小さな勇気

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私はこなたが好きだ。
半年前のあの日、私の中に宿った小さな火は、確実に勢いを増し、今では私の心の大半を覆っていた。
きっかけなんて、本当に些細な事。
たまたま私が転んで、それをこなたが助けようとして、私の下敷きになって。
たまたま近くにあった顔を見た時、魔法にかかったように動けなくなって。
今まで感じた事もない感情に戸惑いはしたけど、今では、掛け替えのないものとなった。


小さな勇気



私がこなたを好きだと自覚してから分かった事が2つ。
1つは、こなたを見るだけで、こなたと話すだけで、心が満たされる、幸せになれる事。
恋愛は、想っている間が1番楽しいと聞いた事があるけれど。
案外、その通りかな、と思う。
想い人との甘酸っぱい時間を過ごす事もそうだし、あるはずはないとわかっていても、
想い人との未来を想像して、どうしようもなく幸せな気持ちになれるから。
それとは正反対の事がもう1つ。
それは、"諦め"という言葉が相応しいかな…。
私には、相手を想う事しか出来ない。
それが、自然の摂理だろうし、世間体の問題だってある。
万に1つの可能性があったとして。
そんな世間の冷たい目から、こなたを守れるほどの自信が、今の私にはない。
実際、私は皆の前でこそ強気でいるけれど、本当は臆病者だ。
今のこの気持ちを、こなたに打ち明ける自信だって到底ない。
それなら、せめてあいつの事を想うだけ…それ位なら、許されるよね?
だって、私の言葉は、届ける事が出来ないのだから。



私がこなたを好きだと自覚してからもう半年が経ち。
当時はあんなに寂しかった風景も、今は暖かさに満ちていた。
木々はもう1ヶ月程前から満開の花を咲かせ、そろそろ新緑の葉が芽生え始める頃、5月。
肌を突き刺すような風は既になりを潜め、今では随分と柔らかく、優しく私を包んでくれるよう。
来月になれば、季節的にはもう夏で、木々だけでなく、私達も衣替えの時期となる。
そんなとある日の放課後。
「お待たせ、かがみさま!」
授業後の開放感に浸っている教室の扉をばんと開け、開口一番、こなたはそう言い放つ。
教室中の人の視線が、蒼髪のアホ毛少女の元へと注がれる。
そんな事を気にするでもなく、つかつかと私の元へと足を運ぶと言う事は、
自然と私の方へも視線が注がれるわけで。かなり気恥ずかしい。
「お前な…"様"はやめろって言っただろ…しかもわざわざ目立つような登場して…」
深く、溜息を吐く。
でも、本気でそう思っているわけじゃない。言いながらも、私の頬は緩んでいるから。
それはこなたも一緒で、「かがみ、冷たいよぉ~…」なんて言いながらも、嬉しそうだから。
私達に注がれていた視線も、数分もすれば興味の対象外となり、次第に元の活気のある放課後の教室へと戻る。
それを見計らってか
「さて、かがみんや。戦場へ向かう準備は出来たかな!?」
やや大袈裟に、本日の目的地へのお誘いの言葉を紡ぐ。
「戦場って…お前は一体どこへ行く気だ」
「ゲマズとメイトに決まってるじゃん。どの景品をもらうのか、私の中では常にせめぎ合っていてだね!」
「あぁ、はいはい…わかったから、そんな熱く語るな。わからんから」
今日はこなたと寄り道をするため、つかさとみゆきには先に帰ってもらった。
丁度欲しかった新刊があったから…なんていうのは、ただの言い訳に過ぎない。
あれ以来、私がこなたと一緒にいる時間は確実に増えたと思う。
こなたか私のどちらかによっぽどの用事がない限りは、帰りはいつも一緒だし、
寄り道に誘われたら、断る事もほとんどなくなった。
こなたは、私が隣にいる事を拒んだりしない。むしろ、喜んでくれてる…と思う。
そんなあいつの隣が心地よくて、私はそこに納まっているわけだ。
それにしても、こんな風になるまでには、本当に色々なことがあった。
本当に、月日が流れるのは早いな、と感じざるを得ない。
半年と言う長いようで短い時間は、転がるように過ぎ去ってしまった気がする。
それはきっと、4人でいる時間がとても幸せだったから。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうとはよく言ったものだ。
それに加えて、こなたへの感情が日に日に膨れ上がっている私にとっては、
生きている中でも1番幸せな時間を過ごしてきたから。
この気持ちを伝えられたら、どれだけいいだろう。そう思った事は何度もある。
日本と言う国は、何故同性と恋愛するのが異端の対象となるのだろうと、憤った事もある。
でも、本当はそんなの当たり前だって、わかっていた。
私も、普通に彼氏を作って、将来は子供にも恵まれて、幸せな家庭を持つんだって。
そう信じていたから。
しかし、蓋を開けてみればどうだろう。
初めて好きになった相手は、女の子。しかも親友。
好きだと自覚した時こそ、あまり意識はしていなかったけれど。
よくよく考えれば、それは普通じゃない事位、すぐにわかって、相当落ち込んだなぁ。
だから私は、この気持ちを私の中だけのものにする事にした。
好きでいるだけなら、誰にも迷惑はかからないし。
それに私は現実主義者だ。この感情の行き着く先なんて、言うまでもわかってる。
こなたにだって、そっちの気があるかなんてわからない。
自分で言うのもおかしな話しだけど、拒絶される事は無いと思う。こなたは、優しい子だから。
でも、今の関係のままでいるのは、きっと無理…かな。
きっとこなただって、私がこなたにそういう感情を向けてるってわかったら、
その気がなくても、意識しちゃうと思うし。
毎日、こなたと私がお互いに気を遣うような関係なんて、既に私の好きな日常とはかけ離れてしまう。
それなら、余計な気遣いは無用な、今の関係のままの方がいい。
そう思い、今日までどうにか感情を隠してきた。
最初こそ、なかなか上手く立ち回れずに、「今日も調子悪いの?」なんて、こなたに心配かけてしまう始末。
それでも、私の気持ちに気付かないでくれたのは不幸中の幸いか。
人は慣れる生き物だ。日を重ねるにつれて、こなたと面と向かって話すのも、しどろもどろになる事はもうほとんどなくなった。
大丈夫、隠せてる。
でも、時々不安になる。未だ止まる事を知らない、日に日に膨れ上がるあいつへの想いが、抑え切れなくなるのではないかと。



一足先に買い物を済ませた私は、かなり慎重に吟味した後、ようやくレジに並んだこなたを外で待っていた。
会計を済ませて、嬉々とした表情で店から出てきたこなたの両手には、紙袋がいくつも握られていて。
「あんた…ほんとにいつも、糸目もつけずに買い込むよな」
「何を言うかね、かがみん。気になったら買え!欲しいものにもお金は惜しむな!って言うじゃん?」
「言わんわ!少しは抑えないと、後で泣きを見るわよ、ほんと」
「いやいや、手元のお金より目の前の愛だよ、かがみ!」
「何ていうか、ほんとにあんたは幸せそうだな…」
そんな、いつもの私達のやり取りが繰り広げられて。
お互い、それが可笑しくて笑ってて。
目と鼻の先にいる私の幸せに、心から感謝をした。
用事を済ませた私達は、どちらともなく歩き出す。
こなたより少し歩幅の広い私の隣に、ぴったりくっついてくる様子はまるで子犬みたいで。
それが可笑しくて、また私は笑ってしまう。
さすがに、そんな私を見て、本当に子犬みたいに小首を傾げて
「どったの?」なんて聞いてくるものだから、「別に、何でもないわよ」と、誤魔化す事しか出来ない私。
本当は子犬みたいで可愛いと思っただなんて、口が裂けても言えるわけがない。
私の心の灯火が、じわじわと範囲を広げ始める。
納得いくわけもないこなたは、ずっとうんうん唸っていたけれど、「ま、ツンデレだからしょうがないか」なんて、
意味のわからない事を言って納得してしまった。
その納得の仕方はどうなのよ…
何となく釈然としないけど、まあいつもの事よねと、人の事を言えないような納得の仕方をする私も同類だろうか。
日が傾き始めても一向に止む気配を見せない、賑わいに包まれた街中を、二人並んで歩いて行く。
しばしの沈黙が降りるけど、嫌な感じはしない。むしろこの沈黙すら心地よいものになっていた。
「かがみ、最近付き合いよくなったよね」
温かい沈黙を優しく破る、こなたの舌っ足らずな声。
「だから、たまたま暇だっただけだってば」
こなたと一緒にいられるから、なんて言えるはずもなくて。
相変わらず素直になれない私は、肯定する事も出来ずにそっけない態度しか取れない。
「ふふり、私色に染まってきた上にツンデレだなんて、さすが私の嫁だネ」
「またわけのわからん事を…。ていうか、あんた色になんて全然染まってないし、ツンデレでもないし、あんたの嫁でもない」
「うぉ~う、全部に突っ込むとは、さすがかがみん」
私の反応がそんなに嬉しいのか、思いっきりにまにまするこなた。
きっと私は、こいつがこうやって喜ぶ姿を見たくて、一緒にいるんだろうな。
それに自惚れじゃなければ、私がこうしてこなたに付き合う機会が増えた事を、心底喜んでくれている…と思う。
私は、無邪気に笑うこなたがとても好きだ。
こなたが笑うと、すごく穏やかな気持ちになれるから。
それは私だけじゃないかもしれないけど。
そういう気持ちになれる事を知っている人の中に私も入っているのが素直に嬉しい。
本当に親しい人にだけ向けるその笑顔が、あなたには心を開いてるんだよって、教えてくれてる気がして。
それがどうしようもなく嬉しく、もどかしくもあった。


時刻はもう17時半を回るところ。
日はのびてきたとはいえ、さすがに日はだいぶ落ちてきていて、街もオレンジ色に染められている。
加えて5月とはいえ、夜になると結構冷え込むため、悪戯するかのように私に吹き付けてくる風に、思わず体を震わせる。
そんな私の様子を見て、悪戯を思いついた子供のような表情。
「かがみ、寒いの?あっためてあげようか?」
唐突にこなたがそう言うけど、「遠慮しとくー」と軽くあしらった。
きっとこなたの事だ、いきなり抱きついてきて、「ほら、こうすればあったかいでしょ~」なんて、何の気もなく言うに違いない。
今の私にとって、それはある意味拷問だから、やっぱりそっけない態度を取るしかない。
「かがみん、つれないよー」とぼやきながら、私の隣を歩いていたこなたは、差し掛かった石段へ向かって小走りに駆けて行く。
「そんなに走って、転ぶなよー」
そんな私の心配をよそに、「だいじょぶだいじょぶ~」なんて、気にもしない様子で石段を駆け上がる。
けれど、ふと思い止まるように、その途中でぴたっと立ち止まり。
「ねぇ、かがみ」
「うん?」
大好きな声が、私の名前を呼んだ。
あいつは背中を向けたままなので、表情は分からない。
空色の、長くて綺麗なあいつの髪が、風になびいて。それが何となく寂しそうに見えたのは、私の気のせいかもしれないけど。
「一体どうした―――」
「私ね!」
じっと、突っ立ったまま何も言わないこなたに、痺れを切らして声をかけた私の声を遮るように、大きな声が響き。
ワンテンポ位遅れて振り向いたあいつの表情は思いもよらないもので。
「私、かがみと親友になれてよかったよ」
どくん…
瞬間、私の周りからあらゆる音が消えていくのを感じた。
夕日に照らされた彼女は、いつものにまにま顔だったり、人なつっこい笑顔なんかじゃなくて。
今までに、一度だって見た事はあっただろうか…?
あたたかい、柔和な笑顔を浮かべるこなたなんて。
憎まれ口を叩くなら、らしくない。
だけど、憎まれ口なんて叩く隙なんてこれっぽっちも無い位、本当に異様な程、その表情が似合っていて。
素直に綺麗で、可愛くて、愛おしいと思った。
間違いなく、見惚れてしまっていた。心を奪われていた。
頭の中も、心の中も。こなた色一色に染まっていく。
余計な事なんて、考えられなくなりそう。
彼女のさらさらで、綺麗な蒼色の髪。
碧色の、澄んだ瞳。
ほっそりとした手足。
私の好きなこなたの特徴がよく映えていて、目が釘付けになる。
胸の鼓動が止まらない。
私の感覚という感覚が、こなたへ向けられている。
「これからもいっぱい迷惑かけちゃうかもしれないけどさ…」
とくん…とくん…
こなたの透き通った声と、私の心臓の音しか聞こえない。
静まれ…じゃないと私、どうにかなっちゃいそう。
でも、それを望んでる私もきっといる。期待しているんだ。
小さく息を吸った彼女は、ゆっくり、優しく言葉を紡ぐ。
「これからも、傍にいさせてね」
風が舞った。再びこなたの綺麗な髪がさらさらと風になびいて。
どくん…!
心臓が一気に跳ね上がる。
音がうるさい。
こなたがまだ何か言っているけど、耳に入ってこない。
目を細めて、やんわりと微笑むあいつの姿が、突然目の前に舞い降りた天使と見紛う程に綺麗で、
どうしようもなく心惹かれて。
あれだけ我慢してきたのに、あんたはずるいわよ…
こんなにどきどきさせて。
もっと、好きにさせるなんて。
「…なんて、ごめん。らしくなかったよね~…って、かがみ?」
そもそも、何よその台詞は…
まるで、その…告白、されたみたいじゃないのよ。
だから、わかってても期待しちゃうって言うのよ。
苦しいじゃない…バカこなた…
「…て…。…い、かがみってば!」
間近で聞こえたこなたの大声に私はようやく我に返る。
いつの間に石段から降りてきたのか、目の前に、じっと私を覗き込むこなたの顔がある事に気付いて
「…えぇ!?ちょ…おま、近い!離れろっ!」
「えぇ!?そんな理不尽な!?」
急激に体温が上がるのを感じつつ、こなたを直視出来ずに、目を逸らしてしまった。
抗議の声が聞こえるけど、面と向かって話せない。だから、「うるっさい!」と一喝した。それしか出来なかった。
こんな時、不器用な自分の性格を恨みたくなる。よくよく考えてみれば、そりゃ理不尽なのは私なのだから、私が悪い。
しょんぼりしてしまったこなたに、さすがに罪悪感が強くなってきて、「ごめん、急に怒鳴ったりして」と手をかけようとすると。
私の手がこなたの肩に届く前に、にまっとしたこなたの顔が持ち上がって来た。
「ふふん、照れ隠しにツンな態度取っちゃうかがみ萌え♪」
「な…!?」
すっかり元に戻ったこなたは、悪戯が成功した子供の様に無邪気に笑う。
ちょっと安堵感。やっぱり、こなたはこっちの方がいい。あんな表情は、心臓に悪い。
「…何でそんな事がわかるのよ?」
「ん…だって、かがみの事だもん。わかるよ」
また、温かい雰囲気を纏う。
今日のこなたは、本当に心臓に悪い。
せっかく、今までずっと私の中にしまってきた気持ちなのに、我慢できなくなっちゃうよ…こなた。
そんな私の前に差し出される、小さな手。
「ほら、そろそろ行こうよ、かがみ」
よく見れば、いつぞやの昼休みのように、顔を桜色に染めているこなた。
何だ、こいつも何だかんだ言って、照れてるんじゃない…。
そう思うと、何だか可笑しくて、さっきまでの緊張もほぐれた。
さっきから湧き上がってくる感情も、今はきっと上手く抑えきれない。
それなら…少しだけ。ほんの少しだけ、勇気を出そう。
「仕方ないわね」
ぶっきらぼうに言い放ち、こなたの小さな手を握る。
そして、そのまま駆け出す私と、「おわぁ!?か、かがみっ!?」と、情けない声を出すこなた。
「走ると転ぶって言ったのかがみじゃん!?」なんて言っているけど、聞いてやらない、振り返らない。
きっと私の顔は、この夕日に照らされた街と同じように、一色に染まっているから。
恥ずかしい思いをさせた事への報復って言う建前と、私の中にあった「手を繋ぎたい」という本音。
その小さな手を差し伸べて、私に少しの勇気をくれた、大好きな人に感謝する。
しっかり握られた手からは、こなたの心の温もりが伝わってくるようで。
思わずぎゅっと握ってしまってから、しまったと思った。
でも、思いの外、こなたの方からもぎゅっと握り返してくれて。
それがどうしようもなく嬉しくて。
こなたも、嬉しいって思ってくれてるのかな?
うん…きっと、そうかな。
だって、ちらっと見たこなたの顔が、満更でもなさそうだったから。
人混みでいっぱいだった街から遠ざかり、静かな住宅街を駆け抜ける。
風が気持ちいい。
それでいて、心は大好きな人の温もりで満たされて。
私は現実主義者だ。
神様だとか、そういう類のものは信じてない。
でも…
もし、この世に神様が存在するというのなら。
どうか、この温かい時間が、もう少し続きますように。



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  • すばらしい文才と内容に心を打たれました(ノ△T)

    機会があれば、今回の内容を、こなた視点からも見てみたいですね☆ -- チハヤ (2009-03-01 14:49:36)
  • うーん、ナイスこなかが! -- 名無しさん (2009-02-26 22:54:59)


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