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雨降って地固まる」(2022/12/16 (金) 02:56:23) の最新版変更点

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……つまり『サザエさん』で描かれているのはキャラクターというより父、母、夫、弟といった人間関係であり、その関係性が崩れることは物語の崩壊を意味する。  『サザエさん』においてキャラクターは成長しないのではなく成長してはいけないのである。…… 「…よしっ、今日はここまでっ!」 仕事がひと段落してPCの前でひとつ伸びをする。 時計を見ると午後1時を少し回っていた。 「おっと、そろそろ出かけなくちゃ」 今日はつかさと会う約束がある。 わざわざ仕事を抜けてきてくれるというから遅れるわけにはいかない。 今まで開いていたドキュメントをセーブしてPCをシャットダウンする。 そして机に立てかけてある写真に目をやった。 思いっきり笑う私の隣でかがみが照れた表情をしてこっちを見ている。 「フーンだっ!かがみが冷たいから今日はつかさと浮気してきちゃうんだからねっ!」 そう言って「ベッ」と舌を出してやった。 もちろん浮気する気なんてない。 でもかがみが冷たいというのは半分本当だった。 かがみはいつも仕事が忙しくてなかなか私と時間が合わない。 朝は私が起きる前に出かけちゃうし日が沈む前に帰ってくることはほとんどない。 休みなのに事務所に出かけていくなんてこともときどきある。 けどそれだけなら別に構わない。 ライターという仕事の性質上、私のほうが時間の融通は利く。 だから私がかがみに合わせてあげなくちゃいけないと思ってた。 でもそれだけじゃないから困る。 最近のかがみは資格を取るとかいって勉強漬けだ。 ろくに私の相手もしてくれない。 仕事が忙しいのはわかってる。 勉強しなくちゃいけないのもわかってる。 しかしこうもこみゅにけーしょんってやつが少ないとですネ。 寂しいと言うか……。もの足りないと言うか……。 あっちのほうも…その、ご無沙汰なわけですし。 「新婚2年目にして倦怠期ですかねー…」 式も挙げてないし籍も入れてないケドー、と自分で突っ込む。 支度を済ませた私は「ふぅ」とため息を吐いて玄関の鍵をカチャリと閉めた。 かがみからプロポーズ(?)を受けたのは2年前のことだった。 私は学生のころから同棲しようってしきりに言っていた。 なのにかがみはけじめがあるから何とか言ってなかなかOKしてくれなかった。 それが、かがみが働き始めてしばらく経ったころ、 「これからもずっと、私のいちばん愛しい人でいて欲しい」って言われた。 「だから一緒に暮らして欲しい、ずっと」って。 ちょうど日が沈んで間もないころでそれまで光に押しやられていた闇がゆっくりと下りてきていた。 そして火照った空気をひんやり冷やしながら私たちのまわりをうすくうすく漂っていた。 いつものように仕事を終えたかがみと待ち合わせをして…… いつものように2人してかがみのアパートに向かって…… そんないつもどおりのひとコマ、私はまさかそんな超重大発言をされるとは思ってもいなくて一瞬かたまった。 けどその次の瞬間にはかがみに飛びついていた。 茶化すのも忘れて「うれしい」という私にかがみはちょっとあわてて言った。 「ちょ、ちょっと…よく考えなさいよ!  ずっとよ?ずっとなのよ?…本当に私で、いいの……?」 「迷うわけないよ!私にはかがみしかいないんだから…!」 そう言って私はかがみの背中にまわした腕に力を込めた。 するとかがみは「ありがとう」と言って私よりもずっとずっと強い力で私を抱き締めてくれた。 薄闇の中で桜色に染まった心が胸を揺らして私をそわそわした気持ちにさせた。 私はそのそわそわがむず痒くて、いつまでもかがみの胸に顔を押し当てていた。 (…ま、一緒に暮らし始めたのはその3ヶ月後だけどね……) 軽く突っ込んで回想を終了させる。 改札に切符を通しながら時計を見ると5時半を過ぎたところだった。 これなら余裕をもって夕飯の支度ができそうだ。 私はいま少し機嫌がいい。 それには2つ理由があって、ひとつは久しぶりにつかさに会えたこと。 懐かしい友人に会って喋りたいだけ喋ってすっきりしてきた。 高校生のころの話、最近どうしてるかなんて話や面白かった漫画やテレビのこと…… 仕事と勉強ばかりのかがみの愚痴も思いっきり言ってきてやった。 つかさには「ノロケだね~」なんて言われちゃったけど。 そしてもうひとつの理由が明日一日かがみを独り占めできるってこと。 一週間前からかがみにお願いして、予定を空けておいてもらった。 久しぶりにかがみと一緒に一日を過ごせると思うと心がハネて落ち着かない。 これじゃノロケだなんて言われても仕方ないカモね…… ☆ ……右期限経過後も何ら文書での回答なき場合には、右解約につき何ら異議のないものとみなさせていただきます。  以上、簡略ながらご通知申し上げます。…… 「…よしOK!今日はここまでにしておくか」 仕事がひと段落してPCの前でひとつため息を吐く。 時計を見ると午後7時を少し回っていた。 (今日も遅くなっちゃったな……) 最近こなたとあまり話せていない。 朝でかけるときはこなたはまだベッドで寝ぼけまなこだし帰りもだいたい夜になる。 仕事をこなせるようになって休日出勤を頼まれることも増えてきた。 それに加え、独立したときのことを考えて資格の勉強も始めた。 必然、こなたとの時間はどんどん少なくなる。 帰りの遅い私を文句も言わずに迎えてくれるこなたには感謝している。 そしてそれと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 そうだ、今日は帰ったらこなたに謝らなきゃならないこともある。 ……足が重い。 本当にゴメンね、こなた…… ☆ 夕飯の準備を終えてキッチンで漫画を読みながらかがみを待つ。 漫画を読み進めているうちに玄関のほうでガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてきた。 続いて「ただいまー」という声とともにかがみが姿を現す。 私は「うん、おかえりー」と言ってかがみを迎える。 かがみが帰ってくるといつも笑顔がこぼれるのを抑えきれない。 まったく、かがみ様にはかなわないヨ…… 「今日も遅かったね、すぐご飯の準備するよ」 「うん……」 疲れているのか、かがみはいつもより元気がない。 なんだか困ったような顔をしてこっちを見ている。 「どったの?なんかあった?」 「うん……あのさ、明日のことなんだけど……」 「ああ、明日?期待してていいヨー?でぇとプランは完璧だからね☆」 「そのことなんだけど……その、ゴメン!明日休み取れなくなっちゃった…」 「…え?」 「仕事でミスがあってさ、今週作った文書チェックし直さなくちゃならないのよ。  ゴメンね、別の日に埋め合わせするから……ね?」 …そっか、仕事なんだ。……また。 さっきまでハネてた気持ちが嘘みたいに大人しくなるのがわかった。 静かになった心の奥から何かがふつふつと沸きあがってくる。 「ちょっとぉ、怒らないでよ。ゴメンってば」 「……別に、怒ってないよ」 「うそ、あんた怒ると顔が青くなるんだから。また別の日空けるから、許してよ?ね?」 …別の日。別の日じゃダメなのに。 かがみは明日のことなんてどうでもいいんだ…… 心の奥がよけいにふつふついい始める。 「…もう、いいよ……」 「よくないわよ、私だって明日楽しみにしてたんだからね?」 「………き…」 「え?」 「うそつき。かがみは仕事のほうが楽しいんじゃないの?」 「な、聞き分けのないこと言わないでよ!仕事休めないのは仕方ないでしょ!?」 わかってる。仕方ないのはわかってる。なのに口が勝手に動く。 さっきから心は静かでむしろ冷静なのにその奥底でぐつぐついう激情をどうすることもできない。 沸いて出てくる意地悪な言葉を抑えることができない。 「どうかな?かがみは仕事と結婚したほうがいいんじゃない?  どうせ私とは結婚できないんだもんね」   パンッ!! 大きな音がした。一瞬何が起こったのかわからなくなる。 が、じりじりとほおを走る痛みに自分が叩かれたのだと理解する。 かがみを見ると顔を真っ赤にして目に涙を浮かべていた。 「…あ、甘えてんじゃないわよ!このバカ!!」 ほおの痛みと怒鳴り声で私の怒りも噴火した。 煮えたぎった激情を一気にぶちまける。 「かがみのバカ!アホ!う○こ!!もう知らない!!」 そう言って寝室にかけ込みベッドの上で布団にくるまった。 かがみは「ちょ、うん○はないでしょ!?」とか言ってたけど知ったこっちゃない。 私は布団の中でさっきの暴言といっしょに堰を切ったように溢れてきた涙を必死にこらえていた。 ☆ 目が覚めるとソファの上だった。 あの後こなたの機嫌をとりにいくのが癪で寝室に行かないでソファで寝たことを思い出す。 昨日はついつい殴っちゃったけど今はもうすごく後悔してる。 こなたに謝ってゆっくり話がしたかったけど、もう仕事に行く時間だ。 こんなときは仕事が本当に恨めしくなる。 軽く朝食を摂って出かける前に寝室をのぞいてみた。 「こなた?昨日はごめんね。じゃ、私行ってくるから」 こなたは眠っているのか、返事はない。 私は玄関に向かうと、ゆっくり静かに戸を閉めてカチャリと鍵をかけた。 ☆ 怒りなんてとっくに納まっていた。 ただ悲しかった。悲しくて悲しくて、胸が痛いほどだった。 朝かがみが「ごめんね」って声をかけてくれたけど私は布団の中で動けなかった。 どうして……どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。 かがみはいつも私のこと考えてくれてるのに。 いつも私のこと好きでいてくれてるのに。 「どうせ私とは結婚できないんだもんね」 そう言ったときのかがみの顔が頭から離れない。 かがみ、すごく悲しそうな顔してた。…すごく傷ついた顔してた。 ゴメンね……ゴメンね、かがみ。 ねぇ、なんでこうなっちゃうのかな? 私たち、やっぱり幸せにはなれないの……? かがみがお父さんのところに挨拶しに来たときのことを思い出す。 私たちの同棲のことをきちんと伝えるんだってかがみが言い出したことだった。 居間に通されたかがみは出された座布団の上で小さく正座した。 そして正面に座るお父さんに「ごめんなさい」と何度も何度も謝った。 「ごめんなさい、ごめんなさい」と、何回言っても足りないみたいだった。 かがみはついには土下座までして涙を流しながら身体を小さく震わせた。 私はただびっくりしてしまって隣で震えてるかがみの背中に手を置くことしかできなかった。 泣きながら謝るかがみにお父さんは少し悲しそうに笑って「顔を上げなさい」と言った。 結局お父さんは私たちが同棲することにもずっと一緒に暮らしていくことにも反対はしないで、「こなたたちがそれで幸せなら」と言って了承してくれた。 それでもお父さんの顔からあの悲しそうな表情が消えることは最後までなかった。 かがみが帰った後、お父さんに聞いてみた。 「ねぇ、お父さん……私、本当にかがみと一緒にいていいの?」 「何言ってんだ、当たり前だろ。俺はこなたの幸せを願ってるよ」 お父さんはやっぱり少し悲しそうな表情でそう言った。 お父さんは……なんで心から祝福してくれなかったんだろう。 やっぱり、女同士で幸せになんてなれないってわかってたのかな…… 昨日から疼きっぱなしの胸がまた痛み出す。 涙はもうしばらく止まりそうになかった。 ☆ 「ふぅ…まいったわね、今日は」 仕事を終えて帰り支度をしながら呟く。 さすがに今日は残業はなかった。 と、携帯に着信履歴があることに気づく。つかさからだ。 どうしたんだろう、勤務時間中にかけてくるなんて。 とりあえず事務所を出て自転車を停めてある駅のほうに向かいながら電話をかける。 つかさは5回目の呼び出し音で電話に出た。 『あ、もしもし?お姉ちゃん?』 「おーっす、電話どうしたの?つかさも仕事じゃなかったっけ?」 『うん…そうなんだけど……お姉ちゃんたち遅いなーって思って…  こなちゃんに電話しても出ないし……』 「え?遅いって……なに?どういうこと?」 『あれ?こなちゃんから聞いてない?  今日はお姉ちゃんがプロポーズしてくれた日だって言ってね、昨日こなちゃんが――』 ――しまった。慌てて右手にした腕時計の日付を見る。 そうか、いつも聞き分けのいいあの子がやけに噛み付くと思ったらこういうことか。 やってしまった。すぐに帰って謝らなきゃ。 「あ、つかさ?うん…こっちは大丈夫だから。うん、うん…ごめんね、また電話する」 電話を切って自転車へとダッシュする。 私は、本当にバカだ。 こなたはいつもマイペースでわがままばかり言ってるからなかなか気づけない。 いつでも私の様子を気にかけてて肝心なところではいつも譲ってくれることを。 いつものわがままで私を振り回しながらいつの間にか元気づけてくれることを。 こなたはいつも私のことを支えてくれてるのに。 いつも私のことを好きでいてくれてるのに。 ゴメン……ゴメンね、こなた。 私は何も文句を言わないこなたに甘えてた。 今までこなたにどれだけ寂しい思いをさせてきたことだろう。 どれだけこなたの気持ちを裏切ってきたことだろう。 いちばん、幸せになって欲しいと思ってたはずなのに…… ☆ 部屋の中に夜の冷たい気配が入り込んできている。 結局一日中布団の中で過ごしてしまったようだ。 涙はけっこう前に引いたけど気持ちが全然晴れない。 答えの出ない問いが頭の中を堂々巡りしている。 ――私たちは、イケナイことをしてるのかな……? 涙が流れて空っぽになった心が締め上げられる。 ダメだ、こんなの立ち直れそうにないよ。 と、玄関のほうからガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてきた。 かがみが帰ってきたんだ。どうしよう、どんな顔して迎えればいいんだろう。 そんなことを考えていると「バンッ!」とドアが思いっ切り開く音がして、その後にドタドタドタッと大きな足音が続いた。 何事かと驚いていると足音は私のいる寝室のドアの前で止まる。 そしてドア越しにかがみの声が聞こえてきた。 「こなた…?いるんでしょ?ゴメンね、今日は私がこなたに一緒に暮らそうって言った日だったんだよね  いろいろ準備してくれたんだって?つかさから聞いた。私…すっかり忘れちゃってて……」 ああ、鍵なんてないのにかがみは無理やりドアを開けようとはしないんだ。 かがみは本当にやさしい。冷たくなった心がほのかに体温を取り戻す。 「ねぇ、まだ怒ってる?お願いだから出てきてよ、こなたぁ……」 「もう怒ってないよ。待ってて、いま開ける」 ドアの前に立ってゆっくり扉を開ける。廊下から差す明かりが眩しい。 かがみは目の前に立っていた。――なんだか泣きそうな顔をしてるな。 そう思った瞬間、「こなた…!」という声とともに視界がふさがった。 かがみにやさしく、力強く抱き締められながら思う。 温かい。かがみに抱き締められるだけで私はこんなに幸せな気持ちになれる。 なのに、私はここにいちゃいけないのかな…… 「ゴメンこなた……。私、怖くて……。すごく怖くて……!」 かがみはそう言って私の頭と背中に回した腕をさらに深く這わせた。 「本当は誰も私たちのことを認めてくれてないんじゃないかって…  私たちのことを咎めてるんじゃないかって……!  だから、ちゃんとしてれば誰も文句言わないんじゃないかって、そんなことばっか考えて……  いちばん大事なこなたのこと忘れちゃってて……」 ああ、そうか。かがみは今まで2人分悩んでくれてたんだ。 そんなことにも気づけなかったなんて、私はとんだ甘ちゃんだった。 かがみに申し訳なくて、愛しくて……かがみの背中に腕を回して目を閉じた。 「ねぇ、かがみ…?」 「なに?」 「私たちは……いけないことをしてるのかな?」 「……わからない」 「ねぇ、かがみ…?」 「なに?」 「お父さんに私たちが一緒に暮らすこと話したとき、なんであんなに謝ってたの?」 「…………。」 「……前に、かなたさんの写真を見せてもらったことがあったでしょ?」 「お母さんの?」 「うん。そのときにね、すごいな、って思ったの。  おじさんもかなたさんもすごく幸せそうで、こなたがその幸せを一心に受けてるのがわかって……  かなたさんは死んじゃってもういないのにこなたの中にかなたさんの愛が息づいてる気がして……」 ――私の中に、お母さんの愛が……? 「おじさんはね、こなたにもそうなって欲しかったんじゃないかと思うんだ。  早く死んじゃうとかそういうんじゃなくて、もしこなたがいなくなっちゃってもこなたが幸せだってことを遺せるような生き方をして欲しかったんじゃないかって。  ……でも、私と一緒じゃそんなことできっこないから……」 何か……何か見えた気がした。 ずっと頭の中をぐるぐる回っていた問いがすぅっと心に溶けていく感じがする。 答えはまだ見えない。でも何か道が開けたような……開けてないような…… 「……だからせめて、私は絶対こなたを幸せにするかr…」 「できるよ!!」 がばっと身体を離してかがみの目を見た。 かがみはきょとんとしている。 「へ?」 「よくわかんないけど……きっとできるって!…探そうよ、一緒に!」 「ちょ、ちょっと待って。探すって……何を?」 「だからっ!私たちの幸せを残す方法!そんなことできたらすごいよね!?私やりたい!」 「でも、そんなこと……」 「かがみ?かがみはちゃんとしなきゃって言うけど、かがみが頑張んなくても私はかがみの隣にいられて幸せだよ?  でもそれには条件があってね」 「条件?」 「うん、私の隣でかがみが笑ってくれること!私、かがみが幸せじゃないと幸せになれないよ  ね、かがみ?どうせ頑張るなら私だけの幸せじゃなく私とかがみ2人の幸せのために頑張ろうよ!」 「……できるかどうかなんて、わからないのよ?」 「難しいことだってのはわかってるよ。  かがみは失敗するのが怖いんだよね。失敗して、ほらダメじゃないかって言われるのが。  でも大丈夫、失敗してもいいじゃん。難しいことするんだから失敗は当たり前だよ。  ゲームでもね、プレイヤーは何回も失敗して何回もやり直すから上手くなるんだよ?  人生はリセットできないなんて言うけど、プレイヤーはちゃんと失敗を覚えてるんだからね。  ……だから、探してみよう?私たちがずっと幸せでいられる生き方を」 「…………こなた……」 かがみはやさしく私を見ながら「うん」と言うかわりに腕を私の腰にまわしてきた。 私もそれに応えてかがみの背中に腕をまわして力を込めようとしたら……   クゥゥゥゥ……… ……お腹が鳴った…。そういえば今日一日何も食べてない。 「……ぷっ、くくく……」 かがみが笑い出した。このタイミングは恥ずかしい…。 くつくつと笑いの止まらないかがみへ抗議の意味を込めて背中にまわした腕に力を入れる。 「ふふふ……お腹すいたわね。遅くなっちゃったけどこれからつかさのお店に行こっか?」 「おぉー、そりゃいいね。私、昨日つかさと一緒にケーキ焼いたんだよ。  今日お店で特別に出してもらうようにって!」 「あら、それは楽しみね。それじゃ、さっさと着替えて行きましょ」 「うんっ!!」 かがみと出かける準備をしながら考える。 私たちが出会ってから、私がかがみを好きだって気持ちに変わりはない。 それでも少しずつ、少しずつ何かが変わってきているような気がする。 私たちは最初”友だち”だった。それがいつの間にか”恋人”になった。 そして、私たちが愛しあってるって胸を張って、誇りを持って言えるようになったとき…… その幸せを、その愛を遺すことができるようになったとき…… 私たちはきっと”家族”になれるんじゃないかな…。 ゴールは全然見えない。もしかしたらそんなものないのかもしれない。 それでも、かがみと一緒なら何か見つけられるような……そんな自信があった。 だって、私たちの愛はまだまだ発展途上なんだから…! ☆おわり **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 名作だー、泣けたわGJ -- 名無しさん (2011-09-03 09:55:48) - GJ‼ -- 名無しさん (2011-02-16 20:25:53) - 目についた作品片っ端から読んでますが、 &br()この作品のように、まだまだ名作がうもれてますな~。GJ &br() -- kk (2010-10-28 23:08:40) - お幸せにww -- 名無しさん (2010-08-12 07:41:19) - 幸あれ…… -- 名無しさん (2010-05-14 07:48:13) - 大人こなかがSSでは一ニを争う大好きな作品です! -- 名無しさん (2010-04-15 23:32:45) - こなかがに幸あれ…! -- 二条 (2010-03-29 22:48:04) - こなたとかがみが幸せになれるといいな &br() -- 名無しさん (2010-01-28 23:20:27) - マジ泣きしました。GJ!! &br() -- B (2008-10-18 23:31:31) - こなたとかがみに幸せあれぇぇぇ!!!!! &br()GJ!!!! -- にゃあ (2008-10-13 19:20:44) - ものすごく誠実さがあって、それに比例するような不器用さもあって(いや、運命の悪戯か)・・・。 &br()そんな2人の愛に感動しました(←最後の一言がベタすぎてすみません。) -- 名無しさん (2008-06-06 00:33:44)
……つまり『サザエさん』で描かれているのはキャラクターというより父、母、夫、弟といった人間関係であり、その関係性が崩れることは物語の崩壊を意味する。  『サザエさん』においてキャラクターは成長しないのではなく成長してはいけないのである。…… 「…よしっ、今日はここまでっ!」 仕事がひと段落してPCの前でひとつ伸びをする。 時計を見ると午後1時を少し回っていた。 「おっと、そろそろ出かけなくちゃ」 今日はつかさと会う約束がある。 わざわざ仕事を抜けてきてくれるというから遅れるわけにはいかない。 今まで開いていたドキュメントをセーブしてPCをシャットダウンする。 そして机に立てかけてある写真に目をやった。 思いっきり笑う私の隣でかがみが照れた表情をしてこっちを見ている。 「フーンだっ!かがみが冷たいから今日はつかさと浮気してきちゃうんだからねっ!」 そう言って「ベッ」と舌を出してやった。 もちろん浮気する気なんてない。 でもかがみが冷たいというのは半分本当だった。 かがみはいつも仕事が忙しくてなかなか私と時間が合わない。 朝は私が起きる前に出かけちゃうし日が沈む前に帰ってくることはほとんどない。 休みなのに事務所に出かけていくなんてこともときどきある。 けどそれだけなら別に構わない。 ライターという仕事の性質上、私のほうが時間の融通は利く。 だから私がかがみに合わせてあげなくちゃいけないと思ってた。 でもそれだけじゃないから困る。 最近のかがみは資格を取るとかいって勉強漬けだ。 ろくに私の相手もしてくれない。 仕事が忙しいのはわかってる。 勉強しなくちゃいけないのもわかってる。 しかしこうもこみゅにけーしょんってやつが少ないとですネ。 寂しいと言うか……。もの足りないと言うか……。 あっちのほうも…その、ご無沙汰なわけですし。 「新婚2年目にして倦怠期ですかねー…」 式も挙げてないし籍も入れてないケドー、と自分で突っ込む。 支度を済ませた私は「ふぅ」とため息を吐いて玄関の鍵をカチャリと閉めた。 かがみからプロポーズ(?)を受けたのは2年前のことだった。 私は学生のころから同棲しようってしきりに言っていた。 なのにかがみはけじめがあるから何とか言ってなかなかOKしてくれなかった。 それが、かがみが働き始めてしばらく経ったころ、 「これからもずっと、私のいちばん愛しい人でいて欲しい」って言われた。 「だから一緒に暮らして欲しい、ずっと」って。 ちょうど日が沈んで間もないころでそれまで光に押しやられていた闇がゆっくりと下りてきていた。 そして火照った空気をひんやり冷やしながら私たちのまわりをうすくうすく漂っていた。 いつものように仕事を終えたかがみと待ち合わせをして…… いつものように2人してかがみのアパートに向かって…… そんないつもどおりのひとコマ、私はまさかそんな超重大発言をされるとは思ってもいなくて一瞬かたまった。 けどその次の瞬間にはかがみに飛びついていた。 茶化すのも忘れて「うれしい」という私にかがみはちょっとあわてて言った。 「ちょ、ちょっと…よく考えなさいよ!  ずっとよ?ずっとなのよ?…本当に私で、いいの……?」 「迷うわけないよ!私にはかがみしかいないんだから…!」 そう言って私はかがみの背中にまわした腕に力を込めた。 するとかがみは「ありがとう」と言って私よりもずっとずっと強い力で私を抱き締めてくれた。 薄闇の中で桜色に染まった心が胸を揺らして私をそわそわした気持ちにさせた。 私はそのそわそわがむず痒くて、いつまでもかがみの胸に顔を押し当てていた。 (…ま、一緒に暮らし始めたのはその3ヶ月後だけどね……) 軽く突っ込んで回想を終了させる。 改札に切符を通しながら時計を見ると5時半を過ぎたところだった。 これなら余裕をもって夕飯の支度ができそうだ。 私はいま少し機嫌がいい。 それには2つ理由があって、ひとつは久しぶりにつかさに会えたこと。 懐かしい友人に会って喋りたいだけ喋ってすっきりしてきた。 高校生のころの話、最近どうしてるかなんて話や面白かった漫画やテレビのこと…… 仕事と勉強ばかりのかがみの愚痴も思いっきり言ってきてやった。 つかさには「ノロケだね~」なんて言われちゃったけど。 そしてもうひとつの理由が明日一日かがみを独り占めできるってこと。 一週間前からかがみにお願いして、予定を空けておいてもらった。 久しぶりにかがみと一緒に一日を過ごせると思うと心がハネて落ち着かない。 これじゃノロケだなんて言われても仕方ないカモね…… ☆ ……右期限経過後も何ら文書での回答なき場合には、右解約につき何ら異議のないものとみなさせていただきます。  以上、簡略ながらご通知申し上げます。…… 「…よしOK!今日はここまでにしておくか」 仕事がひと段落してPCの前でひとつため息を吐く。 時計を見ると午後7時を少し回っていた。 (今日も遅くなっちゃったな……) 最近こなたとあまり話せていない。 朝でかけるときはこなたはまだベッドで寝ぼけまなこだし帰りもだいたい夜になる。 仕事をこなせるようになって休日出勤を頼まれることも増えてきた。 それに加え、独立したときのことを考えて資格の勉強も始めた。 必然、こなたとの時間はどんどん少なくなる。 帰りの遅い私を文句も言わずに迎えてくれるこなたには感謝している。 そしてそれと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 そうだ、今日は帰ったらこなたに謝らなきゃならないこともある。 ……足が重い。 本当にゴメンね、こなた…… ☆ 夕飯の準備を終えてキッチンで漫画を読みながらかがみを待つ。 漫画を読み進めているうちに玄関のほうでガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてきた。 続いて「ただいまー」という声とともにかがみが姿を現す。 私は「うん、おかえりー」と言ってかがみを迎える。 かがみが帰ってくるといつも笑顔がこぼれるのを抑えきれない。 まったく、かがみ様にはかなわないヨ…… 「今日も遅かったね、すぐご飯の準備するよ」 「うん……」 疲れているのか、かがみはいつもより元気がない。 なんだか困ったような顔をしてこっちを見ている。 「どったの?なんかあった?」 「うん……あのさ、明日のことなんだけど……」 「ああ、明日?期待してていいヨー?でぇとプランは完璧だからね☆」 「そのことなんだけど……その、ゴメン!明日休み取れなくなっちゃった…」 「…え?」 「仕事でミスがあってさ、今週作った文書チェックし直さなくちゃならないのよ。  ゴメンね、別の日に埋め合わせするから……ね?」 …そっか、仕事なんだ。……また。 さっきまでハネてた気持ちが嘘みたいに大人しくなるのがわかった。 静かになった心の奥から何かがふつふつと沸きあがってくる。 「ちょっとぉ、怒らないでよ。ゴメンってば」 「……別に、怒ってないよ」 「うそ、あんた怒ると顔が青くなるんだから。また別の日空けるから、許してよ?ね?」 …別の日。別の日じゃダメなのに。 かがみは明日のことなんてどうでもいいんだ…… 心の奥がよけいにふつふついい始める。 「…もう、いいよ……」 「よくないわよ、私だって明日楽しみにしてたんだからね?」 「………き…」 「え?」 「うそつき。かがみは仕事のほうが楽しいんじゃないの?」 「な、聞き分けのないこと言わないでよ!仕事休めないのは仕方ないでしょ!?」 わかってる。仕方ないのはわかってる。なのに口が勝手に動く。 さっきから心は静かでむしろ冷静なのにその奥底でぐつぐついう激情をどうすることもできない。 沸いて出てくる意地悪な言葉を抑えることができない。 「どうかな?かがみは仕事と結婚したほうがいいんじゃない?  どうせ私とは結婚できないんだもんね」   パンッ!! 大きな音がした。一瞬何が起こったのかわからなくなる。 が、じりじりとほおを走る痛みに自分が叩かれたのだと理解する。 かがみを見ると顔を真っ赤にして目に涙を浮かべていた。 「…あ、甘えてんじゃないわよ!このバカ!!」 ほおの痛みと怒鳴り声で私の怒りも噴火した。 煮えたぎった激情を一気にぶちまける。 「かがみのバカ!アホ!う○こ!!もう知らない!!」 そう言って寝室にかけ込みベッドの上で布団にくるまった。 かがみは「ちょ、うん○はないでしょ!?」とか言ってたけど知ったこっちゃない。 私は布団の中でさっきの暴言といっしょに堰を切ったように溢れてきた涙を必死にこらえていた。 ☆ 目が覚めるとソファの上だった。 あの後こなたの機嫌をとりにいくのが癪で寝室に行かないでソファで寝たことを思い出す。 昨日はついつい殴っちゃったけど今はもうすごく後悔してる。 こなたに謝ってゆっくり話がしたかったけど、もう仕事に行く時間だ。 こんなときは仕事が本当に恨めしくなる。 軽く朝食を摂って出かける前に寝室をのぞいてみた。 「こなた?昨日はごめんね。じゃ、私行ってくるから」 こなたは眠っているのか、返事はない。 私は玄関に向かうと、ゆっくり静かに戸を閉めてカチャリと鍵をかけた。 ☆ 怒りなんてとっくに納まっていた。 ただ悲しかった。悲しくて悲しくて、胸が痛いほどだった。 朝かがみが「ごめんね」って声をかけてくれたけど私は布団の中で動けなかった。 どうして……どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。 かがみはいつも私のこと考えてくれてるのに。 いつも私のこと好きでいてくれてるのに。 「どうせ私とは結婚できないんだもんね」 そう言ったときのかがみの顔が頭から離れない。 かがみ、すごく悲しそうな顔してた。…すごく傷ついた顔してた。 ゴメンね……ゴメンね、かがみ。 ねぇ、なんでこうなっちゃうのかな? 私たち、やっぱり幸せにはなれないの……? かがみがお父さんのところに挨拶しに来たときのことを思い出す。 私たちの同棲のことをきちんと伝えるんだってかがみが言い出したことだった。 居間に通されたかがみは出された座布団の上で小さく正座した。 そして正面に座るお父さんに「ごめんなさい」と何度も何度も謝った。 「ごめんなさい、ごめんなさい」と、何回言っても足りないみたいだった。 かがみはついには土下座までして涙を流しながら身体を小さく震わせた。 私はただびっくりしてしまって隣で震えてるかがみの背中に手を置くことしかできなかった。 泣きながら謝るかがみにお父さんは少し悲しそうに笑って「顔を上げなさい」と言った。 結局お父さんは私たちが同棲することにもずっと一緒に暮らしていくことにも反対はしないで、「こなたたちがそれで幸せなら」と言って了承してくれた。 それでもお父さんの顔からあの悲しそうな表情が消えることは最後までなかった。 かがみが帰った後、お父さんに聞いてみた。 「ねぇ、お父さん……私、本当にかがみと一緒にいていいの?」 「何言ってんだ、当たり前だろ。俺はこなたの幸せを願ってるよ」 お父さんはやっぱり少し悲しそうな表情でそう言った。 お父さんは……なんで心から祝福してくれなかったんだろう。 やっぱり、女同士で幸せになんてなれないってわかってたのかな…… 昨日から疼きっぱなしの胸がまた痛み出す。 涙はもうしばらく止まりそうになかった。 ☆ 「ふぅ…まいったわね、今日は」 仕事を終えて帰り支度をしながら呟く。 さすがに今日は残業はなかった。 と、携帯に着信履歴があることに気づく。つかさからだ。 どうしたんだろう、勤務時間中にかけてくるなんて。 とりあえず事務所を出て自転車を停めてある駅のほうに向かいながら電話をかける。 つかさは5回目の呼び出し音で電話に出た。 『あ、もしもし?お姉ちゃん?』 「おーっす、電話どうしたの?つかさも仕事じゃなかったっけ?」 『うん…そうなんだけど……お姉ちゃんたち遅いなーって思って…  こなちゃんに電話しても出ないし……』 「え?遅いって……なに?どういうこと?」 『あれ?こなちゃんから聞いてない?  今日はお姉ちゃんがプロポーズしてくれた日だって言ってね、昨日こなちゃんが――』 ――しまった。慌てて右手にした腕時計の日付を見る。 そうか、いつも聞き分けのいいあの子がやけに噛み付くと思ったらこういうことか。 やってしまった。すぐに帰って謝らなきゃ。 「あ、つかさ?うん…こっちは大丈夫だから。うん、うん…ごめんね、また電話する」 電話を切って自転車へとダッシュする。 私は、本当にバカだ。 こなたはいつもマイペースでわがままばかり言ってるからなかなか気づけない。 いつでも私の様子を気にかけてて肝心なところではいつも譲ってくれることを。 いつものわがままで私を振り回しながらいつの間にか元気づけてくれることを。 こなたはいつも私のことを支えてくれてるのに。 いつも私のことを好きでいてくれてるのに。 ゴメン……ゴメンね、こなた。 私は何も文句を言わないこなたに甘えてた。 今までこなたにどれだけ寂しい思いをさせてきたことだろう。 どれだけこなたの気持ちを裏切ってきたことだろう。 いちばん、幸せになって欲しいと思ってたはずなのに…… ☆ 部屋の中に夜の冷たい気配が入り込んできている。 結局一日中布団の中で過ごしてしまったようだ。 涙はけっこう前に引いたけど気持ちが全然晴れない。 答えの出ない問いが頭の中を堂々巡りしている。 ――私たちは、イケナイことをしてるのかな……? 涙が流れて空っぽになった心が締め上げられる。 ダメだ、こんなの立ち直れそうにないよ。 と、玄関のほうからガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてきた。 かがみが帰ってきたんだ。どうしよう、どんな顔して迎えればいいんだろう。 そんなことを考えていると「バンッ!」とドアが思いっ切り開く音がして、その後にドタドタドタッと大きな足音が続いた。 何事かと驚いていると足音は私のいる寝室のドアの前で止まる。 そしてドア越しにかがみの声が聞こえてきた。 「こなた…?いるんでしょ?ゴメンね、今日は私がこなたに一緒に暮らそうって言った日だったんだよね  いろいろ準備してくれたんだって?つかさから聞いた。私…すっかり忘れちゃってて……」 ああ、鍵なんてないのにかがみは無理やりドアを開けようとはしないんだ。 かがみは本当にやさしい。冷たくなった心がほのかに体温を取り戻す。 「ねぇ、まだ怒ってる?お願いだから出てきてよ、こなたぁ……」 「もう怒ってないよ。待ってて、いま開ける」 ドアの前に立ってゆっくり扉を開ける。廊下から差す明かりが眩しい。 かがみは目の前に立っていた。――なんだか泣きそうな顔をしてるな。 そう思った瞬間、「こなた…!」という声とともに視界がふさがった。 かがみにやさしく、力強く抱き締められながら思う。 温かい。かがみに抱き締められるだけで私はこんなに幸せな気持ちになれる。 なのに、私はここにいちゃいけないのかな…… 「ゴメンこなた……。私、怖くて……。すごく怖くて……!」 かがみはそう言って私の頭と背中に回した腕をさらに深く這わせた。 「本当は誰も私たちのことを認めてくれてないんじゃないかって…  私たちのことを咎めてるんじゃないかって……!  だから、ちゃんとしてれば誰も文句言わないんじゃないかって、そんなことばっか考えて……  いちばん大事なこなたのこと忘れちゃってて……」 ああ、そうか。かがみは今まで2人分悩んでくれてたんだ。 そんなことにも気づけなかったなんて、私はとんだ甘ちゃんだった。 かがみに申し訳なくて、愛しくて……かがみの背中に腕を回して目を閉じた。 「ねぇ、かがみ…?」 「なに?」 「私たちは……いけないことをしてるのかな?」 「……わからない」 「ねぇ、かがみ…?」 「なに?」 「お父さんに私たちが一緒に暮らすこと話したとき、なんであんなに謝ってたの?」 「…………。」 「……前に、かなたさんの写真を見せてもらったことがあったでしょ?」 「お母さんの?」 「うん。そのときにね、すごいな、って思ったの。  おじさんもかなたさんもすごく幸せそうで、こなたがその幸せを一心に受けてるのがわかって……  かなたさんは死んじゃってもういないのにこなたの中にかなたさんの愛が息づいてる気がして……」 ――私の中に、お母さんの愛が……? 「おじさんはね、こなたにもそうなって欲しかったんじゃないかと思うんだ。  早く死んじゃうとかそういうんじゃなくて、もしこなたがいなくなっちゃってもこなたが幸せだってことを遺せるような生き方をして欲しかったんじゃないかって。  ……でも、私と一緒じゃそんなことできっこないから……」 何か……何か見えた気がした。 ずっと頭の中をぐるぐる回っていた問いがすぅっと心に溶けていく感じがする。 答えはまだ見えない。でも何か道が開けたような……開けてないような…… 「……だからせめて、私は絶対こなたを幸せにするかr…」 「できるよ!!」 がばっと身体を離してかがみの目を見た。 かがみはきょとんとしている。 「へ?」 「よくわかんないけど……きっとできるって!…探そうよ、一緒に!」 「ちょ、ちょっと待って。探すって……何を?」 「だからっ!私たちの幸せを残す方法!そんなことできたらすごいよね!?私やりたい!」 「でも、そんなこと……」 「かがみ?かがみはちゃんとしなきゃって言うけど、かがみが頑張んなくても私はかがみの隣にいられて幸せだよ?  でもそれには条件があってね」 「条件?」 「うん、私の隣でかがみが笑ってくれること!私、かがみが幸せじゃないと幸せになれないよ  ね、かがみ?どうせ頑張るなら私だけの幸せじゃなく私とかがみ2人の幸せのために頑張ろうよ!」 「……できるかどうかなんて、わからないのよ?」 「難しいことだってのはわかってるよ。  かがみは失敗するのが怖いんだよね。失敗して、ほらダメじゃないかって言われるのが。  でも大丈夫、失敗してもいいじゃん。難しいことするんだから失敗は当たり前だよ。  ゲームでもね、プレイヤーは何回も失敗して何回もやり直すから上手くなるんだよ?  人生はリセットできないなんて言うけど、プレイヤーはちゃんと失敗を覚えてるんだからね。  ……だから、探してみよう?私たちがずっと幸せでいられる生き方を」 「…………こなた……」 かがみはやさしく私を見ながら「うん」と言うかわりに腕を私の腰にまわしてきた。 私もそれに応えてかがみの背中に腕をまわして力を込めようとしたら……   クゥゥゥゥ……… ……お腹が鳴った…。そういえば今日一日何も食べてない。 「……ぷっ、くくく……」 かがみが笑い出した。このタイミングは恥ずかしい…。 くつくつと笑いの止まらないかがみへ抗議の意味を込めて背中にまわした腕に力を入れる。 「ふふふ……お腹すいたわね。遅くなっちゃったけどこれからつかさのお店に行こっか?」 「おぉー、そりゃいいね。私、昨日つかさと一緒にケーキ焼いたんだよ。  今日お店で特別に出してもらうようにって!」 「あら、それは楽しみね。それじゃ、さっさと着替えて行きましょ」 「うんっ!!」 かがみと出かける準備をしながら考える。 私たちが出会ってから、私がかがみを好きだって気持ちに変わりはない。 それでも少しずつ、少しずつ何かが変わってきているような気がする。 私たちは最初”友だち”だった。それがいつの間にか”恋人”になった。 そして、私たちが愛しあってるって胸を張って、誇りを持って言えるようになったとき…… その幸せを、その愛を遺すことができるようになったとき…… 私たちはきっと”家族”になれるんじゃないかな…。 ゴールは全然見えない。もしかしたらそんなものないのかもしれない。 それでも、かがみと一緒なら何か見つけられるような……そんな自信があった。 だって、私たちの愛はまだまだ発展途上なんだから…! ☆おわり **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ! -- 名無しさん (2022-12-16 02:56:23) - 名作だー、泣けたわGJ -- 名無しさん (2011-09-03 09:55:48) - GJ‼ -- 名無しさん (2011-02-16 20:25:53) - 目についた作品片っ端から読んでますが、 &br()この作品のように、まだまだ名作がうもれてますな~。GJ &br() -- kk (2010-10-28 23:08:40) - お幸せにww -- 名無しさん (2010-08-12 07:41:19) - 幸あれ…… -- 名無しさん (2010-05-14 07:48:13) - 大人こなかがSSでは一ニを争う大好きな作品です! -- 名無しさん (2010-04-15 23:32:45) - こなかがに幸あれ…! -- 二条 (2010-03-29 22:48:04) - こなたとかがみが幸せになれるといいな &br() -- 名無しさん (2010-01-28 23:20:27) - マジ泣きしました。GJ!! &br() -- B (2008-10-18 23:31:31) - こなたとかがみに幸せあれぇぇぇ!!!!! &br()GJ!!!! -- にゃあ (2008-10-13 19:20:44) - ものすごく誠実さがあって、それに比例するような不器用さもあって(いや、運命の悪戯か)・・・。 &br()そんな2人の愛に感動しました(←最後の一言がベタすぎてすみません。) -- 名無しさん (2008-06-06 00:33:44)

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