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『泡沫──うたかた──』~シャボン玉 Konata side~」(2022/12/18 (日) 11:24:49) の最新版変更点

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「ごめんくださぁい」 本当はこんな挨拶等せずに、すぐに入っていきたい。 だけど、初めてこの家に来たとき“意外に最低限の常識はあるのね”と言われたので、この儀礼は外せない。 自分でも子供じみてるし、いつまで根に持ってるんだか、とは思うけどね。 「おーす。早かったわね」 お決まりの挨拶を返して、戸を開けてくれたのは勿論、柊かがみ。私の親友、だ。 「いやぁ。かがみんに早く会いたくなっちゃって」 「な、何言ってんのよ!」 しまった。そう思った。“早く会いたくなった”など、不自然すぎはしないだろうか。 私の想いを悟られては、ならないのだ。落ち着け、私。 平静を保つんだ。いつも通り、自分の思い描く自分を演じるだけでいい。 「あれあれ~。もしかしてかがみん、ドキッてしちゃった?」 そう。それでいい。私は瞬時にニヤニヤとした、貼り付けたような笑みを浮かべた。 つくづく、この点に関してだけは私は完璧すぎた。 少しぐらいボロを出せれば、もしかしたら本当の私に気付いてくれるかもしれな──危険な考えはよせ。 そうだ。これは考えてはダメな領域。自重しろ、私。かがみは一般人だ。同性愛など、以ての外だ。 「冗談はこの辺にして、つかさ居る?」 私は耐え切れなくなって、つかさの元へ逃げ出すことにした。 なのに、 「……縁側に居るわよ」 そう、はき捨てるように、機嫌を悪くして言うのはどうしてなの? 私はエロゲやギャルゲーの主人公みたいに鈍感じゃないつもりだよ。 ねえ。かがみ。私にはそれが嫉妬に見えてしまう。それは私の期待が入っているから? 「そっか。いや、借してた漫画、また読みたくなっちゃってさ」 「そ、そうなんだ」 かがみの、どう見ても無理矢理造った笑顔が、私を狂わせる。 そんな顔しないでよ。私、期待しちゃうよ……。 かがみ、どうしてそんな悲しい顔で笑っているの? 「そうだ。読み終わったらかがみにも貸してあげるよ」 ダメだ。本当に、もうコレ以上ここに居るのは危険だ。早く会話を終了させよう。 「私に理解できる内容ならね」 「その辺は大丈夫。つかさぐらいの一般人でも楽しめる仕様だよ」 少し早口で答えて、私は足早に縁側えと向かった。 勝手知ったる程入り浸っていたから、すぐに逃げられたのかもしれない。 そうなるまで私が依存しているからこそ、困っているのだけれども。 なんだか、皮肉な話しだな。心中で、自嘲した。 目の前で、こんにちは。こなちゃん、とつかさが言った。 何処かで、パズルのピースが崩れるような音がした。 つかさは、シャボン玉で遊んでいた。 年齢を考えれば若干クエスチョンマークが浮かんでしまうのだが、つかさだと違和感がないのはどうしてだろう。 近所でシャボン玉で遊んでいる子供を見て、自分もやりたくなったんだそうだ。つかさらしいな。 ついでに、シャボン液が安売りしていて、十個も買ってきたらしい。 「そんなに買ってきてどうするの? ま、つかさらしいけど」 こうやってつかさと談笑するのは、楽しい。だけど、辛い。 だって、目はつかさを見て、口はつかさに語りかけているのに、その実中身は皆かがみに支配されているんだから。 結局私はつかさのことを、第一に友達としてでなく、かがみから、否。 この私の無限に繰り返される妄想から、少しでも脱却するだめの、道具として捕らえているのだ。 なんて、我侭なんだろう。 「こなちゃんもシャボン玉やる?」 「やるやる!」 つかさとの間接キスだけれど、私は何にも気にしなかった。 というよりは、そんな事気がつかなかった。 やはり頭の中が、かがみで一杯だったからだ。 私の名を優しく、熱っぽく呼ぶかがみ。手が私の背に回り、引き寄せられる。 そして、私は少しだけ背伸びをして──かがみの唇と自分の唇を重ねた。そんな、有り得ない、泡沫の、夢。 かがみの唇は、どれほど柔らかいのだろう。甘い味がするのかな? キスはレモンの味って、ほんとうなのかな。そんな、夢見る少女のような、戯言。 いや、そんなことは分かってる。十分に理解している。だけど、永久に続いて欲しい、戯れ言。 悪循環な誇大妄想と思考がループする。 「そうそう、くさいんだよ」 「クサイよね」 会話の内容など、頭に入ってはいなかった。 「ジュース持ってきたわよ」 ドキリとした。 丁度、脳内で私がかがみと濃密な時間を過ごしている最中だったのだ。 「でかした、かがみ!」 出来る限り馬鹿っぽいテンションで、笑みを浮かべてコップを奪った。 「有り難う、お姉ちゃん」 つかさが私の隣に座る。少しだけ足が触れた。 ……かがみだったら良かったのに。思ってはならないことが、頭をよぎる。 何か、喋らなくちゃ。 「そだ、かがみもシャボン玉やろうよ」 あ。な、な、何を口走っているんだ私は!? うぅ、やっちゃった。妄想垂れ流ししてるよ。 「え、あ、な、何言ってんのよ!」 ほら、かがみの顔が真っ赤になっている。 でも、かがみとの間接キス。なんて素晴らしい響きなんだろう。 だけど、臆病な私は、 「もしかしてかがみ。間接キスとか意識してるのかにゃぁ?」 そうやって茶化すことしか出来なかった。 「そんなわけ──」 だから私は、後悔した。もう二度と会えないのかと一瞬、本当に、思った。 いつも思い知らされる。永遠など、ないのだと。 ──かがみが、倒れた。 パタパタパタ。パタパタパタ。 扇風機を回し、団扇も扇いでいた。 かがみが倒れた後、何も考えられずただ泣きじゃくる私を、つかさが叱責してくれたおかげで今は比較的冷静だ。 つかさに助けられるなんて、ダメだなぁ。私。 件のつかさは「熱はそんなにないみたいだから、起きた後食べる用にアイス買ってくるね」と言って私にかがみを任せた。 “そうそう、きっかり一時間で帰ってくるから、お姉ちゃんに何かするなら、それまでにね”とも言っていた。 何かとは一体なんだというのか。しかもその含み笑い……実はつかさが一番敵にまわしたくない人間かもしれない。 「んっ」 「かがみ? 気がついたの?」 かがみの瞼が、ゆっくりと開いた。 「あ……うん」 かがみは、状況が掴めない、といった顔をしていた。 「かがみ、覚えてる? 倒れたんだよ。びっくりしたんだから。熱もあったし……」 かがみは未だに自分がどうなっているのか判らず、目をパチクリさせていた。 しおらしく、私の膝の上で小首を傾げる様子がとても可愛く、そして、私に恐怖を思い出させた。 もし、かがみがこのままいなくなってしまったら……。 “永久不滅”なものなんて、ないんだ。 「──シャボン玉とんだ 屋根までとんだ。屋根までとんで、壊れて消えた──」 そう思ったら、いつの間にか唄いだしていた。 ねぇ、かがみ。 「何?」 この歌ってさ、ちょっと残酷じゃない? 「アンタはまた、屋根“までもが”とんだ、とかいうんじゃないでしょうね」 違うよ。自分が楽しんで、一生懸命作った物がものの数秒で、消えちゃうんだよ。夢は儚い。私にはそう詠っているように聞こえちゃうな。 「…………」 何でかな。もしかしたら、お母さんの事があるからなのかもしれないけど、私は昔から“永遠”に憧れてるんだ。 「だけどね、半分諦めてる。永遠なんて、ただの幻なんだって。かがみや……つかさや、みゆきさんと永遠に笑って暮らすなんて、不可能なんだって」 そう、それは唯の幻想だったのだ。いや、そんな可愛いものじゃない。これは私の我侭だ。 私もそうであるように。つかさにもみゆきさんにも。そしてかがみにも、自分自身だけの未来があるんだ。 私が干渉する資格など、あるはずが、ない。そして私には勇気も、ない。 かがみとの関係を崩す勇気が。二人で大衆と偏見に立ち向かっていく勇気が。 私は自分の未来を、定められない。 「ちょっと待ってて!」 突然、かがみがそう言って走り出した。呆然と、疾走する背中を見つめた。 「こなた!」 「あ、何処行ったのか、心配したよ。てか、何持ってるの? たらいと、ハンガー?」 そう、かがみの両手には、たらいと、変形させて円を描くハンガーが大小二つ、握られていた。 そして、つかさの買って来らありったけのシャボン液を、突然たらいにぶちまけた。 「何、してるの?」 かがみは私の質問に答えず、たらいに広がるシャボン液に、小さい方のハンガーをつけた。 そして、シャボン玉をつくる。 「…………?」 間髪いれずに、大きい方のハンガーにシャボン液をつけて、大きなシャボン玉を、つくる。 「あ」 思わず声が出た。二つのシャボン玉は、割れてしまったのだ。 もう一度。もう一度、もう一度、もう一度……。かがみはそれこそ永遠の繰り返した。 「ねえ、かがみ。何してるの?」 私がもう一度そう言った時だった。 「出来た!」 二つのシャボン玉が、片方を包含して、浮いていた。 それらは、運命共同体。どちらかが失われるとき、もう一方も消えてしまう。 そして、数秒を待たずして、壊れて……消えた。 「こなた、やっぱり“永遠”なんてない。私はそう思う」 かがみが、私にゆっくりと語りかける。私は顔を伏せた。そうしないと、何かが零れ出そうだった。 「だけど、今、一緒に居ることが出来る。大切なのは今、どうするかなんだよ。明日どうなっているか、一年先にどうなのか。そんな事を心配していたらキリがない。だから、今を精一杯良い方向に生きるんだ」 嗚呼、そうか。なんで気がつかなかったんだろう。 大切なのは、今だ。 私達が生きているのは未来なんかじゃない。過去なんかじゃもっとない。ただ、今を生きているんだ。 精一杯生きた今は、確実に素晴らしい足跡となって、精一杯繋げる今は、確かに輝かしい未来になるんだ。 その区切られた、一瞬一瞬での、私達の貴重な今こそが唯一、永遠なのだ。 「今の二つのシャボン玉のように、私がこなたを包んで、二人で一緒に、いよう。今を二人で」 だから、私は今をちゃんと歩くために、言おう。私の気持ちを。後悔のないように。 「かが、み……」 私の頬にはいつの間にか、暖かい涙が流れていた。 かがみも、目に涙を溜めていた。 ──ねぇ。かがみ── ──何?── ──私、かがみの事が、好き……です── ──私もだよ、こなた── **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - この話アニメ化にしてくれないかな? -- マイケル (2009-08-17 03:01:07) - かがみもこなたも、お互い不安を抱えていたんですね…。 &br()二人とも、強く今を生きていってほしいです。 &br()GJでした。 -- 名無しさん (2008-12-18 11:27:03)
「ごめんくださぁい」 本当はこんな挨拶等せずに、すぐに入っていきたい。 だけど、初めてこの家に来たとき“意外に最低限の常識はあるのね”と言われたので、この儀礼は外せない。 自分でも子供じみてるし、いつまで根に持ってるんだか、とは思うけどね。 「おーす。早かったわね」 お決まりの挨拶を返して、戸を開けてくれたのは勿論、柊かがみ。私の親友、だ。 「いやぁ。かがみんに早く会いたくなっちゃって」 「な、何言ってんのよ!」 しまった。そう思った。“早く会いたくなった”など、不自然すぎはしないだろうか。 私の想いを悟られては、ならないのだ。落ち着け、私。 平静を保つんだ。いつも通り、自分の思い描く自分を演じるだけでいい。 「あれあれ~。もしかしてかがみん、ドキッてしちゃった?」 そう。それでいい。私は瞬時にニヤニヤとした、貼り付けたような笑みを浮かべた。 つくづく、この点に関してだけは私は完璧すぎた。 少しぐらいボロを出せれば、もしかしたら本当の私に気付いてくれるかもしれな──危険な考えはよせ。 そうだ。これは考えてはダメな領域。自重しろ、私。かがみは一般人だ。同性愛など、以ての外だ。 「冗談はこの辺にして、つかさ居る?」 私は耐え切れなくなって、つかさの元へ逃げ出すことにした。 なのに、 「……縁側に居るわよ」 そう、はき捨てるように、機嫌を悪くして言うのはどうしてなの? 私はエロゲやギャルゲーの主人公みたいに鈍感じゃないつもりだよ。 ねえ。かがみ。私にはそれが嫉妬に見えてしまう。それは私の期待が入っているから? 「そっか。いや、借してた漫画、また読みたくなっちゃってさ」 「そ、そうなんだ」 かがみの、どう見ても無理矢理造った笑顔が、私を狂わせる。 そんな顔しないでよ。私、期待しちゃうよ……。 かがみ、どうしてそんな悲しい顔で笑っているの? 「そうだ。読み終わったらかがみにも貸してあげるよ」 ダメだ。本当に、もうコレ以上ここに居るのは危険だ。早く会話を終了させよう。 「私に理解できる内容ならね」 「その辺は大丈夫。つかさぐらいの一般人でも楽しめる仕様だよ」 少し早口で答えて、私は足早に縁側えと向かった。 勝手知ったる程入り浸っていたから、すぐに逃げられたのかもしれない。 そうなるまで私が依存しているからこそ、困っているのだけれども。 なんだか、皮肉な話しだな。心中で、自嘲した。 目の前で、こんにちは。こなちゃん、とつかさが言った。 何処かで、パズルのピースが崩れるような音がした。 つかさは、シャボン玉で遊んでいた。 年齢を考えれば若干クエスチョンマークが浮かんでしまうのだが、つかさだと違和感がないのはどうしてだろう。 近所でシャボン玉で遊んでいる子供を見て、自分もやりたくなったんだそうだ。つかさらしいな。 ついでに、シャボン液が安売りしていて、十個も買ってきたらしい。 「そんなに買ってきてどうするの? ま、つかさらしいけど」 こうやってつかさと談笑するのは、楽しい。だけど、辛い。 だって、目はつかさを見て、口はつかさに語りかけているのに、その実中身は皆かがみに支配されているんだから。 結局私はつかさのことを、第一に友達としてでなく、かがみから、否。 この私の無限に繰り返される妄想から、少しでも脱却するだめの、道具として捕らえているのだ。 なんて、我侭なんだろう。 「こなちゃんもシャボン玉やる?」 「やるやる!」 つかさとの間接キスだけれど、私は何にも気にしなかった。 というよりは、そんな事気がつかなかった。 やはり頭の中が、かがみで一杯だったからだ。 私の名を優しく、熱っぽく呼ぶかがみ。手が私の背に回り、引き寄せられる。 そして、私は少しだけ背伸びをして──かがみの唇と自分の唇を重ねた。そんな、有り得ない、泡沫の、夢。 かがみの唇は、どれほど柔らかいのだろう。甘い味がするのかな? キスはレモンの味って、ほんとうなのかな。そんな、夢見る少女のような、戯言。 いや、そんなことは分かってる。十分に理解している。だけど、永久に続いて欲しい、戯れ言。 悪循環な誇大妄想と思考がループする。 「そうそう、くさいんだよ」 「クサイよね」 会話の内容など、頭に入ってはいなかった。 「ジュース持ってきたわよ」 ドキリとした。 丁度、脳内で私がかがみと濃密な時間を過ごしている最中だったのだ。 「でかした、かがみ!」 出来る限り馬鹿っぽいテンションで、笑みを浮かべてコップを奪った。 「有り難う、お姉ちゃん」 つかさが私の隣に座る。少しだけ足が触れた。 ……かがみだったら良かったのに。思ってはならないことが、頭をよぎる。 何か、喋らなくちゃ。 「そだ、かがみもシャボン玉やろうよ」 あ。な、な、何を口走っているんだ私は!? うぅ、やっちゃった。妄想垂れ流ししてるよ。 「え、あ、な、何言ってんのよ!」 ほら、かがみの顔が真っ赤になっている。 でも、かがみとの間接キス。なんて素晴らしい響きなんだろう。 だけど、臆病な私は、 「もしかしてかがみ。間接キスとか意識してるのかにゃぁ?」 そうやって茶化すことしか出来なかった。 「そんなわけ──」 だから私は、後悔した。もう二度と会えないのかと一瞬、本当に、思った。 いつも思い知らされる。永遠など、ないのだと。 ──かがみが、倒れた。 パタパタパタ。パタパタパタ。 扇風機を回し、団扇も扇いでいた。 かがみが倒れた後、何も考えられずただ泣きじゃくる私を、つかさが叱責してくれたおかげで今は比較的冷静だ。 つかさに助けられるなんて、ダメだなぁ。私。 件のつかさは「熱はそんなにないみたいだから、起きた後食べる用にアイス買ってくるね」と言って私にかがみを任せた。 “そうそう、きっかり一時間で帰ってくるから、お姉ちゃんに何かするなら、それまでにね”とも言っていた。 何かとは一体なんだというのか。しかもその含み笑い……実はつかさが一番敵にまわしたくない人間かもしれない。 「んっ」 「かがみ? 気がついたの?」 かがみの瞼が、ゆっくりと開いた。 「あ……うん」 かがみは、状況が掴めない、といった顔をしていた。 「かがみ、覚えてる? 倒れたんだよ。びっくりしたんだから。熱もあったし……」 かがみは未だに自分がどうなっているのか判らず、目をパチクリさせていた。 しおらしく、私の膝の上で小首を傾げる様子がとても可愛く、そして、私に恐怖を思い出させた。 もし、かがみがこのままいなくなってしまったら……。 “永久不滅”なものなんて、ないんだ。 「──シャボン玉とんだ 屋根までとんだ。屋根までとんで、壊れて消えた──」 そう思ったら、いつの間にか唄いだしていた。 ねぇ、かがみ。 「何?」 この歌ってさ、ちょっと残酷じゃない? 「アンタはまた、屋根“までもが”とんだ、とかいうんじゃないでしょうね」 違うよ。自分が楽しんで、一生懸命作った物がものの数秒で、消えちゃうんだよ。夢は儚い。私にはそう詠っているように聞こえちゃうな。 「…………」 何でかな。もしかしたら、お母さんの事があるからなのかもしれないけど、私は昔から“永遠”に憧れてるんだ。 「だけどね、半分諦めてる。永遠なんて、ただの幻なんだって。かがみや……つかさや、みゆきさんと永遠に笑って暮らすなんて、不可能なんだって」 そう、それは唯の幻想だったのだ。いや、そんな可愛いものじゃない。これは私の我侭だ。 私もそうであるように。つかさにもみゆきさんにも。そしてかがみにも、自分自身だけの未来があるんだ。 私が干渉する資格など、あるはずが、ない。そして私には勇気も、ない。 かがみとの関係を崩す勇気が。二人で大衆と偏見に立ち向かっていく勇気が。 私は自分の未来を、定められない。 「ちょっと待ってて!」 突然、かがみがそう言って走り出した。呆然と、疾走する背中を見つめた。 「こなた!」 「あ、何処行ったのか、心配したよ。てか、何持ってるの? たらいと、ハンガー?」 そう、かがみの両手には、たらいと、変形させて円を描くハンガーが大小二つ、握られていた。 そして、つかさの買って来らありったけのシャボン液を、突然たらいにぶちまけた。 「何、してるの?」 かがみは私の質問に答えず、たらいに広がるシャボン液に、小さい方のハンガーをつけた。 そして、シャボン玉をつくる。 「…………?」 間髪いれずに、大きい方のハンガーにシャボン液をつけて、大きなシャボン玉を、つくる。 「あ」 思わず声が出た。二つのシャボン玉は、割れてしまったのだ。 もう一度。もう一度、もう一度、もう一度……。かがみはそれこそ永遠の繰り返した。 「ねえ、かがみ。何してるの?」 私がもう一度そう言った時だった。 「出来た!」 二つのシャボン玉が、片方を包含して、浮いていた。 それらは、運命共同体。どちらかが失われるとき、もう一方も消えてしまう。 そして、数秒を待たずして、壊れて……消えた。 「こなた、やっぱり“永遠”なんてない。私はそう思う」 かがみが、私にゆっくりと語りかける。私は顔を伏せた。そうしないと、何かが零れ出そうだった。 「だけど、今、一緒に居ることが出来る。大切なのは今、どうするかなんだよ。明日どうなっているか、一年先にどうなのか。そんな事を心配していたらキリがない。だから、今を精一杯良い方向に生きるんだ」 嗚呼、そうか。なんで気がつかなかったんだろう。 大切なのは、今だ。 私達が生きているのは未来なんかじゃない。過去なんかじゃもっとない。ただ、今を生きているんだ。 精一杯生きた今は、確実に素晴らしい足跡となって、精一杯繋げる今は、確かに輝かしい未来になるんだ。 その区切られた、一瞬一瞬での、私達の貴重な今こそが唯一、永遠なのだ。 「今の二つのシャボン玉のように、私がこなたを包んで、二人で一緒に、いよう。今を二人で」 だから、私は今をちゃんと歩くために、言おう。私の気持ちを。後悔のないように。 「かが、み……」 私の頬にはいつの間にか、暖かい涙が流れていた。 かがみも、目に涙を溜めていた。 ──ねぇ。かがみ── ──何?── ──私、かがみの事が、好き……です── ──私もだよ、こなた── **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ! -- 名無しさん (2022-12-18 11:24:49) - この話アニメ化にしてくれないかな? -- マイケル (2009-08-17 03:01:07) - かがみもこなたも、お互い不安を抱えていたんですね…。 &br()二人とも、強く今を生きていってほしいです。 &br()GJでした。 -- 名無しさん (2008-12-18 11:27:03)

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