「プロジェクト・こなかが ~プロジェクトは永遠に~」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

プロジェクト・こなかが ~プロジェクトは永遠に~」(2023/02/24 (金) 17:48:01) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

さて、随分と時間が経ってしまった気もするが、物語内での時間はそれ程経っていない事をまずはご理解いただきたい。 この話の目的は、こなたとかがみの2人に、恋文、ラヴレターを機関紙と偽装して書いてもらう事にあるのだが、いやはや、これが中々。 2人はダンゼン、日常に終始するあまり、そういった周囲の意図には全く気がついていない。 それに業を煮やした周りの人々がついに反逆の狼煙を上げた…… それは、やはりある日の事。 いつもの4人は休み時間に3年B組で固まりながら、「あ、これあるよね~」といった雑談に終始していた。 こなたが話す貧乳の勧めに各々頷いたり、首を傾げたりしている中、ふと、みゆきが、 「そういえば、泉さんとかがみさんは、田村さんに頼まれた例の物、完成しましたか?」 と、聞かれて、こなたとかがみは顔を見合わせて苦笑。 「いや~……それがさっぱりでね~」 「恋愛小説だっけ?」 つかさの言葉に、かがみは頷きながら、 「そうなのよ。今までロマンスの欠片もなかったのに、恋愛を題材にした小説を書けなんて言われてもね」 「ですが、田村さん……と言うより、アニ研部長の八坂さんがお決めになった納期までもうあまり時間はありませんよ?」 「そう言うみゆきさんやつかさはどうなのさ?」 「あ、私は終わったよ~」 「お恥ずかしながら、私も」 「え!?」 かがみが目を見開きながら驚きの声を上げた。 「い、一体何時、って言うかどうやって?確か2人も恋愛物を頼まれていたんじゃ」 はい。とみゆきはおっとり笑顔を浮かべながら、 「恋愛に関しましては、いい見本と言いますか、まぁ……手っ取り早く題材に出来るものがありましたので」 それはお2人です、とは絶対に言わない。 こなたは、そうかー、と唸りながら、 「みゆきさんは兎も角、つかさまで終わってるとはね」 「! (こなちゃんのくせにー!!)」 「どうしよっか、かがみ?」 つかさの心の叫びは今何処。そんなの関係なくかがみに問いかけるこなた。とは言え、かがみも書けないものは書けない。 「どうしようね」 気丈な彼女にしては珍しく眉尻を落とした。 「あのー、高良先輩、ちょっといいッスか?」 と、B組の戸口からみゆきを呼ぶのは、後輩のひよりんこと田村ひより。みゆきの事を何か怖いものを見るような目つきで、ちょっとキョドっているのは貴方の目の錯覚。 「どうかなさいましたか?」 対するみゆきは聖母の笑顔。聖母の背後に般若が見えたら、それは気のせい。 「いや、ちょっとお渡ししたいものが……」 戸口からちょいちょいとみゆきを手招きするひよりに頷くと、 「ちょっと失礼しますね」 そういってみゆきは席を外した。それを見送りながら、 「ひよりんがみゆきさんに用って珍しいよね」 と、こなた。つかさは訳知り顔で、 「風呂ジェクト、なんだよ」 因みに、正しくはプロジェクト。 「何の?」 「内緒♪」 時は移ろい、(恐らく)学校生活の中で放課後の次に貴重なお昼休みという、天上から流れ落ちる甘美な雫のような響きを持った、或いはお風呂上りに小指を立てて飲むコーヒー牛乳のような爽やかさを持った、至福の時間が訪れる。 いつもなら4人でB組の食卓を囲む所だが、今日は誰もいない。 チア等色々やって目立っているこの4人の不在はあまりにも注目を集めてしまう。それは大変よろしくない。 なので―― 「布団が吹っ飛んだってね。WAWAWAWAWAWA!」 別な意味で注目を集めるよう大宇宙からの意志を受け取った漢(と書いて犠牲者と読む)が1人。クラス中から生暖かい視線を送られていた。 ここは、屋上へと続く階段。かがみは一通の手紙を握り締め、力強く、そして時には躊躇しながら一段一段を昇っていた。 手にした手紙には短く一文。 『お昼休み、屋上で会いたい。大切な話があります』 と、だけ書かれていた。なぜかローマ字で。 お昼の直前に机の中に入っていたものだ。筆跡は知らないもの。しかし、文面から何が起こるかを察することが出来る。もしかしなくてもこれは、 (ラブレター、なのかしら) しかし、以前修学旅行で紛らわしい手紙を出した奴が1人いたので、かがみ的には疑いたい所。しかし、卒業間近のこの時期に、しかもわざわざ手紙で呼び出しをかけるとなれば、疑う確率の方が低い。 (ラブレターでの呼び出しなんて、まるで恋愛小説みたいね) なんて、考えながらかがみの脳裏によぎるのは、自分より17cm低くて、とても友達思いで、とても寂しがりやな、女の子。 (こなたがこれ知ったら、どう思うかな……) チクリ、と胸が痛んだ。 屋上への扉が、何か恐ろしいものに見えた。行かなければよかったかもしれない。でも、来てしまった。 何故?もし、告白されたら断る為に。 ギィィ、と音を立て、錆付いた扉がゆっくりと開く。空の突き抜ける蒼さが目に沁みた。そして、蒼の中に蒼を見つけた。 ゆっくりと、蒼は振り返った。 蒼の中の碧が驚きに見開かれる。 「こなた――?」 こなたは、屋上に立っていた。 理由は手にした一通の手紙。内容は『お昼休み、屋上で会いたい。大切な話があります』なぜか点字で。 数々のギャルゲーを消化し、糧としてきた彼女にとってこのシチュエーションの続きは想像に難くなかった。 今時こんな手紙もなかろうよ、とは思ったが。ここまで来た。 来る途中、 (もしかがみがこれ知ったら、どう思うかな……) と思った。チクリ、と胸が痛んだ。手すりに凭れて手紙の主を待つ。 何故?もし、告白されたら断る為に。 ギィィ、と軋んだ音がした。目を向けていた空から目を戻し、音源を見やる。 想像していたのは、男子。見も知らないどこかの誰か。 現実は、違った。逆光の影から出てきたのは菫色。ピクリ、と固まって止まる。 「かがみ――?」 寒風吹き荒ぶ屋上。少女が2人、並んで佇む。 「こなたは、なんでここにいるの?」 「んー、何か呼び出されちゃってね。かがみは?」 「……同じ。呼び出された。手紙でね」 「おお!凄い偶然。私も手紙で呼び出されたよ」 「本当?」 「うん」 「……」 「……」 沈黙が降りた。お互いの顔を見れば、複雑な表情をしている。 「かがみを呼び出したのって誰?」 「分かんない。名前書いてないし。こなたは?」 「私も。名前書いてない」 「こういう手紙って、やっぱり……その……ラブレター、とかなのかな?」 「そうじゃないかな。ギャルゲでは良くあるシチュだし。リアルでやる人がいるとは思わなかったけど」 「やっぱり、告白とかされるのか、な?」 「う~ん……多分ね」 「……」 「……」 再び沈黙の戦艦大和。落ち着かないね、この空気。だから、それを振り払おうと沈黙と饒舌が交互にやってくる。 「「ねぇ」」 声が重なる2重奏。やや間を置いて、 「こなたから先に言っていいわよ」 「いやいや、身長序列でかがみから」 「身長序列ってなんだよ……まぁいいや。もし、こなたは、こくはく、とかされたらどうするの?」 ピクリ、とこなたの体が強張るのが分かった。 「どうって?」 「その……付き合ったり、とか、するわけ?」 「かがみは、どうして欲しい?」 「何で私が出てくるのよ」 「あ……いや、その、まぁ、私は断るよ。きっと」 「何で?」 こなたは、難しい顔をしてしばし沈黙していたが、やがて、 「だって、まぁ、めんどくさいじゃん?」 にへら、と笑った。いつも見ている顔と口ぶりに感心するやら、呆れるやらで、ほうと息を付くかがみ。だから気が付かなかった。こなたの唇が一瞬「かがみが好きだから」と動いたのに。 「かがみはどうする?」 一旦抜けた気が再び張った。何が、と聞かなくても分かる。一瞬にして乾いた唇を舌で湿らせてから、 「私も、断ると思う」 「何で?」 「それは、アンタが……」 一瞬言いかけて、しかし、頭を振ると、 「アンタと同じ。めんどくさいしね」 その言葉に、ほっと胸をなでおろすこなた。だから気が付かない。かがみが口の中で「こなたが好きだから」と呟いたのに。 「遅いね……」 お昼休みも半分過ぎた。だが、手紙の主と思しき人物は未だに現れない。 「からかわれたのかな」 「どうだろう」 ボーっとしてるのもそろそろ飽きてきた。 「ちょっと歩かない?」 と、こなた。 「ま、何もしないで待ってるよりはマシね」 手を差し出すかがみ。2人で狭い屋上の上を散策する。 「この前話したけど、酢豚のパイナップルってどう思う?」 「いや、私はアレいらないと思うけどね」 「ふ~ン。かがみは酢豚のパイナップル嫌いなんだ」 「別に嫌いじゃないけど、存在意義が分からないのよ。だから別に嫌いじゃないわよ、別に」 「おお、ツンデレ」 「何でだよ」 「じゃ、今度作るときは入っててもいいね」 「え?作ってくれるの。酢豚」 「いや~、黒井先生に追加課題出されてね。ただ手伝ってもらうんじゃ悪いじゃん?」 「手伝わないからな」 「え~、ケチ」 「ケチじゃない!大体、普段から真面目に授業聞いてればそんなことにはならん!」 「そんな~、かがみ様手伝ってよぉ」 「えぇい、抱きつくな。泣くな!」 「メソメソ」 「……あ~、分かったから」 「ヤリィ」 「その代わり、最高の酢豚、頼むわよ?」 「まかせたまへ~」 他愛のない会話。でも、そんな日常が手紙で貰った不安を打ち消した。向かい合って笑う2人。 「そういえば、あの手紙だけどね。もし、差出人、こなただったらよかったなって一瞬だけ思った。あ、一瞬だけよ?」 「も~、かがみはツンデレだな~。私はかがみだったら良いなってずっと思ってたよ」 「ホントか~?」 「イエス!マイロード!」 「じゃ、今度出してあげるわよ、手紙をね」 「うえ?そ、それはどういう意味かな~」 「あ!いや、その……」 「ん~?かーがみん?」 「な、なんでもないわよ!!」 「じゃ、私もかがみにお手紙だそっかな」 「ええっ!?」 「愛を込めたラブレター」 「……もうっ」 照れてフイと横を向いたかがみ。と、その視界の先で何か動いた。 「ば、バルサミコ酢~!?」 「つかさ!?」 慌てて隠れようとして転ぶつかさとそれを抱きとめるみゆきがそこにいた。 「ちょ、2人ともなんでここに?」 こなたの言葉に冷や汗を垂らしながら、つかさはアハハと笑い。みゆきはいつもの微笑を崩さないまま、 「お2人はここに呼び出されていたんでしょう?」 と言った。 「何でみゆきさん知ってんの!?」 「だって、あの手紙は私が田村さんに発注して出したものですから」 「えぇぇえっ!」 かくも驚いたこなたとかがみを等分に見やって、初めて苦笑を浮かべると、 「お2人の恋愛小説がまだ書けない、と言うことでしたので。ちょっとした演出です。実際に体験していただければ、何かインスピレーションが得られるかと思いまして」 すみません、と頭を下げるみゆきとつかさを見てこなたとかがみは何だか拍子抜けしてしまった。 散々頭悩ませて、気を揉ませたというのに。 「お叱りはいかようにもお受けいたしますので」 と、頭を下げたままのみゆきを見て、こなたとかがみは顔を見合わせると、ふう、と溜息。 「ヤレヤレ、こんなオチとはね」 「ゴメンね、こなちゃん」 「言ってくれれば良かったのに」 「すみません。驚きを以って迎えたほうが面白……ではなくて、良い案が浮かぶと思ったので」 もう一回、こなたは溜息をついて、 「ま、とりあえず色々後で考えるとして、お昼食べよっか。昼休み終わっちゃうしね」 と言って、歩き出した。つかさがそれに続き、かがみも後を追おうとしたが、 「あ、かがみさん。お話が……」 みゆきによって止められた。みゆきは、こなたとつかさの方を見やって、 「泉さんとつかささんは先に行ってて下さい」 「おk」 「うん」 バタン、とドアが閉まる。その一瞬につかさが頷いたのを確かに見届けてから、みゆきはかがみの方ヘ向き直った。 「さて――」 その頃、教室向かうこなたとつかさ。つかさの前を行き、てっくてっくと階段を下りるこなたの姿は心なしか嬉しそうに見える。 「こなちゃん、何か嬉しそうだね」 「ん~?そぉかな」 「うん。何かいい事あったのカナ?」 「いい事って言えばいい事かもね~」 「ふ~ん」 と、ここでつかさが足を止めた。その気配に気が付いたこなたが後ろを振り返る。 「ねぇ、こなちゃん――」 ――屋上。 「かがみさん。先程、もし、泉さんが本当に男性に呼び出されていたら、どう思いましたか?」 ――階段。 「もし、お姉ちゃんが本当に男の人に呼び出されてたら、こなちゃんはどう思った?」 それぞれの場所で、避けていた選択を突きつけた。 どう思った?と聞かれて、考えた。 好きな人が、同じように呼び出されていると知った時。私は―― 「嫌だ……」 言葉が、口から勝手に飛び出した。 「何故?」 問われて、思う。何故?Why? だって―― 「嫌だ、だって遠くに行っちゃうと思った。私が呼び出されただけだったら断ればいい。でも、もし――」 もし、好きな人が別な人を好きになったら…… 「そんなの、嫌だよ」 「だったら、素直になりませんと。想いは、伝えないと」 「だったら、素直になろうよ。想いを、伝えようよ」 「でも、どうやって?」 「もし、想いを言葉に出来ないのでしたら」 「書こうよ」 「そのおつもり、だったのでしょう?」 さっき、2人でした会話。 ――じゃ、今度出してあげるわよ、手紙をね ――うえ?そ、それはどういう意味かな~ ――あ!いや、その…… ――ん~?かーがみん? ――な、なんでもないわよ!! ――じゃ、私もかがみにお手紙だそっかな ――ええっ!? ――愛を込めたラブレター ――……もうっ 「そのつもり、だった」 目の前の親友は、何も言わずに、ただ、微笑んだ。 後日。 アニ研文芸部合同の機関紙は無事発行された。 こなたとかがみの書いたのは、互いに対するラブレター。 文は、物語。小説だ。 恥ずかしくて素直に渡せないくらいなら、こちらに載せて読んでもらおうと。まぁ、誰かが2人に入れ知恵したのだが。 「どうですか、かがみさん。泉さんは想い人の事を考えながらその物語を書いたようですよ。ラブレターですね」 「どうかな、こなちゃん。お姉ちゃんは好きな人の事を考えながらそのお話書いたんだって。ラブレターだね」 二つの物語のタイトルは、 ――私の好きなツンデレ少女 ――私の愛するオタク少女 ……なのだが、 「ねえ、みゆき――」 「ねえ、つかさ――」 「「――これ、誰のことだと思う?」」 ……あれぇ? **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 終始安定の高品質で、一気に読んでしまいました。上手なギャグと萌えがいい味ですね。GJでした! &br()しかし、互いの気持ちに気付かずにアレだけイチャイチャできるとは…(--;) -- 名無しさん (2012-12-16 13:32:18) - え〜!?わからないですか!? -- かがみんラブ (2012-09-17 07:44:47) - 僕も後押ししてあげたいです。 -- 名無しさん (2010-08-11 13:13:01) - wwwローマ字 -- 名無しさん (2010-05-28 09:12:34) - 気 付 け w -- 名無しさん (2010-04-05 02:24:07) - 鈍感すぐるwww &br()このあとこなたが告白して・・・ &br()とか妄想してんのは俺だけ? -- 白夜 (2009-10-12 02:06:56) - なんだか終始まったりと読めるSSですた。ほどよく面白いし、文もうまいね。 -- 名無しさん (2008-12-17 23:26:17) - 二人とも鈍すぎwでも、萌えるなあ…wこのシリーズ好きです。子ぎつねこなたんも続き楽しみにしてます。 -- 名無しさん (2008-05-19 18:03:15) - やはりあなたの作品は面白いです=I &br()また書いてね! -- 名無しさん (2008-05-06 23:24:18)
さて、随分と時間が経ってしまった気もするが、物語内での時間はそれ程経っていない事をまずはご理解いただきたい。 この話の目的は、こなたとかがみの2人に、恋文、ラヴレターを機関紙と偽装して書いてもらう事にあるのだが、いやはや、これが中々。 2人はダンゼン、日常に終始するあまり、そういった周囲の意図には全く気がついていない。 それに業を煮やした周りの人々がついに反逆の狼煙を上げた…… それは、やはりある日の事。 いつもの4人は休み時間に3年B組で固まりながら、「あ、これあるよね~」といった雑談に終始していた。 こなたが話す貧乳の勧めに各々頷いたり、首を傾げたりしている中、ふと、みゆきが、 「そういえば、泉さんとかがみさんは、田村さんに頼まれた例の物、完成しましたか?」 と、聞かれて、こなたとかがみは顔を見合わせて苦笑。 「いや~……それがさっぱりでね~」 「恋愛小説だっけ?」 つかさの言葉に、かがみは頷きながら、 「そうなのよ。今までロマンスの欠片もなかったのに、恋愛を題材にした小説を書けなんて言われてもね」 「ですが、田村さん……と言うより、アニ研部長の八坂さんがお決めになった納期までもうあまり時間はありませんよ?」 「そう言うみゆきさんやつかさはどうなのさ?」 「あ、私は終わったよ~」 「お恥ずかしながら、私も」 「え!?」 かがみが目を見開きながら驚きの声を上げた。 「い、一体何時、って言うかどうやって?確か2人も恋愛物を頼まれていたんじゃ」 はい。とみゆきはおっとり笑顔を浮かべながら、 「恋愛に関しましては、いい見本と言いますか、まぁ……手っ取り早く題材に出来るものがありましたので」 それはお2人です、とは絶対に言わない。 こなたは、そうかー、と唸りながら、 「みゆきさんは兎も角、つかさまで終わってるとはね」 「! (こなちゃんのくせにー!!)」 「どうしよっか、かがみ?」 つかさの心の叫びは今何処。そんなの関係なくかがみに問いかけるこなた。とは言え、かがみも書けないものは書けない。 「どうしようね」 気丈な彼女にしては珍しく眉尻を落とした。 「あのー、高良先輩、ちょっといいッスか?」 と、B組の戸口からみゆきを呼ぶのは、後輩のひよりんこと田村ひより。みゆきの事を何か怖いものを見るような目つきで、ちょっとキョドっているのは貴方の目の錯覚。 「どうかなさいましたか?」 対するみゆきは聖母の笑顔。聖母の背後に般若が見えたら、それは気のせい。 「いや、ちょっとお渡ししたいものが……」 戸口からちょいちょいとみゆきを手招きするひよりに頷くと、 「ちょっと失礼しますね」 そういってみゆきは席を外した。それを見送りながら、 「ひよりんがみゆきさんに用って珍しいよね」 と、こなた。つかさは訳知り顔で、 「風呂ジェクト、なんだよ」 因みに、正しくはプロジェクト。 「何の?」 「内緒♪」 時は移ろい、(恐らく)学校生活の中で放課後の次に貴重なお昼休みという、天上から流れ落ちる甘美な雫のような響きを持った、或いはお風呂上りに小指を立てて飲むコーヒー牛乳のような爽やかさを持った、至福の時間が訪れる。 いつもなら4人でB組の食卓を囲む所だが、今日は誰もいない。 チア等色々やって目立っているこの4人の不在はあまりにも注目を集めてしまう。それは大変よろしくない。 なので―― 「布団が吹っ飛んだってね。WAWAWAWAWAWA!」 別な意味で注目を集めるよう大宇宙からの意志を受け取った漢(と書いて犠牲者と読む)が1人。クラス中から生暖かい視線を送られていた。 ここは、屋上へと続く階段。かがみは一通の手紙を握り締め、力強く、そして時には躊躇しながら一段一段を昇っていた。 手にした手紙には短く一文。 『お昼休み、屋上で会いたい。大切な話があります』 と、だけ書かれていた。なぜかローマ字で。 お昼の直前に机の中に入っていたものだ。筆跡は知らないもの。しかし、文面から何が起こるかを察することが出来る。もしかしなくてもこれは、 (ラブレター、なのかしら) しかし、以前修学旅行で紛らわしい手紙を出した奴が1人いたので、かがみ的には疑いたい所。しかし、卒業間近のこの時期に、しかもわざわざ手紙で呼び出しをかけるとなれば、疑う確率の方が低い。 (ラブレターでの呼び出しなんて、まるで恋愛小説みたいね) なんて、考えながらかがみの脳裏によぎるのは、自分より17cm低くて、とても友達思いで、とても寂しがりやな、女の子。 (こなたがこれ知ったら、どう思うかな……) チクリ、と胸が痛んだ。 屋上への扉が、何か恐ろしいものに見えた。行かなければよかったかもしれない。でも、来てしまった。 何故?もし、告白されたら断る為に。 ギィィ、と音を立て、錆付いた扉がゆっくりと開く。空の突き抜ける蒼さが目に沁みた。そして、蒼の中に蒼を見つけた。 ゆっくりと、蒼は振り返った。 蒼の中の碧が驚きに見開かれる。 「こなた――?」 こなたは、屋上に立っていた。 理由は手にした一通の手紙。内容は『お昼休み、屋上で会いたい。大切な話があります』なぜか点字で。 数々のギャルゲーを消化し、糧としてきた彼女にとってこのシチュエーションの続きは想像に難くなかった。 今時こんな手紙もなかろうよ、とは思ったが。ここまで来た。 来る途中、 (もしかがみがこれ知ったら、どう思うかな……) と思った。チクリ、と胸が痛んだ。手すりに凭れて手紙の主を待つ。 何故?もし、告白されたら断る為に。 ギィィ、と軋んだ音がした。目を向けていた空から目を戻し、音源を見やる。 想像していたのは、男子。見も知らないどこかの誰か。 現実は、違った。逆光の影から出てきたのは菫色。ピクリ、と固まって止まる。 「かがみ――?」 寒風吹き荒ぶ屋上。少女が2人、並んで佇む。 「こなたは、なんでここにいるの?」 「んー、何か呼び出されちゃってね。かがみは?」 「……同じ。呼び出された。手紙でね」 「おお!凄い偶然。私も手紙で呼び出されたよ」 「本当?」 「うん」 「……」 「……」 沈黙が降りた。お互いの顔を見れば、複雑な表情をしている。 「かがみを呼び出したのって誰?」 「分かんない。名前書いてないし。こなたは?」 「私も。名前書いてない」 「こういう手紙って、やっぱり……その……ラブレター、とかなのかな?」 「そうじゃないかな。ギャルゲでは良くあるシチュだし。リアルでやる人がいるとは思わなかったけど」 「やっぱり、告白とかされるのか、な?」 「う~ん……多分ね」 「……」 「……」 再び沈黙の戦艦大和。落ち着かないね、この空気。だから、それを振り払おうと沈黙と饒舌が交互にやってくる。 「「ねぇ」」 声が重なる2重奏。やや間を置いて、 「こなたから先に言っていいわよ」 「いやいや、身長序列でかがみから」 「身長序列ってなんだよ……まぁいいや。もし、こなたは、こくはく、とかされたらどうするの?」 ピクリ、とこなたの体が強張るのが分かった。 「どうって?」 「その……付き合ったり、とか、するわけ?」 「かがみは、どうして欲しい?」 「何で私が出てくるのよ」 「あ……いや、その、まぁ、私は断るよ。きっと」 「何で?」 こなたは、難しい顔をしてしばし沈黙していたが、やがて、 「だって、まぁ、めんどくさいじゃん?」 にへら、と笑った。いつも見ている顔と口ぶりに感心するやら、呆れるやらで、ほうと息を付くかがみ。だから気が付かなかった。こなたの唇が一瞬「かがみが好きだから」と動いたのに。 「かがみはどうする?」 一旦抜けた気が再び張った。何が、と聞かなくても分かる。一瞬にして乾いた唇を舌で湿らせてから、 「私も、断ると思う」 「何で?」 「それは、アンタが……」 一瞬言いかけて、しかし、頭を振ると、 「アンタと同じ。めんどくさいしね」 その言葉に、ほっと胸をなでおろすこなた。だから気が付かない。かがみが口の中で「こなたが好きだから」と呟いたのに。 「遅いね……」 お昼休みも半分過ぎた。だが、手紙の主と思しき人物は未だに現れない。 「からかわれたのかな」 「どうだろう」 ボーっとしてるのもそろそろ飽きてきた。 「ちょっと歩かない?」 と、こなた。 「ま、何もしないで待ってるよりはマシね」 手を差し出すかがみ。2人で狭い屋上の上を散策する。 「この前話したけど、酢豚のパイナップルってどう思う?」 「いや、私はアレいらないと思うけどね」 「ふ~ン。かがみは酢豚のパイナップル嫌いなんだ」 「別に嫌いじゃないけど、存在意義が分からないのよ。だから別に嫌いじゃないわよ、別に」 「おお、ツンデレ」 「何でだよ」 「じゃ、今度作るときは入っててもいいね」 「え?作ってくれるの。酢豚」 「いや~、黒井先生に追加課題出されてね。ただ手伝ってもらうんじゃ悪いじゃん?」 「手伝わないからな」 「え~、ケチ」 「ケチじゃない!大体、普段から真面目に授業聞いてればそんなことにはならん!」 「そんな~、かがみ様手伝ってよぉ」 「えぇい、抱きつくな。泣くな!」 「メソメソ」 「……あ~、分かったから」 「ヤリィ」 「その代わり、最高の酢豚、頼むわよ?」 「まかせたまへ~」 他愛のない会話。でも、そんな日常が手紙で貰った不安を打ち消した。向かい合って笑う2人。 「そういえば、あの手紙だけどね。もし、差出人、こなただったらよかったなって一瞬だけ思った。あ、一瞬だけよ?」 「も~、かがみはツンデレだな~。私はかがみだったら良いなってずっと思ってたよ」 「ホントか~?」 「イエス!マイロード!」 「じゃ、今度出してあげるわよ、手紙をね」 「うえ?そ、それはどういう意味かな~」 「あ!いや、その……」 「ん~?かーがみん?」 「な、なんでもないわよ!!」 「じゃ、私もかがみにお手紙だそっかな」 「ええっ!?」 「愛を込めたラブレター」 「……もうっ」 照れてフイと横を向いたかがみ。と、その視界の先で何か動いた。 「ば、バルサミコ酢~!?」 「つかさ!?」 慌てて隠れようとして転ぶつかさとそれを抱きとめるみゆきがそこにいた。 「ちょ、2人ともなんでここに?」 こなたの言葉に冷や汗を垂らしながら、つかさはアハハと笑い。みゆきはいつもの微笑を崩さないまま、 「お2人はここに呼び出されていたんでしょう?」 と言った。 「何でみゆきさん知ってんの!?」 「だって、あの手紙は私が田村さんに発注して出したものですから」 「えぇぇえっ!」 かくも驚いたこなたとかがみを等分に見やって、初めて苦笑を浮かべると、 「お2人の恋愛小説がまだ書けない、と言うことでしたので。ちょっとした演出です。実際に体験していただければ、何かインスピレーションが得られるかと思いまして」 すみません、と頭を下げるみゆきとつかさを見てこなたとかがみは何だか拍子抜けしてしまった。 散々頭悩ませて、気を揉ませたというのに。 「お叱りはいかようにもお受けいたしますので」 と、頭を下げたままのみゆきを見て、こなたとかがみは顔を見合わせると、ふう、と溜息。 「ヤレヤレ、こんなオチとはね」 「ゴメンね、こなちゃん」 「言ってくれれば良かったのに」 「すみません。驚きを以って迎えたほうが面白……ではなくて、良い案が浮かぶと思ったので」 もう一回、こなたは溜息をついて、 「ま、とりあえず色々後で考えるとして、お昼食べよっか。昼休み終わっちゃうしね」 と言って、歩き出した。つかさがそれに続き、かがみも後を追おうとしたが、 「あ、かがみさん。お話が……」 みゆきによって止められた。みゆきは、こなたとつかさの方を見やって、 「泉さんとつかささんは先に行ってて下さい」 「おk」 「うん」 バタン、とドアが閉まる。その一瞬につかさが頷いたのを確かに見届けてから、みゆきはかがみの方ヘ向き直った。 「さて――」 その頃、教室向かうこなたとつかさ。つかさの前を行き、てっくてっくと階段を下りるこなたの姿は心なしか嬉しそうに見える。 「こなちゃん、何か嬉しそうだね」 「ん~?そぉかな」 「うん。何かいい事あったのカナ?」 「いい事って言えばいい事かもね~」 「ふ~ん」 と、ここでつかさが足を止めた。その気配に気が付いたこなたが後ろを振り返る。 「ねぇ、こなちゃん――」 ――屋上。 「かがみさん。先程、もし、泉さんが本当に男性に呼び出されていたら、どう思いましたか?」 ――階段。 「もし、お姉ちゃんが本当に男の人に呼び出されてたら、こなちゃんはどう思った?」 それぞれの場所で、避けていた選択を突きつけた。 どう思った?と聞かれて、考えた。 好きな人が、同じように呼び出されていると知った時。私は―― 「嫌だ……」 言葉が、口から勝手に飛び出した。 「何故?」 問われて、思う。何故?Why? だって―― 「嫌だ、だって遠くに行っちゃうと思った。私が呼び出されただけだったら断ればいい。でも、もし――」 もし、好きな人が別な人を好きになったら…… 「そんなの、嫌だよ」 「だったら、素直になりませんと。想いは、伝えないと」 「だったら、素直になろうよ。想いを、伝えようよ」 「でも、どうやって?」 「もし、想いを言葉に出来ないのでしたら」 「書こうよ」 「そのおつもり、だったのでしょう?」 さっき、2人でした会話。 ――じゃ、今度出してあげるわよ、手紙をね ――うえ?そ、それはどういう意味かな~ ――あ!いや、その…… ――ん~?かーがみん? ――な、なんでもないわよ!! ――じゃ、私もかがみにお手紙だそっかな ――ええっ!? ――愛を込めたラブレター ――……もうっ 「そのつもり、だった」 目の前の親友は、何も言わずに、ただ、微笑んだ。 後日。 アニ研文芸部合同の機関紙は無事発行された。 こなたとかがみの書いたのは、互いに対するラブレター。 文は、物語。小説だ。 恥ずかしくて素直に渡せないくらいなら、こちらに載せて読んでもらおうと。まぁ、誰かが2人に入れ知恵したのだが。 「どうですか、かがみさん。泉さんは想い人の事を考えながらその物語を書いたようですよ。ラブレターですね」 「どうかな、こなちゃん。お姉ちゃんは好きな人の事を考えながらそのお話書いたんだって。ラブレターだね」 二つの物語のタイトルは、 ――私の好きなツンデレ少女 ――私の愛するオタク少女 ……なのだが、 「ねえ、みゆき――」 「ねえ、つかさ――」 「「――これ、誰のことだと思う?」」 ……あれぇ? **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!笑(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-24 17:48:01) - 終始安定の高品質で、一気に読んでしまいました。上手なギャグと萌えがいい味ですね。GJでした! &br()しかし、互いの気持ちに気付かずにアレだけイチャイチャできるとは…(--;) -- 名無しさん (2012-12-16 13:32:18) - え〜!?わからないですか!? -- かがみんラブ (2012-09-17 07:44:47) - 僕も後押ししてあげたいです。 -- 名無しさん (2010-08-11 13:13:01) - wwwローマ字 -- 名無しさん (2010-05-28 09:12:34) - 気 付 け w -- 名無しさん (2010-04-05 02:24:07) - 鈍感すぐるwww &br()このあとこなたが告白して・・・ &br()とか妄想してんのは俺だけ? -- 白夜 (2009-10-12 02:06:56) - なんだか終始まったりと読めるSSですた。ほどよく面白いし、文もうまいね。 -- 名無しさん (2008-12-17 23:26:17) - 二人とも鈍すぎwでも、萌えるなあ…wこのシリーズ好きです。子ぎつねこなたんも続き楽しみにしてます。 -- 名無しさん (2008-05-19 18:03:15) - やはりあなたの作品は面白いです=I &br()また書いてね! -- 名無しさん (2008-05-06 23:24:18)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー