white chocolate (2)

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実は私、手紙を書いたんだ。

普段から思っていること、全部。

かがみに、伝えるために。

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white chocolate (2)
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信じられない。
信じたくない。

かがみはそんなことしない。
そう思っていたはずなのに。

かがみは、みさきちからチョコレートをもらっていた。

これは、つまり。

…わたしは、いらないんだ。

職員室で先生のお説教を終えた私は、かがみが行ったと思われる屋上に向かった。

屋上への、扉を開けた。

そこには、案の定、かがみがいて。
…なんで、かがみと一緒にみさきちがいるの?

かがみの手にあるものを見て、私は愕然として。
…なんで、かがみはみさきちからチョコレートを受け取っているの?

世界が音をたてずに崩れ落ちていった。
全てが夢現であるかのように。

かがみは、なんでここにいるの、なんて言った。
…私がいたら、まずいんだね。

世界が音をたてずに闇へと変わっていった。全てを飲み込むかのように。

かがみが私に駆け寄ろうとした。
来ないで欲しかった。
今のかがみは、まるで…私の知らないかがみであるかのように感じられて。

私はかがみに、私からのチョコレートを投げてしまった。
思わず、やってしまった。

気がつくと、走っていた。
走って、走って、走りまくった。
苦しいなんて、思う前に。
息をするのなんて、忘れていた。
喉から血が出たかもしれないし、お腹が痛くなっていたかもしれない。

でも、そんなことはどうでもよかった。
私は、ただ、走りたかった。

きっとそれは、かがみから逃げるために。かがみと目すらあわせられなかった。


どれくらい、走ったのかな。
気がつくと、足がこれ以上動かないと訴えていた。
気がついたときにはすでに遅く、私は跪いた。

途端に心臓の爆音が私を支配する。
頭がガンガンして、吐き気すらした。

体は悲鳴をあげていたけれど、それ以上に心が痛いことに気づいた。
視界はぼやけた。
淋しい雫が、頬をつたっていることに気付いた。

「…か…がみ……」

言葉にならない言霊を、私は吐き出した。

…それは、ずっとずっと呼びたかった名前だった。

朝、一時限が始まった時から、呼びたかった名前だったんだ。
好きで好きで、どうしようもないくらいに好きだから。
たくさんたくさん、呼びたい名前だったんだ。

だけど、呼ぶことができなかった。
かがみが、とたんに遠くへ行ってしまった、そんな気がして。

私は、かがみを、失った。


私は地面のコンクリートに手をついていた。
そこは、冷たさが支配していた。
ごつごつとした、固い地面。
ひびが少し、はいっていて。


少しの間、そうしていた。
あたりは人っ子一人いない道だった。
よかった。
こんな姿見られたら、変な目で見られちゃう。

私は立ち上がって、痛む脚を引きずって、家を目指して歩き出した。


呆然としてしまって。

こなたをすぐにでも追いたかった。
でも、体はなぜか動かなかった。

「…、柊…」

日下部が私を呼んだ。
我に帰る私。

日下部は、私の手にある日下部からの気持ちを取り上げた。

「…日下部…」

「…いいんだ。迷惑かけて、ごめんな…」

日下部は謝った。

「なんで、謝るのよ…日下部は別に、悪くなんてないのよ?」

「…ちびっこと柊を、傷つけた。わかってたんだよ。私がこんなことをしちゃ、まずいってこと。でも…わ、私だって…柊が…す、好きだ…から…」

日下部は、泣きながら。

「…私だって、幸せに…なりたかった…」

最後に、そう言った。

私は最低な奴だった。
日下部のことなんて、考えたことなかった。だけど、こんなにも苦しんでいたのに気付いてやれなかった。

気付いていたなら、今日、こんな形――日下部が泣くようなこと――にはならなかったかもしれないのに。

日下部をなだめようとした。
だけど、それは日下部によって止められた。

「…これ以上、優しく…しないで…」

…そう。
私には、日下部に優しくできない。

私には、こなたがいるから。

こなたと日下部、2人を傷つけてしまった。

「…日下部。私は…日下部からのそれは、やっぱり、受け取れない…」

私は、日下部には残酷な言葉を言わなければならなかった。
でもそれは、どう考えても、避けられないことで。

そう言うと、日下部は。

「…うん、知ってるから、大丈夫!」

笑顔で、言った。
切ない、笑顔だった。
今まで見たことのないくらい、切ない表情だった。

「早く…ちびっこ追いかけてあげろよなー?」

普段通りな口調だった。
でも、日下部の気持ちは、痛いほど滲んでいて。

私は、日下部に申し訳無い気持ちで一杯だった。

日下部は私に言った。

「ちびっこを、幸せにしてやってな…私のせいで、傷つけちゃったから。…約束、してくれないかな…」

…約束。
私が、こなたを幸せにすること。

「…うん。必ず、するよ…」

日下部と、約束した。

「…じゃあ、早く追いかけてあげて…?」

「…ごめんね…」

私はそう言うことしかできなくて。
最後に、

「…ありがとう…」

とだけ言って、屋上を後にした。

屋上から校内への扉を開けると、そこには峰岸がいて。

「…峰岸……私…」

「いいのよ、柊ちゃん。わかってる」

私は泣きたくなった。
でも、私は泣く資格なんてないんだ。

「日下部のとこに…行ってあげて」

「…うん」

私は峰岸にそうお願いして、走りだした。
こなたに、会うために。

階段を下る途中。
音はしなかったのだけれど。
確かに聞こえたんだ。
日下部の、泣き声が。

私は約束を果たさなければならない。


わたしは家に着くとすぐに部屋に入った。
入ったらすぐにベッドに倒れ込んだ。

布団の中で、声をあげずに泣いた。
涙が、止まらなかった。

今日は特別な日になるはずだったのに。
かがみを失ってしまった。

部屋に入って暫くして、お父さんが私を呼んだ。
私は誰にも会いたくなくて、無視をしてしまった。
ごめんなさい、お父さん。

何にもする気になれなかった。
何にも考える気にならなかった。

頭はぼんやりとしていて、体に力が入らなくて。

…眠い。

普段とは違った眠気が、私を襲った。

未来のない、眠気だった。

永久に寝てしまいそうな、曖昧な微睡み。

瞼は重く、私は知らない間に眠りについた。


いったい、どこにいっちゃったのよ。

学校のあたりを探し回ったけど、こなたはどこにもいなかった。

ただでさえ足の速いあいつが全力疾走すれば、追いつくことなんて無理だった。
捜し求めるのは、無謀だった。

だけど、日下部と約束したんだ。
こなたを幸せにするって。

それに。
恋人なら無謀とわかっていても、恋人の為にやらねばならない時がある。
自分の体力、知恵とかを、全てを費やしてやらねばならない時がある。

それは、きっと今なんだ。
今が、その時なんだ。

だから、探した。
探して探して、探し回った。

でも、どこにもいなくて。
こなたはもう、家に帰ったのかもしれない。

こなたの家まで行くのは、できなかった。
すぐにでも行きたかったけど、それは出来なかった。

私は携帯を取り出した。
勿論電話の相手はあいつ。

…でなかった。
そりゃそうか。私となんて、話したくないよね。

でも、もう一回かけた。
もしかしたら、出てくれるんじゃないかな…。
なんて、淡い希望を持ってみたけど…やっぱり、でなかった。
わかっていたけど、へこむ。

私は、メールを送ることにした。


まだ眠かったけれど、なぜか起きてしまって。
しばらく曖昧な境をさまよっていた。

ふと、携帯が私を呼んでいる気がした。
なぜだろう、そんな気がした。

携帯をみると、電話が2件、メールが4件入っていた。

…全部全部、かがみからだった。
メールは30分置きで、来ていた。全く気付かなかった。

メールを一つずつ、開けた。

1件目。『電話でたくないなら、それでいいよ。気にしないで。今、どこ?会って話がしたいんだ。』

話って…今日のこと、だよね?

2件目。『今、どこにいるの?会って、話がしたいよ。教えて、お願い。』

かがみは、一体どんな話がしたいの?

―――もしも、みさきちと付き合うなんて言い出したら―――

怖かった。
かがみの口からそんな言葉がでてくることが。

3件目。『お願い、返事をして。家にいるの?どこにいるの?お願い、教えて。こなたに、会いたいよ。』

私に、会いたい。
そう、書いてあった。

それは私を好きだから…?

…私も、かがみに、会いたかった。
3件、メールを見ただけだった。
かがみに会いたくて、仕方なかった。

4件目。『こなたにお願い。私と会いたくないのは、仕方ないと思う。私はこなたを傷付けた。本当に、ごめんね。私、こなたをいつもの公園で待ってる。ずっと、待ってるから。気が向いたら、来て。』

…え?待ってるからって…

最後のメールが来た時間は、6時半。
今の時間は…8時ちょっと過ぎ。

…2時間も、あった。

私は何も考えずに、起き上がった。
起き上がったかと思うと、部屋を出ていた。

私は自分で判断する前に、かがみの待つ場所へ向かっていた。

もしかしたら、もういないかもしれない。
仮にまだ待っていても、別れ話かもしれない。

でも、私はかがみと会わなければいけなかった。
別れ話だったら嫌だけど、私もかがみと会いたかった。

かがみのもとへ向かう理由なんて、それで充分だった。

居間に一回顔を出した。
ゆーちゃんとお父さんがいた。

「…こなた、心配したぞ…!」

「心配かけてごめんなさい。……私、ちょっと出かける」

そう言うと、わかっていたとも、とか変なことを言った。
…何がわかっていたのさ?相変わらず変なことを言うお父さん。

私は急いで、玄関に行った。

「こなたお姉ちゃん…」

玄関で腰掛けて靴を履いていた。
すると、後ろでゆーちゃんの声がした。
振り返ると、ゆーちゃんは心配そうな瞳で私を見ていた。

「…頑張ってね…」

ゆーちゃんは変わらない瞳で私を見て言った。

…こんなに心配、してくれてたんだね。
ありがとう、ゆーちゃん。

「…行ってくるね。」

私はそう言って家を飛び出した。

ゆーちゃんの後押しは、私の走るスピードを速くした。

脚がまだ痛んだけれど、私は無視して精一杯速く走り出した。

待ってて、かがみ…!





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