「それぞれのよる(独自設定 注意)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

それぞれのよる(独自設定 注意)」(2010/04/28 (水) 00:14:25) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

~( 中央区 月島 )~ 下町情緒の残る街 有名なもんじゃ焼商店街から少し外れたところにある、とある店。 木造倉庫と思しき小さな建物の中から、裸電球の明かりと、異様な熱気が漏れてきます。 粗末なテーブルと腰掛けが外の歩道にまではみ出し、それでも足りずに、小型プロパンの上に座らされている客もいます。 その歩道の脇では、リヤカー山積みの発泡スチロールの箱から、マグロが恨めしそうに、客を睨んでいます。 酔客の喚声と、中国人らしい店員の、喧嘩腰の客あしらいが、この店独特の活気を演出しています。 こなたとかがみが高校を卒業して、二十数年後の、ある夜のこと。 彼女らの良人となった男たちが、この店で再会の杯を酌み交わしています。 かがみの夫は、都内に小さな法律事務所を構える弁護士です。 妻の親友の良人を、彼がもてなすのは、いつもこんな気の利かない、それでいて本当に旨い店ばかりでした。 「困るんですよ、ここのネギマが時々、どうしても恋しくなって」 「近頃では海外でも、マグロのいいのは出るでしょう」 「いや、ここのみたいなのが、外国で出たりしたら、余計に困りますよ。ますます日本に来づらくなる」 「ハハハハ・・・・ 国内に腰を落ち着ければ、いつでも食べに来れますよ」 「そうなんですが、私の記事は、国内では需要がない」 こなたの夫は、ジャーナリストとして、主に海外で活動をしています。 「怖くて訊けませんよ、外国を飛び回って、一年に何日も家にいないような夫をどう思うか、なんてね」 「いやいや、奥さんも、一緒にいられるようになれば、お喜びになるはずですよ。もちろん、娘さんも」 「妻も娘も、私のいない生活の方に慣れていますからね。急に家をウロウロするようになったら、どうなるのか・・・・・・」 「柊くんが、こぼしてましたよ。もうアイツの夫の替わりは御免だから、いい加減、本物の夫に戻ってきてほしいと」 「あの二人の、仲がいいのをいいことに、長いこと夫の役をかがみさんに押し付けてきましたからね」 「全くですよ」 「会ったら、また怒られるなぁ」 普段、家族の話題など、滅多に口にしない二人ですが、お互いがこの相手の場合は別でした。 「あなたもこれからは『家にいる生活』にも慣れないといけませんね」 「先生、一度お訊きしたかったんですが、いつも家にいる夫というのは、一体、毎日どんな顔してるものなんですかね」 「家で私が、どんな顔をしているかなんて、自分ではわかりませんよ。一度、柊くんに聞いてみてください」 「先生、せめて家では、かがみさんのこと、名前で呼んであげてくださいよ。いつまで経っても『柊くん』じゃ、可哀そうですよ」 「それだけは勘弁してください。十も年下じゃ、いまだにどう接してよいものやら」 「これは、先ずはあなたが、結婚生活に慣れないと」 ネギマが串ばかりになる頃、大きく切って軽くヅケにした赤身が山盛りでやってきます。 「最近、息子が海外で働きたいと言い出しましてね。どうも、あなたの影響のようです」 「彼に最初に英語を教えたのは、私ですからね。跡取り息子を、横取りするような真似をして、申し訳ない」 「いや、私は正直、今の仕事を、息子には継いでほしくないのです」 弁護士といっても、ほとんど法廷には立たず、示談や調停といった仕事を、専らとしてきた彼のことです。 他人に言えないようなことが、たくさんありました。 「私の代わりに、息子に夢を与えてくれたのだから、これは、私の方が感謝すべきですね」 「とんでもない」 「どうも、あれの父親になるには、私はいささか、歳をとりすぎたようです」 「この分だと、娘には、一生恨まれそうだ」 ハイ、チュウナマ、オマチネ! 噛みつくように言い残すと、店員は中ジョッキを2つ叩きつけて、去っていきます。 「始発で香港へ飛びますから、今夜は芝で宿を取ってあります。今週中にはペシャーワルを発つ予定です」 「それは慌ただしい。ご家族には?」 「ええ。・・・・・一日だけじゃ、会っても、別れが辛いだけですがね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「因果な商売です。正直もう、何もかも止めにして、こなたとこなみのためだけに、  ただ生きているだけで、それで幸せじゃないか、と、思わない日はないのですが・・・・・・・・  ただ生きているだけの暮らしが、私には、どうにも耐えられない。  こんな生き方は、かのとくんには、させたくないですね。こなみのためにも」 彼にも、他人には言えないことが、たくさんあったのです。 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ おそらく、似たような話題で盛り上がっているのでしょう。 やかましい店の奥で一際やかましく、初老の酔客の一団が、何かを唄っています。 ちょっと聞いたことのない唄です。   『どこから見てもスーパーマンじゃない    スペースオペラの主役になれない    危機一髪も、救えない    ご期待通りに現れな~い・・・・・・・・・・・・・・』 先ほどから繰り返し、繰り返し唄うので、店の客は皆、何となく歌詞を覚えてしまいました。 なにしろ男なら、誰にとっても耳に痛い詞ばかり。 二人も、何やら身に覚えがあるのか、しきりと鼻をこすったり、頬を掻いたりしています。   『ため息つくほど粋じゃない    拍手をするほど働かない    子供の夢にも出てこない    大人が懐かしがることもない・・・・・・・・・・・』 それぞれ道は違っても、自分以外の何かのため、必死に闘い続けて、今の彼らがありました。 そのことに、後悔はありません。 それでも、来し方行く末に、サッパリ自信の持てない二人が、ここにいました。   『だからといって、    ダ メ じゃない    ダ メ じゃない    スター ダスト ボーイズ    ダメじゃない    ほ し くずの オ レ たち    結構いいトコ あるんだぜ~・・・・・・・・・・・・・』 かつての夢は見失っても、 それぞれがよき良人であり、よき父親であるべき使命から、二人は逃れるつもりはありません。 たしか昔、何かにそう誓った覚えが、彼らにはありました。 果たせるかどうかは、わからないけれど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ とにかく今はただ、後を振り返ることなく、走り続けるのみ。文句は地獄で聞けばいい。 迷いも不安も愚痴も言い訳も何もかも、苦い泡といっしょに呑み下し、二人は店を出ることにしました。 「うまくいけば、桜の頃には、こちらに戻れそうです」 「次回は花見ですか。柊くんも、手料理を振舞ってくれますよ。お勧めはしませんが」 「妻の実家の近くに、桜の名所があるんですよ。」 「それは、ちょうどいい」 「義父を紹介しますよ。また面白い人でして・・・・・」 「楽しみにしていますよ。今度こそ、ご家族とご一緒に。」 あるいは今生の別れとなるかもしれないこの時、それもまたいつものこと、と二人は、 実に何気なく再会を約し、共に去ってゆきました。 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ 一方、同じころ。 「どわぁぁぁ~りんのぶわかぁぁぁぁ~~~~~」 近所迷惑な叫び声が響くのは、こなたの家です。 「ああ゛~~、半年、あと半年だヨ!つらいよぉ~、遠恋は・・・・・」 「遠距離でも恋愛違うだろ。さあ、飲んだ飲んだ」 高校を卒業して二十数年後の二人です。 こなたのヤケ酒に、かがみが付き合うのも、もはや年中行事でした。 「だいたい、結婚する時、止めただろ~。あの男は家では飼えない生き物なんだから。根っから引きこもりのあんたとは、種族が違うでしょ」 「違ったっていいよ!お酒も豚肉もいらないよ!アラビア語もペルシャ語もウルドゥー語もパシュトゥー語も、ちゃんと勉強するから、いつも一緒にいたいよ!」 「って、ソレ、一夜漬けじゃ絶対ムリだぞ。まあ、アレにもいろいろ考えはあるんだろ。女の身で暮らすには、厄介な土地だからね。   それにね、ああいう男は、すぐに出て行きたがる癖に、帰る場所が恋しくなるタイプだから、待ってれば必ず帰ってくるって。  その時、あんたがちゃんと、ここに居ないとダメでしょ」 「ふええ~~ん ヤダヤダヤダ~」 「オラオラ、飲みが足んないぞ~」 ひとしきり騒いでしばらく経つと、こなたは、なにやらぶつぶつ云いながら、グラスを手のひらでこね回し始めます。 最初のガス抜きが済んだのを見届けると、かがみはようやく、自分のグラスに手をつけました。 「フンだ、こんなかわいいニョーボとコドモほっぽらかして、なにが面白くて外国なんか」 「いいかげん、往生なさい」 「トホホ~、おかげさまで、すっかり『待つ女』が板に付いちゃったヨ」(しなっ) 「なにやってんの」 「だから~、大人の女の色気をだね、」 「おー?、そうかそうか、それじゃこないだみたいに、外国のホテルであんたが未成年と間違われて、ダンナが○○容疑で拘束されたりしても、  これからは助けに行ってやらなくてもいいんだな?」 「かがみ~ん、こんなトコで持ち出すことないじゃないのサ、私ら夫婦の恥部を」 「ったくぅ、このトシで十代に見えるだなんて、どんだけ~って、このおォォォ」 「ぐぐぐぐぐぐぐるじい、かがみ、酔ってる?もしかして、酔ってる?」 空のボトルが少しずつ並んで、やがて水割りの氷も無くなるころ。 「それにしてもさ~」 「ん~?」 「かがみ、ありがとね~」 「な、なによ。改まって」 「私ら夫婦が、こんな不定期婚みたいなのやってられるのも、かがみが、いてくれるおかげだからね」 「べ、別にそんなつもりでいるわけじゃ、ないから」 「んふふ~」 「・・・・・・・何が言いたい」 「そういうトコ、高校の時のまんまだぁね~」 「まあ、なんだかんだと、切れない腐れ縁だわ。  だからこそ、BBCニュース観て涙ぐんでるあんたを、放っておくわけにはいかないじゃない」 「むぐぅ! ・・・・・・・・・・・よく見ていらっしゃる」 「当たり前でしょ。お互い、ダンナより付き合い長いんだから」 その昔、学窓のもとで、心を擦り減らす孤独を、共に癒しあった二人がいました。 少し道は分かれたにしても、変わらずこうして助け合って生きてゆける、 この日の在ることを二人は、心から嬉しく思いました。 「かがみ~~ん、慰めて~」 「だ~~ッ! 抱きつくな、酔っ払い!!」 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ さらに同じころ。 こなたとかがみの子供たちは・・・・ 「こなみ」 「なあに、かのとくん」 「もし仮に、仮にだぞ、オレが・・・・・・・・・」 「え、何?」 「ん・・・・・・・・・ なんでもない。あした話す」 「何?気になるヨ」 「なんでもないよ。もう遅いから、早く寝な・・・・・・・・・」 「なによ~!そんなんだったら、自分のおフトンで寝てよね」 さまざまに想いを含んで、夜は更けてゆきます。 そして夜が明ければ、またそれぞれの明日が始まるのです。 (おしまい) **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
~( 中央区 月島 )~ 下町情緒の残る街 有名なもんじゃ焼商店街から少し外れたところにある、とある店。 木造倉庫と思しき小さな建物の中から、裸電球の明かりと、異様な熱気が漏れてきます。 粗末なテーブルと腰掛けが外の歩道にまではみ出し、それでも足りずに、小型プロパンの上に座らされている客もいます。 その歩道の脇では、リヤカー山積みの発泡スチロールの箱から、マグロが恨めしそうに、客を睨んでいます。 酔客の喚声と、中国人らしい店員の、喧嘩腰の客あしらいが、この店独特の活気を演出しています。 こなたとかがみが高校を卒業して、二十数年後の、ある夜のこと。 彼女らの良人となった男たちが、この店で再会の杯を酌み交わしています。 かがみの夫は、都内に小さな法律事務所を構える弁護士です。 妻の親友の良人を、彼がもてなすのは、いつもこんな気の利かない、それでいて本当に旨い店ばかりでした。 「困るんですよ、ここのネギマが時々、どうしても恋しくなって」 「近頃では海外でも、マグロのいいのは出るでしょう」 「いや、ここのみたいなのが、外国で出たりしたら、余計に困りますよ。ますます日本に来づらくなる」 「ハハハハ・・・・ 国内に腰を落ち着ければ、いつでも食べに来れますよ」 「そうなんですが、私の記事は、国内では需要がない」 こなたの夫は、ジャーナリストとして、主に海外で活動をしています。 「怖くて訊けませんよ、外国を飛び回って、一年に何日も家にいないような夫をどう思うか、なんてね」 「いやいや、奥さんも、一緒にいられるようになれば、お喜びになるはずですよ。もちろん、娘さんも」 「妻も娘も、私のいない生活の方に慣れていますからね。急に家をウロウロするようになったら、どうなるのか・・・・・・」 「柊くんが、こぼしてましたよ。もうアイツの夫の替わりは御免だから、いい加減、本物の夫に戻ってきてほしいと」 「あの二人の、仲がいいのをいいことに、長いこと夫の役をかがみさんに押し付けてきましたからね」 「全くですよ」 「会ったら、また怒られるなぁ」 普段、家族の話題など、滅多に口にしない二人ですが、お互いがこの相手の場合は別でした。 「あなたもこれからは『家にいる生活』にも慣れないといけませんね」 「先生、一度お訊きしたかったんですが、いつも家にいる夫というのは、一体、毎日どんな顔してるものなんですかね」 「家で私が、どんな顔をしているかなんて、自分ではわかりませんよ。一度、柊くんに聞いてみてください」 「先生、せめて家では、かがみさんのこと、名前で呼んであげてくださいよ。いつまで経っても『柊くん』じゃ、可哀そうですよ」 「それだけは勘弁してください。十も年下じゃ、いまだにどう接してよいものやら」 「これは、先ずはあなたが、結婚生活に慣れないと」 ネギマが串ばかりになる頃、大きく切って軽くヅケにした赤身が山盛りでやってきます。 「最近、息子が海外で働きたいと言い出しましてね。どうも、あなたの影響のようです」 「彼に最初に英語を教えたのは、私ですからね。跡取り息子を、横取りするような真似をして、申し訳ない」 「いや、私は正直、今の仕事を、息子には継いでほしくないのです」 弁護士といっても、ほとんど法廷には立たず、示談や調停といった仕事を、専らとしてきた彼のことです。 他人に言えないようなことが、たくさんありました。 「私の代わりに、息子に夢を与えてくれたのだから、これは、私の方が感謝すべきですね」 「とんでもない」 「どうも、あれの父親になるには、私はいささか、歳をとりすぎたようです」 「この分だと、娘には、一生恨まれそうだ」 ハイ、チュウナマ、オマチネ! 噛みつくように言い残すと、店員は中ジョッキを2つ叩きつけて、去っていきます。 「始発で香港へ飛びますから、今夜は芝で宿を取ってあります。今週中にはペシャーワルを発つ予定です」 「それは慌ただしい。ご家族には?」 「ええ。・・・・・一日だけじゃ、会っても、別れが辛いだけですがね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「因果な商売です。正直もう、何もかも止めにして、こなたとこなみのためだけに、  ただ生きているだけで、それで幸せじゃないか、と、思わない日はないのですが・・・・・・・・  ただ生きているだけの暮らしが、私には、どうにも耐えられない。  こんな生き方は、かのとくんには、させたくないですね。こなみのためにも」 彼にも、他人には言えないことが、たくさんあったのです。 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ おそらく、似たような話題で盛り上がっているのでしょう。 やかましい店の奥で一際やかましく、初老の酔客の一団が、何かを唄っています。 ちょっと聞いたことのない唄です。   『どこから見てもスーパーマンじゃない    スペースオペラの主役になれない    危機一髪も、救えない    ご期待通りに現れな~い・・・・・・・・・・・・・・』 先ほどから繰り返し、繰り返し唄うので、店の客は皆、何となく歌詞を覚えてしまいました。 なにしろ男なら、誰にとっても耳に痛い詞ばかり。 二人も、何やら身に覚えがあるのか、しきりと鼻をこすったり、頬を掻いたりしています。   『ため息つくほど粋じゃない    拍手をするほど働かない    子供の夢にも出てこない    大人が懐かしがることもない・・・・・・・・・・・』 それぞれ道は違っても、自分以外の何かのため、必死に闘い続けて、今の彼らがありました。 そのことに、後悔はありません。 それでも、来し方行く末に、サッパリ自信の持てない二人が、ここにいました。   『だからといって、    ダ メ じゃない    ダ メ じゃない    スター ダスト ボーイズ    ダメじゃない    ほ し くずの オ レ たち    結構いいトコ あるんだぜ~・・・・・・・・・・・・・』 かつての夢は見失っても、 それぞれがよき良人であり、よき父親であるべき使命から、二人は逃れるつもりはありません。 たしか昔、何かにそう誓った覚えが、彼らにはありました。 果たせるかどうかは、わからないけれど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ とにかく今はただ、後を振り返ることなく、走り続けるのみ。文句は地獄で聞けばいい。 迷いも不安も愚痴も言い訳も何もかも、苦い泡といっしょに呑み下し、二人は店を出ることにしました。 「うまくいけば、桜の頃には、こちらに戻れそうです」 「次回は花見ですか。柊くんも、手料理を振舞ってくれますよ。お勧めはしませんが」 「妻の実家の近くに、桜の名所があるんですよ。」 「それは、ちょうどいい」 「義父を紹介しますよ。また面白い人でして・・・・・」 「楽しみにしていますよ。今度こそ、ご家族とご一緒に。」 あるいは今生の別れとなるかもしれないこの時、それもまたいつものこと、と二人は、 実に何気なく再会を約し、共に去ってゆきました。 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ 一方、同じころ。 「どわぁぁぁ~りんのぶわかぁぁぁぁ~~~~~」 近所迷惑な叫び声が響くのは、こなたの家です。 「ああ゛~~、半年、あと半年だヨ!つらいよぉ~、遠恋は・・・・・」 「遠距離でも恋愛違うだろ。さあ、飲んだ飲んだ」 高校を卒業して二十数年後の二人です。 こなたのヤケ酒に、かがみが付き合うのも、もはや年中行事でした。 「だいたい、結婚する時、止めただろ~。あの男は家では飼えない生き物なんだから。根っから引きこもりのあんたとは、種族が違うでしょ」 「違ったっていいよ!お酒も豚肉もいらないよ!アラビア語もペルシャ語もウルドゥー語もパシュトゥー語も、ちゃんと勉強するから、いつも一緒にいたいよ!」 「って、ソレ、一夜漬けじゃ絶対ムリだぞ。まあ、アレにもいろいろ考えはあるんだろ。女の身で暮らすには、厄介な土地だからね。   それにね、ああいう男は、すぐに出て行きたがる癖に、帰る場所が恋しくなるタイプだから、待ってれば必ず帰ってくるって。  その時、あんたがちゃんと、ここに居ないとダメでしょ」 「ふええ~~ん ヤダヤダヤダ~」 「オラオラ、飲みが足んないぞ~」 ひとしきり騒いでしばらく経つと、こなたは、なにやらぶつぶつ云いながら、グラスを手のひらでこね回し始めます。 最初のガス抜きが済んだのを見届けると、かがみはようやく、自分のグラスに手をつけました。 「フンだ、こんなかわいいニョーボとコドモほっぽらかして、なにが面白くて外国なんか」 「いいかげん、往生なさい」 「トホホ~、おかげさまで、すっかり『待つ女』が板に付いちゃったヨ」(しなっ) 「なにやってんの」 「だから~、大人の女の色気をだね、」 「おー?、そうかそうか、それじゃこないだみたいに、外国のホテルであんたが未成年と間違われて、ダンナが○○容疑で拘束されたりしても、  これからは助けに行ってやらなくてもいいんだな?」 「かがみ~ん、こんなトコで持ち出すことないじゃないのサ、私ら夫婦の恥部を」 「ったくぅ、このトシで十代に見えるだなんて、どんだけ~って、このおォォォ」 「ぐぐぐぐぐぐぐるじい、かがみ、酔ってる?もしかして、酔ってる?」 空のボトルが少しずつ並んで、やがて水割りの氷も無くなるころ。 「それにしてもさ~」 「ん~?」 「かがみ、ありがとね~」 「な、なによ。改まって」 「私ら夫婦が、こんな不定期婚みたいなのやってられるのも、かがみが、いてくれるおかげだからね」 「べ、別にそんなつもりでいるわけじゃ、ないから」 「んふふ~」 「・・・・・・・何が言いたい」 「そういうトコ、高校の時のまんまだぁね~」 「まあ、なんだかんだと、切れない腐れ縁だわ。  だからこそ、BBCニュース観て涙ぐんでるあんたを、放っておくわけにはいかないじゃない」 「むぐぅ! ・・・・・・・・・・・よく見ていらっしゃる」 「当たり前でしょ。お互い、ダンナより付き合い長いんだから」 その昔、学窓のもとで、心を擦り減らす孤独を、共に癒しあった二人がいました。 少し道は分かれたにしても、変わらずこうして助け合って生きてゆける、 この日の在ることを二人は、心から嬉しく思いました。 「かがみ~~ん、慰めて~」 「だ~~ッ! 抱きつくな、酔っ払い!!」 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ さらに同じころ。 こなたとかがみの子供たちは・・・・ 「こなみ」 「なあに、かのとくん」 「もし仮に、仮にだぞ、オレが・・・・・・・・・」 「え、何?」 「ん・・・・・・・・・ なんでもない。あした話す」 「何?気になるヨ」 「なんでもないよ。もう遅いから、早く寝な・・・・・・・・・」 「なによ~!そんなんだったら、自分のおフトンで寝てよね」 さまざまに想いを含んで、夜は更けてゆきます。 そして夜が明ければ、またそれぞれの明日が始まるのです。 (おしまい) **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 渋さと笑いと大人の憂い、 &br()絶妙なバランスと描写が素晴らしいです! -- 名無しさん (2010-04-28 00:14:25)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー