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――人魚姫は、王子様に会うために魔女に足を貰った。 ――シンデレラは、王子様に会うために魔女に南瓜の馬車とドレスを貰った。 ――じゃあ私は、魔女に何を求めたらいいのだろう? ――彼女に、会うために。 高校を卒業してから、どれだけの月日が流れただろうか。 もう忘れてしまった。 私は、世間に出て、その辛さを知った。 私は、世間に出て、その大変さを知った。 これが、大人になる、ということなのだろうか。 忙しくて、忙しくて、やがて今まで読んでいた本さえ、読まなくなった。 やっていたゲームも、やらなくなった。 段々と子どもだった頃のことを忘れていった。 でも、忘れないものもあった。 それは――彼女。 高校の時に出会った。私の大切な人。 ――いつか、迎えに行くから。 卒業式の日、2人で唱和した約束を忘れてはいない。 忘れることなんて、出来はしない。 大人になって、悲しいこと辛いこと、たくさんあった。 でも、泣いたことは一度も無い。 だって、私の心の中には、卒業式、彼女と共に見上げた桜があり、重ねた唇のぬくもりも残っている。 私は、大丈夫。 でも、彼女は? 彼女は、今、どうしているのだろう? 忙しさの中で、ふと、思うことがあった。 ――会いたい。 そう思った。 ――いつか、迎えに行くから。 いつか? いつかって、いつ? 私は、いつ彼女を迎えに行けばいいの? 彼女は、いつ私を迎えに来てくれるの? いつかは、やがていつかはと、そんな甘い言葉に縋って、過ごしてきた。 ――シンデレラには王子様が迎えに来た。 私は? 迎えに来るのを待つお姫様?それとも、迎えに行く王子様? 現実は童話のように甘くはない。 待つことも、行くことも、出来はしない。 出来もしない約束を、交わしたのだ。 子どもの2人は。 今、彼女はどこで、何をしているのだろう? それでも、私は、待ち続けた。信じ続けた。 いつかを。 大人になっても、ずっと。 今、私の目の前には、卒業式に2人で見上げた桜がある。 彼女に会いたい。そんな時、大人の衣を脱ぎ捨てて、子どもに還りたくなる。 ここには、それがあった。 彼女と過ごした3年間が、夢のような時間が、しっかりと刻み込まれていた。 彼女は、好きだったものを今でも、持ち続けているだろうか? また、その話題で私を一喜一憂させてくれるのだろうか。 子どもの彼女は、笑いかけてくれる。 私にしか見えない、幻。 此方の時間は、鏡に映る、幻。 私は、子どもの彼女に向かって語りかける。 子どもの彼女も私に向かって語りかけてくれる。 この時間だけ、私は、子どもだった。 あの頃の2人だった。 覚めない夢は現実。 私は、幻に還りたかった。 幻の中で、彼女と2人きりで、あの頃のように過ごしたかった。 かさ、と樹が揺れた。 その音は、現実。 幻への回帰を許さない、無情の音。 この地でも、やはり私は、大人だった。 ――もう、帰ろう。 そう思って踵を返した。 現実に戻り、大人に戻り、また、過去に焦がれながら日々を送る。 そんな未来に、溜息をついた。 その時だった。 私は、刹那を見た。 ――彼女が、いた。そこに。 驚愕を、その面に貼り付けて。 幻ではない、大人の彼女が。 私は、魔女に一体どんな対価を支払ったのだろう。或いは、支払ったのは彼女だったのか。 「あ……」 どちらの声だったのだろう。 そんなことは関係なかった。 私達は互いに走って、抱きしめ合って、お互いの輪郭を、確かめ合った。 そこには時間があった。 幻は止まった時。現実は動いた刻。 私の知らない彼女の時間が、確かに刻まれていた。 ――人魚姫は王子様に会うために声を失った。 払った対価があるとしたら、きっとそれだ。 その気持ちが今ならわかる。 私達は、声を失い、ただ、在った。 でもそれだけで、満足だった。 私達は、どちらもお姫様で、王子様だった。 いつかは、今になり、今は、いつかになった。 ――人魚姫は王子様の幸せのために泡になった。 私達は? 違う。私達の物語を悲恋で終わらせるつもりなんか、ない。 お互いの幸せのためには、どちらが欠けても意味がない。 蒼と菫の望むものは人魚姫とは違う。 ――王子様はガラスの靴からシンデレラを捜し当てた。 私達にとってのガラスの靴。それはあの時の約束。 ここにある、桜の樹。 子どもだった2人が交わした約束は大人になって果たされた。 桜の樹に映る2人は、過去の私達。 桜の樹の前に立つ2人は、今の私達。 童話は、子どもの為だけのものではない。 大人になっても、忘れてはいけないものがある。 大切なものは、目に見えない。 私と彼女が出会ったことで刹那は永遠になった。 ――もう、離さない。 彼女が、言った。 ――私も。 私は、答えた。 ――今から、どうする? 私が、言った。 ――聞かなくても分かるんじゃない? 彼女は、答えた。 笑いあった、子どもの頃のように。 これからの物語は私達で紡ぐ、1人では紡がない。 あの頃のように。 あなたなら、この後、どんな物語を考える? 大人になった私達?それとも、子どもだった頃の私達? でも変わらないものがある。それは、主人公は私達。 王子様で、お姫様で、親友で、恋人で、私達の関係は何と言うのだろう? 何でもいい。此方にある鏡にあなたの物語を映してみて。 そこに映るモノこそ、目には見えない、大切なもの。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - この切なさが何とも言えないよ。 &br()凄いなコレ -- 名無しさん (2012-11-17 10:36:15) - スゴい… -- 名無しさん (2010-03-26 16:00:01) - 深いなぁ。 -- 白夜 (2009-10-12 23:30:17) - まるで時間が止まったようだ、美しいww -- 名無しさん (2009-06-09 02:03:06) - 綺麗な文章で、楽しかったです。乙 -- 名無しさん (2009-05-31 11:11:22) - えっと、作者です。 &br()保管庫の方で始めて読まれた方のために、ちょっとこれに関する説明を。 &br()文中、こなたとかがみの名前は出ずに総て私、彼女で通してありますが、これには意味があります。 &br()私、彼女、どちらがこなたでどちらがかがみか、読み手の方にお任せするためです。 &br()どっちがどうか、皆様で是非、考えてみてください。 &br()こなかが的に分かりにくいかもしれませんが、此方、鏡、蒼と菫でこなかがアピールです……フォロー入れないとダメですね &br() &br()ちなみにこれは、タイトル「無題」です。無題という名の題です。 &br()何度も重ねて申し訳ないですが、解釈は読み手に一任してます。 &br()なので、見た方がそれぞれに勝手に題をつけてしまって構いません。 &br() -- 6-774 (2008-03-05 00:32:38)
――人魚姫は、王子様に会うために魔女に足を貰った。 ――シンデレラは、王子様に会うために魔女に南瓜の馬車とドレスを貰った。 ――じゃあ私は、魔女に何を求めたらいいのだろう? ――彼女に、会うために。 高校を卒業してから、どれだけの月日が流れただろうか。 もう忘れてしまった。 私は、世間に出て、その辛さを知った。 私は、世間に出て、その大変さを知った。 これが、大人になる、ということなのだろうか。 忙しくて、忙しくて、やがて今まで読んでいた本さえ、読まなくなった。 やっていたゲームも、やらなくなった。 段々と子どもだった頃のことを忘れていった。 でも、忘れないものもあった。 それは――彼女。 高校の時に出会った。私の大切な人。 ――いつか、迎えに行くから。 卒業式の日、2人で唱和した約束を忘れてはいない。 忘れることなんて、出来はしない。 大人になって、悲しいこと辛いこと、たくさんあった。 でも、泣いたことは一度も無い。 だって、私の心の中には、卒業式、彼女と共に見上げた桜があり、重ねた唇のぬくもりも残っている。 私は、大丈夫。 でも、彼女は? 彼女は、今、どうしているのだろう? 忙しさの中で、ふと、思うことがあった。 ――会いたい。 そう思った。 ――いつか、迎えに行くから。 いつか? いつかって、いつ? 私は、いつ彼女を迎えに行けばいいの? 彼女は、いつ私を迎えに来てくれるの? いつかは、やがていつかはと、そんな甘い言葉に縋って、過ごしてきた。 ――シンデレラには王子様が迎えに来た。 私は? 迎えに来るのを待つお姫様?それとも、迎えに行く王子様? 現実は童話のように甘くはない。 待つことも、行くことも、出来はしない。 出来もしない約束を、交わしたのだ。 子どもの2人は。 今、彼女はどこで、何をしているのだろう? それでも、私は、待ち続けた。信じ続けた。 いつかを。 大人になっても、ずっと。 今、私の目の前には、卒業式に2人で見上げた桜がある。 彼女に会いたい。そんな時、大人の衣を脱ぎ捨てて、子どもに還りたくなる。 ここには、それがあった。 彼女と過ごした3年間が、夢のような時間が、しっかりと刻み込まれていた。 彼女は、好きだったものを今でも、持ち続けているだろうか? また、その話題で私を一喜一憂させてくれるのだろうか。 子どもの彼女は、笑いかけてくれる。 私にしか見えない、幻。 此方の時間は、鏡に映る、幻。 私は、子どもの彼女に向かって語りかける。 子どもの彼女も私に向かって語りかけてくれる。 この時間だけ、私は、子どもだった。 あの頃の2人だった。 覚めない夢は現実。 私は、幻に還りたかった。 幻の中で、彼女と2人きりで、あの頃のように過ごしたかった。 かさ、と樹が揺れた。 その音は、現実。 幻への回帰を許さない、無情の音。 この地でも、やはり私は、大人だった。 ――もう、帰ろう。 そう思って踵を返した。 現実に戻り、大人に戻り、また、過去に焦がれながら日々を送る。 そんな未来に、溜息をついた。 その時だった。 私は、刹那を見た。 ――彼女が、いた。そこに。 驚愕を、その面に貼り付けて。 幻ではない、大人の彼女が。 私は、魔女に一体どんな対価を支払ったのだろう。或いは、支払ったのは彼女だったのか。 「あ……」 どちらの声だったのだろう。 そんなことは関係なかった。 私達は互いに走って、抱きしめ合って、お互いの輪郭を、確かめ合った。 そこには時間があった。 幻は止まった時。現実は動いた刻。 私の知らない彼女の時間が、確かに刻まれていた。 ――人魚姫は王子様に会うために声を失った。 払った対価があるとしたら、きっとそれだ。 その気持ちが今ならわかる。 私達は、声を失い、ただ、在った。 でもそれだけで、満足だった。 私達は、どちらもお姫様で、王子様だった。 いつかは、今になり、今は、いつかになった。 ――人魚姫は王子様の幸せのために泡になった。 私達は? 違う。私達の物語を悲恋で終わらせるつもりなんか、ない。 お互いの幸せのためには、どちらが欠けても意味がない。 蒼と菫の望むものは人魚姫とは違う。 ――王子様はガラスの靴からシンデレラを捜し当てた。 私達にとってのガラスの靴。それはあの時の約束。 ここにある、桜の樹。 子どもだった2人が交わした約束は大人になって果たされた。 桜の樹に映る2人は、過去の私達。 桜の樹の前に立つ2人は、今の私達。 童話は、子どもの為だけのものではない。 大人になっても、忘れてはいけないものがある。 大切なものは、目に見えない。 私と彼女が出会ったことで刹那は永遠になった。 ――もう、離さない。 彼女が、言った。 ――私も。 私は、答えた。 ――今から、どうする? 私が、言った。 ――聞かなくても分かるんじゃない? 彼女は、答えた。 笑いあった、子どもの頃のように。 これからの物語は私達で紡ぐ、1人では紡がない。 あの頃のように。 あなたなら、この後、どんな物語を考える? 大人になった私達?それとも、子どもだった頃の私達? でも変わらないものがある。それは、主人公は私達。 王子様で、お姫様で、親友で、恋人で、私達の関係は何と言うのだろう? 何でもいい。此方にある鏡にあなたの物語を映してみて。 そこに映るモノこそ、目には見えない、大切なもの。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!泣 -- 名無しさん (2023-01-09 01:52:32) - この切なさが何とも言えないよ。 &br()凄いなコレ -- 名無しさん (2012-11-17 10:36:15) - スゴい… -- 名無しさん (2010-03-26 16:00:01) - 深いなぁ。 -- 白夜 (2009-10-12 23:30:17) - まるで時間が止まったようだ、美しいww -- 名無しさん (2009-06-09 02:03:06) - 綺麗な文章で、楽しかったです。乙 -- 名無しさん (2009-05-31 11:11:22) - えっと、作者です。 &br()保管庫の方で始めて読まれた方のために、ちょっとこれに関する説明を。 &br()文中、こなたとかがみの名前は出ずに総て私、彼女で通してありますが、これには意味があります。 &br()私、彼女、どちらがこなたでどちらがかがみか、読み手の方にお任せするためです。 &br()どっちがどうか、皆様で是非、考えてみてください。 &br()こなかが的に分かりにくいかもしれませんが、此方、鏡、蒼と菫でこなかがアピールです……フォロー入れないとダメですね &br() &br()ちなみにこれは、タイトル「無題」です。無題という名の題です。 &br()何度も重ねて申し訳ないですが、解釈は読み手に一任してます。 &br()なので、見た方がそれぞれに勝手に題をつけてしまって構いません。 &br() -- 6-774 (2008-03-05 00:32:38)

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