5年越しのラブレター・前編

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『…5年後の今日、この時間にこの場所でね』

二人だけの場所で、景色の中で、約束は結ばれた。
この先も変わらぬ私達を夢見て。
その裏に一つの淡い想いを秘めて…。


―――。


高校時代、私は一つの運命的な出会いを経験する。

私は運命なんて洒落たモノを信じていなかったし、有り得ないと思っていた。
あってもドラマや本の中だけの話で、私には関係のないこと。
それなのに、全く人生とは良く分からないものだ。
だってさ、その運命の出会いとやらに何よりも感謝していたのは、紛れもなく私自身だったから…。

その運命の相手の名前は、泉こなた。

私とは違うクラスだったけど、つかさが彼女と同じクラスだったので、顔を合わせる機会は多々あった。

第一印象は小さな身体に蒼くて長い髪とアホ毛、左目の下の泣きボクロが特徴的だった。そして、オタクで勉強はやる気0のちょっとダメ人間。
だけど…彼女はとても優しく澄んだ目をしていた。

最初に仲良くなったのは私じゃなかったけど、私達二人が友達になるのに時間はそう必要なかった。
何だか笑えるけど、たまたまこなたが話題に出したラノベの話が、二人の距離を一気に縮めていった。
初めて話題を共有出来た時のこなたの笑顔を、私は今でも忘れていない。

それからというもの、彼女が何かを話せば、オタク話であろう何だろうと必ず耳を向けるようになった。
…こなたのことをもっと知りたかったから。
勉強で分からないところがあれば、一緒に悩んで考えて教えてあげた。
…私のことをもっと知って欲しかったから。

こなたが他の誰かと話していると、胸が痛くなった。この痛みの理由、今なら良く分かる。
きっと…出会ったその瞬間から、私はこなたを好きになっていたから。

友達としては勿論のこと、私の想いはそれを遥かに越えて…こなたを一人の人として見ていた。
気が付けば私はこなたしか見ていなくて、考えていなくて…私は深い恋に堕ちていた。
こなたが私のことをどう想っていたかなんて、全く分からないのに…。

…だからこそ伝えないといけないことがあった。
“私はこなたが好きなんだよ”って。
“誰より1番大切なんだ”って。

だけど私は臆病で…こなたに自分の気持ちを何一つ伝えることが出来なかった。この自分勝手な想いを伝えれば、きっとこなたを苦しめる。今まで築いてきた友情も、形を変えてしまう。それが怖くて、考えたくなくて…私は逃げたままだった。

このまま終わるかと思っていた恋。
諦めて友達のままで終わると思っていた関係。
そんな結末を打開する機会、神様が私に最後のチャンスをくれた。

それは高校三年生の夏、とある昼休みにこなたからの提案されたものだった。


―――。


「かがみ、二人でタイムカプセル作ろう!」
「な、何で急にそんなこと…」
「んー、やっぱり輝かしき青春の日々を思い出に残すのは大事じゃん?」
「ふーん」
「あれ?反応が薄い…」
「だってあんたの場合は、輝かしきオタクの日々じゃない?」
「ちょ!?それ酷いよ!私は真面目に言ってるのにさー!」
「あはは!冗談、冗談よ。…いいわね、折角だから作ってみよっか」
「ホントに!?」
「うん」

相変わらずこなたらしい突拍子な案だったけど、二人で思い出作りが出来るのは嬉しいことだった。
だから私は何も考えずに了承した。

「で、そのカプセルとやらに何を入れるの?」
「んーとね…手紙、とかどうかな?」
「手紙?」
「うん。数年後の私達宛てに」
「…いいわね」
「で、どうせなら…お互いに宛てた手紙にしない?」「お互いに?」
「うん。私はかがみに、かがみは私に手紙を書くんだよ」
「………」
「どうかな?」
「…ふーん、面白そうね。いいじゃない」
「よし、決まりー!それじゃあ5、6時間目の間に書いておいてね。今日の放課後に埋めに行くから!」
「授業受けさせろよ…」

いつもみたく楽しい昼休みが終わり、放課後まで残された時間は一時間半くらい。その間、私は授業そっちのけで手紙に何を書くか考えていた。

手紙…別に珍しくも何ともないし、書いた経験は多々ある。普通なら何も問題はないし、悩むことでもない。
だけど今回は違う。こなたへ向けた手紙。いつも一緒にいてくれる、大事な人へ宛てた手紙なんだ。

…私は数年後のこなたに何を伝えるべきなんだろう?

“元気にしてた?”

“まだオタクやってるのか”

“高校楽しかったよね”

“漫画だけじゃなくラノベも読んでる?”

“相変わらず小さいのか?”

“今は何してるの?”

“好きな人はいるの?”

“私、こなたのことが…”

「………」

悩みに悩んだ末、私はこの手紙に全てを賭けてみることにした。
何もしないままで、この気持ちを只の思い出になんてしたくない。だからせめてこんな紙切れにでも、私の全てを綴っておきたい。
少しだけでもいい、この想いがこなたに伝わるのを信じて…。

こなたがこれを読む時、私の気持ちは変わっていないだろう。
その時、もしこなたが私と同じ気持ちでいてくれたら…私の想い、ちゃんと自分の口で伝えよう。
同じ気持ちじゃなければ…その時はもう時効。
笑い話にでもして、そこできっぱり諦めよう。

だからこれは…私がこなたに宛てた最初で最後のラブレター。

―――。


放課後になって、つかさとみゆきには先に帰ってもらったので、教室には私達二人だけだった。

「さてかがみん、手紙は書けたかい?」
「一応はね、けどこれを何に入れるの?」
「むふふ、これだよこれ」
こなたは中くらいの大きさのクッキーの缶とビニールテープ、埋める時に使うスコップを机に並べた。

「準備いいわね、あんた…」
「まーね」

私の感心の言葉をサラっと受け流しながら、こなたは缶の中に手紙を入れ、テープで丁寧に蓋をしていた。湿気とかは大丈夫なのか…なんて夢のないことを考えながら、その様子を見守っていた。

「よし出来た。じゃ、埋めに行こうか」
「行くって何処に?」
「…まぁ着いて来てよ」

こなたに促されるままに着いて行く。学校を出て、家とは反対方面にひたすら歩いた。そして着いたのは見覚えのある場所。

私とこなたが初めて二人で遊んだ時に来た、小さな丘だった。
丘の頂上には大きな木が一本あり、二人でその木に登って夕日を眺めたのを覚えている。

二人にとって、とても大切な場所。

「あんたにしては良い場所を選んだじゃない?」
「素直に褒めてくれないあたり、やっぱツンデレだね」
「うるさいな!」
「さて、掘るかー」

こなたはスコップを使って木の下に穴を掘り始めた。鼻歌なんか歌いながら…その姿はとても楽しそうだった。

「やらないか~♪」
「何を掘るつもりだよ!」「ナイスツッコミだねー。…よーし、出来た!」

あっという間に、この缶を埋めるのには十分すぎる大きさの穴が出来ていた。
私達は二人でその中に缶を入れる。しばらくそれを眺めた後、その穴を再び埋めた。

「いよっし、終了!」
「ふぅ…無事に出来たわね。そういえばこなた、これはいつ見に来るの?」
「うーん、そうだね…」
「10年先くらい?」
「…5年後」
「え?5年って結構短くない?」
「だって…あんまり長いと忘れちゃいそうでさー」
「うぉい!」
「まぁまぁ、色褪せる前に思い出に浸るのもなかなか良いじゃん?」
「はぁ…。じゃあそれでいいわよ」
「じゃあ決定!…5年後の今日、この時間にこの場所でね」
「…うん」

携帯を見る。
ディスプレイは7月1日の午後4時を示していた。

―――。


タイムカプセルを埋めてから数カ月後、私達はそれぞれの進路に向けて必死になっていた。
私は前々から狙っていた大学の法学部へ。
こなたは進路を変え、関西の大学への進学の為に。

こなたの進学の話は、余りに突然だった。進学は有り得るにしても、まさか地方の大学へ行くとは思っていなかった。
…いつまでもずっと側にいられると信じていたのに。
だけど現実は残酷で…お互いに希望の学校への受験は成功し、私達はそのまま別々の道を歩むことになった。

こなたがこっちを発つ日、私は駅のホームへと見送りに行った。

「しばらくは戻って来れないんでしょ?」
「だね。多分卒業までは帰って来ないかも」
「そっか…」
「ねぇ、かがみ」
「ん?」
「タイムカプセル、忘れちゃダメだよ?」
「私が忘れるハズないじゃない。あんたの方が心配よ…」
「大丈夫だよ。私は絶対忘れない」
「…うん」
「あ、あのさっ!かがみ…」
「何?」
「………ううん、何でもない。もう行かないとね!」「…そっか。頑張りなさいよ!応援してるから」
「ありがと、かがみ」

―――。


こうして私達は別れた。

新しい生活が始まるということもあり、離れてからは連絡を取ることが段々少なくなっていった。
寧ろ、こなたが忙しくなっていたみたいで私が連絡を取るのを控えていた。
寂しい、こなたに会いたい…何度もそう考えたけど、私はそれを行動に移すことは無かった。

更に私は大学卒業後、大学院生になった。大学で色んな経験をして、弁護士になる為にはまだまだ勉強が必要だと思い知らされたから。私の中で、また新しい生活が始まった。

そういえば、こなたはどうしてるんだろう?
上手くいけばもう卒業して働いているハズだけど…。ずっと向こうで居続けるのかな?忘れたのかな?
何度も何度も不安な気持ちになった。
それでも、私は一度もこなたに連絡を取らなかった。

だってさ、もうすぐで会えるんだよね?

…あの日の約束だけが私を支えてくれていた。


―――。


今日はカプセルを埋めてちょうど5年目の7月1日。私はあの木の下にいる。
時計を見ると、夕方の5時を回ったところ。


私の愛しき待ち人は…未だここにはいない。




続く。


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  • 感動した。 これは泣ける…後半でさらに泣ける… -- 名無しさん (2008-12-11 23:40:24)

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