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 世界はいつの間にか黒幕が掛かったような闇で埋もれている。 風が吹き抜けると、それが今は、千の刃のように、痛ましく、そして悲しく、私達の心の奥の奥に強く響き渡っていた。 三日月は高い。あのような物体が私達の遥か上空に存在し、そして認識されている事を、ふと、不思議に思う。 私は何かに対して酷く慌てて、辺りを見渡し、現状を必死で理解しようとしていた。そうだ、私は今、学校の屋上にいる。 世界は冷たく凍てついていて、その事が、私達二つの呼吸を、やけに落ち着かせる。寒い。だけど、今はこの寒さが、少なくとも私には似合っている。  私達は今、学校の屋上にいる。 あと三ヶ月程したら、自らその手を大きく振る事になるであろう、この学校の、屋上で、私達は確かに呼吸している。  屋上の端の手すりに掴まって、その小さい背中を私に向けて、貴方は世界を想う。 どんな思いが、貴方の脳裏には浮かんでいるのだろうか。それを私は探ってみようと思う。ふと、「探ってみたい」と、そう思う。  でも、それは無理な話だ。 だって私には今、貴方が浮かべているその表情を、目にする事すら許されていないんだもの。 貴方はこの街を。或るいは、この世界を。ゆっくりと時間を掛けて、様々な方角を眺める。  吐く息は、白く 私は貴方のそのか細い体を、ふと、抱きしめてしまいたい。貴方そのか細い体を、自分の物にしてしまいたい。と思う。思ってしまう。 この醜い感情を、押し殺し、息絶えさせ、止めを刺す事が、今の私には上手く出来無い。 むしろ、しようとしなかっただけなのかもしれない。  私は貴方の背中に触れた。触れない訳にはいかなかった。だから私は触れた。その指で、貴方の体温を、認識したかった。どうしても。 理性を制御してしまう能力が、今の私には大きく欠落してしまっているのかもしれない。誰かがそれを意図的にしてしまったのか、それとも私が理性という内なる壁を、自ら殺してしまったのかは、よくわからない。わからなくても良い事だと私には思った。  私は欲望のまま貴方を抱きしめた。水のように、綺麗で美しくて透き通っていて、それと同時に、すぐに黒く染まってしまいそうな、そんな欲望。 そんな欲望を貴方にぶつけてしまった。 貴方は私を受け入れた。その証拠に、私の悴んだ手に、貴方は温かい掌を重ねてくれた。  私にはそれだけで十分すぎた。むしろ、今の幸せが爆発してしまいそうで、未来を、ふと恐れた。 貴方は、いつか私を見捨ててしまうかもしれない。それとも私のこの感情が、逆に貴方を見捨ててしまうのかもしれない。 けれど、やはり今はそんな事、どうでも良かった。なぜなら私は貴方の優しすぎる体温に触れていて、そして貴方は私の体温を感じていてくれたから。 私の頬にはいつの間にか、一粒の雫が伝ってきていた。 貴方は私のそれを、細い指で優しく拭い取る。 そして、そのまま私に口付けをした。 「そろそろ帰ろうか。かがみん」 私は、貴方のその問いに、頷いた。涙を流しながら、静かに頷いてみせた。 私はまた一つこの世界を愛おしく思えて、また涙が出て来た。 それを見て、何度も何度も、私の唇に、口付けをしてみせたのは、 やはり、貴方だった。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 綺麗な文章で、引き込まれました! -- 名無しさん (2009-04-28 13:22:49)
 世界はいつの間にか黒幕が掛かったような闇で埋もれている。 風が吹き抜けると、それが今は、千の刃のように、痛ましく、そして悲しく、私達の心の奥の奥に強く響き渡っていた。 三日月は高い。あのような物体が私達の遥か上空に存在し、そして認識されている事を、ふと、不思議に思う。 私は何かに対して酷く慌てて、辺りを見渡し、現状を必死で理解しようとしていた。そうだ、私は今、学校の屋上にいる。 世界は冷たく凍てついていて、その事が、私達二つの呼吸を、やけに落ち着かせる。寒い。だけど、今はこの寒さが、少なくとも私には似合っている。  私達は今、学校の屋上にいる。 あと三ヶ月程したら、自らその手を大きく振る事になるであろう、この学校の、屋上で、私達は確かに呼吸している。  屋上の端の手すりに掴まって、その小さい背中を私に向けて、貴方は世界を想う。 どんな思いが、貴方の脳裏には浮かんでいるのだろうか。それを私は探ってみようと思う。ふと、「探ってみたい」と、そう思う。  でも、それは無理な話だ。 だって私には今、貴方が浮かべているその表情を、目にする事すら許されていないんだもの。 貴方はこの街を。或るいは、この世界を。ゆっくりと時間を掛けて、様々な方角を眺める。  吐く息は、白く 私は貴方のそのか細い体を、ふと、抱きしめてしまいたい。貴方そのか細い体を、自分の物にしてしまいたい。と思う。思ってしまう。 この醜い感情を、押し殺し、息絶えさせ、止めを刺す事が、今の私には上手く出来無い。 むしろ、しようとしなかっただけなのかもしれない。  私は貴方の背中に触れた。触れない訳にはいかなかった。だから私は触れた。その指で、貴方の体温を、認識したかった。どうしても。 理性を制御してしまう能力が、今の私には大きく欠落してしまっているのかもしれない。誰かがそれを意図的にしてしまったのか、それとも私が理性という内なる壁を、自ら殺してしまったのかは、よくわからない。わからなくても良い事だと私には思った。  私は欲望のまま貴方を抱きしめた。水のように、綺麗で美しくて透き通っていて、それと同時に、すぐに黒く染まってしまいそうな、そんな欲望。 そんな欲望を貴方にぶつけてしまった。 貴方は私を受け入れた。その証拠に、私の悴んだ手に、貴方は温かい掌を重ねてくれた。  私にはそれだけで十分すぎた。むしろ、今の幸せが爆発してしまいそうで、未来を、ふと恐れた。 貴方は、いつか私を見捨ててしまうかもしれない。それとも私のこの感情が、逆に貴方を見捨ててしまうのかもしれない。 けれど、やはり今はそんな事、どうでも良かった。なぜなら私は貴方の優しすぎる体温に触れていて、そして貴方は私の体温を感じていてくれたから。 私の頬にはいつの間にか、一粒の雫が伝ってきていた。 貴方は私のそれを、細い指で優しく拭い取る。 そして、そのまま私に口付けをした。 「そろそろ帰ろうか。かがみん」 私は、貴方のその問いに、頷いた。涙を流しながら、静かに頷いてみせた。 私はまた一つこの世界を愛おしく思えて、また涙が出て来た。 それを見て、何度も何度も、私の唇に、口付けをしてみせたのは、 やはり、貴方だった。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!! -- 名無しさん (2022-12-27 17:19:55) - 綺麗な文章で、引き込まれました! -- 名無しさん (2009-04-28 13:22:49)

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