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117 :柊 かがみ:2008/05/15(木) 22:41:52 ID:f8sha875 キュ、とマジックで紙をこする時の独特の音が部屋に響いた。 私の目の前にあるカレンダーは、5月に入ってから、毎日、1日ずつ×印が増えている。 そして今日、5月15日にも×が点いた。 ふと、目を落とす。これからも×印が増えていくであろう数字の中に一箇所だけ、赤い○で囲まれた日付があった。 5月28日――アイツの、こなたの、誕生日。 暫くその日付を眺める。ぼんやりと。 数字の向こうに、蒼が碧が、霞んで見えた、気がした。 視線をはがし、机に向かう。 今日だって宿題が出たのだ、進めておかないと後々になって後悔するはめになる。 それに……と、知らず知らずに口元に微笑みを浮かべてしまう。 ――いつ、こなたが宿題を見せてと言ってこないとも限らないし、ね。 そこまで考えて、いや、と頭を振る。 どうして私がアイツのために宿題をやらなくちゃならないのだ。 アイツのために……。 何でだろう?こなたの事を考えると気持ちがざわつくのは? 沢山、迷惑をかけられるから? 違う! アイツは、確かに普段から真面目に授業を聞いてないし、宿題は人のを写してばかり、ダイエットしてる時だってからかってくるけど……こちらが一番嫌がることだけは決してしない。 傍から見れば、傍若無人に振舞っているけれど、実際は違う。 こなたは、こなたなりに周囲に気を使っている。 だから、アイツの周りには人が集まる。 つかさ、みゆき、ゆたかちゃん、田村さん、パトリシアさん、黒井先生、成実さん……そして、私。 日下部だって、峰岸だって、そう。時々、こなたの事を口にするようになった。 アイツは、一度あったら忘れられない強烈な印象を、与えていく。 気が付くと、アイツのことばかり考えている。 離れていると、無性に会いたくなる。 会って話をすると、楽しい。 黙って肩を並べていても不快じゃない。 時々、こなたが誰かと喋っているのを見ると、寂しくなる。 私を見て、私と話そう?そう言いたいのを必死に堪える。 こなたは、別に、私の所有物じゃない。私が、アイツを制限することは出来ない。 ――アレ?私は、なんでこんな事を考えているのだろう? 宿題をやらなくちゃ。一旦止めた足を動かして、机に向かう。 すると、綺麗に包装された小包が目に入った。 こなたへの、誕生日プレゼント。 用意するのが早かったかな、と我ながら思う。 GWの一日をわざわざ費やして、店を何件も回った。アイツの趣味も考えて、色々探した。その結果が、この小包。 友達……親友に渡すプレゼントなんだ。それくらい時間をかけてもいいじゃない。自分に言い聞かせた。早く選んだっておかしくない。寧ろ理にかなっている。 親友に渡す。そう、親友に。 親友……アイツが頭から離れない!こなたの声が、抱きついてきた時の感触が、体中に染み付いている!! 苦しいのか、悲しいのか、辛いのか、分からない。28日が……怖い。 私は、こなたに会いたい。声が聞きたい。 携帯を手に取ると、リダイヤル機能を使った。毎週、いや、毎日繰り返している。 当然、今夜も、電話が長いんだよね? 『もしもし、かがみ?』 聞こえた、繋がった……こなた。 赤い○まで増える×は、後、12個。 164 :柊 かがみ:2008/05/16(金) 23:44:56 ID:xFEX3/zv お風呂上り、まだ、しっとりと仄かな湿気を含む髪をタオルで拭きながら部屋へ戻る。 今日は5月16日、金曜日。週末だ。 慌しい、一週間だった。 そんな事を思いながら、ベッドの脇に腰掛けて、読みかけのラノベを開く。 萌え系のアニメキャラが印刷された栞が挟んであるそれは、こなたから借りたものだ。 印刷された活字を追い、物語を頭の中に浸透させていく。 そして、無意識の内に右手を伸ばし、机の上にあったポッキーを手繰り寄せ、袋を開けると一本取り出し、口元に運んだ。 暫くの間、私がページを繰る音と、ポッキーを齧る音だけが部屋の中で響いていた。 どのくらいそうしていたのだろう。本から顔を上げずに手繰っていた右手が空を掴む。 ――ポッキー、切らしちゃったな。 一つ息を吐くと、今読んでいるページに栞を挟み、閉じた。パタン、と言う音が私を物語から現実へと引きずり戻す。 新しいお菓子を取りに行こうかと、ラノベを床に置いた時、ふと、栞に印刷されているキャラが目に入った。 萌え、私にはよく分からない概念。だけど、ここにある絵は素直に可愛いと思う。でも、私の目を引いたのは二次元の萌えキャラクターじゃない。 私は、こなたを――アイツに借りた本と栞を通して、その向こうにいるこなたを、見つめていた。 ――ここでお菓子をまた食べたら、こなたに何か言われるんだろうな。 そう思ったとき、ハッとした。 まただ。また、気が付くと、こなたの事を考えている。 こなたは、友達。かけがえのない、親友。 だからなのかな……ふとした切欠で、アイツを、思い出すのは。 例えば本を読む時。 例えばお菓子を食べる時。 例えば宿題をする時。 私の中には、いつもこなたがいた。 会えない時でも私達は、会っていた。 何でかな。 どうして、私は……。 165 :柊 かがみ:2008/05/16(金) 23:45:36 ID:xFEX3/zv 今日の帰り道。5月の黄昏は長い。 紅く染まった道路を2人で、歩いた。 こなたは、嬉しそうに私の手を引いて歩いていた。思いがけない力強さに圧倒されながら、小走りについていく私。 道の途中で、こなたは急に立ち止まると、私を振り返った。 その瞬間、紅に蒼が混じり、その中に私は碧色の宝石を見た。 ハッとした。綺麗だった。 こなたは、鞄の中を探ると一冊の本を取り出した。それがこのラノベ。 ――はい、かがみなら、きっと気に入ると思うよ? そう言って微笑んだこなたは、紅い世界によく映えていた。 机の上にあった携帯が振動した。それが私を再び現実に引き戻す。 着信。こなただった。 電話に出る。あの紅い世界が目の前に蘇ってきた。 他愛の無い話をした。でも、一言一言話す度に私の中で蒼碧の宝石が、私を見上げてくる。 私の中にいる、私の、親友……。 こなたの声が、少し舌足らずな、でも決して聞き間違えることのない意思の通った言葉が。私の中を駆け巡る。それは、快感だった。 理由の分からない、でも、確かな充足感。 どんなに満たされていても、人の欲は尽きることはないのだろうか。もっと、欲しくなる。 そう思ったら、自然と、言葉が紡がれた。 ――明日、休みなんだし、家に泊まりに来ない? ――いいけど? ――この前、アンタにゲームで負けたけど、今回は負けないわよ。 ――はっは、かがみんからの挑戦状しかと受け取ったり。じゃあ、明日行くね。 ――うん、待ってる……。 切れた。ツー、ツーと無機質的な音を聴きながら、私は、微笑んでいた。 こんなに上手くいくなんて。 明日、こなたが泊まりに来る。一日中、一緒にいられる。 無意識で、そう、感じた。 総てが、この世界の総てが、輝いて見える……こなたに会える、それだけで。 私は、軽やかな足取りで壁掛けのカレンダーに近づくと今日の日付に×を入れた。 赤い○まで増える×は、後、11個。
117 :柊 かがみ:2008/05/15(木) 22:41:52 ID:f8sha875 キュ、とマジックで紙をこする時の独特の音が部屋に響いた。 私の目の前にあるカレンダーは、5月に入ってから、毎日、1日ずつ×印が増えている。 そして今日、5月15日にも×が点いた。 ふと、目を落とす。これからも×印が増えていくであろう数字の中に一箇所だけ、赤い○で囲まれた日付があった。 5月28日――アイツの、こなたの、誕生日。 暫くその日付を眺める。ぼんやりと。 数字の向こうに、蒼が碧が、霞んで見えた、気がした。 視線をはがし、机に向かう。 今日だって宿題が出たのだ、進めておかないと後々になって後悔するはめになる。 それに……と、知らず知らずに口元に微笑みを浮かべてしまう。 ――いつ、こなたが宿題を見せてと言ってこないとも限らないし、ね。 そこまで考えて、いや、と頭を振る。 どうして私がアイツのために宿題をやらなくちゃならないのだ。 アイツのために……。 何でだろう?こなたの事を考えると気持ちがざわつくのは? 沢山、迷惑をかけられるから? 違う! アイツは、確かに普段から真面目に授業を聞いてないし、宿題は人のを写してばかり、ダイエットしてる時だってからかってくるけど……こちらが一番嫌がることだけは決してしない。 傍から見れば、傍若無人に振舞っているけれど、実際は違う。 こなたは、こなたなりに周囲に気を使っている。 だから、アイツの周りには人が集まる。 つかさ、みゆき、ゆたかちゃん、田村さん、パトリシアさん、黒井先生、成実さん……そして、私。 日下部だって、峰岸だって、そう。時々、こなたの事を口にするようになった。 アイツは、一度あったら忘れられない強烈な印象を、与えていく。 気が付くと、アイツのことばかり考えている。 離れていると、無性に会いたくなる。 会って話をすると、楽しい。 黙って肩を並べていても不快じゃない。 時々、こなたが誰かと喋っているのを見ると、寂しくなる。 私を見て、私と話そう?そう言いたいのを必死に堪える。 こなたは、別に、私の所有物じゃない。私が、アイツを制限することは出来ない。 ――アレ?私は、なんでこんな事を考えているのだろう? 宿題をやらなくちゃ。一旦止めた足を動かして、机に向かう。 すると、綺麗に包装された小包が目に入った。 こなたへの、誕生日プレゼント。 用意するのが早かったかな、と我ながら思う。 GWの一日をわざわざ費やして、店を何件も回った。アイツの趣味も考えて、色々探した。その結果が、この小包。 友達……親友に渡すプレゼントなんだ。それくらい時間をかけてもいいじゃない。自分に言い聞かせた。早く選んだっておかしくない。寧ろ理にかなっている。 親友に渡す。そう、親友に。 親友……アイツが頭から離れない!こなたの声が、抱きついてきた時の感触が、体中に染み付いている!! 苦しいのか、悲しいのか、辛いのか、分からない。28日が……怖い。 私は、こなたに会いたい。声が聞きたい。 携帯を手に取ると、リダイヤル機能を使った。毎週、いや、毎日繰り返している。 当然、今夜も、電話が長いんだよね? 『もしもし、かがみ?』 聞こえた、繋がった……こなた。 赤い○まで増える×は、後、12個。 164 :柊 かがみ:2008/05/16(金) 23:44:56 ID:xFEX3/zv お風呂上り、まだ、しっとりと仄かな湿気を含む髪をタオルで拭きながら部屋へ戻る。 今日は5月16日、金曜日。週末だ。 慌しい、一週間だった。 そんな事を思いながら、ベッドの脇に腰掛けて、読みかけのラノベを開く。 萌え系のアニメキャラが印刷された栞が挟んであるそれは、こなたから借りたものだ。 印刷された活字を追い、物語を頭の中に浸透させていく。 そして、無意識の内に右手を伸ばし、机の上にあったポッキーを手繰り寄せ、袋を開けると一本取り出し、口元に運んだ。 暫くの間、私がページを繰る音と、ポッキーを齧る音だけが部屋の中で響いていた。 どのくらいそうしていたのだろう。本から顔を上げずに手繰っていた右手が空を掴む。 ――ポッキー、切らしちゃったな。 一つ息を吐くと、今読んでいるページに栞を挟み、閉じた。パタン、と言う音が私を物語から現実へと引きずり戻す。 新しいお菓子を取りに行こうかと、ラノベを床に置いた時、ふと、栞に印刷されているキャラが目に入った。 萌え、私にはよく分からない概念。だけど、ここにある絵は素直に可愛いと思う。でも、私の目を引いたのは二次元の萌えキャラクターじゃない。 私は、こなたを――アイツに借りた本と栞を通して、その向こうにいるこなたを、見つめていた。 ――ここでお菓子をまた食べたら、こなたに何か言われるんだろうな。 そう思ったとき、ハッとした。 まただ。また、気が付くと、こなたの事を考えている。 こなたは、友達。かけがえのない、親友。 だからなのかな……ふとした切欠で、アイツを、思い出すのは。 例えば本を読む時。 例えばお菓子を食べる時。 例えば宿題をする時。 私の中には、いつもこなたがいた。 会えない時でも私達は、会っていた。 何でかな。 どうして、私は……。 165 :柊 かがみ:2008/05/16(金) 23:45:36 ID:xFEX3/zv 今日の帰り道。5月の黄昏は長い。 紅く染まった道路を2人で、歩いた。 こなたは、嬉しそうに私の手を引いて歩いていた。思いがけない力強さに圧倒されながら、小走りについていく私。 道の途中で、こなたは急に立ち止まると、私を振り返った。 その瞬間、紅に蒼が混じり、その中に私は碧色の宝石を見た。 ハッとした。綺麗だった。 こなたは、鞄の中を探ると一冊の本を取り出した。それがこのラノベ。 ――はい、かがみなら、きっと気に入ると思うよ? そう言って微笑んだこなたは、紅い世界によく映えていた。 机の上にあった携帯が振動した。それが私を再び現実に引き戻す。 着信。こなただった。 電話に出る。あの紅い世界が目の前に蘇ってきた。 他愛の無い話をした。でも、一言一言話す度に私の中で蒼碧の宝石が、私を見上げてくる。 私の中にいる、私の、親友……。 こなたの声が、少し舌足らずな、でも決して聞き間違えることのない意思の通った言葉が。私の中を駆け巡る。それは、快感だった。 理由の分からない、でも、確かな充足感。 どんなに満たされていても、人の欲は尽きることはないのだろうか。もっと、欲しくなる。 そう思ったら、自然と、言葉が紡がれた。 ――明日、休みなんだし、家に泊まりに来ない? ――いいけど? ――この前、アンタにゲームで負けたけど、今回は負けないわよ。 ――はっは、かがみんからの挑戦状しかと受け取ったり。じゃあ、明日行くね。 ――うん、待ってる……。 切れた。ツー、ツーと無機質的な音を聴きながら、私は、微笑んでいた。 こんなに上手くいくなんて。 明日、こなたが泊まりに来る。一日中、一緒にいられる。 無意識で、そう、感じた。 総てが、この世界の総てが、輝いて見える……こなたに会える、それだけで。 私は、軽やかな足取りで壁掛けのカレンダーに近づくと今日の日付に×を入れた。 赤い○まで増える×は、後、11個。 211 名前:柊 かがみ 投稿日:2008/05/17(土) 23:37:35 aS+wkFPT バタンッ、強く扉を閉める音が部屋中に響いた。 私は、扉に凭れながら、荒くなった息を整える。 ハァ、ハァッ……階下の座敷から自分の部屋までの短い距離を走っただけだと言うのに、こんなにも息が上がって、苦しい。 胸を押さえると動悸が激しかった。 ズルズル、と崩れ落ちて、座り込む。 閉じた瞼の裏で、アイツが……こなたが、笑っていた。 昨日、こなたを家に泊まりに来るよう誘った。こなたは快く応じてくれた。 そして、今日。こなたは約束通り来てくれた。 嬉しかった。こなたが、応じてくれた事。約束を、守ってくれた事。 何故、あんなに嬉しかったのか、自分でも分からない。 ただ、嬉しい。それだけで、充分だった。 こなたが来て、それを見たつかさが言った。みゆきも呼ぼうと。 その時、少し、引っ掛るものを感じた。 何故だろう。こなたは親友。みゆきも、親友。呼ばない理由はない。 なのに、私は……心の奥で、これ以上の闖入者を拒もうと、していた。 何故?何故? 答えは、つかさの言葉に頷くこなたを見て悟った。 ――私は、人が増える事を、恐れているんだ。 こなたが、私から目を逸らす、その可能性が増える事を。 だけど、それは口に出せなかった。 いつもの4人が、揃った。 いつものように、他愛のないお喋り。 いつものように、じゃれあう。 いつものように、いつものように……。 私は、こなたに話しかけた。こなたは、それに答えてくれた。 私は、話題を続けようとした。その時、つかさが会話に加わった。こなたの視線が、私からつかさに移った。 グッと、奥歯を、噛み締めた。 皆でゲームをやった。2人チームを組んだ。 こなたは、みゆきと同じチームだった。 拳を、強く握り締めた。 分からない。何でこんなに、寂しくなるのか。分からない。 つかさは、姉妹。みゆきは、親友。こなたは……私にとって、何? ――今日の晩ご飯、こなちゃんと一緒に作ったんだよ。 何で……? ――泉さんと同じチームですね。力を合わせて頑張りましょう。 何で……? ――ねぇ、こな……た。 こなた……私を見てよ?私と、話そう? 212 名前:柊 かがみ 投稿日:2008/05/17(土) 23:38:04 aS+wkFPT ――あ~、みゆきさん、ゴメンね。私、やっぱりかがみと同じチームが良いや。 ……え? ――クイズゲームだしね。私とみゆきさん組んじゃったら結果見えちゃうし。 そう言って、アイツは、私に向かって、微笑んだ。 ――な、何よ? ――かがみ、嬉しい?私は、嬉しいよ。 アイツの瞳が、口が、そう言っていた。 手を握られた。小さくて、柔らかくて、温かくて……大きい。 ――ちょ、ちょっと、トイレッ! 気が付くと私は、その場から逃げ出していた。 嬉しくて、怖かった。こなたと触れ合うのが。 その温もりに総てを委ねたい、でもそうすると、こなたの総てが、欲しくなる。 そんな気がした……。 欲しい……? 私は、こなたが……? 総てって何?私は、こなたの何が欲しいの? 友達の、親友の、何が欲しいの? 誰か、教えて?この気持ちは、何? 苦しいよ……こなた。 顔を上げた。私の机の上には、こなたへの誕生日プレゼントが、静かにその時を待っている。 私は、立ち上がると、カレンダーの今日の日付に×を書き込んだ。 今日は5月17日。あの包みが待っているのは赤い○印。 赤い○まで増える×は、後、10個。

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