真実の心を(H4-53氏ver)

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刺すように冷たい空気が指先を痺れさせる。冷水にひたされているような寒さに体をぎゅっと固くしながら、こなたはその指先に白く熱い息を吐きかけた。震えるような年明けの寒さの中で、不意に弾むように元気な、聞きなれた声が聞こえてきた。
「こーなた!」
急に視界に長く美しい髪が見えて、こなたが立ち止まると、親友はこなたの冷たく小さい手をぎゅっと握る、彼女の手は暖かかった。
「おはよ!今日もかわいいね!」
そう言ってくすりと笑う親友・・・柊かがみは魅力的で、こなたがその積極的な可憐さに面食らっていると、白い息を吐きながら、彼女はこなたをぎゅっと抱きしめた。
「ちょ?!かがみ!?」
「あったかいよ、こなた」
そう言うかがみの声が妙に湿って、艶っぽく聞こえたのでこなたはどぎまぎしてしまう。彼女は往来の真ん中でこなたを抱きしめたまま、離す気配がない。そして、かがみからはまるで花のようにいい匂いがした。
「か、かがみ、初詣遅れちゃうよ」
「今更じゃない。もう随分遅れているもの」
 確かに、1月1日に目が覚めたかがみは、その後の経過などの観察もあり、今はもう三が日が過ぎてしまっている。冬休みは続いているが、それも終わりに向かっていた。
「それに、私の家が神社だし、初詣しなくても神様は許してくれるわ」
「つ、つかさやみゆきも待ってるよ」
「そうね・・・」
 この説得で、かがみはようやくこなたから体を離し、しかし今度は手を繋いできた。ただ、そのつなぎ方というのが、いわゆる恋人繋ぎという奴で、こなたはどうしようもなくうろたえてしまう。何この積極性!?ギャンブルをやる時のカイジ並に積極的だよ!
 そしてかがみは、雪や寒さも一瞬で溶かしてしまうような微笑を浮かべて言うのだ。
「でも今度は、二人きりでどこかに行こうね」
 こなたはその笑顔にくらりと来て、手を振り解く事ができずに待ち合わせ場所に向かうのだった。


    ・・・・・・・・・・・


 という訳で、手を繋いだまま、つかさやみゆきとの待ち合わせ場所についたので、二人からは奇異の視線を向けられざるを得なかった。
「うわー、お姉ちゃん、こなちゃん、仲いいね」
「あらあら」
 こなたは恥ずかしくなって身が縮まるような思いだったが、何故かかがみは堂々としていて、ことさら見せ付けるようにこなたを抱きしめるのだった。
「うん、仲いいよ。こなたと私だもん」
「い、意味わかんないよかがみ・・・」
 そう、事故から意識を取り戻してからというもの、かがみは異様に積極的で・・・特に何故かこなたに対して積極的で、こなたは色々と平常でいられないような気持ちなのだった。
 このままだと、友達、というラインを超えてしまいそうで・・・少なくても、かがみのこの態度は、友達のレベルを超えている気がする。
「こ~なた」
 そう言ってかがみがいきなりこなたに頬擦りして、こなたはどうしていいか分からず固まってしまう。そういえば、お父さんがこんな感じによくベタベタしてくるのを思い出した。
「ちょ、かがみ、恥ずかしいって」
「そう?じゃあ、二人きりの時にね」
 そんな事を平気で言う。
 二人きりになった事はまだ余りないが・・・自分がその時に平常な気持ちでいられるのか、こなたには自信がなかった。
 なにより恐ろしいのは・・・この状況をどこかでうれしいと思っている自分自身だった。
「え、えーと、それじゃ、お参りに行こっか」
 つかさが無理して仕切ってくれる。それで四人は神社に向けて歩き始め、三が日が過ぎた神社には、それでもまだまだ人がいて、女の子二人が手を繋いでいるのを変に思われないか、こなたはそればかり気にかかった。
「そう言えばねー、神社で鈴をがらんがらーんってやるの、癖になるよねー」
とつかさが無邪気に言って、みゆきさんが微笑んだ。
「よくお子さんなんかが何度も鳴らしていますね。あれは神様を呼ぶために鳴らしているんですよ。日本書記にも、天皇に到着を知らせるために鈴を鳴らすという記述があるくらいですし・・・」
 こなたはみゆきの言葉に頷きながら言った。
「ふむ、それだと、何度も何度も鈴をがらんがらん鳴らすのは、神様の家の呼び鈴を連打するようなものなんだね。つかさ、巫女なのに神様にピンポンダッシュとは、やるね!」
「ピンポンはしたけど、ダッシュはしてないよ~~!」
「つかさ、大きくなってからも、鈴を鳴らすのやってたからなあ・・・」
「え、え、そうだっけ、あはは・・・」
かがみのつかさに対する態度は、いつものお姉ちゃん然として見える。なぜ、自分にだけこんなしっかり手を繋いで・・・かがみの手は柔らかく、暖かくて、離したくなくなるような・・・いやいや、いかん、流されつつあるぞ、何かこの状況はおかしいんだから、しっかりしないと。

 ともあれ、四人は拝殿にたどり着き、思い思いに願い事をした。
「お姉ちゃん、何をお願いした?私は、みんなが健康でありますように、ってしたよ」
 姉の事故の影響で、とりわけ皆の健康を願うようになったのだが、つかさは自分ではその事に気づいていない。

「私はね、こなたとずっと一緒にいられますように、ってお願いしたよ」

 全員が一瞬固まった。確かにリアクションに困る返答だ。
「本当に、かがみさんはこなたさんの事が好きなんですね」
「うん」
 いや、素直に頷かないでよ!?
 どうしていいか分からなくなるじゃん!?
「い、いや、かがみん、どうしたの?」
「何が?」
 何がって・・・聞き返されると返答しづいらいんだけど・・・
「その、何というか、私に妙に、ベタベタしてない?」
 こなたがそう言うと、かがみが傷ついた顔をして、崩れそうなものにそっと触れるように尋ねた。
「迷惑・・・だった?」
「そんな筈ないよ!」
 想像以上に強い勢いで答えてしまった事にこなたは気づいたが、あんな悲しそうな顔をしたかがみに、迷惑だなんて言える訳がない。
 しかもかがみは。
「良かった」
 なんて、これ以上ないくらいの笑顔で、何の留保も躊躇もない安心の表情を見せるのだから・・・。
 こなたは平常ではいられない。
「あ、つかささん、あっちでおみくじがありますから行きましょう・・・できるだけ急いで!」
「え、あ、なに!?みきちゃん待ってよー!」
 何故か二人がバタバタとおみくじの方へ行ってしまったので・・・っていうかみゆきさん、変な気の使い方をしたよね!?今!?
 かがみはかがみで、少し困ったような微笑を浮かべて
「二人で、どっか抜けちゃおっか?」
 とか言って来て・・・合コンみたいになってる!?
「か、かがみ・・・なんか、事故に逢ってから、おかしいよ」
「こなたはでも、迷惑じゃないんでしょ?」
「え、あ、まあ、そうなんだけど・・・」
かがみがくすくす笑う。
「もう、まるでこなたがツンデレみたいね」
「べ、別にツンツンしてないし」
「ほら、それがツン」
そう言ってかがみはこなたの手を引き、神社の森の方へ入っていく。
「ちょ、かがみ、どこ行くのさ?!」
「デレも見せてもらおっかなー、って思って」

こなたは自分の心臓が飛び出しそうなほど、バクバク言っているのに気づいた。人気のないところで、積極的なかがみと二人きり、そしてかがみの台詞は、二人の関係を決定的に変えそうな何かをしようとしている事を暗示している。
「か、かがみ・・・」
「なあに、こなた?」
緊張で息が荒くなっている自分にこなたは気づく。自分たちは、今から何をしようとしているのか。
「こんな、森の奥に勝手に入るとか、だめだよ」
「でも、逃げようとはしないのね」
確かに、こなたはもうかがみに抵抗する気がない自分に気づいた。むしろ、これから起きる事を期待している自分しか見出せない。
 かがみが立ち止まった。
「かがみ・・・」
人気のない朝の神社の森の中の、澄んだ美しい空気が肺に満ちる、足元の落ち葉の絨毯が、かすかな湿り気を帯びて光っている。立ち並ぶ冬の木々は、厳しくひび割れた肌を晒しながら、まっすぐに空に向かって伸びて、二人の姿を外の世界から隠してくれていた。
 やがてかがみはゆっくりと柔らかな落ち葉の上に膝をつき、目を閉じた。その姿はまるで祈るようで、美しく長いかがみの二房の髪が朝の木漏れ日の中で光って揺れている。規則正しく動くかがみの胸の小さな動きと、かすかな息の音、閉じられた目から覗く長い睫、そのすべてがこなたの心臓を掴んで離さなかった。やがてかがみは熱く期待に湿った声で、その名を呼ぶ。
「こなた・・・」
 こなたは眩暈がするような酩酊感の中へ落ち込んでいき、目を瞑ったかがみの、柔らかい桃色の唇から目が離せなくなっていく。まるで頭の中が燃えているように、ひとつの熱情に憑かれて何も考えられなかった。

──かがみと、キスしたい

 吸い寄せられるようにかがみに近づくこなたに、しかし一つの記憶が浮かび上がり、その足を止めさせた。それは医者が言った以下のような言葉だった。

(頭部に受けたショックのせいで、暫くは精神が安定しないかも知れませんが、ご家族でゆっくり支えてあげてください。そうすれば必ず回復します)

 かがみは、ただ何らかの・・・脳が受けたショックのせいでこうなっているだけで・・・それに付け込んでキスをして・・・本当にいいのだろうか。
 また、医者はこうも言っていた。

(昔は、同じ衝撃を頭部に与えれば治るなどと野蛮な民間療法もありましてね。まあ、それで治った事例も多いんですが、現在ではそんな野蛮なやり方はとてもとても・・・ゆっくり、経過を見守って下さい)

 今思えば、あれは家族を煽っていたのではないのか。医者という立場上、そのような治療法はできないが、急いで直したければ殴れ、と・・・。

 ひざまづくかがみの姿はまるで殉教者のように神々しく、美しく、聖女のように見え、やがて一筋の木漏れ日がかがみに向かって差し込んで、まるで一幅の絵画のように、かがみの美しさを際限なく際立たせた。
 それは触れば穢れてしまうように感じるほどに綺麗で、かえってこなたを怖気づかせ、こなたはさっきまでは視界に入っても気づかなかった、一冊の雑誌の存在に気づいた。
「コンプエース・・・」
 誰かが森に捨てていったのであろうそれをこなたは手に取る。脳裏には医者の言葉があった。

(同じ衝撃を頭部に与えれば・・・)

 目を瞑っているかがみ。

(治る)

 かがみ・・・・!!

 積極的に自分を好いてくれた、事故のあとのかがみとの時間が脳裏をよぎり、こなたは涙が出そうになるのをこらえた。
 でもあれは、本当のかがみじゃないんでしょ・・・?
 私は、私は、かがみの事がすきだけど・・・


 本当のかがみじゃないと意味がないんだよ・・・!!!


 かわいそうだけど・・・直撃させる・・・!

 こなたはコンプエースを振りかぶり、渾身の力を込めて振り下ろそうとした。その目に一瞬、ただこなたを信じて待つかがみの姿が映る。まるで疑いを持たない、赤子のように無垢な信頼、こなたは・・・

 ・・・コンプエースを取り落として泣き崩れた。


 できない!私には、かがみを殴るなんてできないよ・・・!
 こなたは自分の弱さ、愚かさ、身勝手さに泣いた。自分の弱さのために、私はかがみを元に戻してあげることさえできない・・・!

 両手を落ち葉につけ、自分の涙が落ちるのを見ながら動けないこなたに、かがみの声が聞こえた。

「こなた、私ね、事故にあって思ったの」

 かがみの声は、冬の朝の森の中で凛として響いた。

「私たちの命は、永遠じゃない。明日にだって死んじゃうかも知れない。だから、好きな人には、好きだって言おうって」

「かがみ・・・」
「こなた・・・こなたは私が事故にあう前に聞いたこと、忘れてると思ってる?」
「え?!」
「こなた言ったよね、私の事がすきだって。私と付き合いたいって」
「え!?え!?」
「いま、その返事をするわ」


地面に膝をついているこなたに影がかかり、こなたはその影の主を見あげた。木漏れ日を背に凛と立つ愛する人は、こなたの両脇に手を入れてたたせると、息がかかるほどに近い距離で、その柔らかな唇を震わせ、確かに言ったのだ。


「私も、こなたの事が好き・・・愛してる」


そして言うが早いか、彼女はこなたの口を塞いだのだ。もっとも、愛の伝わる方法で・・・。
二人は木漏れ日の差す冬の森の中で静かに抱き合い、長く長くじっとしていた。互いの愛情が互いの体に十分に染み渡るのを待つみたいに・・・。

やがて静かに体を離した二人は、それでも抱き合ったまま、あふれ出した思いをもてあますように見つめあい、こなたは泣きながら、声にならない声で言う。
「わ、私は、かがみが事故のせいで、変になっちゃったんだって・・・」
「人を変な人みたいに言うな」
「だって、だって・・・」
「死にそうな目にあったんだもん。色々、思うところがあって・・・でもそのせいで、戸惑わせたみたいね」
 かがみは長い長い夢の中で、二人が小さな狐とウサギになって、じゃれあいながら暮らしているのを見た。かがみは狐をこなたん、と呼び、目が覚めた時に真っ先に映ったのがこなただったせいで、夢の続きで自分は無邪気で寂しがりやなウサギのままに思えて、実際にそのように振舞ってしまったのだった。
 そして限りなく素直な、兎としての自分、夢の中での自分を目覚めてからも引きずっていた。だって、素直に互いを好き合っているその夢は、幸福すぎたから・・・。
「どうなの、今でも、私のこと・・・」
「好きだよ!好きに決まってるじゃん!私も愛してる、かがみのこと、愛してるよ・・・!!」
 そう言ってなきじゃくるこなたを、かがみは長く長く抱きしめていた。



 ・・・・・・・・・・



「こら!こなた!」
新学期の教室で、やっぱり毎度のように宿題を忘れるこなたをかがみは叱り付けた。
「いやー、かがみん、ついつい、ネトゲを優先しちゃうのはデフォだよ。それに、私たちは明日にも死ぬかもしれないから、やりたいことをやらなきゃ駄目なんだよ!」
「言い訳に使うな!!」
すぱーん、と突っ込みがさえわたるいつもの光景。
みゆきやつかさも、それを微笑みながら見守っている。
でもいつもと少しだけ違うのは、こなたとかがみの表情が柔らかいこと、それと。
「もう、私は心配して言ってるのに」
という、素直なかがみの言葉。それとそれと。
「大丈夫、宿題やらなくても死なない。それに、かがみがいる!」
「見せてもらうのを前提にするな!!」
「だって、かがみに甘えたいんだもん」
という、率直なこなたの言葉。かがみは顔を赤くして、つかさとみゆきは生暖かく見守っている。
「うわー、なんかお姉ちゃんとこなちゃん・・・」
「そっとしておきましょうね、つかささん。本人たちは自分たちの変化に余り気づいてないようですし・・・余計なことをすると馬に蹴られるという格言もあります」
「えー、馬怖いよぅ・・・鹿でもあんなに怖かったのに・・・」
つかさの様子にみゆきはくすりと笑い、こなたとかがみの方を見る。
「かがみん!」
「もう、こなたったら・・・」
こなたとかがみは二人で過ごす今の時間の大切さを知っている。

人間は時に自分を偽り、素直になれず、嘘をつき、そのようにして生きていくだろう。この世界には余りにも欺瞞が多く、やがて人は偽りを偽りと思わず、すべての嘘が必要に思え、なにもかもを正当化しながら、自分さえ含むあらゆるものを誤魔化して生きていくのかも知れない。
人生の貴重な時間の多くがそんな回り道で埋め尽くされ、しかしそれでも、人々は心の奥底で、本当に大切なものを知っている。

こなたはかがみの、かがみはこなたの、本当に大事なものを受け取った。
人生で滅多に得ることの出来ない、本当に大切なものを。
だからいつか世界が終わる時が来ても、きっと私たちはその時を笑顔で迎えるだろう。この世界も、悪くなかったよ、って。

かがみが、周りに見えないように、そっとこなたの手を握った。
こなたはその手を、強く強く握り返す。
伝わってくる、本当に大切なもの。
これからもずっと、二人はそれを守り続け、愛し続け生きていくだろう。二人だけの──


──真実の心を


               了


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コメント:
  • 良かった -- かがみんラブ (2012-09-24 05:20:34)
  • 雰囲気がイイ!! -- 名無しさん (2010-08-03 18:38:15)
  • 最高ですよー! これからも頑張ってください★ -- 紗璃 (2009-04-18 01:17:53)
  • 静かで綺麗な描写ですね。
    森の景色が浮かぶ中、かがみがその中心にいるかような神秘的な雰囲気でした。
    続きを書いてくれてありがとう! -- H1-52 (2009-02-07 22:50:43)


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