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プロジェクト・こなかが 外伝『子狐こなたんの物語』(完結)」(2023/02/24 (金) 17:47:20) の最新版変更点

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「こなた~、髪の毛梳かすからこっち来て」 「あ~い」 かがみの言葉に、こなたは狐耳をぴょこん、と揺らしながら頷くと、かがみの元までとたた、と駆け寄りました。 子狐のこなたがかがみのお家に来てから、もう、大分時間も経ち。すっかりと、人間の姿でいることにも慣れ、かがみもまたその状況を自然として受け入れていて、こなたの世話を率先してやるようになりました。 櫛を持ってこなたを手招きするかがみ。その目の前まで行ってかがみを見上げるこなたは瞳を僅かに潤ませていて、満面の笑顔。それに、無意識にでしょう、その尻尾もパタパタと揺れていました。 そんなこなたの様子を見て、かがみも相好を崩すと、床に腰を下ろして、自らの膝を示しました。 こなたは、さらに頬を赤らめて一瞬くすぐったそうに首を竦めましたが、直ぐにその膝の上に乗って丸まります。 そして、そんなこなたの髪を、かがみは梳き始めました。 サラ、サラ、と櫛が髪を梳く音だけが響くかがみの部屋で、1人と1匹。 窓からは午後の麗かな日差しが差し込んでいて、本当に、のどかな時間が、流れていました。 「こなた、気持ちいい?」 かがみが髪を撫でながら聞くと、こなたは、返事の代わりに耳をペタ、と倒して、かがみの胸の辺りに擦り寄りました。 その様は、狐というよりは猫で、そんなこなたに、かがみは苦笑しました。 「ん~♪やっぱりかがみは温かいな~、それに、柔らかい。優しい匂いがする」 かがみにじゃれつきながら、甘えん坊な一面を覗かせるこなた。直接に甘えられて、なんだか気恥ずかしくなったかがみは、プイ、と顔を背けました。 「な、何言ってるのよ……」 口調こそ強気でしたが、その顔は上気して、言葉とは裏腹なかがみの心情が如実に表れています。 そんな様子を見て、こなたはニコッと笑みを作ると、今度はかがみに抱きつきました。 「ムフフ、照れてるかがみん、萌え~」 「萌えって……アンタ時々変な言葉使うわね」 呆れたようなかがみの言葉にも、嬉しそうな顔をして、こなたは再び膝の上で丸くなりました。 その時、こなたが丸くなった拍子に、足元の傷口に巻かれた包帯が服の裾から覗き、かがみの目に留まりました。 「こなたの足の傷、大分良くなってきたわね。もう直ぐ治るわよ」 何気なく、かがみは言ったつもりでした。ですが、その言葉を聞いて、顔を上げたこなたは先程までの笑みを消し、耳や尾の毛を逆立て、緊張している様子でした。 「かがみ、それ、どういう……」 「え?だから、傷が治るって――」 かがみは、最後まで言葉を言い終えることが出来ませんでした。その前に、こなたがかがみの膝の上から、身をくねらせ、抜け出すと、凄い勢いで自らの足に爪を立て始めたからです。 「ちょっ……!こなたっ!?」 驚いたかがみは慌ててこなたを制止しようとしました。しかし、こなたは伸ばされたかがみの手を乱暴に払うと、目尻に涙を浮かべ、かがみのほうを哀しげに見やると、一気に部屋から駆け出して行ってしまいました。 「こなた……?」 後に残されたかがみは呆然とするしかありませんでした。一体、こなたは何故あんな事をしたのか、どうして、自分の下から去って行ったのか。何故、あんな哀しそうな目をしていたのか。かがみには分かりませんでした。 ぼんやりとしていたかがみの所に、母、みきがやってきました。怪訝そうに眉を顰めています。 「さっき、こなたちゃんが凄い勢いで飛び出して行ったけど、かがみ、何か知らない?」 聞かれて、かがみは先程あった事を話しました。こなたの髪を梳いていた事。こなたの足の傷の事。そして、こなたが取った行動の事。 かがみが全てを話し終えると、みきは、納得したように頷きました。 「そう……」 一言、呟いて、かがみの方に向き直ります。その瞳は少し、険しく、吊り上がっています。 「かがみは、こなたちゃんの事、どう、思ってるの?」 「え? どうって、どうって……アイツは……」 答えようとして、答えられない事にかがみは気が付きました。 こなたが家に来てから、ずっと一緒にいるのが当たり前で、当たり前だからこそ、何も考えないで。ただ、一緒にいて、楽しくて。 そんなかがみの様子を見て、みきは、ちょっと息を吐きました。 「こなたちゃんはね、かがみの事、好きだって言ってたわよ」 言われて、かがみはハッとしました。 以前、確かに、こなたにそう言われたことがあったからです。でも、その時には深く意味を考える事はしませんでした。 なぜなら、かがみもまた、こなたのことが好きだからです。 「だけど、こなたちゃんは、人間は嫌い、とも言ってたわ」 「え……?」 とつとつと、みきは語ります。 「人間は嫌いだけど、かがみは好き。こなたちゃんにとって、かがみは、特別な存在なのよ」 「! こなた……」 「だけど、やっぱり、こなたちゃんは、人間を信じられない部分があるのかしらね。迷惑をかけてるかも、って言ってた。もしかしたら、かがみが自分と一緒にいてくれるのは足を怪我してるから。その治療のためなんじゃないかって」 「そんなっ!そんなこと……」 ここで、かがみにも合点がいきました。こなたが、自身の足を傷つけようとしたこと。それは、足を怪我しているから一緒にいてもらえる。逆に、足が治ったら、一緒にいられない、そう思ったからではないでしょうか。 「かがみは、こなたちゃんに、それを伝えた? 一緒にいるのは、そのためだけじゃないって事」 「あ……」 「追いかけなさい、かがみ。もし、あなたが、こなたちゃんの事を大切に思ってるなら。言葉にしなくちゃ、伝わらない事だって、あるんだから」 そう言うと、みきは表情を柔らかくし、かがみの頭に手を伸ばしました。 「うん……」 母に頭を撫でられ、かがみは、小さな子どものように、頷きました。 「かがみ……かが、み……」 こなたは、1人で、丸まっていました。 足の包帯は真っ赤に染まり、じくじくと痛みます。 何度も、何度も足に爪を立てました。でも、こなたにも分かっているのです。そんな事をしても意味は無いという事を。 かがみは、こなたが出会った人間の中で、初めて‘特別’になりました。随分と可愛がってくれたし、常に気にかけてくれました。 だから、嬉しかったのです。かがみと同じ、人間になれたこと。 何で人間になれたのか、こなたには分かりません。だけど、そんな事はどうでも良かったのです。かがみの傍にいられれば。 こなたの足に残った傷は、かがみとの絆、でした。それが治って、消えてしまう。かがみから、離れなくてはいけなくなってしまう。ただの子狐に、戻ってしまう。 かがみと、もう、会えなくなってしまう。 それは、こなたにとって、とても恐ろしいことでした。 体の震えが、止まりません。 「かがみぃーっ!!」 「こなたっ!!」 ハッと、起き上がりました。涙でぼやけた視界に、薄い紫色が揺れています。人間より鋭敏なこなたの嗅覚は、視覚より先に、その存在を認識しました。 「かがみ~っ!!」 叫んで、こなたは立ち上がろうとしました。が、傷つけた足は力が入らず、姿勢を崩して、ガクっと倒れそうになりました。 「こなた~っ!!」 間一髪。かがみがこなたの元へ駆け寄ると、その小さな体を抱きしめ、受け止めました。 ふわ、と匂う優しい香り。柔らかくて、温かくて、こなたは、鼻の奥がツーンとするのを感じました。 かがみは、こなたの頭を、先程、母から自分がしてもらったようにゆっくり、ゆっくりと撫でました。 咄嗟の事で逆立っていたこなたの狐耳、尾の毛も、かがみの手の動きに合わせて、ゆっくりゆっくりと寝ていきました。 「かが、み、ゴメ……わたっ、かってに、かがみ、やさ、しく……でも」 しゃくり上げながら、それでも必死に言葉を紡ごうとするこなたを、そっと制すると。かがみは、こなたを落ち着かせるように、もう一度、今度は、その耳を撫でました。 こなたは、かがみにここを撫でてもらうのが好きでした。ふわふわ、もふもふ、優しく、包み込むように。 こなたは、目を細めて、首を竦めました。 かがみは、少し屈むと、こなたと目線を合わせました。 「私、こなたが来て迷惑だなんて思ったこと、一度もない。私が、こなたと一緒にいるのは、足に怪我してるから、憐れんでるからなんかじゃない。私が、こなたと一緒にいたいの」 「でも、私、人間じゃないよ。狐だよ?」 「関係ないわよ」 「自分勝手で、迷惑かけちゃうかも」 「だから、迷惑じゃないって」 「他の人間から見たら、私は……」 「その時は、私がアンタを守るから。だから、一緒にいてよ……こなた」 「……っ、かがみっ!」 こなたは、思い切りかがみの胸に飛び込みました。一房飛び出た髪の毛と、狐耳が揺れて、尾はパタパタと。そんなこなたを、かがみはぎゅっと強く抱きしめました。 「ねぇ、こなた」 「ん~?」 家に戻り、こなたの足の手当てをした後。やっぱりかがみの膝枕の上で丸くなるこなた。そんなこなたの髪を優しく撫でながらかがみは言いました。 「今度、家の神社のお祭りがあるんだけど。一緒に行かない?」 「いいの? かがみ、ずっと支度してたじゃん」 「一生懸命手伝ったからね。当日は、手伝いしなくてもいいって」 それを聞くと、パタッパタッっと今まで一定のリズムで床を叩いていた、こなたの尾がピンと立ちました。 「ホント?」 「うん」 「やったぁ~!」 「こなた、浴衣、大きくない?」 「む、そういう時、普通‘小さくない’って聞くんじゃないの?」 「いや、私のお古だし。こなたには少し大きかったかなって」 「失礼な。丁度いいよ。それに……」 「それに?」 「かがみの匂いがして、凄く落ち着く。大好きだよ、かがみ」 「なっ! は、恥ずかしいこと言うな……」 「ん~?顔が赤いぞ、かがみん?」 「あ~!私も、大好きだよっ!こなた!」 「うんっ! 行こっ、かがみ」 差し出された手を、かがみは苦笑と、微笑みの成分を半々に含んだ表情で、掴みました。 手のかかる子狐です。人になった、不思議な子狐です。でも、それ以上に、かがみにとっては、大好きな、子狐なのです。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 最っっっ高!作った人、神!! -- 名無しさん (2010-08-13 16:50:50) - 狐こなたかわいいい…狐になってこなたの可愛さが増してますねwしかもほのぼのいい話で感動した… -- 名無しさん (2009-04-12 23:33:33) - 狐の嫁入りの正しい意味を知ることが出来ました &br() &br()甘えん坊なこなたと、優しいかがみのカップリングはやっぱり最高ですね -- 名無しさん (2008-09-03 18:53:17) - キツネという設定もあり、こなたが感情を素直に表していて、 &br()とてもかわいいですね。 &br()かがみの優しさにとても心が温かくなりました。 &br()こういった童話みたいな話を私も書いてみたいです。 -- 18-236 (2008-06-21 00:57:02) - そうか… 狐の嫁入りとはこういうときに使うんですねわかりましたwww -- 名無しさん (2008-06-18 09:20:49) - ↓誰が上手いこと言えとw -- 名無しさん (2008-06-17 22:07:09) - つまり、これはかがみの所への「狐の嫁入り」というわけですね?分かりますw -- 名無しさん (2008-06-16 23:33:14) - 甘えんぼなとことか、耳とか、しっぽとか、子狐こなたんがひたすら可愛すぎる…とっても甘くて温かいSSでした。 -- 名無しさん (2008-06-16 11:06:23)
「こなた~、髪の毛梳かすからこっち来て」 「あ~い」 かがみの言葉に、こなたは狐耳をぴょこん、と揺らしながら頷くと、かがみの元までとたた、と駆け寄りました。 子狐のこなたがかがみのお家に来てから、もう、大分時間も経ち。すっかりと、人間の姿でいることにも慣れ、かがみもまたその状況を自然として受け入れていて、こなたの世話を率先してやるようになりました。 櫛を持ってこなたを手招きするかがみ。その目の前まで行ってかがみを見上げるこなたは瞳を僅かに潤ませていて、満面の笑顔。それに、無意識にでしょう、その尻尾もパタパタと揺れていました。 そんなこなたの様子を見て、かがみも相好を崩すと、床に腰を下ろして、自らの膝を示しました。 こなたは、さらに頬を赤らめて一瞬くすぐったそうに首を竦めましたが、直ぐにその膝の上に乗って丸まります。 そして、そんなこなたの髪を、かがみは梳き始めました。 サラ、サラ、と櫛が髪を梳く音だけが響くかがみの部屋で、1人と1匹。 窓からは午後の麗かな日差しが差し込んでいて、本当に、のどかな時間が、流れていました。 「こなた、気持ちいい?」 かがみが髪を撫でながら聞くと、こなたは、返事の代わりに耳をペタ、と倒して、かがみの胸の辺りに擦り寄りました。 その様は、狐というよりは猫で、そんなこなたに、かがみは苦笑しました。 「ん~♪やっぱりかがみは温かいな~、それに、柔らかい。優しい匂いがする」 かがみにじゃれつきながら、甘えん坊な一面を覗かせるこなた。直接に甘えられて、なんだか気恥ずかしくなったかがみは、プイ、と顔を背けました。 「な、何言ってるのよ……」 口調こそ強気でしたが、その顔は上気して、言葉とは裏腹なかがみの心情が如実に表れています。 そんな様子を見て、こなたはニコッと笑みを作ると、今度はかがみに抱きつきました。 「ムフフ、照れてるかがみん、萌え~」 「萌えって……アンタ時々変な言葉使うわね」 呆れたようなかがみの言葉にも、嬉しそうな顔をして、こなたは再び膝の上で丸くなりました。 その時、こなたが丸くなった拍子に、足元の傷口に巻かれた包帯が服の裾から覗き、かがみの目に留まりました。 「こなたの足の傷、大分良くなってきたわね。もう直ぐ治るわよ」 何気なく、かがみは言ったつもりでした。ですが、その言葉を聞いて、顔を上げたこなたは先程までの笑みを消し、耳や尾の毛を逆立て、緊張している様子でした。 「かがみ、それ、どういう……」 「え?だから、傷が治るって――」 かがみは、最後まで言葉を言い終えることが出来ませんでした。その前に、こなたがかがみの膝の上から、身をくねらせ、抜け出すと、凄い勢いで自らの足に爪を立て始めたからです。 「ちょっ……!こなたっ!?」 驚いたかがみは慌ててこなたを制止しようとしました。しかし、こなたは伸ばされたかがみの手を乱暴に払うと、目尻に涙を浮かべ、かがみのほうを哀しげに見やると、一気に部屋から駆け出して行ってしまいました。 「こなた……?」 後に残されたかがみは呆然とするしかありませんでした。一体、こなたは何故あんな事をしたのか、どうして、自分の下から去って行ったのか。何故、あんな哀しそうな目をしていたのか。かがみには分かりませんでした。 ぼんやりとしていたかがみの所に、母、みきがやってきました。怪訝そうに眉を顰めています。 「さっき、こなたちゃんが凄い勢いで飛び出して行ったけど、かがみ、何か知らない?」 聞かれて、かがみは先程あった事を話しました。こなたの髪を梳いていた事。こなたの足の傷の事。そして、こなたが取った行動の事。 かがみが全てを話し終えると、みきは、納得したように頷きました。 「そう……」 一言、呟いて、かがみの方に向き直ります。その瞳は少し、険しく、吊り上がっています。 「かがみは、こなたちゃんの事、どう、思ってるの?」 「え? どうって、どうって……アイツは……」 答えようとして、答えられない事にかがみは気が付きました。 こなたが家に来てから、ずっと一緒にいるのが当たり前で、当たり前だからこそ、何も考えないで。ただ、一緒にいて、楽しくて。 そんなかがみの様子を見て、みきは、ちょっと息を吐きました。 「こなたちゃんはね、かがみの事、好きだって言ってたわよ」 言われて、かがみはハッとしました。 以前、確かに、こなたにそう言われたことがあったからです。でも、その時には深く意味を考える事はしませんでした。 なぜなら、かがみもまた、こなたのことが好きだからです。 「だけど、こなたちゃんは、人間は嫌い、とも言ってたわ」 「え……?」 とつとつと、みきは語ります。 「人間は嫌いだけど、かがみは好き。こなたちゃんにとって、かがみは、特別な存在なのよ」 「! こなた……」 「だけど、やっぱり、こなたちゃんは、人間を信じられない部分があるのかしらね。迷惑をかけてるかも、って言ってた。もしかしたら、かがみが自分と一緒にいてくれるのは足を怪我してるから。その治療のためなんじゃないかって」 「そんなっ!そんなこと……」 ここで、かがみにも合点がいきました。こなたが、自身の足を傷つけようとしたこと。それは、足を怪我しているから一緒にいてもらえる。逆に、足が治ったら、一緒にいられない、そう思ったからではないでしょうか。 「かがみは、こなたちゃんに、それを伝えた? 一緒にいるのは、そのためだけじゃないって事」 「あ……」 「追いかけなさい、かがみ。もし、あなたが、こなたちゃんの事を大切に思ってるなら。言葉にしなくちゃ、伝わらない事だって、あるんだから」 そう言うと、みきは表情を柔らかくし、かがみの頭に手を伸ばしました。 「うん……」 母に頭を撫でられ、かがみは、小さな子どものように、頷きました。 「かがみ……かが、み……」 こなたは、1人で、丸まっていました。 足の包帯は真っ赤に染まり、じくじくと痛みます。 何度も、何度も足に爪を立てました。でも、こなたにも分かっているのです。そんな事をしても意味は無いという事を。 かがみは、こなたが出会った人間の中で、初めて‘特別’になりました。随分と可愛がってくれたし、常に気にかけてくれました。 だから、嬉しかったのです。かがみと同じ、人間になれたこと。 何で人間になれたのか、こなたには分かりません。だけど、そんな事はどうでも良かったのです。かがみの傍にいられれば。 こなたの足に残った傷は、かがみとの絆、でした。それが治って、消えてしまう。かがみから、離れなくてはいけなくなってしまう。ただの子狐に、戻ってしまう。 かがみと、もう、会えなくなってしまう。 それは、こなたにとって、とても恐ろしいことでした。 体の震えが、止まりません。 「かがみぃーっ!!」 「こなたっ!!」 ハッと、起き上がりました。涙でぼやけた視界に、薄い紫色が揺れています。人間より鋭敏なこなたの嗅覚は、視覚より先に、その存在を認識しました。 「かがみ~っ!!」 叫んで、こなたは立ち上がろうとしました。が、傷つけた足は力が入らず、姿勢を崩して、ガクっと倒れそうになりました。 「こなた~っ!!」 間一髪。かがみがこなたの元へ駆け寄ると、その小さな体を抱きしめ、受け止めました。 ふわ、と匂う優しい香り。柔らかくて、温かくて、こなたは、鼻の奥がツーンとするのを感じました。 かがみは、こなたの頭を、先程、母から自分がしてもらったようにゆっくり、ゆっくりと撫でました。 咄嗟の事で逆立っていたこなたの狐耳、尾の毛も、かがみの手の動きに合わせて、ゆっくりゆっくりと寝ていきました。 「かが、み、ゴメ……わたっ、かってに、かがみ、やさ、しく……でも」 しゃくり上げながら、それでも必死に言葉を紡ごうとするこなたを、そっと制すると。かがみは、こなたを落ち着かせるように、もう一度、今度は、その耳を撫でました。 こなたは、かがみにここを撫でてもらうのが好きでした。ふわふわ、もふもふ、優しく、包み込むように。 こなたは、目を細めて、首を竦めました。 かがみは、少し屈むと、こなたと目線を合わせました。 「私、こなたが来て迷惑だなんて思ったこと、一度もない。私が、こなたと一緒にいるのは、足に怪我してるから、憐れんでるからなんかじゃない。私が、こなたと一緒にいたいの」 「でも、私、人間じゃないよ。狐だよ?」 「関係ないわよ」 「自分勝手で、迷惑かけちゃうかも」 「だから、迷惑じゃないって」 「他の人間から見たら、私は……」 「その時は、私がアンタを守るから。だから、一緒にいてよ……こなた」 「……っ、かがみっ!」 こなたは、思い切りかがみの胸に飛び込みました。一房飛び出た髪の毛と、狐耳が揺れて、尾はパタパタと。そんなこなたを、かがみはぎゅっと強く抱きしめました。 「ねぇ、こなた」 「ん~?」 家に戻り、こなたの足の手当てをした後。やっぱりかがみの膝枕の上で丸くなるこなた。そんなこなたの髪を優しく撫でながらかがみは言いました。 「今度、家の神社のお祭りがあるんだけど。一緒に行かない?」 「いいの? かがみ、ずっと支度してたじゃん」 「一生懸命手伝ったからね。当日は、手伝いしなくてもいいって」 それを聞くと、パタッパタッっと今まで一定のリズムで床を叩いていた、こなたの尾がピンと立ちました。 「ホント?」 「うん」 「やったぁ~!」 「こなた、浴衣、大きくない?」 「む、そういう時、普通‘小さくない’って聞くんじゃないの?」 「いや、私のお古だし。こなたには少し大きかったかなって」 「失礼な。丁度いいよ。それに……」 「それに?」 「かがみの匂いがして、凄く落ち着く。大好きだよ、かがみ」 「なっ! は、恥ずかしいこと言うな……」 「ん~?顔が赤いぞ、かがみん?」 「あ~!私も、大好きだよっ!こなた!」 「うんっ! 行こっ、かがみ」 差し出された手を、かがみは苦笑と、微笑みの成分を半々に含んだ表情で、掴みました。 手のかかる子狐です。人になった、不思議な子狐です。でも、それ以上に、かがみにとっては、大好きな、子狐なのです。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-24 17:47:20) - 最っっっ高!作った人、神!! -- 名無しさん (2010-08-13 16:50:50) - 狐こなたかわいいい…狐になってこなたの可愛さが増してますねwしかもほのぼのいい話で感動した… -- 名無しさん (2009-04-12 23:33:33) - 狐の嫁入りの正しい意味を知ることが出来ました &br() &br()甘えん坊なこなたと、優しいかがみのカップリングはやっぱり最高ですね -- 名無しさん (2008-09-03 18:53:17) - キツネという設定もあり、こなたが感情を素直に表していて、 &br()とてもかわいいですね。 &br()かがみの優しさにとても心が温かくなりました。 &br()こういった童話みたいな話を私も書いてみたいです。 -- 18-236 (2008-06-21 00:57:02) - そうか… 狐の嫁入りとはこういうときに使うんですねわかりましたwww -- 名無しさん (2008-06-18 09:20:49) - ↓誰が上手いこと言えとw -- 名無しさん (2008-06-17 22:07:09) - つまり、これはかがみの所への「狐の嫁入り」というわけですね?分かりますw -- 名無しさん (2008-06-16 23:33:14) - 甘えんぼなとことか、耳とか、しっぽとか、子狐こなたんがひたすら可愛すぎる…とっても甘くて温かいSSでした。 -- 名無しさん (2008-06-16 11:06:23)

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