待ち時間のその後に

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『待ち時間のその後に』



「う~ん、楽しいデートだったね!」
「デートって言うより、オタクグッツ買い物ツアーって感じだったけどな。」

とあるデートの帰り道。そんな会話をしながら、私達はこなたの家へと向かっていた。
互いの片手には、こなたお手製の手編みの手袋。これがまたとっても暖かで、もうこれがないと外になんか出る気にならないくらいの代物となっている。
前の手袋は運悪くなくしてしまったけれど、これは絶対になくさないようにしないと!
さて、もう片方の手なのだけれど、こちらには手袋ははめていない。

だって、手を繋いでるから……こなたと。

言っておくが、決してこなたの手袋がいらないと言っているわけじゃない。
ただ、互いの手の温もりを感じるには、どうしてもそれは邪魔なわけで……
それに人前では、こなたも私もちゃんと両手につけるからやっぱり必要なのよ!
今はその……周りに誰もいなし、こなたもして欲しいっていうから……
って、一体誰に言い訳してるんだ?

「ねえ、かがみ。次もまたデートしようね。アキバで。」

そんな心の言い訳など露知らず、こなたが私のほうを見ながら言った。

「あのさぁ、いいかげんデートの時に秋葉原選ぶの止めない?」
「けどかがみだってものすごく楽しんでたじゃん?手に持ってるバックからちらりと見えるビニール袋の数々は、一体なんなのかな~?」

こなたはニヤニヤしながら、私のバックの中を覗き見ようと身を乗り出した。
私はとっさにバックを持った手を後ろに持っていく。

「前に出てくるな、転ぶぞ!あのねえ…残念だけど、中身はラノベよ。欲しかったラノベを買っただけだからね。」
「ふ~ん。それじゃあ、そういうことにしとこうかな。そうそう、かがみ。」
「なに?」
「『ガウ×宗』本をこっそり買ってたのは、私だけの秘密にしとくからね。」
「勝手に買ったことにするな~~!!」

そんなどうしようもない話(いつも通りではあるんだけど)をしながら、私達は歩いていく。
こんな風にしていると、この瞬間がまるで高校の帰り道のように思えてしまう。
卒業してから結構な月日が経つけれど、あの帰り道は、学校はどうなっているだろうか?
こなたの家についたらゆたかちゃんに聞いてみようかな。

「どうしたの?かがみ。着いたよ?」
「ああ…うん。」

考え事をしている内に、どうやらこなたの家に着いていたようだ。
こなたの手や手袋は非常に暖かいのだけれど、やっぱり外はちょっと寒い。
さっさと中に入りたいなーなんて思っていたのだけれど、こなたはドアの前で立ち止まったままだ。

「どうした?」
「ええっと……」

指で頬をかきながら、視線を逸らすこなた。
一体なんだというのだろう?なにか無くしたりしたのだろうか?

「……鍵が見つからなくてさ。だから…かがみが開けてくれない?」

こなたはそう言うと、ドアから一歩後ろに離れた。

他人の家の鍵なんか普通は持っていないだろう。だけど私は違う。私はこなたの家のかぎを持っている。
こなたの家の合鍵を、私はデートの前に手渡されていた。あの時の私の言葉を、こなたはしっかりと覚えていたわけだ。
私はポケットに入っているその鍵をそっと握りながらこなたを見つめた。鍵をなくしたのなら少しは焦るものだけど、こなたにはそんな焦りの表情なんかまったくない。
ねだるような、なにかを期待するような、そんな顔をしていた。

「……」

疑問に思いながらも無言でドアに近づき、合鍵を取り出した。
なぜだろう?ものすごく緊張する。こなたがじっと見ているのが分かる。そんなに見るな。恥ずかしいだろ。
私はゆっくりゆっくりと鍵を近づけていき、スッと鍵穴に差し込んだ。鍵はなんの引っかかりもせず入りきった。
合鍵なのだから当然といえば当然なんだけど。
そしてそのまま回すと、カチャッという音が辺りに響いた。

「ほら、開いたぞ~。」

私がドアを開けると、こなたはスッと家の中へと入っていった。私も遅れて中へと入ると、ドアを閉めて鍵をかけた。
この前のこなたみたいに、勝手に入ってくる人がいるかもしれないしね。
鍵をかけ振り返えると、こなたが私の方を見て立っていた。

「なによ?」

こなたは嬉しそうな顔をしながら、すぅっと息を吸い込んだ。

「おかえり、かがみ。」

ああ、これが言いたかったのか……
軽いため息と一緒に笑みもこぼれた。
私はこなたと同じように、すぅっと息を吸い込んだ。

「ただいま、こなた。」

これ以外の返事をするのはきっと無粋な事だろう。

――――――――


「はい、かがみ。紅茶だよ。」

こなたの部屋でくつろいでいた私の前のテーブルに、ティーカップとクッキーが置かれた。
あたりにダージリン特有の鈴蘭のような匂いが立ち込める。

「ありがとう、こなた。でもなあ…クッキーはなあ…」
「実はかがみん、またダイエット中だったり?」
「……実は昨日から始めてたりするのよね。」

私は恨めしそうに目の前のクッキーを見つめた。

「そっか、それじゃあいらないんだ。残念だな。そのクッキーも私が作ったのに……」
「前言撤回。美味しくいただくわ。」

最初からそういってくれればいいのに。まったく、こなたにも困ったものだ。
こなたが作ったんだったら食べるに決まってるじゃない。

「切り替えはやっ!けど、まあいいや。素直が一番だよ、かがみん。」
「……それじゃあ、遠慮なく。」

さっそくクッキーを一枚手にとって口に含む。クッキーはしっとりとした触感で、カントリーマアムような感じ。
もちろんこなたの作ったこっちの方が何倍もおいしいけど。
クッキーを食べたら水分が欲しくなる。私は目の前の紅茶を静かに啜った。
ダージリンの渋みがクッキーの甘みを洗い流していく。絶妙といっていいほどの組み合わせだった。

「うん、紅茶もクッキーも美味しいわ。」
「愛情こめて入れたし作ったからね。当然だよ。」

私が感想を言うのを見届けると、こなたはパソコンの方へと向かった。

「一緒に食べないの?」
「食べるよ。けどちょっと露天の状況をチェックするからさ。その間に全部食べちゃ駄目だよ。」
「食べないわよ!っていうか、またネトゲーか?」

こなたの趣味は十分理解しているけれど、本音を言えば私といるときぐらいは止めてもらいたいんだけどな。

「かがみも一緒にやろうよ。ほら、高校の時だって少しだけやったじゃん!」
「やらない。大体あれだって、何時になったらあのジョブ増えるのよ?!私あれだけはずっと待ってるのに。」
「まあ、ネトゲーではよくある話だよね。永遠に未実装……」
「あってもらっちゃ困るって。というわけで、やらないからな。」

私はそこまで言うと、クッキーに手を伸ばした。うん…やっぱり美味しいわ、これ。

「うーん、かがみなら絶対ネトゲーにハマると思うんだけどな。声的に考えて。」
「はあ?!何よそれ?!いくらなんでも、声でハマるハマらないを決められちゃたまんないわよ!」

今度は思いっきり紅茶を啜った。うん、やっぱり紅茶とクッキーの組み合わせがいいわね。

「なんとなくだよ、なんとなく。もう、そんなに怒らないでよ。」

こなたはパソコンの前に座ると、キーボードをカチャカチャと動かし始めた。

「……」

こなたがゲームをし始めると、途端にやることがなくなった。手持ち無沙汰になった私は何か暇つぶしになるものはないかとあたりを見渡した。
すると目に付いた本が一冊。手にとって見てみると、どうやら編み物の本らしい。きっとこなたが手袋を編む際に買ったのだろう。
開いて中を読んでみると。手袋だけでなくセーターやマフラーなんかの編み方も書いてあった。

「ねえ、こなたー。」
「なーに?」

こなたは私の方に振り向かない。私は構わず続けた。

「今度はさ、マフラーとかセーターとか編んでよ。」
「えー?!そこまでやったらバカップルぽいよ。手袋ぐらいで十分だって。」

そこまで露骨に嫌がられるとちょっと腹が立つ。よし、絶対に作らせてやる!

「欲しいんだけどなー。こなたの手作りマフラーとセーター。」
「……」

こなたの頭のアンテナがピクッと動いた。よし、効いてる効いてる。

「お礼もしちゃうわよー。手袋のときよりすごいやつ。」
「……」

今度はピクピクッと二回。
……駄目だ。笑いがこみ上げてきて止まらない。えっと、もう一押しっていったところかなー?

「こなたの大好きな私がこんなにも頼んでるのに、こなたは作ってくれないんだー。」
「……分かったよ。それじゃあ、今度サイズ測らせて。」

よし、落ちた!
なんだか、だんだんこなたの扱い方が分かってきた気がするわ。

「それじゃあ、よろしくね。すっごい楽しみにしてるから。」
「別にいいけどさ。かがみってさ、最近なんだかずるくなったよね。」
「なんのことかしら?」

こなたの言葉を気にもせず、私は本を最初から読み直した。
せっかく作ってくれるんだから、ちゃんとリクエストも用意しておかないと。
……マフラーだったら、ちょっと長めにして一緒に巻くのが恋人同士っぽいわよね。
うん、マフラーはそれで決定と。セーターはどうしようかな?やっぱりペアルック?
でもそれだと本当にバカップルみたいだし……いやまて、この時期はコートを羽織るから別にそれでも構わないのか……
うん、両方ともベタだけどこれがいいかな。
サイズを測る時にはこなたのサイズも測るとしよう……私が。

……サイズと言えばこなたに聞きたいことがあったんだっけ?

「そう言えばサイズで思い出したんだけどさ。」
「次はなに?」

ぶっきらぼうな返事をこなたは返した。うーん、いけない。からかいすぎたか?

「こなたが作ってくれた手袋さ、サイズがぴったりだったじゃない。どうやってサイズとか計ったのかなって。」
「ん~、適当にこれくらいかなって思って決めたけど?」
「マジで?!それにしては、よくもまあこんなにピッタリに作れたものね。」

驚きだった。誰かの手(つかさとかみゆきとか)を参考にしたなら、これだけちゃんと作れるのはわかるんだけど。
まさか適当に作ってたとは……

「ふっふっふ。かがみのことなら誰よりも知ってるからね。自分を信じたまでだよ。」
「自信満々だな。これでサイズが違ったらどうするつもりだったのよ?」

いや、まったく、本当に。

「うん、だからほんの少しだけ怖かった。」
「こなた?」

雰囲気が変わった。こなたの話し方はまったく変わらないのに、その部屋に流れる空気だけがはっきりと変化した。

「自分を信じる気持ちの方が強かったけど、やっぱりちょっとだけ不安だったんだ。
 私の思っているかがみの手の大きさと、実際のかがみの手の大きさは違うんじゃないかって。
 だからね…かがみに実際につけてもらってそれがピッタリだったとき、すごく……すごく嬉しかったよ。」
「……」

こなたの独白に私は何も言う事ができなかった。ただただ聞くことしか出来なかった。

「ねえ、かがみ。これからは言う事は後で全部忘れて欲しいんだけどさ。」

そんなこと言われて、忘れられるやつなんかいるものか。
きっとこなたは私に聞いてもらいたいんだろう。勝手な私の解釈かな?どうなんだろう?よく分からない。

「私ね、かがみに『しばらく家に来るな』って言われた時、すごくショックだったんだ。
 もしかがみと別れることになったら、なんてことも考えちゃった。
 手袋を編もうって思ったのも、それが私とかがみの絆になってくれればって思ったからなんだよ。
 もちろん、かがみんが手袋を無くしたって話から思いついたんだけどね。」

こなたの独白は続く。

「ねえ、かがみ。私はかがみのことを一番よく知ってると思う。みゆきさんより、つかさより、かがみの両親より知ってると思う。
 だけど、それでも今回みたいに不安に思うことがあるんだよ。私の思っているかがみは私の考えているかがみとは違うんじゃないかって。
 まあ、現実に違うんだけどね。」

こなたはパソコンの方を向いたままだ。だからこなたが今どんな表情をしてるのか、私には分からない。
私は……すごく苦しい。ただ聞いてるだけなのに、ものすごく泣きたくなるよ、こなた。

「やっぱり変だし、私らしくないね。約束だから忘れてよ。」

忘れられるわけ無かった。

「こなた……ちょっと、こっち着なさいよ。」
「まだ露天の確認が終わってないよ。」
「うそつき!来ないならこっちから行くわよ。」

そこまで言ってようやくこなたはパソコンの前から、私の隣に座ってくれた。

「もっと近くにきて。」
「……」

こなたは何も言わずに、ほんの少し私の傍に近寄った。

「もっとよ。」
「……」
「もっと。」
「……」

私の『もっと』の声に合わせて、少し……また少しと私達はその距離を縮めた。
そして、もうこれ以上近づきようがないという距離になる。

「もっと。」
「ねえ、かがっ―――――?!」

その距離で、私は思いっきりこなたを抱き寄せた。
抱きしめるとき何時も感じるのだけど、こなたはいつも思っている以上に小さい。そして儚い。
そして今はその感覚が何時も以上に思えた。

「かがみ…」
「どう?」
「どうって?」
「安心……する?」
「……」

一瞬、辺りが静かになった。

「うん、すごく温かくて気持ちよくて嬉しくて……安心する。」
「私もよ。…ねえ、こなた。私達は普通じゃないわ。」
「うん。」

そう、私達は世間一般で言うところの普通ではない。
それは私達、それに私達の周りがこの関係を認めていてくれたとしても…だ。

「だからね、ちょっとしたことで不安になるのは仕方の無い事だと思うの。
 私だってこなたがちょっと家にこないだけで、こなたが私のこと嫌いになったのかと思ったし。」
「そうなの?」
「そうよ。あんただって見てたし、声真似だってしてくれたじゃない。『もしかして……私に飽きた?私のこと、嫌いになった?!』だったけ?」

自分で自分の言葉を真似るのはなんだか変な気分だった。でも、構わず続ける。

「でもね、そうやって不安になるんだったら、こうして安心すればいいと思うのよ。
 こうやって一緒にいると、不安なんてどうでもよくなっちゃうし、なくなっちゃうでしょ?」
「そうだね…かがみの言うとおりだよ。今は不安なんて無い。」

こなたはそう言うと、ギュッと私を抱きしめ返した。

「キスでもしてあげようか?」
「……今日はいいや。その代わり……私がいいって言うまで抱きしめて。」
「はいはい。」

ああ、それにしても……

こなたを抱きしめながら私は思う。
もしこの一連の話を誰かに話したとしたなら(例えばつかさとかみゆきとか)、一体どんな反応が返ってくるのだろう?
私はこなたと二週間ばかり会えなかっただけ、こなたは私にちょっとうちに来るなと言われただけ。
たったそれだけの事なのに、なんでこんな大事になってるんだこのこのバカップルは……とでも思われるのだろうか?
でも、私もこのことは誰にも話す気はないし、こなただって話すことは無いだろう。
したがって私たちはバカップルなんかでは決して無いのだ。…うん、そうなのだ。
って、この状況で何考えてるんだろう?

「かがみ、何笑ってるの?」

腕の中のこなたが私を見上げる。ああ、私笑ってたんだ。

「別になんでもないわよ。」
「―――――?」

不思議そうに顔を首をかしげるこなたに対して、知らなくていいことだからと、私は心の中で弁明した。


さて、私の他愛の無い一言から始まったこの話もこれでお終い。


だとするならば……


「ねえ?こなた。」
「なに?かがみ。」



私達らしく、この言葉で幕を下ろすのが相応しいだろう。



「こなた…好きよ、大好き。」

「うん、私もかがみが大好きだよ。」




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  • ニヤニヤが止まらない -- 名無しさん (2010-04-03 00:52:47)
  • ヤベ~読んでてニヤついてる口からヨダレが・・・食べ物もこな×かがも甘いのは大好きだ!! -- kk (2009-02-13 21:14:02)
  • こな×かがはバカップルぐらいが
    ちょうどいいんですよね。
    甘〜い作品御馳走様でした! -- 無垢無垢 (2009-02-13 17:42:19)
  • うん、アールグレイのストレートティーかモカのブラックでも飲んで来ます。
    しんみり、でも甘甘な二人を見てるときはそう言う方が似合うしね。
    あと、どう見ても十二分にバカップルです。ありが(ry -- こなかがは正義ッ! (2009-02-13 02:55:51)
  • 甘いなぁ 素晴らしいです GJ!! -- 名無しさん (2009-02-13 01:55:49)


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