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哀詞」(2023/01/02 (月) 22:17:50) の最新版変更点

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季節は目まぐるしく回る。そんな季節に取り残されていると感じる。 私の季節は4ヶ月前、こなたを残酷に傷つけたあの日で止まっている。 私の季節は、春雨が降る、薄暗い初春。 あの日から、私の頭にはいつもこなたの影がちらつく。 さよなら。 笑いながら哀しんでいるこなたが、私の中に住み着いている。3年間、一度も見たことが無い表情で。 「お姉ちゃんどうしたの?せっかく家に帰ってきたのに暗いね。」 「えっ、あっそうかな・・?」 「夏休みにぐだーってしてるお姉ちゃん見るのは初めてかも。」 「ちょっと夏バテかもなー。」 「じゃー後で私がご飯作るね。専門学校で教わった料理とかご馳走するよ。」 「ありがとう、つかさ。楽しみにしてるわ。」 いつもこうやって私は偽っている。つかさや大学の友達、そして自分にも、偽っている。 深く考えられない。あの日のことを受けとめようとすればする程、私の頭は痺れていく。考える事を止めてしまう。 自分の気持ち。最低な自分。逃げた自分。 そして、こなたの想い。 前に進めない、進もうとしない私は、あの冷たい春雨にいつも縛られている。 逃げても、逃げてもあの冷たさが蘇り、私は逃げられない。 負の連鎖だった。 「そーいえばお姉ちゃん、今週の日曜日に何か予定ある?」 「・・・んー特に無いけど?」 「今週の日曜日ね、こなちゃんとゆきちゃんも暇なんだってー。久しぶりに4人で遊びに行かない?」 つかさの言葉が、私の胸を衝く。 さよなら。 またこなたの、春雨で濡れた哀しい笑顔が私の頭をよぎる。 もしかしたら、もしかしたら。4人で集まれば、あの日も無かったかのように、こなたといつも通りでいられる。 本当はそんな事は有り得ない。あってはいけない事だと分かっていた。 だけど、もう一度こなたに逢えば、何か変わるかもしれない、逢わなきゃ私は進めない。 また、こなたを傷つけてしまうのが、自分が傷つくのが怖くても。 そう、思ったんだ。 「おはようございます、かがみさん、つかささん。お久しぶりですね。」 「ゆきちゃん、久しぶり!今日はたくさん遊ぼうね。」 「おはよ、みゆき。直接会ったのは1ヶ月ぶりくらいかな?」 「そうですね。お二人とも、元気そうで何よりです。」 みゆきとはメールのやりとりとか、たまに逢ったりとかはしていた。 でも、こなたと逢うのは4ヶ月ぶり。メールも電話もしていない。 罪悪感?それとも気まずさ?ううん、ただの現実逃避だったと思う。 どんな顔して、こなたに逢えばいいのだろう?どんな風にこなたと接すればいいのだろう? 「わっ!!」 「うわぁぁぁっ!」 「久しぶり、かがみ。つかさ、みゆきさん、元気にしてた?」 後ろからかの攻撃とは、油断していた。とても、驚いたが、もっと驚いたのが、こなたの態度。 あまりにも普通で、あまりにも思い出の中のこなた通りで。 「泉さんもお元気そうで何よりです。」 「こなちゃん、遅刻だよー。」 「ごめんごめん!ちょっと時間潰しにマンガ読んでたら遅くなっちゃって。」 あぁ、こなただ。 いつも頭をよぎっていた、切ないこなたではなく、私の思い出にいた、こなた。 そしてもう一つ、驚いたことがある。 「あれ?かがみ元気なさげー?もしや食い過ぎで太・・・」 「ち、違うわよっ!相変わらず失礼ね!・・・ちょっとアンタの服の変化にびっくりしただけよ。」 これは偽りではなかった。こなたの服がなんとなく、大人の雰囲気を出していた。 「確かに、泉さん、なんとなく大人っぽく見えますよ?」 「こなちゃん似合ってるよ。」 「へーよくかがみ気が付いたね。まぁ、立ち話もなんだし、どっか座れるトコに行かない?」 私達はこなたの提案に賛成し、歩き始める。まるで、高校時代のように。 来て良かった、こなたと逢えて良かった。 春雨が弱まった気がした。 「・・・でねー、実習の時の講師がすごく怖くてさー。」 「つかさも可哀相だねー。ま、私は教授にかまってもらってるけど。」 「かまってもらってるって言うより問題児として、目を付けられてるだけだろ。」 「うっ・・・痛いところを・・・」 「どーせ、講義中に漫画でも読んでたんでしょ?」 「違うよー。ちょっとPSPを・・・」 「どっちにしてもダメだろ!?もうノート貸したりとか、教えてあげたりできないんだから、もっとしっかりしなさい。」 「相変わらず素直じゃないけど、さりげなく心配してくれるかがみ萌え。」 「・・・言うと思った。」 みゆきが微笑む。つかさがくすくす笑う。そして、こなたが照れるように笑う。 不思議と頭が冴えている。いつものように痺れる感覚も、冷たさに襲われる感覚も、ない。 私の隣にはこなた。 温かい。直接は触れていなけれど、こなたの温度を確かに、私は感じている。 心地いい。改めて思う。こいつがいたから、こいつが傍にいたから、幸せだったんだ。 こなたの雰囲気が、外見が変わってもそれは揺らがない。 「でも、私達の中で一番こなたが変わったよねー。あんなに子供っぽかったのに。」 「えっ・・・まぁ、ね。」 ちょっと照れてる。頬が紅に染まっている。こんな仕草も今は色っぽく見える。 だけど、それは、褒められて照れてるのではないんだと、直感で分かってしまった。 こなたは少しどもりながら、言葉を発した。 「・・・彼氏が、できたんだ。」 「・・・いつから?」 「んー1ヶ月ぐらい前かな。」 「あんたから?」 「ううん、あっちから。」 私達の真上には白い月。満月ではない、ちょっと欠けた上弦の月。 あれからしばらく遊び回った後、つかさ、みゆきは明日用事があるといって帰っていった。 私とこなたは帰路に着くため、バス乗り場まで街灯の下を歩いていた。 触れ合う程近くなく、でもこなたの温度を感じる程度の距離。 「どんな人なの?」 「なんか照れるなー・・・まー簡単に言えば優しい人だよ。誠実で、物事をはっきり言う素直な人。」 こなたが話しているのは聞こえる。けれど、内容はよく分からない。 ただ、こなたの声が耳を通り抜けるだけ。そんな感覚。 「・・・こなたは、幸せ?」 「まだよく分かんないよ。まだ1ヶ月たってないし。でも楽しいよ。」 こなたはへへ、と照れながら笑う。その瞬間、私は、最低な事を思った。 「そっか。」 「うん。」 私といるのと、どっちが楽しい? そんな、事を聞こうとしていた。バカだ。私はバカだ。4ヶ月前、こなたを酷いくらい傷つけ、泣かせた私。 それでも、こなたを、いつも傍にいてくれたこなたを、これからもずっと傍に感じていたがる私が、いた。 「かがみ。」 「何?」 「ありがとね。」 ありがとう。それはお礼の言葉。こなたが何故この言葉を口にしたのかが、よく分からなかった。 「こなた?」 「んーん。別になんでもないよ。ただ言ってみただけ。」 嘘。 嘘だと、すぐに分かった。でも私は、何も聞けなかった。聞かないほうがいいのだと、思った。 バスを待ってる時間が、永遠にも感じられるぐらい長い。 こなたは何も話さない。ただ、月を仰いでいた。 「こなた。」 「なーに、かがみ?」 今、言わなきゃいけない。言わなかったら、ずっと私の季節は変わらない。 ずっとあの日に縛られたまま。 「・・・ごめんね。」 「・・・いいよ。」 ただ、ごめんね。 ずっと、ずっと、4ヶ月前から、こなたに言いたかった。 仲直りの言葉。 でもそれが、私とこなたの距離を元に戻すことなんて、できない。 そう分かっていても、ごめんね、と伝えたかった。 沈黙を裂くように、私が乗るバスが近づいてきた。 「じゃ、私これに乗るから。」 「・・・だよね?」 バスのせいなのか、こなたがわざとつぶやくように言ったのかは分からない。 よく、こなたの声が聞こえない。 「こなた、聞こえない。」 「・・・私とかがみは、ずっと友達、だよね?」 友達という言葉が、響く。バスのエンジン音よりも強く。それよりも私は、こなたの、笑顔に魅了される。 あの時のような哀しい笑顔でもなく、思い出の中の可愛い笑顔でもなく。 私の知らない、凛とした笑顔だった。 「・・・うん。友達。」 「ありがと、かがみ。バイバイ。」 私がバスの席に座っても、こなたは手を振っている。 ドアが閉まり、ゆっくりとバスが動きだす。どんどん、こなたと私の距離が離れていく。 それでも、こなたは手を振っていた。私に、向かって。 もう、こなたの温度が感じられない。バスの中のちょっとした熱気だけ。 私は月を見つめる。さっきまでのこなたのように。 「こなた・・・」 そう口にした瞬間、私の目には、あの日のような雫が溢れていた。 「こなた・・・こな・・・た・・・・こなたっ・・・」 とめどなく、私の頬を濡らす。でも、あの日のような、冷たい雫ではない。 「こなたぁぁ・・・こなたぁぁ!」 いくら、こなたの名前を呼んでも、ぬくもりはもう、戻らない。ぬくもりだけじゃない。こなたも、私も、戻れない。 あの日、分かっていたんだ、本当は。錯乱しながらも頭には浮かんでいたんだ。 ううん、ずっと前から。 でも臆病な私は、傷つくのを恐れて、幸せを前にして、逃げた。 でも今は、もう逃げない。春雨の中に縛られるのも、もう、止めた。 今ならはっきりと分かる。逃げないで、受けとめられる。 「こなたぁぁぁぁぁっ・・・・・・!」 私はこなたを、愛してる。 進まなきゃ、前に。 -[[想愛>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/57.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
季節は目まぐるしく回る。そんな季節に取り残されていると感じる。 私の季節は4ヶ月前、こなたを残酷に傷つけたあの日で止まっている。 私の季節は、春雨が降る、薄暗い初春。 あの日から、私の頭にはいつもこなたの影がちらつく。 さよなら。 笑いながら哀しんでいるこなたが、私の中に住み着いている。3年間、一度も見たことが無い表情で。 「お姉ちゃんどうしたの?せっかく家に帰ってきたのに暗いね。」 「えっ、あっそうかな・・?」 「夏休みにぐだーってしてるお姉ちゃん見るのは初めてかも。」 「ちょっと夏バテかもなー。」 「じゃー後で私がご飯作るね。専門学校で教わった料理とかご馳走するよ。」 「ありがとう、つかさ。楽しみにしてるわ。」 いつもこうやって私は偽っている。つかさや大学の友達、そして自分にも、偽っている。 深く考えられない。あの日のことを受けとめようとすればする程、私の頭は痺れていく。考える事を止めてしまう。 自分の気持ち。最低な自分。逃げた自分。 そして、こなたの想い。 前に進めない、進もうとしない私は、あの冷たい春雨にいつも縛られている。 逃げても、逃げてもあの冷たさが蘇り、私は逃げられない。 負の連鎖だった。 「そーいえばお姉ちゃん、今週の日曜日に何か予定ある?」 「・・・んー特に無いけど?」 「今週の日曜日ね、こなちゃんとゆきちゃんも暇なんだってー。久しぶりに4人で遊びに行かない?」 つかさの言葉が、私の胸を衝く。 さよなら。 またこなたの、春雨で濡れた哀しい笑顔が私の頭をよぎる。 もしかしたら、もしかしたら。4人で集まれば、あの日も無かったかのように、こなたといつも通りでいられる。 本当はそんな事は有り得ない。あってはいけない事だと分かっていた。 だけど、もう一度こなたに逢えば、何か変わるかもしれない、逢わなきゃ私は進めない。 また、こなたを傷つけてしまうのが、自分が傷つくのが怖くても。 そう、思ったんだ。 「おはようございます、かがみさん、つかささん。お久しぶりですね。」 「ゆきちゃん、久しぶり!今日はたくさん遊ぼうね。」 「おはよ、みゆき。直接会ったのは1ヶ月ぶりくらいかな?」 「そうですね。お二人とも、元気そうで何よりです。」 みゆきとはメールのやりとりとか、たまに逢ったりとかはしていた。 でも、こなたと逢うのは4ヶ月ぶり。メールも電話もしていない。 罪悪感?それとも気まずさ?ううん、ただの現実逃避だったと思う。 どんな顔して、こなたに逢えばいいのだろう?どんな風にこなたと接すればいいのだろう? 「わっ!!」 「うわぁぁぁっ!」 「久しぶり、かがみ。つかさ、みゆきさん、元気にしてた?」 後ろからかの攻撃とは、油断していた。とても、驚いたが、もっと驚いたのが、こなたの態度。 あまりにも普通で、あまりにも思い出の中のこなた通りで。 「泉さんもお元気そうで何よりです。」 「こなちゃん、遅刻だよー。」 「ごめんごめん!ちょっと時間潰しにマンガ読んでたら遅くなっちゃって。」 あぁ、こなただ。 いつも頭をよぎっていた、切ないこなたではなく、私の思い出にいた、こなた。 そしてもう一つ、驚いたことがある。 「あれ?かがみ元気なさげー?もしや食い過ぎで太・・・」 「ち、違うわよっ!相変わらず失礼ね!・・・ちょっとアンタの服の変化にびっくりしただけよ。」 これは偽りではなかった。こなたの服がなんとなく、大人の雰囲気を出していた。 「確かに、泉さん、なんとなく大人っぽく見えますよ?」 「こなちゃん似合ってるよ。」 「へーよくかがみ気が付いたね。まぁ、立ち話もなんだし、どっか座れるトコに行かない?」 私達はこなたの提案に賛成し、歩き始める。まるで、高校時代のように。 来て良かった、こなたと逢えて良かった。 春雨が弱まった気がした。 「・・・でねー、実習の時の講師がすごく怖くてさー。」 「つかさも可哀相だねー。ま、私は教授にかまってもらってるけど。」 「かまってもらってるって言うより問題児として、目を付けられてるだけだろ。」 「うっ・・・痛いところを・・・」 「どーせ、講義中に漫画でも読んでたんでしょ?」 「違うよー。ちょっとPSPを・・・」 「どっちにしてもダメだろ!?もうノート貸したりとか、教えてあげたりできないんだから、もっとしっかりしなさい。」 「相変わらず素直じゃないけど、さりげなく心配してくれるかがみ萌え。」 「・・・言うと思った。」 みゆきが微笑む。つかさがくすくす笑う。そして、こなたが照れるように笑う。 不思議と頭が冴えている。いつものように痺れる感覚も、冷たさに襲われる感覚も、ない。 私の隣にはこなた。 温かい。直接は触れていなけれど、こなたの温度を確かに、私は感じている。 心地いい。改めて思う。こいつがいたから、こいつが傍にいたから、幸せだったんだ。 こなたの雰囲気が、外見が変わってもそれは揺らがない。 「でも、私達の中で一番こなたが変わったよねー。あんなに子供っぽかったのに。」 「えっ・・・まぁ、ね。」 ちょっと照れてる。頬が紅に染まっている。こんな仕草も今は色っぽく見える。 だけど、それは、褒められて照れてるのではないんだと、直感で分かってしまった。 こなたは少しどもりながら、言葉を発した。 「・・・彼氏が、できたんだ。」 「・・・いつから?」 「んー1ヶ月ぐらい前かな。」 「あんたから?」 「ううん、あっちから。」 私達の真上には白い月。満月ではない、ちょっと欠けた上弦の月。 あれからしばらく遊び回った後、つかさ、みゆきは明日用事があるといって帰っていった。 私とこなたは帰路に着くため、バス乗り場まで街灯の下を歩いていた。 触れ合う程近くなく、でもこなたの温度を感じる程度の距離。 「どんな人なの?」 「なんか照れるなー・・・まー簡単に言えば優しい人だよ。誠実で、物事をはっきり言う素直な人。」 こなたが話しているのは聞こえる。けれど、内容はよく分からない。 ただ、こなたの声が耳を通り抜けるだけ。そんな感覚。 「・・・こなたは、幸せ?」 「まだよく分かんないよ。まだ1ヶ月たってないし。でも楽しいよ。」 こなたはへへ、と照れながら笑う。その瞬間、私は、最低な事を思った。 「そっか。」 「うん。」 私といるのと、どっちが楽しい? そんな、事を聞こうとしていた。バカだ。私はバカだ。4ヶ月前、こなたを酷いくらい傷つけ、泣かせた私。 それでも、こなたを、いつも傍にいてくれたこなたを、これからもずっと傍に感じていたがる私が、いた。 「かがみ。」 「何?」 「ありがとね。」 ありがとう。それはお礼の言葉。こなたが何故この言葉を口にしたのかが、よく分からなかった。 「こなた?」 「んーん。別になんでもないよ。ただ言ってみただけ。」 嘘。 嘘だと、すぐに分かった。でも私は、何も聞けなかった。聞かないほうがいいのだと、思った。 バスを待ってる時間が、永遠にも感じられるぐらい長い。 こなたは何も話さない。ただ、月を仰いでいた。 「こなた。」 「なーに、かがみ?」 今、言わなきゃいけない。言わなかったら、ずっと私の季節は変わらない。 ずっとあの日に縛られたまま。 「・・・ごめんね。」 「・・・いいよ。」 ただ、ごめんね。 ずっと、ずっと、4ヶ月前から、こなたに言いたかった。 仲直りの言葉。 でもそれが、私とこなたの距離を元に戻すことなんて、できない。 そう分かっていても、ごめんね、と伝えたかった。 沈黙を裂くように、私が乗るバスが近づいてきた。 「じゃ、私これに乗るから。」 「・・・だよね?」 バスのせいなのか、こなたがわざとつぶやくように言ったのかは分からない。 よく、こなたの声が聞こえない。 「こなた、聞こえない。」 「・・・私とかがみは、ずっと友達、だよね?」 友達という言葉が、響く。バスのエンジン音よりも強く。それよりも私は、こなたの、笑顔に魅了される。 あの時のような哀しい笑顔でもなく、思い出の中の可愛い笑顔でもなく。 私の知らない、凛とした笑顔だった。 「・・・うん。友達。」 「ありがと、かがみ。バイバイ。」 私がバスの席に座っても、こなたは手を振っている。 ドアが閉まり、ゆっくりとバスが動きだす。どんどん、こなたと私の距離が離れていく。 それでも、こなたは手を振っていた。私に、向かって。 もう、こなたの温度が感じられない。バスの中のちょっとした熱気だけ。 私は月を見つめる。さっきまでのこなたのように。 「こなた・・・」 そう口にした瞬間、私の目には、あの日のような雫が溢れていた。 「こなた・・・こな・・・た・・・・こなたっ・・・」 とめどなく、私の頬を濡らす。でも、あの日のような、冷たい雫ではない。 「こなたぁぁ・・・こなたぁぁ!」 いくら、こなたの名前を呼んでも、ぬくもりはもう、戻らない。ぬくもりだけじゃない。こなたも、私も、戻れない。 あの日、分かっていたんだ、本当は。錯乱しながらも頭には浮かんでいたんだ。 ううん、ずっと前から。 でも臆病な私は、傷つくのを恐れて、幸せを前にして、逃げた。 でも今は、もう逃げない。春雨の中に縛られるのも、もう、止めた。 今ならはっきりと分かる。逃げないで、受けとめられる。 「こなたぁぁぁぁぁっ・・・・・・!」 私はこなたを、愛してる。 進まなきゃ、前に。 -[[想愛>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/57.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!(´;Д;`)b -- 名無しさん (2023-01-02 22:17:50)

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