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【第11話 扉】 「こなたのお母さん」 かがみはまっすぐその像を見据えた。 「こなたをありがとうございます。謙遜どおりふつつかで、重度のヲタで二次にしか目のない娘さんですが、最期まで喜んで私が頂きます」 頭を深く下げ、また上げた。再びまっすぐ見据える。 「ですが、あなたに渡すことは永遠にありません」 胸に手を当てた。はっきりと伝えるつもりだった。 「あなたはこなたに遺伝子を渡しました。その中に、早くあなたの元へ行くようにという運命が仕組まれていたのでしょう。 でも、私はあなたに渡さない。 私は誓います。 こなたは私のものです。永遠に私のものです。 ビッグバンの前から宇宙が終わって次の宇宙が始まっても私のものです。 たとえあなたの場所に行っても、こなたには私の名札がついてます。 もしあなたが24時間365日背後霊でついていたら、私はこなたに25時間366日つきます。 もしあなたがこなたを呼んでも、私はあなたより大声でこなたを呼べます もしこなたを幸福な天国へ連れて行くのなら、私はこなたのために現世で天国をつくります。 もしあなたがこなたに母親としての愛情を与えるなら、私は来世でこなたの母親になってあなたより愛情を与えます。 。 もしあなたがこなたを無理やり連れて行ってしまったら、私も無理やり居候として一緒にいます。 もし私達が生まれ変わり、互いに相知らない存在になるなら、私はこなたの体の奥深くにひそむ未知の細胞に生まれ変わります。 もし生まれ変わりもなく、天国も地獄もなく、あなたがただの幻で 死ということが、単にこの宇宙から消え去るだけのことならば、私達は笑顔で同時に────」 誓約が何かを開闢させたように──── ドアが開いた。 ステンレスに映る像は消え、かわりに怪訝そうな顔の医者たちが出てきた。 その日がやってきた。 新しい治療への準備を開始する日だ。 こなたの病室には朝から白衣の人間がずらりと並んでいる。 今までは主治医と数人の看護師や技師の集まりでやっていたが、いまや「医師団」といってもいいくらいの集団が形成されていた。 主治医がその場にいる白衣の研修医や学生向けに専門用語で説明を始める。 ハンディカメラも回され研究も兼ねているのがひしひしと伝わった。 まさに最先端医学の未知の世界っぽい空気だ。こなたの治療過程は国際的な医学誌にも記載されるともいわれた。 ほとんど実験に近い治療なので医療費は全額病院が持つそうだ。 かがみはみゆきが言ってたのを思い出していた。 「前処置→複数臍帯血移植→生着 という手順を踏みます」 前処置とは 今までの抗がん剤治療よりもずっと多い、致死量に近い大量の抗がん剤を流し込み、体内をめぐる無数の白血病細胞に強引に斬りこんで電撃戦で根絶を図るのです。 とどめに原発事故に匹敵する量の放射線も浴びせます。 このとき、まだ正常な骨髄もとばっちりで完全に死滅し、こなたさんは骨髄がカラッポになり自力で血が作れない身体になってしまいます。 すると白血球も滅び、免疫力がゼロになるので、ここで初めて無菌室へと入ります。 闘病ドラマのクライマックスの場面らしいスタイルになります。 次に、この死滅した骨髄をフォローするために「複数臍帯血移植」が行われます。 移植といっても手術は行いません。 あらかじめ用意していた二人分の臍帯血を点滴や注射でひたすら入れるだけです。 白血病といえばよく移植がクローズアップされますが、実は「前処置」がどれだけ効くかが重要なのです。 そして、体内に入った臍帯血は自然に骨の中に入りこみます。 その中に入っている骨髄と同じ細胞(造血幹細胞)がこなたさんの新しい骨髄になります。 造血幹細胞はやがて新しい健康な血液を作り始めます。 これを生着といい、ゴールです。……」 治療スケジュール表が渡された 全過程およそ1ヶ月半。投与日を示す矢印や傍線が薬の名前とともにスケジュール表のカレンダーにズラッと記されている。 「……かがみん、冬コミ行けないね。よろしくね」 「わかってるわよ、今のうちに欲しいサークル名かいときなさい。これから体きつくなるんだから」 激しい治療に耐えられるかどうかの検査は済んでいた。 採血、CTスキャン、レントゲン、MRI、負荷検査、脳波、心電図から検尿、検便、視力検査、皮膚科の検診、さらに虫歯の有無まで ……病院中を駆けずり回るように丸1日かけてあらゆる科を回る。 当然あの激痛を伴う「マルク」もやった。 危険な工事現場の安全確認のような検査スケジュールをみながら、かがみはみゆきの顔が曇っていたのを思い出す。 「ですが、ゴールに至るまでの死亡率は非常に高いそうです。 移植のあとが本当の闘病のクライマックスです。 最初の山は治療関連毒性というものです。超大量の抗がん剤と放射線によって今までよりも遥かにきつい副作用が襲い掛かります。 次にやってくる山は、新しい骨髄がこなたさんの身体を攻撃する「移植片対宿主病」という症状です。 これは急性と慢性の二つの山があり、慢性は腎不全や呼吸不全が一生涯続くことがあります。 そして感染症はいつ襲い掛かるか分からない危険な山です。 これらのいくつもの山により、多くの患者が全身の臓器にダメージを受けて死の転帰をたどるそうです……」 こなたのベッドサイドに抗がん剤のはいったパッケージが並べられた。今まで打たれた量の数倍の量。赤い字で「劇薬」と派手に書かれている。 輸血用の赤い血液や抗生物質もセットになって、まるでシャンデリアのように点滴台に吊るされる。 赤・青・白・黄色・透明……なんともカラフルな光景だ。 「ちょっとまった……点滴の色、青ってマジでありえないんだけど」 「ノバントロン」という濃青色の抗がん剤を見つめながらこなたはつぶやく。 白血病の闘病ブログでは非常に有名で必ずネタにされる薬だ。 印刷用の青インクに近い成分で、白目の色からおしっこまで青くなるとか…… 「つーかあんたの髪の毛の色の方がありえないわよ」 「ふーん、かがみなんて水色じゃん♪」 「……」 こなたは冗談を言ったりかがみにつっこんだりするだけの余裕はある。 今現在は、寛解目的に使った抗がん剤の副作用も抜けていた。 免疫力も一時的にしろ常人並みになり、ビニールテントも外されて普通の入院患者のように会話できる。 こなたは白血病を起こした骨髄以外は健康体そのものだ。 なんで、このこなたが病気なの? 誰がどう見ても五体満足じゃない。 今すぐにでも退院できそうなのにデータシートの数字の上げ下げだけで死にかけの重病って。 なんなの白血病って? ほんとうに、この、悪い骨髄さえなければ、今ごろは、こなたは大宮のアニメイトに行ったり、秋葉へ行ったり、冬コミを心待ちにして……。 あ、受験勉強があったか…… かがみのほうはさすがというべきか、今のところ一応看病と勉強は両立している。 受験勉強といえばつかさはまだ人が変わったように勉強している。 勉強しなければこなたが死ぬというような勢いだ。 ……ほんとうにありえない。 実は変装?実はみゆきが化けてるとか。 ああでも、体のラインが全然ちがうわよね…… 相変わらず要領の悪い妹で、机に突っ伏して居眠りもしている。 が、勉強時間だけは稼いだおかげで、琉球大学医学部ならE判定からD判定に上がってきていた。 その判定の結果を見て、間違えて志望学科名に保健学科(偏差値50)と書いたのかとかがみは思ってしまった……。 こなたはストレッチャーに乗せられて、地下の放射線部へと向かう。かがみも入口の扉までつきそう。 看護師や医師に囲まれピリピリした空気だ。 「かがみん」 寝ていたこなたは首を上げて呼びかける。 「これ終わったらちょっとかがみんに甘えさせてね」 こなたは黄色い放射線マークのついた鉄扉の向こうへと消えていった。 「全身放射線照射を受けると、生涯を通して不妊になります」 ───あらかじめ医者から説明を受けていた。 「…………」 火葬場のように殺風景な放射線治療室で、こなたは薄汚れた暗い天井を見上げる。 棺桶のような窮屈な箱に寝かせられた。 肩・脇の下・指の間まであらゆる隙間に大小の鉛の袋がみっちり詰め込まれ、完全に身動きできなくなる。 鉛の入った目隠しをさせられる。 世界が暗転する。 入棺のように閉められる蓋の音。 極限まで暗黒の世界。鍵がかかる音。 技師が部屋を出る音。 たった一人取り残された感覚。 突然、泣き叫ぶようなブザー音。 こなたの耳をつんざく。 見えない何かが、四方八方から一斉に手を伸ばした。 こなたの身体を焼き焦がすように射抜いていった。 -[[第12話:空気だけ抱きしめて>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/782.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (´;ω;`) -- 名無しさん (2013-06-30 02:19:18)
【第11話 扉】 「こなたのお母さん」 かがみはまっすぐその像を見据えた。 「こなたをありがとうございます。謙遜どおりふつつかで、重度のヲタで二次にしか目のない娘さんですが、最期まで喜んで私が頂きます」 頭を深く下げ、また上げた。再びまっすぐ見据える。 「ですが、あなたに渡すことは永遠にありません」 胸に手を当てた。はっきりと伝えるつもりだった。 「あなたはこなたに遺伝子を渡しました。その中に、早くあなたの元へ行くようにという運命が仕組まれていたのでしょう。 でも、私はあなたに渡さない。 私は誓います。 こなたは私のものです。永遠に私のものです。 ビッグバンの前から宇宙が終わって次の宇宙が始まっても私のものです。 たとえあなたの場所に行っても、こなたには私の名札がついてます。 もしあなたが24時間365日背後霊でついていたら、私はこなたに25時間366日つきます。 もしあなたがこなたを呼んでも、私はあなたより大声でこなたを呼べます もしこなたを幸福な天国へ連れて行くのなら、私はこなたのために現世で天国をつくります。 もしあなたがこなたに母親としての愛情を与えるなら、私は来世でこなたの母親になってあなたより愛情を与えます。 。 もしあなたがこなたを無理やり連れて行ってしまったら、私も無理やり居候として一緒にいます。 もし私達が生まれ変わり、互いに相知らない存在になるなら、私はこなたの体の奥深くにひそむ未知の細胞に生まれ変わります。 もし生まれ変わりもなく、天国も地獄もなく、あなたがただの幻で 死ということが、単にこの宇宙から消え去るだけのことならば、私達は笑顔で同時に────」 誓約が何かを開闢させたように──── ドアが開いた。 ステンレスに映る像は消え、かわりに怪訝そうな顔の医者たちが出てきた。 その日がやってきた。 新しい治療への準備を開始する日だ。 こなたの病室には朝から白衣の人間がずらりと並んでいる。 今までは主治医と数人の看護師や技師の集まりでやっていたが、いまや「医師団」といってもいいくらいの集団が形成されていた。 主治医がその場にいる白衣の研修医や学生向けに専門用語で説明を始める。 ハンディカメラも回され研究も兼ねているのがひしひしと伝わった。 まさに最先端医学の未知の世界っぽい空気だ。こなたの治療過程は国際的な医学誌にも記載されるともいわれた。 ほとんど実験に近い治療なので医療費は全額病院が持つそうだ。 かがみはみゆきが言ってたのを思い出していた。 「前処置→複数臍帯血移植→生着 という手順を踏みます」 前処置とは 今までの抗がん剤治療よりもずっと多い、致死量に近い大量の抗がん剤を流し込み、体内をめぐる無数の白血病細胞に強引に斬りこんで電撃戦で根絶を図るのです。 とどめに原発事故に匹敵する量の放射線も浴びせます。 このとき、まだ正常な骨髄もとばっちりで完全に死滅し、こなたさんは骨髄がカラッポになり自力で血が作れない身体になってしまいます。 すると白血球も滅び、免疫力がゼロになるので、ここで初めて無菌室へと入ります。 闘病ドラマのクライマックスの場面らしいスタイルになります。 次に、この死滅した骨髄をフォローするために「複数臍帯血移植」が行われます。 移植といっても手術は行いません。 あらかじめ用意していた二人分の臍帯血を点滴や注射でひたすら入れるだけです。 白血病といえばよく移植がクローズアップされますが、実は「前処置」がどれだけ効くかが重要なのです。 そして、体内に入った臍帯血は自然に骨の中に入りこみます。 その中に入っている骨髄と同じ細胞(造血幹細胞)がこなたさんの新しい骨髄になります。 造血幹細胞はやがて新しい健康な血液を作り始めます。 これを生着といい、ゴールです。……」 治療スケジュール表が渡された 全過程およそ1ヶ月半。投与日を示す矢印や傍線が薬の名前とともにスケジュール表のカレンダーにズラッと記されている。 「……かがみん、冬コミ行けないね。よろしくね」 「わかってるわよ、今のうちに欲しいサークル名かいときなさい。これから体きつくなるんだから」 激しい治療に耐えられるかどうかの検査は済んでいた。 採血、CTスキャン、レントゲン、MRI、負荷検査、脳波、心電図から検尿、検便、視力検査、皮膚科の検診、さらに虫歯の有無まで ……病院中を駆けずり回るように丸1日かけてあらゆる科を回る。 当然あの激痛を伴う「マルク」もやった。 危険な工事現場の安全確認のような検査スケジュールをみながら、かがみはみゆきの顔が曇っていたのを思い出す。 「ですが、ゴールに至るまでの死亡率は非常に高いそうです。 移植のあとが本当の闘病のクライマックスです。 最初の山は治療関連毒性というものです。超大量の抗がん剤と放射線によって今までよりも遥かにきつい副作用が襲い掛かります。 次にやってくる山は、新しい骨髄がこなたさんの身体を攻撃する「移植片対宿主病」という症状です。 これは急性と慢性の二つの山があり、慢性は腎不全や呼吸不全が一生涯続くことがあります。 そして感染症はいつ襲い掛かるか分からない危険な山です。 これらのいくつもの山により、多くの患者が全身の臓器にダメージを受けて死の転帰をたどるそうです……」 こなたのベッドサイドに抗がん剤のはいったパッケージが並べられた。今まで打たれた量の数倍の量。赤い字で「劇薬」と派手に書かれている。 輸血用の赤い血液や抗生物質もセットになって、まるでシャンデリアのように点滴台に吊るされる。 赤・青・白・黄色・透明……なんともカラフルな光景だ。 「ちょっとまった……点滴の色、青ってマジでありえないんだけど」 「ノバントロン」という濃青色の抗がん剤を見つめながらこなたはつぶやく。 白血病の闘病ブログでは非常に有名で必ずネタにされる薬だ。 印刷用の青インクに近い成分で、白目の色からおしっこまで青くなるとか…… 「つーかあんたの髪の毛の色の方がありえないわよ」 「ふーん、かがみなんて水色じゃん♪」 「……」 こなたは冗談を言ったりかがみにつっこんだりするだけの余裕はある。 今現在は、寛解目的に使った抗がん剤の副作用も抜けていた。 免疫力も一時的にしろ常人並みになり、ビニールテントも外されて普通の入院患者のように会話できる。 こなたは白血病を起こした骨髄以外は健康体そのものだ。 なんで、このこなたが病気なの? 誰がどう見ても五体満足じゃない。 今すぐにでも退院できそうなのにデータシートの数字の上げ下げだけで死にかけの重病って。 なんなの白血病って? ほんとうに、この、悪い骨髄さえなければ、今ごろは、こなたは大宮のアニメイトに行ったり、秋葉へ行ったり、冬コミを心待ちにして……。 あ、受験勉強があったか…… かがみのほうはさすがというべきか、今のところ一応看病と勉強は両立している。 受験勉強といえばつかさはまだ人が変わったように勉強している。 勉強しなければこなたが死ぬというような勢いだ。 ……ほんとうにありえない。 実は変装?実はみゆきが化けてるとか。 ああでも、体のラインが全然ちがうわよね…… 相変わらず要領の悪い妹で、机に突っ伏して居眠りもしている。 が、勉強時間だけは稼いだおかげで、琉球大学医学部ならE判定からD判定に上がってきていた。 その判定の結果を見て、間違えて志望学科名に保健学科(偏差値50)と書いたのかとかがみは思ってしまった……。 こなたはストレッチャーに乗せられて、地下の放射線部へと向かう。かがみも入口の扉までつきそう。 看護師や医師に囲まれピリピリした空気だ。 「かがみん」 寝ていたこなたは首を上げて呼びかける。 「これ終わったらちょっとかがみんに甘えさせてね」 こなたは黄色い放射線マークのついた鉄扉の向こうへと消えていった。 「全身放射線照射を受けると、生涯を通して不妊になります」 ───あらかじめ医者から説明を受けていた。 「…………」 火葬場のように殺風景な放射線治療室で、こなたは薄汚れた暗い天井を見上げる。 棺桶のような窮屈な箱に寝かせられた。 肩・脇の下・指の間まであらゆる隙間に大小の鉛の袋がみっちり詰め込まれ、完全に身動きできなくなる。 鉛の入った目隠しをさせられる。 世界が暗転する。 入棺のように閉められる蓋の音。 極限まで暗黒の世界。鍵がかかる音。 技師が部屋を出る音。 たった一人取り残された感覚。 突然、泣き叫ぶようなブザー音。 こなたの耳をつんざく。 見えない何かが、四方八方から一斉に手を伸ばした。 こなたの身体を焼き焦がすように射抜いていった。 -[[第12話:空気だけ抱きしめて>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/782.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - こなたァ… -- 名無しさん (2021-01-15 02:12:24) - (´;ω;`) -- 名無しさん (2013-06-30 02:19:18)

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