真実の心を(前編)

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雪が降っていた。

ひらひら、ひらひらと。終わる事なく。
街は白く覆われ、一面の銀世界がどこまでも続いている。
人々は手を握り合い、あるいは幸せそうに寄り添う。
そう、大切な人と。2人で…


 ‐『真実の心を』‐


何事にも例外はある。
たとえば手を握り合うパートナーがいなければ、今日という日はただの厄日でしかない。
そんな者同士が集まってこの一日をやり過ごすのも、また恒例といえよう。

「かがみー!この服どう?」
「うわ、あんたらしくないわよ…それ」

深みのある黒っぽい服でキメてみたのだが、彼女の評価は芳しくない。
代わりに差し出された服は、いかにも子供っぽい幼稚な服だった。

「あんたにはこういう服が似合うわよ?」
「……かがみ、もしかして私のこと馬鹿にしてる?」

満面の笑顔を見る限り、彼女はたぶん大マジ。
私は逃げるように試着コーナーから遠ざかる。

「へへーん、そんな変な服着ないよーだ」



世の中ではキリストの誕生日というのはよほど大事な日らしい。
私は聖書でしかその人の事を知らない。
なんでも怪しげな神話を語って宗教を作ったとか。
…私の解釈はかなり適当だろう。
みゆきさんに聞けばもっと色々と詳しく教えてくれるかもしれない。

「こなたぁ!ちょっと待ちなさいよ」
「かがみ遅いよ~、もっと早く~!」

その偉い人は奇跡を起こして信頼を得たという。
私には関係ないけどね。

「ほら、ここだよ」
「わあ…すごい景色ね」

街の灯りが宝石のように散らばっていた。
雪が降っていたから、いつもよりずっと綺麗だった。

「こなた、こんな良い所よく見つけたわね」
「ふふーん、私にだって絶景ポイントの一つや二つぐらい知っているんだよ」

いつも秋葉原でアニメ商品ばかりを見ているわけではない。
大事な事を言うには、それ相応の場所がいる。

「…で、話って?」
「うん、あのね…」

‥私が欲しいのは奇跡でもなんでもない。
ただ、彼女の優しい笑顔。
今から口にする言葉は、私にその顔を永遠に見せなくなるかもしれない。
…いや、それだけはない。彼女と私の仲で、それだけは起こり得ない。

だから大丈夫。最悪、少し泣いて終わるだけだ。
だから大丈夫…

「私は…かがみの事が好きです!」

願わずには、いられない。
私が欲しいのは、ただ彼女の笑顔。
この言葉を言い終わっても、その優しい笑顔を私に向けていてくれたなら――……

「私は、ずっとかがみの事が好きだった。
 私達が、女の子同士だって事も解ってる。
 だけど、それでも・・・・ 私はかがみの事が好きだから‥」

声が震える。
頑張れ、私。
あと、もう少し‥。

「だから…私と付き合ってくださいっ!!」

…言えた。最後まで、言い切った。
あとは…かがみの返事を待つだけ。


時が止まる。判決の時。
どうか私に、その笑顔を……

「こなた…」

彼女の声が聞こえる。
ぎゅっ、と歯を食いしばる。
どんな未来が待っていようとも……



「…!こなた、危ないッ!!」

―――ガシャリ....




‥変な、音が聞こえた。

気が付くと、私は倒れていて…
かがみは…かがみは・・・


「かがみぃーーー!!」



血を流していて、意識が無かった…


‐‐‐‐‐‐‐


「頭部に甚大なダメージを負っています。最悪、このまま意識が戻らない可能性も…」

医者の話はどこか架空の物語に思えた。
なぜ?かがみが?

「お姉ちゃあああん…!!」

つかさが、隣で大声で泣き出している。
私は、茫然としたまま立ち尽くしている。

なぜ…?



あの時、かがみは私の名前を叫んでいた。
危ない、と。
そして私は、突き飛ばされたように倒れていた…。

気が付くと、かがみが意識を失っていて…………
血を、流していて…………



「うわああああああっ!!!!!!!!!」



私の、せいなんだ‥。
全部、私の……‥‥



‐‐‐‐‐‐‐


あれから、一週間が過ぎた。
世間では大晦日や正月などと騒がれ、慌ただしい。
私は、かがみの代わりに神社の巫女をやっていた。
つかさと、二人で…

「お姉ちゃんはね、此処でいつもお祈りしてたんだよ」
「…何を?」

敷地の奥にある社を見て、つかさが云う。

「みんなと、一緒のクラスになりたい…って」
「あはは…かがみらしいね」

寂しがりだから、一緒のクラスになりたいって…。
うさぎさんのように、そう思っていたんだろう。

「‥違うよ、こなちゃん」
「…つかさ?」

「お姉ちゃんはね、こなちゃんに逢いたくて同じクラスになりたいって言ってたの。
 こなちゃんが恋しくて、一緒のクラスになりたがっていたの」

「つかさ‥」


涙が、抑えられなかった。
かがみが、私に向けてくれる笑顔。
その笑顔を‥私は……

「つかさ…‥私、私は………!」
「こなちゃん、もういいから…」

「うわあああああっ!!!!!」


…かがみに、逢いたかった。
…どうしようもなく、切なくて・・・




泉さん…
泉さん、泉さん……っ!!


「新年、おめでとうございます、泉さん!」

あれ、みゆきさん…いつの間に?

「ほら、涙を拭いてください。
 せっかくの巫女さんが台無しですよ?」

彼女はハンカチを差し出してくれていた。
それを受け取って、目の周囲を拭く。

「…巫女服なんて、みゆきさんが着た方が絶対萌えると思うよ?」

…少しだけ、元気が出た。
こんな時、親友がいてくれて本当に良かったと思う。
みゆきさん、ありがとう‥。

「では…その巫女服を着せてもらいましょうかね」

‥はい?
微笑みながら、みゆきさんが意外な事を口にした。
    • みゆきさん、そんなキャラだったっけ?

「ところで泉さん‥かがみさんは、寂しがり屋さんですよね…?」

チラッと、不意に時計を見る彼女。
それに連られて、私も時計に目を向ける。
時刻は深夜。でも今日は真夜中でも電車が動いているだろう。

「‥新年の夜明けを、一人で迎えるのは物悲しいのではないでしょうか?」


…なるほど、言いたい事が分かった。
私は、本当に暖かい親友に囲まれていた。
私の代わりに、みゆきさんが巫女をやってくれるという事だろう。

「つかさ、みゆきさん……ありがとう‥」

本当に、ありがとう…。


‐‐‐‐‐‐

病院内は静寂に包まれていた。
電気が消えて、真っ暗な廊下が不気味に広がっている。
幽霊でも出そうな雰囲気…。

「かがみ、入るよ…」

病室の明かりも、また消えていた。
そのまま電気のスイッチも入れずに、彼女の傍に近付く。

「…HAPPY NEW YEAR、かがみん」

窓から零れる月明かりが彼女をうっすらと照らす。
静かに、ベッドに寝続ける彼女の姿。
まるで眠り姫みたいに…。

「ごめんね。全然、ハッピーなんかじゃないよね…」

あの時、私がもっと周囲に気を配っていれば…
あるいは、あんな場所で告白しようとしなければ…
彼女は、こんな事にはならなかったかもしれない。

「…ごめんね、かがみ」

手を取る。
優しい彼女の手を。
握り合う事の無かった、その手。

「…バカだよね、私なんか庇っちゃってさ」

その顔を、眠り続ける表情を見る。
あの時、もしあんな事にならなければ…私は告白の返事を聞けていたのかな。
かがみは、私の事を、どう思っていたのかな。

「…ねぇ、かがみ‥?」

この手を、握り合えていたのかな?
それとも…………


‐‐‐‐‐‐

朝日が差す。
真っ暗な空に、微かな光が地平線より照らし込む。
この新しい1年の、新たな幕開け。

「かがみ、明けましておめでとう…」

本当は、おめでとうかどうかはわからない。
辛いことや、悲しいことがいっぱい待っているかもしれない。
でも、私は……ずっと、かがみの傍に……


窓の外を見る。
光の走る景色を見つめる
そして誓う。

――かがみの事に何かあったら、その時は私も………



「‥‥‥こ、なた…?」

声が、聞こえた。
振り向くと、彼女が起きていた。
その青い瞳を、私に向けて開けていた。

「かがみ…?」

胸に来る何かを、必死に抑え込む…。
ゆっくりと、彼女に近づく。
それが現実である事を、恐る恐る確かめるように…。

「かがみ…」
「こなた…」


「‥かがみっ!」
「‥こなたぁ!!」

抱き合う二人。
良かった‥本当に、良かった……。
かがみが、意識を取り戻した!
かがみ‥私は…私は・・・・


「えへへ~こなたんだー♪」


…一瞬、幻聴が聞こえた気がするのは気のせいだろう。
うん、気のせい。
きっと何かの間違い…だよね?


「こなた~♪こなた~♪わーい!」


…気のせい、だと思いたい。


1月1日明朝、かがみが意識を取り戻す。
そして・・・頭のネジが一本ぶっ飛んでいた。


― To be continued ~





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