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「とうとう、抜け毛が気になるような歳になっちまったか…」 今まで枕代わりにしていた本に落ちた毛を見て、そうじろうは一人苦笑した。 よいしょ、と寝ていた体を起こす。室内とはいえ、コタツに慣れた体に冬の空気はしみた。 「どうやら仕事の途中でコタツの誘惑に負けて寝てしまっていたらしいな…」 リビングからは楽しげな声が聞こえてくる。ゆいとゆたかがクリスマスの準備をしているのだ。 愛娘のこなたはというと外出中なのだが、コスプレ喫茶のバイトではない。 バイト先にこなたが休職届けを出してから、既に5ヶ月が経とうとしていた。 夏休みに入ってまもなく、こなたはバイト先に休職を願い出たばかりでなく それまでアニメやゲームに費やしていた時間をすべて勉強に当てるようになっていた。 「かがみたちと同じ大学に行きたいから」 娘の生活態度の変化をいぶかしむそうじろうに、こなたはきっぱりと宣言したものだった。 「だが、いくらなんでもクリスマスに勉強会なんて、普通言い出さないよなぁ」 思い出して、二度目の苦笑が出てしまう。 なにせ、外出理由を問われたこなた、何故か顔を赤らめて口から出た言葉が 「き、今日はさ、これから勉強会やるんだよ。かがみの家でみんなで」である。 口裏を合わせたのだろうか、ご丁寧にもかがみが迎えに来て、声を上ずらせながら 「こ、これから二人で勉強するんですよ、うちで。じ、受験生には盆も正月もありませんから」である。 二人の嘘のつき方が下手というのもあるが、そもそも年に一度の聖なる夜に『勉強会』というのは不釣合いというか、 そうじろうにはなにか反抗的な組み合わせに思えるのだ。 それでもそうじろうは何も言わずに二人を送り出した。 「若いときはうんと遊べばいいんだ。受験も大切だが、若さを閉じ込めてもいけない」 呟きながら、立てかけてある亡き妻、かなたの写真に目をやる。 他の受験生の親は受験直前の外出など認めないのかもしれないが、 そこは若さに任せてかなたを連れ回した経験のあるそうじろうである。 『青春は待ってくれない』とか『若いのは特権さ』を口癖に、亡き妻と思い出作りをしたものだ。 「それがいまや抜け落ちた毛を気にするオヤジか…」 本日三度目の苦笑が出たときだった。ゆいがそろそろ来てくれ、と騒いでいる。 パーティの準備を手伝う約束があったのを思い出した。 そうじろうは今行くよ、と答えて立ち上がった。コタツと部屋の電気を落として、廊下に出る。 廊下は暗闇と冷たい空気が充満していたが、リビングから漏れてくる光と2人の声は温かかった。 ドアを閉じる前、そうじろうは暗くなった自室を振り返り、もう一度妻の写真の方を向いて 「歳をとると、妙に心細くなるって言うが…あの子らのおかげでその心配は無いみたいだよ」 とつぶやいた。 ドアが閉まり、完全に暗くなった部屋で、かなたの写真が優しげに青く光った気がした。 「それにしても、勉強会ってのは建前として、あいつは何やってるのかな…」 ゆたかの友達が集まりすっかり賑やかになったリビングで料理の準備をしながら、そうじろうはふと考えた。 「勉強付けで彼氏を作ってる時間も無かっただろうし、かがみちゃんたちが合コンとかをするようにも思えないし…  ま、女友達集めて楽しくやってるんだろうな」 娘が『彼女』を作っているなどとは流石に思い至らないそうじろうだった。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - はたして愛娘に彼女が出来たことは、良いことなのか悪いのか…そうじろうにエールを贈っときます &br()GJな作品ごちそうさまでした -- にゃあ (2008-09-13 08:54:23) - しまったぁぁあぁあぁ! -- 名無しさん (2008-09-06 23:26:22)
「とうとう、抜け毛が気になるような歳になっちまったか…」 今まで枕代わりにしていた本に落ちた毛を見て、そうじろうは一人苦笑した。 よいしょ、と寝ていた体を起こす。室内とはいえ、コタツに慣れた体に冬の空気はしみた。 「どうやら仕事の途中でコタツの誘惑に負けて寝てしまっていたらしいな…」 リビングからは楽しげな声が聞こえてくる。ゆいとゆたかがクリスマスの準備をしているのだ。 愛娘のこなたはというと外出中なのだが、コスプレ喫茶のバイトではない。 バイト先にこなたが休職届けを出してから、既に5ヶ月が経とうとしていた。 夏休みに入ってまもなく、こなたはバイト先に休職を願い出たばかりでなく それまでアニメやゲームに費やしていた時間をすべて勉強に当てるようになっていた。 「かがみたちと同じ大学に行きたいから」 娘の生活態度の変化をいぶかしむそうじろうに、こなたはきっぱりと宣言したものだった。 「だが、いくらなんでもクリスマスに勉強会なんて、普通言い出さないよなぁ」 思い出して、二度目の苦笑が出てしまう。 なにせ、外出理由を問われたこなた、何故か顔を赤らめて口から出た言葉が 「き、今日はさ、これから勉強会やるんだよ。かがみの家でみんなで」である。 口裏を合わせたのだろうか、ご丁寧にもかがみが迎えに来て、声を上ずらせながら 「こ、これから二人で勉強するんですよ、うちで。じ、受験生には盆も正月もありませんから」である。 二人の嘘のつき方が下手というのもあるが、そもそも年に一度の聖なる夜に『勉強会』というのは不釣合いというか、 そうじろうにはなにか反抗的な組み合わせに思えるのだ。 それでもそうじろうは何も言わずに二人を送り出した。 「若いときはうんと遊べばいいんだ。受験も大切だが、若さを閉じ込めてもいけない」 呟きながら、立てかけてある亡き妻、かなたの写真に目をやる。 他の受験生の親は受験直前の外出など認めないのかもしれないが、 そこは若さに任せてかなたを連れ回した経験のあるそうじろうである。 『青春は待ってくれない』とか『若いのは特権さ』を口癖に、亡き妻と思い出作りをしたものだ。 「それがいまや抜け落ちた毛を気にするオヤジか…」 本日三度目の苦笑が出たときだった。ゆいがそろそろ来てくれ、と騒いでいる。 パーティの準備を手伝う約束があったのを思い出した。 そうじろうは今行くよ、と答えて立ち上がった。コタツと部屋の電気を落として、廊下に出る。 廊下は暗闇と冷たい空気が充満していたが、リビングから漏れてくる光と2人の声は温かかった。 ドアを閉じる前、そうじろうは暗くなった自室を振り返り、もう一度妻の写真の方を向いて 「歳をとると、妙に心細くなるって言うが…あの子らのおかげでその心配は無いみたいだよ」 とつぶやいた。 ドアが閉まり、完全に暗くなった部屋で、かなたの写真が優しげに青く光った気がした。 「それにしても、勉強会ってのは建前として、あいつは何やってるのかな…」 ゆたかの友達が集まりすっかり賑やかになったリビングで料理の準備をしながら、そうじろうはふと考えた。 「勉強付けで彼氏を作ってる時間も無かっただろうし、かがみちゃんたちが合コンとかをするようにも思えないし…  ま、女友達集めて楽しくやってるんだろうな」 娘が『彼女』を作っているなどとは流石に思い至らないそうじろうだった。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ! -- 名無しさん (2022-12-31 07:58:12) - はたして愛娘に彼女が出来たことは、良いことなのか悪いのか…そうじろうにエールを贈っときます &br()GJな作品ごちそうさまでした -- にゃあ (2008-09-13 08:54:23) - しまったぁぁあぁあぁ! -- 名無しさん (2008-09-06 23:26:22)

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