

どうやら魔性の抱き枕の正体はかがみだったらしい。まあ、なんとなく分かってたんだけどね。この抱きつきの良さはかがみん以外ありえないし。

「むー…。いいじゃん、休みなんだし。昨日はネトゲーで大変だったから、寝るのが遅かったんだよ…というわけで、お休み~~」
「お、おい寝るな!寝るんだったら、せめて抱きつくのは止めろって!あんたが抱きついたままだと、私が起きられないじゃない!!」
「じゃあ、かがみも一緒に寝よーよ……」
「私はもう十分寝たの!ほら、起きろ!私の一日が始まらないだろ!!」
「い~や~だ~。かがみんのウェストが細くなることを祈りつつ、今はただ眠ろう……」
「なっ!寝るのに私のウェストのサイズは関係ないだろ?!というか、寝るな~~!!」

朝っぱらから大声で叫ぶかがみ。まったく、かがみは元気だよね。この家防音対策はバッチリだけど、あんまり叫ばないでね。
ああ、それにしても私はもう駄目だ、とにかく眠いんだよ~。

「おりゃ~~!!起きろ~~~!!!」

夢の世界へ飛び立とうとする私の体を、かがみが必死に揺らした。そりゃあもう、思いっきり、本気も本気、手加減なしで。
それでも私は頑張った。必死に身を硬くして、かがみの揺さぶり攻撃に耐え凌いだ。でもさすがにかがみの攻撃は半端なく、結局私は二度寝を楽しむ事はできなかった。
かくしてルーザーたる私は、モゾモゾと起きざるを得ないのだった。


……かがみは強暴だ。


◇午前10時、朝食にて


「まったく。あんたがなかなか起きないから、結局こんな時間になっちゃったじゃない。」

かがみが新聞を読みながら、文句を言ってきた。ちなみに、新聞を読むのはかがみだけで、私はテレビ欄すら読んでない。昔とは違って、いまはネットもあるし。
『ニュースなんてネットで見ればいいじゃん』っていう言葉に対して、『ネットじゃ分からない事もある』という言葉はかがみ様の言。
まっ、すごくかがみらしいんだけどね。そういう古典的なところが。

「文句言う前に手伝ってよかがみ~。お皿出して、お皿~。」
「はいはい。」

かがみは新聞を畳むと食器棚へ向かっていった。そして二人分の食器を取り出すと隣り合うように並べた。
最初の頃の私の席はかがみの向かい側だったんだけど、かがみが『ちょっと距離が遠くていや』なんてデレた口調で言うもんだからさ。
気が付いたらかがみの隣の席になっちゃってたんだよね。まあ、そんなデレたかがみが好きだから、別にいいんだけど。

私はお皿が並べられたことを確認すると、その上に料理を装っていった。
いや~、どんなに寝坊してもちゃんとご飯を作るんだから、さすがだね私。本当に偉いよ。
などと思っているうちに盛り付けは終了した。
今日の朝食は、目玉焼きにソーセージ、それに簡単なサラダとトーストの洋風仕立て。
私の場合はトーストの代わりに、特別メニューのチョココロネなんだけどね。
和食もいいけど、やっぱり洋食のほうがお手軽だ。

「かがみ~、飲み物はコーヒー、紅茶どっち?」
「ミルクティー。」
「……かがみも言うようになったよね。」
「でも用意してくれるんでしょ?」

かがみはそういいながら、可愛らしい笑顔を私に向けた。
ああ、その笑顔は本当に反則だからと心の中で思いつつ、私は無言でお湯を入れた二つのカップにそーっとティーパックを沈めた。
常温で暖めておいたミルク、スプーン、それに先ほどのカップをお盆にのせると、私はテーブルにそれを運んだ。

「さっすが、こなた。私の言う事なんてお見通しね。」
「数ヶ月一緒にいればさすがにね。あっ、ティーパックはこの小皿においてね。」
「了解。」

かがみはティーパックをカップから取り出すと、小皿の上に置いた。そしてカップにミルクを入れる。
琥珀色の液体が、混ざり合って溶け合って、あっという間にクリーム色に変わった。

「あんたのもやってあげようか?」
「それくらい自分でやるよ。」

カップの中をスプーンでかき混ぜてるかがみに対して、私は言った。
まったく、いくらなんでも子ども扱いしすぎだよ。

「飲み物もそろったところで、食べようか?」
「そうね。それじゃあ、いただきます。」

さっそくバターを手に取ってパンに塗り始めるかがみ。
そして塗り終わったパンを頬張るかがみはそれはそれは幸せそうで、ああやっぱりかがみは食欲魔人なんだなと思ってしまう。

「そういえばさ、こなた?」
「なに?」
「最初の頃にさ、目玉焼きには何をつけるかっていう話で盛り上がったじゃない?」
「ああ、そんなことあったよね!かがみは絶対醤油だって言って譲らなかったんだよね。」
「そうそう!それでさ、この前そのことについて知り合いと話すことがあったのよ。そうしたらもう、色んなのが出てきてビックリしちゃった。」
「へぇ~。ちなみにどんなのがあったの?」
「まずは、塩コショウ。」
「それは普通だね。」
「それから、マヨネーズ、ケチャップ、何もかけない、などなど。デミグラスソースっていうのもあったかしら?」
「まだまだたくさんありそうだよね。これはアニメのドラマCDの話なんだけどさ。」
「うんうん。」
「……メープルシロップっていうのもあったんだよ。」
「メープルシロップ?!うわ~、さすがにそれはないわ……」
「まあ、あくまでドラマCDの話だから、冗談だとは思うけどね~。」

こんな他愛の無い話をしつつ、私達の食事は進む。こんな話ばかりしていると、昔からまったく進歩してないんだなって思ってしまう。
いまの話につかさとみゆきさんが混ざったら、もう高校の頃の昼休みと同じじゃん。
私はそんなことを思いながら、アムリとチョココロネを頬張った。

「あっ、こなた。口にチョコがついてる。」
「むぐぅ?」

私が口元を拭い去ろうとしたちょうどその時だった。かがみの指がすっと伸びてきて、私のほっぺを触った。
かがみの指にはチョコが乗っかっていた。かがみはちょっと確認するかのようにそれを見つめるとパクッと口に入れた。

かがみにほっぺについたチョコを食べられちゃった。
そう思うと心臓の鼓動が少し早まった。なんだか、すごくドキドキした

「ホントあんたは進歩しないな・・・って、なに顔赤くしてるのよ?」
「えっ?あ、赤くなんてしてないよ!」

そんなの大嘘だった。顔中が熱いし、なんだか体温も高くなったような気がするし、さっきのドキドキは止まらない。

「………」

ああ、もうっ!なんでこんなことで顔なんて赤くしてるんだろう?!
大体、こんなことで照れるような関係じゃないじゃん、私達!!
キスだってとっくにしたし、それ以上のことだってしたんだよ!
それなのに、なんでこんなことで……

「もしかして、こなた照れてるんだ~!」

かがみは真っ赤になっているだろう私の顔をじっと見つめると、それはもう底意地の悪そうな顔をして言った。

「むぅ…そんなんじゃないよ。」
「照れるな、照れるな。あーもう、本当にあんたは可愛いわね~。」

私の反論もまったく効果はなく、かがみは座ったまま私を抱き寄せた。
私はなすすべも無く、そのまま引き寄せられる。その反動でイスがガタガタと鳴ったのだけど、かがみは気にも留めていなかった。

「でも高校の頃に、私がつかさに同じ様なことしてあげたのを見て『女の子同士じゃ萌えない』とかいってなかったけ?」

ずいぶん昔の話を覚えてらっしゃるな、かがみんは。もしかして、そう言われたこと結構根に持ってたりしたのかな。

「昔の話だよ?それに今感じてる気持ちは萌えじゃないもん…」
「ふ~ん。それじゃあ、なに?」

しまった。とんでもない墓穴を掘ってしまった。これじゃあ、今の気持ちを話さざるを得ない。

「そんなの分からない。でも、この気持ちを感じるのはかがみの所為だから。かがみの時だけだから…」

二人きりの部屋。それでもかがみにだけ聞こえるように、そっと小さな声で言った。
だって、こんなこと言うなんてすごく恥ずかしいし。

私がそう言うとかがみはそれはもう嬉しそうな顔をしたかと思うと、

「ごめん、こなた。私よく聞こえなかった。もっと大きな声で、はっきりと言って欲しいな~~」

などと、今度は極悪な笑顔を振りまいて私に言ってきた。もちろん私はもう一度言うつもりなんてさらさらない。

「もうどうでもいいじゃん。忘れてよ!」
「忘れるも何も聞いてないから分からないわ。ほら、お姉さんに教えなさい!」

聞いてる、これ絶対聞いてるよ!聞いてる上でさらに私を辱めようとしてるんだ!!絶対にそうに決まってる!!

「何も言ってないって!それに、私のほうがお姉さんだよ?!」
「体型から考えて、間違いなく私のほうがお姉さんよ。ほら、お姉さんがご飯を食べさせてあげるから、さっさと言いなさい。ほら、あーんして。」

私を抱きしめながら、器用にも私にサラダを食べさせようとするかがみ。

「やめろ~~~!!」

そんなかがみに対して私は大声を出しながら、必死に顔をそむける事しか出来なかった。


結局かがみ攻撃は、私がもう一度大きな声で言うまで終わらなかった。
ああ、本当にこの家が防音対策バッチリでよかったよ……


そして私は午前中の間ずっと、このことでかがみにからかわれっぱなしだった。


……かがみは意地悪だ。


◇午後、昼下がりにて


「で、かがみんや?」
「なによ?」
「私が今現在されているこの状況は、一体全体どういうことでしょう?」

今現在の私の状況。非常に簡単に説明すると、かがみに座りながらだっこされてます、私。

「そんなの、あんたの目の前に置かれてる本を見れば一目瞭然じゃない。」

目の前のテーブルには、かがみお気に入りのラノベが所狭しと置かれていた。

「ラノベがいっぱいあるね。」
「そうよ。今日こそはあんたにラノベの素晴らしさを教えてあげようと思って、私が選んだの。」
「選んだのはいいけどさ。で、これをどうしろと?」
「ねえ、こなた?本は読む為に存在するの。決して絵を眺める為に存在するんじゃないのよ。」

つまりこの山のようなラノベの数々を読みなさいということか。

「ねえ、かがみん。誰かの萌えは私の萎え。誰かの萎えは私の萌え。萌えの押し付けはまかりならないんだよ?」
「そんな名言みたいなこといって逃げようとしても駄目だからね。それにこれは趣味よ趣味。萌えじゃないから問題ないわ。」
「趣味もだよ。私だって押し付けた事ないじゃん。」

私はゲームやアニメといった趣味を人に押し付けた事はない。
普通の人が見てもつまらないだろうし、オタクであったとしてもジャンルが違ったら、それはそれでつまらないし、言い争いになるしね。
こういうのは同士とこっそりと楽しむのが一番だと思う。
ただ、ことかがみに関してだけは布教というか、洗脳というか…そういうようなことをしなかったとは声大きく言えなかったりするんだけど。
そんな自分に不利になるようなことは当然言わないでおく。

「いいじゃない、別に!それに、こういことはこなたにしかしてないから問題ないの。それに、好きな人とは自分の楽しい事を共有したいじゃない。」

好きな人…ねぇ。
そういう風に言われるとやっぱり弱い。こんな無理やりもまあ別にいいかと思ってしまうのだから困ったものだ。
好きになったほうの負けって言う言葉があるけれど、それが本当だったらかがみのほうが負けなはずなんだけどなぁ…

「分かった、分かったよ。」
「そう、ようやく分かってくれたのね!」

私の言葉を聞いてかがみの顔がパアっと明るくなった。ああ、これを見れただけでももう満足だよ。

「でもね、かがみ?」
「まだなにかあるの?」
「あるよ!ラノベについてはまあいいけどさ、なんで私かがみにだっこされてるの?」
「だってあんた、読むのに飽きるとすぐ逃げ出そうとするじゃない。逃げ出し防止の必殺の策よ。それに、後ろからなら私も本が読めるし、他にも色々楽しめるしね。」

なんだか後者の理由の方が大きそうな気がするけれど、あえて突っ込まないでおく。
というか、突っ込んでしまったらとんでもない目にあいそうな気がするんだよね。

「ほら、うだうだ言ってないでさっさと読みなさいよ。ほら、これなんてお勧めよ!」

かがみはそう言うと、一冊の本を手にとって私に見せた。アニメ化、漫画化までされている人気シリーズだった。
私はかがみから本を受け取ると、さっそくページをめくり始めた。
ストーリー自体はアニメや漫画で知っているからだろうか。思ったよりも分かりやすく、すらすらと読むことが出来た。
そして少しだけだがアニメや漫画と違うところがあって、それがまた面白かった。
アニメとかを見た後で、少しずつ読んでいくんだったらラノベも面白いかもしれない。
そんなふうに本を読んでいると、不意に私のほっぺに暖かい何かが感じられた。
それにビックリして頭だけを動かして横を見てみると、そこにはかがみの顔が私の方に乗っかってるかのようにあった。

「……どったの?」
「いや、ちょっと文字が見えなくて。ほら、私なんか気にしないで続き読みなさいよ。」
「……」

気にしないわけがなかった。
この際だからはっきり言おう。かがみがだっこしてくれているという事実、これだけでもう私はいっぱいいっぱいなのだ。
朝ごはんの時と同じ…いやそれ以上に私の鼓動は高鳴ってる。体が密着してるから、このドキドキがかがみにも伝わってるんじゃないかなんて思ってしまう。
顔が赤くなってないのと、かがみがまったくその事に触れていないのがせめてもの救い。
そんないっぱいいっぱいの状況に、追い討ちをかけるかのようなこの状況。本なんか読める状態じゃない。
それでも私は意識を集中させて、本を読み続けた。

5分、いや10分くらかな?それが私の限界点だった。
かがみの吐く息が私のほっぺをくすぐって、髪から時々香るいい匂いが私の鼻腔をくすぐった。
ちらっと流し目で見るかがみの顔は、それはもう可愛くて可愛くて。時々触れるほっぺの感触が私に焦燥感をからせた。

本当にもう駄目だった。
かがみに触れたくて堪らない。かがみに触れられたくて堪らない。服越しなんかじゃなくて直に触れたい、触れられたい。
もっと、かがみを感じたかった。

「ねえ、かがみ?」
「んー、どうした?」

私の気も知らないかがみが何気ない声で返事をした。

「もう、私だめだよ、限界だよ……」

私は軽く体を震わせながら目に涙を浮かべて、すぐ横のかがみの顔を見つめた。
さっきの反応から考えるとかがみは何も気が付いてなかったみたいだけど、私のこの顔、この表情を見れば気が付いてくれるはず。
今の私みたいな気持ちになってくれるはずだ。

「こなた……」

かがみは私の顔をじっと見つめると、すぐに優しい顔をしてくれた。

「かがみぃ…」

ほら、やっぱり気が付いてくれた。そしてかがみは私に……

「駄目よ、こなた。ギブアップにはまだ早いわよ。」
「はい?」

非常にいまの状況から考えて、ありえない台詞を吐いてくれた。

「あ、あの、かがみ?」
「まったく、そうやってすぐ諦めちゃうんだから、こなたの悪い癖よ。まだ50ページも読んでないじゃない!!」

開いた口がふさがらなかった。かがみは私のあの顔、あの台詞で、私がラノベを読むのがもう無理だといっていると思っていたのだ。
いや、私も趣味のことになると煩いけどさ、これはちょっとありえなくない?ひどくない?!
あんだけフラグを出しまくってたのにさ、本当にちっともこれっぽっちも気が付いてないの?!

「最低でも一冊は読んでもらうわよ!そうしないと、感想とか聞けないしね。ほら、キビキビ読む!」

そういって私にラノベの続きを読むように催促するかがみ。どうやら、本当に気が付いてないらしい。
私は軽い放心状態のまま、パラパラとページをめくるしかないのであった。


……かがみは自分勝手で鈍感だ。


◇夕方、スーパーにて


「で、今日は何を買いにきたのよ?」

隣を歩いているかがみが私に聞いてきた。

「んーとね、醤油が切れちゃったから醤油と、今日はサラダ油が安いからそれ。あとは今日の夕飯しだいなんだけど、まだメニューは決めてなかったり。」
「おいおい、スーパーに来ておいてこれかよ。」

かがみが無理やりラノベを読ませようとしたからね。
先ほどの復讐にそういってやろうかと思ったけど、止めておいた。きっと不毛な争いになること間違いなしだから。

「というわけで、かがみはなにか食べたいものある?」
「そうねぇ……唐揚げと卵焼きがいいわ!」

かがみはいい案が浮かんだとでも言いたそうに、にっこりと微笑んだ。

「唐揚げと卵焼きかあ。それはまたお弁当チックなおかずだね。」

まあ別にいいんだけどね。唐揚げは下ごしらえが必要だけど、それほどの手間というほどでもないし。
これで『こなたの手打ちうどんが食べたいわ』なんて言われたら、それはそれで非常に困るし。

「このメニューはね、理由があるのよ。」
「えっ?そんなのあるの?」
「いい、こなた。」

かがみがはそう言うと、私の両肩に両手をポンと乗っけた。

「う、うん。」
「あんたもいずれは柊家の一員になる身よ。だったら、そろそろ柊家の味を覚えてもいい頃じゃないかと思うの!」
「なっ、なんですと!」
「ほら、卵焼きとか唐揚げとかってその家の色がはっきり出るじゃない?
 こなたの作る料理に不満なんてまったくないけど、やっぱそういうのも覚えた方がいいんじゃないかと思って。」

なんとまあ、唐揚げと卵焼きのメニューにそこまでぶっ飛んだ思考をぶつけられるとは……恐るべし、かがみん。

「い、いやかがみの家の味付けで料理をつくるのは別に構わないけど、そこまで考える必要はべつにないんじゃないかな?」
「いいえ、絶対必要よ!それはもう間違いないんだから!」

どこをどう考えたら、そんな思考に辿り着けるんだろう?
なんか怖いよ、かがみん…

「で、でもさあ…かがみが私の家の一員になることも十分にありえるよね?」
「残念だけど、それはないわね。」
「なっ、なんでさ!」
「だって、こなたにはタキシードよりウェディングドレス、スーツ姿よりもエプロン姿のほうが似合ってるじゃない。」

なに当然のこと言ってるの?という顔をうかべるかがみ。いや、かがみん?その表情はおかしいよ、おかしいからね!

「似合う似合わないで将来のこと決められちゃたまらないよ……」
「大丈夫よ、こなた。どちらにせよ、私が絶対に幸せにしてあげるから。」

もう駄目だ。このかがみを止めることは何人たりともできない。

「うん……」

こうして私は小さく小さく頷いたのだった。

……かがみは猪突猛進だ。


◇午後8時、お風呂場にて


「はあ、なんだか今日は疲れたね。」

疲れたときのお風呂は至福のひと時だ。ちょっと広いこの家のお風呂では、なんと私は足を伸ばす事が出来るのだ。
だからこそ、この至福はなおさら貴重な時間だ。こんなときにだけ、背の小さい自分に感謝する。

「それにしても…今日のかがみ変だったよね。」

今日一日のかがみの態度を振り返る。
いつもと同じだった。いつもと同じように私にベタベタするし、強暴だし、それでいて鈍感だし、ラノベには目が無いし…
でもだからこそだろう。
微妙におかしかった。どこがどうとは言えないのだけど、確かにおかしかった。
なんだろうな、かがみのことが好きな私だからこそ分かる感覚。それが諸手を挙げておかしいと言っているのだ。

「なにか、あったのかな?」

私は湯船に浸かりつつ、その疑問の答えを出す事に集中する事にした……のだけど!

「こなた~~!」
「かっ、かがみ!!」

あろうことか、その件の人物がガラガラとドアを開けてお風呂場に入ってきた。

「ちょっ、ちょっとかがみ!私まだ入ってるよ!!」
「そんなの知ってるわよ。だから一緒に入ろうかと思って。」
「なああああ!」

本当ならズサーと後ろに逃げ出したところなんだけど、残念ながらここはお風呂場。そんな逃げ出せる場所なんてどこにもない。

「ほら、あんたずっと前に言ってたじゃない。背中流してって。だから、やってあげようと思ってね。」
「そ、そんなお願いしたっけ?」

頭の中をフル回転させて、必死に記憶の糸をたどる。残念ながらその行為は徒労に終わったけど。

「そんなの覚えてないよ!時効って事で一つ!」
「ああ、もう煩いわね!寒いから入るわよ。」

かがみはそういうと、湯船の中に入ってきた。かがみが入ってきたことで、湯船のお湯が少しこぼれる。

「そ、それじゃあもう私出るよ!かがみはゆっくり暖まってね!」
「ちょっと、なに逃げようとしてるのよ!」

さっさと出てしまおうとする私を、かがみが手を引っ張って引き止めた。

「い、いや~、やっぱり普通のテンション時だと恥ずかしくてね……つい。」
「恥ずかしがる事なんてないじゃない。私達、女の子同士だし。」
「いやいや、女の子同士だろうがなんだろうが、好きな人とお風呂に入るのはまた別の意味がだね。」
「ふうん。まあ、いいわ。それじゃあ約束通り、後で背中を流してあげるから。」
「いいよ。恥ずかしいよ!」

ああ、昔の私よ、なんでそんなすごいことをお願いしちゃったのかな?おかげで今の私はこんなにも恥ずかしい思いをしているよ。

「ああ、もう煩いわね!私がしたいって言ってるんだから、おとなしくされなさい!」
「のおおおおおお!!」

こうして午後のラノベのときみたいに、かがみにだっこされた形になった私は、お風呂の間中かがみの言いなり状態だったとさ。

……かがみは強引だ。


◇午後10時、リビングにて

「かがみ~、果物剥いたから一緒に食べようよ。」

私はテーブルに果物の切りあわせを置くと、かがみの隣に座った。
私が隣にいるのに、かがみは返事をしてくれない。ただただ下を向いたままだった。

「かがみ~?」
「こなた……」

かがみが辛そうな声で、そう言いながらゆっくりと私のほうを見た。
私がそんなかがみの表情を見たのはこれを含めて4回。
1回目は私に告白してくれたとき、2回目と3回目は互いの両親に私達のことを話したとき。そして今回が4回目。
どの時も、辛そうで、悲しそうで、今にも自分の感情に押しつぶされそうな、そんな表情をしていた。

「かがみ?」
「………」

かがみは何も言わなかった。その代わりに私を思いっきり抱き寄せた。
背中に回された腕の力は何時もの比じゃなかった。思いっきり、多分全力で私のことを抱きしめていた。
そうしないと私がいなくなるんじゃないか、そう思わせるほどに、かがみの力は強かった。

「どうしたの?本当に何かあった?私なにかした?」
「……」

私の質問に、かがみは首を振った。

「じゃあ、どうしたの?」
「…時々さ、本当に時々なんだけど、訳も無く不安になることがあるのよ。
 いつもはたいした事ないんだけど、今日はそれがちょっと酷いみたい。ごめんね、びっくりさせて。」
「ううん。謝る必要なんて無いよ。かがみは全然悪くないんだから。」

そう、かがみは悪くない。もし謝る必要があるというのなら、それはきっと私のほうだ。
かがみの不安にまったく気が付かなくて、かがみに甘えきっていた私のほうだ。だけど、それは言わない。
だって、言ったらきっとかがみは反論する。『私が勝手に不安になってるだけなんだから、こなたは全然悪くない』って。
だから言わない。

「ねえ、こなた?」
「こなた、いなくなったりしないよね?」

切実だった。かがみは本気でそう思ってる。私がいなくなるかもって思ってる。

「いなくなるわけないじゃん。」
「本当に?」
「本当だよ。」
「嘘じゃないよね?」
「かがみに嘘つくわけないよ。」
「私のこと嫌いにならないよね?」
「私にはかがみしかいないよ。」
「けど、私って駄目なところばっかりだし、こなただったら…」
「私だって駄目なところばっかりだよ。私はそんな駄目駄目なかがみが好きなのさ。」
「この関係やめようなんて思ってない?」
「絶対にない。」
「ずっとよ?」
「当たり前じゃん。」

一つ一つ確認するかのように私はかがみの質問に答えた。嘘は無く、茶化す事も無く、はっきりと本音で私は答えた。
これでかがみの不安がなくなるなら、安心できるなら安いものだ。いくらでも答えるよ。
不安になることは誰にだってある。もちろん私にだってある。
私が不安になったときは、そっとかがみが助けてくれた。
だったら、今度は私の番。かがみの不安がなくなるまでずっと付き合うからね。

私とかがみの問答は時計の長針が一回転するまで続いた。


……かがみは怖がり屋さんで臆病だ。


◇深夜、ベットにて

「ありがとう、こなた。もう大丈夫だから。」

ベットの上で、かがみがにっこりと笑った。

「あんなのでよければ、いくらでも言ってあげるからね。いつでも言ってよ!」

かがみの笑顔につられて、私も笑顔で答えた。
ああ、かがみが笑ってくれて本当によかったよ。やっぱり好きな人には笑っていて欲しいしね。

「そうね、あの時のこなたすごく優しかったし。偶にはいいかもね。」
「うん、いつでも頼ってね。」
「それじゃあ、寝るか。」
「うん、今日は私も大人しく寝るとするよ。」

私は部屋の明かりを消すと、モゾモゾとかがみの隣へと潜りこんだ。
ダブルベット。最初かがみから提案されたときはえーって思ったけど、慣れてしまえばどうってこともなくなってしまう。
私は布団の中、かがみの手を文字通り手探りで探すと、ギュッと握った。

「なに、こなた?」
「いやいや、寂しがり屋のうさぎさんが安心するようにね。」
「今日は優しいのね。」
「今日もって言って欲しいよ。」
「じゃあ、今日も。」

暗くてよく見えないけれど、かがみは確かに笑ってた。それに合わせてかがみの手が、ギュッと私を握り返した。

「ねえ、かがみ?」
「んー?」
「今度暇が会ったらさ、デートにでも行こうか。」
「おっ、いいね!それじゃあ明日いこう、明日!」
「明日?!ちょっと急じゃないかな?準備とかどうするの?」
「近場だったらそんなの入らないわよ。はい決定!それじゃあ、明日に備えてさっさと寝るわよ!」
「もう、しょうがないな~、かがみんは!」

そんな話をして5分くらい経っただろうか。ふとかがみのほうを見てみると、かがみはすっかり眠ってしまっていた。
すぅすぅとほのかに寝息が聞こえる。それを聞く限り、安心して眠ってそうだった。
私はそれを確認すると、かがみと同じように眠りに落ちた。

眠りに落ちる直前に見たかがみの横顔は、すごく幸せそうだった。



かがみと一緒に暮らし始めて数ヶ月。 私には改めて分かった事がある。


それは……


かがみは強暴で意地悪で自分勝手で鈍感で猪突猛進で強引で怖がり屋さんで臆病で……


そう…なんだけど……


可愛くて、綺麗で、かっこよくて、優しくて、頭がよくて、ツンデレで
ヘタレだけど大事なところではちゃんと決めてくれて、それでいて私を守ってくれて、私を好きでいてくれて……


そんなかがみのことが……


私は…狂おしいほどに大好きだという事だ。



コメントフォーム

名前:
コメント:
  • ノロケ全開で幸せそうですね〜 -- 名無しさん (2010-07-23 09:57:42)
  • いやぁ甘酸っぱさと切なさが同居した素晴らしい作品ですねぇ〜。 -- 糖武宇都宮 (2010-04-15 01:12:04)
  • 何だこの作品は? 脳内映像のモニターが壊れてる俺ださえ、
    2人の映像が鮮明にがうかんだぞ!! GJッス -- kk (2010-04-14 11:01:42)
  • 受けこなたではなくて、受け止めこなたですね -- 名無しさん (2009-04-24 20:28:45)
  • いちゃいちゃと甘甘と少しの切なさと希望。
    最高じゃないですか。
    GJ!! -- 名無しさん (2009-02-26 23:07:33)
  • 結局はこなたの恋人自慢な惚気話だったとさ←結論
    でもGJ! -- こなかがは正義ッ! (2009-02-26 14:05:28)
  • 甘くて平和な感じが
    たまりませんね。 -- 無垢無垢 (2009-02-26 12:46:34)


投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)


|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
  



★Counter

TOTAL: -
TODAY: -
YESTERDAY: -

★更新履歴

取得中です。