いふ☆すた EpisodeⅢ~堕ちる果実~

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私はただ…
彼女のそばにいたかった。

彼女の手をとることは出来ないけれど、
ただ、これからもずっと、
彼女の横を歩いていたかった。

その、たった一つの願いでも、
たったそれだけの願いでも、
現実はそれを許してはくれない。

それでもただ…!
どんな形でもいい…彼女のそばにいたかった。

大好きな、

「 こなた 「 かがみ 」 」

のそばで、ずっと…



「 いふ☆すた EpisodeⅢ~堕ちる果実~」



私が思い描いていた日常は、ひとつ、道を外れたかのように、
あの日の夕方から、すべてが変わった。

この変化を、望んで受け入れたのは、私。
私はもう、望まざるを得ないところまで、追いつめられてしまっていた。
このまま想いが膨らみ続けてしまえば、きっとこなたを傷つけてしまう。
それも、たぶん、最悪な方法で。

私がこなたのそばにいる為には、もうこうするしか道がなかった。

私はあの日、あの場所に向かう廊下を歩きながら、決心を固めた。
よほど変な人でない限りは、この申し出を受けようと、そう、心に決めていた。
あいつとずっと親友でいる為に、あいつから離れることを私は選択した。
この選択が正しいかどうかわからない。
でも、これで少なくとも、こなたとは自然に距離を置くことが出来る。
そう、信じていたのに…


私は今日、何度目になるかわからない、ため息をついた。
何でこんなことになったんだろう。
いや、別に彼氏が出来たことを後悔しているわけじゃない。
そんなことじゃないんだ…

私の憂鬱は、そう、こなたのことだ。

突然、「彼氏が出来た」、と、言った彼女。
頬を染めて、うれしそうに。
こなたは、ずっと考えていたとも言った。
今まであいつがそんなそぶりを見せたことなんてない。
ずっと一緒にいて、こなたのことを見ていた私が言うんだ。
間違いない。
はずなのに…

現実にはこなたに彼氏がいる。

最初に話を聞いたとき。
また、たちの悪い冗談かと思った。
でも、うれしそうに話す彼女を見て、これは本当なんだと理解した。
その次に私が思った言葉は、

なんで、親友なのに相談してくれなかったの?

でも、

急になんて、ひどいじゃない!

でもなくて、

この言葉に、感情に、名前をつけるなら、そう、
明らかな 「 嫉妬 」
私は、いまだ顔も名前すらも知らないこなたの「彼」に嫉妬したんだ。

自分からこなたのそばを離れていったくせに、
私の告白のことだって、こなたには何も言わずに決めたのに、
どの口からそんな言葉が出るのだろう。
最初にあいつを裏切ったのは私なんだ。

こなたを親友だと思うなら、祝福してあげないと。
いまからこんなことでどうするんだ。

もう後戻りなんて出来ないんだから…

でも、これでよかったんだ。
私も…こなたも…
普通の恋愛をして、将来、お互いが家族なんかを作って。
これが自然の流れなんだ、と私は、他でもない私自身に言い訳をする。
こなたへの想いは、この流れのまま、いつか親友と呼べるところまで帰って行くのだろうと、そう納得させた。
それなのに、あいつは…

「か~がみん♪」

後ろから唐突に声をかけられた。
私をこんな風に呼ぶ人物なんて一人しかいない。
俯いていた私の頭に腕を当て、身体ごと圧し掛かる。
必然的に私の上半身は机の上に沈み、つぶされる。

「な~に一人たそがれてんの?
 もしかして、もう倦怠期?彼氏と喧嘩ぁ?」

「うっさい…っどけろ!」

こなたは、わたしが彼女の教室に行かない代わりに、ここ一週間、毎日コチラの教室に来るようになってしまっていた。
今は、二限目と三限目の間の小休憩の時間だ。10分程度しかない中、あいつは時間を惜しむかのように現れる。
前だったら、特別な用事がない限りは、コチラには来なかったのに。
…いや、用事があるから来てるのだ。

「……って、ねぇかがみ。聞いてんの?
 …それでね、私の彼がね、かがみのこともかわいいとか
 言うんだよ!
 ひどいと思うよね!?」

「あ~そうですね…」

こなたとの共通の話題が出来てしまった。
こなたはクラスの知り合いに、そういった関係をもった人物がいない。
だから、ほぼ同時期に彼氏が出来た私しか、この手の話をする相手がいないのは必然なのだろうか。
これでは距離をおく意味がない。

それに、彼女もまた、あの日から変わってしまった。

まず、化粧をするようになった。
今日はまつげにビューラーでもあてているのか、
いつもより大きく開かれた印象の瞳がとても可愛いらしい。
ファンデも薄めに、口紅も軽く塗ってるのかな。
気付いてないとわからない程度だけど、それでも、童顔の彼女を少し大人びた雰囲気に変えるのには十分だった。

話の話題も、漫画やアニメの話は出てこなくなって、
そのかわりに、服装や化粧とか、そういった女性らしい話題や、そして何より、彼氏との話をするようになった。
しかし、今の私には、あいつと彼氏との話は、苦痛でしかない。
いくら今、忘れようとしていても、私はまだ、あいつのことを想ってる。
私がどれだけ望んでも、手に入らない席を、知らない「彼」は手に入れた。

今のこなたの変化だって。
今のこなたの努力だって。
こなたの笑顔、感情、その全てが、名も無き「彼」へ捧げられている。

醜い「嫉妬」

こなたが彼と楽しそうにしている様子を…
他でもないこなたが楽しそうに笑顔で話す様子が…
とてもとても寂しくて、悲しくて、
それでも、無邪気に楽しそうに私に話す彼女を冷たくは出来なくて、
私はただ、不器用な笑顔を返していた。

「…そろそろ、次の時間よ?こなた」

話に耐えられなくなった私は、時間を理由に話題をきる。


「あ、もうそんな時間なんだ…。じゃぁね、かがみ~」

「…じゃあね」

背中に手を振って送り出す。
こなたと離れれる安堵と、こなたと離れてしまう寂しさと、相反する感情。

「あ、そうだ、かがみ」

彼女は突然立ち止まった。

「な、何?」

私の方を見ないまま、彼女は扉に向かって話す。

「放課後さ…もし良かったらなんだけど…
 時間もらってもいい?
 話したいことがあるんだ。」

「なに?またノロケ話じゃないだろな…」

「ちがうよ~、じゃ、お願いね!」

彼女はそう、扉の向こうに消えていった。

「 … 」

何なんだろうか、この感情は。
違和感?
今の彼女の雰囲気は、何だったんだろう。

「…ん?柊ぃ。ちびっこはかえったのか?」

「うん、今帰ったわ」

「…なんつーかさ。あいつ最近、変じゃね?
 いや、元々変な奴だったけど…」

「…あんたなんかにもわかんのね」

「! なんか、さりげなく酷いこと言ってねぇ?」

「冗談よ。
 うん、彼氏が出来たらしいわ。」

「彼氏…ねぇ」

日下部は、私の前の机に腰を下ろすと、私に向き直る。
…あんたの机はそこじゃないでしょうに。

「あやのがうちの兄貴と付き合いだしたときも、
 何だかフワフワ浮かれてたっけな…
 でも、なんつーか…
 ちびっ子のは違う気がすんだよなぁ」

「何だって言うのよ」

「そんなの人それぞれじゃん?」

「話しを振っといてグダグダか…!」

「気になるなら本人に聞けばいいじゃん」

そういって日下部は席を立つ。

「柊も無理すんなよな」

その台詞にどきりとした。

「無理?何のことよ…」

「気付いてないならいいけどよ?
 ま、何にも言ってくれないのって友達としては寂しいかな…」

「……ゴメン、いつか話す」

「いいって、あやまんなくて。
 じゃなー」

日下部は後ろを振り向き、自分の席に戻っていく。
その途中にいる峰岸と私の目があった。
峰岸が、困ったように軽く会釈をした。
私とこなたと、あと日下部のやりとりを見ていたのかな?
なんだか私、いろいろな人に気をつかってもらってる。
うれしいんだけど、私も気をつけないと…

……

四限目が終わり、お昼休みに入ったとき、私のもとへ今度はみゆきが尋ねてきた。
何だろう、珍しいな。
ていうか、私。みゆきと話すのも三日ぶりかも知れない。

「みゆき~、久しぶり。ゴメンネ、そっちにいけなくて」

「いえ、いいんです。それよりかがみさん。
 今からご用事とかございますか?」

「ええ、別にないわよ? 
 今日はここで食べようかなとか思っていたから。
 みゆきと話すのも久しぶりな気がするし、今日はみゆきに付き合うわ」

「ありがとうございます。では、ちょっと生徒会室までよろしいですか?」

「生徒会室…?
 まあわかったわ。お弁当もって行くわよね?
 こなたとつかさは?」

「泉さんは…彼氏とお食べになるそうで、
 つかささんは職員室に用事があるそうで今日は出られてます」

「そうなの?じゃあみゆきと二人ね。
 ふふ、初めてじゃないかな?」

「ふふふ、はい、そうですね」

わたしはカバンからお弁当箱を取り出す。
つかさとはいつも家で会えるし、こなたは朝のバスで顔をあわせるけど、そういえばみゆきとは接点がなかったな。
一年のころはお互いが学級委員の仕事でよく顔を合わせていたけど、今は私は違うし、私がお昼や、放課後に顔を出さないと、あまり会う機会がない。
だから私は久しぶりにみゆきと話せるのがうれしかった。

……

目的の場所に行くまでの長い廊下で、私とみゆきは色々な話しをしていた。

「でもさ、何で生徒会室なの?屋上とかは?」

「…屋上には、今、泉さんがいるはずですから…」

ああそうか、彼氏と食べてるんだっけ?

「…邪魔しちゃ悪いわね」

「そうですね…お邪魔をしてはいけませんので」

「…」

ちょっと空気が重くなる。

「…生徒会室は学級委員の用事で時々行くんです。
 それで、生徒会での仕事を色々任されているうちに、
 なぜか鍵をお預かりすることになりまして…」

あ~、みゆきは頼まれると断れないからなぁ

「それで…本当はいけないのですが、その代わりに
 時々、私用に使わせていただいてるんです。
 あそこは学校の書籍や備品類も数多く収めてありますし
 お昼は誰も滅多に立ち寄りませんので、ゆっくり本が読めるんですよ」

なるほどね。
そうゆうところでちゃっかりしてるところは、なんともみゆきらしい。

「さぁ、着きました」

重そうな木製の扉はいかにも生徒会室っていう威厳を放っていた。
汚れの少ないようすは、来訪する人の少なさをあらわしている。
しかし鍵がなければ入れないのなら、それも仕方がない。
みゆきが鍵を開けるのを待って、私は扉を開けた。

部屋の中は16畳くらいの広さで、部屋の奥にある大きめな机に「会長」とプラが貼って
ある。
その手前に折りたたみ式の長机が二列、縦に並び、その周りの棚には分厚い本や機材が並んでいた。
前に来たときにはもっと騒然としていて、小汚いイメージがあったけど、今は本なども種類ごとに綺麗に並び、埃もほとんど落ちていない。
たぶん、みゆきがこまめに掃除をしているのだろう。
もう、この部屋の主は彼女なのだ。

「そちらに座りましょうか」

みゆきは長机のほうを指し、椅子を引く。

「あ、ありがと」

みゆきはその向かい側に椅子をつけて腰をかけた。

「お茶です。どうぞ」

「お、サンキュー」

コポコポと注がれるお茶。
ゆるやかに流れる時間。
こんな雰囲気は私やつかさやこなたには、とても生み出せないだろう。
みゆきだからこそなせる業。
私の存在だけ、この部屋からひどく浮いている気がしてしまう。

「ところでみゆきって何か私に用事があるんだっけ?」

ちょっと空気に耐えられなかった私は、なにか話題を探してた。

「そうですね。でも、お弁当をいただいてからにしましょうか」

「うん、じゃあ、たべよっか」

………

お弁当を食べ終わった私は、みゆきが持ってきたクッキーをつまみながら、ゆっくりとした時間を楽しんでいた。うん、こうゆうのも悪くない。

「…それで、話というのはですね…」

みゆきがそう、話を切り出した。
まるで、言い出しにくそうに俯いて。
そうだ、そもそも単に談笑するだけなのなら、二人きりになる必要はない。
教室で出来るはずなのにこんなところにいる意味は、内緒の話をするためではないのか?
私は少し覚悟を改めた。
みゆきが私にって…なんだろう。
何でも出来そうなイメージがあるから、特に思い浮かばない。
まさか、こなたに引き続いて、好きな人が出来ましたって落ちじゃあないだろうな。
ごくりとのどが鳴る。

「…かがみさん」

「な、なに?」

そこまできて、重たい沈黙。さっきまでの空気はどこに行ったのか。

「……どうして、素直になっていただけないんですか?」

みゆきはそういった。
は? 素直に? 意味がわからない。

「どうゆうこと?」

私は聞き返す。
みゆきは私の反応を見、私を真っ直ぐ見つめながら話しをつづけた。

「申し訳ありません。言い方が悪かったですね。
 では、直球でお聞きします」

みゆきから躊躇いの色が消えた。

「どうして、泉さんのことを、その…
 想っていらっしゃるのに、
 好きでもない他の方と付き合うようなことをなさるのですか?」

「え?」

いま、みゆきはなんて言った?

「かがみさん…
 泉さんのことを本当に想われるのなら考え直していただけませんか…?
 これは、私のエゴイズムかもしれません。
 ですが、今のお二人を見てるのが…」 

みゆきの声が震える。

「…もう、これ以上…耐えられない…っ!」

みゆきは眼鏡をはずし、片手で自分の瞳を押さえる。
それでもあふれ出る雫は、その指から漏れていた。

みゆき…泣いてる?
でも、その前に、みゆきが言っていたことって…

「みゆき…」

「…はい」

「今、私がこなたのこと、想っているって言った?」

「…はい」

「な、なんでそうなるの…?
 だってこなたとは女性同士よ?
 おかしいじゃない…」

「はい…ですが、かがみさんはそれでも泉さんのことを好きなんですよね?
 友達以上の存在として、さらにその上の意味で…」

「なっ! なに言ってんのよ!
 そんなの…あるはずないじゃない…っ!
 なんでそんなこと、みゆきが言い切れるのよ!」

私は平手で机を勢いよく叩き立ち上がる。
パイプ椅子の倒れる音とともに、静かだった室内に響き渡った音は、主を失い、むなしく反響した。
みゆきは瞳に添えられていた手を緩やかに下ろした。
座ったまま、私を見上げる瞳。
赤く充血させた瞳は、真っ直ぐと私の瞳を射抜いていた。

「…言い切れますよ…
 だって…」

それは覚悟を決めた者の瞳だった。

「私は…
 かがみさんのことを…愛してしまっていますから…」

「え?え??」

なに?みゆきが?

「…好きであるならば気付きます。
 いつもかがみさんのことを目で追っていましたから。
 だから気付いてしまうんです。
 いつもかがみさんが誰のことを目で追っているのかを。
 その視線の先に…
 いつも誰がいるのかを…」

混乱して真っ白になった頭に、みゆきの言葉がそのまま鮮明に写りこむ。

「…みゆき…私、女だよ?」

「…わかっています」

「女性同士なんだよ?なんで、いまそんな冗談を言うの?」

「かがみさんが泉さんに寄せる想いも冗談ですか?」

「!」

「そういうことです」

「でも…みゆきが、何で私なんか…?」

みゆきはその私の言葉に、どこか寂しそうに笑った。

「かがみさん…
 …人を…好きになるのに理由なんていりますか?」

「 … 」  

「どんな恋でも、最初は小さなきっかけなんです。
 でもそれがどんどんと自分の中で意味を持ち、
 一人では支えきれないくらいに大きくなる。
 そして気が付いたら、それが私自身を支えるものになっていて、
 そうしているうちに気付くんです。
 ああ、これが恋なのかと…」

消え入りそうに寂しく…笑った。

「これが、私の悩み、考えました持論なんです。
 かがみさんのことを何で好きになったのか、
 なにがきっかけで好きになったのかなんてわかりません…
 でも現実に、私はかがみさんのことを好き。
 それだけは確かなものなんです」

「……でも、わたし、みゆきの想いは…答えら…」

「待ってください。いいんです。
 そんなつもりで言ったわけではないのですから」

「じゃあ、何で?」

「私は本当は、一生、言うつもりはありませんでした。
 だって、かがみさんと泉さんは…どこまでもひとつでしたから…
 私の付け入る隙なんてどこにもありませんでした。
 片思いはつらいですが、
 告白をした所で結果なんてわかっています。
 そんなことで今の関係を崩してしまうよりも、
 隣で笑っていられたほうが…そう、おもっていました。

 ですが、かがみさんに、今、私の言うことを信じてもらう為に
 私が打ち明けることが最善なのなら…
 迷いなんて、あるわけないじゃないですか…」

寂しそうな笑顔の意味を、私は理解した。
みゆきが思って、言ってくれたことは、すべて今、私が望んでいること。
叶えられない願いなら、いっそ、すべてを忘れ、そばにある幸せを守るということ。
並大抵な覚悟じゃ出来ない。
そんな覚悟を今、私のために破ったというのだ。
私に嫌われるかもしれないなんていう、根本的な危険を冒してまで。

「みゆき…ゴメン。
 みゆきの気持ち、凄くうれしい」

私はそれに値する人物なのか?
例えどうであろうと、本人が望んでいなくても、私は、想いをきちんと答えなければならない。

「だから、言わせて?」

「…はい」

「私はみゆきのこと、好きよ?
 でもそれ以上に、私はこなたのことが好き。
 大好き。
 だから、みゆきの想いには答えてあげられない」

「わかっています。ちゃんと答えを聞けただけでも、私は幸せなんだと思います。
 ですが、どうしてかがみさんは、それを泉さんに伝えないのですか?
 他の方とお付き合いなんて、どうして…」

「みゆきだって言ったじゃない。
 言って気まずくなるよりか、いっそ言わないでいるほうが…
 それだけが理由じゃないけど、伝えないことには変わりない」

「そうですね。それが結果の見えた恋なのなら」

「なら、結果なんて見えている。
 あいつはもう、彼氏がいるのよ?
 私にだってもう…
 いまさら思いを伝えたって、意味なんてないわ。
 こんな想い、なおさら邪魔になるだけよ」

「かがみさん…」

私はいまさらながら、みゆきの前でずっと立ったまま話していることに気が付いた。
自身を落ち着かせるために、椅子を元の形に戻し、そこに座る。
注がれていたお茶を一口含むと、その微かに苦くつめたい感触が、私の荒れた喉とココロを少しだけ癒してくれた。

「本当に、望みがないとお思いですか?」

「どういう…意味?」

「私は最初に言いました。
 泉さんのことを思うなら、考え直してほしいと」

「確かに言ったわ。でも…!」

「本当に望みがないのでしたら、こんな言い方はいたしません。
 かがみさん、気付きませんか?泉さんの最近の変化に」

「…知ってるわよ。今日もあいつと話したし。
 でもそれは、彼氏が出来たからじゃないの。
 少しでも、好きになってもらおうと色んなところが変わるのなんて、
 当たり前の行動じゃない」

「でも、それは好ましい変化でしたか?
 私には、無理をなさっているようにしか写らないのです」

「こなたが…無理を?」

思い当たる節は幾つもあった。
でも、それがなにを意味するのかはわからない。
繋がらない。

「休み時間はかがみさんのところに決まっていきます。
 行けないときには、私たちの話題は、なぜかかがみさんの話になっています。
 私たちが三人でいるときには泉さんの彼氏の話なんて、話題にも上りません。
 なのに、お昼休みと放課後は、彼氏に会いに行くんだと、寂しそうな笑顔で行くんです。
 かがみさん…
 今日、泉さんは少し化粧をされていましたよね。
 気付いてあげましたか?」

「う、うん…そりゃあ気付いたけど」

「泉さんは最近、熱心に私に化粧やおしゃれの話しを聞いてくるようになりました。
 それ自体はなにもおかしくはないのですが…
 今日、教わったとおりにやってみたと、
 休憩時間になると、かがみに見せに行くんだ、と、
 とてもうれしそうに笑って行かれました。
 彼氏ではなく、かがみさんにですよ?」

「ちょ、ちょっと…まって!」

「最後にひとつだけ…
 泉さんの彼氏を…誰か見ましたか?
 いまだ顔や名前すらわからない。
 三年生の人というだけで、泉さんはそれ以上教えてくれません。
 そのうち紹介すると…」

「みゆき、それって…こなたが嘘を付いてるって言いたいの?
 何のためにそんな。
 それに、私は見たわよ?
 うれしそうに彼氏の話をしてたのよ?
 なんだってそんなこと、する必要があるのよ!
 おかしいじゃない!」

立ち上がって叫びそうになるの抑えた拍子で、長机が大きく揺れる。
飲みかけのお茶のコップがからりと転がり、机の上を濡らしたが、私はかまわずにみゆきの瞳を見つめ続けた。

「…いま、言ったことは私の憶測にしか過ぎません…
 答えは泉さんにしかわからないと思います。
 ただ、今、泉さんは屋上にいらっしゃると思います。
 私の憶測が正しければ、多分…」

「…一人でいるのね」

「まだ間に合うかもしれません。
 行ってあげてください。かがみさん!」

「ええ、ゴメン。行くね?」

私は今度こそ席を立つ。

「かがみさん」

「みゆき?」

「どうか、ご自身を大事にしてください。
 周りがどうとか、みんながどうとか考えず、
 まず、かがみさんのことを一番に考えてあげてください!
 かがみさんが傷つけば、同じだけ…
 かがみさんを大事に想う人が傷つくんですよ?
 だから…」

その台詞に私は笑顔で返す。
それにみゆきも笑顔を返した。

「ありがとう、みゆき。
 …じゃあ、確かめてくるね」

私は廊下へ続く扉に手をかけた。

……

そして、私は部屋に一人、残されました。

私がかがみさんに伝えたかった事…
本当に全部、伝えきれたでしょうか…

机に広がるお茶の海に、雑巾を落として、片付けを始める。
ふと、その海に波紋が広がった。
それはぽつぽつと、まるで雨の降り始める時みたいに。
やがて、本降りになることを予感させながら。
海には、ゆがんだ輪郭と、泣き虫な私が写りこんでいた。

私は、馬鹿です。
何で二人の後押しなんてしてしまうのでしょうか。
いま、かがみさんに言った言葉の数々は、すべて本心。
ですが、やりようによっては、かがみさんを振り向かせることも出来たかもしれない。
…いえ、それは無理だと考えたからこそ…
私は二人の後押しをしたんでしたね。
私はエゴイストです。
かがみさんを知らない誰かに奪われるくらいなら、いっそ、泉さんのほうが良かった。
泉さんになら、大好きなかがみさんを任せられると思ったから。
私はただ、自分の思いどうりにならなくなった展開を、横からかき回しているだけだ。
せっかく、二人はお互いで覚悟を決められたというのに。

本当に…馬鹿ですね。
そんな私に、かがみさんは「ありがとう」なんていってくれて、
最後に笑って見せてくれました。
…かがみさん、私も、うまく、笑えましたでしょうか?

かがみさんが去られたときから、部屋の扉は開かれたままでした。
私はその扉を閉め、そのまま後ろ向きに背中を預けると、後ろ手で鍵をかける。
こうすれば誰も入っては来れない。
防音も大丈夫のはず。

だから、
だから私は、

思い切り、大声で…泣いた…っ

………

私は屋上にまで続く長い廊下を走っていた。
生徒会室が校舎のはずれにあるから、屋上にまで続く廊下は長い。
お昼休みの終了まであと15分。
果たしてこなたはいるのだろうか。

私は走るさなかに、今のこなたを思い浮かべる。
広い広い屋上で、たった一人でチョココロネを食べるこなたの絵。
寂しそうに空を見上げる表情。
そんなこなたを今まで一度も見たことないけど、私の脳内では、その姿がありありと浮かび上がってしまう。

「まってて…こなた」

私のスピードはさらに加速をした。

屋上の扉の前まで着いたのはそれから約5分後。
時間にしてギリギリ。
もしかしたらもういないかもしれない。
恐る恐る、扉がきしまないように空ける。
開かれた空が、まるで目の前にあるように錯覚させる。そんな雲ひとつないの空だった。

こなたは…いない?

いや、いた!

屋上のかどで、手すりに手を付きながら、ただ、空を見上げているこなたを発見した。

「……こなた」

私の呼び声に、大きく方を揺らす彼女。
まるで幽霊でも出たかの様な反応で、恐る恐る、振り返った。

「かがみ…どうしてここにいるの?」

「やっぱり一人でいたのね…」

どこを見回しても、彼氏の姿などいない。
じゃあ、彼女は何のためにいたのか?

「こなた、彼氏は?
 一緒にいたんじゃないの?」

「うん、居たよ?先に用事で下りて行っちゃったけど」

私の質問に平然と答える彼女。
みゆきのはやはり考えすぎだったのか?
私はこなたが先ほどしていた風に、手すりにもたれかかって空を見上げた。
こなたもそれにならって私の横でそうする。

「…かがみ~」

「なに?」

「何でここにいるの?
 彼氏のところに行かないの?
 あ、もしかして放課後に用事ができたとか?
 だから、先に聞いとこうとしてるのかな?」

こなたの質問に私は大きくため息で答える。

「な、なんなんだよぅ」

「私はちょっと、風に当たりたかっただけよ」

「…全然答えになってないよそれ…」

こなたの横で、こんなにも落ち着いていられるのは、どのくらいぶりだろうか。
授業の時間が始まるのも気にせず、ただ、この時、
こなたのそばにいてやりたかった。

「授業…始まっちゃったわね?」

「そだね、かがみはいいの?
 優等生がサボりなんてさ。怒られちゃうよ?」

「優等生がサボっちゃいけないなんてルールはないわ。
 アンタこそ、行かないの?」

「…私、まだ、ここにいたい…」

「…そうね、同感…」

「…」

「こなた? 明日から私ね、あんたのクラスで食べるわ」

「ふぇ!?」

「アンタはどうする?彼氏と食べるの?」

「……かがみはやっぱり寂しがりやなんだね。
 もう、私たちがいないと寂しくなったの?
 かがみんがど~してもっていうんだったら一緒に食べてあげてもいいけど?」

「いやだったらいいのよ?私たち三人で食事するから」

「! あぅう~ん!かがみ様。ちょっとしたジョークでございます!」

うん、素直でよろしい。

「でも、どして? 彼氏とは食べないの?」

「別に…ただ彼氏とは別に、アンタ達といることも大事だと思ったから」

「…そう、大事、そうなんだ」

「なににやけてんだ?」

「え?いや?ニヤケテマセンヨ」

「ふふ、なによそれ?」

こなたの前で、久しぶりに笑えた。
いま、こなたのことが心配で、正直、彼氏のことなんて頭にない。
あんた、彼氏なんてホントにいるの?とか問い詰めようかと思っていたけど、今のこなたを見る限りでは大丈夫なのかな?
余計な心配なんて与えたくないし。

「かがみ」

「うん?」

「放課後、言おうかと思っていたこと今のうちに言っとくね?
 用事とかはいっていえなかったらいやだし」

「いいわよ?なに?」

「あのね?こんどね、彼氏とさ、…デートするんだ」

「…へぇ、アンタがデート…」

「だけど私、デートなんてしたことないからさ。
 きっと変な失敗とかしちゃうと思うんだよね。
 だからさ…」

こなたは喉をごくりと鳴らす。

「今度の日曜…
 予行演習に付き合ってよ」

「…は、予行演習?」

「うん、デートの練習。
 私がエスコートするからさ、二人でどこか、行かない?」

「日曜?日曜日かぁ」

たしか、日曜は彼と出かけるなんて話していた気が。
まあ、こなたのほうを優先しようか。
せっかく頼ってくれているんだし。

「…やっぱ、ダメ?…なんだ」

「…いや、ダメなんていってないわ…って、こなた、どうしたの!?」

「ふぇ?」

こなたが泣いていた、片目から、静かに落ちる雫が、彼女の服を濡らしていた。

「え?え??あ!なんでだろ、そんなつもり…
 あれ?」

こなたも気付いてなかったんだろう。
滴る液体に気付き、狼狽をする。

「ちょ、だいじょうぶなの?こなた」

「うう、何でだろう、恥ずかしい…」

ゴシゴシと腕でこする彼女。そんのことでは…

「あん、もう、こなた。ダメじゃない。
 そんな拭きかたしたら、化粧が取れちゃうわよ。
 はい、ハンカチ」

「ふぇ?かがみ、化粧のこと。気付いてくれてたの?」

こなたが顔を上げる。うれしそうな顔で。
拭いてあげてんだから動くな。

「え?そりゃ当たり前じゃない」

「…えへへ、そか、当たり前なんだぁ」

「こなた、さっきの話、大丈夫よ」

「ホントに?」

「ええ、詳しい日時とか、メール頂戴?」

「ホントにホント?」

「くどいわよ」

そう答えるとこなたは俯いた。肩が寒くもないのに震えている。

「なによ」

「……やったぁ~~~!!」

こなたは正面から抱きついてきた。

「こらこなたくっつくな!」

「イヤーゴメンゴメン。断られるんじゃないかとどきどきしてたんだ。
 じゃあさ、メールするから!
 絶対予定とか入れちゃダメだよ!!」

「へいへい」

「じゃ、私は教室に戻るから!
 かがみもサボらず来るんだよーーー……」

なんだか嵐のように去っていった。
しかし、やばかった。
さっきくっつかれたとき、思わず抱き返しそうになった。
わたしのどきどきも聞こえたかも。

火照る身体は、一陣の風が覚ましてくれた。
だけど胸にこもった熱は、今も絶えず熱を放ち続けていた。

私は大きなため息をひとつこぼし、
こなた色の空を見上げた。



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  • みゆきさん凄い
    本当に凄い -- 名無しさん (2012-11-13 16:53:19)
  • きた名作♪続きが楽しみです(^^)
    かがみんの彼氏..かがみんは告白された時点で実は断って
    いたりして..いやでも日曜日は先約があると言ってるし..
    うぉ~続きが気になる~(^^; -- 名無しさん (2009-02-11 05:55:30)
  • 望んだ結末になりそうな予感・・・あっでもそうなると、かがみんの彼氏?は救われないね。 -- kk (2009-02-04 22:32:03)
  • なんか哀れな・・・ -- 名無しさん (2009-02-04 18:50:09)


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