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ダッシュで奪取?! その2」(2023/02/01 (水) 21:04:25) の最新版変更点

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「ふぅ、なんとか勝てたわね。」 「かがみん、お疲れ~♪優勝おめでとう!」 ドッジボールの試合が終わって、こなたが横から私の腰に抱きついて話しかけてくる。 ああ、もう可愛いなこいつ。疲れた私にとって、何よりの癒しかもしれないわね。 今までのこなたの行動のおかげで、これはいつものスキンシップと周りからは見られるし、問題ない。 「ありがとう、こなたの応援があったからよ。あんたも最後、頑張りなさいよ?」 「おぉ、いつもなら〈離れろ〉って怒るところなのに、デレ期に入ったかな?カナ?」 「うっさい、余計なこと言うな。」 「んじゃ、行ってくるね~」 「頑張りなさいよ!」 そういうと、こなたは集合場所へと走っていった。 予選の前にマッサージをしてあげたし、飲み物もスポーツドリンク、食べ物もバナナを用意した。 もちろん、みゆきやみさおにもしてあげたし、みなみちゃんもゆたかちゃんからしてもらってたわよ? 出来る限り皆の体調には気を使ったし、こなたも今朝の状態よりは良さそうだった。 そのおかげか予選はあっさり一位通過しているし、皆もそれほど疲れていないようだった。 ただ、皆が昨日は休んだという中で、あいつだけ運動してた事実が心の中に不安をもたらしていた…。 ――― 「ゆきちゃーん、頑張ってー!」 「こなたー、絶対勝ちなさいよー!」 「みなみちゃ~ん、ファ、ファイト~!」 「みさちゃん、負けないでよぉ!」 入場していくこなたたちに、つかさ、私、ゆたかちゃん、あやのの順に声を上げる。 田村さんとパトリシアさんも横で声をかけていたが、何のオタクネタだか分からないので割愛する。 私達はスタートライン、また最終ゴールラインとなる位置の手前に陣取った。 つまり、私達は校庭を時計回りに見て、7時ぐらいの場所に居るのである。 こなたがゴールするところを間近で見る手も合ったが、声援を送るならこの位置がいいと思ったわけ。 スタートラインにいるのはみゆき。アンカーだった体育祭とは逆なんだから、不思議よね。 ちなみに、体育祭の三色対抗リレーと同じく、1人150m(校庭半周)を走る予定になっている。 相手はサッカー部、バレーボール部、テニス部、陸上部の計4つの部活だ。 普通に考えて、無所属などがここに並んでいるのは違和感があるのか、注目度が半端無い。 全校生徒がまともに応援するはずもないのに、この競技ではほとんどの生徒が立ち上がって、 中には、出来る限りレースの全容が見れるように、必死になっている人も見受けられるほどだ。 私が周りを見渡している間に準備が整ったのか、姿勢を低くしているみゆきが視界に入る。 「よ~い…どん!!〈パァーンッ!〉」 電子音とともに一番走者が一斉に走り出していく。 練習の甲斐あってか、みゆきは陸上部の次について走っている。ほとんど差はない。 声はもうほとんど届かないが、つかさは必死に応援を続け、私も心の中で応援を続ける。 バトンを渡す手前の直線では、陸上部、みゆき、サッカーと並び、テニスとバレーがやや遅れている。 みゆきの後を継ぎ、みなみちゃんがバトンを受け取ると同時に大きな声援が上がる。 みなみちゃんが物凄いスピードで走り出し、すぐに陸上部を抜いていたからだ。 自然とゆたかちゃんの声も大きくなり、本当に病弱かと疑うほど激しく応援している。 カーブを曲がってくる彼女に向かって、必死で大きく手を振っているのが微笑ましい限りだけど、 そんなことをのんびり考えられる状況ではないのは、明白よね。 みなみちゃんのおかげで2位の陸上部とそれに並ぶサッカー部とは20mぐらいの差がある。 次のみさおにバトンが無事に渡り、走り出したその時、「きゃー!!」という悲鳴が聞こえた。 慌てて振り向くと、サッカー部がバトンを落として最下位に転落してしまったのだ。 人騒がせなと思ったが、今はレースに集中しよう。 陸上部対決となった形だが、3年のエースであるみさおが独走すると予想していた。 だけど、相手の子が予想以上に速い。差が開くどころか、わずかにだが縮まっている気もする。 私もあやのをはじめ、皆で必死に応援していると、みさおが頑張ったか、相手がやや疲れたか、 差が縮まることはなくなり、ほぼ同速でアンカーの待つ直線へと入っていく。 いよいよこなただと思うと、私まで緊張感で胸が苦しくなるほどだ。こなたはおそらくそれ以上だろう。 バトンが渡されるまで後20m…10m…5m…っ! みさおの手からバトンが離れ、 「カランッ!」 ここからは到底聞こえるはずも無い音が、響いた気がした。 思わず体中の機能が停止したかに思えた。無常にもバトンは地面を跳ねる。 さっきのサッカー部の事がフラッシュバックし、「最下位」という言葉が頭をよぎる。 実際に走っていない自分までも、目の前が真っ白になりそうだった。 バトンが跳ねる横を、陸上部が通り過ぎた瞬間、こなたが跳ねているバトンをキャッチした。 もはや奇跡的とも言えるような動きであり、野球のイレギュラーを好捕したとかいう次元ではない。 いや、私の目がイカレていなければ、バトンがこなたの手に誘導されたようにも見えた。 視力が1.0あるとはいえ、ここからだと良くは見えなかったけど、そうとしか思えなかった。 本人も何が起こったのか分からなかったようで、一瞬行動が止まっていたが、すぐに走り出した。 その差およそ20m、さっきとは逆の立場だ。相手もアンカー、さっきと同じかそれ以上に速い。 でも、今注目を浴びているのは1位ではなく、2位のこなた、私の恋人だ。 あの小さい体からは信じられない程のスピードで距離を縮めていく。 体育祭の徒競走のような余裕の顔じゃないし、いつものふざけたところなど欠片も無い。 最終カーブを終え、こなたがあと少しの差を逆転しようと歯を食いしばっている。 そんなこなたに、私は思わず息を呑んだ。 ゴールまであと50mもない。ゆたかちゃんも皆も必死で応援している。そして、私も… 「こなたぁあああーー!!」 目の前を通り過ぎようと走ってきているあいつに、私は出来る限りの声と気持ちを込めて叫んだ。 それに呼応したのか、グンッとこなたの体が前へ進み…相手を抜いた。 そして、ゴール直前、お互いに跳びながらも…こなたが先にゴールテープを駆け抜けた。 『ワァーーーーー!』 物凄い声がグラウンド中に鳴り響いた。もちろん私の喜びの悲鳴もその中にある。 最後の選手がゴールするのを見て、私は人目もくれずにこなたへ駆け寄った。 そこにはみなみちゃん達も合流していて、私の後ろから他の皆も一緒に来ているのが分かった。 4人で抱き合って喜んでいる輪に、私達も飛び込む。 「やった、優勝よ!!皆、おめでとう!」 「はぁ…はぁ…うぅ、かがみぃ、やったよ~!」 「や、やったぜぇ!優勝だってヴぁ!」 「みさちゃん、お疲れ様!頑張ったわね。」 「みなみちゃ~ん!おめでとう!格好よかったよ♪」 「あ、ありがとう、ゆたか。優勝…したんだよね。」 「はい、選手と応援してくれた人たち、皆の力での優勝ですね!」 「ゆきちゃんもこなちゃんも、皆凄かったよ~。私、感動しちゃったよぉ、えへへ…。」 「泉先輩、凄かったっス!それに、かがみ先輩の応援で抜くってのも…ウフフ…って、自重しろ私!」 「ミナさん、グレイト!ファンタスティーク!本当に、おめでとうございマス!」 グラウンドの真ん中で、全員入り乱れて優勝の喜びを分かち合う。 ちょっと羽目を外してるけど、たまにはいいわよね? 『はい、そろそろ落ちつこうかー!後でやってくれ、後でー!』 スピーカーから黒井先生の声が、若干の苛立ちを含めながら、グラウンドに響く。 でも、ふと先生の顔を見てみると、怒っておらず、どこか笑っているようにも見えた。 私達は苦笑いしながら、こなたやみゆき達を残して、急いで元いた場所に戻る。 これで失格とかにされたら、たまったもんじゃないしね。 『今の競技の順位を発表するで!第5位バレー部!…第4位テニス部!…第3位サッカー部! …準優勝、陸上部!…そして優勝は無所属!!』 優勝と宣言され、前には出ないけれど、私達は再びその場で大きな声で喜びを表した。 …な、何を叫んだのかは想像に任せるわよ、恥ずかしいしね。 『あー、ちなみに言うとくとな、元陸上部こそ1人居るが、後の三人は帰宅部やで!』 その言葉と同時に、あちらこちらで驚きの声があちらこちらから上がり、変な盛り上がりを見せている。 無理もないかもしれないが、選手全員が元運動部なり学外活動者なりだと思われていたのだろう。 といっても、みゆきは委員長でそこそこ名が知れているし、みなみちゃんは1年生。 こなたも一目見ただけじゃ運動が出来るように見えないし、趣味・性格を知ったら尚更だ。 更に注目を浴びたこなた達は、照れているのか反応に困っていたみたいで、そそくさと退場した。 私達も退場口の方へ向かい、こなたたちと合流した。 次に男子の部対抗リレーを行うため、こちらへの関心は薄くなっていた。 「皆、改めておめでとう!そして、お疲れ様。」 「皆さん、おめでとうございます!疲れたでしょうから、これ良かったら飲んでください。」 そうして私とゆたかちゃんで飲み物を入れたクーラーボックスを開ける。 一番に飛びつく人物を大体予想すると、おそらくみさおとこなたの二人だろう。 「おぉ、助かるぜ!んじゃ、私はスポーツドリンク~」 「こら、みさちゃん!もぅ、ごめんね、きょうちゃんにゆたかちゃん。」 「いえいえ、皆さん好きなのを取ってください!みなみちゃんは、確かこれだよね?」 「うん。ありがとう、ゆたか…。」 「高良先輩もどうぞ!田村さんとパティちゃんも好きなの選んで~。」 「私らもいいんスカ?じゃあ、遠慮なく…どれにしよっか、パティ?」 (あれ?こなたの反応はなしか…それとも悩んでる?) 「ほら、こなたにはどうすんの?あと、良かったら、つかさとあやのも好きなの取ってよ。」 「そう?なら、お言葉に甘えようかしら。」 「いいの?それじゃあ、どれにしようかな…。あ、こなちゃんの方が先だよね。」 「そうね、こなたさんから選んで?」 その時、突然こなたがフラッとしたかと思うと、私の胸に倒れこんできた。 「っ?!ちょ、ちょっとこなた、みんなの前でなに…を…?」 どうもおかしい。腕に力も入ってないし、目を閉じていて全く反応がない。 半ば恐怖にも似た衝動を受けて、体中から嫌な汗が一気に噴出す感覚を覚える。 「こ、こなた?ねぇ、こなた大丈夫?!……っ…こなたぁ!!」 「かがみ先輩、落ち着いてください!私が診てみますから!」 みなみちゃんが、彼女とは思えないほどの大声で私を制止した。 私はその声にハッと我に返り、みなみちゃんにこなたを委ねた。 「っ…。ご、ごめん。」 「…おそらく、疲労でめまいを起こし、気を失っただけだと思います…。ゆたか、一応ふゆき先生に…」 「う、うん、分かった!」 ゆたかちゃんが小走りでふゆき先生のいるテントに向かっていく。 「かがみ先輩、そちらの肩をお願いできますか?保健室まで連れてくので…。」 「あ、うん、分かったわ。」 ☆★☆ 「ちょっとした貧血ね。寝不足と過労が重なって、たまたま気絶しただけだから、安心して柊さん。」 「良かった…。先生、ありがとうございます。」 みゆき達のおかげで私は何とか落ち着くことが出来たし、今のふゆき先生の言葉でかなり安心した。 でも、さっきの恐怖とも言えるおぞましい感覚が頭から離れないし、それに動揺した自分も情けない。 こなたは今、保健室のベッドで寝かせているが、今のところ目は覚ましていない。 「これが仕事ですからね。それにしても凄い走りっぷりね。まさに満身創痍って感じだったわ。」 「そうですね。私もあんな泉さんは初めてみましたから。」 「だよなー。体育祭の時も見てたけど、そんときは軽い感じだったしな。一着だったけどよ。」 「私もお姉ちゃんがあんなに必死なの見たことないかも…。」 「ゆたかも…?」 「うん…私が見てた中ではないと思う。かがみ先輩は?」 「私もない…かな。」 ゆたかちゃんに聞かれて、改めて考えてみても今までには無かった。 あいつの第一印象としては自己中心的だと思われがちだが、実はその正反対である。 人一倍、周りがどうすれば楽しめるか、どうすれば笑っていられるかというのを考える。 時に悪ふざけや、自分の趣味が入るが、許せる範囲で行っているし、それもあいつなりの気配りだ。 だけど、何かに対して真面目であったとしても、必死だったのを見るのは初めてだった。 「私は他にけが人がいるかもしれないので、一旦グラウンドに戻りますね。またここに戻ります。」 『はい、ありがとうございました(ありがとうございます)。』 そう言ってふゆき先生は立ち去って行き、みなみちゃんが私の方へ進んできた。 どこかバツが悪そうにおずおずと私の前に来て、何故か頭を下げてきた。 「かがみ先輩、先ほどは叫んだりして失礼しました…」 「ううん、むしろ私がお礼を言うべきよ。ありがとう、みなみちゃん。助かったわ。」 「い、いえ、あの、お役に立てて良かったです…。」 まだ素直に褒められるのに慣れていないのか、顔を少し赤らめて俯いてしまった。 でも、彼女に助けられたのは事実であり、混乱した状態のままだったら、どうなっていたか分からない。 「でも、かがみさんがあそこまで取り乱すとは思いませんでした。」 「ごめんねみゆき、迷惑かけて。それと、ありがとう。」 「いえ、泉さんが無事でなによりですし、恋人が倒れたなら仕方がない反応でしたから、ね。」 「えっ?!い、いや…あー、もう茶化さないでよ!」 ふふっ、と笑ってみゆきはそれ以上何も言わなかくなったが、元気付けてくれたんだろうか? 「ひいらぎぃ…ごめんな、ちびっ子に無理させちまって…。」 「何言ってんの、みさおのせいじゃないわよ。寝不足って言ってたから、多分遅くまでゲームでもしてんたんでしょ。それと、苗字に戻ってるわよ?」 「…サンキューな、かがみ。でもやっぱ練習がきつかったかな。」 「いえ、そんなことないですよ。あれぐらいやらないと、運動部の方には勝てませんから。」 「…(コクリ)…」 「そっか、ありがとな。今回優勝できたのは皆のおかげだな。特にちびっ子に助けられたよ。」 みさおはちらりと寝ているこなたの方を見る。確かにそうかもしれない。けど…。 「それは日下部さんも含めて、ですよ?色々と教えてくださらなければ、おそらく負けてましたから。」 「そうね。いろいろ合ったけど、あんたも十分貢献してるわよ。」 「そっかぁ?…そういわれっと、なんか照れくさいな。でも、こういう話はまた今度だな。」 「そうだね、お姉ちゃんが元気になったら、だね。」 ガチャ 「皆、盛り上がってるところ悪いんだけど、詳しいことはまた今度にしましょう。そろそろ閉会式よ?」 ふゆき先生が戻ってきて、私達にそろそろ戻るように促してくれた。 おおとりの競技である部活対抗リレーが終わったことだから、おそらくもう始まる頃だろう。 「でも、お姉ちゃんは…。」 「心配しなくても大丈夫よ、小早川さん。泉さんは私がちゃんと見てるから安心してください。」 「桜庭先生や黒井先生には…」 「大丈夫よ、全員の担任と立木先生にも言ってあるわ。ほら早く行ってらっしゃい。」 「それではふゆき先生、失礼しますね。」 ――― そうして私達は一時的に保健室を出た。 グラウンドではすでに閉会式および表彰式が始まっており、部対抗リレーの各部の代表が呼ばれていた。 最初は中学女子、中学男子となっていて、今は中学男子を丁度終えたところだった。 『高等部女子優勝、無所属代表、泉こなた…失礼しました、代表代理、日下部みさお、前へ。』 そうしてみさおは前へ出て表彰を受けて、よっしゃーと言っていたけど、どこか寂しげだった。 それはみさおに限らず、私達全員が、それにつかさ達もそう思っていたはずだ。 私はその閉会式の間、まさしく心ここにあらずであって、こなたのことばかり考えていた。 ☆★☆ 既に閉会式が終わって1時間が過ぎた。皆も起きるまで残るといったが、私が止めたので誰もいない。 全員でこの部屋にいるのはあまりにも狭いうえに、大勢いても仕方が無い。 こなたが起きた時も、人が多いほど迷惑や心配をかけたと思うだろうから、私1人が残ることにした。 ふゆき先生もそれに賛成し、先生と私だけでしばらくこなたを看ていた。 しばらくして先生は職員室に行って、私達の親に再度改めて電話してくるといい、出て行った。 生徒はほとんど帰宅し、ふゆき先生がいない今、私はまだ起きないこなたと二人きりで保健室にいた。 「………」 「………」 私とこなた、二人だけの空間。いつもなら茶化してくるあいつは、今は何も言わない、いや言えない。 頬を突っついてみたが、反応なし。さっきから更に30分近く経っているが、まだこいつは起きない。 前にうさぎに例えられえた記憶があるけど、私は言われた通りの寂しがりや。 もちろん素直にそんなことを言える性格じゃないが、自分では認めている。 だから、こなたが倒れた時、こなたがいなくなるような感覚を覚えてしまった。 それは恐怖を遥かに凌駕する感情で、一瞬、心を握りつぶされたような激痛が走った。 そして、今また二人になったこの空間の静けさのせいか、それがじわりじわりと蘇ってきた。 段々と痛みが増すその感情に耐えられなくなり、思わず声が出てしまう。 「……ぅっぐ!…ぃうっ……っぁ…こな……た……いな、くなっ…たら…嫌、だよぉ……こなたぁ!」 「う~…もう少し寝かせてよ…。」 「…うっ…こ、なた?ひぐっ、あ、あんた、起きてたの?」 「んー、かがみが「私だけが残る」って言った時かな?…気絶しただけなのに大袈裟なんだから。」 「それならそうと、ぅっ、早く起きなさいよ!」 「いやぁ、昨日は深夜アニメとかで遅くなって、眠くてさぁ。それでちょっと仮眠を~」 ひょうひょうと言うこなたに、ついイラッときてしまう。 「あ、あんたねぇ!どれだけ皆に心配かけたと思ってるのよ!…それに私…怖かったんだから…」 「そ、それは私が悪かったよ、謝るって。…でも、怖かったって何が?」 「…あ…たが……ったら…」 「うん?聞こえないヨ?」 「あんたがいなくなったらと思ったら怖かったつってんでしょ!!…っ…。」 「か、かがみ?!」 色んな意味を含めた恥ずかしさと想いが爆発して、つい叫んでしまった。 そして心の傷が再び開くように、その一粒一粒がこなたへの想いの様に、目から涙があふれ出てくる。 こなたは「え、何で?!」というように、驚いた顔で私のほうを見ていたが、次第に暗い表情になり、 「かがみ…心配かけてごめん…。でも、私はここにいるから…その、もう泣かないでヨ。」 「…な、泣いてなんk…!」 嘘がバレバレでも強がってみせようとすると、こなたにぐいっと抱き寄せられ、 その次には、心地よくて暖かい体温が伝わり、少し汗臭いけど安心できる匂いがする。 心の傷をこなたが体を張ってふさいでくれたみたいに、途端に痛みが和らいだ。少しずつ癒えていく。 「ほら、これで落ち着いた?…さっきは茶化してごめんネ。私は常にかがみと一緒だからさ、安心して。」 「ば、ばかぁっ……」 お互い無意識に顔を近づける。段々と慣れてきたこの行動にも、やはりまだ少し恥ずかしさは残る。 ただ、今はもう不安も恐怖も残っていない。こなたがいる。それだけで十分に気持ちが安らぐ… ガチャッ 「もう泉さんは起きられました…か?あら、お取り込み中だったかしら?」 突然の音に慌てて顔を離したが、それでもお互いから相当近いところにある。 こんなときの言い訳を私は知らないし、私の頭は一時的にフリーズしていて考えられない。すると、 「あ、いや、かがみが目にゴミが入ったみたいで、それを取ってあげてたんです!ほら、目が赤くて涙 目になってますよね?今さっき取れたとこなんですよ~。」 「あらそうだったの、ごめんなさいね。それで泉さん、体調の方はどうですか?」 「今はもう大丈夫です。まだ元気じゃないですけど、意識ははっきりしてますヨ。」 こなたが上手く誤魔化してくれたみたいで、先生も納得したから、私はひとまず安堵する。 「なら一安心ね。疲労もあるけど寝不足が主な原因だから、夜更かしはほどほどにしましょうね?」 「…できるだけ善処します。」 「泉さん?」 「うっ…はい…分かりました。」 「でも、長く抜けてごめんなさい。泉さんの親がしきりに心配するものだから、長くなってしまって。」 「おとーさんったら…。」 「ふふっ。でも、起きたことだから、また電話しなきゃならないわね。…それじゃあ柊さん」 「は、はいっ!」 (これじゃあ明らかな挙動不審じゃない!何やってるのかしら、私は…。) 「彼女の荷物を代わりに持って帰ってあげられるかしら?まだふらふらする可能性はあるので。」 「あ、わ、分かりました。」 「それじゃあ気をつけて帰ってね。寒いので、風邪などにも気をつけて。」 『ふゆき先生、ありがとうございました。』 こなたと共に、保健室を後にした。 ――― しばらく無言で廊下を歩いていたが、こなたが先に口を開いた。 「…さっきの言い訳、中々だったっしょ?もう、パーフェクトだったよね~。」 「確かに上手く誤魔化せて、良かったわ。」 「これも全てギャルゲーの賜物だよ~。」 「やっぱそれか。ギャルゲーでも、何もやってないよりはいいことあるのね。」 「えっへん!かがみもやってみなよ~、いいことあるかもよ?」 大して無い胸を張って、いかにも素晴らしいことだと言わん態度だ。 「えばるな!そして、誰がやるかぁ!」 「えぇ~、私のことを知るためにもやってよ~。」 「う、うるさい!漫画はともかく、ギャルゲーはむ、無理よ!」 「あれ~、なんでそんなに顔を真っ赤にしてるのかなぁ?」 「あ、当たり前でしょ!だって、ああいうのって…って、言わせんな!」 「私、ギャルゲーって言っただけで、だれも18禁とか言ってないんだけど?」 「うぐっ…」 毎度のパターンで引っかかる自分に、いい加減学習しろと言いたいが、どうやっても勝てない気がする。 「もう、かがみんはすぐそういう考えに…」 「う、うるさーい!!大体、あんたがいつもそういうのやってるから、そんなイメージがあるのよ!」 「だから、かがみ声が大きいって…でも、元気になった?」 急に真剣になった顔をこちらに向けて、下から可愛らしく覗き込んでくる。 一瞬どうしていいのか分からず、頭が混乱しかけながら言葉を発した。 「えっ?!あ、あんたはいつもそうやって、唐突に……でも、ぁ、ありがとう。それにあんたは?」 「う~、ナイスツンデレだネ!いやぁ、嫁が元気になってよかったヨ。私は良く寝たから平気だし♪」 「ひ、人が素直にお礼してるんだから、茶化すな!全く、もう…。」 下駄箱まで来ると、寒さが一層身に染みてくる。私はコートの前をきつくしめて、靴を履く。 荷物が多い分、こなたより少し遅れて外に出て、待っていたこなたの横に並ぶ。 「…でも…」 「…ん?」 また真剣な眼差しに戻ったこなたを見て、さっきと同じ光景のような気がした。 今度はどうこなたが言ってきても、引っかかるまいと覚悟を決めたのだが…。 「さっきは心配してくれてありがとね。あそこまで心配してくれるなんて思ってなかったからさ。」 「へっ?!と、当然でしょ、そんなの…。」 「ううん、かがみのことだから、寝不足だってからかってくると思ってたから、ちょっと意外だった。」 「…私はこなたが思ってる以上に脆いのよ…。」 「うん、分かったよ。」 「本当に?」 「かがみに嘘ついたことある?」 「…いや、あるだろ。」 「真剣に話してる時は?」 「…ない。」 「じゃあ、真剣になってる間に、も一つ。」 すすっと私の前に躍り出たと思ったら、私の手をそっと握ったから、私は緊張して体が強張った。 走っているときの目とはまた違った、真剣な眼差しで私を見てくる。 そのエメラルドグリーンに捉えられ、じっとしていると、少し間をおいてこなたが口を開いた。 「次の春から、私と一緒に…同じ屋根の下で暮らしてくれないかな?」 私はその言葉に思わず固まってしまった。拒絶とかではない、嬉しさによる驚愕。 つまり、大学生活に入ると共に、一緒に暮らさないか、同棲しないかということだ。 こいつのこの目を見て「本当に?」とも聞けない、かといってなんと言えばいいか…。 ただ、こなたを不安にしないように、思いついたことをとりあえず聞いてみる。 「つ、つまり同棲ってことよね?出来たら嬉しいわよ。でも、親にも聞かないといけないし…」 そう言うと思ったといわんばかりに、こなたは言葉を返してきた。 「その心配はないよ、かがみ。ご両親にはお父さんから伝えて、あらかじめOK貰ってるからね。」 「え、本当?!全然知らなかったわ…。あ、でも…大学が…」 「それも心配ご無用!今日は何日かな?」 私はすぐに携帯を取り出し、日にちを確認する。 といっても、今日の行事は土曜日に設定されているから、ほとんど分かっていた。 「え?えっと、今日は、3月1日…」 「そう。そして、私が合格した大学はというと…ボソボソ」 「ふえっ?え、ええええぇ!!」 「むふっ、驚いた?もちろん文学部だけどね♪」 こなたが私につぶやいたのは、私がこの春から行くのと全く同じ大学だった。 それは偶然な訳が無い。おそらくこなたが私に合わせて大学を選んでくれたのだろう。 学部によって受験日も違えば、合格発表も違う。だから、気付かなかったのもある。 でも、住もうと言っている場所の近くの大学だと思っていたから、まさに不意打ちだった。 こんなに幸せでいいのかしら?まるで、誰かが自分の幸せを分け与えてくれたほど…。 「嬉しすぎて涙が止まらないわよ…私…自分の希望の大学ばかり考えてた…。」 「何言ってんの!私が望んでたのはかがみと同じ大学だし、それに導いてくれたのはかがみだよ?」 「っ、そうかもね。…でも、良くおじさんが許してくれたわね。絶対許さないと思ったけど。」 「〈かがみとの同棲を許す〉これが、私が今回おとーさんに賭けた物。そして、無事に手に入れたもの。」 私の胸にまた熱いものがこみ上げてくる。 こいつは、こなたは私のために必死に勉強したんだと思うと、堪えられなかった。 半泣きの状態になりながらも、話を続ける。 「も、もぅっ、あんた格好良過ぎるのよ…。っ…リレーの時も、今も…」 「うん~?心奪っちゃった?惚れ直したりした?ねぇ、ねぇ♪」 「う、うるさい!それに、とっくに奪われてるわよ、惚れ直す必要なんてないほどにね!」 急にいつもどおりのこなたに戻って、慌てた私はやけになってしまった。 言った後に、自分の恥ずかしい台詞に気付き、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。 いつまで経っても、こなたの返事が無いから振り向くと、こなたまでもが顔を赤くしていた。 「あうぅ、その顔と態度は反則だよ、かがみん…。さすがツンデレ…今、クラッと来たよ…。」 「そ、そんなに?!まだ体調が万全じゃないんだから、気をつけないと。」 「そうさせたのはかがみだし…。」 「私のせいかい!はいはい、どうせツンデレですよ。」 「あれ?いつもなら〈あんたの寝不足が悪いんでしょ!〉って突っ込むのに…どったの?」 「(ぐっ、鋭いわね…。)い、いや、あんた体調悪いし、そう言うのも悪いかなぁって思ったのよ。」 「本当にぃ~?目、宙を彷徨ってるよ?」 私のことをよく見てくれるのはいいんだけど、こういうときは見逃して欲しい。 素直に言っても、ダメージを受けるのは私じゃない、こなたの見栄をバラすだけ。 …ならいいかな? 「あ、あんたがリレーのために道場に通ってたって聞いたから、責めたら可哀想かなって…」 「なな、な、何で知ってるの?!ひょっとしてゆーちゃんが口滑らせた?!それともおとーさん?!」 「誰から聞いたかは関係ないのよ。ただ、なんであんたがそれを黙ってたかってこと。」 「うぐぅっ…いや、まぁ…何か格好悪いじゃん?それに、恥ずかしいしさ…。」 「ふふっ、格好悪いところまで見せてくれたっていいじゃないの。見れた方がいいしね。」 「…何か台詞がギャルゲーっぽいよ?」 「うっさい、茶化すな!…でも、あんたらしくないわね、そんな理由で隠すなんてさ。」 「そ、そうかな?」 「他に何かあるんじゃないの?」 明らかに何かまだ隠してるけど、言うのを躊躇しているようで、とにかく待つ事にした。 言いたくないというより、言ってもいいのか迷っているように見えたからだ。 風の音や扉が軋む音しか聞こえない静けさの中で、少しの間を挟んで、こなたは意を決し、口を開いた。 「…うぅ…それが、今回のリレーで勝つのも同棲の条件の一つだったんだよ…。だから、ね。」 「そ、そうだったの?でも、大学は普通に合格したのよね?」 「そうなんだけど、あまりにもあっさり過ぎて、おとーさんが往生際悪くってサ。」 「やっぱりただでは許さなかったわけね…あのおじさんなら何となく分かるけども。」 「と、とにかく、その…これから一つ屋根の下、ヨロシクね!私のお嫁さん!」 「あら、柊さんがお嫁さんなの?」 「いや、だ、だからこなたの方が嫁だし、恥ずかしい台詞は…!!って、あ、天原先生?!」 「ふえっ?黒井先生に桜庭先生まで?!」 少し離れた場所ではあるが、大声でなくても声が聞こえる場所にいるのは、他でもない先生方3人。 小声で話したことまで聞こえたか不明だが、あの様子からだとある程度は聞かれている。最悪全て。 また1人、いや2人、打ち明けるべき人が出来てしまったようだ。 黒井先生は事情を知っているからいいか…って、なんでそんなどす黒いオーラを?! 「お前らなぁ…イチャイチャすんのはせめて学校の敷地出てからにし! 何が悲しゅーて、学校内で生徒同士のラブラブっぷりを見せられなきゃあかんねん!」 「ちょ!先生、私らは別にそんなんじゃ…!」 「残念ながら話は全て聞いていたし、黒井先生にも補足を入れていただいた。な、ふゆき。」 「だから、学校内では天原先生と…。でも、桜庭先生のいう通り、聞いてしまいましたね。」 「はうぅ、黒井先生、口が軽すぎますよ…。」 「何を言うとんねん。誰に知られても気にしないんやろ?それに、補足するまでもなかったしな。」 「それはそうですけど…変な補足は入れてないですよね?」 「少しは信用しーや、変なことは言うてへん。それに、この2人は反対する気はないしな。」 「まぁ、それは2人を見てれば分かりますけど…」 「あの泉さん、私達は別にそういう関係ではありませんよ?」 「え?いや、2人の私達に対する反応を見てれば、って意味だったんですけど…」 「ただ、私のほうは何回か結婚申し込んでるけどな。男の人に言えって、毎回断られるが。」 「先生…自分で言ってて、みじめになりませんか?」 「んまぁ、私みたいなのを世話してくれんのは、ふゆきしかいないから、特にみじめにはならんな。」 「くぅ、相手が居ないのはうちだけかいな!」 「ですから、桜庭先生のそれは冗談であって、私達はそういう関係では…。」 そんなやりとりを繰り替えし聞き続け、収拾が付くまで数十分かかった。 …でも、私達の関係に激しく反対する人はいないのだろうか? 居てほしくないけど、当たり前みたいにスルーされるのも違和感があったりもする。 「で、どこまで進んだんだ?」 「ぶっ!」 「ちょっと桜庭先生、なんてことを聞いてるのですか?」 「でも、少し気になるさかい、言うてみ。」 「もぅ、黒井先生まで…。」 桜庭先生と黒井先生が詰め寄ってくる。 天原先生も言葉では止めてるけど、教師の立場上しかたなくといった感じだ。 教師の立場すら忘れて聞こうとしてくる残り二名に関しては、あえて何も言わないで置こう。 それより、私達がこの場をどう切り抜けるかだ。どうすればいいか、こなたに訪ねようとしたら、 「こなた、どうすrんんっ!!」 キスされた。 「んっ…ふぁっ、ここまでですね~。んじゃ、私らは行きますんで、さようなら!行くよ、かがみ♪」 「はぁ…っ!って、こなたぁあ!!!こんの、待ちなさい!いっぺん殴るわよ!!」 少し遅れて、私は鈍った頭を起こし、すぐさまこなたを追いかける。 「青春っていいもんだなぁ」とつぶやく桜庭先生、「あらあら」と微笑む天原先生。 そして「くぅ~、ウチだって、ウチだってぇ!」と嘆いてる黒井先生をおいて。 「結局、いつものパターンじゃないのよぉ!!」 おまけ こなたとかがみのやり取りを見下ろす、1つの人影。 その目に写るのは、一発の制裁を食らいながらも、笑って話を続けるこなたと、顔が真っ赤のかがみ。 「うふふっ、元気そうで良かったわ。今回はちょっとだけ、手を貸しちゃったけど、いいわよね? あの人が元々は悪いんだし、こなたも皆もあんなに頑張ってたんだもの。それに…」 風が吹いて、言葉がかき消される。元々、誰の耳にも届くことは無いけれど。 (それに、娘をあんなに想ってくれる人がいるんだもの。二人には幸せになって欲しいじゃないの。) - Fin - **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - こなかがssの中でも5本の指に入る良作ですね!! -- 名無しさん (2012-11-12 00:43:18) - 良作すぎる・・・ &br()長さの割に一気に読めた、GJ -- 名無しさん (2011-05-12 23:56:46) - バトンこなたに渡したのはかなたさん? -- 名無しさん (2011-01-19 00:55:10) - かなたお母さんだったんですね、こなたの背中を押したのは。 &br()まぁ母親として娘には誰よりも幸せな人生を送って貰いたいでしょうから。 &br()娘が心から望んだその相手との。 -- こなかがは正義ッ! (2009-01-21 22:40:31) - このニヤニヤ顔が明日までに治ればいいが… -- 名無しさん (2008-10-14 02:16:03) - こなたのかっこよさと、かがみの乙女なところに萌えまくりながら、GJを贈らせていただきます -- にゃあ (2008-10-13 08:22:36)
「ふぅ、なんとか勝てたわね。」 「かがみん、お疲れ~♪優勝おめでとう!」 ドッジボールの試合が終わって、こなたが横から私の腰に抱きついて話しかけてくる。 ああ、もう可愛いなこいつ。疲れた私にとって、何よりの癒しかもしれないわね。 今までのこなたの行動のおかげで、これはいつものスキンシップと周りからは見られるし、問題ない。 「ありがとう、こなたの応援があったからよ。あんたも最後、頑張りなさいよ?」 「おぉ、いつもなら〈離れろ〉って怒るところなのに、デレ期に入ったかな?カナ?」 「うっさい、余計なこと言うな。」 「んじゃ、行ってくるね~」 「頑張りなさいよ!」 そういうと、こなたは集合場所へと走っていった。 予選の前にマッサージをしてあげたし、飲み物もスポーツドリンク、食べ物もバナナを用意した。 もちろん、みゆきやみさおにもしてあげたし、みなみちゃんもゆたかちゃんからしてもらってたわよ? 出来る限り皆の体調には気を使ったし、こなたも今朝の状態よりは良さそうだった。 そのおかげか予選はあっさり一位通過しているし、皆もそれほど疲れていないようだった。 ただ、皆が昨日は休んだという中で、あいつだけ運動してた事実が心の中に不安をもたらしていた…。 ――― 「ゆきちゃーん、頑張ってー!」 「こなたー、絶対勝ちなさいよー!」 「みなみちゃ~ん、ファ、ファイト~!」 「みさちゃん、負けないでよぉ!」 入場していくこなたたちに、つかさ、私、ゆたかちゃん、あやのの順に声を上げる。 田村さんとパトリシアさんも横で声をかけていたが、何のオタクネタだか分からないので割愛する。 私達はスタートライン、また最終ゴールラインとなる位置の手前に陣取った。 つまり、私達は校庭を時計回りに見て、7時ぐらいの場所に居るのである。 こなたがゴールするところを間近で見る手も合ったが、声援を送るならこの位置がいいと思ったわけ。 スタートラインにいるのはみゆき。アンカーだった体育祭とは逆なんだから、不思議よね。 ちなみに、体育祭の三色対抗リレーと同じく、1人150m(校庭半周)を走る予定になっている。 相手はサッカー部、バレーボール部、テニス部、陸上部の計4つの部活だ。 普通に考えて、無所属などがここに並んでいるのは違和感があるのか、注目度が半端無い。 全校生徒がまともに応援するはずもないのに、この競技ではほとんどの生徒が立ち上がって、 中には、出来る限りレースの全容が見れるように、必死になっている人も見受けられるほどだ。 私が周りを見渡している間に準備が整ったのか、姿勢を低くしているみゆきが視界に入る。 「よ~い…どん!!〈パァーンッ!〉」 電子音とともに一番走者が一斉に走り出していく。 練習の甲斐あってか、みゆきは陸上部の次について走っている。ほとんど差はない。 声はもうほとんど届かないが、つかさは必死に応援を続け、私も心の中で応援を続ける。 バトンを渡す手前の直線では、陸上部、みゆき、サッカーと並び、テニスとバレーがやや遅れている。 みゆきの後を継ぎ、みなみちゃんがバトンを受け取ると同時に大きな声援が上がる。 みなみちゃんが物凄いスピードで走り出し、すぐに陸上部を抜いていたからだ。 自然とゆたかちゃんの声も大きくなり、本当に病弱かと疑うほど激しく応援している。 カーブを曲がってくる彼女に向かって、必死で大きく手を振っているのが微笑ましい限りだけど、 そんなことをのんびり考えられる状況ではないのは、明白よね。 みなみちゃんのおかげで2位の陸上部とそれに並ぶサッカー部とは20mぐらいの差がある。 次のみさおにバトンが無事に渡り、走り出したその時、「きゃー!!」という悲鳴が聞こえた。 慌てて振り向くと、サッカー部がバトンを落として最下位に転落してしまったのだ。 人騒がせなと思ったが、今はレースに集中しよう。 陸上部対決となった形だが、3年のエースであるみさおが独走すると予想していた。 だけど、相手の子が予想以上に速い。差が開くどころか、わずかにだが縮まっている気もする。 私もあやのをはじめ、皆で必死に応援していると、みさおが頑張ったか、相手がやや疲れたか、 差が縮まることはなくなり、ほぼ同速でアンカーの待つ直線へと入っていく。 いよいよこなただと思うと、私まで緊張感で胸が苦しくなるほどだ。こなたはおそらくそれ以上だろう。 バトンが渡されるまで後20m…10m…5m…っ! みさおの手からバトンが離れ、 「カランッ!」 ここからは到底聞こえるはずも無い音が、響いた気がした。 思わず体中の機能が停止したかに思えた。無常にもバトンは地面を跳ねる。 さっきのサッカー部の事がフラッシュバックし、「最下位」という言葉が頭をよぎる。 実際に走っていない自分までも、目の前が真っ白になりそうだった。 バトンが跳ねる横を、陸上部が通り過ぎた瞬間、こなたが跳ねているバトンをキャッチした。 もはや奇跡的とも言えるような動きであり、野球のイレギュラーを好捕したとかいう次元ではない。 いや、私の目がイカレていなければ、バトンがこなたの手に誘導されたようにも見えた。 視力が1.0あるとはいえ、ここからだと良くは見えなかったけど、そうとしか思えなかった。 本人も何が起こったのか分からなかったようで、一瞬行動が止まっていたが、すぐに走り出した。 その差およそ20m、さっきとは逆の立場だ。相手もアンカー、さっきと同じかそれ以上に速い。 でも、今注目を浴びているのは1位ではなく、2位のこなた、私の恋人だ。 あの小さい体からは信じられない程のスピードで距離を縮めていく。 体育祭の徒競走のような余裕の顔じゃないし、いつものふざけたところなど欠片も無い。 最終カーブを終え、こなたがあと少しの差を逆転しようと歯を食いしばっている。 そんなこなたに、私は思わず息を呑んだ。 ゴールまであと50mもない。ゆたかちゃんも皆も必死で応援している。そして、私も… 「こなたぁあああーー!!」 目の前を通り過ぎようと走ってきているあいつに、私は出来る限りの声と気持ちを込めて叫んだ。 それに呼応したのか、グンッとこなたの体が前へ進み…相手を抜いた。 そして、ゴール直前、お互いに跳びながらも…こなたが先にゴールテープを駆け抜けた。 『ワァーーーーー!』 物凄い声がグラウンド中に鳴り響いた。もちろん私の喜びの悲鳴もその中にある。 最後の選手がゴールするのを見て、私は人目もくれずにこなたへ駆け寄った。 そこにはみなみちゃん達も合流していて、私の後ろから他の皆も一緒に来ているのが分かった。 4人で抱き合って喜んでいる輪に、私達も飛び込む。 「やった、優勝よ!!皆、おめでとう!」 「はぁ…はぁ…うぅ、かがみぃ、やったよ~!」 「や、やったぜぇ!優勝だってヴぁ!」 「みさちゃん、お疲れ様!頑張ったわね。」 「みなみちゃ~ん!おめでとう!格好よかったよ♪」 「あ、ありがとう、ゆたか。優勝…したんだよね。」 「はい、選手と応援してくれた人たち、皆の力での優勝ですね!」 「ゆきちゃんもこなちゃんも、皆凄かったよ~。私、感動しちゃったよぉ、えへへ…。」 「泉先輩、凄かったっス!それに、かがみ先輩の応援で抜くってのも…ウフフ…って、自重しろ私!」 「ミナさん、グレイト!ファンタスティーク!本当に、おめでとうございマス!」 グラウンドの真ん中で、全員入り乱れて優勝の喜びを分かち合う。 ちょっと羽目を外してるけど、たまにはいいわよね? 『はい、そろそろ落ちつこうかー!後でやってくれ、後でー!』 スピーカーから黒井先生の声が、若干の苛立ちを含めながら、グラウンドに響く。 でも、ふと先生の顔を見てみると、怒っておらず、どこか笑っているようにも見えた。 私達は苦笑いしながら、こなたやみゆき達を残して、急いで元いた場所に戻る。 これで失格とかにされたら、たまったもんじゃないしね。 『今の競技の順位を発表するで!第5位バレー部!…第4位テニス部!…第3位サッカー部! …準優勝、陸上部!…そして優勝は無所属!!』 優勝と宣言され、前には出ないけれど、私達は再びその場で大きな声で喜びを表した。 …な、何を叫んだのかは想像に任せるわよ、恥ずかしいしね。 『あー、ちなみに言うとくとな、元陸上部こそ1人居るが、後の三人は帰宅部やで!』 その言葉と同時に、あちらこちらで驚きの声があちらこちらから上がり、変な盛り上がりを見せている。 無理もないかもしれないが、選手全員が元運動部なり学外活動者なりだと思われていたのだろう。 といっても、みゆきは委員長でそこそこ名が知れているし、みなみちゃんは1年生。 こなたも一目見ただけじゃ運動が出来るように見えないし、趣味・性格を知ったら尚更だ。 更に注目を浴びたこなた達は、照れているのか反応に困っていたみたいで、そそくさと退場した。 私達も退場口の方へ向かい、こなたたちと合流した。 次に男子の部対抗リレーを行うため、こちらへの関心は薄くなっていた。 「皆、改めておめでとう!そして、お疲れ様。」 「皆さん、おめでとうございます!疲れたでしょうから、これ良かったら飲んでください。」 そうして私とゆたかちゃんで飲み物を入れたクーラーボックスを開ける。 一番に飛びつく人物を大体予想すると、おそらくみさおとこなたの二人だろう。 「おぉ、助かるぜ!んじゃ、私はスポーツドリンク~」 「こら、みさちゃん!もぅ、ごめんね、きょうちゃんにゆたかちゃん。」 「いえいえ、皆さん好きなのを取ってください!みなみちゃんは、確かこれだよね?」 「うん。ありがとう、ゆたか…。」 「高良先輩もどうぞ!田村さんとパティちゃんも好きなの選んで~。」 「私らもいいんスカ?じゃあ、遠慮なく…どれにしよっか、パティ?」 (あれ?こなたの反応はなしか…それとも悩んでる?) 「ほら、こなたにはどうすんの?あと、良かったら、つかさとあやのも好きなの取ってよ。」 「そう?なら、お言葉に甘えようかしら。」 「いいの?それじゃあ、どれにしようかな…。あ、こなちゃんの方が先だよね。」 「そうね、こなたさんから選んで?」 その時、突然こなたがフラッとしたかと思うと、私の胸に倒れこんできた。 「っ?!ちょ、ちょっとこなた、みんなの前でなに…を…?」 どうもおかしい。腕に力も入ってないし、目を閉じていて全く反応がない。 半ば恐怖にも似た衝動を受けて、体中から嫌な汗が一気に噴出す感覚を覚える。 「こ、こなた?ねぇ、こなた大丈夫?!……っ…こなたぁ!!」 「かがみ先輩、落ち着いてください!私が診てみますから!」 みなみちゃんが、彼女とは思えないほどの大声で私を制止した。 私はその声にハッと我に返り、みなみちゃんにこなたを委ねた。 「っ…。ご、ごめん。」 「…おそらく、疲労でめまいを起こし、気を失っただけだと思います…。ゆたか、一応ふゆき先生に…」 「う、うん、分かった!」 ゆたかちゃんが小走りでふゆき先生のいるテントに向かっていく。 「かがみ先輩、そちらの肩をお願いできますか?保健室まで連れてくので…。」 「あ、うん、分かったわ。」 ☆★☆ 「ちょっとした貧血ね。寝不足と過労が重なって、たまたま気絶しただけだから、安心して柊さん。」 「良かった…。先生、ありがとうございます。」 みゆき達のおかげで私は何とか落ち着くことが出来たし、今のふゆき先生の言葉でかなり安心した。 でも、さっきの恐怖とも言えるおぞましい感覚が頭から離れないし、それに動揺した自分も情けない。 こなたは今、保健室のベッドで寝かせているが、今のところ目は覚ましていない。 「これが仕事ですからね。それにしても凄い走りっぷりね。まさに満身創痍って感じだったわ。」 「そうですね。私もあんな泉さんは初めてみましたから。」 「だよなー。体育祭の時も見てたけど、そんときは軽い感じだったしな。一着だったけどよ。」 「私もお姉ちゃんがあんなに必死なの見たことないかも…。」 「ゆたかも…?」 「うん…私が見てた中ではないと思う。かがみ先輩は?」 「私もない…かな。」 ゆたかちゃんに聞かれて、改めて考えてみても今までには無かった。 あいつの第一印象としては自己中心的だと思われがちだが、実はその正反対である。 人一倍、周りがどうすれば楽しめるか、どうすれば笑っていられるかというのを考える。 時に悪ふざけや、自分の趣味が入るが、許せる範囲で行っているし、それもあいつなりの気配りだ。 だけど、何かに対して真面目であったとしても、必死だったのを見るのは初めてだった。 「私は他にけが人がいるかもしれないので、一旦グラウンドに戻りますね。またここに戻ります。」 『はい、ありがとうございました(ありがとうございます)。』 そう言ってふゆき先生は立ち去って行き、みなみちゃんが私の方へ進んできた。 どこかバツが悪そうにおずおずと私の前に来て、何故か頭を下げてきた。 「かがみ先輩、先ほどは叫んだりして失礼しました…」 「ううん、むしろ私がお礼を言うべきよ。ありがとう、みなみちゃん。助かったわ。」 「い、いえ、あの、お役に立てて良かったです…。」 まだ素直に褒められるのに慣れていないのか、顔を少し赤らめて俯いてしまった。 でも、彼女に助けられたのは事実であり、混乱した状態のままだったら、どうなっていたか分からない。 「でも、かがみさんがあそこまで取り乱すとは思いませんでした。」 「ごめんねみゆき、迷惑かけて。それと、ありがとう。」 「いえ、泉さんが無事でなによりですし、恋人が倒れたなら仕方がない反応でしたから、ね。」 「えっ?!い、いや…あー、もう茶化さないでよ!」 ふふっ、と笑ってみゆきはそれ以上何も言わなかくなったが、元気付けてくれたんだろうか? 「ひいらぎぃ…ごめんな、ちびっ子に無理させちまって…。」 「何言ってんの、みさおのせいじゃないわよ。寝不足って言ってたから、多分遅くまでゲームでもしてんたんでしょ。それと、苗字に戻ってるわよ?」 「…サンキューな、かがみ。でもやっぱ練習がきつかったかな。」 「いえ、そんなことないですよ。あれぐらいやらないと、運動部の方には勝てませんから。」 「…(コクリ)…」 「そっか、ありがとな。今回優勝できたのは皆のおかげだな。特にちびっ子に助けられたよ。」 みさおはちらりと寝ているこなたの方を見る。確かにそうかもしれない。けど…。 「それは日下部さんも含めて、ですよ?色々と教えてくださらなければ、おそらく負けてましたから。」 「そうね。いろいろ合ったけど、あんたも十分貢献してるわよ。」 「そっかぁ?…そういわれっと、なんか照れくさいな。でも、こういう話はまた今度だな。」 「そうだね、お姉ちゃんが元気になったら、だね。」 ガチャ 「皆、盛り上がってるところ悪いんだけど、詳しいことはまた今度にしましょう。そろそろ閉会式よ?」 ふゆき先生が戻ってきて、私達にそろそろ戻るように促してくれた。 おおとりの競技である部活対抗リレーが終わったことだから、おそらくもう始まる頃だろう。 「でも、お姉ちゃんは…。」 「心配しなくても大丈夫よ、小早川さん。泉さんは私がちゃんと見てるから安心してください。」 「桜庭先生や黒井先生には…」 「大丈夫よ、全員の担任と立木先生にも言ってあるわ。ほら早く行ってらっしゃい。」 「それではふゆき先生、失礼しますね。」 ――― そうして私達は一時的に保健室を出た。 グラウンドではすでに閉会式および表彰式が始まっており、部対抗リレーの各部の代表が呼ばれていた。 最初は中学女子、中学男子となっていて、今は中学男子を丁度終えたところだった。 『高等部女子優勝、無所属代表、泉こなた…失礼しました、代表代理、日下部みさお、前へ。』 そうしてみさおは前へ出て表彰を受けて、よっしゃーと言っていたけど、どこか寂しげだった。 それはみさおに限らず、私達全員が、それにつかさ達もそう思っていたはずだ。 私はその閉会式の間、まさしく心ここにあらずであって、こなたのことばかり考えていた。 ☆★☆ 既に閉会式が終わって1時間が過ぎた。皆も起きるまで残るといったが、私が止めたので誰もいない。 全員でこの部屋にいるのはあまりにも狭いうえに、大勢いても仕方が無い。 こなたが起きた時も、人が多いほど迷惑や心配をかけたと思うだろうから、私1人が残ることにした。 ふゆき先生もそれに賛成し、先生と私だけでしばらくこなたを看ていた。 しばらくして先生は職員室に行って、私達の親に再度改めて電話してくるといい、出て行った。 生徒はほとんど帰宅し、ふゆき先生がいない今、私はまだ起きないこなたと二人きりで保健室にいた。 「………」 「………」 私とこなた、二人だけの空間。いつもなら茶化してくるあいつは、今は何も言わない、いや言えない。 頬を突っついてみたが、反応なし。さっきから更に30分近く経っているが、まだこいつは起きない。 前にうさぎに例えられえた記憶があるけど、私は言われた通りの寂しがりや。 もちろん素直にそんなことを言える性格じゃないが、自分では認めている。 だから、こなたが倒れた時、こなたがいなくなるような感覚を覚えてしまった。 それは恐怖を遥かに凌駕する感情で、一瞬、心を握りつぶされたような激痛が走った。 そして、今また二人になったこの空間の静けさのせいか、それがじわりじわりと蘇ってきた。 段々と痛みが増すその感情に耐えられなくなり、思わず声が出てしまう。 「……ぅっぐ!…ぃうっ……っぁ…こな……た……いな、くなっ…たら…嫌、だよぉ……こなたぁ!」 「う~…もう少し寝かせてよ…。」 「…うっ…こ、なた?ひぐっ、あ、あんた、起きてたの?」 「んー、かがみが「私だけが残る」って言った時かな?…気絶しただけなのに大袈裟なんだから。」 「それならそうと、ぅっ、早く起きなさいよ!」 「いやぁ、昨日は深夜アニメとかで遅くなって、眠くてさぁ。それでちょっと仮眠を~」 ひょうひょうと言うこなたに、ついイラッときてしまう。 「あ、あんたねぇ!どれだけ皆に心配かけたと思ってるのよ!…それに私…怖かったんだから…」 「そ、それは私が悪かったよ、謝るって。…でも、怖かったって何が?」 「…あ…たが……ったら…」 「うん?聞こえないヨ?」 「あんたがいなくなったらと思ったら怖かったつってんでしょ!!…っ…。」 「か、かがみ?!」 色んな意味を含めた恥ずかしさと想いが爆発して、つい叫んでしまった。 そして心の傷が再び開くように、その一粒一粒がこなたへの想いの様に、目から涙があふれ出てくる。 こなたは「え、何で?!」というように、驚いた顔で私のほうを見ていたが、次第に暗い表情になり、 「かがみ…心配かけてごめん…。でも、私はここにいるから…その、もう泣かないでヨ。」 「…な、泣いてなんk…!」 嘘がバレバレでも強がってみせようとすると、こなたにぐいっと抱き寄せられ、 その次には、心地よくて暖かい体温が伝わり、少し汗臭いけど安心できる匂いがする。 心の傷をこなたが体を張ってふさいでくれたみたいに、途端に痛みが和らいだ。少しずつ癒えていく。 「ほら、これで落ち着いた?…さっきは茶化してごめんネ。私は常にかがみと一緒だからさ、安心して。」 「ば、ばかぁっ……」 お互い無意識に顔を近づける。段々と慣れてきたこの行動にも、やはりまだ少し恥ずかしさは残る。 ただ、今はもう不安も恐怖も残っていない。こなたがいる。それだけで十分に気持ちが安らぐ… ガチャッ 「もう泉さんは起きられました…か?あら、お取り込み中だったかしら?」 突然の音に慌てて顔を離したが、それでもお互いから相当近いところにある。 こんなときの言い訳を私は知らないし、私の頭は一時的にフリーズしていて考えられない。すると、 「あ、いや、かがみが目にゴミが入ったみたいで、それを取ってあげてたんです!ほら、目が赤くて涙 目になってますよね?今さっき取れたとこなんですよ~。」 「あらそうだったの、ごめんなさいね。それで泉さん、体調の方はどうですか?」 「今はもう大丈夫です。まだ元気じゃないですけど、意識ははっきりしてますヨ。」 こなたが上手く誤魔化してくれたみたいで、先生も納得したから、私はひとまず安堵する。 「なら一安心ね。疲労もあるけど寝不足が主な原因だから、夜更かしはほどほどにしましょうね?」 「…できるだけ善処します。」 「泉さん?」 「うっ…はい…分かりました。」 「でも、長く抜けてごめんなさい。泉さんの親がしきりに心配するものだから、長くなってしまって。」 「おとーさんったら…。」 「ふふっ。でも、起きたことだから、また電話しなきゃならないわね。…それじゃあ柊さん」 「は、はいっ!」 (これじゃあ明らかな挙動不審じゃない!何やってるのかしら、私は…。) 「彼女の荷物を代わりに持って帰ってあげられるかしら?まだふらふらする可能性はあるので。」 「あ、わ、分かりました。」 「それじゃあ気をつけて帰ってね。寒いので、風邪などにも気をつけて。」 『ふゆき先生、ありがとうございました。』 こなたと共に、保健室を後にした。 ――― しばらく無言で廊下を歩いていたが、こなたが先に口を開いた。 「…さっきの言い訳、中々だったっしょ?もう、パーフェクトだったよね~。」 「確かに上手く誤魔化せて、良かったわ。」 「これも全てギャルゲーの賜物だよ~。」 「やっぱそれか。ギャルゲーでも、何もやってないよりはいいことあるのね。」 「えっへん!かがみもやってみなよ~、いいことあるかもよ?」 大して無い胸を張って、いかにも素晴らしいことだと言わん態度だ。 「えばるな!そして、誰がやるかぁ!」 「えぇ~、私のことを知るためにもやってよ~。」 「う、うるさい!漫画はともかく、ギャルゲーはむ、無理よ!」 「あれ~、なんでそんなに顔を真っ赤にしてるのかなぁ?」 「あ、当たり前でしょ!だって、ああいうのって…って、言わせんな!」 「私、ギャルゲーって言っただけで、だれも18禁とか言ってないんだけど?」 「うぐっ…」 毎度のパターンで引っかかる自分に、いい加減学習しろと言いたいが、どうやっても勝てない気がする。 「もう、かがみんはすぐそういう考えに…」 「う、うるさーい!!大体、あんたがいつもそういうのやってるから、そんなイメージがあるのよ!」 「だから、かがみ声が大きいって…でも、元気になった?」 急に真剣になった顔をこちらに向けて、下から可愛らしく覗き込んでくる。 一瞬どうしていいのか分からず、頭が混乱しかけながら言葉を発した。 「えっ?!あ、あんたはいつもそうやって、唐突に……でも、ぁ、ありがとう。それにあんたは?」 「う~、ナイスツンデレだネ!いやぁ、嫁が元気になってよかったヨ。私は良く寝たから平気だし♪」 「ひ、人が素直にお礼してるんだから、茶化すな!全く、もう…。」 下駄箱まで来ると、寒さが一層身に染みてくる。私はコートの前をきつくしめて、靴を履く。 荷物が多い分、こなたより少し遅れて外に出て、待っていたこなたの横に並ぶ。 「…でも…」 「…ん?」 また真剣な眼差しに戻ったこなたを見て、さっきと同じ光景のような気がした。 今度はどうこなたが言ってきても、引っかかるまいと覚悟を決めたのだが…。 「さっきは心配してくれてありがとね。あそこまで心配してくれるなんて思ってなかったからさ。」 「へっ?!と、当然でしょ、そんなの…。」 「ううん、かがみのことだから、寝不足だってからかってくると思ってたから、ちょっと意外だった。」 「…私はこなたが思ってる以上に脆いのよ…。」 「うん、分かったよ。」 「本当に?」 「かがみに嘘ついたことある?」 「…いや、あるだろ。」 「真剣に話してる時は?」 「…ない。」 「じゃあ、真剣になってる間に、も一つ。」 すすっと私の前に躍り出たと思ったら、私の手をそっと握ったから、私は緊張して体が強張った。 走っているときの目とはまた違った、真剣な眼差しで私を見てくる。 そのエメラルドグリーンに捉えられ、じっとしていると、少し間をおいてこなたが口を開いた。 「次の春から、私と一緒に…同じ屋根の下で暮らしてくれないかな?」 私はその言葉に思わず固まってしまった。拒絶とかではない、嬉しさによる驚愕。 つまり、大学生活に入ると共に、一緒に暮らさないか、同棲しないかということだ。 こいつのこの目を見て「本当に?」とも聞けない、かといってなんと言えばいいか…。 ただ、こなたを不安にしないように、思いついたことをとりあえず聞いてみる。 「つ、つまり同棲ってことよね?出来たら嬉しいわよ。でも、親にも聞かないといけないし…」 そう言うと思ったといわんばかりに、こなたは言葉を返してきた。 「その心配はないよ、かがみ。ご両親にはお父さんから伝えて、あらかじめOK貰ってるからね。」 「え、本当?!全然知らなかったわ…。あ、でも…大学が…」 「それも心配ご無用!今日は何日かな?」 私はすぐに携帯を取り出し、日にちを確認する。 といっても、今日の行事は土曜日に設定されているから、ほとんど分かっていた。 「え?えっと、今日は、3月1日…」 「そう。そして、私が合格した大学はというと…ボソボソ」 「ふえっ?え、ええええぇ!!」 「むふっ、驚いた?もちろん文学部だけどね♪」 こなたが私につぶやいたのは、私がこの春から行くのと全く同じ大学だった。 それは偶然な訳が無い。おそらくこなたが私に合わせて大学を選んでくれたのだろう。 学部によって受験日も違えば、合格発表も違う。だから、気付かなかったのもある。 でも、住もうと言っている場所の近くの大学だと思っていたから、まさに不意打ちだった。 こんなに幸せでいいのかしら?まるで、誰かが自分の幸せを分け与えてくれたほど…。 「嬉しすぎて涙が止まらないわよ…私…自分の希望の大学ばかり考えてた…。」 「何言ってんの!私が望んでたのはかがみと同じ大学だし、それに導いてくれたのはかがみだよ?」 「っ、そうかもね。…でも、良くおじさんが許してくれたわね。絶対許さないと思ったけど。」 「〈かがみとの同棲を許す〉これが、私が今回おとーさんに賭けた物。そして、無事に手に入れたもの。」 私の胸にまた熱いものがこみ上げてくる。 こいつは、こなたは私のために必死に勉強したんだと思うと、堪えられなかった。 半泣きの状態になりながらも、話を続ける。 「も、もぅっ、あんた格好良過ぎるのよ…。っ…リレーの時も、今も…」 「うん~?心奪っちゃった?惚れ直したりした?ねぇ、ねぇ♪」 「う、うるさい!それに、とっくに奪われてるわよ、惚れ直す必要なんてないほどにね!」 急にいつもどおりのこなたに戻って、慌てた私はやけになってしまった。 言った後に、自分の恥ずかしい台詞に気付き、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。 いつまで経っても、こなたの返事が無いから振り向くと、こなたまでもが顔を赤くしていた。 「あうぅ、その顔と態度は反則だよ、かがみん…。さすがツンデレ…今、クラッと来たよ…。」 「そ、そんなに?!まだ体調が万全じゃないんだから、気をつけないと。」 「そうさせたのはかがみだし…。」 「私のせいかい!はいはい、どうせツンデレですよ。」 「あれ?いつもなら〈あんたの寝不足が悪いんでしょ!〉って突っ込むのに…どったの?」 「(ぐっ、鋭いわね…。)い、いや、あんた体調悪いし、そう言うのも悪いかなぁって思ったのよ。」 「本当にぃ~?目、宙を彷徨ってるよ?」 私のことをよく見てくれるのはいいんだけど、こういうときは見逃して欲しい。 素直に言っても、ダメージを受けるのは私じゃない、こなたの見栄をバラすだけ。 …ならいいかな? 「あ、あんたがリレーのために道場に通ってたって聞いたから、責めたら可哀想かなって…」 「なな、な、何で知ってるの?!ひょっとしてゆーちゃんが口滑らせた?!それともおとーさん?!」 「誰から聞いたかは関係ないのよ。ただ、なんであんたがそれを黙ってたかってこと。」 「うぐぅっ…いや、まぁ…何か格好悪いじゃん?それに、恥ずかしいしさ…。」 「ふふっ、格好悪いところまで見せてくれたっていいじゃないの。見れた方がいいしね。」 「…何か台詞がギャルゲーっぽいよ?」 「うっさい、茶化すな!…でも、あんたらしくないわね、そんな理由で隠すなんてさ。」 「そ、そうかな?」 「他に何かあるんじゃないの?」 明らかに何かまだ隠してるけど、言うのを躊躇しているようで、とにかく待つ事にした。 言いたくないというより、言ってもいいのか迷っているように見えたからだ。 風の音や扉が軋む音しか聞こえない静けさの中で、少しの間を挟んで、こなたは意を決し、口を開いた。 「…うぅ…それが、今回のリレーで勝つのも同棲の条件の一つだったんだよ…。だから、ね。」 「そ、そうだったの?でも、大学は普通に合格したのよね?」 「そうなんだけど、あまりにもあっさり過ぎて、おとーさんが往生際悪くってサ。」 「やっぱりただでは許さなかったわけね…あのおじさんなら何となく分かるけども。」 「と、とにかく、その…これから一つ屋根の下、ヨロシクね!私のお嫁さん!」 「あら、柊さんがお嫁さんなの?」 「いや、だ、だからこなたの方が嫁だし、恥ずかしい台詞は…!!って、あ、天原先生?!」 「ふえっ?黒井先生に桜庭先生まで?!」 少し離れた場所ではあるが、大声でなくても声が聞こえる場所にいるのは、他でもない先生方3人。 小声で話したことまで聞こえたか不明だが、あの様子からだとある程度は聞かれている。最悪全て。 また1人、いや2人、打ち明けるべき人が出来てしまったようだ。 黒井先生は事情を知っているからいいか…って、なんでそんなどす黒いオーラを?! 「お前らなぁ…イチャイチャすんのはせめて学校の敷地出てからにし! 何が悲しゅーて、学校内で生徒同士のラブラブっぷりを見せられなきゃあかんねん!」 「ちょ!先生、私らは別にそんなんじゃ…!」 「残念ながら話は全て聞いていたし、黒井先生にも補足を入れていただいた。な、ふゆき。」 「だから、学校内では天原先生と…。でも、桜庭先生のいう通り、聞いてしまいましたね。」 「はうぅ、黒井先生、口が軽すぎますよ…。」 「何を言うとんねん。誰に知られても気にしないんやろ?それに、補足するまでもなかったしな。」 「それはそうですけど…変な補足は入れてないですよね?」 「少しは信用しーや、変なことは言うてへん。それに、この2人は反対する気はないしな。」 「まぁ、それは2人を見てれば分かりますけど…」 「あの泉さん、私達は別にそういう関係ではありませんよ?」 「え?いや、2人の私達に対する反応を見てれば、って意味だったんですけど…」 「ただ、私のほうは何回か結婚申し込んでるけどな。男の人に言えって、毎回断られるが。」 「先生…自分で言ってて、みじめになりませんか?」 「んまぁ、私みたいなのを世話してくれんのは、ふゆきしかいないから、特にみじめにはならんな。」 「くぅ、相手が居ないのはうちだけかいな!」 「ですから、桜庭先生のそれは冗談であって、私達はそういう関係では…。」 そんなやりとりを繰り替えし聞き続け、収拾が付くまで数十分かかった。 …でも、私達の関係に激しく反対する人はいないのだろうか? 居てほしくないけど、当たり前みたいにスルーされるのも違和感があったりもする。 「で、どこまで進んだんだ?」 「ぶっ!」 「ちょっと桜庭先生、なんてことを聞いてるのですか?」 「でも、少し気になるさかい、言うてみ。」 「もぅ、黒井先生まで…。」 桜庭先生と黒井先生が詰め寄ってくる。 天原先生も言葉では止めてるけど、教師の立場上しかたなくといった感じだ。 教師の立場すら忘れて聞こうとしてくる残り二名に関しては、あえて何も言わないで置こう。 それより、私達がこの場をどう切り抜けるかだ。どうすればいいか、こなたに訪ねようとしたら、 「こなた、どうすrんんっ!!」 キスされた。 「んっ…ふぁっ、ここまでですね~。んじゃ、私らは行きますんで、さようなら!行くよ、かがみ♪」 「はぁ…っ!って、こなたぁあ!!!こんの、待ちなさい!いっぺん殴るわよ!!」 少し遅れて、私は鈍った頭を起こし、すぐさまこなたを追いかける。 「青春っていいもんだなぁ」とつぶやく桜庭先生、「あらあら」と微笑む天原先生。 そして「くぅ~、ウチだって、ウチだってぇ!」と嘆いてる黒井先生をおいて。 「結局、いつものパターンじゃないのよぉ!!」 おまけ こなたとかがみのやり取りを見下ろす、1つの人影。 その目に写るのは、一発の制裁を食らいながらも、笑って話を続けるこなたと、顔が真っ赤のかがみ。 「うふふっ、元気そうで良かったわ。今回はちょっとだけ、手を貸しちゃったけど、いいわよね? あの人が元々は悪いんだし、こなたも皆もあんなに頑張ってたんだもの。それに…」 風が吹いて、言葉がかき消される。元々、誰の耳にも届くことは無いけれど。 (それに、娘をあんなに想ってくれる人がいるんだもの。二人には幸せになって欲しいじゃないの。) - Fin - **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b &br()ほんとに素晴らしい作品ですね!心の底から感動する事が出来ました! -- 名無しさん (2023-02-01 21:04:25) - こなかがssの中でも5本の指に入る良作ですね!! -- 名無しさん (2012-11-12 00:43:18) - 良作すぎる・・・ &br()長さの割に一気に読めた、GJ -- 名無しさん (2011-05-12 23:56:46) - バトンこなたに渡したのはかなたさん? -- 名無しさん (2011-01-19 00:55:10) - かなたお母さんだったんですね、こなたの背中を押したのは。 &br()まぁ母親として娘には誰よりも幸せな人生を送って貰いたいでしょうから。 &br()娘が心から望んだその相手との。 -- こなかがは正義ッ! (2009-01-21 22:40:31) - このニヤニヤ顔が明日までに治ればいいが… -- 名無しさん (2008-10-14 02:16:03) - こなたのかっこよさと、かがみの乙女なところに萌えまくりながら、GJを贈らせていただきます -- にゃあ (2008-10-13 08:22:36)

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