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○なたぎあ・そりっど ~即売会に潜入してみました~」(2012/08/26 (日) 01:20:42) の最新版変更点

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『こちらカナーク、ライフゼロプラザ坂橋に潜入です』  2月終わりの某日、私は坂橋駅からほど近い建物の傍に佇んでいました。  この日は星の位置が良かったので、久しぶりにこちらに顔を出してみたのです。  そのお目当ては…… 『ええっと、気配からするとこの辺のはずなんですが……あ、目標補足』  イベント会場を目指して、そう君みたいな人たちが作る長い列――その中に混ざったその子の  所に、私はうっかり発見されないよう(もともと人の目には見えないと思うのですが)、  気配を殺して接近を試みました。       ○なたぎあ・そりっど ~即売会に潜入してみました~  ブラウンのコートに薄桃色のマフラー。さらさらの髪を黒いリボンで左右に束ねたターゲット。  ちょっと不器用だけど、誰よりもこなたのことを想ってくれる、恋人のかがみちゃんです。  こういう場所には不慣れなのでしょう、しきりに辺りを見回したり、落ち着かなげに何度も携帯を  確認しています。 「っとに、あいつは……」  いつまで経っても何も言わない携帯に、小声で愚痴を漏らしています。  多分こなたを待っているんでしょうけど……あの子、あまり携帯持ち歩きませんものね。  そして、とうとう。 「ただいまより第4壊っ、藤桜祭をぉぉぉーーー開催しまああああぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」 「「「「「「うぉぉぉおおおぉぉおおぉおおおおおおおおーーーーーーーーーっっ!!!!!」」」」」」  こなたから何の音沙汰もないままに、世界を大音声が揺るがしました。  過去の偉人(大抵諭吉さん)を生贄に捧げ、好きな人を特殊召還するデュエルがスタートです。  そう君もよく、こういうイベントで暴走しては、食生活の危機に瀕していました。  そのたびに差し入れをしに行って……それも、今となっては何もかもが皆懐かしいですね。  でも、さすが即売会。『こなかが』『こなゆき』に『ゆたみな』に『みさこな』に……これだけ色々な  本があると、ファンには悩ま……って、こここれは『かなかが』!?しかも、じ、じゅうはち……。  ……っと、いけません、興味を惹かれている間に、かがみちゃんを見失ってしまいました。  以前よりも狭い会場内には人がひしめいていて、私の背丈ではなかなか見通しがききません。  仕方がないので、○びてと(地方によっては○べるーらとも言うらしいです)してみると……。 「あ、あの、この本と……それとこの本とこの本を、2さつずつ……」 「すみません、こちらは新刊なのでお一人様一冊となっておりまして。それと、こちらはこの本の  裏表紙なので……」 「えっ、あっ……」  会場の一角にある人気サークルの前で、真っ赤になっていました。  慣れない場所で、全方位から妙な視線を浴びせられて、緊張しているのでしょうか。  普段はしっかり者の優等生なのですが……。  でも、戸惑う様子も可愛いです。これが『萌え』なんでしょうか、こなたが惹かれるのも納得です。 「はぁ……こなたのせいでうっかり恥かいたわ……」  慌てて本を受け取って、人口密集地帯から離脱していきます。  やっぱりこういう所は、始めのうちは大変ですよね。昔秋葉原の人波の中で、そう君とはぐれて  しまった時のことを思い出します。あの時は本当に……。 「柊先輩、こんにちはっス♪」 「うおわっ!?」  突然横手から飛んできた不意打ち。かがみちゃんが振り返った先には、こなた達と同じ、  陵桜の制服を着た女の子が笑っていました。 「いやー、ちょうど会場一周して、これから自分の所に戻ろうと思ってたら、見慣れたツインテが  目に入って……」  隣にあった段ボールに戦利品をどさっと置いて、笑いかけるその子。  徹夜明けなのでしょうか、折角の髪もぼさぼさで、眼鏡の奥には酷いクマができています。  ちょっと気を使えばかなりの美人さんなのに、これじゃなんだか入稿直後のそう君みたいです。  けど、そういえばこの子も、『例の4コマ』の漫画家女子高生にそっくりですね。  もしかして、噂の『ひよりん』さんでしょうか? 「けど、さすが泉先輩の嫁っスね、ソレを即買いとは、かなり素質アリっスよ」 「えっ……なっ!勘違いしないでよ、これはその、こういうのこなたが好きかなーって……」 「はぐぁっ!?」  誰かに酷似したキャラクターがイチャコラしている表紙を、慌てて背中に回すかがみちゃん。  その仕草に、ひよりんちゃん(仮)を始め、近くにいた全員がてんぷてーしょんされています。  でも確かに、『原作』から抜け出してきたような子に、こんなリアクションをされたら、  ファンには防御も回避も不可能……。 「……はっ、いかんいかん、思わず69ページ分ほどトリップしてしまったっス。自重しろ私……  と、自分はもう行かないといけないみたいっス。でもその前に……」  桃源郷から戻ってきたひよりんちゃんが、懐からペンを取り出します。 「コロネ4のいずみけ家族計画はマジでいいものっス。隣は神作画だけど18禁なのがorz  あとはバルス1の冬コミのと、先輩が持ってなさそうなのはおもち8と……」  某スタンド使いさん並の職人芸で、かがみちゃんのカタログに色々書き入れていきます。  でも、あの絵のタッチって、どこかで……。 「増えた荷物はここのバッグに入れればOKっスね。あとおもち6が今日の新刊で、クオリティも  神ッスから、泉先輩のプレゼントにも最適っス。制限もないし3冊は基本っスよ!  あと一押しが……あーもう時間がないっス、それじゃあとは色紙作りが終わった後に!!」 「え、ああ、ありがと……」  嵐のようにひよりんちゃんが過ぎ去った後。  残されたかがみちゃんは、カタログに描き込まれた萌え絵やメモを、真剣に眺めています。 「なぁ、今のたむらてんてー!?」 「それにあのコもそっくりってレベルじゃねーぞ、しかも美人すぐる……ま、まさか……」 「すごいぞ、こなかがは本当にあったんだ!」  周囲から恐ろしく引っかかる言葉が上がっていますが、それも耳に入らないくらい集中して  います。暫くの沈黙の後、ちらっと財布を確認して……。 「そうよね、まだまだ足りるし、後でお金はこなたから貰えばいいんだし」  まだ恥じらいを残しながらも……というか、その方が可愛くて歓迎かもなのですが……  かがみちゃんは『しょうがないわねぇ』という顔で、ひよりんちゃんのチェックの入ったサークルに  向かっていきました。 「すみません、こちらの新刊3冊ください、その、友達に頼まれているので……」 「あの、友達に頼まれて来たんですけど、この本を3冊……」  真っ赤な顔で理由付けしながら、3冊買いを実行しています。  段ボールや紙袋をかき分けて机下から在庫を取り出す間も、売り子さんの顔からにやけ顔が  消えないあたり、全然誤魔化せていないような気もしますが……  かがみちゃん、どんまいです。 「あっ、どうも」 「いえいえ……とちょっと待って、コスプレ似合い杉なので、写真撮らせて貰ってもいいですか?」 「え、いや、撮るなっ」  なんだかんだ言いながらも、ひよりんちゃんのオススメサークルを律儀に回るかがみちゃん。  結局全チェックポイントで3冊買いを実行していました。  それだけこなたのことを大事に想ってるんですね。こなたもですが、母親としても幸せです。  ……と、そんな所に。 「けどホント、さっきから撮らせて下さいとか、あと妙に見たような格好の人が多い……って!!」  ポケットの中で、鳥の詩を歌い始めた携帯を引ったくるように取り出します。  ということは、この相手は……。 「もしもし、こなた?」 『はろーかがみん、お茉莉は楽しんでいるカナ?』 「んわけあるかっ!!」  こなたのゆる~い声に、条件反射で大声をぶつけて…… 「あのぉ~すみません、人が溜まってしまいますので、携帯は……」 『無神経な嫁に思わずいつものように突っ込んでスタッフに補導されてしゅんとするかがみ萌え』 「うるさ……っ!!」  スタッフに補導されかけて、またぷちきれかけたのを、ぎりぎりの所で止めるかがみちゃん。  そのまま憮然とした顔で、一旦会場の外に出ていきます。  でもその仕草は、不愉快な目に遭わされて怒っているように見えて、実はどこか嬉しそうな  ことに、本人は気付いているでしょうか。 「……っとに、あんなに誘っといてどうして来ないのよ?」 『いやぁごめん、ちょっとゆーちゃん達が大変なことになってて』 「っもう、そういうことなら早く言いなさいよ……」  電話の前まで引き吊っていた顔を綻ばせて、ほっと一息。  それまでの緊張と戸惑いが嘘のような、普段こなた達と一緒にいる時の自然な笑顔です。 「……で、どうする?あんたの分の本、確保しとこっか?」 『えぇ~っ、いいのぉ~っ!?』 「特別サービスよ。あんただって来たかったんだろうし。でも代金はあんた持ちよ?」 『モチロン、私だって愛する嫁にお金なんて使わせたくないしね。それに買った本ならかがみにも  たぁーーっぷり見せてあげるから♪』 「いらんわっ!というか嫁とか言うな、恥ズカシイジャナイ……」  わぁっ、今日始めての笑顔です。確かこういうのを『こなかがる』と言うんでしたっけ、  やっぱりかがみちゃんとこなたは二人一緒が一番ですね。  ほらそこの写真好きのあなた、気持ちは分かるけど無許可で女の子を撮るのは、めっ、です!  はぁ……どうして私って、こんな人と一緒になったのかしら……  あとでかくごしておいてくださいね。 「で、何買えばいいの?」 『そうだねぇ……』 「えぇっと、こちら中身見せてもらってもいいですか?」 「どうぞどうぞ、というかアナタほどのコスさんになら、見て貰えるだけで我が生涯に一片のっ」 「はいはい……って、こ、こなたと私が、ひ……姫始……っ!??」  こなたとの電話の後、再度会場に突入したかがみちゃんは、以前にも増して真剣です。 『よし、カガーク、ミッションを与える。君が会場を回って『これだ!』と思ったものを購入しろ。  感性を研ぎ澄まし掘り出し物を狙うんだ。以上健闘を祈る、オーバー』  ……なんて指令を受けたからでしょう。ひよりちゃんがチェックした所を回り終わった後も、  こなたのために頑張っていいものを探しています。 「こちらのグラスなんですけど、小さい方、二回いいですか?」 「ええ、それでは足元の、開いている方の段ボールから選んでください」 「おーし、それじゃあ、これと、あと一つは……」 「じゃあちょっと内側から見て貰えますか、アナタが引いたのは……白石とくじら、だってヴぁ」 「……………………」  立ち読みしたり、サークルの人と話したり、時々酷い凶運を発揮したり。  溢れる品々を物色するその目はまさに、好きな人の誕生日プレゼントを一生懸命探す女の子の  色です。悩んではいるけど、電話前とは違って、凄く生き生きしていて、楽しそうで……。  そうして、一時間以上かけて8割がた巡回した頃でした。 「すみません、これって、短編小説……?」 「はい、Webで連載された漫画とか、4コマとかも入ってますけど、どうぞ見て下さい」  文庫本サイズのソレを、薦められるままに開きました。 「世界のこな☆かが・かが☆こな、こな☆かがスレ著こな☆かが書房……って、なんぞこれ!?」  表紙からラブラブな本を開くと、1作目から諸葛孔明みたいなみゆきちゃんの小説です。  他にもバレンタインの話や、卒業後の話、こなたが小説家になる話に灼眼のこなにゃん……。  ギャグからシリアス、切ない片思いにハッピーエンド。  とにかく内容は色々ですが、どれもこれも全部、一分の隙もないこなかがです。  かがみちゃんも、顔を真っ赤にしながら、テキストを読み進めていき……。 「はぁ……」  深い息を吐いて、肩を落としました。 「あの、どこかまずい所でも?」 「いえ、内容は凄くいいんです。挿絵も可愛いし。でも……」  確かに、作者ごとに差はありますが、みんなよく描けてたし、何人かはプロ級でした。  それなのに、どうして。 「このキャラの性格が、ある人とそっくりで……  でもその人って、時々私のことなんかお構いなしで、約束忘れたり、待ち合わせに遅れたり……  だからこれ見てたら、現実のその人も、この中の話みたいに気が利いたらなって」  ったく、しょうがないんだから、という顔で、小さく笑うかがみちゃん。  物語の中の二人が凄く純情で幸せだから、今お祭りの中に一人きりの自分が悲しい。 「……とりあえず、こちら3冊ください」 「ああ、はい、ありがとうございます。それとこちら、おまけの過去ログ&小なたCDです」 「あ、どうも……」  本とおまけを萌え絵つきの手提げに入れる仕草に、さっきまでの元気がありません。  お財布と間違えて取り出した携帯に、ダメモトでメールを問い合わせる様子は、  呆れかえるフリをしても寂しさを隠し切れなくて。  こなた、お願い、そろそろ来てあげて。  そんな風に願った、その時……。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - たくさんの「姫」にご奉仕してください。日給5万以上可(*´ェ`*)☆ http://b8y.in/ -- あつこ (2012-06-29 04:46:07)
『こちらカナーク、ライフゼロプラザ坂橋に潜入です』  2月終わりの某日、私は坂橋駅からほど近い建物の傍に佇んでいました。  この日は星の位置が良かったので、久しぶりにこちらに顔を出してみたのです。  そのお目当ては…… 『ええっと、気配からするとこの辺のはずなんですが……あ、目標補足』  イベント会場を目指して、そう君みたいな人たちが作る長い列――その中に混ざったその子の  所に、私はうっかり発見されないよう(もともと人の目には見えないと思うのですが)、  気配を殺して接近を試みました。       ○なたぎあ・そりっど ~即売会に潜入してみました~  ブラウンのコートに薄桃色のマフラー。さらさらの髪を黒いリボンで左右に束ねたターゲット。  ちょっと不器用だけど、誰よりもこなたのことを想ってくれる、恋人のかがみちゃんです。  こういう場所には不慣れなのでしょう、しきりに辺りを見回したり、落ち着かなげに何度も携帯を  確認しています。 「っとに、あいつは……」  いつまで経っても何も言わない携帯に、小声で愚痴を漏らしています。  多分こなたを待っているんでしょうけど……あの子、あまり携帯持ち歩きませんものね。  そして、とうとう。 「ただいまより第4壊っ、藤桜祭をぉぉぉーーー開催しまああああぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」 「「「「「「うぉぉぉおおおぉぉおおぉおおおおおおおおーーーーーーーーーっっ!!!!!」」」」」」  こなたから何の音沙汰もないままに、世界を大音声が揺るがしました。  過去の偉人(大抵諭吉さん)を生贄に捧げ、好きな人を特殊召還するデュエルがスタートです。  そう君もよく、こういうイベントで暴走しては、食生活の危機に瀕していました。  そのたびに差し入れをしに行って……それも、今となっては何もかもが皆懐かしいですね。  でも、さすが即売会。『こなかが』『こなゆき』に『ゆたみな』に『みさこな』に……これだけ色々な  本があると、ファンには悩ま……って、こここれは『かなかが』!?しかも、じ、じゅうはち……。  ……っと、いけません、興味を惹かれている間に、かがみちゃんを見失ってしまいました。  以前よりも狭い会場内には人がひしめいていて、私の背丈ではなかなか見通しがききません。  仕方がないので、○びてと(地方によっては○べるーらとも言うらしいです)してみると……。 「あ、あの、この本と……それとこの本とこの本を、2さつずつ……」 「すみません、こちらは新刊なのでお一人様一冊となっておりまして。それと、こちらはこの本の  裏表紙なので……」 「えっ、あっ……」  会場の一角にある人気サークルの前で、真っ赤になっていました。  慣れない場所で、全方位から妙な視線を浴びせられて、緊張しているのでしょうか。  普段はしっかり者の優等生なのですが……。  でも、戸惑う様子も可愛いです。これが『萌え』なんでしょうか、こなたが惹かれるのも納得です。 「はぁ……こなたのせいでうっかり恥かいたわ……」  慌てて本を受け取って、人口密集地帯から離脱していきます。  やっぱりこういう所は、始めのうちは大変ですよね。昔秋葉原の人波の中で、そう君とはぐれて  しまった時のことを思い出します。あの時は本当に……。 「柊先輩、こんにちはっス♪」 「うおわっ!?」  突然横手から飛んできた不意打ち。かがみちゃんが振り返った先には、こなた達と同じ、  陵桜の制服を着た女の子が笑っていました。 「いやー、ちょうど会場一周して、これから自分の所に戻ろうと思ってたら、見慣れたツインテが  目に入って……」  隣にあった段ボールに戦利品をどさっと置いて、笑いかけるその子。  徹夜明けなのでしょうか、折角の髪もぼさぼさで、眼鏡の奥には酷いクマができています。  ちょっと気を使えばかなりの美人さんなのに、これじゃなんだか入稿直後のそう君みたいです。  けど、そういえばこの子も、『例の4コマ』の漫画家女子高生にそっくりですね。  もしかして、噂の『ひよりん』さんでしょうか? 「けど、さすが泉先輩の嫁っスね、ソレを即買いとは、かなり素質アリっスよ」 「えっ……なっ!勘違いしないでよ、これはその、こういうのこなたが好きかなーって……」 「はぐぁっ!?」  誰かに酷似したキャラクターがイチャコラしている表紙を、慌てて背中に回すかがみちゃん。  その仕草に、ひよりんちゃん(仮)を始め、近くにいた全員がてんぷてーしょんされています。  でも確かに、『原作』から抜け出してきたような子に、こんなリアクションをされたら、  ファンには防御も回避も不可能……。 「……はっ、いかんいかん、思わず69ページ分ほどトリップしてしまったっス。自重しろ私……  と、自分はもう行かないといけないみたいっス。でもその前に……」  桃源郷から戻ってきたひよりんちゃんが、懐からペンを取り出します。 「コロネ4のいずみけ家族計画はマジでいいものっス。隣は神作画だけど18禁なのがorz  あとはバルス1の冬コミのと、先輩が持ってなさそうなのはおもち8と……」  某スタンド使いさん並の職人芸で、かがみちゃんのカタログに色々書き入れていきます。  でも、あの絵のタッチって、どこかで……。 「増えた荷物はここのバッグに入れればOKっスね。あとおもち6が今日の新刊で、クオリティも  神ッスから、泉先輩のプレゼントにも最適っス。制限もないし3冊は基本っスよ!  あと一押しが……あーもう時間がないっス、それじゃあとは色紙作りが終わった後に!!」 「え、ああ、ありがと……」  嵐のようにひよりんちゃんが過ぎ去った後。  残されたかがみちゃんは、カタログに描き込まれた萌え絵やメモを、真剣に眺めています。 「なぁ、今のたむらてんてー!?」 「それにあのコもそっくりってレベルじゃねーぞ、しかも美人すぐる……ま、まさか……」 「すごいぞ、こなかがは本当にあったんだ!」  周囲から恐ろしく引っかかる言葉が上がっていますが、それも耳に入らないくらい集中して  います。暫くの沈黙の後、ちらっと財布を確認して……。 「そうよね、まだまだ足りるし、後でお金はこなたから貰えばいいんだし」  まだ恥じらいを残しながらも……というか、その方が可愛くて歓迎かもなのですが……  かがみちゃんは『しょうがないわねぇ』という顔で、ひよりんちゃんのチェックの入ったサークルに  向かっていきました。 「すみません、こちらの新刊3冊ください、その、友達に頼まれているので……」 「あの、友達に頼まれて来たんですけど、この本を3冊……」  真っ赤な顔で理由付けしながら、3冊買いを実行しています。  段ボールや紙袋をかき分けて机下から在庫を取り出す間も、売り子さんの顔からにやけ顔が  消えないあたり、全然誤魔化せていないような気もしますが……  かがみちゃん、どんまいです。 「あっ、どうも」 「いえいえ……とちょっと待って、コスプレ似合い杉なので、写真撮らせて貰ってもいいですか?」 「え、いや、撮るなっ」  なんだかんだ言いながらも、ひよりんちゃんのオススメサークルを律儀に回るかがみちゃん。  結局全チェックポイントで3冊買いを実行していました。  それだけこなたのことを大事に想ってるんですね。こなたもですが、母親としても幸せです。  ……と、そんな所に。 「けどホント、さっきから撮らせて下さいとか、あと妙に見たような格好の人が多い……って!!」  ポケットの中で、鳥の詩を歌い始めた携帯を引ったくるように取り出します。  ということは、この相手は……。 「もしもし、こなた?」 『はろーかがみん、お茉莉は楽しんでいるカナ?』 「んわけあるかっ!!」  こなたのゆる~い声に、条件反射で大声をぶつけて…… 「あのぉ~すみません、人が溜まってしまいますので、携帯は……」 『無神経な嫁に思わずいつものように突っ込んでスタッフに補導されてしゅんとするかがみ萌え』 「うるさ……っ!!」  スタッフに補導されかけて、またぷちきれかけたのを、ぎりぎりの所で止めるかがみちゃん。  そのまま憮然とした顔で、一旦会場の外に出ていきます。  でもその仕草は、不愉快な目に遭わされて怒っているように見えて、実はどこか嬉しそうな  ことに、本人は気付いているでしょうか。 「……っとに、あんなに誘っといてどうして来ないのよ?」 『いやぁごめん、ちょっとゆーちゃん達が大変なことになってて』 「っもう、そういうことなら早く言いなさいよ……」  電話の前まで引き吊っていた顔を綻ばせて、ほっと一息。  それまでの緊張と戸惑いが嘘のような、普段こなた達と一緒にいる時の自然な笑顔です。 「……で、どうする?あんたの分の本、確保しとこっか?」 『えぇ~っ、いいのぉ~っ!?』 「特別サービスよ。あんただって来たかったんだろうし。でも代金はあんた持ちよ?」 『モチロン、私だって愛する嫁にお金なんて使わせたくないしね。それに買った本ならかがみにも  たぁーーっぷり見せてあげるから♪』 「いらんわっ!というか嫁とか言うな、恥ズカシイジャナイ……」  わぁっ、今日始めての笑顔です。確かこういうのを『こなかがる』と言うんでしたっけ、  やっぱりかがみちゃんとこなたは二人一緒が一番ですね。  ほらそこの写真好きのあなた、気持ちは分かるけど無許可で女の子を撮るのは、めっ、です!  はぁ……どうして私って、こんな人と一緒になったのかしら……  あとでかくごしておいてくださいね。 「で、何買えばいいの?」 『そうだねぇ……』 「えぇっと、こちら中身見せてもらってもいいですか?」 「どうぞどうぞ、というかアナタほどのコスさんになら、見て貰えるだけで我が生涯に一片のっ」 「はいはい……って、こ、こなたと私が、ひ……姫始……っ!??」  こなたとの電話の後、再度会場に突入したかがみちゃんは、以前にも増して真剣です。 『よし、カガーク、ミッションを与える。君が会場を回って『これだ!』と思ったものを購入しろ。  感性を研ぎ澄まし掘り出し物を狙うんだ。以上健闘を祈る、オーバー』  ……なんて指令を受けたからでしょう。ひよりちゃんがチェックした所を回り終わった後も、  こなたのために頑張っていいものを探しています。 「こちらのグラスなんですけど、小さい方、二回いいですか?」 「ええ、それでは足元の、開いている方の段ボールから選んでください」 「おーし、それじゃあ、これと、あと一つは……」 「じゃあちょっと内側から見て貰えますか、アナタが引いたのは……白石とくじら、だってヴぁ」 「……………………」  立ち読みしたり、サークルの人と話したり、時々酷い凶運を発揮したり。  溢れる品々を物色するその目はまさに、好きな人の誕生日プレゼントを一生懸命探す女の子の  色です。悩んではいるけど、電話前とは違って、凄く生き生きしていて、楽しそうで……。  そうして、一時間以上かけて8割がた巡回した頃でした。 「すみません、これって、短編小説……?」 「はい、Webで連載された漫画とか、4コマとかも入ってますけど、どうぞ見て下さい」  文庫本サイズのソレを、薦められるままに開きました。 「世界のこな☆かが・かが☆こな、こな☆かがスレ著こな☆かが書房……って、なんぞこれ!?」  表紙からラブラブな本を開くと、1作目から諸葛孔明みたいなみゆきちゃんの小説です。  他にもバレンタインの話や、卒業後の話、こなたが小説家になる話に灼眼のこなにゃん……。  ギャグからシリアス、切ない片思いにハッピーエンド。  とにかく内容は色々ですが、どれもこれも全部、一分の隙もないこなかがです。  かがみちゃんも、顔を真っ赤にしながら、テキストを読み進めていき……。 「はぁ……」  深い息を吐いて、肩を落としました。 「あの、どこかまずい所でも?」 「いえ、内容は凄くいいんです。挿絵も可愛いし。でも……」  確かに、作者ごとに差はありますが、みんなよく描けてたし、何人かはプロ級でした。  それなのに、どうして。 「このキャラの性格が、ある人とそっくりで……  でもその人って、時々私のことなんかお構いなしで、約束忘れたり、待ち合わせに遅れたり……  だからこれ見てたら、現実のその人も、この中の話みたいに気が利いたらなって」  ったく、しょうがないんだから、という顔で、小さく笑うかがみちゃん。  物語の中の二人が凄く純情で幸せだから、今お祭りの中に一人きりの自分が悲しい。 「……とりあえず、こちら3冊ください」 「ああ、はい、ありがとうございます。それとこちら、おまけの過去ログ&小なたCDです」 「あ、どうも……」  本とおまけを萌え絵つきの手提げに入れる仕草に、さっきまでの元気がありません。  お財布と間違えて取り出した携帯に、ダメモトでメールを問い合わせる様子は、  呆れかえるフリをしても寂しさを隠し切れなくて。  こなた、お願い、そろそろ来てあげて。  そんな風に願った、その時……。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)

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