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ウチナルカンジョウノニナイテ」(2023/01/08 (日) 03:07:43) の最新版変更点

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メールきたのが……12時!?もう5時間以上経ってるし!」 かがみが待ち続けている間、悠長にネトゲしてた自分が恨めしい……。 とにかく、早く行かなきゃ!!! 玄関の扉を開けて外を見た時、初めて私は気付いた。 さっき部屋から見た以上に雨足が強くなってる……。 朝から曇ってて、昼に雨が降り始めて、どんどん強くなってる……。 早く行かないと……! 私は傘を掴んで、走り出した。 ―――コトバノチカラを伝えに。 ☆ 「くしゅんっ」 寒い……。 もう雨が降り始めてから三時間近い。 昼からずっと誰もいない公園。 まるで、みんなに忘れられた場所。 そんなベンチの上で、私はただ待ち続けていた。 髪や服はびしょ濡れで、肌にはりついて余計に寒いし、気持ち悪い。 でも、誰一人として私のことを認知していない。 もしかしたら、私もこの公園と同じで忘れられた存在なのかもしれない。 でも、帰らない。帰りたくない。 私がこのベンチを一人で帰る時。 それは、諦めてリセットボタンを押すことを意味するから。 だから、私は待ち続ける。 いつまでも、ただ一人を。 ―――トリケセナイジカンの向こうにいくために。 ☆ 濡れた道で何度か転びそうになる。 それでも、冷たい雨の中を私は速度を落とさず走り続ける。 今はないその手と繋がっていた左手に、しっかりと畳まれた傘を握ったまま。 傘をさしたらその分走るのが遅くなるから。 そして、こんなになるまでかがみを待たせたから。 そんな、自己満足な贖罪も込めて。 少しでも、一秒でも早く。 こんなところで止まってなんていられない。 私が止まる場所。 私が居たい場所。 そこに行くためなら、どんな障害も乗り越え……いや、壊す。 私の行く場所。行きたい場所。行かなきゃいけない場所。 ―――バラッドノヨウナオモイデが奏でる、私たちの特別な場所。 そこは、ただひとつ。 ☆ 見えるのは、垂直に落ちる水と黒く染まった地面と濡れた遊具だけ。 聞こえるのは、地面に水滴が叩きつけられる音だけ。 空は、どこまでいっても単調なモノクロだけ。 太陽、出てくれるかな……。 ―――ノゾムハダレガタメかなんて、言う必要ない。 私は再び視線を現実に戻す。 その時、鮮やかな蒼い空の中にある太陽が見えた気がした――――。 ☆ 「はぁ……はぁ…………」 流石にキツい……。でも、もう少し……。 雨は時間が経てば経つほど、その強さを増していっている。 でも、そんな雨すら走り続けて火照った身体には気持ち良い。 これじゃ、贖罪にならないや……。 なんとか公園の入り口に着く。 酸素を渇望する肺を可能な限り無視し、真っ先にベンチの方を見る。 私のウサギさんが、そこにいた。 ☆ 「かがみ!!」 私の名前が叫ばれる。 「こなた!!」 私も名前を叫び返す。 夢かと思った。 でも、目を擦っても確かにその人はいた。 その蒼い髪を濡らしながら、私のところまで来てくれた。 「ご、ごめん……すっごい遅刻しちゃった……」 乱れた息を整えながらその人――――こなたは言った。 「ううん……良いの……来てくれたから……それだけで……」 涙が込み上げてくる。 「あっ、傘!かがみ、きっと濡れてると思って持って来たから、使って」 差し出された傘。その他に、こなたの持つ傘はない。 「そしたら、こなたが濡れちゃうわよ……こなたが使って?」 「私は良いから。だって、こんなに待たせちゃったし……」 「ううん、私のわがままでこなたに迷惑かけちゃってるんだから……」 それに、こなたは裏切った私を見放さないでくれた。 そんなこなたを濡れさせて、私が雨を凌ぐなんて出来ない。 ☆ ううむ、どうしよう……。 私が悪くてかがみを怒らせちゃって、さらに雨の中待たせちゃったのに、私が傘を使うなんて出来ない。 も~、なんで私は傘を一本しか持って来なかったんだろ……。 かがみのことしか頭になくて、自分のことなんてすっかり忘れてたよ……。 「かがみ、お願い……。私のせめてもの罪滅ぼしだと思って」 「なんでこなたが罪滅ぼしなんてしなきゃいけないの?するのは私の方よ……」 うう、やっぱり勘違いしてる……。 でもとりあえずそれを解く前に雨を凌がなきゃ。 「かがみ、これならどう?」 私はかがみの隣に座り、私とかがみ、両方が入るようにして傘をさした。 ベンチが濡れてて少し冷たいけど、かがみを濡れさせたままよりはずっと良い。 それに、もうずぶ濡れだから気にならない。 「こなた……良いの?」 「うん」 「ありがとう……」 こっそりかがみの方に傘を広くする。 もとから小さめの傘だから、私が少し濡れるけど、別に良い。  すぐに、私はかがみに向き直った。 「かがみ、ごめん……」 ☆ 「えっ……?」 私は、こなたの言葉に当惑していた。 もしかして、やっぱり私とはもういられないってこと……? だから、最後に優しくしてくれてるの……? それなら、聞きたくない……。 そうなったら私、もう…………。 「私が何にも知らないで、かがみのことをメイドなんて言っちゃって……」 「はぃ……っ?」 思わぬ言葉に、私は素っ頓狂な声をだしてしまった。 「それでかがみを怒らせちゃったんだよね……」 「う、うん……確かに間違ってはいないけど……」 「本当に、ごめんなさい……」 こなたはそう言って頭を下げた。 ☆ 「こなた……私こそ、ごめんなさい……。いつものこなたが好きって言ったのに…… こなたがせっかく甘えてくれたのに……それなのに、怒鳴ったりして……」 かがみも私と同じように頭を下げた。 「かがみ、そんな、いいって!」 「……よくないわよ……」 頭を上げたかがみは、泣いていた。 雨に濡れて分かり辛いけど、それは確かに涙だった。 いつもしっかり者だったお姉さんのかがみ。 けど、今はただの女の子だった。 初めて見たのに、何故かそれが本当の姿だってわかった。 女の子は今までずっと――――。 「ううん…………いいんだよ」 私はかがみの身体をぎゅっと抱き締める。 傘が手から落ちたけどいい。 ただ、私は目の前の女の子を抱き締めることが何より大事だった。 「……またかがみが隣にいてくれるってだけで、私はいいんだ」 「私の隣にいてくれるの……?」 耳元から聞こえてきたかがみの言葉に、私は返す。 「かがみが嫌じゃなければね」 かがみは言った。 『無理してもらってまで一緒にいてもらおうとは思ってない』って。 私は私がそうしたいから、こうしてるんだよ。 かがみは…………どう? 「こなたぁ……っ!」 かがみの手が私の背中に回されて、ぎゅっと抱き締められる。 良かった……同じなんだね……。 「私、こなたが私のこと嫌いになっちゃったから、電話もメールも返してくれないし、会ってもくれないんだって思ってた………」 涙声で本心を語ったかがみに、私も本当の気持ちを伝える。 「私も、かがみに嫌われちゃって、次会ったらきっと別れを告げられるかもって……。だから会いたくないって思ってた……」 「ひっく、私がこなたのこと、嫌いになるなんて、ひっく、あるわけ、ないわよ……」 「私も、かがみのこと嫌いになったりなんて絶対しないよ……」 ☆ 私たちはまた雨に晒されている。 でも、もう寒くない。 こなたが私を心から温めてくれるから。 あはは、私、全然お姉ちゃんなんかじゃないわね……。 こなたは、やっぱり強い。 私なんかが、お姉ちゃんの役なんて務まらないくらいに。 むしろ、こなたが私のお姉ちゃんね…………。 「かがみ。もう一つ、謝らなきゃいけないんだよね……」 「どうしたの……?」 こなたは抱き締めてくれてた手をはなして、再び向かい合った。 「かがみのことツンデレって言っておきながら、私も素直になれてなかったから……」 「え……?こなたが……?」 こなたは私なんかよりもよっぽどストレートに接してたと思うけど……。 「かがみが甘えてくれて良いって言ってくれたとき、私、嬉しかった……」 でも、とこなたは続ける。 「私、素直に甘えるのが恥ずかしくて……いつも遠回しになっちゃってた……」 「遠回しって……?」 私の言葉に、こなたが少し顔を赤らめる。 「その……宿題見せてもらったり、買い物付き合ってもらったりとか……」 恥ずかしそうなこなたの顔をみて、心の中でつい笑ってしまう。 でも、そのおかげで少し私は落ち着きを取り戻せた。 「なによそれ、いつもと変わらないじゃない」 いつものように、突っ込み余裕が出来る。 でも、こなたがちゃんと私に甘えてくれてたってことがわかって、すごく嬉しかった。 「だ、だって、手をつなぎたいとか腕組みたいって言うの、恥ずかしいしさ……」 「ゲームの中じゃよくあることじゃないの?」 私はくすりと笑って言う。 「ゲームの中の女の子とかがみは違うもん!」 こなたが少し強めにそう言った。 「こ、こなた……」 驚きと同時に、嬉しさがこみあげる。 「ありがとっ!」 溢れる喜びを抑えきれなくて、ついもう一度抱きついた。 ☆ 突然抱きつかれて少しびっくりしたけど、私もすぐにその背中に手を回した。 「かがみに勝るものなんて、ないって」 「……ホント?」 「うん」 「なら、今度からネトゲで約束してるから無理って言うのなしだからね?」 う゛………。い、痛いところを………。 「……かがみ、あっちの世界にも人付き合いってのがあってさ……」 「そっか……。そうよね………」 すっごい寂しそうな声でかがみが言う。 そ、そんなふうに言うのは反則だよ……。 「わ、わかったよ!……でも、出来るだけ早く言ってね?」 「うんっ!」 さっきと一転、かがみはすっごい嬉しそうに言った。 もしかしてかがみって、本当は――――。 「あれ……雨が……?」 かがみが突然空を見上げた。 つられて私も見上げる。 「……止んだ……」 灰色一色だった空の所々に、いつの間にか赤みがさしていた。 「太陽も見えるね」 西にいる沈みかかった太陽。 私さそれを見て、かがみに言った。 「……もう見つけられたわ」 するとそれを見ながら、かがみは意味深長なことを呟いた。 「えっ、何?」 「ひみつ」 かがみはいじわるに笑った。 「むむ、酷いなぁ」 「秘密にしておきたいこともあるのよ」 そう、かがみは笑顔を崩さずに言った。 むー、自分で見つけるしかないなー。 そう思って、私は沈みかかった夕日に視線を戻す。 でもそこにあるのは、いつもの赤い夕陽。 それは、かがみが見つけた太陽ではなかった。 きっとその太陽はかがみにしか見えないものなんだろうね。 そう、分かった。 だから、私はそれ以上考えるのをやめた。 「かがみ、帰ろっか」 「そう、ね……」 「立てる?」 「うん……大丈夫」 よかった……あれだけ雨にうたれてたから、風邪ひいてると思ったよ。 でも、もっと早く気付いてあげられてたら、こんな思いさせなくてすんだんだよね…。 私は傘を拾いながら、そんな後悔の念を抱いていた。 服や髪は相変わらずびしょ濡れ。 そんなかがみを心配して聞く。 「かがみ、寒くない?」 「うん……さっきこなたが温めてくれたから……」 意外な言葉に、こっちが恥ずかしくなる。 ぬぁっ……かがみさん……デレモード全開ですか! しかもいつものデレとは、ちょっと違うヨ。 やっぱり、そうなんだね――――。 「こなた……」 「何?」 かがみは少し恥ずかしそうにしている。 「恥ずかしくて出来なかったなら……今しよっか」 「え……っと?」 かがみは赤みを帯びた顔をさらに赤くする。 「手………つながない?」 そ、それですか……。何かと思ったよ。 でも、確かに手つなぎたかったしね……。 ゲームとかじゃ結構やってるし、ちょっと夢だったんだ。 「うん」 私の返答の後、差し出してくれたかがみの手を私はおずおずと握った。 その手は濡れてて冷たかったけど、温かかった。 この手をずっと離さない。離しちゃいけない。 そう、心の中で誓った。 「あはは、やっぱりかがみに甘えてばっかりだね」 私は恥ずかしくて、無理やり話題を作る。 「ううん、私もやってみたかったから……。だから、私のわがままでもあるの」 その言葉を聞いて、私は少し驚いた。 かがみも私と同じことを考えてたんだ……。 全然知らなかったよ……。 「でも、良かったよ」 「……何が?」 不思議そうな顔のかがみ。 「かがみとの関係が、一年生の最初の頃にまで戻っちゃったかと思ったからさ」 「え……?全部リセットじゃなくて……?」 「かがみからの最後のメール、敬語だったでしょ?あれは距離を意味してる、 もしくは私たちが、本当に主従関係なんだっていう暗示かなって思ってたけど……」 私の言葉を聞くと、かがみは驚いたような顔になる。 「そ、そんなつもりなかったわ……。ただ、敬語にしたほうがしっかりとした意思に思えるかなって……ただそれだけ……」 「えぇ、そうだったの!?」 「うん……」 やっぱり、伝わらないことって多いんだ…………。 ちゃんと伝えないと、多かれ少なかれズレが生じる。 そのズレが、大きければ大きいほど、間違いが起こりかねない。 「余計なことしちゃってごめんね」 「ううん、別にいいよ。例え古語でも英語でもトロール語でも、私がここにくることにはかわりなかったしさ」 「何でアンタはいつも余計なのを足すかな。古語と英語だけでいいのに」 かがみは笑いながら言った。 そのいつもと変わらない顔に、私も嬉しくなる。 「いゃ~~、トロール語は解読が難しいんだよ。母音がずれてるからわけわかんなくてさ~」 「その労力があれば、英単語300個以上は確実に覚えられるわよ?」 「う、それはパス」 「そうやってすぐ諦めないで、頑張りなさいよね」 「私なりに頑張ってるんだよ~」 「どうだか」 そう言って、私たちはまた笑いあった。 こんな他愛のない会話が出来る。 そんな【いつも】を取り戻せた。 その幸せを、今、改めて感じる。 ☆ 「そういえば、何でメール返してくれなかったの?」 こなたの気持ちがわかったからこそ、思い浮かぶ疑問。 別にこなたを非難するつもりはない。 単純に気になった。ただそれだけ。 けれど、こなたは私の言葉に申し訳なさそうな顔をする。 「そ、それなんだけど……実は、バッテリー切れたまま放置してて……」 「それじゃ……見てなかったの?」 「うん……。着信とメールがいっぱい来てたとき、びっくりしたよ」 「そうだったんだ……。てっきり、着信拒否にでもされちゃったのかと思ってた……」 「本当にごめんね。私がちゃんと見てれば、かがみにこんな辛い思いさせなくてすんだのに……」 「ううん、いいの」 こなたの辛そうな顔を見て、私は笑みを浮かべた。 「でも………」 きっと綺麗に笑えてる。 そこに余計なプライドも意地もないから。 心の奥からの純粋な感情を、そのまま表情に出してるから。 「もし、間違いがあったとしても、それは、こなただけのものじゃないから」 それに、と続ける。 「私のわがままな願いを叶えてもらったから……」 こなたが隣にいてくれる。 それを叶えてもらって、不満なんてあるわけない。 だから、伝えよう。 隠そうとせず。 自分の中にある邪魔な物を全部取り払って。 ――――マッスグナキモチヲ、あなたに。 「こなた、私ね――――」 ☆ 「本当はすごいわがままなの……」 かがみの告白。 それは、奥底に隠してある恥ずかしい部分を曝すこと。 でもそれは、私を認めてくれたということ。 私という存在を、心の中に受け入れてくれるということ。 「うん、そんな気がしてた。って言っても、ちょっと前に気付いたんだけどね」 そんなかがみに、私も結局本心を告げる。 「そうなんだ……。何でわかったの?」 「ネトゲよりかがみを優先するって言ったとき、凄い嬉しそうだったから」 いつもと違うデレモードのときに確信した、ってのはなんとなく秘密。 「そ、そんなだった?」 少し恥ずかしそうなかがみ。 その顔に、今までとの違いを改めて感じる。 「うん」 「……なら、もっともっとわがままになっても、いい?」 甘えるように言うかがみ。 普段とは違う可愛さに、少し鼓動が速くなる。 どんなギャルゲーのキャラよりも…………ううん、比較にならない。 「うん……。私もかがみに甘えさせてもらってるし、かがみも私に好きなだけ甘えてよ」 「わかった……。じゃあ……」 濡れた髪、少し赤くなった顔、潤んだ瞳。 見つめてくるその優美な姿に、思わず見とれてしまう。 そんなかがみの顔が私の顔に近づいてくる。 思わぬ行動に、次に起こる事象への予想が遅れる。 ―――――え? かがみの唇が私のに重なっていた。 この世にこんなに甘くて柔らかいものがあるのかな? そんな風に思うような、甘美な瞬間。 それが突然に訪れて、私の思考は停止する。 そっと離された後、止まっていた時間が動き出した。 「ぁっ、か、かがみ……」 さっきまで重なっていた、目の前にある真っ赤な顔を見つめる。 「こなた……キスしたこと……あった?」 「う、ううん……。今のが初めて……」 クラクラになりかかった頭でなんとか答えた。 「なら良かった……。これで、こなたは私専用ね」 「な、なんで……?」 混乱しながらも聞く。 すると、かがみは少し恥ずかしそうな顔になって言った。 「昔、まつり姉さんにご飯の最中言われたの。『最初に口つけたから私のだ』って」 「そ、そ、それと、こ、これの関係……は?」 「私が最初にこなたに口づけをしたから、私の。もう他の誰にもあげない」 それは恥ずかしく思う一方で、混乱した頭が一気に覚める力を持っていた。 それは、まるで子供みたいな言い分。 誰でも屁理屈なんて便利な言葉で片付けてしまうような。 でも、私はそうは思わない。 いつも大人っぽく振る舞っていたかがみ。 その心の中に抱えていたものは、孤独と不安と我慢。 それが、わかったから。 そっか……。 私たち、付き合ってたのにまだキスしてなかったんだよね……。 それどころか、手も繋いでなかった……。 私たちって恋人になってから、まだほとんど何にもしてなかったんだ……。 それが、かがみの孤独と不安に拍車をかけちゃったんだ……。 ごめんね……。 私が余計なことばっかり考えてたから…………。 かがみの気持ちが痛いほど伝わってくるから。 かがみの気持ちがとっても嬉しく感じるから。 だから、返そう。 遠回しな伝え方はやめて。 私の中にある余計な物を全て取り除いて。 ―――ホントウノオモイヲ、あなたに。 「かがみ…………なら」 ☆ いつもより濃い蒼。 そんな雲一つない空の中にある、真っ赤な太陽がすっと動く。 「こな、ぁ――――」 私たちの距離は、またなくなっていた。 今度はこなたから。 私の身体を溶かしてしまうような、そんな甘いキス。 それは呪縛じゃない。 私達は対となる翼。 お互いを必要とし、協力して未来へ飛び立つ。 欠くことの出来ない対の片。 そんな私達を、より強く結び付けてくれるもの。 「これでかがみも私専用だネ」 少し恥ずかしそうに私を見るこなた。 「こなた専用のメイドさん……?」 その言葉に、少し意地悪になる。 「ち、違うよ……」 「なら――――何?」 今度はじっと、真剣にその二つの瞳を見つめる。 それは、こなた自身の口から【私】を認めてもらいたいから。 それを、この先揺るぐことのない私の自己証明にしたいから。 こなたは翠の眼睛を私からそらさずに、口を開いた。 「私専用の――――恋人」 そう、こなた自身の言葉で妨がれた。 「こなたっ!」 嬉しくなって、私は手を繋いだまま隣を歩くこなたにまた抱きついた。 「――――ありがと」 こなたの恋人なのは私。 そう胸を張って言える。 不安も孤独も心配なく。 揺るがないものとして。 「……当たり前のこと、言っただけだよ」 こなたにとっての当たり前でいられる。 そのことが、何よりも嬉しかった。 「こなたがして欲しいなら、時々ならメイドさんにもなってあげる」 その嬉しさで、私はこなたの耳元でそっと、囁いた。 「あはは、その時はたっぷり愛でるネ」 こなたは苦笑いを浮かべてそう言った。 連続的な世界を分節する。 混沌に秩序を与える。 それが、言葉。 ぐちゃぐちゃになっていた私という存在。 それは今、こなたの言葉のおかげで、定まった。 私の、最も望む形で。 ☆ ねぇ、とかがみは私の耳元で囁いた。 「こなた……」 「……なに?」 ――――私たち……本当の恋人になれたかな……? ――――そう……だね。 恋人。 遠い昔、優しい声で言われた気がする。 それは、良い面ばかりみせようと、相手だけでなく自分までも欺瞞するような関係じゃない。 ましてや、字面だけで満足するようなものでもない。 もちろん、醜い部分は見せたくない。 でも、ずっとそれを意識し続けたら、きっと気疲れしてしまう。 そこに、恋人といれる楽しみがあるとは言えない。 良い面も悪い面も全部見せて、それをお互いが受け入れられる。 自然体でいられてその姿を好きでいられる。 一緒にいることで安心出来る。 そんな関係。 その意味を改めて自分の中に刻み込んだ。 「言葉って……大事ね」 「うん……。お互いわかってないことだらけだったっていうのがよくわかったよ……」 「それだけじゃないわ。……凄い力がある」 かがみは呟くように、でもはっきりと言った。 「それはまるで、コトバノマホウ―――」 「へぇ、かがみにしては珍しく非現実的な表現だね」 「うっさいわね、い、良いじゃない」 「でも、確かにそうだね……。不安になって、でもそれ以上に幸せになれて。それはもう、魔法の力だよ」 とても苦しかった。 でも幸せになった。 それは全部、言葉。 火を起こせたり、雷を落とすのと同じくらい、神秘的な力。 まさに、魔法の力をもつもの。 「ねぇ、こなた……」 「どうしたの、かがみ?」 ――――愛してる。 耳元でそっと紡がれた、たった6つの音。 それだけで――――。 だから私も、耳元でそっと囁やいた―――。 私も、愛してる――――。 ☆☆ ――――ウチナルカンジョウノニナイテ。 意識よりもっと深くにある気持ちに、思いに形を与えるもの。 それが、言葉。 いつも何気無く使ってるもの。 それは、凄い力を持ったもの。 それは、強い力。 刃物なんかよりよっぽど。 それは、惨い力。 人を悲しみに陥れるくらい。 騙し、傷つけ、卑しめ、陥れる――。 それは、人を不幸にする力。 それなら、どうして人は言葉を使う? 業務関係で最低限使うから? 字にするよりも簡単だから? 確かにそう。 でも、それだけじゃない。 簡単なこと。 ――不幸にするよりもっともっとそれ以上に、幸せに出来るから。 信じ、癒し、励まし、救う――――。 思いを伝えるために。 気持ちを共有するために。 私たちは言葉を使う。 言葉にしなくても伝わる。 それは、本当に素晴らしいこと。 でも言葉にしたら、もっと喜びを感じられるかもしれない。 自分の思いを伝えるために選んだ言葉たちを、愛する相手に送ることが出来る。 どんなものでもいい。 思いがつまっていれば、相手に、自分に幸せを齎してくれる。 それは、コトバノマホウ――――。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 泣けます.... -- 名無しさん (2014-08-22 00:01:24) - 珍しくSSで泣きました。 &br() -- チョココロネ (2013-11-17 09:48:10) - これは感動したとしかいいようがない &br()物語、文章、仕掛けの全てにんぐっじょっ! -- 名無しさん (2010-08-20 10:49:52) - 題名が最後に集まった…感動しました。 &br()美しいSSをありがとう。 -- 名無しさん (2008-10-03 22:45:14) - >>kkさん &br()そう言ってもらえると、こちらもありがたいですー。 &br() &br()>>ななしさん &br()ええ、前作が数字だけだったんで、 &br()今度はちょっと細工を加えようと思いましてw -- 10-45 (2008-08-12 00:59:20) - 今までのタイトルの意味がいまここに‥!! &br()感動した!!  -- 名無しさん (2008-08-06 13:48:16) - 感動しました、良作をありがとうございます。G.J -- kk (2008-08-06 00:43:08)
メールきたのが……12時!?もう5時間以上経ってるし!」 かがみが待ち続けている間、悠長にネトゲしてた自分が恨めしい……。 とにかく、早く行かなきゃ!!! 玄関の扉を開けて外を見た時、初めて私は気付いた。 さっき部屋から見た以上に雨足が強くなってる……。 朝から曇ってて、昼に雨が降り始めて、どんどん強くなってる……。 早く行かないと……! 私は傘を掴んで、走り出した。 ―――コトバノチカラを伝えに。 ☆ 「くしゅんっ」 寒い……。 もう雨が降り始めてから三時間近い。 昼からずっと誰もいない公園。 まるで、みんなに忘れられた場所。 そんなベンチの上で、私はただ待ち続けていた。 髪や服はびしょ濡れで、肌にはりついて余計に寒いし、気持ち悪い。 でも、誰一人として私のことを認知していない。 もしかしたら、私もこの公園と同じで忘れられた存在なのかもしれない。 でも、帰らない。帰りたくない。 私がこのベンチを一人で帰る時。 それは、諦めてリセットボタンを押すことを意味するから。 だから、私は待ち続ける。 いつまでも、ただ一人を。 ―――トリケセナイジカンの向こうにいくために。 ☆ 濡れた道で何度か転びそうになる。 それでも、冷たい雨の中を私は速度を落とさず走り続ける。 今はないその手と繋がっていた左手に、しっかりと畳まれた傘を握ったまま。 傘をさしたらその分走るのが遅くなるから。 そして、こんなになるまでかがみを待たせたから。 そんな、自己満足な贖罪も込めて。 少しでも、一秒でも早く。 こんなところで止まってなんていられない。 私が止まる場所。 私が居たい場所。 そこに行くためなら、どんな障害も乗り越え……いや、壊す。 私の行く場所。行きたい場所。行かなきゃいけない場所。 ―――バラッドノヨウナオモイデが奏でる、私たちの特別な場所。 そこは、ただひとつ。 ☆ 見えるのは、垂直に落ちる水と黒く染まった地面と濡れた遊具だけ。 聞こえるのは、地面に水滴が叩きつけられる音だけ。 空は、どこまでいっても単調なモノクロだけ。 太陽、出てくれるかな……。 ―――ノゾムハダレガタメかなんて、言う必要ない。 私は再び視線を現実に戻す。 その時、鮮やかな蒼い空の中にある太陽が見えた気がした――――。 ☆ 「はぁ……はぁ…………」 流石にキツい……。でも、もう少し……。 雨は時間が経てば経つほど、その強さを増していっている。 でも、そんな雨すら走り続けて火照った身体には気持ち良い。 これじゃ、贖罪にならないや……。 なんとか公園の入り口に着く。 酸素を渇望する肺を可能な限り無視し、真っ先にベンチの方を見る。 私のウサギさんが、そこにいた。 ☆ 「かがみ!!」 私の名前が叫ばれる。 「こなた!!」 私も名前を叫び返す。 夢かと思った。 でも、目を擦っても確かにその人はいた。 その蒼い髪を濡らしながら、私のところまで来てくれた。 「ご、ごめん……すっごい遅刻しちゃった……」 乱れた息を整えながらその人――――こなたは言った。 「ううん……良いの……来てくれたから……それだけで……」 涙が込み上げてくる。 「あっ、傘!かがみ、きっと濡れてると思って持って来たから、使って」 差し出された傘。その他に、こなたの持つ傘はない。 「そしたら、こなたが濡れちゃうわよ……こなたが使って?」 「私は良いから。だって、こんなに待たせちゃったし……」 「ううん、私のわがままでこなたに迷惑かけちゃってるんだから……」 それに、こなたは裏切った私を見放さないでくれた。 そんなこなたを濡れさせて、私が雨を凌ぐなんて出来ない。 ☆ ううむ、どうしよう……。 私が悪くてかがみを怒らせちゃって、さらに雨の中待たせちゃったのに、私が傘を使うなんて出来ない。 も~、なんで私は傘を一本しか持って来なかったんだろ……。 かがみのことしか頭になくて、自分のことなんてすっかり忘れてたよ……。 「かがみ、お願い……。私のせめてもの罪滅ぼしだと思って」 「なんでこなたが罪滅ぼしなんてしなきゃいけないの?するのは私の方よ……」 うう、やっぱり勘違いしてる……。 でもとりあえずそれを解く前に雨を凌がなきゃ。 「かがみ、これならどう?」 私はかがみの隣に座り、私とかがみ、両方が入るようにして傘をさした。 ベンチが濡れてて少し冷たいけど、かがみを濡れさせたままよりはずっと良い。 それに、もうずぶ濡れだから気にならない。 「こなた……良いの?」 「うん」 「ありがとう……」 こっそりかがみの方に傘を広くする。 もとから小さめの傘だから、私が少し濡れるけど、別に良い。  すぐに、私はかがみに向き直った。 「かがみ、ごめん……」 ☆ 「えっ……?」 私は、こなたの言葉に当惑していた。 もしかして、やっぱり私とはもういられないってこと……? だから、最後に優しくしてくれてるの……? それなら、聞きたくない……。 そうなったら私、もう…………。 「私が何にも知らないで、かがみのことをメイドなんて言っちゃって……」 「はぃ……っ?」 思わぬ言葉に、私は素っ頓狂な声をだしてしまった。 「それでかがみを怒らせちゃったんだよね……」 「う、うん……確かに間違ってはいないけど……」 「本当に、ごめんなさい……」 こなたはそう言って頭を下げた。 ☆ 「こなた……私こそ、ごめんなさい……。いつものこなたが好きって言ったのに…… こなたがせっかく甘えてくれたのに……それなのに、怒鳴ったりして……」 かがみも私と同じように頭を下げた。 「かがみ、そんな、いいって!」 「……よくないわよ……」 頭を上げたかがみは、泣いていた。 雨に濡れて分かり辛いけど、それは確かに涙だった。 いつもしっかり者だったお姉さんのかがみ。 けど、今はただの女の子だった。 初めて見たのに、何故かそれが本当の姿だってわかった。 女の子は今までずっと――――。 「ううん…………いいんだよ」 私はかがみの身体をぎゅっと抱き締める。 傘が手から落ちたけどいい。 ただ、私は目の前の女の子を抱き締めることが何より大事だった。 「……またかがみが隣にいてくれるってだけで、私はいいんだ」 「私の隣にいてくれるの……?」 耳元から聞こえてきたかがみの言葉に、私は返す。 「かがみが嫌じゃなければね」 かがみは言った。 『無理してもらってまで一緒にいてもらおうとは思ってない』って。 私は私がそうしたいから、こうしてるんだよ。 かがみは…………どう? 「こなたぁ……っ!」 かがみの手が私の背中に回されて、ぎゅっと抱き締められる。 良かった……同じなんだね……。 「私、こなたが私のこと嫌いになっちゃったから、電話もメールも返してくれないし、会ってもくれないんだって思ってた………」 涙声で本心を語ったかがみに、私も本当の気持ちを伝える。 「私も、かがみに嫌われちゃって、次会ったらきっと別れを告げられるかもって……。だから会いたくないって思ってた……」 「ひっく、私がこなたのこと、嫌いになるなんて、ひっく、あるわけ、ないわよ……」 「私も、かがみのこと嫌いになったりなんて絶対しないよ……」 ☆ 私たちはまた雨に晒されている。 でも、もう寒くない。 こなたが私を心から温めてくれるから。 あはは、私、全然お姉ちゃんなんかじゃないわね……。 こなたは、やっぱり強い。 私なんかが、お姉ちゃんの役なんて務まらないくらいに。 むしろ、こなたが私のお姉ちゃんね…………。 「かがみ。もう一つ、謝らなきゃいけないんだよね……」 「どうしたの……?」 こなたは抱き締めてくれてた手をはなして、再び向かい合った。 「かがみのことツンデレって言っておきながら、私も素直になれてなかったから……」 「え……?こなたが……?」 こなたは私なんかよりもよっぽどストレートに接してたと思うけど……。 「かがみが甘えてくれて良いって言ってくれたとき、私、嬉しかった……」 でも、とこなたは続ける。 「私、素直に甘えるのが恥ずかしくて……いつも遠回しになっちゃってた……」 「遠回しって……?」 私の言葉に、こなたが少し顔を赤らめる。 「その……宿題見せてもらったり、買い物付き合ってもらったりとか……」 恥ずかしそうなこなたの顔をみて、心の中でつい笑ってしまう。 でも、そのおかげで少し私は落ち着きを取り戻せた。 「なによそれ、いつもと変わらないじゃない」 いつものように、突っ込み余裕が出来る。 でも、こなたがちゃんと私に甘えてくれてたってことがわかって、すごく嬉しかった。 「だ、だって、手をつなぎたいとか腕組みたいって言うの、恥ずかしいしさ……」 「ゲームの中じゃよくあることじゃないの?」 私はくすりと笑って言う。 「ゲームの中の女の子とかがみは違うもん!」 こなたが少し強めにそう言った。 「こ、こなた……」 驚きと同時に、嬉しさがこみあげる。 「ありがとっ!」 溢れる喜びを抑えきれなくて、ついもう一度抱きついた。 ☆ 突然抱きつかれて少しびっくりしたけど、私もすぐにその背中に手を回した。 「かがみに勝るものなんて、ないって」 「……ホント?」 「うん」 「なら、今度からネトゲで約束してるから無理って言うのなしだからね?」 う゛………。い、痛いところを………。 「……かがみ、あっちの世界にも人付き合いってのがあってさ……」 「そっか……。そうよね………」 すっごい寂しそうな声でかがみが言う。 そ、そんなふうに言うのは反則だよ……。 「わ、わかったよ!……でも、出来るだけ早く言ってね?」 「うんっ!」 さっきと一転、かがみはすっごい嬉しそうに言った。 もしかしてかがみって、本当は――――。 「あれ……雨が……?」 かがみが突然空を見上げた。 つられて私も見上げる。 「……止んだ……」 灰色一色だった空の所々に、いつの間にか赤みがさしていた。 「太陽も見えるね」 西にいる沈みかかった太陽。 私さそれを見て、かがみに言った。 「……もう見つけられたわ」 するとそれを見ながら、かがみは意味深長なことを呟いた。 「えっ、何?」 「ひみつ」 かがみはいじわるに笑った。 「むむ、酷いなぁ」 「秘密にしておきたいこともあるのよ」 そう、かがみは笑顔を崩さずに言った。 むー、自分で見つけるしかないなー。 そう思って、私は沈みかかった夕日に視線を戻す。 でもそこにあるのは、いつもの赤い夕陽。 それは、かがみが見つけた太陽ではなかった。 きっとその太陽はかがみにしか見えないものなんだろうね。 そう、分かった。 だから、私はそれ以上考えるのをやめた。 「かがみ、帰ろっか」 「そう、ね……」 「立てる?」 「うん……大丈夫」 よかった……あれだけ雨にうたれてたから、風邪ひいてると思ったよ。 でも、もっと早く気付いてあげられてたら、こんな思いさせなくてすんだんだよね…。 私は傘を拾いながら、そんな後悔の念を抱いていた。 服や髪は相変わらずびしょ濡れ。 そんなかがみを心配して聞く。 「かがみ、寒くない?」 「うん……さっきこなたが温めてくれたから……」 意外な言葉に、こっちが恥ずかしくなる。 ぬぁっ……かがみさん……デレモード全開ですか! しかもいつものデレとは、ちょっと違うヨ。 やっぱり、そうなんだね――――。 「こなた……」 「何?」 かがみは少し恥ずかしそうにしている。 「恥ずかしくて出来なかったなら……今しよっか」 「え……っと?」 かがみは赤みを帯びた顔をさらに赤くする。 「手………つながない?」 そ、それですか……。何かと思ったよ。 でも、確かに手つなぎたかったしね……。 ゲームとかじゃ結構やってるし、ちょっと夢だったんだ。 「うん」 私の返答の後、差し出してくれたかがみの手を私はおずおずと握った。 その手は濡れてて冷たかったけど、温かかった。 この手をずっと離さない。離しちゃいけない。 そう、心の中で誓った。 「あはは、やっぱりかがみに甘えてばっかりだね」 私は恥ずかしくて、無理やり話題を作る。 「ううん、私もやってみたかったから……。だから、私のわがままでもあるの」 その言葉を聞いて、私は少し驚いた。 かがみも私と同じことを考えてたんだ……。 全然知らなかったよ……。 「でも、良かったよ」 「……何が?」 不思議そうな顔のかがみ。 「かがみとの関係が、一年生の最初の頃にまで戻っちゃったかと思ったからさ」 「え……?全部リセットじゃなくて……?」 「かがみからの最後のメール、敬語だったでしょ?あれは距離を意味してる、 もしくは私たちが、本当に主従関係なんだっていう暗示かなって思ってたけど……」 私の言葉を聞くと、かがみは驚いたような顔になる。 「そ、そんなつもりなかったわ……。ただ、敬語にしたほうがしっかりとした意思に思えるかなって……ただそれだけ……」 「えぇ、そうだったの!?」 「うん……」 やっぱり、伝わらないことって多いんだ…………。 ちゃんと伝えないと、多かれ少なかれズレが生じる。 そのズレが、大きければ大きいほど、間違いが起こりかねない。 「余計なことしちゃってごめんね」 「ううん、別にいいよ。例え古語でも英語でもトロール語でも、私がここにくることにはかわりなかったしさ」 「何でアンタはいつも余計なのを足すかな。古語と英語だけでいいのに」 かがみは笑いながら言った。 そのいつもと変わらない顔に、私も嬉しくなる。 「いゃ~~、トロール語は解読が難しいんだよ。母音がずれてるからわけわかんなくてさ~」 「その労力があれば、英単語300個以上は確実に覚えられるわよ?」 「う、それはパス」 「そうやってすぐ諦めないで、頑張りなさいよね」 「私なりに頑張ってるんだよ~」 「どうだか」 そう言って、私たちはまた笑いあった。 こんな他愛のない会話が出来る。 そんな【いつも】を取り戻せた。 その幸せを、今、改めて感じる。 ☆ 「そういえば、何でメール返してくれなかったの?」 こなたの気持ちがわかったからこそ、思い浮かぶ疑問。 別にこなたを非難するつもりはない。 単純に気になった。ただそれだけ。 けれど、こなたは私の言葉に申し訳なさそうな顔をする。 「そ、それなんだけど……実は、バッテリー切れたまま放置してて……」 「それじゃ……見てなかったの?」 「うん……。着信とメールがいっぱい来てたとき、びっくりしたよ」 「そうだったんだ……。てっきり、着信拒否にでもされちゃったのかと思ってた……」 「本当にごめんね。私がちゃんと見てれば、かがみにこんな辛い思いさせなくてすんだのに……」 「ううん、いいの」 こなたの辛そうな顔を見て、私は笑みを浮かべた。 「でも………」 きっと綺麗に笑えてる。 そこに余計なプライドも意地もないから。 心の奥からの純粋な感情を、そのまま表情に出してるから。 「もし、間違いがあったとしても、それは、こなただけのものじゃないから」 それに、と続ける。 「私のわがままな願いを叶えてもらったから……」 こなたが隣にいてくれる。 それを叶えてもらって、不満なんてあるわけない。 だから、伝えよう。 隠そうとせず。 自分の中にある邪魔な物を全部取り払って。 ――――マッスグナキモチヲ、あなたに。 「こなた、私ね――――」 ☆ 「本当はすごいわがままなの……」 かがみの告白。 それは、奥底に隠してある恥ずかしい部分を曝すこと。 でもそれは、私を認めてくれたということ。 私という存在を、心の中に受け入れてくれるということ。 「うん、そんな気がしてた。って言っても、ちょっと前に気付いたんだけどね」 そんなかがみに、私も結局本心を告げる。 「そうなんだ……。何でわかったの?」 「ネトゲよりかがみを優先するって言ったとき、凄い嬉しそうだったから」 いつもと違うデレモードのときに確信した、ってのはなんとなく秘密。 「そ、そんなだった?」 少し恥ずかしそうなかがみ。 その顔に、今までとの違いを改めて感じる。 「うん」 「……なら、もっともっとわがままになっても、いい?」 甘えるように言うかがみ。 普段とは違う可愛さに、少し鼓動が速くなる。 どんなギャルゲーのキャラよりも…………ううん、比較にならない。 「うん……。私もかがみに甘えさせてもらってるし、かがみも私に好きなだけ甘えてよ」 「わかった……。じゃあ……」 濡れた髪、少し赤くなった顔、潤んだ瞳。 見つめてくるその優美な姿に、思わず見とれてしまう。 そんなかがみの顔が私の顔に近づいてくる。 思わぬ行動に、次に起こる事象への予想が遅れる。 ―――――え? かがみの唇が私のに重なっていた。 この世にこんなに甘くて柔らかいものがあるのかな? そんな風に思うような、甘美な瞬間。 それが突然に訪れて、私の思考は停止する。 そっと離された後、止まっていた時間が動き出した。 「ぁっ、か、かがみ……」 さっきまで重なっていた、目の前にある真っ赤な顔を見つめる。 「こなた……キスしたこと……あった?」 「う、ううん……。今のが初めて……」 クラクラになりかかった頭でなんとか答えた。 「なら良かった……。これで、こなたは私専用ね」 「な、なんで……?」 混乱しながらも聞く。 すると、かがみは少し恥ずかしそうな顔になって言った。 「昔、まつり姉さんにご飯の最中言われたの。『最初に口つけたから私のだ』って」 「そ、そ、それと、こ、これの関係……は?」 「私が最初にこなたに口づけをしたから、私の。もう他の誰にもあげない」 それは恥ずかしく思う一方で、混乱した頭が一気に覚める力を持っていた。 それは、まるで子供みたいな言い分。 誰でも屁理屈なんて便利な言葉で片付けてしまうような。 でも、私はそうは思わない。 いつも大人っぽく振る舞っていたかがみ。 その心の中に抱えていたものは、孤独と不安と我慢。 それが、わかったから。 そっか……。 私たち、付き合ってたのにまだキスしてなかったんだよね……。 それどころか、手も繋いでなかった……。 私たちって恋人になってから、まだほとんど何にもしてなかったんだ……。 それが、かがみの孤独と不安に拍車をかけちゃったんだ……。 ごめんね……。 私が余計なことばっかり考えてたから…………。 かがみの気持ちが痛いほど伝わってくるから。 かがみの気持ちがとっても嬉しく感じるから。 だから、返そう。 遠回しな伝え方はやめて。 私の中にある余計な物を全て取り除いて。 ―――ホントウノオモイヲ、あなたに。 「かがみ…………なら」 ☆ いつもより濃い蒼。 そんな雲一つない空の中にある、真っ赤な太陽がすっと動く。 「こな、ぁ――――」 私たちの距離は、またなくなっていた。 今度はこなたから。 私の身体を溶かしてしまうような、そんな甘いキス。 それは呪縛じゃない。 私達は対となる翼。 お互いを必要とし、協力して未来へ飛び立つ。 欠くことの出来ない対の片。 そんな私達を、より強く結び付けてくれるもの。 「これでかがみも私専用だネ」 少し恥ずかしそうに私を見るこなた。 「こなた専用のメイドさん……?」 その言葉に、少し意地悪になる。 「ち、違うよ……」 「なら――――何?」 今度はじっと、真剣にその二つの瞳を見つめる。 それは、こなた自身の口から【私】を認めてもらいたいから。 それを、この先揺るぐことのない私の自己証明にしたいから。 こなたは翠の眼睛を私からそらさずに、口を開いた。 「私専用の――――恋人」 そう、こなた自身の言葉で妨がれた。 「こなたっ!」 嬉しくなって、私は手を繋いだまま隣を歩くこなたにまた抱きついた。 「――――ありがと」 こなたの恋人なのは私。 そう胸を張って言える。 不安も孤独も心配なく。 揺るがないものとして。 「……当たり前のこと、言っただけだよ」 こなたにとっての当たり前でいられる。 そのことが、何よりも嬉しかった。 「こなたがして欲しいなら、時々ならメイドさんにもなってあげる」 その嬉しさで、私はこなたの耳元でそっと、囁いた。 「あはは、その時はたっぷり愛でるネ」 こなたは苦笑いを浮かべてそう言った。 連続的な世界を分節する。 混沌に秩序を与える。 それが、言葉。 ぐちゃぐちゃになっていた私という存在。 それは今、こなたの言葉のおかげで、定まった。 私の、最も望む形で。 ☆ ねぇ、とかがみは私の耳元で囁いた。 「こなた……」 「……なに?」 ――――私たち……本当の恋人になれたかな……? ――――そう……だね。 恋人。 遠い昔、優しい声で言われた気がする。 それは、良い面ばかりみせようと、相手だけでなく自分までも欺瞞するような関係じゃない。 ましてや、字面だけで満足するようなものでもない。 もちろん、醜い部分は見せたくない。 でも、ずっとそれを意識し続けたら、きっと気疲れしてしまう。 そこに、恋人といれる楽しみがあるとは言えない。 良い面も悪い面も全部見せて、それをお互いが受け入れられる。 自然体でいられてその姿を好きでいられる。 一緒にいることで安心出来る。 そんな関係。 その意味を改めて自分の中に刻み込んだ。 「言葉って……大事ね」 「うん……。お互いわかってないことだらけだったっていうのがよくわかったよ……」 「それだけじゃないわ。……凄い力がある」 かがみは呟くように、でもはっきりと言った。 「それはまるで、コトバノマホウ―――」 「へぇ、かがみにしては珍しく非現実的な表現だね」 「うっさいわね、い、良いじゃない」 「でも、確かにそうだね……。不安になって、でもそれ以上に幸せになれて。それはもう、魔法の力だよ」 とても苦しかった。 でも幸せになった。 それは全部、言葉。 火を起こせたり、雷を落とすのと同じくらい、神秘的な力。 まさに、魔法の力をもつもの。 「ねぇ、こなた……」 「どうしたの、かがみ?」 ――――愛してる。 耳元でそっと紡がれた、たった6つの音。 それだけで――――。 だから私も、耳元でそっと囁やいた―――。 私も、愛してる――――。 ☆☆ ――――ウチナルカンジョウノニナイテ。 意識よりもっと深くにある気持ちに、思いに形を与えるもの。 それが、言葉。 いつも何気無く使ってるもの。 それは、凄い力を持ったもの。 それは、強い力。 刃物なんかよりよっぽど。 それは、惨い力。 人を悲しみに陥れるくらい。 騙し、傷つけ、卑しめ、陥れる――。 それは、人を不幸にする力。 それなら、どうして人は言葉を使う? 業務関係で最低限使うから? 字にするよりも簡単だから? 確かにそう。 でも、それだけじゃない。 簡単なこと。 ――不幸にするよりもっともっとそれ以上に、幸せに出来るから。 信じ、癒し、励まし、救う――――。 思いを伝えるために。 気持ちを共有するために。 私たちは言葉を使う。 言葉にしなくても伝わる。 それは、本当に素晴らしいこと。 でも言葉にしたら、もっと喜びを感じられるかもしれない。 自分の思いを伝えるために選んだ言葉たちを、愛する相手に送ることが出来る。 どんなものでもいい。 思いがつまっていれば、相手に、自分に幸せを齎してくれる。 それは、コトバノマホウ――――。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-08 03:07:43) - 泣けます.... -- 名無しさん (2014-08-22 00:01:24) - 珍しくSSで泣きました。 &br() -- チョココロネ (2013-11-17 09:48:10) - これは感動したとしかいいようがない &br()物語、文章、仕掛けの全てにんぐっじょっ! -- 名無しさん (2010-08-20 10:49:52) - 題名が最後に集まった…感動しました。 &br()美しいSSをありがとう。 -- 名無しさん (2008-10-03 22:45:14) - >>kkさん &br()そう言ってもらえると、こちらもありがたいですー。 &br() &br()>>ななしさん &br()ええ、前作が数字だけだったんで、 &br()今度はちょっと細工を加えようと思いましてw -- 10-45 (2008-08-12 00:59:20) - 今までのタイトルの意味がいまここに‥!! &br()感動した!!  -- 名無しさん (2008-08-06 13:48:16) - 感動しました、良作をありがとうございます。G.J -- kk (2008-08-06 00:43:08)

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