実った想い、叶わぬ気持ち

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 つかさのその一言は、私が知らなかったかがみの一面を垣間見る事になったのと同時に、私の中にあった『柊かがみ』という存在が、独り歩きを始めて、私の手の届かない所に行ってしまうという事を認識させるに十分な物であった。

「お姉ちゃんの初恋の相手はね、けんちゃんだったんだよ」


    「ふとしたことで~実った想い、叶わぬ気持ち~」


 10月に入って、茹だる様な暑さもようやく遠ざかり、ほんの少しの肌寒さを感じながらも、恐らくこの頃が最も過ごしやすい季節なのだろうと思いながら、私は変わらない日常を消化している。
 いや、変化はあったか。
 改編期だから、テレビ欄を見れば深夜アニメは軒並み『新』のマークが付いてるし、それを全てチェックして当たり外れを判断しなきゃならないから、私の夜更かしは半ば徹夜状態と化している。

 でも、それだけじゃないんだよね…。
 私の周囲で起きたもう一つの変化は――。

「おっす、かがみにつかさ。元気にしてたか?」
「あ、けんちゃん。お久しぶり~」
「久しぶりって、つかさ…。先週も会ったばかりじゃないの」
「え、そ、そうだったっけ?」
「ははは。まぁ、先週までは2、3日に一回ぐらいのペースで会ってたから、その基準で行けば久しぶりにはなるよな」
「……」

 もう一つの変化。それは、あの日に私とかがみが偶然出会った「けんた」という男の子が、私達の日常にちょくちょく顔を出すようになった事であった。
 そして、そのもう一つの変化が、私の憂鬱感を日に日に煽る結果に繋がっていた。

 彼らはあまりにも仲が良すぎるのだ。
 私が付け入る隙もないぐらいに。

 7年のブランクがあったとはいえ、元々10年以上の付き合いがあった彼に対して、私はわずか1年ちょっとの付き合いしかないのだから、端から見れば仕方の無い事なのかもしれない。
 だけど、彼と話をしている時のかがみの顔は、どう贔屓目に見ても私と話している時よりも良い顔をしている。
 私には、それがどうしても悔しくてならなかった。

§

 この数週間で色々と分かった事がある。
 私と彼は、意外と似ている部分が多いということ。
 …そして、そのどれをとっても、私は彼には敵わないということだ。

 まず、彼は私ほどではないとはいえ、私と同じような趣味をしている。つまり、オタクなのだ。
 最初に出会ったときの「百合」発言から、漠然と自分と同じ匂いがするとは思っていたけれど、まさか、かがみが趣味としてラノベを読むようになったのは、彼がそうした本を紹介したのがきっかけだったという事を知った時には、本当に驚きを隠せなかった。

 ゲームの腕前も相当な物だった。
 この間、私がかがみの家に遊びに来ていた時に、彼が突然訪問して来て、その時に私がやっていた格闘ゲームに興味を持った。
 私はここで彼を打ち負かしてかがみに良い所を見せようと、軽い気持ちで対戦しようと誘ったのだが、結果は私のストレート負け。
 涼しい顔で流れるようなコンボを私に叩き込む彼の姿を見て、かがみはおろか、こういうゲームに疎いつかさまでもが「けんちゃん凄いね~」という称賛の声を挙げたのだから、私はゲームだけじゃなく、リアルの方でも大きなダメージを受ける事になったのだった。

 ――そして、私が彼に対して敵わないと感じる最大の理由が、つかさがさりげなく私に教えてくれたあの一言だったのだ。

 基本ステータスからして相当な差が付けられている上に、こっちは同性同士という致命的なハンデ付き。
 これがゲームだったら、「それなんて無理ゲ?」の領域だ。
 既にこの時の私は、どうしてあの日にかがみをアキバに連れて行ったのだろうと深く後悔し始めていた。
 …でも、そう気づいた時にはもう手遅れだったんだよね…。

§

 その日の放課後、私達はいつものように四人揃って一緒に下校していた。
 いつもと違う点といえば、つかさが先程から分かりやすいぐらいにそわそわしている事ぐらいだろうか?

「どうかされましたか? つかささん。先程から妙に落ち着かないご様子ですが…?」

 さすがにつかさの異変に全員が気づいていたのだろう。先手を切って、みゆきさんがつかさに話しかける。

「えっ!? べ、別になんでもないよ~」

 口ではそう言っているけれど、みゆきさんに話しかけられた時のビクッとした様子からして、どう考えても普段通りのつかさには見えない。

「つかさ、どうしたのよ? さっきから本当にそわそわしたままだけど、何かあったの?」
「ほ、本当になんでもないんだって、お姉ちゃん」

 かがみに声をかけられたつかさは、みゆきさんの時よりも挙動不審な様子を見せていたが、本人が「なんでもない」と言っている以上、あまり過度の詮索は出来ない。
 結局、その時は三者三様に歯切れの悪い感覚だけが残る事になったのだけど、まもなくして、その理由を知る事になるのだった。

「かがみ」

 スクールバスを降り、今朝利用した、糟日部駅の西口に戻ってきた私達の前に現れたのは、あの“彼”だった。
 その身なりは、学校帰りのブレザー姿で、ヘルメットをもっている所を見ると、学校が終わってすぐに傍にあるバイクに跨って、大急ぎでここまでやって来たのだろう。

「あ、けんた。こんな所で会うなんて偶然じゃない」
「いや…。今日はかがみに話があって、ここまで来たんだ」
「えっ…?」

 周囲に妙な緊張感が走る。

「ここじゃ難だから、場所変えていいか?」
「…つかさと一緒に行けば良いの?」
「いや、二人きりで話がしたいんだ」
「……わかった。つかさ、悪いけど先に帰っててくれる?」
「うん。わかったよ」

 そうかがみに答えるつかさは、既に落ち着きを取り戻していた。
 私はというと、そんなやり取りを交わし、この近くにある複合施設のある方角へと歩いて行く二人を、黙って見送る事しか出来なかった。

§

「実は、2、3日前にけんちゃんから相談されたんだよ。お姉ちゃんの事が好きなんだけど、どうしたら良いと思うって」

 あの後、何となくこのまま解散するのが憚られた私達は、駅からすぐ近くのカフェに入って事の真相をつかさから聞く事になった。
 当のつかさはというと、既に二人の仲が上手く行くと確信でもしているのだろうか、安堵の表情が混じった満面の笑みを浮かべて、私達に説明をしている。

「告白のプランはね、駅の前でお姉ちゃんを待ってたらどう? って私が提案したのをけんちゃんが採用したんだよ~」
「まあ、そうだったんですか」
「…でも、いくら相手が初恋の相手だったからって、今のかがみがその告白を受けるかどうかなんて分かんないじゃん…」

 つかさもみゆきさんも微笑みあってる中で、自分自身に鏡を向ければ、きっと今の私はしかめっ面をした状態で喋っているに違いない。

「えっ? だ、大丈夫だよ! 妹の私から見ても、お姉ちゃんはまだけんちゃんの事が気になってる様子だったし…」

 私の空気の読めてなさそうな発言に対して、つかさは私に対して嫌な顔を見せるどころか、軽くうろたえた様子でそう返答してきた。
 …つかさに当たっても、仕方がないじゃん。私…。
 頭の中でそう必死に言い聞かせているのに、私の心は荒れに荒れていた。
 その時、携帯電話特有の軽快な着信メロディが鳴り響いた。
 つかさは咄嗟に自分の携帯を確認すると、「けんちゃんだ」と私達に伝えて、電話に出た。
 私の緊張が臨界点に近づく。

「もしもし、けんちゃん? …うん。……うん。…ホント!? 良かったぁ~。今、ひょっとしてお姉ちゃんが断ったりしたら、どうしようって不安になってた所だったの。うん。それでね――」

 ああ…。やっぱりそうなっちゃうのか…。
 まぁ、こればっかりは仕方が無いよね…。

 つかさの受け答えを聞いて、その結果が上手く行ったのだという事を認識した私は、自分自身でも不思議なぐらいその事実を淡々と受け入れていた。
 確かに、ショックではあった。
 でも、始めから叶わぬ恋だと自覚していたからだろうか、取り乱したり、嫉妬の炎に自分の身を焼き尽くされるような思いも感じる事無く、アクションゲームの強制スクロール面のように変わっていく様を、私はただ傍観者として眺めているだけであった。

 この時はまだ幸せだったのかもしれない。
 この時はまだ何も知らなかったから。
 自分の想い人が、誰かの腕の中にいるという現実がどんなに辛いものなのか。
 そして、自分の愛していた日常が、あんなに脆くて儚い物なのかという事も――。




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  • げん゛だぁぁぁぁおぁ -- 名無しさん (2010-09-02 02:41:04)


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