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星紡ぐ想い(完結)」(2023/05/09 (火) 17:27:55) の最新版変更点

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★☆★☆★ その川へたどり着くころには、辺り一面夜の帳に包まれていた。 川原に生い茂る草が時折そよぐ風に揺れ、涼しげな音を立てている。 川のせせらぎは、そんな涼しげな風により一層の涼を添えていた。 「うわ、すごいね」 「きれいでしょ」 川辺を歩きながら空を見上げると、満天の星が輝いていた。 幸い今日は梅雨の合間をぬって晴れたこともあり、雲に隠されることはなかったようだ。 夜空を埋める星々に、私は素直に感動していた。 「ねえねえ、天の川ってどこにあるの?」 「あそこの光が強いあたりじゃないかな。ほら、ぼんやりと光ってるあのあたり」 「ふーん」 そう言ってかがみは周囲よりほんの少し強く星が輝くあたりを指差した。 「思ってたより強く光ってないんだね。もっとこうぱあって輝いてるのかと思ってたけど」 「さすがにそこまではね。ほんとはもっと明るく見えるはずなんだけど、 月明かりや照明のせいで見えないというのもあるわね。 山の上や周囲の光が少ないところへ行けばもっとはっきり見えるそうだけど、 それでもここは綺麗に見える方じゃないかな」 「そうなんだ」 本当に綺麗に見えそうな気がして、もう一度よく空を見上げてみた。 相変わらずぼんやりとしか見えなかったけど、天の川を挟んでひときわ強く光る二つの星を見つけた。 「あの強く光ってる星は何?」 「ベガとアルタイルよ」 「なんか強そうだね。格ゲーに出てきそう」 「あのねえ、織姫と彦星を戦わせてどうするのよ」 「あっ、あれがそうなんだ」 「うん。七夕伝説で有名ね。年に一度しか二人は会えないという話は知っているでしょ?」 「さすがにそれぐらいはね。でも、どうして会えなくなったの?」 「もともと働き者だった二人は結婚したんだけど、夫婦生活が楽しくて働かなくなったのね。 それで織姫のお父さんが怒って会うのを禁じたのよ。今日だけは会うことを許したってわけ」 「なんか娘に相手にされなくなったお父さんの八つ当たりみたいなんだけど」 「お父さんっていっても天帝だけどね。ま、だらけてたら罰をくらうという教訓よ。 あんたも気をつけなさい」 「ふっ、私は別にお父さんに怒られたって会いに行くからね」 「こらこら、あんまりおじさんに心配かけちゃダメよ。 まあとにかく、今日は晴れたから二人は天の川でデート中ね」 「私たちみたいだね」 「なっ、……へ、変なこと言わないでよ」 「ふふふ」 夜の闇の中でよく見えなかったけど、きっとまた真っ赤になっているんだろう。 そんな顔を見られたくないのか、かがみは少し歩く速度を速めた。 私も置いていかれないように、すこし小走りで追いついた。 「七夕の日に雨が降るとね、天の川の水かさが増えて二人は会えなくなるんだって」 「なんか妙に設定が現実的だね」 「まあ、その辺は人間が作った話だからね。それで、七夕の日に降る雨は二人の流す涙だって言われてるの」 「へぇ、何か悲しいけど綺麗な例えだね」 「ほんとね。他にも天の川に関する話はいろいろあるのよ。例えば──」 かがみの口からすらすら出てくる話に、じっと耳を傾けた。 星の発する光の強さや地球までの距離、星座の話、ギリシャ神話に出てくる天の川の話、 七夕にまつわる様々な伝説。 とても難しそうな話もあって、私なら自分から調べようなんて思わないだろう。 でも、かがみの話はとても面白かった。 難しい言葉をそのまま伝えるのではなく、ちゃんと自分の頭で理解して噛み砕いて説明してくれる。 そんなことができるかがみは、改めてすごいなと感心した。 私にいつも勉強を教えてくれるときもそうだった。 ちゃんと私のことを考えて、私が理解できるように教えてくれる。 普段意識することはなかったけど、そうやって私のことを考えてくれるかがみの心遣いに改めて感謝した。 「ふーん、すごく詳しいんだ」 「自分の誕生日が七夕だから、昔色々気になって調べたことがあるのよ」 私の言葉に満足したのか、少し得意げに笑った。 かがみの七夕にまつわる話がしばらく続いた後、私もかがみも話すことがなくなってしまった。 どちらから話しかけることもなく、辺りを静かな沈黙が支配していく。 さっきまで聞こえていなかった川のせせらぎや、風にそよぐ草の音がひときわ大きく耳に入ってくる。 私の息遣いさえもかがみに聞こえてしまうんじゃないかと思えた。 でもこうやって静かな時をかがみと過ごすのも嫌じゃない。 お互いの存在を間近に感じられて、何も言わなくても心が通じ合っているような気がして。 よく子供がお母さんに寄り添ってもらいながら嬉しそうにはにかんでる姿をテレビで見るけど、 その子達もこんな気持ちなんだろうか。 私なりに上手い例えだと思ったけど、でも、それじゃあ自分で自分のことを子供だと認めたようなもので…… 何か無性に悔しい。 かがみに気付かれないようそっと側に寄ると、精一杯背伸びをしてみた。 でも当然のことながらその体勢を維持して歩き続けるのは無理で、 すぐにかがみを見上げるいつもの高さに戻ってしまった。 ──はぁ かがみと並んで歩きたかったのに。 気付かれないよう小さなため息をつく。 そんな私の様子をかがみは不思議そうな目で見つめていた。 その後、私を先導するように少し前を歩くかがみの後ろ姿を何とは無しにじっと眺めていた。 かがみの性格を象徴するかのようなツインテールに、均整の取れた体つき、そしてすらっと伸びた足。 背筋をピンと伸ばして、凛とした雰囲気をまといながら、とても優雅に歩いてゆく。 空を見上げながら歩くその後ろ姿は、まるで劇の中に登場するヒロインのようだ。 夜空の暗幕の中に輝く無数の星の下、月の光のスポットライトに照らされて、 舞台の上を風のように歩いていく。 私はそんなかがみの歩く姿を見るのが好きだった。 小走りでかがみの横に並ぶと、その横顔をチラッと見上げてみた。 夜空に瞬く星に見劣りしないほどきれいな瞳。 気付かれないように見つめていると、なんだかうっとりしてきそうだった。 でも、ほんの一瞬、その瞳が潤んだような気がした。 ──あれ、どうしたんだろ 単なる見間違いだろうか。 目をこすってもう一度よく見ると、もとのかがみのままだった。 光の加減でそう見えたのだろう。 ホッと安心して息をついた。 それからどれだけ歩いたのだろう、空を見上げるとさっきまで瞬いていた星が流れてきた雲に隠されていた。 草を揺らせていた風もかすかな湿り気を帯び、辺りの空気が重くなったような気がする。 「……ずっと、相手のことを思い続けてるのに会えないのって辛いのかな」 ふと、かがみは独り言のようにポツリと呟いた。 「何の話?」 「さっきの織姫と彦星の話よ」 「そうなったことがないからよく分からないけど、きっと辛いんじゃないかな?  1年間アニメやゲームを禁止されたら、私なら禁断症状起こすね」 「ふふ、あんたの将来のためには、むしろそっちの方が良さそうだけどね」 「そんな生活考えられないよ」 「ちょっとは考えなさいよ。まあ、それぐらい辛いってことね」 月を覆っていた雲が風に流され、再び光が私たちの周りに降り注ぐ。 だからだろうか。 そう言って笑ったかがみの顔は、なぜかとても弱々しく輝いていた。 「昔ね、織姫と彦星の話を聞いたとき何てかわいそうなんだろうって思った。 お互い愛し合ってるのに無理やり引き裂かれて1年に1回しか会えないなんて、酷い話よね」 「うん」 「それ以上に辛いことなんてないんじゃないかって、ずっと思ってたの」 「……うん」 「でも……」 かがみは迷っているようだった。 言いたいけれど言えない。 そんな様子で口を開けたかと思うと、口をつぐむのを繰り返していた。 やがて何かを振り切るように頭を振ると、話を切り出した。 「でも、もし毎日会えていたとしても、自分の思いを隠し続けながら生きるのと、どっちが辛いんだろう」 思い詰めたように唇をぎゅっと噛んで、辛そうな表情をしていた。 「それは……」 「ほんとは好きなんだけど、友達として演じ続けなければならないのと、どっちが辛いんだろう」 それは私に答えを求めているというよりも、独白に近かった。 救いがないことを知りつつ言わずにはいられないような、そんな悲しい独白だった。 「かがみ、……悩みでもあるの?」 いつものようにからかって励ます気にはなれなかった。 どこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな脆さを秘めていたから。 辛そうな顔は、やがて何かをあきらめたような自嘲的な笑みへと変わっていった。 「……ううん、ごめんね。変なこと言っちゃって。今日は付き合ってくれてありがとう」 私に向けた笑顔は壊れそうで、どこかへ消えてしまうんじゃないかと思われた。 誰のこと思ってるんだろう? 好きな人がいるんだろうか。 もしそうだとしたら、その人はやっぱり…… ………… ううん、かがみが少しでも悩んでいるのなら、少しでも不安を取り除いてあげなくちゃ。 私のことは別に…… 「かがみ、何か悩んでるのなら聞くよ。言いたくないこともあるかもしれないけど、 私なんかじゃ役に立てないかもしれないけど、でも何も言わないよりましだと思うから」 「うん、ありがと。でもいいの。私もちょっとおかしくなってただけだから」 ちょっとおかしくなっただけで、あんな顔できるはずがない。 あれはずっと悩んでいるような顔だった。 「誰か、好きな人でもできたの?」 「べ、別にそんなわけじゃないけど……」 やっぱり、誰かいるんだ。 「誰か好きな人ができたんなら、私のことなんてかまわずその人の──」 「そんなんじゃない!」 「えっ」 突然の大きな声に私の話はさえぎられた。 かがみ自身も自分の出した声の大きさに戸惑っているようだった。 「ご、ごめん、つい大きな声出しちゃって」 「う、うん」 かがみは自分を落ち着かせるように深呼吸すると、話し始めた。 「別に好きな男の子ができたとかじゃないから。 言ったでしょ、これまでにそういったロマンスなんてなかったって」 「……」 「正直私にもよく分からないの」 「うん」 「だから、もしそれが分かったら、伝えることができるようになったら、こなたに言うね」 「そっか、分かった」 「ごめんね、さっきから変なことばかり言って心配かけて」 「ううん、私はかがみが辛そうにしてるのなんて見たくないだけだから」 「こなた……」 「だって、かがみは、私の……」 「私の?」 私の、何だろう? 適当な言葉が見つからずたじろいでいると、かがみは優しく微笑んでくれた。 「ありがと、こなた。私のこと励まそうとしてくれて」 そう言って浮かべた微笑みは、それまでとは違い強さと優しさに満ちていた。 「……でも、私も分かる気がするよ、さっきかがみが言ったこと」 「こなたも?」 かがみはびっくりしたような表情で私のことを見つめた。 「うん。だいじな友達のこと好きになっちゃって、思いを伝えたら それっきりになっちゃうんじゃないかと思って、怖くて何もいえなくて……」 再び静かな風が流れた。 7月とはいえ、夜の、それも川の近くは少し肌寒い。 その風は私の体から体温を奪い、軽く身震いさせた。 同時に、私の心も冷やされたように不安が広がっていった。 「こなた」 「なに?」 「手、つなごっか」 「えっ、……う、うん」 そう言って差し出した私の手は、不安のため少し震えていた。 そんな私の手をかがみはきゅっと強く握り締めてくれた。 握られた手からかがみの温かさが、思いの強さが伝わってくる。 嬉しかった。 たったそれだけのことで、私の心が月の光に照らされたように明るくなってゆく。 「かがみ……」 「なに、こなた」 「どこにも行かないよね」 「えっ?」 「いきなりいなくなったりしないよね」 「……ばかね。どこにも行くわけないじゃない」 そんな私の不安な気持ちを打ち消すように、再びぎゅっと強く私の手を握ってくれた。 その想いに応えるように私もきゅっと握り返した。 夜空に瞬く星の川が、川面に映され輝いている。 目を閉じるとまるで星の川の中を歩いているみたいだ。 そんなロマンティックな雰囲気にのまれてしまったのだろう。 ほんの少し甘えたい気持ちになって、そっとかがみに寄り添った。 かがみは何も言わず私のことを受け入れてくれる。 それがとても嬉しくて、鼻先をこすりつけるように腕に顔をうずめると、 かがみはくすぐったそうに笑った。 かがみの髪を結んでいるリボンがひらひらと風に揺れている。 私が生まれる遥か以前に織られたレース。 幾多の星が流れてゆく間、そのレースはどんなものを見てきたんだろう。 そして、その中にどんな思いが受け継がれてきたんだろう。 大きな喜びと小さな哀しみがあって。 ときには怒ることもあり、あとで仲直りして楽しく笑いあう。 そんなどこにでもある日常を、その小さなレースの中に織り込んで。 いくつもの星の流れの中で紡がれた想いと共に、受け継がれてきたんだろうか。 そして、これからもその思いは受け継がれていくだろう。 私とかがみの思いをその中に織り込めて。 だから── さっき見せたような不安な顔をかがみにさせてはいけない。 これまで気付かなかったこと。 かがみがずっと抱いていた悩み。 そんなことにもっと気付いていかなければならない。 夜空にちりばめられた自然の芸術は、普段意識することもなく、 いつもそこにありながらその美しさを見落としてきたものだ。 自分から見ようとしなければ気付かないもの。 そしてそれは自然の中にだけあるのではなく、かがみやつかさ、 みゆきさんが普段私に向けてくれるまなざしの中にもある。 だから、そんなものをよく見ていこう。 どんな小さなことにも気付くようになっていこう。 夜空には相変わらず織姫と彦星がひときわ強く輝いていた。 とても綺麗だけど、その星は悲しい話に彩られている。 だから、その近くで小さな輝きを発する二つの星に惹かれた。 二つ仲良く寄り添って輝く星。 目立たず控えめにひっそりと輝く二つ星。 その星がとても美しく見えた。 「あの二つの星は幸せなのかな」 「どの星のこと?」 「あの二つ寄り添ってる星だよ」 「ああ、あの星ね。でもよく気付いたわね」 「うん、とても仲良さそうだったから」 「そうね。織姫と彦星のように天の川で引き裂かれていないから、幸せなんじゃないかな」 「あの二つは幸運の星。ずっと仲良く二人でいられる幸せな星だよ」 「幸せな星か」 「だから……」 「うん」 「あの星に祈れば、その友達もいつかきっと気付いてくれるんじゃないかな」 「えっ、それってどういう……」 もしかがみの想う人が私の想像通りなら、私がその願いを聞き届けてあげるから。 「じゃあ、なにかお願いしてみようか」 目を閉じて星に祈る。 ──もっとかがみと仲良くなれますように ──そして、もしできるのなら、かがみと…… 横目でチラッとかがみの様子をうかがうと、私と同じように目をつぶってお願い事をしていた。 何をお願いしてるんだろう。 そのお願い事が私と同じであればどれだけ素敵だろう。 「何お願いしたのか、聞いてもいい?」 「だめ、それは秘密」 「素直に吐いちゃいなよ」 かがみの胸の辺りをつんつんと突っついてみた。 「こ、こら、変なとこ突っつくな。それにお願い事を言ってしまったら何か意味がなさそうじゃない」 「もしかすると私が叶えてあげられるかもしれないよ?」 「だーめ、恥ずかしいから。そういうこなたの方こそどんなお願いしたのよ?」 「んー、かがみが教えてくれないなら、私も言えないかな」 「何よそれ」 おかしそうに笑うと、風で乱れた髪をかき上げた。 「今はいいの。ずっと先に、……たに叶えてもらうから」 「えっ、今なんて」 「ううん、何でもない」 そう言って恥ずかしそうに笑った。 そのとき、ほんの一瞬夜空に一筋の光る線が流れた。 「あっ……」 「なに、どうしたの?」 「流れ星」 「えっ」 かがみが急いで振り返ったときには、それは既に消えてしまった後だった。 「残念。私も見たかったのにな」 「もしかしたら、私たちの願いをほんとに聞き届けてくれたのかもしれないね」 「うん、……もしそれがほんとだったなら、素敵ね」 もう一度目をこらして夜空を見上げてみた。 そこに幸せの欠片がまだ残っているような気がして。 あの星は本当に願いを聞き届けてくれたのだろうか。 ──もしそれがほんとだったなら、素敵ね うん、ほんとにそう思う。 風は次第にその強さを増し、半袖の薄着では少し肌寒くなってきた。 「そろそろ風も強くなってきたし、帰ろっか」 「えー、私たちの夜はまだこれからなのに」 「こ、こら。誤解を招くようなことを言うな。それに、あんまり遅くなるとおじさん心配するわよ」 「いいもん、かがみの家に泊まってくから」 「泊まること前提か。でも宿題どうするのよ?」 「……うあっ。すっかり忘れてた」 「学生の本分なんだから、しっかりやりなさい」 「うう、そうだ、宿題がなくなるよう星に願いを……」 「こらこら、そんな不埒な願いなんて聞いてくれないわよ」 「ううう……」 がっかりした私の頭を優しく撫でながら言った。 「今日はもう遅いからだめだけど、宿題ならいつでも見てあげるから、 その、……いつでも来なさいよ」 「うん、ありがと、かがみ。……なんか今日は優しいね」 「べ、別にそんなことないわよ」 「ふふ、デレてるデレてる。デレかがみ萌え」 「うるさい」 そうやって二人で笑いあう私たちを、二つ仲良く並んだ幸せの星は見下ろしていた。 この先私の願いが叶うことはあるんだろうか。 私の想いを伝えられる日は来るんだろうか。 そんなことを考えていると、ほんの一瞬、自分が一人で見知らぬ町を当てもなく 歩き続けているかのような錯覚に襲われた。 ハッと慌てて横を振り向くと、そこにはちゃんとかがみの姿があった。 それはとても当たり前のことなのに。 ただ自分の側にいてくれることがまるで奇跡のように思えて。 なぜか意味もなく泣きそうになってしまった。 ちょんと触れた指先の温かさすら恋しくて。 気がついたら自分からかがみの手をぎゅっと握りしめていた。 かがみは少しびっくりしながらも、しっかりと私の手を握り返してくれた。 重なり合った手から伝わるかがみの優しさが私に勇気をくれる。 そのはにかんだ笑顔が私の中にある暗闇を照らしてくれる。 ──大丈夫だよね 今は見えない将来のことを考えていても仕方ない。 それはずっと先の話だから。 今はこうやってふざけあっていたい。 かがみの側で温もりを感じていられるだけで幸せだから。 これからもかがみのこといっぱい見ていくね。 どんな小さなことでも見逃さないように、かがみがまた不安な顔をしないように、私がんばるから。 だから、かがみも私のこともっとよく見てくれると嬉しいな。 今日私にいっぱい優しくしてくれてありがとう。 かがみが見せてくれたその優しさを、私信じてるから。 そして最後に、今日ひとつ大人の階段を上ったかがみにもう一度言わせて。 ──誕生日おめでとう Fin **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 綺麗な相思相愛でいいなぁ -- 名無しさん (2012-09-24 11:39:04) - プレゼント選びに悩み続ける等こなたの隠し持つ繊細さがありありと文章に投影されていて、 &br()とても美しい作品でした。 -- 名無しさん (2009-01-23 22:15:10) - 完成度の高い良い作品でした。 -- 名無しさん (2008-12-30 02:55:16)
★☆★☆★ その川へたどり着くころには、辺り一面夜の帳に包まれていた。 川原に生い茂る草が時折そよぐ風に揺れ、涼しげな音を立てている。 川のせせらぎは、そんな涼しげな風により一層の涼を添えていた。 「うわ、すごいね」 「きれいでしょ」 川辺を歩きながら空を見上げると、満天の星が輝いていた。 幸い今日は梅雨の合間をぬって晴れたこともあり、雲に隠されることはなかったようだ。 夜空を埋める星々に、私は素直に感動していた。 「ねえねえ、天の川ってどこにあるの?」 「あそこの光が強いあたりじゃないかな。ほら、ぼんやりと光ってるあのあたり」 「ふーん」 そう言ってかがみは周囲よりほんの少し強く星が輝くあたりを指差した。 「思ってたより強く光ってないんだね。もっとこうぱあって輝いてるのかと思ってたけど」 「さすがにそこまではね。ほんとはもっと明るく見えるはずなんだけど、 月明かりや照明のせいで見えないというのもあるわね。 山の上や周囲の光が少ないところへ行けばもっとはっきり見えるそうだけど、 それでもここは綺麗に見える方じゃないかな」 「そうなんだ」 本当に綺麗に見えそうな気がして、もう一度よく空を見上げてみた。 相変わらずぼんやりとしか見えなかったけど、天の川を挟んでひときわ強く光る二つの星を見つけた。 「あの強く光ってる星は何?」 「ベガとアルタイルよ」 「なんか強そうだね。格ゲーに出てきそう」 「あのねえ、織姫と彦星を戦わせてどうするのよ」 「あっ、あれがそうなんだ」 「うん。七夕伝説で有名ね。年に一度しか二人は会えないという話は知っているでしょ?」 「さすがにそれぐらいはね。でも、どうして会えなくなったの?」 「もともと働き者だった二人は結婚したんだけど、夫婦生活が楽しくて働かなくなったのね。 それで織姫のお父さんが怒って会うのを禁じたのよ。今日だけは会うことを許したってわけ」 「なんか娘に相手にされなくなったお父さんの八つ当たりみたいなんだけど」 「お父さんっていっても天帝だけどね。ま、だらけてたら罰をくらうという教訓よ。 あんたも気をつけなさい」 「ふっ、私は別にお父さんに怒られたって会いに行くからね」 「こらこら、あんまりおじさんに心配かけちゃダメよ。 まあとにかく、今日は晴れたから二人は天の川でデート中ね」 「私たちみたいだね」 「なっ、……へ、変なこと言わないでよ」 「ふふふ」 夜の闇の中でよく見えなかったけど、きっとまた真っ赤になっているんだろう。 そんな顔を見られたくないのか、かがみは少し歩く速度を速めた。 私も置いていかれないように、すこし小走りで追いついた。 「七夕の日に雨が降るとね、天の川の水かさが増えて二人は会えなくなるんだって」 「なんか妙に設定が現実的だね」 「まあ、その辺は人間が作った話だからね。それで、七夕の日に降る雨は二人の流す涙だって言われてるの」 「へぇ、何か悲しいけど綺麗な例えだね」 「ほんとね。他にも天の川に関する話はいろいろあるのよ。例えば──」 かがみの口からすらすら出てくる話に、じっと耳を傾けた。 星の発する光の強さや地球までの距離、星座の話、ギリシャ神話に出てくる天の川の話、 七夕にまつわる様々な伝説。 とても難しそうな話もあって、私なら自分から調べようなんて思わないだろう。 でも、かがみの話はとても面白かった。 難しい言葉をそのまま伝えるのではなく、ちゃんと自分の頭で理解して噛み砕いて説明してくれる。 そんなことができるかがみは、改めてすごいなと感心した。 私にいつも勉強を教えてくれるときもそうだった。 ちゃんと私のことを考えて、私が理解できるように教えてくれる。 普段意識することはなかったけど、そうやって私のことを考えてくれるかがみの心遣いに改めて感謝した。 「ふーん、すごく詳しいんだ」 「自分の誕生日が七夕だから、昔色々気になって調べたことがあるのよ」 私の言葉に満足したのか、少し得意げに笑った。 かがみの七夕にまつわる話がしばらく続いた後、私もかがみも話すことがなくなってしまった。 どちらから話しかけることもなく、辺りを静かな沈黙が支配していく。 さっきまで聞こえていなかった川のせせらぎや、風にそよぐ草の音がひときわ大きく耳に入ってくる。 私の息遣いさえもかがみに聞こえてしまうんじゃないかと思えた。 でもこうやって静かな時をかがみと過ごすのも嫌じゃない。 お互いの存在を間近に感じられて、何も言わなくても心が通じ合っているような気がして。 よく子供がお母さんに寄り添ってもらいながら嬉しそうにはにかんでる姿をテレビで見るけど、 その子達もこんな気持ちなんだろうか。 私なりに上手い例えだと思ったけど、でも、それじゃあ自分で自分のことを子供だと認めたようなもので…… 何か無性に悔しい。 かがみに気付かれないようそっと側に寄ると、精一杯背伸びをしてみた。 でも当然のことながらその体勢を維持して歩き続けるのは無理で、 すぐにかがみを見上げるいつもの高さに戻ってしまった。 ──はぁ かがみと並んで歩きたかったのに。 気付かれないよう小さなため息をつく。 そんな私の様子をかがみは不思議そうな目で見つめていた。 その後、私を先導するように少し前を歩くかがみの後ろ姿を何とは無しにじっと眺めていた。 かがみの性格を象徴するかのようなツインテールに、均整の取れた体つき、そしてすらっと伸びた足。 背筋をピンと伸ばして、凛とした雰囲気をまといながら、とても優雅に歩いてゆく。 空を見上げながら歩くその後ろ姿は、まるで劇の中に登場するヒロインのようだ。 夜空の暗幕の中に輝く無数の星の下、月の光のスポットライトに照らされて、 舞台の上を風のように歩いていく。 私はそんなかがみの歩く姿を見るのが好きだった。 小走りでかがみの横に並ぶと、その横顔をチラッと見上げてみた。 夜空に瞬く星に見劣りしないほどきれいな瞳。 気付かれないように見つめていると、なんだかうっとりしてきそうだった。 でも、ほんの一瞬、その瞳が潤んだような気がした。 ──あれ、どうしたんだろ 単なる見間違いだろうか。 目をこすってもう一度よく見ると、もとのかがみのままだった。 光の加減でそう見えたのだろう。 ホッと安心して息をついた。 それからどれだけ歩いたのだろう、空を見上げるとさっきまで瞬いていた星が流れてきた雲に隠されていた。 草を揺らせていた風もかすかな湿り気を帯び、辺りの空気が重くなったような気がする。 「……ずっと、相手のことを思い続けてるのに会えないのって辛いのかな」 ふと、かがみは独り言のようにポツリと呟いた。 「何の話?」 「さっきの織姫と彦星の話よ」 「そうなったことがないからよく分からないけど、きっと辛いんじゃないかな?  1年間アニメやゲームを禁止されたら、私なら禁断症状起こすね」 「ふふ、あんたの将来のためには、むしろそっちの方が良さそうだけどね」 「そんな生活考えられないよ」 「ちょっとは考えなさいよ。まあ、それぐらい辛いってことね」 月を覆っていた雲が風に流され、再び光が私たちの周りに降り注ぐ。 だからだろうか。 そう言って笑ったかがみの顔は、なぜかとても弱々しく輝いていた。 「昔ね、織姫と彦星の話を聞いたとき何てかわいそうなんだろうって思った。 お互い愛し合ってるのに無理やり引き裂かれて1年に1回しか会えないなんて、酷い話よね」 「うん」 「それ以上に辛いことなんてないんじゃないかって、ずっと思ってたの」 「……うん」 「でも……」 かがみは迷っているようだった。 言いたいけれど言えない。 そんな様子で口を開けたかと思うと、口をつぐむのを繰り返していた。 やがて何かを振り切るように頭を振ると、話を切り出した。 「でも、もし毎日会えていたとしても、自分の思いを隠し続けながら生きるのと、どっちが辛いんだろう」 思い詰めたように唇をぎゅっと噛んで、辛そうな表情をしていた。 「それは……」 「ほんとは好きなんだけど、友達として演じ続けなければならないのと、どっちが辛いんだろう」 それは私に答えを求めているというよりも、独白に近かった。 救いがないことを知りつつ言わずにはいられないような、そんな悲しい独白だった。 「かがみ、……悩みでもあるの?」 いつものようにからかって励ます気にはなれなかった。 どこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな脆さを秘めていたから。 辛そうな顔は、やがて何かをあきらめたような自嘲的な笑みへと変わっていった。 「……ううん、ごめんね。変なこと言っちゃって。今日は付き合ってくれてありがとう」 私に向けた笑顔は壊れそうで、どこかへ消えてしまうんじゃないかと思われた。 誰のこと思ってるんだろう? 好きな人がいるんだろうか。 もしそうだとしたら、その人はやっぱり…… ………… ううん、かがみが少しでも悩んでいるのなら、少しでも不安を取り除いてあげなくちゃ。 私のことは別に…… 「かがみ、何か悩んでるのなら聞くよ。言いたくないこともあるかもしれないけど、 私なんかじゃ役に立てないかもしれないけど、でも何も言わないよりましだと思うから」 「うん、ありがと。でもいいの。私もちょっとおかしくなってただけだから」 ちょっとおかしくなっただけで、あんな顔できるはずがない。 あれはずっと悩んでいるような顔だった。 「誰か、好きな人でもできたの?」 「べ、別にそんなわけじゃないけど……」 やっぱり、誰かいるんだ。 「誰か好きな人ができたんなら、私のことなんてかまわずその人の──」 「そんなんじゃない!」 「えっ」 突然の大きな声に私の話はさえぎられた。 かがみ自身も自分の出した声の大きさに戸惑っているようだった。 「ご、ごめん、つい大きな声出しちゃって」 「う、うん」 かがみは自分を落ち着かせるように深呼吸すると、話し始めた。 「別に好きな男の子ができたとかじゃないから。 言ったでしょ、これまでにそういったロマンスなんてなかったって」 「……」 「正直私にもよく分からないの」 「うん」 「だから、もしそれが分かったら、伝えることができるようになったら、こなたに言うね」 「そっか、分かった」 「ごめんね、さっきから変なことばかり言って心配かけて」 「ううん、私はかがみが辛そうにしてるのなんて見たくないだけだから」 「こなた……」 「だって、かがみは、私の……」 「私の?」 私の、何だろう? 適当な言葉が見つからずたじろいでいると、かがみは優しく微笑んでくれた。 「ありがと、こなた。私のこと励まそうとしてくれて」 そう言って浮かべた微笑みは、それまでとは違い強さと優しさに満ちていた。 「……でも、私も分かる気がするよ、さっきかがみが言ったこと」 「こなたも?」 かがみはびっくりしたような表情で私のことを見つめた。 「うん。だいじな友達のこと好きになっちゃって、思いを伝えたら それっきりになっちゃうんじゃないかと思って、怖くて何もいえなくて……」 再び静かな風が流れた。 7月とはいえ、夜の、それも川の近くは少し肌寒い。 その風は私の体から体温を奪い、軽く身震いさせた。 同時に、私の心も冷やされたように不安が広がっていった。 「こなた」 「なに?」 「手、つなごっか」 「えっ、……う、うん」 そう言って差し出した私の手は、不安のため少し震えていた。 そんな私の手をかがみはきゅっと強く握り締めてくれた。 握られた手からかがみの温かさが、思いの強さが伝わってくる。 嬉しかった。 たったそれだけのことで、私の心が月の光に照らされたように明るくなってゆく。 「かがみ……」 「なに、こなた」 「どこにも行かないよね」 「えっ?」 「いきなりいなくなったりしないよね」 「……ばかね。どこにも行くわけないじゃない」 そんな私の不安な気持ちを打ち消すように、再びぎゅっと強く私の手を握ってくれた。 その想いに応えるように私もきゅっと握り返した。 夜空に瞬く星の川が、川面に映され輝いている。 目を閉じるとまるで星の川の中を歩いているみたいだ。 そんなロマンティックな雰囲気にのまれてしまったのだろう。 ほんの少し甘えたい気持ちになって、そっとかがみに寄り添った。 かがみは何も言わず私のことを受け入れてくれる。 それがとても嬉しくて、鼻先をこすりつけるように腕に顔をうずめると、 かがみはくすぐったそうに笑った。 かがみの髪を結んでいるリボンがひらひらと風に揺れている。 私が生まれる遥か以前に織られたレース。 幾多の星が流れてゆく間、そのレースはどんなものを見てきたんだろう。 そして、その中にどんな思いが受け継がれてきたんだろう。 大きな喜びと小さな哀しみがあって。 ときには怒ることもあり、あとで仲直りして楽しく笑いあう。 そんなどこにでもある日常を、その小さなレースの中に織り込んで。 いくつもの星の流れの中で紡がれた想いと共に、受け継がれてきたんだろうか。 そして、これからもその思いは受け継がれていくだろう。 私とかがみの思いをその中に織り込めて。 だから── さっき見せたような不安な顔をかがみにさせてはいけない。 これまで気付かなかったこと。 かがみがずっと抱いていた悩み。 そんなことにもっと気付いていかなければならない。 夜空にちりばめられた自然の芸術は、普段意識することもなく、 いつもそこにありながらその美しさを見落としてきたものだ。 自分から見ようとしなければ気付かないもの。 そしてそれは自然の中にだけあるのではなく、かがみやつかさ、 みゆきさんが普段私に向けてくれるまなざしの中にもある。 だから、そんなものをよく見ていこう。 どんな小さなことにも気付くようになっていこう。 夜空には相変わらず織姫と彦星がひときわ強く輝いていた。 とても綺麗だけど、その星は悲しい話に彩られている。 だから、その近くで小さな輝きを発する二つの星に惹かれた。 二つ仲良く寄り添って輝く星。 目立たず控えめにひっそりと輝く二つ星。 その星がとても美しく見えた。 「あの二つの星は幸せなのかな」 「どの星のこと?」 「あの二つ寄り添ってる星だよ」 「ああ、あの星ね。でもよく気付いたわね」 「うん、とても仲良さそうだったから」 「そうね。織姫と彦星のように天の川で引き裂かれていないから、幸せなんじゃないかな」 「あの二つは幸運の星。ずっと仲良く二人でいられる幸せな星だよ」 「幸せな星か」 「だから……」 「うん」 「あの星に祈れば、その友達もいつかきっと気付いてくれるんじゃないかな」 「えっ、それってどういう……」 もしかがみの想う人が私の想像通りなら、私がその願いを聞き届けてあげるから。 「じゃあ、なにかお願いしてみようか」 目を閉じて星に祈る。 ──もっとかがみと仲良くなれますように ──そして、もしできるのなら、かがみと…… 横目でチラッとかがみの様子をうかがうと、私と同じように目をつぶってお願い事をしていた。 何をお願いしてるんだろう。 そのお願い事が私と同じであればどれだけ素敵だろう。 「何お願いしたのか、聞いてもいい?」 「だめ、それは秘密」 「素直に吐いちゃいなよ」 かがみの胸の辺りをつんつんと突っついてみた。 「こ、こら、変なとこ突っつくな。それにお願い事を言ってしまったら何か意味がなさそうじゃない」 「もしかすると私が叶えてあげられるかもしれないよ?」 「だーめ、恥ずかしいから。そういうこなたの方こそどんなお願いしたのよ?」 「んー、かがみが教えてくれないなら、私も言えないかな」 「何よそれ」 おかしそうに笑うと、風で乱れた髪をかき上げた。 「今はいいの。ずっと先に、……たに叶えてもらうから」 「えっ、今なんて」 「ううん、何でもない」 そう言って恥ずかしそうに笑った。 そのとき、ほんの一瞬夜空に一筋の光る線が流れた。 「あっ……」 「なに、どうしたの?」 「流れ星」 「えっ」 かがみが急いで振り返ったときには、それは既に消えてしまった後だった。 「残念。私も見たかったのにな」 「もしかしたら、私たちの願いをほんとに聞き届けてくれたのかもしれないね」 「うん、……もしそれがほんとだったなら、素敵ね」 もう一度目をこらして夜空を見上げてみた。 そこに幸せの欠片がまだ残っているような気がして。 あの星は本当に願いを聞き届けてくれたのだろうか。 ──もしそれがほんとだったなら、素敵ね うん、ほんとにそう思う。 風は次第にその強さを増し、半袖の薄着では少し肌寒くなってきた。 「そろそろ風も強くなってきたし、帰ろっか」 「えー、私たちの夜はまだこれからなのに」 「こ、こら。誤解を招くようなことを言うな。それに、あんまり遅くなるとおじさん心配するわよ」 「いいもん、かがみの家に泊まってくから」 「泊まること前提か。でも宿題どうするのよ?」 「……うあっ。すっかり忘れてた」 「学生の本分なんだから、しっかりやりなさい」 「うう、そうだ、宿題がなくなるよう星に願いを……」 「こらこら、そんな不埒な願いなんて聞いてくれないわよ」 「ううう……」 がっかりした私の頭を優しく撫でながら言った。 「今日はもう遅いからだめだけど、宿題ならいつでも見てあげるから、 その、……いつでも来なさいよ」 「うん、ありがと、かがみ。……なんか今日は優しいね」 「べ、別にそんなことないわよ」 「ふふ、デレてるデレてる。デレかがみ萌え」 「うるさい」 そうやって二人で笑いあう私たちを、二つ仲良く並んだ幸せの星は見下ろしていた。 この先私の願いが叶うことはあるんだろうか。 私の想いを伝えられる日は来るんだろうか。 そんなことを考えていると、ほんの一瞬、自分が一人で見知らぬ町を当てもなく 歩き続けているかのような錯覚に襲われた。 ハッと慌てて横を振り向くと、そこにはちゃんとかがみの姿があった。 それはとても当たり前のことなのに。 ただ自分の側にいてくれることがまるで奇跡のように思えて。 なぜか意味もなく泣きそうになってしまった。 ちょんと触れた指先の温かさすら恋しくて。 気がついたら自分からかがみの手をぎゅっと握りしめていた。 かがみは少しびっくりしながらも、しっかりと私の手を握り返してくれた。 重なり合った手から伝わるかがみの優しさが私に勇気をくれる。 そのはにかんだ笑顔が私の中にある暗闇を照らしてくれる。 ──大丈夫だよね 今は見えない将来のことを考えていても仕方ない。 それはずっと先の話だから。 今はこうやってふざけあっていたい。 かがみの側で温もりを感じていられるだけで幸せだから。 これからもかがみのこといっぱい見ていくね。 どんな小さなことでも見逃さないように、かがみがまた不安な顔をしないように、私がんばるから。 だから、かがみも私のこともっとよく見てくれると嬉しいな。 今日私にいっぱい優しくしてくれてありがとう。 かがみが見せてくれたその優しさを、私信じてるから。 そして最後に、今日ひとつ大人の階段を上ったかがみにもう一度言わせて。 ──誕生日おめでとう Fin **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b &br()告白するのはまた別の話って感じが好きです。 -- 名無しさん (2023-05-09 17:27:55) - 綺麗な相思相愛でいいなぁ -- 名無しさん (2012-09-24 11:39:04) - プレゼント選びに悩み続ける等こなたの隠し持つ繊細さがありありと文章に投影されていて、 &br()とても美しい作品でした。 -- 名無しさん (2009-01-23 22:15:10) - 完成度の高い良い作品でした。 -- 名無しさん (2008-12-30 02:55:16)

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