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決戦はバレンタイン!前日編」(2023/01/06 (金) 17:16:15) の最新版変更点

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「べ、別にあんたの為に作ったんじゃないからね!偶然家にチョコが沢山あっただけで…」 「お姉ちゃん、そろそろチョコ固まるよー!」 「はぁ、これじゃあまさにツンデレじゃないか…」 「あれ、何してるの?」 「ここはやっぱり素直に押していくべきか…」 「お姉ちゃん?」 「こなた、好きよ…。これ、受け取ってくれる?」 「ど、どんだけー!?」 「『ありがとう、かがみ。私もずっとかがみのこと…』」 「あのー…」 「そしてそのまま二人は…なーんてっ!ふふ、何だかこんなの恥ずかしいじゃなーい!!」 「あのさ、お姉ちゃん…取り込み中悪いけど、そろそろいいかな?」 「あー、はいはい………っでえぇぇぇ!!!!つ、つかさっ!?あんた何時からいたのよ!」 「さ、さっきからずっといたけど…」 「う、嘘………?」 「………」 「つ、つかさ…?」 「『ありがとう、かがみ。私もずっ「のぉぉぉ!!それ以上は何も言うなぁぁぁ!!」 ―――決戦はバレンタイン(前日編)――― つかさにチョコレート作りを教えてもらって、もう13日目になる。明日はいよいよ…バレンタイン本番。 私が作ると決めていたのは生チョコ。 美味しい割に簡単に作れると奨められたのだが、それはつかさや料理が得意な人に限ってのことで…私には苦難の道程だった。 「チョコ、ちゃんと固まってるかなー?」 「そ、そんなの知らないわよ…見てみないと」 「お、怒らないで、お姉ちゃん。真似したことなら謝るから…」 「別に怒ってないから。そしてこれ以上傷を掘り返すな…」 つかさの言葉にさっきまでの一人芝居を思い出し、頭が痛くなる。私ってば相当疲れてるのかもしれない。思えばこの二週間、本当に大変だったもん…。                         ―――。 まずはやってみないと…と決め込んだのはいいけど、つかさによる完璧な生チョコ作りの工程を見せつけられた私は、何一つ手を動かすことが出来なかった。 頭では何と無くイメージが浮かんでも、身体が何のコマンドも実行しなかった。いや、寧ろコマンドが無かったと言った方が適切かもしれない。 そんな私が最初にとった行動は… 「つ、つかさ…湯煎ってどうやるの?」 「えーとね、湯煎はボウルを二つ用意して…一つにお湯、もう一つに刻んだチョコを入れるの」 「ふむふむ…」 「それから…チョコが入ったボウルをお湯が入ったボウルに浸けるんだよ。じゃあ簡単にチョコが溶けるから」 「ああ!だからボウルが二枚重なってたのか…」 「うん。これが湯煎だよー」 もう一度説明を聞くことである。 細かいところまでしっかり聞けば、きっと私の脳でも理解してくれると思ったから。 「そうそう、生クリームが液状だったのはどうして?」 「あれはねー、生クリームは元々液状だから、泡立て器でホイップ………つまり混ぜるとクリーム状になるんだよ」 「なるほどー」 「他に何か分からないことある?」 「冷やす時に紙を敷く理由は?」 「あれはね…」 私は…とにかく工程を覚えることだけに集中した。 それだけじゃ何が何なのかよく分からないので、頭の中で何と無くシミュレーションもしながら。 不得手なことは全く理解する気配を見せない辺り、私もこなた達と大して変わらない、欲望に貪欲な脳をしていると思う。 「…と、こんな感じかな?」 「ふーん、流石は料理が得意なだけあるわね」 「得意だなんて…。私は料理が好きなだけだよ」 「そっか…」 「まだまだ時間はあるからさ、頑張ってこなちゃんに美味しいチョコ作ってあげようね!」 「う、うん…」                         ―――。 こんな感じで、何から何まで一からのスタートだった。 え?…実際にチョコを作っている時の私の描写が割愛されてるって? そんなの、説明する必要なんてないじゃない。 も、もも…問題なんて、何一つ無かったもの。 家の壁紙の色が全体的にちょっと茶色くなって、この二週間は家の辺りで異臭騒ぎが起きたりしたけど…わ、私には関係ないんだからね! 「じゃあ、いくわよ…」 「うん…」 冷蔵庫の扉に手をかけ、私達はお互いを見遣る。 あぁ、神様。どうか上手くできていますように…。 意を決して冷蔵庫の扉を開く…。 「………」 「………」 その途端、私達は言葉を失った。 チョコを固めていた容器は、他の物と重なった状態になっていた。 簡単に言えば、容器が傾いて…固まったチョコの表面は斜めになっている。 それどころか、チョコは少し零れてるし。 「…あは、あはは」 「お、お姉ちゃん?」 私の渇いた笑い声に、つかさはどうしたのかって感じの声を上げる。 だって、最後でこんなことになるとは思わなかったから…笑うしかないでしょ?私が、もっとちゃんと確認してれば良かったのに…。 「だ、大丈夫だよー!とりあえず最後まで作ろうよ…ね?」 「………」 つかさは容器を取り出してテーブルに置き、私に包丁を手渡した。私はただ呆然としながらチョコを切る。つかさはその間にココアパウダーを用意していた。 改めて小さく切られたチョコを見てみるけど…ああ、やっぱり変。表面からでも分かるけど、横から見たらあからさまに分厚さが違うじゃない。 「…これ、生チョコよね?」 「そ、そうだよー」 「傾いてるよね…」 「う、うん…」 「形、変だよね…」 「で、でも美味しいよ!ほら、お姉ちゃんも食べてみれば…」 つかさは端っこの薄っぺらい部分を口に運んでいる。味は確かに美味しいと思う。だってつかさが作り方を教えてくれたんだから。 だけどこの形は…この形だけ許せなかった。 たった一人の大好きな人にあげるんだから、やっぱり完璧なものが良かった。 「はぁ~…もういいわ」 「へ?」 「コンビニでチョコ買ってくる」 「そ、そんな!お姉ちゃん、頑張って作ってたのに…」 「いいのよ、どうせ私には無理だったんだから…。じゃあつかさ、申し訳ないけど後は頼むわ…」 「お姉ちゃん…」 つかさが残念そうにしながら私とチョコを交互に見ていた。つかさは誰よりも協力してくれて、助けてくれていたから…本当に本当に申し訳無かった。 私はこれ以上つかさを見ていられなくて、そそくさと家を出た。 外に出ると、パラパラと雪が降り始めている。それらは街灯に照らされて、暗い空を神秘的に色付けていた。 その中を傘をさしながら一歩ずつ進んで行く。 吐く息はとても白く、私の頭の中のモヤモヤも一緒に吐き出せならな…なんて思ってしまう。 折角二週間も頑張ってきたのに、それが最高の結果で報われることは無かった…。 「やっぱり私には、料理のセンスがないのか…」 悲しい独り言を呟きながら、目の前に見えたコンビニに入る。 中にはでかでかとバレンタイン特設コーナーが作られており、私への当て付けのように沢山のチョコが並んでいた。 「うーん、どれが良いかなぁ?」 流石、自分で作るのとはワケが違う。チョコの種類だけでもホワイト、抹茶、ストロベリーなど沢山あり、更にはチョコケーキやクッキーなど、私の考えを逸脱したチョコ菓子が揃っていた。 私はその中から、9種類のチョコが詰め合わせられた箱を手に取った。 赤い包装紙にピンクのリボンが綺麗に映えて見える。それだけでなく、色んな種類のチョコが入っているのはとても魅力的だ。それに1番無難な感じもする…。 「これでいいか…」 私は心の中で妙に納得しながらレジへ向かい、支払いを済ませる。 今ならバレンタインチョコ二つ購入で、三つ目が半額なんて書いてあったけど、私はすぐに店を出た。 相変わらず、雪は止むことなく降り注いでいる。 片手に安っぽいコンビニ袋を下げながら、私は家は黙々と向かう。 ふと、後ろから水を跳ねる足音が聞こえた。 気になって後ろを振り返ると、街灯に照らされて小さな人影が写った。 あの人影、どこかで見たことあるような…って! 「………こ、こなた?」 「あれ、かがみじゃん?こんな時間にどうしたの?」「そ、それはこっちの台詞だ!あんた何してんのよ!?」 「いやぁ、つかさに借りてた物があって…散歩がてらに返そうかと思ってね」 こなたは片方の手にビニールのバッグをさげていた。きっと漫画か何かだろう。わざわざ今返しに来る辺り、なんという偶然なんだろう。神様ってこういうところだけはちゃっかりしてるわね。 「散歩って、こんな時間に危ないじゃない…」 「むふー。かがみは心配してくれてるのかな?」 「ち、違うわよ!」 「ふーん。でもかがみだって危ないよね?」 「わ、私は………どうしても外せない用事があって」 こなたにあげるチョコを選びに行ってたなんて、とてもじゃないけど言えない。だけどこなたは、私の袋をじーっと見つめている。 まさか…感づいたわけじゃないでしょうね! 「な、何よっ!?」 「用事ってー、コンビニに行くこと?」 「そ、そうよ!悪い?」 「いやいや、悪いなんてとんでもない」 「………」 こなたが特有の猫口をモゴモゴと動かしている。 そ、そんな目で見るなぁ!わ、私は別にあんたの為にコンビニに行ったんじゃ… 「かがみにとって夜食は命の次に大事だもんねー」 「は?」 「それ、おでんか何かでしょ?」 「はぁぁぁ!?」 「あれー、違うの?」 「違うわよっ!!勝手に変な印象をつけるなー!」 何よ、驚かさないでよ。 でも良かったわ、バレてなくて。…いや、ここは変なイメージがついていたことは嘆くべきなのか…。 そういえば、こなたは明日空いてるのかしら? バイトとか何とか言ってたよね、確か…。 「ねぇこなた、あんた明日はバイトあるの?」 「ううん、明日は無いけど…どうして?」 「いや、明日はバイト先で…バレンタインのイベントがどうこう言ってたじゃない?だからこなたもかなって…」 「私はそんなイベントに参加するの嫌だもん。興味ないよ…」 そう言ってこなたはつまらなさそうに空を見上げた。この子、前に教室で話していた時もこんな表情をしてたよね…。 「どうして?」 「何が?」 「どうして…嫌なの?バイトのイベント」 こなたは目線を私の方に戻し、フッと笑いかける。 何と無く優しい表情になったこなたは、私の全てを見透かしているようだった。 「だって、気持ちの篭ってないチョコを渡すのは…嫌じゃない?」 その言葉は、私の心に深く突き刺さる。 気持ちの篭ったチョコ、それはどんな物? こなたならどんなチョコを貰えれば嬉しいの? 形も味も良い、けど気持ちの無いチョコ? 形が悪くても、頑張って作られたチョコ? 「好きでもない人にあげたくないよ。仕事でも流石にねー」 「………」 私はどうすればいい? 形にこだわってばかりで、本当に大事な物…見失いかけてる。 みゆきにも言われてたじゃない。頑張って作れば、喜んでもらえるって。 それなのに…私の馬鹿。 「んー、どしたの?」 「そっか…」 「へ?何が…」 「…何でもない」 「か、かがみ?」 こなたは私の素っ気ない態度に、少し慌てたようなそぶりを見せている。 私の心で起きている葛藤、こなたには分かるハズがないもんね。 「…こなた、つかさに返す物貸しなさい。渡しておくから」 「え?でもかがみの家もうすぐじゃん?」 「いいから、風邪でも引いたら大変でしょ!あんたは早く帰りなさい!!」 「ぶーぶー。かがみの意地悪ー!」 「何でもいいわよ…」 こなたから荷物を取り上げ、私は全速力で家へ向かい駆け出した。 「あ、かがみ…」 「あんたも早く帰りなさいよー!じゃーねっ!」 こなたに振り返ることなく呼び掛け、私はひたすら走り続けた。 あんな言葉聞いたら…どうすれば良いか分からない。いや、本当は全部分かってるけど…どうしても踏み出せないよ    息を切らしながら、家の前に着く。風を切って走ったせいで、手がかじかんで仕方ない。 そっとドアノブに手をかけ中へ入ると、独特の甘い匂いが私の脳を刺激した。 「お姉ちゃん、お帰り」 「ただいま。はい、つかさ。これこなたから…」 私は自分のコンビニ袋を机に置き、こなたの持っていたビニール袋をつかさに差し出す。 「え…こなちゃんに会ったの?」 「うん。つかさに返す物があるからって、近くまで来てたみたい」 「そっかー」 つかさはまじまじと袋を眺めている。といっても、私のコンビニ袋の方だけど。 「…つかさ、チョコはどうしたの?」 「あ、さっきのやつ?」 「うん」 「それなら冷蔵庫に入ってるよ。勝手にココアパウダーしちゃったけど、良かったかなぁ?」 「…うん、ありがとね。」 私は冷蔵庫の扉を開けて、それを確認する。 綺麗にココアパウダーを塗されたチョコは、さっき見た時より格段に良く見えた。 「どうしよう…」 「何がー?」 「チョコよ、どっち渡そうかなって…」 「私には何も言えないけど、お姉ちゃんが決めたことなら反対はしないよ?」 「うん…」 決めるのは…私。 この不恰好なチョコを渡すか、買ってきたチョコを渡すか…二つに一つ。 優柔不断な私には未だどちらを渡すべきか決断出来ない。 「あ、そうだ。折角だからラッピングしようよ!」 「…そうね」 つかさは二週間前の買い出しで用意していた、チョコ用の箱、それに包装紙とリボンを取り出す。 包装紙の色は水色でリボンはピンクに近い、淡い紫色をしていた。 チョコをいくつか取り出し丁寧に箱の中に詰める。 そしてしっかりと蓋をして、包装紙で綺麗に包んでいく…もちろんつかさの協力を得ながらだけどね。 最後に、とびきり可愛く見えるようリボンを巻き、ラッピングが完成した。 「なかなか、綺麗になるもんね…」 「そうだねー。私、こんなの貰えたら絶対嬉しいなぁ!」 「…そうね」 「うん、そうだよ」 私は買って来たチョコと、今完成したばかりのチョコ、二つのバレンタインチョコを冷蔵庫にしまう。 「そういえばつかさ、あんたは何か作ったの?ていいか、私のせいで何も出来なかったんじゃ…」 「大丈夫だよー。お姉ちゃんのチョコを冷やしてる間にね、ガトーショコラを作ったの。ゆきちゃん喜んでくれるかなぁ?」 「そっか…みゆきなら喜ぶわよ」 「わーい!楽しみだなぁ」 つかさの作ったやつなら、絶対に美味しいからね。 きっと上手くいくわよ。 「じゃあ私はお風呂に入って寝るから…」 「あ、うん。私はもう少しやることあるから…それからにするね」 「いつも早く寝るくせに、張り切っちゃって。程々にしないよ、それじゃあね」「はーい」 明日はいよいよ決戦本番。一大決戦が幕を開ける。 愛しのこなたに捧げるのは、形崩れの想いか否か…。 その結果は…まだ誰にも分からない。 ―バレンタインまで、あと1日― -[[決戦はバレンタイン!当日編 >http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/406.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - かがみは不器用だから1日かかって一個やっと作った。 &br()という展開が俺の脳内で繰り広げられる -- 名無しさん (2008-07-04 22:25:55) - ・・・チョコって一日に一個しか作れないの? -- 名無しさん (2008-03-30 05:06:25)
「べ、別にあんたの為に作ったんじゃないからね!偶然家にチョコが沢山あっただけで…」 「お姉ちゃん、そろそろチョコ固まるよー!」 「はぁ、これじゃあまさにツンデレじゃないか…」 「あれ、何してるの?」 「ここはやっぱり素直に押していくべきか…」 「お姉ちゃん?」 「こなた、好きよ…。これ、受け取ってくれる?」 「ど、どんだけー!?」 「『ありがとう、かがみ。私もずっとかがみのこと…』」 「あのー…」 「そしてそのまま二人は…なーんてっ!ふふ、何だかこんなの恥ずかしいじゃなーい!!」 「あのさ、お姉ちゃん…取り込み中悪いけど、そろそろいいかな?」 「あー、はいはい………っでえぇぇぇ!!!!つ、つかさっ!?あんた何時からいたのよ!」 「さ、さっきからずっといたけど…」 「う、嘘………?」 「………」 「つ、つかさ…?」 「『ありがとう、かがみ。私もずっ「のぉぉぉ!!それ以上は何も言うなぁぁぁ!!」 ―――決戦はバレンタイン(前日編)――― つかさにチョコレート作りを教えてもらって、もう13日目になる。明日はいよいよ…バレンタイン本番。 私が作ると決めていたのは生チョコ。 美味しい割に簡単に作れると奨められたのだが、それはつかさや料理が得意な人に限ってのことで…私には苦難の道程だった。 「チョコ、ちゃんと固まってるかなー?」 「そ、そんなの知らないわよ…見てみないと」 「お、怒らないで、お姉ちゃん。真似したことなら謝るから…」 「別に怒ってないから。そしてこれ以上傷を掘り返すな…」 つかさの言葉にさっきまでの一人芝居を思い出し、頭が痛くなる。私ってば相当疲れてるのかもしれない。思えばこの二週間、本当に大変だったもん…。                         ―――。 まずはやってみないと…と決め込んだのはいいけど、つかさによる完璧な生チョコ作りの工程を見せつけられた私は、何一つ手を動かすことが出来なかった。 頭では何と無くイメージが浮かんでも、身体が何のコマンドも実行しなかった。いや、寧ろコマンドが無かったと言った方が適切かもしれない。 そんな私が最初にとった行動は… 「つ、つかさ…湯煎ってどうやるの?」 「えーとね、湯煎はボウルを二つ用意して…一つにお湯、もう一つに刻んだチョコを入れるの」 「ふむふむ…」 「それから…チョコが入ったボウルをお湯が入ったボウルに浸けるんだよ。じゃあ簡単にチョコが溶けるから」 「ああ!だからボウルが二枚重なってたのか…」 「うん。これが湯煎だよー」 もう一度説明を聞くことである。 細かいところまでしっかり聞けば、きっと私の脳でも理解してくれると思ったから。 「そうそう、生クリームが液状だったのはどうして?」 「あれはねー、生クリームは元々液状だから、泡立て器でホイップ………つまり混ぜるとクリーム状になるんだよ」 「なるほどー」 「他に何か分からないことある?」 「冷やす時に紙を敷く理由は?」 「あれはね…」 私は…とにかく工程を覚えることだけに集中した。 それだけじゃ何が何なのかよく分からないので、頭の中で何と無くシミュレーションもしながら。 不得手なことは全く理解する気配を見せない辺り、私もこなた達と大して変わらない、欲望に貪欲な脳をしていると思う。 「…と、こんな感じかな?」 「ふーん、流石は料理が得意なだけあるわね」 「得意だなんて…。私は料理が好きなだけだよ」 「そっか…」 「まだまだ時間はあるからさ、頑張ってこなちゃんに美味しいチョコ作ってあげようね!」 「う、うん…」                         ―――。 こんな感じで、何から何まで一からのスタートだった。 え?…実際にチョコを作っている時の私の描写が割愛されてるって? そんなの、説明する必要なんてないじゃない。 も、もも…問題なんて、何一つ無かったもの。 家の壁紙の色が全体的にちょっと茶色くなって、この二週間は家の辺りで異臭騒ぎが起きたりしたけど…わ、私には関係ないんだからね! 「じゃあ、いくわよ…」 「うん…」 冷蔵庫の扉に手をかけ、私達はお互いを見遣る。 あぁ、神様。どうか上手くできていますように…。 意を決して冷蔵庫の扉を開く…。 「………」 「………」 その途端、私達は言葉を失った。 チョコを固めていた容器は、他の物と重なった状態になっていた。 簡単に言えば、容器が傾いて…固まったチョコの表面は斜めになっている。 それどころか、チョコは少し零れてるし。 「…あは、あはは」 「お、お姉ちゃん?」 私の渇いた笑い声に、つかさはどうしたのかって感じの声を上げる。 だって、最後でこんなことになるとは思わなかったから…笑うしかないでしょ?私が、もっとちゃんと確認してれば良かったのに…。 「だ、大丈夫だよー!とりあえず最後まで作ろうよ…ね?」 「………」 つかさは容器を取り出してテーブルに置き、私に包丁を手渡した。私はただ呆然としながらチョコを切る。つかさはその間にココアパウダーを用意していた。 改めて小さく切られたチョコを見てみるけど…ああ、やっぱり変。表面からでも分かるけど、横から見たらあからさまに分厚さが違うじゃない。 「…これ、生チョコよね?」 「そ、そうだよー」 「傾いてるよね…」 「う、うん…」 「形、変だよね…」 「で、でも美味しいよ!ほら、お姉ちゃんも食べてみれば…」 つかさは端っこの薄っぺらい部分を口に運んでいる。味は確かに美味しいと思う。だってつかさが作り方を教えてくれたんだから。 だけどこの形は…この形だけ許せなかった。 たった一人の大好きな人にあげるんだから、やっぱり完璧なものが良かった。 「はぁ~…もういいわ」 「へ?」 「コンビニでチョコ買ってくる」 「そ、そんな!お姉ちゃん、頑張って作ってたのに…」 「いいのよ、どうせ私には無理だったんだから…。じゃあつかさ、申し訳ないけど後は頼むわ…」 「お姉ちゃん…」 つかさが残念そうにしながら私とチョコを交互に見ていた。つかさは誰よりも協力してくれて、助けてくれていたから…本当に本当に申し訳無かった。 私はこれ以上つかさを見ていられなくて、そそくさと家を出た。 外に出ると、パラパラと雪が降り始めている。それらは街灯に照らされて、暗い空を神秘的に色付けていた。 その中を傘をさしながら一歩ずつ進んで行く。 吐く息はとても白く、私の頭の中のモヤモヤも一緒に吐き出せならな…なんて思ってしまう。 折角二週間も頑張ってきたのに、それが最高の結果で報われることは無かった…。 「やっぱり私には、料理のセンスがないのか…」 悲しい独り言を呟きながら、目の前に見えたコンビニに入る。 中にはでかでかとバレンタイン特設コーナーが作られており、私への当て付けのように沢山のチョコが並んでいた。 「うーん、どれが良いかなぁ?」 流石、自分で作るのとはワケが違う。チョコの種類だけでもホワイト、抹茶、ストロベリーなど沢山あり、更にはチョコケーキやクッキーなど、私の考えを逸脱したチョコ菓子が揃っていた。 私はその中から、9種類のチョコが詰め合わせられた箱を手に取った。 赤い包装紙にピンクのリボンが綺麗に映えて見える。それだけでなく、色んな種類のチョコが入っているのはとても魅力的だ。それに1番無難な感じもする…。 「これでいいか…」 私は心の中で妙に納得しながらレジへ向かい、支払いを済ませる。 今ならバレンタインチョコ二つ購入で、三つ目が半額なんて書いてあったけど、私はすぐに店を出た。 相変わらず、雪は止むことなく降り注いでいる。 片手に安っぽいコンビニ袋を下げながら、私は家は黙々と向かう。 ふと、後ろから水を跳ねる足音が聞こえた。 気になって後ろを振り返ると、街灯に照らされて小さな人影が写った。 あの人影、どこかで見たことあるような…って! 「………こ、こなた?」 「あれ、かがみじゃん?こんな時間にどうしたの?」「そ、それはこっちの台詞だ!あんた何してんのよ!?」 「いやぁ、つかさに借りてた物があって…散歩がてらに返そうかと思ってね」 こなたは片方の手にビニールのバッグをさげていた。きっと漫画か何かだろう。わざわざ今返しに来る辺り、なんという偶然なんだろう。神様ってこういうところだけはちゃっかりしてるわね。 「散歩って、こんな時間に危ないじゃない…」 「むふー。かがみは心配してくれてるのかな?」 「ち、違うわよ!」 「ふーん。でもかがみだって危ないよね?」 「わ、私は………どうしても外せない用事があって」 こなたにあげるチョコを選びに行ってたなんて、とてもじゃないけど言えない。だけどこなたは、私の袋をじーっと見つめている。 まさか…感づいたわけじゃないでしょうね! 「な、何よっ!?」 「用事ってー、コンビニに行くこと?」 「そ、そうよ!悪い?」 「いやいや、悪いなんてとんでもない」 「………」 こなたが特有の猫口をモゴモゴと動かしている。 そ、そんな目で見るなぁ!わ、私は別にあんたの為にコンビニに行ったんじゃ… 「かがみにとって夜食は命の次に大事だもんねー」 「は?」 「それ、おでんか何かでしょ?」 「はぁぁぁ!?」 「あれー、違うの?」 「違うわよっ!!勝手に変な印象をつけるなー!」 何よ、驚かさないでよ。 でも良かったわ、バレてなくて。…いや、ここは変なイメージがついていたことは嘆くべきなのか…。 そういえば、こなたは明日空いてるのかしら? バイトとか何とか言ってたよね、確か…。 「ねぇこなた、あんた明日はバイトあるの?」 「ううん、明日は無いけど…どうして?」 「いや、明日はバイト先で…バレンタインのイベントがどうこう言ってたじゃない?だからこなたもかなって…」 「私はそんなイベントに参加するの嫌だもん。興味ないよ…」 そう言ってこなたはつまらなさそうに空を見上げた。この子、前に教室で話していた時もこんな表情をしてたよね…。 「どうして?」 「何が?」 「どうして…嫌なの?バイトのイベント」 こなたは目線を私の方に戻し、フッと笑いかける。 何と無く優しい表情になったこなたは、私の全てを見透かしているようだった。 「だって、気持ちの篭ってないチョコを渡すのは…嫌じゃない?」 その言葉は、私の心に深く突き刺さる。 気持ちの篭ったチョコ、それはどんな物? こなたならどんなチョコを貰えれば嬉しいの? 形も味も良い、けど気持ちの無いチョコ? 形が悪くても、頑張って作られたチョコ? 「好きでもない人にあげたくないよ。仕事でも流石にねー」 「………」 私はどうすればいい? 形にこだわってばかりで、本当に大事な物…見失いかけてる。 みゆきにも言われてたじゃない。頑張って作れば、喜んでもらえるって。 それなのに…私の馬鹿。 「んー、どしたの?」 「そっか…」 「へ?何が…」 「…何でもない」 「か、かがみ?」 こなたは私の素っ気ない態度に、少し慌てたようなそぶりを見せている。 私の心で起きている葛藤、こなたには分かるハズがないもんね。 「…こなた、つかさに返す物貸しなさい。渡しておくから」 「え?でもかがみの家もうすぐじゃん?」 「いいから、風邪でも引いたら大変でしょ!あんたは早く帰りなさい!!」 「ぶーぶー。かがみの意地悪ー!」 「何でもいいわよ…」 こなたから荷物を取り上げ、私は全速力で家へ向かい駆け出した。 「あ、かがみ…」 「あんたも早く帰りなさいよー!じゃーねっ!」 こなたに振り返ることなく呼び掛け、私はひたすら走り続けた。 あんな言葉聞いたら…どうすれば良いか分からない。いや、本当は全部分かってるけど…どうしても踏み出せないよ    息を切らしながら、家の前に着く。風を切って走ったせいで、手がかじかんで仕方ない。 そっとドアノブに手をかけ中へ入ると、独特の甘い匂いが私の脳を刺激した。 「お姉ちゃん、お帰り」 「ただいま。はい、つかさ。これこなたから…」 私は自分のコンビニ袋を机に置き、こなたの持っていたビニール袋をつかさに差し出す。 「え…こなちゃんに会ったの?」 「うん。つかさに返す物があるからって、近くまで来てたみたい」 「そっかー」 つかさはまじまじと袋を眺めている。といっても、私のコンビニ袋の方だけど。 「…つかさ、チョコはどうしたの?」 「あ、さっきのやつ?」 「うん」 「それなら冷蔵庫に入ってるよ。勝手にココアパウダーしちゃったけど、良かったかなぁ?」 「…うん、ありがとね。」 私は冷蔵庫の扉を開けて、それを確認する。 綺麗にココアパウダーを塗されたチョコは、さっき見た時より格段に良く見えた。 「どうしよう…」 「何がー?」 「チョコよ、どっち渡そうかなって…」 「私には何も言えないけど、お姉ちゃんが決めたことなら反対はしないよ?」 「うん…」 決めるのは…私。 この不恰好なチョコを渡すか、買ってきたチョコを渡すか…二つに一つ。 優柔不断な私には未だどちらを渡すべきか決断出来ない。 「あ、そうだ。折角だからラッピングしようよ!」 「…そうね」 つかさは二週間前の買い出しで用意していた、チョコ用の箱、それに包装紙とリボンを取り出す。 包装紙の色は水色でリボンはピンクに近い、淡い紫色をしていた。 チョコをいくつか取り出し丁寧に箱の中に詰める。 そしてしっかりと蓋をして、包装紙で綺麗に包んでいく…もちろんつかさの協力を得ながらだけどね。 最後に、とびきり可愛く見えるようリボンを巻き、ラッピングが完成した。 「なかなか、綺麗になるもんね…」 「そうだねー。私、こんなの貰えたら絶対嬉しいなぁ!」 「…そうね」 「うん、そうだよ」 私は買って来たチョコと、今完成したばかりのチョコ、二つのバレンタインチョコを冷蔵庫にしまう。 「そういえばつかさ、あんたは何か作ったの?ていいか、私のせいで何も出来なかったんじゃ…」 「大丈夫だよー。お姉ちゃんのチョコを冷やしてる間にね、ガトーショコラを作ったの。ゆきちゃん喜んでくれるかなぁ?」 「そっか…みゆきなら喜ぶわよ」 「わーい!楽しみだなぁ」 つかさの作ったやつなら、絶対に美味しいからね。 きっと上手くいくわよ。 「じゃあ私はお風呂に入って寝るから…」 「あ、うん。私はもう少しやることあるから…それからにするね」 「いつも早く寝るくせに、張り切っちゃって。程々にしないよ、それじゃあね」「はーい」 明日はいよいよ決戦本番。一大決戦が幕を開ける。 愛しのこなたに捧げるのは、形崩れの想いか否か…。 その結果は…まだ誰にも分からない。 ―バレンタインまで、あと1日― -[[決戦はバレンタイン!当日編 >http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/406.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-06 17:16:15) - かがみは不器用だから1日かかって一個やっと作った。 &br()という展開が俺の脳内で繰り広げられる -- 名無しさん (2008-07-04 22:25:55) - ・・・チョコって一日に一個しか作れないの? -- 名無しさん (2008-03-30 05:06:25)

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