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快晴の日の出来事 -午前-」(2023/03/29 (水) 11:18:39) の最新版変更点

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休み明け。 いつもより少し早めの起床。 小鳥のさえずりと、布越しの柔らかな光が差す室内。 あたしはカーテンを両手で掴み、一息で左右へと開く。 そして窓の外に拡がった世界。 快晴。 雲一つさえもない空。 きらりと輝く、町の景色。 あまりの眩しさに、思わず目が眩んでしまう。 そのまま誘われるように窓を開く。 頬を撫でる透き通った風。 振り注ぐ光の波と、凪いでゆく風の調和が見事に取れている。 その爽やかな空気を大きく吸い込み、ゆっくりと吐きだす。 気温良し。 天候良し。 体調良し。 騒音無し。 すべてが自分へと味方してくれている、そんな気がする1日の始まり。 ……学校に行けば、きっと皆に会える。 今日こそ4人、揃っているといいなっ! 「ほら、朝だよ、朝ごはん食べて学校いくよ?」 つかさは布団を蹴っ飛ばし、ベッドの上で猫のように丸くなっていた。 マタタビでも嗅がせれば飛び起きるのかな? なーんてどうでもいい事を考えている場合じゃないわね。 「あと5分だけぇー」 「それ10分前にも聞いたわよ!」 「ほんとにぃー」 「その言葉を信用した結果がこれだよ!」 「じゃあ、あと5分だけぇー」 「それは今聞いた」 「ほんとにぃー」 「アンタのその言葉ほど信用出来ないもんは無ぇよ」 「じゃあ、あと10分だけぇー」 「さり気無く伸ばすな!」 「ほんとにぃー」 「いい加減にしなさいっ!」 つかさの両手を掴んでベッドから引きずり降ろす。 だらしなく伸びきった体が、冷たい床の上へと転がった。 「ふんっ、どんなもんよ」 手を離す。 すると丸くなるつかさ。 「こら!」 もう一度引っ張って真っ直ぐにしてみる。 手を離す。 すると丸くなるつかさ。 仕方がないので足で脇腹をぐりぐりとなじりつける。 しかし、これって何処かで見たことがあるな。 見た目は定規のようだけど、腕なんかに叩きつけると巻き付いてくる玩具。 なんて言ったっけアレ? 確か100円で回せるガチャガチャの景品だったわよね。 あー……えっと、名前が思い出せない。 いいや、後でみゆきにでも訊ねてみよう。 再び足元を見る。 「あったかいなりぃー」 いつの間にやら、つかさがあたしの足に巻きついていた。 もうコイツ、ほんと駄目な奴だなと心底悟った。 「暑ッ! ちょ、すんごい暑い、クーラー入ってないのこれ!?」 乗り込んだバスの中に溢れ返る、人と熱気。 少し早めに家を出たことで、出勤時間の人々と見事に重なってしまったらしい。 なんという裏目。 座る場所も無いじゃないのよ…… そう心の中で愚痴っていると、車内にアナウンスが響いた。 「えぇー、本日ぅーわぁー……まぁことにご乗車、ありがとぅ御座いまッす」 普通に喋れ、と言うのはナンセンスだろうか。 「申し訳ぇーござーせんがぁー、現在ぃ、エアーコントロゥーラッが故障しております故ぇー……」 それを聞いたサラリーマン風の乗車客が呟いた。 「ふざけんなよー」 年の頃の近い学生が呟く。 「ほんっと、勘弁して欲しいわ」 マッチョな男性も呟く。 「あぁ、仕方ないね」 その各々の思いを受けてか、運転手も呟く。 「いやぁ、すんまっせぇーん」 その様と熱気にうんざりしつつ妹を覗くとメモ帳片手に、 「オウケーイ……オウケェイ……オウケェーイ……オウケ、エーイ……」 と何やら熱心に呟いている。 やがて静かだった車内はざわざわと騒音にまみれていき、 私はというと、こうやって街や駅の雑踏は生まれていくのだな、と一人感心していた。 「何してんの、置いてっちゃうわよ?」 上履きに履き替えたところで、つかさが立ち止まってしまった。 登校途中に何度も確認していたメモをまたもや開き、熱心に目を通している。 抜き打ちテストでもあるのかしら? 邪魔をするのも悪いので、 「それじゃ先に行ってるからね」 と声を掛けてから別れることにした。 トントントン。 一人軽快に階段を駆け上がっていく。 そして…… 「おーっす、みゆき!」 「お早うございます……あら?」 「ん?」 「鞄くらい置いてから来られたほうが、いいのではないでしょうか?」 「いいのいいのすぐ行くからさ、それより……」 「泉さんならまだですよ」 まぁ時間も早いし、そうだとは思っていたけどね。 「かがみさん、つかささんとは御一緒では無いのでしょうか?」 返す刀の質問。 「つかさも玄関までは一緒だったよ、すぐに来ると思うわ」 「そうですか、安心しました」 みゆきは頬に手を当て、小首を傾げて微笑んでいる。 そうか、この子もやっぱり4人揃わなくて寂しかったんだろうな。 「それじゃ、また後でね」 「はい」 軽く手を振りつつ、その場を後にした。 時間が飛んで4時間目、体育。 クラス対抗ドッジボール。 「おーっし、頑張ろうなぁ柊ぃー」 やたら張り切る日下部。 「こういう荒っぽいことは苦手なんだけど」 不安そうな峰岸。 自陣の中には、あたし達3人と他2人。 そして相手コートには…… みゆき、つかさ、こなた、他2人。 「お、柊妹が居るじゃーん……む! アレはちびっ子!」 息を巻く日下部は放っておき、あたしには一つ気に掛かかる事があった。 こなたが額を押さえては俯き加減に顔を歪めているのだ。 それからは首に手を当て何度も頭を振っている。 もしかすると、まだ調子が悪いままなのだろうか。 ……大丈夫かな、このまま続けて? 『それでは両チーム、中央線の前へ整列してください』 何故かハンドマイクを片手に白石が指示を飛ばす。 やがて、白線を跨いで両チームが整列した。 「どうぞよろしく、よろしくどうぞー」 「よろしくね、妹ちゃん」 つかさと峰岸が笑顔で言葉を交わす。 「おーいちびっ子ぉ、負けても泣くんじゃねぇぞー」 「……あ、ごめん、なにか言った?」 好戦的な日下部とマイペースなこなた。 「それでは、お手柔らかにお願いしますね」 みゆきがニッコリと笑って皆に頭を下げる。 その時こなたがチラリと、あたしの様子を窺ってきた。 ずっと彼女を眺めていた為にばっちり視線が絡む。 やばっ! 一瞬何か言われるのだろうかとハッとした。 しかし彼女は一言も発さず、ただニィっとだけ笑った。 ……なるほどね。 あたしは大きく息を吸い込んでから、 「アンタ達――」 こなたに挑戦的な笑みを返し、 「――悪いけど手加減はしないからね!」 宣戦布告した。 「怖い……怖いよぉ……あいつ怖いよぉ……」 先ほどまでの勢いは何処吹く風か、日下部は私の背中にすっぽりと隠れてしまった。 「ほらほらぁ、隠れてないで出てきてくださぁい」 みゆきが片手でボールを弄びつつ、猫撫で声で語りかけている。 僅か数秒前の出来事である。 トスを私が奪い、日下部が投げたボール。 それをみゆきは、短く息を吐きつつ、地面と垂直方向に孤を描くチョップで叩き落としたのだ。 っていうか、あれってアウトじゃないの? 実況 兼 審判の白石に眼で訴える。 ……あ、逸らしやがった。 「いけぇー! ゆきちゃん、やっちゃえー!」 つかさが間延びした声で声援を送っている。 それに応じるかのように、みゆきの目の色も変わる。 やれやれ、困ったわ。 運動力的に頼りにしていた日下部がこうなってしまうと、劣勢なんてもんじゃない。 しかし勝負は勝負、全力を尽くしてこそなの。 仲間が動けないのなら、あたしが動けばいい。 不完全な負けなど断じて認めないわ。 ……大丈夫、勝算は十二分にある。 こちらへボールが回ってきさえすれば、外野を使い揺さぶりを掛け、あたしか日下部の二択で隙を突けばいい。 そうして当てやすい者から倒していき、最後にみゆきを持ってくればいいだろう。 となると最初の狙いは、やはりつかさね。 さて、 「みゆき!」 あたしは声を張り上げる。 「さっさと投げなさいよ! 日下部を倒したいのなら、まずあたしから片付けなさい!」 背後から、 「柊ぃー……あんがとぉー……」 という声が聞こえてきた。 世話の焼ける子ね、まったく。 よしよし、と後ろ手に頭を撫でてやる。 などと感傷に浸っていた次の瞬間、眼前には唸りを上げるボールが迫っていた。 「あぶなっ!」 咄嗟に身を翻す。 フォンッ、と空を切るソレ。 ――ドズゥッ! 重い石を砂地の地面へと叩きつける音。 短く消える呻き声。 背後を振り向いたとき、日下部の体は宙を舞っていた。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - つかさがだめな子すぎるwww -- 名無しさん (2008-06-06 23:59:26)
休み明け。 いつもより少し早めの起床。 小鳥のさえずりと、布越しの柔らかな光が差す室内。 あたしはカーテンを両手で掴み、一息で左右へと開く。 そして窓の外に拡がった世界。 快晴。 雲一つさえもない空。 きらりと輝く、町の景色。 あまりの眩しさに、思わず目が眩んでしまう。 そのまま誘われるように窓を開く。 頬を撫でる透き通った風。 振り注ぐ光の波と、凪いでゆく風の調和が見事に取れている。 その爽やかな空気を大きく吸い込み、ゆっくりと吐きだす。 気温良し。 天候良し。 体調良し。 騒音無し。 すべてが自分へと味方してくれている、そんな気がする1日の始まり。 ……学校に行けば、きっと皆に会える。 今日こそ4人、揃っているといいなっ! 「ほら、朝だよ、朝ごはん食べて学校いくよ?」 つかさは布団を蹴っ飛ばし、ベッドの上で猫のように丸くなっていた。 マタタビでも嗅がせれば飛び起きるのかな? なーんてどうでもいい事を考えている場合じゃないわね。 「あと5分だけぇー」 「それ10分前にも聞いたわよ!」 「ほんとにぃー」 「その言葉を信用した結果がこれだよ!」 「じゃあ、あと5分だけぇー」 「それは今聞いた」 「ほんとにぃー」 「アンタのその言葉ほど信用出来ないもんは無ぇよ」 「じゃあ、あと10分だけぇー」 「さり気無く伸ばすな!」 「ほんとにぃー」 「いい加減にしなさいっ!」 つかさの両手を掴んでベッドから引きずり降ろす。 だらしなく伸びきった体が、冷たい床の上へと転がった。 「ふんっ、どんなもんよ」 手を離す。 すると丸くなるつかさ。 「こら!」 もう一度引っ張って真っ直ぐにしてみる。 手を離す。 すると丸くなるつかさ。 仕方がないので足で脇腹をぐりぐりとなじりつける。 しかし、これって何処かで見たことがあるな。 見た目は定規のようだけど、腕なんかに叩きつけると巻き付いてくる玩具。 なんて言ったっけアレ? 確か100円で回せるガチャガチャの景品だったわよね。 あー……えっと、名前が思い出せない。 いいや、後でみゆきにでも訊ねてみよう。 再び足元を見る。 「あったかいなりぃー」 いつの間にやら、つかさがあたしの足に巻きついていた。 もうコイツ、ほんと駄目な奴だなと心底悟った。 「暑ッ! ちょ、すんごい暑い、クーラー入ってないのこれ!?」 乗り込んだバスの中に溢れ返る、人と熱気。 少し早めに家を出たことで、出勤時間の人々と見事に重なってしまったらしい。 なんという裏目。 座る場所も無いじゃないのよ…… そう心の中で愚痴っていると、車内にアナウンスが響いた。 「えぇー、本日ぅーわぁー……まぁことにご乗車、ありがとぅ御座いまッす」 普通に喋れ、と言うのはナンセンスだろうか。 「申し訳ぇーござーせんがぁー、現在ぃ、エアーコントロゥーラッが故障しております故ぇー……」 それを聞いたサラリーマン風の乗車客が呟いた。 「ふざけんなよー」 年の頃の近い学生が呟く。 「ほんっと、勘弁して欲しいわ」 マッチョな男性も呟く。 「あぁ、仕方ないね」 その各々の思いを受けてか、運転手も呟く。 「いやぁ、すんまっせぇーん」 その様と熱気にうんざりしつつ妹を覗くとメモ帳片手に、 「オウケーイ……オウケェイ……オウケェーイ……オウケ、エーイ……」 と何やら熱心に呟いている。 やがて静かだった車内はざわざわと騒音にまみれていき、 私はというと、こうやって街や駅の雑踏は生まれていくのだな、と一人感心していた。 「何してんの、置いてっちゃうわよ?」 上履きに履き替えたところで、つかさが立ち止まってしまった。 登校途中に何度も確認していたメモをまたもや開き、熱心に目を通している。 抜き打ちテストでもあるのかしら? 邪魔をするのも悪いので、 「それじゃ先に行ってるからね」 と声を掛けてから別れることにした。 トントントン。 一人軽快に階段を駆け上がっていく。 そして…… 「おーっす、みゆき!」 「お早うございます……あら?」 「ん?」 「鞄くらい置いてから来られたほうが、いいのではないでしょうか?」 「いいのいいのすぐ行くからさ、それより……」 「泉さんならまだですよ」 まぁ時間も早いし、そうだとは思っていたけどね。 「かがみさん、つかささんとは御一緒では無いのでしょうか?」 返す刀の質問。 「つかさも玄関までは一緒だったよ、すぐに来ると思うわ」 「そうですか、安心しました」 みゆきは頬に手を当て、小首を傾げて微笑んでいる。 そうか、この子もやっぱり4人揃わなくて寂しかったんだろうな。 「それじゃ、また後でね」 「はい」 軽く手を振りつつ、その場を後にした。 時間が飛んで4時間目、体育。 クラス対抗ドッジボール。 「おーっし、頑張ろうなぁ柊ぃー」 やたら張り切る日下部。 「こういう荒っぽいことは苦手なんだけど」 不安そうな峰岸。 自陣の中には、あたし達3人と他2人。 そして相手コートには…… みゆき、つかさ、こなた、他2人。 「お、柊妹が居るじゃーん……む! アレはちびっ子!」 息を巻く日下部は放っておき、あたしには一つ気に掛かかる事があった。 こなたが額を押さえては俯き加減に顔を歪めているのだ。 それからは首に手を当て何度も頭を振っている。 もしかすると、まだ調子が悪いままなのだろうか。 ……大丈夫かな、このまま続けて? 『それでは両チーム、中央線の前へ整列してください』 何故かハンドマイクを片手に白石が指示を飛ばす。 やがて、白線を跨いで両チームが整列した。 「どうぞよろしく、よろしくどうぞー」 「よろしくね、妹ちゃん」 つかさと峰岸が笑顔で言葉を交わす。 「おーいちびっ子ぉ、負けても泣くんじゃねぇぞー」 「……あ、ごめん、なにか言った?」 好戦的な日下部とマイペースなこなた。 「それでは、お手柔らかにお願いしますね」 みゆきがニッコリと笑って皆に頭を下げる。 その時こなたがチラリと、あたしの様子を窺ってきた。 ずっと彼女を眺めていた為にばっちり視線が絡む。 やばっ! 一瞬何か言われるのだろうかとハッとした。 しかし彼女は一言も発さず、ただニィっとだけ笑った。 ……なるほどね。 あたしは大きく息を吸い込んでから、 「アンタ達――」 こなたに挑戦的な笑みを返し、 「――悪いけど手加減はしないからね!」 宣戦布告した。 「怖い……怖いよぉ……あいつ怖いよぉ……」 先ほどまでの勢いは何処吹く風か、日下部は私の背中にすっぽりと隠れてしまった。 「ほらほらぁ、隠れてないで出てきてくださぁい」 みゆきが片手でボールを弄びつつ、猫撫で声で語りかけている。 僅か数秒前の出来事である。 トスを私が奪い、日下部が投げたボール。 それをみゆきは、短く息を吐きつつ、地面と垂直方向に孤を描くチョップで叩き落としたのだ。 っていうか、あれってアウトじゃないの? 実況 兼 審判の白石に眼で訴える。 ……あ、逸らしやがった。 「いけぇー! ゆきちゃん、やっちゃえー!」 つかさが間延びした声で声援を送っている。 それに応じるかのように、みゆきの目の色も変わる。 やれやれ、困ったわ。 運動力的に頼りにしていた日下部がこうなってしまうと、劣勢なんてもんじゃない。 しかし勝負は勝負、全力を尽くしてこそなの。 仲間が動けないのなら、あたしが動けばいい。 不完全な負けなど断じて認めないわ。 ……大丈夫、勝算は十二分にある。 こちらへボールが回ってきさえすれば、外野を使い揺さぶりを掛け、あたしか日下部の二択で隙を突けばいい。 そうして当てやすい者から倒していき、最後にみゆきを持ってくればいいだろう。 となると最初の狙いは、やはりつかさね。 さて、 「みゆき!」 あたしは声を張り上げる。 「さっさと投げなさいよ! 日下部を倒したいのなら、まずあたしから片付けなさい!」 背後から、 「柊ぃー……あんがとぉー……」 という声が聞こえてきた。 世話の焼ける子ね、まったく。 よしよし、と後ろ手に頭を撫でてやる。 などと感傷に浸っていた次の瞬間、眼前には唸りを上げるボールが迫っていた。 「あぶなっ!」 咄嗟に身を翻す。 フォンッ、と空を切るソレ。 ――ドズゥッ! 重い石を砂地の地面へと叩きつける音。 短く消える呻き声。 背後を振り向いたとき、日下部の体は宙を舞っていた。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!笑 -- 名無しさん (2023-03-29 11:18:39) - つかさがだめな子すぎるwww -- 名無しさん (2008-06-06 23:59:26)

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