「暗夜の旋律」(2022/12/27 (火) 17:19:55) の最新版変更点
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世界はいつの間にか黒幕が掛かったような闇で埋もれている。
風が吹き抜けると、それが今は、千の刃のように、痛ましく、そして悲しく、私達の心の奥の奥に強く響き渡っていた。
三日月は高い。あのような物体が私達の遥か上空に存在し、そして認識されている事を、ふと、不思議に思う。
私は何かに対して酷く慌てて、辺りを見渡し、現状を必死で理解しようとしていた。そうだ、私は今、学校の屋上にいる。
世界は冷たく凍てついていて、その事が、私達二つの呼吸を、やけに落ち着かせる。寒い。だけど、今はこの寒さが、少なくとも私には似合っている。
私達は今、学校の屋上にいる。
あと三ヶ月程したら、自らその手を大きく振る事になるであろう、この学校の、屋上で、私達は確かに呼吸している。
屋上の端の手すりに掴まって、その小さい背中を私に向けて、貴方は世界を想う。
どんな思いが、貴方の脳裏には浮かんでいるのだろうか。それを私は探ってみようと思う。ふと、「探ってみたい」と、そう思う。
でも、それは無理な話だ。
だって私には今、貴方が浮かべているその表情を、目にする事すら許されていないんだもの。
貴方はこの街を。或るいは、この世界を。ゆっくりと時間を掛けて、様々な方角を眺める。
吐く息は、白く
私は貴方のそのか細い体を、ふと、抱きしめてしまいたい。貴方そのか細い体を、自分の物にしてしまいたい。と思う。思ってしまう。
この醜い感情を、押し殺し、息絶えさせ、止めを刺す事が、今の私には上手く出来無い。
むしろ、しようとしなかっただけなのかもしれない。
私は貴方の背中に触れた。触れない訳にはいかなかった。だから私は触れた。その指で、貴方の体温を、認識したかった。どうしても。
理性を制御してしまう能力が、今の私には大きく欠落してしまっているのかもしれない。誰かがそれを意図的にしてしまったのか、それとも私が理性という内なる壁を、自ら殺してしまったのかは、よくわからない。わからなくても良い事だと私には思った。
私は欲望のまま貴方を抱きしめた。水のように、綺麗で美しくて透き通っていて、それと同時に、すぐに黒く染まってしまいそうな、そんな欲望。
そんな欲望を貴方にぶつけてしまった。
貴方は私を受け入れた。その証拠に、私の悴んだ手に、貴方は温かい掌を重ねてくれた。
私にはそれだけで十分すぎた。むしろ、今の幸せが爆発してしまいそうで、未来を、ふと恐れた。
貴方は、いつか私を見捨ててしまうかもしれない。それとも私のこの感情が、逆に貴方を見捨ててしまうのかもしれない。
けれど、やはり今はそんな事、どうでも良かった。なぜなら私は貴方の優しすぎる体温に触れていて、そして貴方は私の体温を感じていてくれたから。
私の頬にはいつの間にか、一粒の雫が伝ってきていた。
貴方は私のそれを、細い指で優しく拭い取る。
そして、そのまま私に口付けをした。
「そろそろ帰ろうか。かがみん」
私は、貴方のその問いに、頷いた。涙を流しながら、静かに頷いてみせた。
私はまた一つこの世界を愛おしく思えて、また涙が出て来た。
それを見て、何度も何度も、私の唇に、口付けをしてみせたのは、
やはり、貴方だった。
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- 綺麗な文章で、引き込まれました! -- 名無しさん (2009-04-28 13:22:49)
世界はいつの間にか黒幕が掛かったような闇で埋もれている。
風が吹き抜けると、それが今は、千の刃のように、痛ましく、そして悲しく、私達の心の奥の奥に強く響き渡っていた。
三日月は高い。あのような物体が私達の遥か上空に存在し、そして認識されている事を、ふと、不思議に思う。
私は何かに対して酷く慌てて、辺りを見渡し、現状を必死で理解しようとしていた。そうだ、私は今、学校の屋上にいる。
世界は冷たく凍てついていて、その事が、私達二つの呼吸を、やけに落ち着かせる。寒い。だけど、今はこの寒さが、少なくとも私には似合っている。
私達は今、学校の屋上にいる。
あと三ヶ月程したら、自らその手を大きく振る事になるであろう、この学校の、屋上で、私達は確かに呼吸している。
屋上の端の手すりに掴まって、その小さい背中を私に向けて、貴方は世界を想う。
どんな思いが、貴方の脳裏には浮かんでいるのだろうか。それを私は探ってみようと思う。ふと、「探ってみたい」と、そう思う。
でも、それは無理な話だ。
だって私には今、貴方が浮かべているその表情を、目にする事すら許されていないんだもの。
貴方はこの街を。或るいは、この世界を。ゆっくりと時間を掛けて、様々な方角を眺める。
吐く息は、白く
私は貴方のそのか細い体を、ふと、抱きしめてしまいたい。貴方そのか細い体を、自分の物にしてしまいたい。と思う。思ってしまう。
この醜い感情を、押し殺し、息絶えさせ、止めを刺す事が、今の私には上手く出来無い。
むしろ、しようとしなかっただけなのかもしれない。
私は貴方の背中に触れた。触れない訳にはいかなかった。だから私は触れた。その指で、貴方の体温を、認識したかった。どうしても。
理性を制御してしまう能力が、今の私には大きく欠落してしまっているのかもしれない。誰かがそれを意図的にしてしまったのか、それとも私が理性という内なる壁を、自ら殺してしまったのかは、よくわからない。わからなくても良い事だと私には思った。
私は欲望のまま貴方を抱きしめた。水のように、綺麗で美しくて透き通っていて、それと同時に、すぐに黒く染まってしまいそうな、そんな欲望。
そんな欲望を貴方にぶつけてしまった。
貴方は私を受け入れた。その証拠に、私の悴んだ手に、貴方は温かい掌を重ねてくれた。
私にはそれだけで十分すぎた。むしろ、今の幸せが爆発してしまいそうで、未来を、ふと恐れた。
貴方は、いつか私を見捨ててしまうかもしれない。それとも私のこの感情が、逆に貴方を見捨ててしまうのかもしれない。
けれど、やはり今はそんな事、どうでも良かった。なぜなら私は貴方の優しすぎる体温に触れていて、そして貴方は私の体温を感じていてくれたから。
私の頬にはいつの間にか、一粒の雫が伝ってきていた。
貴方は私のそれを、細い指で優しく拭い取る。
そして、そのまま私に口付けをした。
「そろそろ帰ろうか。かがみん」
私は、貴方のその問いに、頷いた。涙を流しながら、静かに頷いてみせた。
私はまた一つこの世界を愛おしく思えて、また涙が出て来た。
それを見て、何度も何度も、私の唇に、口付けをしてみせたのは、
やはり、貴方だった。
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- GJ!! -- 名無しさん (2022-12-27 17:19:55)
- 綺麗な文章で、引き込まれました! -- 名無しさん (2009-04-28 13:22:49)
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