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うつるもの4」(2023/01/01 (日) 14:21:24) の最新版変更点

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今だけ、と誓ったあの夜。 そう誓ったはずだったのに……。 あの日以降、私の決心は何度も危殆に瀕していた。 こなたに会いたい。抱きしめたい。 やっぱり、一度甘えちゃうとダメなのね……。 無駄な抗いかもしれない。 でも、もしかしたら、まだなんとかなるかもしれない。 そう期待をこめて、最近はあまりこなたと会ってない。 1日に1回。 多分それくらい。 それでも傍から見たら、多いって言われると思う。 でも、これが限界。 これより多くも少なくも出来ない。 「かがみ~、なんで最近来ないの~?」 お弁当後の昼休み、私は日下部と峰岸と話していたところに、こなたがやってきた。 こなた、来てくれたんだ……。 私の心が一瞬揺らぐ。 「こな……」 「おぉ~っす、チビッコ~。弁当は残ってないぞ~」 「みさちゃん、それは違うって」 「みさきち、私はかがみと違って、お弁当ぐらいじゃ釣れないよ?」 ううん、ダメよ、私……。 私には突っ込んでる余裕なんて、もうなかった。 こなたのためを……いや、私自身のためを思うなら、それはダメ。 こなたが二人と話してる間に再び決意を固める。 「何か用?」 私はなるべくいつも通りに接しようとするけど、意識するあまりか、 少し冷たい感じになってしまった。 こなたが動揺したような表情になる。 けど、それも一瞬。すぐにいつもの顔に。 「むぅ、かがみん、酷いじゃないか~せっかく嫁の様子を見に来たのに、 それはないんじゃないの~?」 嫁――――。 ねぇこなた、本気でそう思ってくれてるの? 今ここで口にキスしても、良いの? 思いっきり抱きついても、良いの? 好きって何度も言っても、良いの? ――答えはNO。 分かりきってること。 それなのに、なんで期待しちゃうんだろ……。 「ひ、柊~~!い、いつから夫婦になったんだ!?」 「なってないわよ。こいつがデタラメばっかり言ってるだけで、ただの友達よ」 騒ぎ始めた日下部のお陰で、何とか気持ちを少しだけ切り替えられて、言葉を返す。 『友達』。 その言葉は私自身へ戒めでもあった。 夫婦……正しい言い方か分からないけど、なれたらどれだけ良いか。 でも、なれない。 なるわけにはいかない。 なりたいと思っちゃいけない。 それが、こなたのためであり、私のためだから……。 「かがみ、あの夜のことを忘れちゃったの?あんなに激しく愛し合ったのに……」 「ひ、柊、お前ってやつは……!」 「柊ちゃん、す、凄いんだね……」 「そこ二人、なに信じてるのよ!ウソだってすぐわかるでしょ!第一―――」 ハッとなって、思わず口を閉じる。 『私の思いはそんな卑猥な物じゃない。』 危うく、そんな言葉が口から出そうになった。 「第一、私たち、女同士でしょ」 私は取り繕うように、元気なくそう言った。 その言葉は、いつもに自分自身に言い聞かせるものでもあった。 「大丈夫だよ、かがみん!世界には、同姓でも結婚出来る国もある! いざとなったら駆け落ちだ~!」 こなた……なんでそうやって、私の思いを揺さぶるの……? 本気にしちゃうよ……。 だからお願い……もうやめて……。 「かがみ……?どうかしたの?」 こなたの言葉に、現実に引き戻される。 「な、何でもないわよ!」 「あらあら、赤くなって……私とのアツアツの結婚生活を想像しちゃったのかなぁ~?」 「うるさいわね、違うって言ってるじゃない!!」 強い語調。もう、後の祭り。 ……またやっちゃった……。 いつも通りにしようって思うのに、空回りばっかり……。 こなたの顔を伺うと、やっぱり驚いていた。 「おぉ~、柊、こえ~」 「ひ、柊ちゃん、どうしたの……?」 「わ、悪かったわね。私はどうせ怖いですよ」 こなたの顔を直視できず、私は日下部の方に向かって言った。 「そ、それじゃ、私はそろそろ帰るよ。かがみにみさきちに峰岸さん、またね」 「う、うん……」 「またな、チビッコ~。元気でな~」 「また来てね、泉ちゃん」 こなたの声に、ちょっと元気がなかった。 多分、上手く隠したつもりだったんだと思うけど、私にはすぐに分かった。 けれど、私は何もしてあげられなかった。 こなたはあの日以来、もうずっと来てない。 私も会いに行かな―――違う。 ―――行けなかった。 どうして、こうなっちゃったんだろう………。 どこから、こうなっちゃったんだろう………。 私はそんな問いを、泣きそうになりながら、解く。 解は、呆気なく出た。 そこに、難しい公式や構文、ましてや応用力なんて、少しも必要なかった。 私のせい。 私がこなたを好きになっちゃったせい。 全部、私のせいでおかしくなっちゃったんだ。 それでも私は、その気持ちを捨ててでも、幸せな時間を護ろうとして―――― ―――結局、全部、失ってしまった。 そっか……。 私自身が、幸せな時間を手放しちゃったんだ……。 なら、私が『いつものみんな』の中にいれなくても、仕方ないよね……。 ついこの間までは、その中にいた。 でも今はもう、その中にいない。 ―――――それなら、私は今、どこにいるの……? 閉められたカーテンの隙間から、夜明けを象徴する日差しが差し込む。 それは、数時間前からついさっきまでずっと真っ暗だった部屋に差し込んだ、久しぶりの光。 そんな、良いイメージの光。 でも、私の気分は憂鬱だった。 もう朝なのね……。 学校―――行きたくないな……。 そうは思うけれど、結局登校した。 でも、授業の内容はほとんど頭に入ってこないまま、時間だけが過ぎていった。 「屋上に呼び出し、かぁ」 お弁当を食べ終わってすぐ、そのまま屋上に向かっている。 期待と不安の両方に思いを膨らませるような展開。 そんな気分だったら、こんな薄暗い屋上へと続く階段も、何とも思わないだろう。 それが、普通なら。 でも、今回はイレギュラー。 その微妙な暗さが、この後に言われるであろうことと相まって、余計に私を落ち込ませる。 今より少し前――――。 私は、日下部と峰岸とお弁当を食べていた。 「柊ぃ~、そんな暗い顔して、どうしたんだよ~」 「柊ちゃん、なにか悩み事なら、相談くらいなら私たちでも乗れるよ?」 二人が突然そんな話をしてきた。 やっぱり、わかるくらいなんだ……。 「別に大丈夫よ。最近寝つき悪いから、そのせいかも」 確かに相談できたら、すごく楽になるけど、それはできない。 だから私は誤魔化した。 「そうならいいけど……。でも、言いたくなったら、遠慮しないでね?」 峰岸、今のがウソだって分かってるわね……。 『言いたくなったら』なんて、私に悩み事あるって言ってるような物じゃない。 そうは思いながらも、私の口からでたのは、文句とはまるで逆。 「うん、そうさせてもらうわ。ありがとね」 峰岸の言葉を半ば肯定するような内容だった。 自分で思ってる以上に、峰岸の言葉に救われてるのかな……。 峰岸の柔らかな笑みからは、その本心までは読み取れなかった。 「なんだよなんだよ、柊、暗そうにしちゃって、まるでさっききた奴らみたいだぞ!」 「さっき来た?」 私は思わず日下部に尋ねる。 「あ……すっかり忘れてた……」 うっかりしたような顔になる日下部。 「そいつらに、お昼になったら屋上で待ってるって柊に伝えてくれっていわれたんだった!」 「なッ!?ななななななななあ!?」 そんなわけで、私はすぐに屋上に向かうことになった。 「すぅ~、はぁ~」 屋上へと続く扉の前。 私は一度気持ちを整理する意味をこめて、深呼吸をした。 「よし!」 準備完了!頑張れ、私っ! 扉を開けると、 まず真っ青な空が現れた。 そこは嫌な事なんて一つもなくて、あまねく場所に神様が祝福してくれてるみたいだった。 私の気持ちも、そうなれれば良いのにな……。 そんな幻想を吹き飛ばし、現実に戻る。 屋上を見渡すと、そこはフェンスで囲まれたコンクリートの床が、全体に広がっていた。 おもむろに、そのフェンスに近づき、そこから見える景色を見る。 フェンス越しに見える街や自然の風景。 そこはいつも私がいるところ。 でもそこには高いフェンスに遮られて、手が届かない。 「なんで、届かないんだろ……?少しでも手を伸ばせば、届きそうなのに……」 いつも自分がいる心地良いところ。 それなのに、すごく遠く感じられる。 「なんで、あんなに遠いんだろ……?」 ――丁度、今の私ね……。 やめよ………。余計に悲しくなるだけだから……。 私はフェンスに背を向けて、本来の目的を達成しようと、入り口から死角だった部分を見る。 そこにあった人影は2つ。 「ごめん、死角で気づかなかったわ」 私はそちらにゆっくりと歩み寄りながら、続ける。 「お待たせ、二人とも。ごめん、日下部が私に言いそびれてて……」 「いいえ、私たちのほうこそ、突然このようなところにお呼び出し してしまって、申し訳ありませんでした」 私のことを呼び出したのは、みゆきとつかさだった。 二人とこうやって顔を見合わせて話すのは、久しぶりだった。 みゆきは言うまでもなく、つかさとも、こなたと会わなくなってから 何となく話しづらくて、家でもあんまり話してなかった。 そんな久しぶりに会う二人だけど、顔はいつになく真剣で、私の見たことのないものだった。 このときにはもう、扉の前の深呼吸の効果はなくなっていた。 少しの間、静寂が続く。 学校にはいっぱい人がいるはずなのに、私たちの周りだけ、 まるで別の空間に切り取られたかのように、音がなかった。 ―――そんな静寂を破ったのは、以外にもつかさだった。 「お姉ちゃん、聞きたいことと聞いて欲しいことがいくつかあるんだ」 その言葉に、いつもの子供っぽい雰囲気はない。 そんなつかさに、思わずたじろぐ。 「な、なに……?」 「実は今日、こなちゃんが休んだんだ」 「えっ……!?」 こなたが休んだ……?なんで? 「理由は私もわからないよ。でもね………こなちゃん、最近、いっつも元気なかったんだ。 私たちが話しかけても上の空だし、返事も相づちうつくらいで……」 「そ、そうなんだ……。あいつらしくないわね。新型ウィルスかなんかかしら?」 呼び出してまでこんなことを言うんだから、違うってわかってる。 でも、動揺した私は、それを隠すために、そんなことを言っていた。 今度はみゆきが口を開いた。 「ある意味で、そうかもしれませんね。泉さんがそうなり始めたのが、 丁度かがみさんが私にあの話をされて、数日経った頃からでした」 あの話―――。 思えば、私はあの後に気付いたのよね……。 聞かなければ良かった、なんて無責任なことは言いたくないけど、 やっぱり心の隅でそう思ってる自分がいた。 そう思ってしまう私が、恨めしかった。 「関係性等は一切わかりません。あくまでも、私の独り言のようなものだと思って下さって結構です」 みゆきはそう前置きをしたけど、自分の仮説にかなりの自信があるように見えた。 そして私にもその内容が、大体だけど予想できた。 「泉さんの元気がなくなり始めた時期は、 丁度かがみさんが、あまり私たちのクラスに来なくなった時期とリンクしますね」 やっぱり……。 「実はあの期間、泉さんは何度もかがみさんのクラスに行くための理由を考えているようでした。 こっそりと考えていたみたいですが、元気がないのが相まってか、 案を書いた紙をそのまま仕舞わずに置いておいたり、 独り言のように呟いているのが聞こえてきえたりしていました」 意外……。こなたがそんな風になるなんて……。 「かがみさんの教室の前で、うろうろしていらしたこともありましたよ。 私が声をかけたら、とても驚いていらっしゃいました」 みゆきが、少し笑いながら言う。 確かに、そんなこなたを見たら普段なら笑ってしまうかもしれない。 でも、私は笑えなかった。 多分、みゆきも本心から笑ってなんていない。 この雰囲気を、少しでも和らげようとしてくれてるんだと思う。 「このような点から、泉さんはかがみさんに会えない寂しさを感じていた、と考えるのが妥当ではないでしょうか」 笑顔でそう締めくくられたみゆきの話は、理路整然としていた。 もしみゆきが言うことが本当なら……。 こなた……私がいなくて、寂しいって思ってくれてたの……? 私の目にうつるこなたは、そんな風にはとても見えなかったのに……。 「お姉ちゃん、聞きたいこと聞いて良い?」 今度はまた、つかさが口を開いた。 「うん……。答えられることなら……」 「大丈夫、答えられることだから」 いつになく、つかさの言葉に重みが感じられる。 私は何も言えず、頷いた。 「お姉ちゃん、こなちゃんのこと、どう思ってるの?」 「大切な友達……よ」 「ホントに、そう思ってるの?」 「う、うん……」 もう、つかさもみゆきも知っている。 だからこんなこと聞いてきてる。 それなのに……なんで私はまだこんなこと言い続けてるんだろ……。 「なら、どうして、会おうとしないの……?」 「そ、それは……」 「友達なら、会えるよね?今までだって、毎日会ってたもんね?」 何も、答えられなかった。 それから、また少し静寂が続く。 が、それを破ったのは、以外な存在だった。 キーンコーンカーンコーン――。 授業開始の予鈴チャイムが鳴り響いた。 「じゅ、授業が始まっちゃうわね……」 私は思わずそう言っていた。 逃げようとしていた。 けれど、つかさが無言で私を見つめ続ける。 『質問の答え、まだもらってないよ』 つかさの目が、私のそう言っていた。 それは、私に逃げることを許さなかった。 結局、私は何も言えずまた静寂があたりを包んだ。 キーンコーンカーンコーン――。 再び静寂が破ったのは、チャイム。でも、今度は授業開始の本令のものだった。 それが鳴り終わると、つかさは何も言えない私を見かねてか、自分から口を開いた。 「お姉ちゃん、私もゆきちゃんも、もう分かってるんだ……」 「やっぱり……そうだったんだ……」 「ごめんなさい、かがみさん……」 「ううん、良いの……あんなこと、聞いてたら分かるわよね……」 みゆきとつかさ、二人にあんなことを聞いたんだから、 確かに気づかれないはずがないわよね……。 「お姉ちゃん、私、『女の子同士だから、やっぱりビックリするかな』って言ったよね。 確かに私はその時そう思ったよ。でも、その後にこなちゃんとお姉ちゃんのこと考えてみたら、 別に変じゃないな、って思ったんだ」 「でも……」 「私、思ったんだ。回りの人がどう思ったって、本人たちが良ければ、それが良いんだって。 考えてみれば当たり前のことなんだよね。 どうして、それにすぐ気づけなかったんだろうって、今思うとすっごい不思議だよ」 つかさ、ありがとう……。でも……でも、私……。 「大丈夫、お姉ちゃんは一人じゃないよ。私たちがいるし、それに――――こなちゃんもいるからね」 「こなた……」 呟いてしまったその名前。 いつも私の近くにいたその人。 今でも、手を伸ばせば届くんじゃないかと思える人。 「でもいまのままじゃ、こなちゃんはいないよ」 でも、その人は私の手の届かないところにいる。 それを改めて、つかさに通告された。 「今のままで良いの?お姉ちゃんは、我慢できるの? こなちゃんと一緒にいれなくて、会えなくて、それでも満足ってちゃんと言えるの?」 満足なんてできるわけない……。 私は欲張りだから、もっともっと、こなたを欲しいって思ってる。 でも…………。 「でも、私にはそんな資格……」 「その資格を持ってるのは、私でもゆきちゃんでもないよ。他でもない、お姉ちゃんしか持ってないんだよ?」 私しかもってない……? 「きっと今、泉さんは不安で押しつぶされそうになっています。……私たちでは、何もしてあげられませんでした。 そこから救い出してあげられるのは、かがみさんだけですよ」 私が、こなたを救い出してあげられる……? 「でも、こなたはきっと迷惑よ……私の気持ちなんか伝えられても……」 「お姉ちゃん……ちゃんと、向き合わなくちゃだめだよ」 「―――ッ!」 つかさが………怒ってる―――。 ―――私に―――。 生まれてきてからずっと一緒だった。 いつもおっちょこちょいで、でも根は真面目でちゃんと頑張ってて。 ホラー映画みた後に、私の布団に潜り込んできちゃって。 お姉ちゃん、っていつも私を慕ってくれて。 そんなつかさが、いつまでも臆病に言い訳して、逃げようとしている私に……。 「お姉ちゃん……こなちゃんに会いたくないの?」 「そ、そんなことない……」 「なら、こなちゃんを助けてあげて! こなちゃんだって、きっとお姉ちゃんと一緒にいたいんだよ!」 つかさの目には、涙が溜まっていた。 「こなちゃん、可愛そうだよ……。暗い顔して、話しかけづらくて……。でも、それはこなちゃんだけじゃないよ! お姉ちゃんも、ずっとこなちゃんとおんなじ顔だったんだよ!」 その目に溜まっていた涙が、溢れ出す。 それと同時に、私の中に溜まっていたものが、堰を切ったようにあふれ出した。 「私だってもう嫌よ!!こんな状態、どうにかしたい!! でも、もし私の気持ちを伝えても、こなたに迷惑かけるだけよ!! そんな目で自分を見てる女がいるなんて分かったら、余計にこなたを不安にさせちゃうわよ!! そうなったらどうなるかわかる!?もう私とこなたと一緒にいれない! つかさやみゆきとも一緒にいれないの! 今ならまだ、なんとか『会うこと自体』は可能よ! でも、もしそうなったら、会うことすら許されなくなるの!! 私は今までの全てを失うの!!それが、どれだけ辛いか……!」 いつしか、私の目からも涙が零れていた。 こなたに拒絶されたとしたら――そう考えたら、戦慄きがとまらない。 「もしかしたら、お姉ちゃんの気持ちまではこなちゃんに届かないかもしれない。 でも、こなちゃんはお姉ちゃんを避けたりなんてしないよ、絶対」 つかさの目にはまだ涙が溜まっていたけど、その顔には笑みが浮かんでいた。 それは、つかさと向き合った私を喜んでいるようだった。 「なんでそんなことが言えるのよ……」 そうあって欲しい。でも、もしそうじゃなかったら――――。 臆病な私は、つかさの言葉に反論せずにはいられなかった。 「こなちゃんは、ちゃんと本当の気持ちを伝えてくれた人に、 そんな酷いことをするような人じゃないよ」 確信しきったように言うつかさ。 「お姉ちゃん、怖いのは分かるよ。 私もお姉ちゃんの立場だったら、多分泣いてばっかりで何も出来なかったと思うんだ。 ……でもね、お願い。こなちゃんを信じてあげて。 他のだれより、私やゆきちゃんより、今はこなちゃんを信じてあげて」 こなたを信じる――――。 ずっと、そうすることを忘れていた気がする――――。 不安に囚われるばかりで、相手の事を信じてなかった。 ねぇ、こなた―――? そんな私でも、こなたを信じても、良い――――? 「かがみさん、似たような言葉がいくつかありますが、このような言葉をご存知ですか? ――『“辛”さが“幸”せになるまで、あと“一”歩』。 かがみさん、あと一歩なんです」 「今ならお姉ちゃんとこなちゃんは一歩で届くよ。 でも、もうすぐ、一歩じゃ届かなくなっちゃう……!」 そうなんだ……。そうだったんだ……!! 私が、あと一歩踏み出す勇気を振り絞れば―――― そうすれば、この“辛”さは変われるんだ……!! 一歩より遠くなったら、もう“幸”せにはなれないんだ……!! いつしか、私の涙は止まっていた。 「みゆき。私に、出来るかな?」 私はしっかりとみゆきを見つめて、聞く。 「かがみさんなら、きっと……いえ、絶対にできます」 「みゆき……ありがと!」 「信じてます、かがみさん」 「うん、お願いね」 今度は、しっかりとつかさを見つめて、聞く。 「つかさ。私、出来るかな?」 「お姉ちゃんが、できないことなんてないよ!」 「料理はできないわよ?」 「あう、そ、それはぁ……」 「ふふ、つかさ、ありがと!」 「う、うん!」 ありがとう、二人とも……。 二人がいてくれて、本当に良かった。 「私、行ってくる」 「いってらっしゃいませ、かがみさん!朗報をお待ちしています」 「いってらっしゃい、お姉ちゃん!頑張ってね!」 二人の笑顔に見送られて、私はそのまま走り出した。 もう、迷わない。 もう、躊躇わない。 もう、立ち止まらない。 目指す場所は、ただひとつ。 向き合う相手は、ただひとり。 ―――――こなた…………待っててね―――! -[[うつるもの5>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/125.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - そして、感動のクライマックスへ………!! -- 名無しさん (2009-09-29 14:11:48)
今だけ、と誓ったあの夜。 そう誓ったはずだったのに……。 あの日以降、私の決心は何度も危殆に瀕していた。 こなたに会いたい。抱きしめたい。 やっぱり、一度甘えちゃうとダメなのね……。 無駄な抗いかもしれない。 でも、もしかしたら、まだなんとかなるかもしれない。 そう期待をこめて、最近はあまりこなたと会ってない。 1日に1回。 多分それくらい。 それでも傍から見たら、多いって言われると思う。 でも、これが限界。 これより多くも少なくも出来ない。 「かがみ~、なんで最近来ないの~?」 お弁当後の昼休み、私は日下部と峰岸と話していたところに、こなたがやってきた。 こなた、来てくれたんだ……。 私の心が一瞬揺らぐ。 「こな……」 「おぉ~っす、チビッコ~。弁当は残ってないぞ~」 「みさちゃん、それは違うって」 「みさきち、私はかがみと違って、お弁当ぐらいじゃ釣れないよ?」 ううん、ダメよ、私……。 私には突っ込んでる余裕なんて、もうなかった。 こなたのためを……いや、私自身のためを思うなら、それはダメ。 こなたが二人と話してる間に再び決意を固める。 「何か用?」 私はなるべくいつも通りに接しようとするけど、意識するあまりか、 少し冷たい感じになってしまった。 こなたが動揺したような表情になる。 けど、それも一瞬。すぐにいつもの顔に。 「むぅ、かがみん、酷いじゃないか~せっかく嫁の様子を見に来たのに、 それはないんじゃないの~?」 嫁――――。 ねぇこなた、本気でそう思ってくれてるの? 今ここで口にキスしても、良いの? 思いっきり抱きついても、良いの? 好きって何度も言っても、良いの? ――答えはNO。 分かりきってること。 それなのに、なんで期待しちゃうんだろ……。 「ひ、柊~~!い、いつから夫婦になったんだ!?」 「なってないわよ。こいつがデタラメばっかり言ってるだけで、ただの友達よ」 騒ぎ始めた日下部のお陰で、何とか気持ちを少しだけ切り替えられて、言葉を返す。 『友達』。 その言葉は私自身へ戒めでもあった。 夫婦……正しい言い方か分からないけど、なれたらどれだけ良いか。 でも、なれない。 なるわけにはいかない。 なりたいと思っちゃいけない。 それが、こなたのためであり、私のためだから……。 「かがみ、あの夜のことを忘れちゃったの?あんなに激しく愛し合ったのに……」 「ひ、柊、お前ってやつは……!」 「柊ちゃん、す、凄いんだね……」 「そこ二人、なに信じてるのよ!ウソだってすぐわかるでしょ!第一―――」 ハッとなって、思わず口を閉じる。 『私の思いはそんな卑猥な物じゃない。』 危うく、そんな言葉が口から出そうになった。 「第一、私たち、女同士でしょ」 私は取り繕うように、元気なくそう言った。 その言葉は、いつもに自分自身に言い聞かせるものでもあった。 「大丈夫だよ、かがみん!世界には、同姓でも結婚出来る国もある! いざとなったら駆け落ちだ~!」 こなた……なんでそうやって、私の思いを揺さぶるの……? 本気にしちゃうよ……。 だからお願い……もうやめて……。 「かがみ……?どうかしたの?」 こなたの言葉に、現実に引き戻される。 「な、何でもないわよ!」 「あらあら、赤くなって……私とのアツアツの結婚生活を想像しちゃったのかなぁ~?」 「うるさいわね、違うって言ってるじゃない!!」 強い語調。もう、後の祭り。 ……またやっちゃった……。 いつも通りにしようって思うのに、空回りばっかり……。 こなたの顔を伺うと、やっぱり驚いていた。 「おぉ~、柊、こえ~」 「ひ、柊ちゃん、どうしたの……?」 「わ、悪かったわね。私はどうせ怖いですよ」 こなたの顔を直視できず、私は日下部の方に向かって言った。 「そ、それじゃ、私はそろそろ帰るよ。かがみにみさきちに峰岸さん、またね」 「う、うん……」 「またな、チビッコ~。元気でな~」 「また来てね、泉ちゃん」 こなたの声に、ちょっと元気がなかった。 多分、上手く隠したつもりだったんだと思うけど、私にはすぐに分かった。 けれど、私は何もしてあげられなかった。 こなたはあの日以来、もうずっと来てない。 私も会いに行かな―――違う。 ―――行けなかった。 どうして、こうなっちゃったんだろう………。 どこから、こうなっちゃったんだろう………。 私はそんな問いを、泣きそうになりながら、解く。 解は、呆気なく出た。 そこに、難しい公式や構文、ましてや応用力なんて、少しも必要なかった。 私のせい。 私がこなたを好きになっちゃったせい。 全部、私のせいでおかしくなっちゃったんだ。 それでも私は、その気持ちを捨ててでも、幸せな時間を護ろうとして―――― ―――結局、全部、失ってしまった。 そっか……。 私自身が、幸せな時間を手放しちゃったんだ……。 なら、私が『いつものみんな』の中にいれなくても、仕方ないよね……。 ついこの間までは、その中にいた。 でも今はもう、その中にいない。 ―――――それなら、私は今、どこにいるの……? 閉められたカーテンの隙間から、夜明けを象徴する日差しが差し込む。 それは、数時間前からついさっきまでずっと真っ暗だった部屋に差し込んだ、久しぶりの光。 そんな、良いイメージの光。 でも、私の気分は憂鬱だった。 もう朝なのね……。 学校―――行きたくないな……。 そうは思うけれど、結局登校した。 でも、授業の内容はほとんど頭に入ってこないまま、時間だけが過ぎていった。 「屋上に呼び出し、かぁ」 お弁当を食べ終わってすぐ、そのまま屋上に向かっている。 期待と不安の両方に思いを膨らませるような展開。 そんな気分だったら、こんな薄暗い屋上へと続く階段も、何とも思わないだろう。 それが、普通なら。 でも、今回はイレギュラー。 その微妙な暗さが、この後に言われるであろうことと相まって、余計に私を落ち込ませる。 今より少し前――――。 私は、日下部と峰岸とお弁当を食べていた。 「柊ぃ~、そんな暗い顔して、どうしたんだよ~」 「柊ちゃん、なにか悩み事なら、相談くらいなら私たちでも乗れるよ?」 二人が突然そんな話をしてきた。 やっぱり、わかるくらいなんだ……。 「別に大丈夫よ。最近寝つき悪いから、そのせいかも」 確かに相談できたら、すごく楽になるけど、それはできない。 だから私は誤魔化した。 「そうならいいけど……。でも、言いたくなったら、遠慮しないでね?」 峰岸、今のがウソだって分かってるわね……。 『言いたくなったら』なんて、私に悩み事あるって言ってるような物じゃない。 そうは思いながらも、私の口からでたのは、文句とはまるで逆。 「うん、そうさせてもらうわ。ありがとね」 峰岸の言葉を半ば肯定するような内容だった。 自分で思ってる以上に、峰岸の言葉に救われてるのかな……。 峰岸の柔らかな笑みからは、その本心までは読み取れなかった。 「なんだよなんだよ、柊、暗そうにしちゃって、まるでさっききた奴らみたいだぞ!」 「さっき来た?」 私は思わず日下部に尋ねる。 「あ……すっかり忘れてた……」 うっかりしたような顔になる日下部。 「そいつらに、お昼になったら屋上で待ってるって柊に伝えてくれっていわれたんだった!」 「なッ!?ななななななななあ!?」 そんなわけで、私はすぐに屋上に向かうことになった。 「すぅ~、はぁ~」 屋上へと続く扉の前。 私は一度気持ちを整理する意味をこめて、深呼吸をした。 「よし!」 準備完了!頑張れ、私っ! 扉を開けると、 まず真っ青な空が現れた。 そこは嫌な事なんて一つもなくて、あまねく場所に神様が祝福してくれてるみたいだった。 私の気持ちも、そうなれれば良いのにな……。 そんな幻想を吹き飛ばし、現実に戻る。 屋上を見渡すと、そこはフェンスで囲まれたコンクリートの床が、全体に広がっていた。 おもむろに、そのフェンスに近づき、そこから見える景色を見る。 フェンス越しに見える街や自然の風景。 そこはいつも私がいるところ。 でもそこには高いフェンスに遮られて、手が届かない。 「なんで、届かないんだろ……?少しでも手を伸ばせば、届きそうなのに……」 いつも自分がいる心地良いところ。 それなのに、すごく遠く感じられる。 「なんで、あんなに遠いんだろ……?」 ――丁度、今の私ね……。 やめよ………。余計に悲しくなるだけだから……。 私はフェンスに背を向けて、本来の目的を達成しようと、入り口から死角だった部分を見る。 そこにあった人影は2つ。 「ごめん、死角で気づかなかったわ」 私はそちらにゆっくりと歩み寄りながら、続ける。 「お待たせ、二人とも。ごめん、日下部が私に言いそびれてて……」 「いいえ、私たちのほうこそ、突然このようなところにお呼び出し してしまって、申し訳ありませんでした」 私のことを呼び出したのは、みゆきとつかさだった。 二人とこうやって顔を見合わせて話すのは、久しぶりだった。 みゆきは言うまでもなく、つかさとも、こなたと会わなくなってから 何となく話しづらくて、家でもあんまり話してなかった。 そんな久しぶりに会う二人だけど、顔はいつになく真剣で、私の見たことのないものだった。 このときにはもう、扉の前の深呼吸の効果はなくなっていた。 少しの間、静寂が続く。 学校にはいっぱい人がいるはずなのに、私たちの周りだけ、 まるで別の空間に切り取られたかのように、音がなかった。 ―――そんな静寂を破ったのは、以外にもつかさだった。 「お姉ちゃん、聞きたいことと聞いて欲しいことがいくつかあるんだ」 その言葉に、いつもの子供っぽい雰囲気はない。 そんなつかさに、思わずたじろぐ。 「な、なに……?」 「実は今日、こなちゃんが休んだんだ」 「えっ……!?」 こなたが休んだ……?なんで? 「理由は私もわからないよ。でもね………こなちゃん、最近、いっつも元気なかったんだ。 私たちが話しかけても上の空だし、返事も相づちうつくらいで……」 「そ、そうなんだ……。あいつらしくないわね。新型ウィルスかなんかかしら?」 呼び出してまでこんなことを言うんだから、違うってわかってる。 でも、動揺した私は、それを隠すために、そんなことを言っていた。 今度はみゆきが口を開いた。 「ある意味で、そうかもしれませんね。泉さんがそうなり始めたのが、 丁度かがみさんが私にあの話をされて、数日経った頃からでした」 あの話―――。 思えば、私はあの後に気付いたのよね……。 聞かなければ良かった、なんて無責任なことは言いたくないけど、 やっぱり心の隅でそう思ってる自分がいた。 そう思ってしまう私が、恨めしかった。 「関係性等は一切わかりません。あくまでも、私の独り言のようなものだと思って下さって結構です」 みゆきはそう前置きをしたけど、自分の仮説にかなりの自信があるように見えた。 そして私にもその内容が、大体だけど予想できた。 「泉さんの元気がなくなり始めた時期は、 丁度かがみさんが、あまり私たちのクラスに来なくなった時期とリンクしますね」 やっぱり……。 「実はあの期間、泉さんは何度もかがみさんのクラスに行くための理由を考えているようでした。 こっそりと考えていたみたいですが、元気がないのが相まってか、 案を書いた紙をそのまま仕舞わずに置いておいたり、 独り言のように呟いているのが聞こえてきえたりしていました」 意外……。こなたがそんな風になるなんて……。 「かがみさんの教室の前で、うろうろしていらしたこともありましたよ。 私が声をかけたら、とても驚いていらっしゃいました」 みゆきが、少し笑いながら言う。 確かに、そんなこなたを見たら普段なら笑ってしまうかもしれない。 でも、私は笑えなかった。 多分、みゆきも本心から笑ってなんていない。 この雰囲気を、少しでも和らげようとしてくれてるんだと思う。 「このような点から、泉さんはかがみさんに会えない寂しさを感じていた、と考えるのが妥当ではないでしょうか」 笑顔でそう締めくくられたみゆきの話は、理路整然としていた。 もしみゆきが言うことが本当なら……。 こなた……私がいなくて、寂しいって思ってくれてたの……? 私の目にうつるこなたは、そんな風にはとても見えなかったのに……。 「お姉ちゃん、聞きたいこと聞いて良い?」 今度はまた、つかさが口を開いた。 「うん……。答えられることなら……」 「大丈夫、答えられることだから」 いつになく、つかさの言葉に重みが感じられる。 私は何も言えず、頷いた。 「お姉ちゃん、こなちゃんのこと、どう思ってるの?」 「大切な友達……よ」 「ホントに、そう思ってるの?」 「う、うん……」 もう、つかさもみゆきも知っている。 だからこんなこと聞いてきてる。 それなのに……なんで私はまだこんなこと言い続けてるんだろ……。 「なら、どうして、会おうとしないの……?」 「そ、それは……」 「友達なら、会えるよね?今までだって、毎日会ってたもんね?」 何も、答えられなかった。 それから、また少し静寂が続く。 が、それを破ったのは、以外な存在だった。 キーンコーンカーンコーン――。 授業開始の予鈴チャイムが鳴り響いた。 「じゅ、授業が始まっちゃうわね……」 私は思わずそう言っていた。 逃げようとしていた。 けれど、つかさが無言で私を見つめ続ける。 『質問の答え、まだもらってないよ』 つかさの目が、私のそう言っていた。 それは、私に逃げることを許さなかった。 結局、私は何も言えずまた静寂があたりを包んだ。 キーンコーンカーンコーン――。 再び静寂が破ったのは、チャイム。でも、今度は授業開始の本令のものだった。 それが鳴り終わると、つかさは何も言えない私を見かねてか、自分から口を開いた。 「お姉ちゃん、私もゆきちゃんも、もう分かってるんだ……」 「やっぱり……そうだったんだ……」 「ごめんなさい、かがみさん……」 「ううん、良いの……あんなこと、聞いてたら分かるわよね……」 みゆきとつかさ、二人にあんなことを聞いたんだから、 確かに気づかれないはずがないわよね……。 「お姉ちゃん、私、『女の子同士だから、やっぱりビックリするかな』って言ったよね。 確かに私はその時そう思ったよ。でも、その後にこなちゃんとお姉ちゃんのこと考えてみたら、 別に変じゃないな、って思ったんだ」 「でも……」 「私、思ったんだ。回りの人がどう思ったって、本人たちが良ければ、それが良いんだって。 考えてみれば当たり前のことなんだよね。 どうして、それにすぐ気づけなかったんだろうって、今思うとすっごい不思議だよ」 つかさ、ありがとう……。でも……でも、私……。 「大丈夫、お姉ちゃんは一人じゃないよ。私たちがいるし、それに――――こなちゃんもいるからね」 「こなた……」 呟いてしまったその名前。 いつも私の近くにいたその人。 今でも、手を伸ばせば届くんじゃないかと思える人。 「でもいまのままじゃ、こなちゃんはいないよ」 でも、その人は私の手の届かないところにいる。 それを改めて、つかさに通告された。 「今のままで良いの?お姉ちゃんは、我慢できるの? こなちゃんと一緒にいれなくて、会えなくて、それでも満足ってちゃんと言えるの?」 満足なんてできるわけない……。 私は欲張りだから、もっともっと、こなたを欲しいって思ってる。 でも…………。 「でも、私にはそんな資格……」 「その資格を持ってるのは、私でもゆきちゃんでもないよ。他でもない、お姉ちゃんしか持ってないんだよ?」 私しかもってない……? 「きっと今、泉さんは不安で押しつぶされそうになっています。……私たちでは、何もしてあげられませんでした。 そこから救い出してあげられるのは、かがみさんだけですよ」 私が、こなたを救い出してあげられる……? 「でも、こなたはきっと迷惑よ……私の気持ちなんか伝えられても……」 「お姉ちゃん……ちゃんと、向き合わなくちゃだめだよ」 「―――ッ!」 つかさが………怒ってる―――。 ―――私に―――。 生まれてきてからずっと一緒だった。 いつもおっちょこちょいで、でも根は真面目でちゃんと頑張ってて。 ホラー映画みた後に、私の布団に潜り込んできちゃって。 お姉ちゃん、っていつも私を慕ってくれて。 そんなつかさが、いつまでも臆病に言い訳して、逃げようとしている私に……。 「お姉ちゃん……こなちゃんに会いたくないの?」 「そ、そんなことない……」 「なら、こなちゃんを助けてあげて! こなちゃんだって、きっとお姉ちゃんと一緒にいたいんだよ!」 つかさの目には、涙が溜まっていた。 「こなちゃん、可愛そうだよ……。暗い顔して、話しかけづらくて……。でも、それはこなちゃんだけじゃないよ! お姉ちゃんも、ずっとこなちゃんとおんなじ顔だったんだよ!」 その目に溜まっていた涙が、溢れ出す。 それと同時に、私の中に溜まっていたものが、堰を切ったようにあふれ出した。 「私だってもう嫌よ!!こんな状態、どうにかしたい!! でも、もし私の気持ちを伝えても、こなたに迷惑かけるだけよ!! そんな目で自分を見てる女がいるなんて分かったら、余計にこなたを不安にさせちゃうわよ!! そうなったらどうなるかわかる!?もう私とこなたと一緒にいれない! つかさやみゆきとも一緒にいれないの! 今ならまだ、なんとか『会うこと自体』は可能よ! でも、もしそうなったら、会うことすら許されなくなるの!! 私は今までの全てを失うの!!それが、どれだけ辛いか……!」 いつしか、私の目からも涙が零れていた。 こなたに拒絶されたとしたら――そう考えたら、戦慄きがとまらない。 「もしかしたら、お姉ちゃんの気持ちまではこなちゃんに届かないかもしれない。 でも、こなちゃんはお姉ちゃんを避けたりなんてしないよ、絶対」 つかさの目にはまだ涙が溜まっていたけど、その顔には笑みが浮かんでいた。 それは、つかさと向き合った私を喜んでいるようだった。 「なんでそんなことが言えるのよ……」 そうあって欲しい。でも、もしそうじゃなかったら――――。 臆病な私は、つかさの言葉に反論せずにはいられなかった。 「こなちゃんは、ちゃんと本当の気持ちを伝えてくれた人に、 そんな酷いことをするような人じゃないよ」 確信しきったように言うつかさ。 「お姉ちゃん、怖いのは分かるよ。 私もお姉ちゃんの立場だったら、多分泣いてばっかりで何も出来なかったと思うんだ。 ……でもね、お願い。こなちゃんを信じてあげて。 他のだれより、私やゆきちゃんより、今はこなちゃんを信じてあげて」 こなたを信じる――――。 ずっと、そうすることを忘れていた気がする――――。 不安に囚われるばかりで、相手の事を信じてなかった。 ねぇ、こなた―――? そんな私でも、こなたを信じても、良い――――? 「かがみさん、似たような言葉がいくつかありますが、このような言葉をご存知ですか? ――『“辛”さが“幸”せになるまで、あと“一”歩』。 かがみさん、あと一歩なんです」 「今ならお姉ちゃんとこなちゃんは一歩で届くよ。 でも、もうすぐ、一歩じゃ届かなくなっちゃう……!」 そうなんだ……。そうだったんだ……!! 私が、あと一歩踏み出す勇気を振り絞れば―――― そうすれば、この“辛”さは変われるんだ……!! 一歩より遠くなったら、もう“幸”せにはなれないんだ……!! いつしか、私の涙は止まっていた。 「みゆき。私に、出来るかな?」 私はしっかりとみゆきを見つめて、聞く。 「かがみさんなら、きっと……いえ、絶対にできます」 「みゆき……ありがと!」 「信じてます、かがみさん」 「うん、お願いね」 今度は、しっかりとつかさを見つめて、聞く。 「つかさ。私、出来るかな?」 「お姉ちゃんが、できないことなんてないよ!」 「料理はできないわよ?」 「あう、そ、それはぁ……」 「ふふ、つかさ、ありがと!」 「う、うん!」 ありがとう、二人とも……。 二人がいてくれて、本当に良かった。 「私、行ってくる」 「いってらっしゃいませ、かがみさん!朗報をお待ちしています」 「いってらっしゃい、お姉ちゃん!頑張ってね!」 二人の笑顔に見送られて、私はそのまま走り出した。 もう、迷わない。 もう、躊躇わない。 もう、立ち止まらない。 目指す場所は、ただひとつ。 向き合う相手は、ただひとり。 ―――――こなた…………待っててね―――! -[[うつるもの5>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/125.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-01 14:21:24) - そして、感動のクライマックスへ………!! -- 名無しさん (2009-09-29 14:11:48)

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