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想互」(2023/01/03 (火) 15:01:28) の最新版変更点

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暗闇の中で雨の音だけが響く。月灯りも今日は下界には降りてこない。 それでも、こなたの事ははっきりと見える。 「・・・いつからいたの?何で電話しなかったの?」 濡れた髪。濡れた体。いくら屋根があるといっても、雨は容赦なくこなたに降り注いでいた。 つい、口調が荒くなる。 「来たのはついさっきだよ。かがみが出かけてるのに呼び戻すの、すごく悪い気がしてさ・・・1週間ぶりだね、かがみ。」 こなたが私に微笑みをくれた瞬間、身体が勝手動いていた。 「バカっ・・・バカこなた!」 「・・・知らなかったの?それと苦しいよかがみ。」 気がついたら、こなたを抱き締めていた。 服越しに感じる冷たい体温が、余計にこなたを愛しく感じさせる。 「本当の事言いなさいよ。」 「え・・・な、何の事やら・・・」 「いつからいたの?」 「・・・30分前。」 「・・・本当は?」 「・・・約6時間前。」 時計の針は22時をすぎている。全く、こいつは。 「ごめんね、待たせて。」 「ううん、私が勝手に待ってただけだし。それよりも・・・そろそろ離していただけませんかね?ちょっと苦しい・・・」 しまった。冷静に考えたら、私の行為はしてはいけない行為だった。 「ご、ごめん・・・」 こなたを腕の中から離す。こなたの雫で冷たいはずなのに、凄く温かかった。 ココアを飲んだ後のように、春の日差しを浴びたように。 「ぷはー・・・ううん、大丈夫だよ。」 少し、ほんの少しだけど、こなたの頬が夕焼けのように赤いのは、雨のせいなのかな?それとも・・・ 「とりあえず、中入って。まず髪の毛乾かして・・・その間に何か飲み物でも作るから・・・」 「・・・かがみの手作り?」 「な、何よ?イヤなら飲まなくたっていいわよ!」 「・・・むしろ嬉しいよ。」 「・・・お世辞言ったって何も出ないんだから。」 私はこなたにちょっと怒ってみせた。でも失敗した。きっと喜んでるように見えただろうな。 ‐‐‐‐ 「6時間前って16時頃から待ってたの?て事は、夕飯もまだ?」 「大丈夫!私はいつもチョココロネを装備しているのだよ。」 「・・・この時期にそれはまずくないか?」 「いやいやかがみはチョココロネをなめてるよ。以外と保つよ?」 「はいはい。」 私がミネストローネを作りながら、こなたを軽くあしらう。聞けよー、とこなたはぷーっと頬っぺたを膨らませる。 なんて普通なんだろう。 私達は傷つけ合っていた。傷つけ合う度に、泣いていた。泣くたびに、哀しんでいた。 だからこんな普通がやけに幸せで、普通が普通じゃなくて不思議な気分だった。 「はい、ミネストローネ。」 「おー。美味しそうだねー!!じゃ、いただきますー!」 湿っていた蒼髪も今はさらさらと乾いている。服は私の服を貸してあげた。自分の服を着てるこなたを見るのはなんとなく気恥ずかしい。 「・・・ふぅ。あったまるなぁ。」 「で、どう?」 「どうって何が?」 「あ、味よ!味。」 分かってるくせに。わざと私に言わせたな。ニヤニヤしながら私の方をみる。 「腕をあげたね、かがみ。美味しいよ。」 「ホントに!?」 「本当だよ。そんなに喜ぶなんてかがみは可愛いなぁー。」 「そ、そんなんじゃないわよ!で、今日はどうしたの?」 「うん。」 ミネストローネを全て飲み終える。本当に美味しかったらしい。 そしてこなたは、真剣な目で私の目を覗き込む。綺麗なエメラルド。吸い込まれそうになるぐらい、綺麗だった。 「かがみに、言わなきゃいけない事と、お願いがあって来たんだ。」 「お願い?」 「うん。かがみにしかできない。ううん、かがみに、して欲しいお願い。」 私にして欲しい?彼氏、じゃなくて私? 高鳴る鼓動。不安?心配?違う。それよりも、期待の方が大きかった。 「私にできるなら、なんでもする。こなたの為に何かしてあげたい。」 傷つけるんじゃなくて、力になりたい。泣かせるんじゃなくて、元気づけたい。哀しませるんじゃなくて、 幸せにしたい。 「ありがとう、かがみ。あのね、お願いっていうのはね・・・」 ‐‐‐‐ 「かがみあったかい。」 「そ、そりゃ、こんなに密着してるからね・・・」 こなたのお願いは予想していたお願いというものと180度違っていた。 『・・・今日、一緒のベッドで、寝てもいい?』 「かがみ照れてる?」 「・・・別に。」 照れているというよりも、正直恥ずかしかった。こなたの目に、私の顔が写っているのが見える。1人用に二人でねたのは、つかさ以来だな。 それよりも、心臓の音がやけに大きい。こなたに聞こえていなか心配になる。 でも、この気持ち、この感情が懐かしい。こなたと一緒にいる時にしか感じられない感情。 その感情のせいで鼓動が早くなる。耳が熱い。顔が火照る。 「ねぇ、かがみ?」 「うん?」 部屋に光は灯っていない。でも確かに感じる、愛しい人の存在。はっきりと見える瞳。心なしか、潤んでいる。 「別れた。今日は、それを伝えに来たの。」 耳を、疑った。でもそれは現実だった。こなたの温度がそう思わせる。 「1週間前に思ったんだ。あの人は私のどこが好きなのかな?どこが嫌いなのかな?って。」 それを聞いた時、自分が必死でこなたに想いを伝えた時を思い出した。 「料理してる私が好きなのかな?ちびな私が好きなのかな?ギャルゲーしてる私は嫌いかな?すぐに人を頼る私は嫌いかな?って。」 「・・・うん。」 「だから、聞いてみたの。そしたら、一つ一つ丁寧に教えてくれた。どこが好きで、どこが嫌いか。」 「・・・うん。」 「それを全て聞き終わった時、あぁ、違うんだなって思った。私はこの人が好きなんじゃない、ただ、一緒にいて、楽しい。それだけだった。」 「・・・うん。」 こなたの表情が曇っていく。こいつの感情が痛いほどに分かる。 他人を大切にする人だから、自分よりも大事にする人だから、苦しんでいるんだ。 「だから、全部伝えた。好きになれなかったって、ごめんねって。ギャルゲーだったら軽く終わるシーンなのに、凄く、辛かった・・・」 そう言って、私を抱き締めた。4ヶ月前とは違う。あの時よりも、強く、そして優しく。 ‐‐‐‐ 「こなたは・・・悪くない。悪くないんだよ・・・」 「うん・・・」 私も小さい体を優しく抱き締める。優しく頭を撫でた。 「峰岸が言ってた。誰かが喜べば、誰かが哀しむ・・・私達はそうやって生きてる。」 「・・・私と、かがみも、そうなのかな?」 今まで傷つけ合ってきた。哀しみ合ってきた。だったら、いつ幸せが訪れるのだろうか? 「私が哀しめば、かがみは喜んでくれる?」 「そんなワケない!なんでそんな事言うの・・・?」 「・・・私はずっと、かがみに迷惑かけてきたよね?だから、どうしたら、かがみは・・・」 「ばか。」 「・・・え?」 こなたを抱き締める力を強くする。離したくない。こなたの傍にいたい。 だって、こなたを愛してるから。 「ずっと・・・傍にいなさいよ・・・」 「かがみ・・・」 「独りに・・・しないでよ・・・」 また泣く。すぐに泣く。本当に泣き虫になった。こなたのせいだ。 「愛してる・・・だから、傍に、いてよ・・・」 声を絞りだして伝える。でもこなたは、うん、とは言ってくれない。頭を縦に振ることもしてくれない。 ただ抱き締める力を強くした。小さな身体で私を優しく包むだけだった。 でも今はそれだけで、私の心は溶けていく。 「かがみ・・・」 何度も何度も私の名を呼んだ。その度に、こなたの力が強くなる。 だんだん私の意識が遠退いていく。でも、こなたの温度、こなたの声ははっきりと感じる。 夢の中でも、こなたに、あえたら、いいな。 「おやすみ、かがみ。」 ‐‐‐‐ 温かい。でも何故かもの足りない、・・・まぶしい。 目を開けると昨日の雨が嘘のように綺麗な空が見える。カーテンの隙間から太陽の光が私に注ぐ。 「ん・・・んー・・・」 身体を起こしてあくびと共に大きく背伸びをした。久しぶりに気持ち良く寝ることができた。 そうだ、昨日はこなたが来てくれた。こなたが、私を抱き締めてくれた。 約束はしてくれなかった。でも、今は幸せで満ち足りている。 本当の幸せが分かったような気がした。こなたが傍にいてくれたから。 そうだ、こなたを起こしてあげないと。 「こなた・・・起きて。こなた?」 こなたの名前を呼ぶ。でも呼んでも、何回呼んでも返事がない。 「こ、なた?」 彼女が寝ていた場所、私の隣を見たら、こなたは、居なかった。 確かに昨日、抱き締めていた彼女が、私の隣に、いなかった。 「こなた・・・こなたぁ!?」 声を荒げて叫ぶ。部屋全部に響くぐらいの大きな声で、私は名前を呼んだ。 それでも、返事はなく、この部屋にあるのは私と、静寂だけだった。 「こなた・・・」 なんで?なんでいつも、貴女は居なくなるの?こんなにこなたを想ってるのに。 こんなに、泣いているのに、どうして私には、幸せが来てくれないの?どうしたら、こなたの傍にいれるの?誰か、教えてよ。 ふと顔を上げると私の目にある光景が目に入る。 「チョコ・・・コロネ?」 部屋の端にあるテーブルには、チョココロネと、こなたの携帯。 ベッドから飛び降り、すぐにこなたの携帯を手に取る。 手が震える。携帯を開けば何かが分かる。見たい、見なきゃ。でも見たくない。 そんな矛盾に襲われながら、ゆっくりと携帯を開く。画面には作成中のメール。私は覚悟を決めて、読み始めた。 ‐‐‐‐ 『かがみへ。 泊めてくれてありがとう。ワガママを聞いてくれてありがとう。 本当はね、かがみに逢っておきたかった。かがみのぬくもりを感じたかったんだ。 ねぇ、かがみ。 私、出かけてくる。どこに行くかは、教えられない。教えたら、きっとかがみは追って来ちゃうでしょ? もうかがみには迷惑かけたくないんだ。1人で頑張ってみたい事がある。 やりたい事があるんだ。 それが終わるまで、何日、何週間、何ヵ月、何年かかるか分からない。 でもそれが終われば、私は変われると思う。 終わったら、もう一度、かがみに逢いに行くよ。迎えに行くよ。 そこで、かがみからの告白の返事、するよ。だから、待ってて。 これが、最後のお願い。 辛いよね?自分勝手だよね?分かってる。 もし、待てなくても、私はずっとずっとかがみを想ってるから。 ゲームじゃなくても、こんなセリフ言えるんだね。でも、本当だからね。ずっと想ってる。 ねぇ、かがみ。 私達、何回ごめんねを繰り返して、何回ありがとうを繰り返したかな? あと何回、ごめんね、ありがとうを繰り返すのかな? 私達、あと何回、傷つけ合うのかな? 私達、あと何回、泣き合うのかな? 私達、あと何回、哀しめば、幸せになれるのかな? もう一度、かがみに逢えたら、幸せになりたいな。 かがみを幸せにしたいな。 最後に、かがみを独りにして、ごめんね。 さよならは言わないよ?また、逢えるのを信じてるから。 ありがとう、かがみ。 またね、かがみ。』 画面が濡れていく。目に変な液体がたまる。視界が悪くなっていく。こなたの、言葉が見えなくなる。 止まれ。止まれ。 そう願っても、嗚咽と涙が止まらない。やっぱり泣き虫は治らない。 「こなたぁぁぁぁぁ・・・っ!」 部屋に私の声が虚しくこだまする。携帯とチョココロネを抱き締めても、こなたを感じられない。 忘れたくないのに、こなたを抱き締めた感覚が冷めていく。 チョココロネを少しかじった。甘かった。 甘さは私の胸に開いた空虚を埋めることはできない。 ただ、甘かった。 それが余計に切なかった。 to be continue -[[謳温>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/69.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
暗闇の中で雨の音だけが響く。月灯りも今日は下界には降りてこない。 それでも、こなたの事ははっきりと見える。 「・・・いつからいたの?何で電話しなかったの?」 濡れた髪。濡れた体。いくら屋根があるといっても、雨は容赦なくこなたに降り注いでいた。 つい、口調が荒くなる。 「来たのはついさっきだよ。かがみが出かけてるのに呼び戻すの、すごく悪い気がしてさ・・・1週間ぶりだね、かがみ。」 こなたが私に微笑みをくれた瞬間、身体が勝手動いていた。 「バカっ・・・バカこなた!」 「・・・知らなかったの?それと苦しいよかがみ。」 気がついたら、こなたを抱き締めていた。 服越しに感じる冷たい体温が、余計にこなたを愛しく感じさせる。 「本当の事言いなさいよ。」 「え・・・な、何の事やら・・・」 「いつからいたの?」 「・・・30分前。」 「・・・本当は?」 「・・・約6時間前。」 時計の針は22時をすぎている。全く、こいつは。 「ごめんね、待たせて。」 「ううん、私が勝手に待ってただけだし。それよりも・・・そろそろ離していただけませんかね?ちょっと苦しい・・・」 しまった。冷静に考えたら、私の行為はしてはいけない行為だった。 「ご、ごめん・・・」 こなたを腕の中から離す。こなたの雫で冷たいはずなのに、凄く温かかった。 ココアを飲んだ後のように、春の日差しを浴びたように。 「ぷはー・・・ううん、大丈夫だよ。」 少し、ほんの少しだけど、こなたの頬が夕焼けのように赤いのは、雨のせいなのかな?それとも・・・ 「とりあえず、中入って。まず髪の毛乾かして・・・その間に何か飲み物でも作るから・・・」 「・・・かがみの手作り?」 「な、何よ?イヤなら飲まなくたっていいわよ!」 「・・・むしろ嬉しいよ。」 「・・・お世辞言ったって何も出ないんだから。」 私はこなたにちょっと怒ってみせた。でも失敗した。きっと喜んでるように見えただろうな。 ‐‐‐‐ 「6時間前って16時頃から待ってたの?て事は、夕飯もまだ?」 「大丈夫!私はいつもチョココロネを装備しているのだよ。」 「・・・この時期にそれはまずくないか?」 「いやいやかがみはチョココロネをなめてるよ。以外と保つよ?」 「はいはい。」 私がミネストローネを作りながら、こなたを軽くあしらう。聞けよー、とこなたはぷーっと頬っぺたを膨らませる。 なんて普通なんだろう。 私達は傷つけ合っていた。傷つけ合う度に、泣いていた。泣くたびに、哀しんでいた。 だからこんな普通がやけに幸せで、普通が普通じゃなくて不思議な気分だった。 「はい、ミネストローネ。」 「おー。美味しそうだねー!!じゃ、いただきますー!」 湿っていた蒼髪も今はさらさらと乾いている。服は私の服を貸してあげた。自分の服を着てるこなたを見るのはなんとなく気恥ずかしい。 「・・・ふぅ。あったまるなぁ。」 「で、どう?」 「どうって何が?」 「あ、味よ!味。」 分かってるくせに。わざと私に言わせたな。ニヤニヤしながら私の方をみる。 「腕をあげたね、かがみ。美味しいよ。」 「ホントに!?」 「本当だよ。そんなに喜ぶなんてかがみは可愛いなぁー。」 「そ、そんなんじゃないわよ!で、今日はどうしたの?」 「うん。」 ミネストローネを全て飲み終える。本当に美味しかったらしい。 そしてこなたは、真剣な目で私の目を覗き込む。綺麗なエメラルド。吸い込まれそうになるぐらい、綺麗だった。 「かがみに、言わなきゃいけない事と、お願いがあって来たんだ。」 「お願い?」 「うん。かがみにしかできない。ううん、かがみに、して欲しいお願い。」 私にして欲しい?彼氏、じゃなくて私? 高鳴る鼓動。不安?心配?違う。それよりも、期待の方が大きかった。 「私にできるなら、なんでもする。こなたの為に何かしてあげたい。」 傷つけるんじゃなくて、力になりたい。泣かせるんじゃなくて、元気づけたい。哀しませるんじゃなくて、 幸せにしたい。 「ありがとう、かがみ。あのね、お願いっていうのはね・・・」 ‐‐‐‐ 「かがみあったかい。」 「そ、そりゃ、こんなに密着してるからね・・・」 こなたのお願いは予想していたお願いというものと180度違っていた。 『・・・今日、一緒のベッドで、寝てもいい?』 「かがみ照れてる?」 「・・・別に。」 照れているというよりも、正直恥ずかしかった。こなたの目に、私の顔が写っているのが見える。1人用に二人でねたのは、つかさ以来だな。 それよりも、心臓の音がやけに大きい。こなたに聞こえていなか心配になる。 でも、この気持ち、この感情が懐かしい。こなたと一緒にいる時にしか感じられない感情。 その感情のせいで鼓動が早くなる。耳が熱い。顔が火照る。 「ねぇ、かがみ?」 「うん?」 部屋に光は灯っていない。でも確かに感じる、愛しい人の存在。はっきりと見える瞳。心なしか、潤んでいる。 「別れた。今日は、それを伝えに来たの。」 耳を、疑った。でもそれは現実だった。こなたの温度がそう思わせる。 「1週間前に思ったんだ。あの人は私のどこが好きなのかな?どこが嫌いなのかな?って。」 それを聞いた時、自分が必死でこなたに想いを伝えた時を思い出した。 「料理してる私が好きなのかな?ちびな私が好きなのかな?ギャルゲーしてる私は嫌いかな?すぐに人を頼る私は嫌いかな?って。」 「・・・うん。」 「だから、聞いてみたの。そしたら、一つ一つ丁寧に教えてくれた。どこが好きで、どこが嫌いか。」 「・・・うん。」 「それを全て聞き終わった時、あぁ、違うんだなって思った。私はこの人が好きなんじゃない、ただ、一緒にいて、楽しい。それだけだった。」 「・・・うん。」 こなたの表情が曇っていく。こいつの感情が痛いほどに分かる。 他人を大切にする人だから、自分よりも大事にする人だから、苦しんでいるんだ。 「だから、全部伝えた。好きになれなかったって、ごめんねって。ギャルゲーだったら軽く終わるシーンなのに、凄く、辛かった・・・」 そう言って、私を抱き締めた。4ヶ月前とは違う。あの時よりも、強く、そして優しく。 ‐‐‐‐ 「こなたは・・・悪くない。悪くないんだよ・・・」 「うん・・・」 私も小さい体を優しく抱き締める。優しく頭を撫でた。 「峰岸が言ってた。誰かが喜べば、誰かが哀しむ・・・私達はそうやって生きてる。」 「・・・私と、かがみも、そうなのかな?」 今まで傷つけ合ってきた。哀しみ合ってきた。だったら、いつ幸せが訪れるのだろうか? 「私が哀しめば、かがみは喜んでくれる?」 「そんなワケない!なんでそんな事言うの・・・?」 「・・・私はずっと、かがみに迷惑かけてきたよね?だから、どうしたら、かがみは・・・」 「ばか。」 「・・・え?」 こなたを抱き締める力を強くする。離したくない。こなたの傍にいたい。 だって、こなたを愛してるから。 「ずっと・・・傍にいなさいよ・・・」 「かがみ・・・」 「独りに・・・しないでよ・・・」 また泣く。すぐに泣く。本当に泣き虫になった。こなたのせいだ。 「愛してる・・・だから、傍に、いてよ・・・」 声を絞りだして伝える。でもこなたは、うん、とは言ってくれない。頭を縦に振ることもしてくれない。 ただ抱き締める力を強くした。小さな身体で私を優しく包むだけだった。 でも今はそれだけで、私の心は溶けていく。 「かがみ・・・」 何度も何度も私の名を呼んだ。その度に、こなたの力が強くなる。 だんだん私の意識が遠退いていく。でも、こなたの温度、こなたの声ははっきりと感じる。 夢の中でも、こなたに、あえたら、いいな。 「おやすみ、かがみ。」 ‐‐‐‐ 温かい。でも何故かもの足りない、・・・まぶしい。 目を開けると昨日の雨が嘘のように綺麗な空が見える。カーテンの隙間から太陽の光が私に注ぐ。 「ん・・・んー・・・」 身体を起こしてあくびと共に大きく背伸びをした。久しぶりに気持ち良く寝ることができた。 そうだ、昨日はこなたが来てくれた。こなたが、私を抱き締めてくれた。 約束はしてくれなかった。でも、今は幸せで満ち足りている。 本当の幸せが分かったような気がした。こなたが傍にいてくれたから。 そうだ、こなたを起こしてあげないと。 「こなた・・・起きて。こなた?」 こなたの名前を呼ぶ。でも呼んでも、何回呼んでも返事がない。 「こ、なた?」 彼女が寝ていた場所、私の隣を見たら、こなたは、居なかった。 確かに昨日、抱き締めていた彼女が、私の隣に、いなかった。 「こなた・・・こなたぁ!?」 声を荒げて叫ぶ。部屋全部に響くぐらいの大きな声で、私は名前を呼んだ。 それでも、返事はなく、この部屋にあるのは私と、静寂だけだった。 「こなた・・・」 なんで?なんでいつも、貴女は居なくなるの?こんなにこなたを想ってるのに。 こんなに、泣いているのに、どうして私には、幸せが来てくれないの?どうしたら、こなたの傍にいれるの?誰か、教えてよ。 ふと顔を上げると私の目にある光景が目に入る。 「チョコ・・・コロネ?」 部屋の端にあるテーブルには、チョココロネと、こなたの携帯。 ベッドから飛び降り、すぐにこなたの携帯を手に取る。 手が震える。携帯を開けば何かが分かる。見たい、見なきゃ。でも見たくない。 そんな矛盾に襲われながら、ゆっくりと携帯を開く。画面には作成中のメール。私は覚悟を決めて、読み始めた。 ‐‐‐‐ 『かがみへ。 泊めてくれてありがとう。ワガママを聞いてくれてありがとう。 本当はね、かがみに逢っておきたかった。かがみのぬくもりを感じたかったんだ。 ねぇ、かがみ。 私、出かけてくる。どこに行くかは、教えられない。教えたら、きっとかがみは追って来ちゃうでしょ? もうかがみには迷惑かけたくないんだ。1人で頑張ってみたい事がある。 やりたい事があるんだ。 それが終わるまで、何日、何週間、何ヵ月、何年かかるか分からない。 でもそれが終われば、私は変われると思う。 終わったら、もう一度、かがみに逢いに行くよ。迎えに行くよ。 そこで、かがみからの告白の返事、するよ。だから、待ってて。 これが、最後のお願い。 辛いよね?自分勝手だよね?分かってる。 もし、待てなくても、私はずっとずっとかがみを想ってるから。 ゲームじゃなくても、こんなセリフ言えるんだね。でも、本当だからね。ずっと想ってる。 ねぇ、かがみ。 私達、何回ごめんねを繰り返して、何回ありがとうを繰り返したかな? あと何回、ごめんね、ありがとうを繰り返すのかな? 私達、あと何回、傷つけ合うのかな? 私達、あと何回、泣き合うのかな? 私達、あと何回、哀しめば、幸せになれるのかな? もう一度、かがみに逢えたら、幸せになりたいな。 かがみを幸せにしたいな。 最後に、かがみを独りにして、ごめんね。 さよならは言わないよ?また、逢えるのを信じてるから。 ありがとう、かがみ。 またね、かがみ。』 画面が濡れていく。目に変な液体がたまる。視界が悪くなっていく。こなたの、言葉が見えなくなる。 止まれ。止まれ。 そう願っても、嗚咽と涙が止まらない。やっぱり泣き虫は治らない。 「こなたぁぁぁぁぁ・・・っ!」 部屋に私の声が虚しくこだまする。携帯とチョココロネを抱き締めても、こなたを感じられない。 忘れたくないのに、こなたを抱き締めた感覚が冷めていく。 チョココロネを少しかじった。甘かった。 甘さは私の胸に開いた空虚を埋めることはできない。 ただ、甘かった。 それが余計に切なかった。 to be continue -[[謳温>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/69.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!(´;Д;`)b -- 名無しさん (2023-01-03 15:01:28)

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