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雨・相合い傘」(2023/02/24 (金) 23:26:42) の最新版変更点

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ぽつり。 授業中に落ちてきたそれは、とても憂鬱な気分にさせてくれて。 「雨、か」 雨は正直好きにはなれない。 どうしたって嬉しくはならないし、濡れるのは欝陶しい。 傘はなぜああいう構造になっているんだろうか。 足元がどうしても濡れてしまうような欠陥品。 ……まあ、だからってないよりはずっとマシなんだけれど。 とりあえず私は、濡れるのが大がつくほど嫌いなのだ。 そういえば、私は傘を持ってきてるからまだ濡れずに済むけど、こなたはどうなんだろう。 忘れているかもしれないし、忘れていないかもしれない。 授業はもう六限目で、これさえ終われば放課後だ。 裏を返せば、この授業が終わったら帰らなくてはいけない、という意味で。 部活になんて入っていないから、雨が止むまで時間を潰すなんてことも出来ない。 本当に忘れていたらどうするのだろうか。 というか、こなたが傘を忘れている事を前提に話を進めているが、実際はどうなんだろう……。 あれ? 何だか思考がループしている気がする。 ううん、このままだとどんどん深みに嵌まりそうだ。 いっその事、聞いてしまえば楽になるのだが、授業中なのでそれも出来ない。 ――早く、放課後にならないかな。  ◆ 授業、ホームルームが終わって放課後。 「かがみ様ー」 鞄に荷物を入れていざ行かん、とした所でこなたが来た。 「びっくりした」 聞こえないように口の中だけで呟く。 「お願いがあって来たんだけどさー」 「ん? 何?」 変な予感がする。こいつ、まさか―― 「実は傘忘れちゃってさ」 「やっぱり忘れてるのかよ……」 そう呟くと会話を中断し、きょとん、とこちらを見上げてくるこなた。 「やっぱり?」 「あんたの事だから忘れてるかな、と思ってね」 と、言ってやるとさっきの顔とは一変、ふうん、とにやける。 「つまり、かがみは私の事が気になって仕方がなかったと」 「何でそうなるのよ!」 そしてこなたは、にやけたまま、そんなふざけた事を言い放った。 いや、気にしてたといえば気にしてたけれど、言われるとなると話は別だ。 「だって私、ホームルーム終わってから速攻で来たもんね」 考える暇なんてあった筈がないのだよ、と胸を張りながら続ける。 「だから、かがみが考えてたのは授業中かホームルーム中だけになるって事」 「それは、そうだけど……」 む、と睨みながら――と言っても恐らく赤くなっているので迫力は無いかもしれない――反論する。 と、こなたはにやついた笑いを止めて、 「まあ、冗談はここまでにして――傘、入れてくれない?」 なんて、提案をした。 「入れる?」 普通に貸して、と言えばいいのに? と聞き返す。 「そ。だってかがみ、今日折りたたみ傘持ってきて無いんでしょ?」 「そうだけど……何であんたが知ってんのよ」 「つかさに聞いたー」 「あ、そっか。つかさと私は今日持ってきてないんだっけ」 今日は鞄が重かったし、持って行かなくてもいいか、なんて言ってたんだ。 「みゆきは? みゆきは持ってきてそうだけど」 「それがさ、なんか、借りるのが心苦しくて……」 申し訳なさそうな顔をしながら頬を掻く。それを見て私は、 「私に入れてもらうのも心苦しいと思えよ」 つい、突っ込んでしまった。 言っている事は何となく分かるのだが――条件反射って恐ろしい。 「だってかがみは私の嫁じゃん? 頼み事なんて当たり前でしょー?」 わざとらしく語尾を延ばし、その一言を強調する。 しかし、その、わざとらしく強調されたその一言は、問題発言以外の何物でもなくて。 「誰があんたの嫁か!」 「かがみが私の嫁だ!」 「な、あ……!」 そこまではっきりと返されると、なんというか、言葉に詰まる。 こなたは真っ赤になっている私を見つめ、ほんの少しだけ考える素振りをして、体を翻した。 「じゃ、異議もなくなった所で、帰りましょうか」 「え、ああ、うん。帰ろっか」 もちろん、異議が無い訳じゃなくて――むしろ全身全霊をかけて唱えたい――けれど、 このまま話を続けても、私にとって不利な状況にしかならないと思うし、追求はしない。 ……よく考えたら教室の真ん中でなんて会話をしてたんだろう。 ああ、顔の温度がまた上がった気がする。 こなたが後ろを向いてくれていてよかった。  ◆ 昇降口に着くと、雨が地面を叩く音が一層強く聞こえた。 「うわー、すごい雨だねー」 「そうね。この中を帰ると思うと……」 考えるだけでも嫌だ、とため息を吐いて肩を落とす。 「だよね、相合い傘だと厳しいかもしんないよね」 「――――――――はい?」 硬直。思考が復帰しないまま言葉を紡ぐ。 「な、あ、相合い傘……っ!?」 「え? だって一緒の傘に入るんでしょ?」 それ以外の何になるの? とでも言いたそうな目で見つめられた。 「そ、それは、そう、だけど。その、えっと」 あわあわしながら反論しようとするが、何も言葉が浮かんでこない。 「あー……、落ち着いてかがみ。はい、深呼吸深呼吸」 吸って、吐いて。吸って、吐いてを繰り返す。 ――うん。少しだけど、落ち着いた。 「……何で、わざわざそんな言い方するのよ」 「他の言い方が思い付かないから、とか?」 「む、確かにそうだけど……」 そう言われると、他の言い方が見つからない。 いや、でも、恥ずかしいし、もっと別の言い方は無いものか……。 「んじゃ、相合い傘しよっか」 「今すぐみゆきに傘借りろ!」 びしい、と音がしそうな程に指を突き付けて言う――というより、それは、叫ぶに近かった。 「んー? みゆきさん達もう帰っちゃったよ?」 「なあっ!?」 予想外だ。というより今の今まで気付かなかった私に突っ込みたい。 「どっか寄る所があるんだって」 「つかさとみゆきが?」 こんな雨の日にあの二人で寄るところとは、どこだろうか。 「うん。多分、無駄話してるうちに帰っちゃったと思うよ」 「ふーん?」 疑問に首を傾げていると、こなたは私の右腕に巻き付くような形で抱き着いてきた。 温もりとか柔らかさが右腕いっぱいに広がってってこんな事を考えてる場合じゃ―― 「私達も帰ろう。雨足も強くなってきたしね」 「分かってるけど、離しなさいよ!」 軽く振るようにして、無理矢理離させようと試みる。 が、こなたは腕に合わせて揺れるだけで全く離そうとはしなかった。 「何するのさー」 「それはこっちのセリフよ」 いきなり抱き着いてきたのはこなたなのだから、こなたに否があるはずなのではないか。 「ほらほら、とりあえずもう傘ささないと濡れちゃうよ?」 「え、あ、ホントだ!」 意味のない問答をしてるうちに、昇降口を出かけていた。 急いで傘をさそうと試みるけれど、 「って、離れてくれなきゃ、させないじゃない」 ワンタッチで開くタイプだったらよかったのだろうけれど、これは違うのでそうもいかない。 むう、と不服そうな顔をして離れるこなた。 「傘さしたらすぐにさっきの体制だからね?」 離れたのはいいものの、そんな提案をするこなた。 「……異議は?」 「却下します!」 これはもう何を言っても駄目だな、と諦めて、 躊躇いつつも傘を広げ、抱き着きやすいように右腕を広げる。 「ほら、おいで」 その一言がどこか気になったのか一瞬目を見開いき、辺りを見回した。 「ねぇ、かがみ……無自覚?」 「え?」 何が? と視線で聞くけれどこなたは、はあ、とため息をついて俯くだけで。 「何よ。ため息吐くと幸せが逃げるわよ?」 その様子が何となく気に入らなかったので、皮肉っぽく言ってやった。 「現在進行系で逃げてる感じがするよ……」 はあ、とため息もう一つ。 さっきまでの妙なはしゃぎ様が一瞬で洗い流されてしまったような、そんな感じ。 「あーもう、何が何だか分かんないけど行くわよ」 さっきとは逆に、こなたの左腕を取るようにして昇降口を出る。 「――――――」 ぼそり、とこなたが何かを呟いたように聞こえたけれど、私の耳にその言葉は届かなかった。  ◆ 雨の中を歩く。いくらこなたが小さいからといっても、傘に収まりきる事は無くて。 「やっぱり、濡れちゃうね」 「そうね――もしかしたら、これってささなくても一緒なんじゃ……」 足元はもとより、肩までもぐっしょりと濡れてしまっていて、 これだったらいっその事無い方が……とも思ったけど、それには抵抗があるというか。 「まあ、いいじゃん。せっかくの相合い傘だし」 「まだ言うか!」 顔を背けながら突っ込む。 そのせいでこなたの顔は見えないが、にやにやしているのだろう声で、 「だってチャンスだしね」 と、意味不明な事を口にした。 「チャンス?」 その一言がなぜか気になって、背けていた顔をこなたに向け、尋ねる。 一瞬見えた顔は本当に嬉しそうで、しかし、私が見ていると分かった途端、 「うあ! ちょ、待って! 今の無し!」 顔を赤くしながらわあわあ騒ぎだした。 「…………何よ?」 「だから、今の無しだって!」 いや、そう言われても、気になるものはどうしても気になるというか。 「そんな反応されたら気になるに決まってるじゃない」 「それでも駄目! 記憶から消し去って!」 うああ、と唸りながら右手で自分の頭を抱えている。 「そこまで言うならいいけど……力、緩めてくれない?」 さっきからギリギリと締め付けられているせいで、右腕が痛い。 「わ! 知らないうちに力込めてた! ごめん!」 「別に、気にはしてないけど――少し落ち着きなさい」 さっきからの騒ぎ様はちょっと異常だとしか思えない。 「はい、深呼吸」 数回呼吸するものの、こなたの顔の赤みは増していくばかりで。 「駄目だ……余計落ち着けない」 「何でよ」 こなたは眉を寄せて思案顔をすると、赤い顔のまま呟いた。 「……秘密」 「あ、そう」 いつもとはあまりにも違う様子。 それをあまり追求するのは悪いかな、と思い、そのまま歩く事にした。 「――いつか、言うから」 「……そう」 ぽつり。 降りしきる雨の中でも、こなたの言葉は綺麗に響いて、私の耳に届いた。 うん。追求はしないけれど、絶対に忘れてはやらない。 心なしか弱くなった雨の中を歩きながら、たまには濡れるのも悪くはないかな、と思った。 -[[異常、デート?>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/571.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - こうゆうの大好きです -- 名無しさん (2008-04-28 02:43:17)
ぽつり。 授業中に落ちてきたそれは、とても憂鬱な気分にさせてくれて。 「雨、か」 雨は正直好きにはなれない。 どうしたって嬉しくはならないし、濡れるのは欝陶しい。 傘はなぜああいう構造になっているんだろうか。 足元がどうしても濡れてしまうような欠陥品。 ……まあ、だからってないよりはずっとマシなんだけれど。 とりあえず私は、濡れるのが大がつくほど嫌いなのだ。 そういえば、私は傘を持ってきてるからまだ濡れずに済むけど、こなたはどうなんだろう。 忘れているかもしれないし、忘れていないかもしれない。 授業はもう六限目で、これさえ終われば放課後だ。 裏を返せば、この授業が終わったら帰らなくてはいけない、という意味で。 部活になんて入っていないから、雨が止むまで時間を潰すなんてことも出来ない。 本当に忘れていたらどうするのだろうか。 というか、こなたが傘を忘れている事を前提に話を進めているが、実際はどうなんだろう……。 あれ? 何だか思考がループしている気がする。 ううん、このままだとどんどん深みに嵌まりそうだ。 いっその事、聞いてしまえば楽になるのだが、授業中なのでそれも出来ない。 ――早く、放課後にならないかな。  ◆ 授業、ホームルームが終わって放課後。 「かがみ様ー」 鞄に荷物を入れていざ行かん、とした所でこなたが来た。 「びっくりした」 聞こえないように口の中だけで呟く。 「お願いがあって来たんだけどさー」 「ん? 何?」 変な予感がする。こいつ、まさか―― 「実は傘忘れちゃってさ」 「やっぱり忘れてるのかよ……」 そう呟くと会話を中断し、きょとん、とこちらを見上げてくるこなた。 「やっぱり?」 「あんたの事だから忘れてるかな、と思ってね」 と、言ってやるとさっきの顔とは一変、ふうん、とにやける。 「つまり、かがみは私の事が気になって仕方がなかったと」 「何でそうなるのよ!」 そしてこなたは、にやけたまま、そんなふざけた事を言い放った。 いや、気にしてたといえば気にしてたけれど、言われるとなると話は別だ。 「だって私、ホームルーム終わってから速攻で来たもんね」 考える暇なんてあった筈がないのだよ、と胸を張りながら続ける。 「だから、かがみが考えてたのは授業中かホームルーム中だけになるって事」 「それは、そうだけど……」 む、と睨みながら――と言っても恐らく赤くなっているので迫力は無いかもしれない――反論する。 と、こなたはにやついた笑いを止めて、 「まあ、冗談はここまでにして――傘、入れてくれない?」 なんて、提案をした。 「入れる?」 普通に貸して、と言えばいいのに? と聞き返す。 「そ。だってかがみ、今日折りたたみ傘持ってきて無いんでしょ?」 「そうだけど……何であんたが知ってんのよ」 「つかさに聞いたー」 「あ、そっか。つかさと私は今日持ってきてないんだっけ」 今日は鞄が重かったし、持って行かなくてもいいか、なんて言ってたんだ。 「みゆきは? みゆきは持ってきてそうだけど」 「それがさ、なんか、借りるのが心苦しくて……」 申し訳なさそうな顔をしながら頬を掻く。それを見て私は、 「私に入れてもらうのも心苦しいと思えよ」 つい、突っ込んでしまった。 言っている事は何となく分かるのだが――条件反射って恐ろしい。 「だってかがみは私の嫁じゃん? 頼み事なんて当たり前でしょー?」 わざとらしく語尾を延ばし、その一言を強調する。 しかし、その、わざとらしく強調されたその一言は、問題発言以外の何物でもなくて。 「誰があんたの嫁か!」 「かがみが私の嫁だ!」 「な、あ……!」 そこまではっきりと返されると、なんというか、言葉に詰まる。 こなたは真っ赤になっている私を見つめ、ほんの少しだけ考える素振りをして、体を翻した。 「じゃ、異議もなくなった所で、帰りましょうか」 「え、ああ、うん。帰ろっか」 もちろん、異議が無い訳じゃなくて――むしろ全身全霊をかけて唱えたい――けれど、 このまま話を続けても、私にとって不利な状況にしかならないと思うし、追求はしない。 ……よく考えたら教室の真ん中でなんて会話をしてたんだろう。 ああ、顔の温度がまた上がった気がする。 こなたが後ろを向いてくれていてよかった。  ◆ 昇降口に着くと、雨が地面を叩く音が一層強く聞こえた。 「うわー、すごい雨だねー」 「そうね。この中を帰ると思うと……」 考えるだけでも嫌だ、とため息を吐いて肩を落とす。 「だよね、相合い傘だと厳しいかもしんないよね」 「――――――――はい?」 硬直。思考が復帰しないまま言葉を紡ぐ。 「な、あ、相合い傘……っ!?」 「え? だって一緒の傘に入るんでしょ?」 それ以外の何になるの? とでも言いたそうな目で見つめられた。 「そ、それは、そう、だけど。その、えっと」 あわあわしながら反論しようとするが、何も言葉が浮かんでこない。 「あー……、落ち着いてかがみ。はい、深呼吸深呼吸」 吸って、吐いて。吸って、吐いてを繰り返す。 ――うん。少しだけど、落ち着いた。 「……何で、わざわざそんな言い方するのよ」 「他の言い方が思い付かないから、とか?」 「む、確かにそうだけど……」 そう言われると、他の言い方が見つからない。 いや、でも、恥ずかしいし、もっと別の言い方は無いものか……。 「んじゃ、相合い傘しよっか」 「今すぐみゆきに傘借りろ!」 びしい、と音がしそうな程に指を突き付けて言う――というより、それは、叫ぶに近かった。 「んー? みゆきさん達もう帰っちゃったよ?」 「なあっ!?」 予想外だ。というより今の今まで気付かなかった私に突っ込みたい。 「どっか寄る所があるんだって」 「つかさとみゆきが?」 こんな雨の日にあの二人で寄るところとは、どこだろうか。 「うん。多分、無駄話してるうちに帰っちゃったと思うよ」 「ふーん?」 疑問に首を傾げていると、こなたは私の右腕に巻き付くような形で抱き着いてきた。 温もりとか柔らかさが右腕いっぱいに広がってってこんな事を考えてる場合じゃ―― 「私達も帰ろう。雨足も強くなってきたしね」 「分かってるけど、離しなさいよ!」 軽く振るようにして、無理矢理離させようと試みる。 が、こなたは腕に合わせて揺れるだけで全く離そうとはしなかった。 「何するのさー」 「それはこっちのセリフよ」 いきなり抱き着いてきたのはこなたなのだから、こなたに否があるはずなのではないか。 「ほらほら、とりあえずもう傘ささないと濡れちゃうよ?」 「え、あ、ホントだ!」 意味のない問答をしてるうちに、昇降口を出かけていた。 急いで傘をさそうと試みるけれど、 「って、離れてくれなきゃ、させないじゃない」 ワンタッチで開くタイプだったらよかったのだろうけれど、これは違うのでそうもいかない。 むう、と不服そうな顔をして離れるこなた。 「傘さしたらすぐにさっきの体制だからね?」 離れたのはいいものの、そんな提案をするこなた。 「……異議は?」 「却下します!」 これはもう何を言っても駄目だな、と諦めて、 躊躇いつつも傘を広げ、抱き着きやすいように右腕を広げる。 「ほら、おいで」 その一言がどこか気になったのか一瞬目を見開いき、辺りを見回した。 「ねぇ、かがみ……無自覚?」 「え?」 何が? と視線で聞くけれどこなたは、はあ、とため息をついて俯くだけで。 「何よ。ため息吐くと幸せが逃げるわよ?」 その様子が何となく気に入らなかったので、皮肉っぽく言ってやった。 「現在進行系で逃げてる感じがするよ……」 はあ、とため息もう一つ。 さっきまでの妙なはしゃぎ様が一瞬で洗い流されてしまったような、そんな感じ。 「あーもう、何が何だか分かんないけど行くわよ」 さっきとは逆に、こなたの左腕を取るようにして昇降口を出る。 「――――――」 ぼそり、とこなたが何かを呟いたように聞こえたけれど、私の耳にその言葉は届かなかった。  ◆ 雨の中を歩く。いくらこなたが小さいからといっても、傘に収まりきる事は無くて。 「やっぱり、濡れちゃうね」 「そうね――もしかしたら、これってささなくても一緒なんじゃ……」 足元はもとより、肩までもぐっしょりと濡れてしまっていて、 これだったらいっその事無い方が……とも思ったけど、それには抵抗があるというか。 「まあ、いいじゃん。せっかくの相合い傘だし」 「まだ言うか!」 顔を背けながら突っ込む。 そのせいでこなたの顔は見えないが、にやにやしているのだろう声で、 「だってチャンスだしね」 と、意味不明な事を口にした。 「チャンス?」 その一言がなぜか気になって、背けていた顔をこなたに向け、尋ねる。 一瞬見えた顔は本当に嬉しそうで、しかし、私が見ていると分かった途端、 「うあ! ちょ、待って! 今の無し!」 顔を赤くしながらわあわあ騒ぎだした。 「…………何よ?」 「だから、今の無しだって!」 いや、そう言われても、気になるものはどうしても気になるというか。 「そんな反応されたら気になるに決まってるじゃない」 「それでも駄目! 記憶から消し去って!」 うああ、と唸りながら右手で自分の頭を抱えている。 「そこまで言うならいいけど……力、緩めてくれない?」 さっきからギリギリと締め付けられているせいで、右腕が痛い。 「わ! 知らないうちに力込めてた! ごめん!」 「別に、気にはしてないけど――少し落ち着きなさい」 さっきからの騒ぎ様はちょっと異常だとしか思えない。 「はい、深呼吸」 数回呼吸するものの、こなたの顔の赤みは増していくばかりで。 「駄目だ……余計落ち着けない」 「何でよ」 こなたは眉を寄せて思案顔をすると、赤い顔のまま呟いた。 「……秘密」 「あ、そう」 いつもとはあまりにも違う様子。 それをあまり追求するのは悪いかな、と思い、そのまま歩く事にした。 「――いつか、言うから」 「……そう」 ぽつり。 降りしきる雨の中でも、こなたの言葉は綺麗に響いて、私の耳に届いた。 うん。追求はしないけれど、絶対に忘れてはやらない。 心なしか弱くなった雨の中を歩きながら、たまには濡れるのも悪くはないかな、と思った。 -[[異常、デート?>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/571.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-24 23:26:42) - こうゆうの大好きです -- 名無しさん (2008-04-28 02:43:17)

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