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きみのおくりもの」(2022/12/27 (火) 14:21:29) の最新版変更点

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 ねえ、みんな。恋するキッカケって、どんなものだと思う?  私はね、普段、何気なくあるほんの些細なことが、そうなんじゃないかなって思うの。  だって、私が……そうだったから。  私が恋した相手は、私の親友。名前は泉こなた。  キッカケは本当に些細なこと。こなたが携帯を変えて、カメラの使い方を覚えたって言ってきたとき、その後の一言に惚れたの。  なんて言ったと思う? 「やっぱり最初は好きな人を取りたいじゃん?」  そう言って、私をファインダーに納めてパシャリ。  こなたは、いつものじゃれあいの一環と思ってやったのかもしれないけど、その一言が私をドキリとさせた。  それから、すごくこなたの事を意識するようになった。同性なんてことは関係ない。まぁ、日下部って言うライバルもいるけど、こなたへの気持ちは負けてないつもり。  だから、いつもは照れくさくて中々素直になれないけど、本当はどんな時もこなたと一緒にいたい。 特に、奇跡が舞い降りる聖なる夜には……。 ――12月24日、クリスマスイヴ。 街には電飾が飾られ、巨大なクリスマスツリーが駅前に出現。さらにはサンタの格好をした人がビラを配っていたり、プレゼントを物色する親子連れで賑わっていたりと、皆が浮き足立つこの日。 神社であり、直接的にはこのイベントに関わりの無い我が家でさえ、ご馳走を振舞う。まぁ、なんて言うか、みんなお祭りが好きなのよね。 「じゃあ、お姉ちゃん、行って来ます」 「気をつけなさいよ?夜道は暗いんだから」 「は~い」 普段より気合を入れて化粧をし、可愛らしさ3倍増のつかさが家を出て行く。何でも、峰岸に呼ばれてパーティをしに行くそうだ。 私もどうかって誘われてたけど、断った。だって、私には、他に誘いたい人が……いたから。 「こなたの……バカ」 小声で、愛しい人の名を呼び、その人がこの場にいないことを悔しがる。 こなたは、こんなイベントの日に限って……いやこんなイベントの日だからこそか、バイトだそうだ。 自分の部屋に戻り、ベッドに身を沈める。階下からは家族の笑い声が聞こえる。こんな気持ちがなければ、私もそこに交じっていたか、峰岸の家にお呼ばれしていただろう。 「ふぅ……」 会えないことは分かってる。でも、もしかして、と淡い期待を持って携帯を開く。 着信履歴を確認。続いて新着メール。しかし、やっぱりこなたからの連絡は無い。 待ち受けに画面を戻した。私とこなたのツーショット。フレームに納まるようにと、スキンシップというにはいささか過剰に寄り添っている。 さり気なく私の腰に回されたこなたの腕。それは私の事を誘っているようにも見えて、こなたも私の気持ちに気がついているんじゃないかな、と思う。 でも、こなたはいつも飄々としていて、捉え所が無い。本当に私の気持ちに気がついているかは……私には分からない。 分かっても、こなたが私をどう見ているか、分からない。親友?私はそれ以上を求めているのに……。 現在20時、私は駅前を一人、ぶらついていた。 家にいてもやることは何も無い。かといって、外に出てもそれは見つからなかった。 今から峰岸の家に行ってパーティに混ぜてもらおうかな。みゆきも行ってるみたいだし。 でも……こなたのいないクリスマスパーティに何の価値も見出せない。じゃあ、どうしようか。 ため息をつくと、再び目的もなく歩き出そうとした。その時、 「あれ、柊やないか?どないしたん、こんな所で?」 黒井先生だった。コンビニの帰りらしく、ビールと、つまみが入った袋を抱えている。 「泉は?一緒やないんか?」 「こなたは……バイトだそうです」 本当に自分の声かと思うくらい低い声だった。黒井先生も驚いたようで、 「なんや、暗いな?何かあったん?」 「いえ……何も」 目を伏せる。黒井先生の視線が痛かった。こんな自分を誰かに見せたくなかった。 黒井先生はしばらく私の事をじっと見ていたが、やがて、 「柊、今、暇か?」 「え?は、はい……」 「そうか、じゃあ、ちょっと付き合うてくれへん?ウチ今から寄るところがあるんや」 そう言って、私の返事も聞かずに歩き出した。こんな気分だし、本当は行きたくなど無かったけど、年上の頼みだ、無下にも出来ない。 私は、俯いたまま黒井先生の後に続いた。 「ここや、ここ」  そう言って黒井先生の示した場所は……こなたの、バイト先のコスプレ喫茶? 「さ、入るで」  あ。止める間もなく黒井先生はドアノブに手を掛け、引いた。中の暖かい空気が外に漏れてくる。 「お帰りなさいませ、ご主人さ……ま?」  出迎えてくれたのは、こなただった。期間限定のサンタコス。店側もこなたに合うサイズを確保できなかったらしく、裾が大分余っていた。  コレはコレで可愛い……。 「よ、泉。ちょっと邪魔するで」  黒井先生は気軽に片手を上げると、こなたの案内を待つことなく、近くにあった二人分の席に座る。 「お~い、柊も早く来んかい。それと泉、メニュー、早よ持ってきたってな」 「もう、しょうがないなぁ、先生は。かがみも座ってて、今メニュー持ってくるから」  そう言うとこなたは店の奥に引っ込んだ。私は黒井先生向かいに腰を下ろす。 「あの、黒井先生……?」  問いかける私を手で制すと、黒井先生はポケットから一枚の紙切れを取り出した。これは……? 「これ、ここの特別優待券。30分だけ好きな店員を指名して一緒にいられるんや。ウチのクラメンにここの常連がいてな。そいつから貰ったんや。でも、ウチは興味ないし、柊にあげるわ」  え……? 「これ使うて、折角のクリスマスやし、泉と一緒に過ごしや。な?」  私の手に優待券を握らせると、黒井先生は席を立ち、店の外に出て行った。去り際に「一人モンは寂しいわ」って聞こえたけど、見えた顔は心なしか、嬉しそうだった。 「お待たせ、かがみ。あれ?先生は?」  こなたが戻ってきた。緊張して、手が震える。私はそっと、優待券をテーブルの上に置いた。  こなたの目が丸くなる。 「かがみ、それ……」 「……私は、泉こなたを指名します」 「……」 「……」 カチャカチャ――フォークとナイフを繰る音だけが響く。 優待券を提示したことで、私は30分だけ、こなたと食事を共に出来ることになった。 一緒にご飯を食べるのは初めてじゃない。お昼休みはほとんどこなたのクラスで食べているのだから。 でも、会話が出来ない。 その原因が分からなかった。いつもはこんなこと無いのに。 何か喋らないと、折角こなたと一緒にいられるのに。気持ちばかりが焦り、言葉を喉の奥に押し込む。 こなたぁ……。 ぎゅ、と目をつぶる。頬を熱いものが流れる。口から嗚咽が漏れる。 「かがみ……」 え……? フワ、と暖かいものに包まれた。目を開けると、そこにはこなたの顔が。 あぁ、神に誓ってもいい。きっと今、私の顔は真っ赤になっている。 「来てくれたんだね、かがみ」 こなたは、ただ、それだけを言った。でも、それだけで、伝わった。 ――こなたは、私を待っていてくれた。私の想いは、伝わっていた。 「こな……うっ……っ」 「かがみ……」 こなたと視線が絡み合う。瞬間、世界は、閉ざされ、そこには私とこなたが二人きり。 自然に、ごく自然に、唇同士が惹かれあう。もう、遮るものなど何も無い。 ――ピピピ。 テーブルの上に置かれた時計が30分を示すアラームを発した。閉ざされた世界が開かれ、シンデレラの魔法は解ける。 「もう、行かなくちゃ」 こなたは少し、寂しそうに笑った。 こなたにエスコートされ、私は店の出口へ向かう。本当は帰りたくない。魔法が解けたシンデレラの気持ちが、今ならよく分かる。 「ねえ、かがみ」 こなたが背伸びをして耳元でささやいた。 「今日、靴下用意して、早く寝てね」 私がその意味を問い返す前に、扉は目の前で閉まった。 ――12月25日、朝。 私が目覚ますと、昨日の夜用意した靴下が視界に入った。 あれ……用意した時より膨らんで見える? 訝って中を開けると、丁寧にラッピングされた包みと、メッセージカードが入っていた。 『サンタさんは寝ている良い子にプレゼントをあげるんだからね。                   フライングはダメだよ?                          こなたより』 こなた……。 それは、今まで貰った中で最高のクリスマスプレゼントだった。 ~オマケ~ 私は着替えると、朝食を取りに向かった。 途中、起きてきたまつり姉さんと出くわす。 「あ、かがみ。昨日さ~夜中にこなたちゃんが来たんだよ」 知ってるわよ。こなたから貰ったプレゼントのお返しに何をあげようかしら? 「で、こなたちゃんの格好が可愛いのなんのって。私、なんかこなたちゃんの事好きになったかも」 ……ハイ? それは、私に恋敵が増えた瞬間だった。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
 ねえ、みんな。恋するキッカケって、どんなものだと思う?  私はね、普段、何気なくあるほんの些細なことが、そうなんじゃないかなって思うの。  だって、私が……そうだったから。  私が恋した相手は、私の親友。名前は泉こなた。  キッカケは本当に些細なこと。こなたが携帯を変えて、カメラの使い方を覚えたって言ってきたとき、その後の一言に惚れたの。  なんて言ったと思う? 「やっぱり最初は好きな人を取りたいじゃん?」  そう言って、私をファインダーに納めてパシャリ。  こなたは、いつものじゃれあいの一環と思ってやったのかもしれないけど、その一言が私をドキリとさせた。  それから、すごくこなたの事を意識するようになった。同性なんてことは関係ない。まぁ、日下部って言うライバルもいるけど、こなたへの気持ちは負けてないつもり。  だから、いつもは照れくさくて中々素直になれないけど、本当はどんな時もこなたと一緒にいたい。 特に、奇跡が舞い降りる聖なる夜には……。 ――12月24日、クリスマスイヴ。 街には電飾が飾られ、巨大なクリスマスツリーが駅前に出現。さらにはサンタの格好をした人がビラを配っていたり、プレゼントを物色する親子連れで賑わっていたりと、皆が浮き足立つこの日。 神社であり、直接的にはこのイベントに関わりの無い我が家でさえ、ご馳走を振舞う。まぁ、なんて言うか、みんなお祭りが好きなのよね。 「じゃあ、お姉ちゃん、行って来ます」 「気をつけなさいよ?夜道は暗いんだから」 「は~い」 普段より気合を入れて化粧をし、可愛らしさ3倍増のつかさが家を出て行く。何でも、峰岸に呼ばれてパーティをしに行くそうだ。 私もどうかって誘われてたけど、断った。だって、私には、他に誘いたい人が……いたから。 「こなたの……バカ」 小声で、愛しい人の名を呼び、その人がこの場にいないことを悔しがる。 こなたは、こんなイベントの日に限って……いやこんなイベントの日だからこそか、バイトだそうだ。 自分の部屋に戻り、ベッドに身を沈める。階下からは家族の笑い声が聞こえる。こんな気持ちがなければ、私もそこに交じっていたか、峰岸の家にお呼ばれしていただろう。 「ふぅ……」 会えないことは分かってる。でも、もしかして、と淡い期待を持って携帯を開く。 着信履歴を確認。続いて新着メール。しかし、やっぱりこなたからの連絡は無い。 待ち受けに画面を戻した。私とこなたのツーショット。フレームに納まるようにと、スキンシップというにはいささか過剰に寄り添っている。 さり気なく私の腰に回されたこなたの腕。それは私の事を誘っているようにも見えて、こなたも私の気持ちに気がついているんじゃないかな、と思う。 でも、こなたはいつも飄々としていて、捉え所が無い。本当に私の気持ちに気がついているかは……私には分からない。 分かっても、こなたが私をどう見ているか、分からない。親友?私はそれ以上を求めているのに……。 現在20時、私は駅前を一人、ぶらついていた。 家にいてもやることは何も無い。かといって、外に出てもそれは見つからなかった。 今から峰岸の家に行ってパーティに混ぜてもらおうかな。みゆきも行ってるみたいだし。 でも……こなたのいないクリスマスパーティに何の価値も見出せない。じゃあ、どうしようか。 ため息をつくと、再び目的もなく歩き出そうとした。その時、 「あれ、柊やないか?どないしたん、こんな所で?」 黒井先生だった。コンビニの帰りらしく、ビールと、つまみが入った袋を抱えている。 「泉は?一緒やないんか?」 「こなたは……バイトだそうです」 本当に自分の声かと思うくらい低い声だった。黒井先生も驚いたようで、 「なんや、暗いな?何かあったん?」 「いえ……何も」 目を伏せる。黒井先生の視線が痛かった。こんな自分を誰かに見せたくなかった。 黒井先生はしばらく私の事をじっと見ていたが、やがて、 「柊、今、暇か?」 「え?は、はい……」 「そうか、じゃあ、ちょっと付き合うてくれへん?ウチ今から寄るところがあるんや」 そう言って、私の返事も聞かずに歩き出した。こんな気分だし、本当は行きたくなど無かったけど、年上の頼みだ、無下にも出来ない。 私は、俯いたまま黒井先生の後に続いた。 「ここや、ここ」  そう言って黒井先生の示した場所は……こなたの、バイト先のコスプレ喫茶? 「さ、入るで」  あ。止める間もなく黒井先生はドアノブに手を掛け、引いた。中の暖かい空気が外に漏れてくる。 「お帰りなさいませ、ご主人さ……ま?」  出迎えてくれたのは、こなただった。期間限定のサンタコス。店側もこなたに合うサイズを確保できなかったらしく、裾が大分余っていた。  コレはコレで可愛い……。 「よ、泉。ちょっと邪魔するで」  黒井先生は気軽に片手を上げると、こなたの案内を待つことなく、近くにあった二人分の席に座る。 「お~い、柊も早く来んかい。それと泉、メニュー、早よ持ってきたってな」 「もう、しょうがないなぁ、先生は。かがみも座ってて、今メニュー持ってくるから」  そう言うとこなたは店の奥に引っ込んだ。私は黒井先生向かいに腰を下ろす。 「あの、黒井先生……?」  問いかける私を手で制すと、黒井先生はポケットから一枚の紙切れを取り出した。これは……? 「これ、ここの特別優待券。30分だけ好きな店員を指名して一緒にいられるんや。ウチのクラメンにここの常連がいてな。そいつから貰ったんや。でも、ウチは興味ないし、柊にあげるわ」  え……? 「これ使うて、折角のクリスマスやし、泉と一緒に過ごしや。な?」  私の手に優待券を握らせると、黒井先生は席を立ち、店の外に出て行った。去り際に「一人モンは寂しいわ」って聞こえたけど、見えた顔は心なしか、嬉しそうだった。 「お待たせ、かがみ。あれ?先生は?」  こなたが戻ってきた。緊張して、手が震える。私はそっと、優待券をテーブルの上に置いた。  こなたの目が丸くなる。 「かがみ、それ……」 「……私は、泉こなたを指名します」 「……」 「……」 カチャカチャ――フォークとナイフを繰る音だけが響く。 優待券を提示したことで、私は30分だけ、こなたと食事を共に出来ることになった。 一緒にご飯を食べるのは初めてじゃない。お昼休みはほとんどこなたのクラスで食べているのだから。 でも、会話が出来ない。 その原因が分からなかった。いつもはこんなこと無いのに。 何か喋らないと、折角こなたと一緒にいられるのに。気持ちばかりが焦り、言葉を喉の奥に押し込む。 こなたぁ……。 ぎゅ、と目をつぶる。頬を熱いものが流れる。口から嗚咽が漏れる。 「かがみ……」 え……? フワ、と暖かいものに包まれた。目を開けると、そこにはこなたの顔が。 あぁ、神に誓ってもいい。きっと今、私の顔は真っ赤になっている。 「来てくれたんだね、かがみ」 こなたは、ただ、それだけを言った。でも、それだけで、伝わった。 ――こなたは、私を待っていてくれた。私の想いは、伝わっていた。 「こな……うっ……っ」 「かがみ……」 こなたと視線が絡み合う。瞬間、世界は、閉ざされ、そこには私とこなたが二人きり。 自然に、ごく自然に、唇同士が惹かれあう。もう、遮るものなど何も無い。 ――ピピピ。 テーブルの上に置かれた時計が30分を示すアラームを発した。閉ざされた世界が開かれ、シンデレラの魔法は解ける。 「もう、行かなくちゃ」 こなたは少し、寂しそうに笑った。 こなたにエスコートされ、私は店の出口へ向かう。本当は帰りたくない。魔法が解けたシンデレラの気持ちが、今ならよく分かる。 「ねえ、かがみ」 こなたが背伸びをして耳元でささやいた。 「今日、靴下用意して、早く寝てね」 私がその意味を問い返す前に、扉は目の前で閉まった。 ――12月25日、朝。 私が目覚ますと、昨日の夜用意した靴下が視界に入った。 あれ……用意した時より膨らんで見える? 訝って中を開けると、丁寧にラッピングされた包みと、メッセージカードが入っていた。 『サンタさんは寝ている良い子にプレゼントをあげるんだからね。                   フライングはダメだよ?                          こなたより』 こなた……。 それは、今まで貰った中で最高のクリスマスプレゼントだった。 ~オマケ~ 私は着替えると、朝食を取りに向かった。 途中、起きてきたまつり姉さんと出くわす。 「あ、かがみ。昨日さ~夜中にこなたちゃんが来たんだよ」 知ってるわよ。こなたから貰ったプレゼントのお返しに何をあげようかしら? 「で、こなたちゃんの格好が可愛いのなんのって。私、なんかこなたちゃんの事好きになったかも」 ……ハイ? それは、私に恋敵が増えた瞬間だった。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ! -- 名無しさん (2022-12-27 14:21:29)

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