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桜が見た軌跡 第一章」(2023/07/18 (火) 07:57:58) の最新版変更点

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糖武鉄道の糟日部駅から、バスで数十分離れた所にある、地元では有名な進学校――陵桜学園。  “陵桜”という名前が示す通り、この学園の敷地内には、沢山の桜の木が植えられていました。  背の低い桜。  枝を八方に張り巡らせた桜。  一足先に満開の花を咲かせた桜。  個性がある所は、人間となんら変わりなく。  その中でも、一際目立つ老木が一本。  学園の正門から入ってすぐの所に立つ、せいたかのっぽな桜の木。  茶色い幹と、彼方へと向かって伸びる枝。蓄えた蕾も、今まさに開こうとしています。  何十年も前から、同じ場所に立ち続けてきた桜は、人間と呼ばれる生き物が織り成す、 様々な出来事をつぶさに見守って来ました。今日は、そんな人間たちの話の中でも、 少し不思議な恋のお話。主人公は、二人の女の子。季節は春。  年老いた桜が、白色の花を咲かせた所から始まる、一年間の記録。  <春 ~spring~>   桜が、一年の中で最も輝き、一斉に舞う季節。  咲き誇った白い塊から、花びらが地面へと落ちていきます。  多くの人間たちは、その中を楽しげに歩き“クラス替え”や“新入生”という言葉が、 あちこちから聞こえてきました。ですが、桜には、言葉を聞くことは出来ても、 意味を問うことまでは出来ません。  ただただ、人間たちの笑顔が絶えない様に。  桜は、五枚で一組の花びらを、渦状にして次々に散らしていきました。   ……と、根元に何か柔らかいものが触れる感触。どうやら真下に誰かいるみたいです。  桜は、花びらを散らすのを止め、視線を地面に落としました。するとそこには。 「あ~あ。結局、同じクラスになれなかったなぁ」  一人の女の子が(と言っても、桜は性別という概念に、さして興味はありませんでしたが) 木の幹に背中を預けて、ため息をついていました。真昼の空の色のような澄み渡る蒼を纏った、 小さな女の子。セーラー服に身を包み、手には、真新しい生徒手帳が握られていました。 「最後のチャンスだったのにさ……かがみのバカ……」  もう一度、深いため息。  同時に、女の子の瞳から一滴の雫が流れ落ちたのを、桜は見逃しませんでした。  ――自分に、何か出来ることはないだろうか。いや、自分にしか出来ないことはないだろうか。  桜は、自分の体に身を寄せている女の子を見つめながら、考えました。  自ら歩くことも出来ず、言葉を交わすことさえ叶わない自分が、彼女の為に出来ること。  それは……再び、花びらを舞わすことでした。今度は、さっきより一段強く。  そよぐ南風にうまく運んで貰える様に、一枚一枚、丁寧に。  暖かい空気の中に溶けていくピンク色のカーテン。 「わあ……」  女の子も、思わずその景色にただ目を丸くして、しばらく立ち尽くしていました。 ☆ ☆ ☆  一体、どのくらいの時間が経ったでしょうか。  次に桜が根元を見た時。女の子は既にいませんでした。  確認出来たのは、自分の身体から剥がれ落ちた皮のかけらと、とがった小枝だけ。  周りは、眩しいばかりの橙。もうすぐ日暮れです。  ――あの子は、どこに行ってしまったのだろう。  この後、すぐに闇が訪れることを知っていた桜は、慌てて周囲を見渡しました。  自分より背の高い校舎、体育館。そして、昇降口の付近に視線を近づけた時。  彼女の姿が見えました。そして、隣には、細く伸びるもう一つの影。 「ふふ~ん。私とまたクラスが別々になっちゃって、落ち込んでると思ってたのにさ~。 そうでもないみたいだね。予想外だったヨ」 「あったりまえでしょ。これ以上ベタベタされたら、こっちが参っちゃうわよ」  先程の女の子が、紫色の髪を、リボンで二つ分けに止めたツリ目の女の子に 向かって笑いかけていました。蒼と紫。二つの色が、夕陽に溶け合って。  けれど、よくよく見てみると。  蒼を纏った女の子の身体に、大量の花びらがくっついているではありませんか。  けれど、彼女はそれを振り払おうとはしませんでした。大事そうに、守る様に。 「ちょっと、頭に花びらがくっついちゃってるじゃない。とってあげるわよ」 「あ~、いいのいいの。今日だけは、このままでサ」 「? ふ~ん。ま、いいけどね……」  彼女の目には、先ほどまで浮かんでいた雫は無く、代わりに笑顔が見えていました。  桜は、影を伸ばしていく二人に向かって、さらに花びらを舞わしていきます。  明日も、元気でいられる様に。独りぼっちなんかじゃないと、教える為に。  その日。  学園の敷地内は、大量の桜吹雪で埋め尽くされ、沈みゆく夕陽を背に受けて、 花びらは全て黄金色に輝いていたそうな……桜舞い散る春。季節は、進んでいく。  夏の足音は、すぐそばまで。桜と、女の子。次に二つが交わる時。  物語は、再び動き出すのでしょう。次は、葉桜の季節。 -[[桜が見た軌跡 第二章>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1038.html]] **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - こういうのも良いですね &br()続編、期待してます(^^) -- 名無しさん (2009-01-06 02:05:10) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(9)
糖武鉄道の糟日部駅から、バスで数十分離れた所にある、地元では有名な進学校――陵桜学園。  “陵桜”という名前が示す通り、この学園の敷地内には、沢山の桜の木が植えられていました。  背の低い桜。  枝を八方に張り巡らせた桜。  一足先に満開の花を咲かせた桜。  個性がある所は、人間となんら変わりなく。  その中でも、一際目立つ老木が一本。  学園の正門から入ってすぐの所に立つ、せいたかのっぽな桜の木。  茶色い幹と、彼方へと向かって伸びる枝。蓄えた蕾も、今まさに開こうとしています。  何十年も前から、同じ場所に立ち続けてきた桜は、人間と呼ばれる生き物が織り成す、 様々な出来事をつぶさに見守って来ました。今日は、そんな人間たちの話の中でも、 少し不思議な恋のお話。主人公は、二人の女の子。季節は春。  年老いた桜が、白色の花を咲かせた所から始まる、一年間の記録。  <春 ~spring~>   桜が、一年の中で最も輝き、一斉に舞う季節。  咲き誇った白い塊から、花びらが地面へと落ちていきます。  多くの人間たちは、その中を楽しげに歩き“クラス替え”や“新入生”という言葉が、 あちこちから聞こえてきました。ですが、桜には、言葉を聞くことは出来ても、 意味を問うことまでは出来ません。  ただただ、人間たちの笑顔が絶えない様に。  桜は、五枚で一組の花びらを、渦状にして次々に散らしていきました。   ……と、根元に何か柔らかいものが触れる感触。どうやら真下に誰かいるみたいです。  桜は、花びらを散らすのを止め、視線を地面に落としました。するとそこには。 「あ~あ。結局、同じクラスになれなかったなぁ」  一人の女の子が(と言っても、桜は性別という概念に、さして興味はありませんでしたが) 木の幹に背中を預けて、ため息をついていました。真昼の空の色のような澄み渡る蒼を纏った、 小さな女の子。セーラー服に身を包み、手には、真新しい生徒手帳が握られていました。 「最後のチャンスだったのにさ……かがみのバカ……」  もう一度、深いため息。  同時に、女の子の瞳から一滴の雫が流れ落ちたのを、桜は見逃しませんでした。  ――自分に、何か出来ることはないだろうか。いや、自分にしか出来ないことはないだろうか。  桜は、自分の体に身を寄せている女の子を見つめながら、考えました。  自ら歩くことも出来ず、言葉を交わすことさえ叶わない自分が、彼女の為に出来ること。  それは……再び、花びらを舞わすことでした。今度は、さっきより一段強く。  そよぐ南風にうまく運んで貰える様に、一枚一枚、丁寧に。  暖かい空気の中に溶けていくピンク色のカーテン。 「わあ……」  女の子も、思わずその景色にただ目を丸くして、しばらく立ち尽くしていました。 ☆ ☆ ☆  一体、どのくらいの時間が経ったでしょうか。  次に桜が根元を見た時。女の子は既にいませんでした。  確認出来たのは、自分の身体から剥がれ落ちた皮のかけらと、とがった小枝だけ。  周りは、眩しいばかりの橙。もうすぐ日暮れです。  ――あの子は、どこに行ってしまったのだろう。  この後、すぐに闇が訪れることを知っていた桜は、慌てて周囲を見渡しました。  自分より背の高い校舎、体育館。そして、昇降口の付近に視線を近づけた時。  彼女の姿が見えました。そして、隣には、細く伸びるもう一つの影。 「ふふ~ん。私とまたクラスが別々になっちゃって、落ち込んでると思ってたのにさ~。 そうでもないみたいだね。予想外だったヨ」 「あったりまえでしょ。これ以上ベタベタされたら、こっちが参っちゃうわよ」  先程の女の子が、紫色の髪を、リボンで二つ分けに止めたツリ目の女の子に 向かって笑いかけていました。蒼と紫。二つの色が、夕陽に溶け合って。  けれど、よくよく見てみると。  蒼を纏った女の子の身体に、大量の花びらがくっついているではありませんか。  けれど、彼女はそれを振り払おうとはしませんでした。大事そうに、守る様に。 「ちょっと、頭に花びらがくっついちゃってるじゃない。とってあげるわよ」 「あ~、いいのいいの。今日だけは、このままでサ」 「? ふ~ん。ま、いいけどね……」  彼女の目には、先ほどまで浮かんでいた雫は無く、代わりに笑顔が見えていました。  桜は、影を伸ばしていく二人に向かって、さらに花びらを舞わしていきます。  明日も、元気でいられる様に。独りぼっちなんかじゃないと、教える為に。  その日。  学園の敷地内は、大量の桜吹雪で埋め尽くされ、沈みゆく夕陽を背に受けて、 花びらは全て黄金色に輝いていたそうな……桜舞い散る春。季節は、進んでいく。  夏の足音は、すぐそばまで。桜と、女の子。次に二つが交わる時。  物語は、再び動き出すのでしょう。次は、葉桜の季節。 -[[桜が見た軌跡 第二章>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1038.html]] **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-18 07:57:58) - こういうのも良いですね &br()続編、期待してます(^^) -- 名無しさん (2009-01-06 02:05:10) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(9)

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