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黒ぬこと雨」(2009/05/30 (土) 14:52:53) の最新版変更点

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『黒ぬこと雨』 我輩は猫である。 気まぐれな一匹の猫である。 そう、だからこそ。 まだこの街に居座っていることも... またこの場所に来てしまったのも... ただの「気まぐれ」でしかないのだ。 昨日から降り続いている雨は収まることを知らず、空を灰色に染めていた。 雨が当たらない場所を選んだつもりだったのだが、強い風が吹く度、斜めに吹き付ける雨粒が俺の体を濡らしていく。 皮膚に付いた水滴が不快でならない。 ブルッと体を震わせて水滴を振り払うと、ちょうど俺の後ろから足音が聞こえた。 --カンッ、カンッ。 一定のリズムを置いて鳴り響く足音。 ここに居座って一週間。 この時間ここに来る人間は二人しかいない。 青空色の少女と紫陽花色の少女。 彼女たちは誘い合わせたようにそれぞれ1日置きにここにやってくる。 俺に食べ物をくれたり、俺に話しかけたりするために。 だから...というわけではないが、この「気まぐれ」の理由はこの人間達にあった。 昨日は確か、紫陽花色の少女が「猫缶」とやらを持ってきてくれた。 初めて食べた味だったが、食感は瞬時に気に入ったことを舌先が覚えている。 と、言うことは... 「おー、やっぱ今日もいる!!!」 俺の予想通り、青空色の少女だった。 手にはいつもくれるパンと、長細い杖のようなもの。 「ここじゃ濡れちゃうよ。ほら、傘の中おいで?」 そう言って彼女はバッと爆発音のような音を出して、持っていた杖を広げた。 いきなりの爆音に驚いてビクッと体が反応する。 傘は前に人間がさしているものを見たことあるが、傘を広げる瞬間をみたのは初めてだった。 普段人間はこのようにして傘を持っているのか。 なるほど、雨が降る日にこれを持つ人間の多さにも納得がいく。 「結構濡れちゃってるねぇ。あ、確かハンカチが...んー、あったは...あった!!!」 そういって屈んだ少女が俺に近づき、頭の辺りに布を被せる。 一瞬、ほんの一瞬だが、紫陽花の少女の匂いがした。 雨のせいで鼻でもいかれたんだろうか。 クシャクシャと痛いくらいの力で俺の体を拭く。 それでも動かなかったのは、きっとこの子の手の温かさのせいだ。 布越しに感じる温かさは、俺の冷えていた体にジワリとしみこんでくる。 「猫ってさ...」 動いていた手が止まって、少女は俺の体から手を離した。 「いっつも一匹でいるじゃん?」 一匹。 あぁ、そう言われるとそうだな。 俺等猫科は元々単独行動主義なのだ。 犬や狼のように群れの中で生活することなど、考えるだけで面倒くさそうだ。 行きたいところに行き、やりたいようにやる。 それが当たり前なのだ、俺からしてみれば。 「...寂しくない?」 寂しい。 とは、なんだ? 人間で言う感情表現というものか。 うまい、腹が立つ、痛い。 この3つはよく感じることだが、寂しいとはどんな感情なのだろうか。 「私もね、そうだったんだ」 ふぅと息を吐いた彼女が苦笑しながら、布を鞄にしまう。 「寂しいって、よく分かんなかった。お母さんがいなくてもお父さんがいたし、今はかがみも...友達もいるし、ゆーちゃんもいるしね」 かがみ。 何故が俺の中でこの言葉が引っかかる。 散々この少女から聞かされていた名前なのに。 彼女がこの名前を呟くときの辛そうな顔のせいだろうか、それとも--- 「だけど、今は凄く恐い」 恐い? 「みんなと、かがみと離れるのが...たまらなく寂しくて、恐い」 どうしちゃったんだろうね、とそう微笑む少女はすぐにでも泣いてしまいそうなくらい脆くて。 俺は思わず彼女の頬を舐めた。 この前のようにこの透き通る瞳が涙で滲むことがないように。 「わたし、かがみが---」 俺を抱きしめてそう呟いた言葉は、雨音にかき消される程、小さく、儚いものだった。 -[[黒猫と晴天>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/863.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 彼女俺にまたがりっぱなしで、朝まで休ませてもらえんかったww http://younube.net/calnova/65341 -- ボンちゃん (2009-05-30 12:16:26) - 雨降りの中、猫を抱きしめて呟くこなたが可愛くて、切ないですね…。 &br()短い文の中に想いが込められていて良かったです。GJ! -- 名無しさん (2008-11-10 02:12:55) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3()
『黒ぬこと雨』 我輩は猫である。 気まぐれな一匹の猫である。 そう、だからこそ。 まだこの街に居座っていることも... またこの場所に来てしまったのも... ただの「気まぐれ」でしかないのだ。 昨日から降り続いている雨は収まることを知らず、空を灰色に染めていた。 雨が当たらない場所を選んだつもりだったのだが、強い風が吹く度、斜めに吹き付ける雨粒が俺の体を濡らしていく。 皮膚に付いた水滴が不快でならない。 ブルッと体を震わせて水滴を振り払うと、ちょうど俺の後ろから足音が聞こえた。 --カンッ、カンッ。 一定のリズムを置いて鳴り響く足音。 ここに居座って一週間。 この時間ここに来る人間は二人しかいない。 青空色の少女と紫陽花色の少女。 彼女たちは誘い合わせたようにそれぞれ1日置きにここにやってくる。 俺に食べ物をくれたり、俺に話しかけたりするために。 だから...というわけではないが、この「気まぐれ」の理由はこの人間達にあった。 昨日は確か、紫陽花色の少女が「猫缶」とやらを持ってきてくれた。 初めて食べた味だったが、食感は瞬時に気に入ったことを舌先が覚えている。 と、言うことは... 「おー、やっぱ今日もいる!!!」 俺の予想通り、青空色の少女だった。 手にはいつもくれるパンと、長細い杖のようなもの。 「ここじゃ濡れちゃうよ。ほら、傘の中おいで?」 そう言って彼女はバッと爆発音のような音を出して、持っていた杖を広げた。 いきなりの爆音に驚いてビクッと体が反応する。 傘は前に人間がさしているものを見たことあるが、傘を広げる瞬間をみたのは初めてだった。 普段人間はこのようにして傘を持っているのか。 なるほど、雨が降る日にこれを持つ人間の多さにも納得がいく。 「結構濡れちゃってるねぇ。あ、確かハンカチが...んー、あったは...あった!!!」 そういって屈んだ少女が俺に近づき、頭の辺りに布を被せる。 一瞬、ほんの一瞬だが、紫陽花の少女の匂いがした。 雨のせいで鼻でもいかれたんだろうか。 クシャクシャと痛いくらいの力で俺の体を拭く。 それでも動かなかったのは、きっとこの子の手の温かさのせいだ。 布越しに感じる温かさは、俺の冷えていた体にジワリとしみこんでくる。 「猫ってさ...」 動いていた手が止まって、少女は俺の体から手を離した。 「いっつも一匹でいるじゃん?」 一匹。 あぁ、そう言われるとそうだな。 俺等猫科は元々単独行動主義なのだ。 犬や狼のように群れの中で生活することなど、考えるだけで面倒くさそうだ。 行きたいところに行き、やりたいようにやる。 それが当たり前なのだ、俺からしてみれば。 「...寂しくない?」 寂しい。 とは、なんだ? 人間で言う感情表現というものか。 うまい、腹が立つ、痛い。 この3つはよく感じることだが、寂しいとはどんな感情なのだろうか。 「私もね、そうだったんだ」 ふぅと息を吐いた彼女が苦笑しながら、布を鞄にしまう。 「寂しいって、よく分かんなかった。お母さんがいなくてもお父さんがいたし、今はかがみも...友達もいるし、ゆーちゃんもいるしね」 かがみ。 何故が俺の中でこの言葉が引っかかる。 散々この少女から聞かされていた名前なのに。 彼女がこの名前を呟くときの辛そうな顔のせいだろうか、それとも--- 「だけど、今は凄く恐い」 恐い? 「みんなと、かがみと離れるのが...たまらなく寂しくて、恐い」 どうしちゃったんだろうね、とそう微笑む少女はすぐにでも泣いてしまいそうなくらい脆くて。 俺は思わず彼女の頬を舐めた。 この前のようにこの透き通る瞳が涙で滲むことがないように。 「わたし、かがみが---」 俺を抱きしめてそう呟いた言葉は、雨音にかき消される程、小さく、儚いものだった。 -[[黒猫と晴天>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/863.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 雨降りの中、猫を抱きしめて呟くこなたが可愛くて、切ないですね…。 &br()短い文の中に想いが込められていて良かったです。GJ! -- 名無しさん (2008-11-10 02:12:55) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3()

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