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1月12日・後編」(2008/02/09 (土) 12:36:46) の最新版変更点

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 さてはて、いつまでも中編では流れに狂いが生じる。ここは敢えて後編と銘を打ち。合宿の最後を最終章、としたいと思う。  昨今の情報化社会、却って溢れかえっている情報のせいで、自分に何が必要で、何が必要でないのか混乱しそうになるが、或いは目標、というか到達地点が決まっている場合はそうでもない。  故に、その到達地点に向かう為に必要な情報は、常にチェックしておく必要がある。  例えば、 「みなみさん、以前小早川さんとお泊り会をしたことがありましたよね?」  今のみゆきのように。 「はい。それが……何か?」  みゆきの問いに微かに首をかしげながら、みなみは答えた。 「いえ、些細なことなのですが、その時一緒にお風呂に入りましたか?」  続けられた問いに、みなみはギョッ、或いはギクッと言った擬音が聞こえるほど動揺し、 「は、入りましたけど……そ、その、わ、ワワワ忘れ……私達は、何もしていませんよ」 「あ、いえ、その時、背中を洗いっこ……何てことはしなかったのですか?と聞きたかったのですが」  予想だにせぬ戸惑いに、みゆきは訝りながら、問いの核心を突いてみた。みなみは傍目にも分かるようホゥッと息を吐くと、 「はい。やりましたよ。ゆたか……可愛かったです」  と、超個人的な感想を加えて返してくれた。どこが可愛かった、とは聞かない。今は必要の無い情報だから。残念。  必要だったのは、一緒のお風呂、洗いっこという既成事実。みゆきは、そうですか、と答えて、この情報を記憶する。    さてもう一つ、情報化社会で生きぬくコツは、常にアンテナを高く持て。ということである。例えば周りの人の会話、聞いてみると案外面白いものだ。 「わ~、ゆたかちゃんの携帯の待ち受けって、みなみちゃんの写真なんだね」 「はぅっ!つ、つかさ先輩、見ないでくださいよぉ」 「ゆたかちゃん、みなみちゃんのこと本当に大好きなんだね」  つかさの言葉に、赤面し、今にも倒れそうなゆたか。慌ててみなみが支えて二人は抱き合う形となる。  成る程、人生とはどう転ぶか分からないものである。携帯、待ち受け。さて、必要になるかは分からないが、覚えておいて損は無い。 「あ、そうだゆきちゃん。お姉ちゃんとこなちゃん、呼んできてくれないかな?もうそろそろお風呂沸くから」 「はい、行ってきますね」  みゆきが先程かがみとこなたを見たのが凡そ一時間前。さてはて、今頃二人は何をしているやら。 (喧嘩……は先程の様子だとなさそうですね)  足取り軽く、でも慎重に、みゆきは二人がいる部屋へと向かった。  コンコン……と扉をノックする。一応、かがみとみゆきは相部屋なのだが、どんな時でも礼節を忘れない。  しかし、反応が無い。他の部屋、と言っても所詮別荘。数えるほどしかない上に、動く理由も無いだろう。外に出た気配も無し。 (はて?どうしたのでしょうか……)  若干の不安を覚えながら、開けますよ、と声をかけ、そうっと扉を開く。果たしてそこに、こなたとかがみはいた。 「まぁ……」  ただし、眠っていた。かがみがベットにもたれかかり、こなたはその膝を枕に、と言った状態で。スヤスヤと擬音ではなく本当に寝息を立てている二人が可愛らしい。  元々、互いの肩にもたれかかっていたのだろう。だが如何せん身長差がありすぎる。故に徐々にずれ込んで今の体勢に、と言った具合か。  やれやれ、とみゆきは息をつくと携帯を取り出した。こなれてきた操作をしつつ、思う。 (こんなに相思相愛なのに、本人達が気が付かないのが却って不思議なくらいです)  或いは、近すぎる故に気が付かないのかもしれないが。  とにかく、どちらかだけにでも早く自覚してもらいたい。  クルリと振り向くと、みゆきは二人を起こさないように慎重に部屋の外へでる。先程の失敗の事もある、ここは外陣要請をするべきかもしれない。  数回のコールの後、目的とする人物に繋がった。 「もしもし……」  ブーブー……と、どこかでバイブ音がする。それが自分の携帯から発せられているものだと気が付いたかがみは、薄く目を開け、まだ眠い頭を振って、通話ボタンを押す。 「もしもし?」 「あ、もしもし、柊?私、みさお」  誰?  と一瞬思ったが、そこは長い付き合い(みさお談)薄ぼんやりと輪郭が浮かんできた。特徴的な八重歯、舌ったらずな口調。日下部みさおだ。 「あ~、日下部?何か用?」  まだ眠い、余程リラックスしていたんだな、と思いつつ、旧友に用件を尋ねる。どうせロクなことじゃないとは見当がついているが。 「あ~、もしかしたらそこに‘ウチ’のちびっ子がいねぇかと思って」 「こなたぁ?」  ちら、と膝元を見ると、いた。自分の膝を枕に寝ている。ぼんやりとした頭ではそれが何を意味するかは分からない。ただ、寝顔が可愛いなと思ったくらいだ。 「そうなんだよ。ウチのちびっ子に何回かけてもつながらないし、柊ならウチのちびっ子といつも一緒にいるじゃん?だからいるかと思って」 「あ、そう……」  会話を続けると段々頭がハッキリとしてくる。ふと、そこでみさおの言葉にいつもと違うニュアンスが含まれていることに気がついた。 「ちょっと待て、‘ウチ’のちびっ子ってどういうこと?」  すると、みさおは得意そうに、 「いやぁ、いつもちびっ子と私で柊の取り合いすんじゃん?でも決着はつかないわけよ。そこで、私は考えたね。なら、ちびっ子を私のものにしてしまえば、自動的に柊も私のものになるじゃんってね。だから、今からちびっ子に愛の告白タイム!」  と、答えてくれた。はぁ、とかがみは思う。呆れた話だ。 「そんな馬鹿なこと言ってないで、センターの勉強、進んでるんでしょうね?」  やれやれ、とかがみは首を振った。だが、 「なぁ、柊……」  突然みさおの口調が変わった。いつものふざけた感じなど微塵もなく、ただ、シリアスに。 「な、何よ……」  つられて、かがみも口調を切り替える。何だ、この感じは? 「好きな奴に好きって言うのは、馬鹿なことなのか?」 「え……?」 「私は冗談じゃそんなこと言わないゼ。柊のことも好きだし、勿論、生意気だけどちびっ子のこともな」 「ど、どうしたのよ、急に」  いつもの日下部らしくない、真面目な内容。ゴクリ、とかがみの喉が鳴る。こなたを好き?日下部が? 「柊にとってちびっ子ってなんなんだよ!?どうでもいい奴だって言うんなら、本当に私が貰っちゃうぞ!」  その言葉に、かがみの思考は停止する。どうでもいい?そんなわけ無い、感情が訴える。理性は常識を持って反論する。 「何言ってるのよ!女同士よ!ありえないじゃない!!」 「私が言ってるのは好きか嫌いか!それこそ今は関係ないだろ!」  好きか、嫌いか……先程、かがみは罰ゲームとは言え、こう言った。  ――大好きっ!!  と。なら、答えは? 「……好き、よ。こなたのことは」  その言葉に、みさおは満足したように、 「ん~、じゃあライバルだな。どっちがちびっ子の親友ポジションに立てるか、勝負だ!柊!」  と言って、電話を切った。  親友ポジション? 「は?アレ?」  理性も常識を保ってなかったか、とかがみは思う。普通はそうじゃないか。  なんで、あんな受け答えをしたのだろう。いや、それより……。  かがみは、こなたを見る。スヤスヤ言ってるその顔を眺め。その小さな体を抱きしめる。  嫌だ、と思った。こなたが、誰かに取られるのが。何で?親友だから?感情の整理がつかない。抱きしめる手に力が篭る。  流石に、んみゅう、とこなたが目を覚ました。 「あ、あれ?かがみ?どうしたの?」 「分かんないわよ……私にだって」  さて、扉の向こう。少しだけ扉を開けてその様子を見守っていたみゆきは電話の相手――峰岸あやのに礼を言う。 「本当に、ありがとうございました。日下部さんも大変演技派で……はぁ、日下部さん、本気、ですか?」 「うん、みさちゃん。やるぞーって、待ってろ、ちびっ子って言ってる」 「そうですか……頑張ってくださいとお伝えくださいね」  苦笑しながら電話を切った。ある程度の事情を話して協力してもらっているみさおとあやのは心強い味方だ。かがみとの付き合いはみゆきより長いのだから。  今のは、みゆきが考えた大まかな流れをあやのに伝え、みさおが電話する。ちょっと過激なモーニングコール……のはずだったのだが。 「まぁ、大丈夫、でしょうね?」  少し自信の無い、みゆきだった。 「な、なんと、聞いてくれたまへ~!この別荘、一度に6人は入れるくらいお風呂がでかいんだよ~!」  さて、こう叫んだのはゆい。自室で寝ていたところを叩き起こされ、お風呂沸かしをしていたのだが、そのあまりの大きさに叫ばずにはいられなかったようだ。  でも、6人。現在この別荘にいる人間は7人。 「じゃあ、姉さん後で一人で入って」  と、こなた。 「ゴメンね~、お姉ちゃん。私、みなみちゃんとどうしても一緒に入りたいから」 「私も、ゆたかと一緒がいいので……すみません」  と、一年生コンビ。 「おっきなお風呂って海以来だよね」 「そうね~、あの時はあの時で色々大変だったわ」 「そうですね。ですが、今となっては良い思い出です」  他、3名。 「あ、あの~、もしもし?3:4に分けるとかそういう発想は無し?」 「ないです。じゃあ、姉さん後よろしく~」  そう言って6人は思い思いに話をしながらお風呂場へと向かっていった。 「ちょ……あんまりじゃない?」  その時、携帯に着信アリ。メールだ。送信者・黒井ななこ。件名・無題。内容『お互い、独りモンは辛いな~。同士よ!!』 「だから私人妻ですってば~!きよたかさ~ん!!」  さて、皆さんは空気というものをご存知だろうか?酸素、二酸化炭素、窒素等から構成されるアレではなく。所謂雰囲気、と言うものだ。  雰囲気というものは恐ろしいもので、一度流されてしまうと思ってもみなかった行動をしてしまう。  カポーン、と擬音が聞こえてきそうな大浴場、いや、もうこれは温泉というレベルに到達していると言っても過言ではないだろう。  とは言え流石に6人で入ると少々手狭、自然、密着した陣形を取る事になる。 「はぁ~、極楽極楽」  とはこなたの弁。彼女の頭にはタオルも載っており、もう完全にリラッコナ。 「そうね、今回ばかりはあんたに同意するわ」  かがみも、ほぅと息をついてこなたの言葉に頷く。ちなみに2人は隣同士に湯船に浸かっている。以前一緒に風呂に入った仲、なに、恥ずかしがることは無いさと気楽なものだ。  とは言え2人には、少し熱いように感じる。何故だろう、さあ何故だろう?    ところで、冒頭、みゆきがお風呂についての話をしたのを覚えていらっしゃるだろうか?洗いっこがどうのというアレだ。さて、 「そういえば、以前、海に行った時は背中の洗いっこをしませんでしたね。どうです、つかささん、やりませんか?」 「あ、いいね~。やろうやろう」  そう言って湯船から上がる2人。この流れなら既成事実を持ってる2人も、 「ゆたか、私たちも……」 「うん、行こう、みなみちゃん」  湯船から上がる。残されたのはこなたとかがみ。もうお分かりだろう。雰囲気。皆がやるなら私たちもやらなくちゃいけないんじゃない?という集団心理。そして、これに流されやすいのは、かがみ。 「えと、こなた?」 「んぅ?」  人が抜けて広くなった湯船に肩まで浸かりながら、聞き返すこなた。身長が低い分、かがみからはちょっと見下ろす形。 「わ、私たちもよかったら……その、やらない?」 「な、なにをぉ!?」  ブハッっと湯が飛んできた。こなたが何でそんなに驚くのか、一瞬考え‘やらない’の一言に行き着く。 「洗いっこよ、洗いっこ!何考えてるのよ、全く」  普段、空気嫁なんて平然と言うくせに、こういうときだけは鈍いヤツだ。こなたは肩で息をしながら、 「そ、そだよね~……ビックラこいた」  そう言って、2人も湯船から上がり桶を持つ。こなたが座り、かがみが後ろに立った。 「じゃあ、背中から流すわよ」  少し、緊張する。スキンシップはあっても、地肌に触れるというところまでは中々行かない。  かがみは慎重に、且つ丁寧にこなたの背中を洗い始めた。先程のみさおとの会話も功を奏しているのか、こなたに構いたい、と無意識で感じているようだ。 「つかささんのお肌、綺麗ですね」 「えへへ、ゆきちゃんに言われるとなんか照れちゃうな」  さて、雰囲気、雰囲気。 「ゆたか、この前は、ゴメン。その……初めて、だったから」 「ううん、私こそ、ゴメンね。ああいうの、慣れて、なかったから」  雰囲気良好。ところで、2人の会話は、一緒にお風呂に入るのが初めてだった、と言う意味ですよ?  周りが何か話している、と、かがみの頭もパニックになる。何か話さなくちゃ、なにか話さなくちゃ。 「こ、ここここここなたって、えーと、ちっちゃい、よね」  ピク、とこなたの肩が動いた。 「うぅ、さり気に気にしてる事を。でもいいもん、ステータス、希少価値だもん」  唇を尖らせる。かがみは、そんな所も含めて、改めて、意識がハッキリしながら、思った。 「そ、そうじゃなくて……可愛いなって」  ハッとこなたの体が強張った。少し、肌の色に赤みが増したような気もする。 「な、何か言いなさいよ!こっちが恥ずかしいでしょ」  いたたまれなくなり、こなたに回答を促すかがみ。早く、早く……ドキドキする。 「萌えた、じゃダメ?」  上目遣いにそっと、呟いた。空気が霞んで見える、湯気のせい?それとも?  さて、いい雰囲気。みゆきは少し口元を歪めて、微笑みを作る。 「つかささん、お鼻に石鹸の泡がついてますよ。取りますから、じっとしててくださいね」 「あ、ありがと~。なんかドキドキするね」 「そうですね~」  この流れ、次に来るのは、 「ゆたか、唇に石鹸の泡が……じっとして、今取るから」 「み、みなみちゃん……私も、みなみちゃんに取って、欲しい、な」 「ゆたか、目を閉じて。泡が入る」 「うん」  つと、近づきあう2人。そんな様子を見せられては、空気に流されやすいかがみも、黙ってはいられない。何か言わなくちゃ、なにか言わなくちゃ。 「ここここここここ」 「何言ってんの、かがみん」 「こなたの、ア、アホ毛にシャンプーが!今、取るから動かないでっ!!」 「え、シャンプーならいいって。あぁっ!」  スポン、とかがみに包まれる形となったこなた。素肌、密着、伝わる体温……隠された気持ち。 「「うきゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」 「ねえ、ゆきちゃん。お姉ちゃんとこなちゃん、楽しそうだね」 「はい、楽しそうで、何よりです」  にっこりと微笑むみゆきは、誰よりも満足そうだった。  ちなみにこなたかがみ、ついでにみなみゆたかがのぼせたのは言うまでも無いだろう。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
 さてはて、いつまでも中編では流れに狂いが生じる。ここは敢えて後編と銘を打ち。合宿の最後を最終章、としたいと思う。  昨今の情報化社会、却って溢れかえっている情報のせいで、自分に何が必要で、何が必要でないのか混乱しそうになるが、或いは目標、というか到達地点が決まっている場合はそうでもない。  故に、その到達地点に向かう為に必要な情報は、常にチェックしておく必要がある。  例えば、 「みなみさん、以前小早川さんとお泊り会をしたことがありましたよね?」  今のみゆきのように。 「はい。それが……何か?」  みゆきの問いに微かに首をかしげながら、みなみは答えた。 「いえ、些細なことなのですが、その時一緒にお風呂に入りましたか?」  続けられた問いに、みなみはギョッ、或いはギクッと言った擬音が聞こえるほど動揺し、 「は、入りましたけど……そ、その、わ、ワワワ忘れ……私達は、何もしていませんよ」 「あ、いえ、その時、背中を洗いっこ……何てことはしなかったのですか?と聞きたかったのですが」  予想だにせぬ戸惑いに、みゆきは訝りながら、問いの核心を突いてみた。みなみは傍目にも分かるようホゥッと息を吐くと、 「はい。やりましたよ。ゆたか……可愛かったです」  と、超個人的な感想を加えて返してくれた。どこが可愛かった、とは聞かない。今は必要の無い情報だから。残念。  必要だったのは、一緒のお風呂、洗いっこという既成事実。みゆきは、そうですか、と答えて、この情報を記憶する。    さてもう一つ、情報化社会で生きぬくコツは、常にアンテナを高く持て。ということである。例えば周りの人の会話、聞いてみると案外面白いものだ。 「わ~、ゆたかちゃんの携帯の待ち受けって、みなみちゃんの写真なんだね」 「はぅっ!つ、つかさ先輩、見ないでくださいよぉ」 「ゆたかちゃん、みなみちゃんのこと本当に大好きなんだね」  つかさの言葉に、赤面し、今にも倒れそうなゆたか。慌ててみなみが支えて二人は抱き合う形となる。  成る程、人生とはどう転ぶか分からないものである。携帯、待ち受け。さて、必要になるかは分からないが、覚えておいて損は無い。 「あ、そうだゆきちゃん。お姉ちゃんとこなちゃん、呼んできてくれないかな?もうそろそろお風呂沸くから」 「はい、行ってきますね」  みゆきが先程かがみとこなたを見たのが凡そ一時間前。さてはて、今頃二人は何をしているやら。 (喧嘩……は先程の様子だとなさそうですね)  足取り軽く、でも慎重に、みゆきは二人がいる部屋へと向かった。  コンコン……と扉をノックする。一応、かがみとみゆきは相部屋なのだが、どんな時でも礼節を忘れない。  しかし、反応が無い。他の部屋、と言っても所詮別荘。数えるほどしかない上に、動く理由も無いだろう。外に出た気配も無し。 (はて?どうしたのでしょうか……)  若干の不安を覚えながら、開けますよ、と声をかけ、そうっと扉を開く。果たしてそこに、こなたとかがみはいた。 「まぁ……」  ただし、眠っていた。かがみがベットにもたれかかり、こなたはその膝を枕に、と言った状態で。スヤスヤと擬音ではなく本当に寝息を立てている二人が可愛らしい。  元々、互いの肩にもたれかかっていたのだろう。だが如何せん身長差がありすぎる。故に徐々にずれ込んで今の体勢に、と言った具合か。  やれやれ、とみゆきは息をつくと携帯を取り出した。こなれてきた操作をしつつ、思う。 (こんなに相思相愛なのに、本人達が気が付かないのが却って不思議なくらいです)  或いは、近すぎる故に気が付かないのかもしれないが。  とにかく、どちらかだけにでも早く自覚してもらいたい。  クルリと振り向くと、みゆきは二人を起こさないように慎重に部屋の外へでる。先程の失敗の事もある、ここは外陣要請をするべきかもしれない。  数回のコールの後、目的とする人物に繋がった。 「もしもし……」  ブーブー……と、どこかでバイブ音がする。それが自分の携帯から発せられているものだと気が付いたかがみは、薄く目を開け、まだ眠い頭を振って、通話ボタンを押す。 「もしもし?」 「あ、もしもし、柊?私、みさお」  誰?  と一瞬思ったが、そこは長い付き合い(みさお談)薄ぼんやりと輪郭が浮かんできた。特徴的な八重歯、舌ったらずな口調。日下部みさおだ。 「あ~、日下部?何か用?」  まだ眠い、余程リラックスしていたんだな、と思いつつ、旧友に用件を尋ねる。どうせロクなことじゃないとは見当がついているが。 「あ~、もしかしたらそこに‘ウチ’のちびっ子がいねぇかと思って」 「こなたぁ?」  ちら、と膝元を見ると、いた。自分の膝を枕に寝ている。ぼんやりとした頭ではそれが何を意味するかは分からない。ただ、寝顔が可愛いなと思ったくらいだ。 「そうなんだよ。ウチのちびっ子に何回かけてもつながらないし、柊ならウチのちびっ子といつも一緒にいるじゃん?だからいるかと思って」 「あ、そう……」  会話を続けると段々頭がハッキリとしてくる。ふと、そこでみさおの言葉にいつもと違うニュアンスが含まれていることに気がついた。 「ちょっと待て、‘ウチ’のちびっ子ってどういうこと?」  すると、みさおは得意そうに、 「いやぁ、いつもちびっ子と私で柊の取り合いすんじゃん?でも決着はつかないわけよ。そこで、私は考えたね。なら、ちびっ子を私のものにしてしまえば、自動的に柊も私のものになるじゃんってね。だから、今からちびっ子に愛の告白タイム!」  と、答えてくれた。はぁ、とかがみは思う。呆れた話だ。 「そんな馬鹿なこと言ってないで、センターの勉強、進んでるんでしょうね?」  やれやれ、とかがみは首を振った。だが、 「なぁ、柊……」  突然みさおの口調が変わった。いつものふざけた感じなど微塵もなく、ただ、シリアスに。 「な、何よ……」  つられて、かがみも口調を切り替える。何だ、この感じは? 「好きな奴に好きって言うのは、馬鹿なことなのか?」 「え……?」 「私は冗談じゃそんなこと言わないゼ。柊のことも好きだし、勿論、生意気だけどちびっ子のこともな」 「ど、どうしたのよ、急に」  いつもの日下部らしくない、真面目な内容。ゴクリ、とかがみの喉が鳴る。こなたを好き?日下部が? 「柊にとってちびっ子ってなんなんだよ!?どうでもいい奴だって言うんなら、本当に私が貰っちゃうぞ!」  その言葉に、かがみの思考は停止する。どうでもいい?そんなわけ無い、感情が訴える。理性は常識を持って反論する。 「何言ってるのよ!女同士よ!ありえないじゃない!!」 「私が言ってるのは好きか嫌いか!それこそ今は関係ないだろ!」  好きか、嫌いか……先程、かがみは罰ゲームとは言え、こう言った。  ――大好きっ!!  と。なら、答えは? 「……好き、よ。こなたのことは」  その言葉に、みさおは満足したように、 「ん~、じゃあライバルだな。どっちがちびっ子の親友ポジションに立てるか、勝負だ!柊!」  と言って、電話を切った。  親友ポジション? 「は?アレ?」  理性も常識を保ってなかったか、とかがみは思う。普通はそうじゃないか。  なんで、あんな受け答えをしたのだろう。いや、それより……。  かがみは、こなたを見る。スヤスヤ言ってるその顔を眺め。その小さな体を抱きしめる。  嫌だ、と思った。こなたが、誰かに取られるのが。何で?親友だから?感情の整理がつかない。抱きしめる手に力が篭る。  流石に、んみゅう、とこなたが目を覚ました。 「あ、あれ?かがみ?どうしたの?」 「分かんないわよ……私にだって」  さて、扉の向こう。少しだけ扉を開けてその様子を見守っていたみゆきは電話の相手――峰岸あやのに礼を言う。 「本当に、ありがとうございました。日下部さんも大変演技派で……はぁ、日下部さん、本気、ですか?」 「うん、みさちゃん。やるぞーって、待ってろ、ちびっ子って言ってる」 「そうですか……頑張ってくださいとお伝えくださいね」  苦笑しながら電話を切った。ある程度の事情を話して協力してもらっているみさおとあやのは心強い味方だ。かがみとの付き合いはみゆきより長いのだから。  今のは、みゆきが考えた大まかな流れをあやのに伝え、みさおが電話する。ちょっと過激なモーニングコール……のはずだったのだが。 「まぁ、大丈夫、でしょうね?」  少し自信の無い、みゆきだった。 「な、なんと、聞いてくれたまへ~!この別荘、一度に6人は入れるくらいお風呂がでかいんだよ~!」  さて、こう叫んだのはゆい。自室で寝ていたところを叩き起こされ、お風呂沸かしをしていたのだが、そのあまりの大きさに叫ばずにはいられなかったようだ。  でも、6人。現在この別荘にいる人間は7人。 「じゃあ、姉さん後で一人で入って」  と、こなた。 「ゴメンね~、お姉ちゃん。私、みなみちゃんとどうしても一緒に入りたいから」 「私も、ゆたかと一緒がいいので……すみません」  と、一年生コンビ。 「おっきなお風呂って海以来だよね」 「そうね~、あの時はあの時で色々大変だったわ」 「そうですね。ですが、今となっては良い思い出です」  他、3名。 「あ、あの~、もしもし?3:4に分けるとかそういう発想は無し?」 「ないです。じゃあ、姉さん後よろしく~」  そう言って6人は思い思いに話をしながらお風呂場へと向かっていった。 「ちょ……あんまりじゃない?」  その時、携帯に着信アリ。メールだ。送信者・黒井ななこ。件名・無題。内容『お互い、独りモンは辛いな~。同士よ!!』 「だから私人妻ですってば~!きよたかさ~ん!!」  さて、皆さんは空気というものをご存知だろうか?酸素、二酸化炭素、窒素等から構成されるアレではなく。所謂雰囲気、と言うものだ。  雰囲気というものは恐ろしいもので、一度流されてしまうと思ってもみなかった行動をしてしまう。  カポーン、と擬音が聞こえてきそうな大浴場、いや、もうこれは温泉というレベルに到達していると言っても過言ではないだろう。  とは言え流石に6人で入ると少々手狭、自然、密着した陣形を取る事になる。 「はぁ~、極楽極楽」  とはこなたの弁。彼女の頭にはタオルも載っており、もう完全にリラッコナ。 「そうね、今回ばかりはあんたに同意するわ」  かがみも、ほぅと息をついてこなたの言葉に頷く。ちなみに2人は隣同士に湯船に浸かっている。以前一緒に風呂に入った仲、なに、恥ずかしがることは無いさと気楽なものだ。  とは言え2人には、少し熱いように感じる。何故だろう、さあ何故だろう?    ところで、冒頭、みゆきがお風呂についての話をしたのを覚えていらっしゃるだろうか?洗いっこがどうのというアレだ。さて、 「そういえば、以前、海に行った時は背中の洗いっこをしませんでしたね。どうです、つかささん、やりませんか?」 「あ、いいね~。やろうやろう」  そう言って湯船から上がる2人。この流れなら既成事実を持ってる2人も、 「ゆたか、私たちも……」 「うん、行こう、みなみちゃん」  湯船から上がる。残されたのはこなたとかがみ。もうお分かりだろう。雰囲気。皆がやるなら私たちもやらなくちゃいけないんじゃない?という集団心理。そして、これに流されやすいのは、かがみ。 「えと、こなた?」 「んぅ?」  人が抜けて広くなった湯船に肩まで浸かりながら、聞き返すこなた。身長が低い分、かがみからはちょっと見下ろす形。 「わ、私たちもよかったら……その、やらない?」 「な、なにをぉ!?」  ブハッっと湯が飛んできた。こなたが何でそんなに驚くのか、一瞬考え‘やらない’の一言に行き着く。 「洗いっこよ、洗いっこ!何考えてるのよ、全く」  普段、空気嫁なんて平然と言うくせに、こういうときだけは鈍いヤツだ。こなたは肩で息をしながら、 「そ、そだよね~……ビックラこいた」  そう言って、2人も湯船から上がり桶を持つ。こなたが座り、かがみが後ろに立った。 「じゃあ、背中から流すわよ」  少し、緊張する。スキンシップはあっても、地肌に触れるというところまでは中々行かない。  かがみは慎重に、且つ丁寧にこなたの背中を洗い始めた。先程のみさおとの会話も功を奏しているのか、こなたに構いたい、と無意識で感じているようだ。 「つかささんのお肌、綺麗ですね」 「えへへ、ゆきちゃんに言われるとなんか照れちゃうな」  さて、雰囲気、雰囲気。 「ゆたか、この前は、ゴメン。その……初めて、だったから」 「ううん、私こそ、ゴメンね。ああいうの、慣れて、なかったから」  雰囲気良好。ところで、2人の会話は、一緒にお風呂に入るのが初めてだった、と言う意味ですよ?  周りが何か話している、と、かがみの頭もパニックになる。何か話さなくちゃ、なにか話さなくちゃ。 「こ、ここここここなたって、えーと、ちっちゃい、よね」  ピク、とこなたの肩が動いた。 「うぅ、さり気に気にしてる事を。でもいいもん、ステータス、希少価値だもん」  唇を尖らせる。かがみは、そんな所も含めて、改めて、意識がハッキリしながら、思った。 「そ、そうじゃなくて……可愛いなって」  ハッとこなたの体が強張った。少し、肌の色に赤みが増したような気もする。 「な、何か言いなさいよ!こっちが恥ずかしいでしょ」  いたたまれなくなり、こなたに回答を促すかがみ。早く、早く……ドキドキする。 「萌えた、じゃダメ?」  上目遣いにそっと、呟いた。空気が霞んで見える、湯気のせい?それとも?  さて、いい雰囲気。みゆきは少し口元を歪めて、微笑みを作る。 「つかささん、お鼻に石鹸の泡がついてますよ。取りますから、じっとしててくださいね」 「あ、ありがと~。なんかドキドキするね」 「そうですね~」  この流れ、次に来るのは、 「ゆたか、唇に石鹸の泡が……じっとして、今取るから」 「み、みなみちゃん……私も、みなみちゃんに取って、欲しい、な」 「ゆたか、目を閉じて。泡が入る」 「うん」  つと、近づきあう2人。そんな様子を見せられては、空気に流されやすいかがみも、黙ってはいられない。何か言わなくちゃ、なにか言わなくちゃ。 「ここここここここ」 「何言ってんの、かがみん」 「こなたの、ア、アホ毛にシャンプーが!今、取るから動かないでっ!!」 「え、シャンプーならいいって。あぁっ!」  スポン、とかがみに包まれる形となったこなた。素肌、密着、伝わる体温……隠された気持ち。 「「うきゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」 「ねえ、ゆきちゃん。お姉ちゃんとこなちゃん、楽しそうだね」 「はい、楽しそうで、何よりです」  にっこりと微笑むみゆきは、誰よりも満足そうだった。  ちなみにこなたかがみ、ついでにみなみゆたかがのぼせたのは言うまでも無いだろう。 -[[1月12日・最終章~そして詰め将棋へ~>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/378.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)

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