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不器用と本音」(2023/11/30 (木) 09:02:09) の最新版変更点

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    机に向かってからどれだけの時間が経ったのだろう。 今考えている問題は非常に難問だ。 これが数学や英語の課題だったら、と思う。 教科書を読めばヒントが隠されてるし、親友に助けを求めることだってできる。 でも私が頭を悩ませていることには正解すらないのかもしれない。 答えを導くことはできる。だけど焦点はそこじゃないんだ。 これは私の心の問題だ。 正直に相談にのってほしいと悩みを打ち明けることも叶わないんだ。 一向に進まないペンを置いて時計を見る。 すでに日付が変わっていて、それだけの時間を費やしても見つからない答えにため息がでる。 もう『今日』は諦めて寝てしまおうか。 そう思いながらも頭では先ほどまで考えていたある人物を浮かべている。 アイツならまだ起きていることだろう。 話がしたい。毎日だって繰り返してたんだから。 言いたいこともあった。 でもそれこそ言っていいのだろうか正しいのだろうかと、悩み結論が出ていない。 充電器に挿したままだった携帯をひったくりベッドに腰掛ける。 今はまだ言うべき時じゃない。 一つ深呼吸して着信履歴からリダイアルを押した。 朝、きちんと時間通りに目を覚ましたものの左手が少し痛い。 不注意で落として欠けてしまった目覚まし時計。 いつか買い換えなければと思いながら先伸ばしにしていたんだけど、これは早急に解決する必要がありそうだ。 今日の放課後にちょっと寄り道して行こう、こなたを誘って。 普段着る服にも気を遣わず、キャラグッズをコレクションしてるこなたのことだ、一緒に選ぶ相手としてはミスチョイス。 それでもこなたと過ごす時間はきっと楽しくて、目的も忘れてしまうくらいに。 机の上の宛名のない手紙を一瞥して階下へと急いだ。 毎朝の待ち合わせ、その待ち時間は昔は苦手だった。 通勤通学で人は多いし、ずっと立ちっぱなしだし。 それでいてずいぶん待たされたと思ったら大して時間が経ってなかったりして、イライラが収まらない。 別に好き好んで怒ったり口やかましく言ってるわけじゃないから。 元々口調がキツいってわかってるから尚更。傷つけたくない。 とは言え、アイツはその程度じゃへこたれない。 それどころか、私の素直になれない部分を先読みしてくるもんだから。 私は照れ隠しに声を荒げてしまうんだ。 「おーいつかさ、起きてるかー?」 立ったまま寝るという器用な真似をしてる妹をつつく。 「あとごふんー」なんて寝言が返ってきたけど幸運にも周りには聞こえてないらしい。 やれやれとつい額に手が伸びる。とりあえずつかさが倒れないかだけ気を配ることにしよう。 できれば隣の妹に話し相手になってもらえたほうが暇潰しになったんだけど。 手持ち無沙汰な待ち時間、頭ばかり活動してる。 相変わらずの眠そうで糸目猫口なこなた。 徹夜明けでフラフラ危なっかしいこなた。 受験生の自覚か、妙な得意顔したこなた。 待ち人のことを思い浮かべていると自然と頬が緩む。 つかさが寝ていて良かったと思う。 当のつかさは危うくバス停に頭をぶつけるところで、慌て抱き起こすのだった。 それから間もなくこなたが姿を見せた。 「おはよ、こなた。今日は早いわね」 ちらりと時間を確認すると普段より幾ばくか早かった。 それになんとなくだけど、いつもの眠たげな表情とちょっと違う気がする。 不思議に思う私の視線を感じとったのか、こなたはわざとらしく欠伸をした後。 「かがみがしつこく早く寝ろって言うからね。普段より早寝早起きしてみたわけだよ」 「言うほど早寝じゃないんだけどな」 すでにあの電話は今日の出来事だし。 まあそれでも夜更かしが常のこなたには少し良い薬になったらしい。 「早寝の精神はつかさを見習え。……早起きはできないけど」 はうっ、と今はしっかり起きてる妹がダメージを受けていた。 「つかさはさながら眠り姫だもんねー。ま、気持ちはよくわかるよ、特に授業中とか」 「授業は真面目に受けろよ受験生」 どうしようもなくだらしないやつだと思いつつ、毎回同じことを言ってる私も私だな。 「ところでかがみ様、一つお願いがありまして」 学校に着いて名残惜しくも自分の教室に入ろうとした時だった。 様はやめい。と言うかこういう言い方はまずろくでもないことしか待ってなくて。 「なによ、また数学の宿題がー、とか言うわけ?」 「違うよー。今回は英語だから」 「違わねぇよ。てかいつも思うんだけど、みゆきに見せてもらえばいいじゃない」 たまたま担当の教師が一緒ということだが、毎度同じ課題を出してるのもどうなんだ。 「いやぁ、なんとなくみゆきさんにそういうのって頼みづらくない?」 「言いたいことはわからんでもないが、なら私に対して何かないのかよ」 「そこはほら、私とかがみの仲じゃん」 にまにま猫口笑顔を見せるこなた。 何度も見、時に怒りを覚え、時に羞恥に駆られ、時に安心させられた。 こいつにしかできない表情。 思わず言葉を詰まらせたけど、早く何か言わなきゃ。 誤解される前に。 「いつも世話してばっかでさながら私はあんたの保護者ってわけね」 「ちょっ、同級でしょ!……でも妹ポジなら悪くないかも」 顔を伏せたこなたに言い様のない不安を感じ身構える。 案の定「かがみお姉ちゃん」とか言って飛びついてきたけど難なくスルー。 教室の扉にぶつけた鼻が赤くなってて少し可哀想だったかも。 結局あの後こなたの頼みは断れなくて。と言うかほとんど断った試しがないか。 何とはなしに対価を要求してみたところ、あっさり頷かれた。 「かがみの言うこと一つ、何でも聞くよ」と、事も無げに言うもんだから。 刹那私の脳内では疚しい想像も浮かんだが、慌て頭を振って出した望みは。 「お待たせかがみ。今日はアニメもないしとことん付き合うよ」 朝思い描いていたことを実現することだった。 「別に言ってくれればバイトがない日ならいつでも大丈夫なんだけどさ。むしろ私がいつも付き合ってもらってるんだし」 それもそうだ。このくらいじゃもったいない気がする。 が、本能のままに願いを言ったらさすがにそれは頷いてくれそうにもない。 「そうは言ってもあんた興味のないことには全然じゃない。無理して付き合わせるのもヤだし」 「んー、かがみと一緒ならそんなこともないよ?」 同意を求めているような笑顔を向けられて返事に窮する。 同意することはつまりこなたといられるだけで嬉しいって言っているみたいだから。 ……待て、逆に言えば私と一緒にいるのが好きって言ってるも同然ではないのか。 熱を帯びつつ緩みだす頬に気づかれる前に教室を飛び出した。 「機能的にはどれも同じなのに結構種類あるもんだね」 動物や花をモチーフにした物やシンプルに丸型四角型した目覚まし時計。 同じデザインでもしっかり色のバリエーションを用意してある辺りすごいなと思う。 値段はあまり注視しないでいたけど、そこまでお金をかけたいか、と思うやつもあったりした。 「時計なんてなかなか買い換えないわよね」 「そうだね。動けばいいやって感じで壊れない限り使い続けてるよ」 そうして長い間部屋の一部となるわけだけど、そう考えると逆に選び辛い。 特別目を引くこともないはずだから、いっそのこと百均でも行けばよかったかも。 ちらりこなたを見ると人差し指を口元に当てて吟味してくれていた。 真剣な眼差しが嬉しいし可愛いと正直に思った。 もし簡単に目的だけ済ませてたらこのひとときは得られなかったに違いない。 「悪かったわね、付き合わせて」 優柔不断なのか結局30分近く店内で過ごしてしまった。 最終的に選んだのはシンプルな丸型で菫色した物。お値段も手頃だった。 「かがみらしくていいじゃん」の一言が決め手だったり。 「いやいや、たまにはこういうのも良いかなって思ったよ」 ゲームや漫画じゃなくて、普通に雑貨にどれが良いかなって悩む。 そんな女の子らしい(いや現役女子高生だけど)ひとときは他愛ないけど、私にとって幸せな時間だった。 「さて、これからどうするの?」 小首をかしげて尋ねてこられたが、答えは全然用意してなかった。 てかさ、いちいち小動物的な仕草はやめてくれないか。 自分の気持ちを自覚してからというもの、本気でどうかしてしまいそうになる。 「私の用事はこれで済んだわよ」 本音はもっと一緒にいたい、なんだけど上手い口実がすぐに浮かばない。 「んー、それじゃさちょっと休憩してこうよ」 返事も待たずに手を取って歩きだすこなた。 思わず繋いでしまった小さな手を振りほどく理由はなかった。 公園のベンチに腰掛けて、ちびちびとスポーツドリンクを飲む。 こなたが小さな両手で包んでいるそれも私がお金を出した。 ツンデレのくせに優しすぎるだとか、訳のわからないことを言われたりしたけど。 空が赤みを帯びてきた頃。 制服を来た男女や小学生の子たちの姿。楽しそうな笑い声が響いていた。 「はふぅ、青春って感じだねぇ」 しみじみと呟くお前は一体いくつなんだ。 残り少なくなったドリンクを一気に飲み干してこなたを見る。 多少恋愛に憧れを抱いていたこともあったけど、隣にいたのがこなたで良かったと思う。 「あのさかがみ、一度しか言わないしすぐ忘れてほしいんだけど」 そんな前置きをしておきながら、真っ直ぐに私を射抜く瞳やうっすらと朱に染まる頬。 忘れたくないし絶対に忘れるはずがない。 「かがみと会えて、かがみと一緒に高校生活を過ごせて嬉しかったよ」 言い終えるや否や、さっと立ち上がって帰ろうと背を向けたこなた。 不意に風が長い髪をなびかせて、ちらりと赤い耳が見えたが気付かないふり。 今振り向かれたら私の真っ赤な顔を見られてしまうから。 二人分のゴミを捨てるのを口実に少しだけこなたから離れて深呼吸。 テンポの早い鼓動が不思議と心地好い。 今度は私から手を握ってみよう。初めてだから驚くだろうか。 私もこなたと一緒で嬉しかった。 その言葉を伝えるのは不器用な私には難しいかもしれない。 でも確かなことがある。 答えも正解も見つかってないけど、一つだけ絶対に違わないこと。 昨夜悩みに悩んで書けたのはたった一言だけ。 噛みしめるように呟いて、こなたの元へと急いだ。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ! -- 名無しさん (2017-04-22 16:56:56) - 久しぶりに来たら更新されてるじゃないですか~ &br()しかも良作が・・・GJ &br()作者様、他の作品も一気に読ませてもらいますね。 -- kk (2014-07-22 21:47:12) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(5)
    机に向かってからどれだけの時間が経ったのだろう。 今考えている問題は非常に難問だ。 これが数学や英語の課題だったら、と思う。 教科書を読めばヒントが隠されてるし、親友に助けを求めることだってできる。 でも私が頭を悩ませていることには正解すらないのかもしれない。 答えを導くことはできる。だけど焦点はそこじゃないんだ。 これは私の心の問題だ。 正直に相談にのってほしいと悩みを打ち明けることも叶わないんだ。 一向に進まないペンを置いて時計を見る。 すでに日付が変わっていて、それだけの時間を費やしても見つからない答えにため息がでる。 もう『今日』は諦めて寝てしまおうか。 そう思いながらも頭では先ほどまで考えていたある人物を浮かべている。 アイツならまだ起きていることだろう。 話がしたい。毎日だって繰り返してたんだから。 言いたいこともあった。 でもそれこそ言っていいのだろうか正しいのだろうかと、悩み結論が出ていない。 充電器に挿したままだった携帯をひったくりベッドに腰掛ける。 今はまだ言うべき時じゃない。 一つ深呼吸して着信履歴からリダイアルを押した。 朝、きちんと時間通りに目を覚ましたものの左手が少し痛い。 不注意で落として欠けてしまった目覚まし時計。 いつか買い換えなければと思いながら先伸ばしにしていたんだけど、これは早急に解決する必要がありそうだ。 今日の放課後にちょっと寄り道して行こう、こなたを誘って。 普段着る服にも気を遣わず、キャラグッズをコレクションしてるこなたのことだ、一緒に選ぶ相手としてはミスチョイス。 それでもこなたと過ごす時間はきっと楽しくて、目的も忘れてしまうくらいに。 机の上の宛名のない手紙を一瞥して階下へと急いだ。 毎朝の待ち合わせ、その待ち時間は昔は苦手だった。 通勤通学で人は多いし、ずっと立ちっぱなしだし。 それでいてずいぶん待たされたと思ったら大して時間が経ってなかったりして、イライラが収まらない。 別に好き好んで怒ったり口やかましく言ってるわけじゃないから。 元々口調がキツいってわかってるから尚更。傷つけたくない。 とは言え、アイツはその程度じゃへこたれない。 それどころか、私の素直になれない部分を先読みしてくるもんだから。 私は照れ隠しに声を荒げてしまうんだ。 「おーいつかさ、起きてるかー?」 立ったまま寝るという器用な真似をしてる妹をつつく。 「あとごふんー」なんて寝言が返ってきたけど幸運にも周りには聞こえてないらしい。 やれやれとつい額に手が伸びる。とりあえずつかさが倒れないかだけ気を配ることにしよう。 できれば隣の妹に話し相手になってもらえたほうが暇潰しになったんだけど。 手持ち無沙汰な待ち時間、頭ばかり活動してる。 相変わらずの眠そうで糸目猫口なこなた。 徹夜明けでフラフラ危なっかしいこなた。 受験生の自覚か、妙な得意顔したこなた。 待ち人のことを思い浮かべていると自然と頬が緩む。 つかさが寝ていて良かったと思う。 当のつかさは危うくバス停に頭をぶつけるところで、慌て抱き起こすのだった。 それから間もなくこなたが姿を見せた。 「おはよ、こなた。今日は早いわね」 ちらりと時間を確認すると普段より幾ばくか早かった。 それになんとなくだけど、いつもの眠たげな表情とちょっと違う気がする。 不思議に思う私の視線を感じとったのか、こなたはわざとらしく欠伸をした後。 「かがみがしつこく早く寝ろって言うからね。普段より早寝早起きしてみたわけだよ」 「言うほど早寝じゃないんだけどな」 すでにあの電話は今日の出来事だし。 まあそれでも夜更かしが常のこなたには少し良い薬になったらしい。 「早寝の精神はつかさを見習え。……早起きはできないけど」 はうっ、と今はしっかり起きてる妹がダメージを受けていた。 「つかさはさながら眠り姫だもんねー。ま、気持ちはよくわかるよ、特に授業中とか」 「授業は真面目に受けろよ受験生」 どうしようもなくだらしないやつだと思いつつ、毎回同じことを言ってる私も私だな。 「ところでかがみ様、一つお願いがありまして」 学校に着いて名残惜しくも自分の教室に入ろうとした時だった。 様はやめい。と言うかこういう言い方はまずろくでもないことしか待ってなくて。 「なによ、また数学の宿題がー、とか言うわけ?」 「違うよー。今回は英語だから」 「違わねぇよ。てかいつも思うんだけど、みゆきに見せてもらえばいいじゃない」 たまたま担当の教師が一緒ということだが、毎度同じ課題を出してるのもどうなんだ。 「いやぁ、なんとなくみゆきさんにそういうのって頼みづらくない?」 「言いたいことはわからんでもないが、なら私に対して何かないのかよ」 「そこはほら、私とかがみの仲じゃん」 にまにま猫口笑顔を見せるこなた。 何度も見、時に怒りを覚え、時に羞恥に駆られ、時に安心させられた。 こいつにしかできない表情。 思わず言葉を詰まらせたけど、早く何か言わなきゃ。 誤解される前に。 「いつも世話してばっかでさながら私はあんたの保護者ってわけね」 「ちょっ、同級でしょ!……でも妹ポジなら悪くないかも」 顔を伏せたこなたに言い様のない不安を感じ身構える。 案の定「かがみお姉ちゃん」とか言って飛びついてきたけど難なくスルー。 教室の扉にぶつけた鼻が赤くなってて少し可哀想だったかも。 結局あの後こなたの頼みは断れなくて。と言うかほとんど断った試しがないか。 何とはなしに対価を要求してみたところ、あっさり頷かれた。 「かがみの言うこと一つ、何でも聞くよ」と、事も無げに言うもんだから。 刹那私の脳内では疚しい想像も浮かんだが、慌て頭を振って出した望みは。 「お待たせかがみ。今日はアニメもないしとことん付き合うよ」 朝思い描いていたことを実現することだった。 「別に言ってくれればバイトがない日ならいつでも大丈夫なんだけどさ。むしろ私がいつも付き合ってもらってるんだし」 それもそうだ。このくらいじゃもったいない気がする。 が、本能のままに願いを言ったらさすがにそれは頷いてくれそうにもない。 「そうは言ってもあんた興味のないことには全然じゃない。無理して付き合わせるのもヤだし」 「んー、かがみと一緒ならそんなこともないよ?」 同意を求めているような笑顔を向けられて返事に窮する。 同意することはつまりこなたといられるだけで嬉しいって言っているみたいだから。 ……待て、逆に言えば私と一緒にいるのが好きって言ってるも同然ではないのか。 熱を帯びつつ緩みだす頬に気づかれる前に教室を飛び出した。 「機能的にはどれも同じなのに結構種類あるもんだね」 動物や花をモチーフにした物やシンプルに丸型四角型した目覚まし時計。 同じデザインでもしっかり色のバリエーションを用意してある辺りすごいなと思う。 値段はあまり注視しないでいたけど、そこまでお金をかけたいか、と思うやつもあったりした。 「時計なんてなかなか買い換えないわよね」 「そうだね。動けばいいやって感じで壊れない限り使い続けてるよ」 そうして長い間部屋の一部となるわけだけど、そう考えると逆に選び辛い。 特別目を引くこともないはずだから、いっそのこと百均でも行けばよかったかも。 ちらりこなたを見ると人差し指を口元に当てて吟味してくれていた。 真剣な眼差しが嬉しいし可愛いと正直に思った。 もし簡単に目的だけ済ませてたらこのひとときは得られなかったに違いない。 「悪かったわね、付き合わせて」 優柔不断なのか結局30分近く店内で過ごしてしまった。 最終的に選んだのはシンプルな丸型で菫色した物。お値段も手頃だった。 「かがみらしくていいじゃん」の一言が決め手だったり。 「いやいや、たまにはこういうのも良いかなって思ったよ」 ゲームや漫画じゃなくて、普通に雑貨にどれが良いかなって悩む。 そんな女の子らしい(いや現役女子高生だけど)ひとときは他愛ないけど、私にとって幸せな時間だった。 「さて、これからどうするの?」 小首をかしげて尋ねてこられたが、答えは全然用意してなかった。 てかさ、いちいち小動物的な仕草はやめてくれないか。 自分の気持ちを自覚してからというもの、本気でどうかしてしまいそうになる。 「私の用事はこれで済んだわよ」 本音はもっと一緒にいたい、なんだけど上手い口実がすぐに浮かばない。 「んー、それじゃさちょっと休憩してこうよ」 返事も待たずに手を取って歩きだすこなた。 思わず繋いでしまった小さな手を振りほどく理由はなかった。 公園のベンチに腰掛けて、ちびちびとスポーツドリンクを飲む。 こなたが小さな両手で包んでいるそれも私がお金を出した。 ツンデレのくせに優しすぎるだとか、訳のわからないことを言われたりしたけど。 空が赤みを帯びてきた頃。 制服を来た男女や小学生の子たちの姿。楽しそうな笑い声が響いていた。 「はふぅ、青春って感じだねぇ」 しみじみと呟くお前は一体いくつなんだ。 残り少なくなったドリンクを一気に飲み干してこなたを見る。 多少恋愛に憧れを抱いていたこともあったけど、隣にいたのがこなたで良かったと思う。 「あのさかがみ、一度しか言わないしすぐ忘れてほしいんだけど」 そんな前置きをしておきながら、真っ直ぐに私を射抜く瞳やうっすらと朱に染まる頬。 忘れたくないし絶対に忘れるはずがない。 「かがみと会えて、かがみと一緒に高校生活を過ごせて嬉しかったよ」 言い終えるや否や、さっと立ち上がって帰ろうと背を向けたこなた。 不意に風が長い髪をなびかせて、ちらりと赤い耳が見えたが気付かないふり。 今振り向かれたら私の真っ赤な顔を見られてしまうから。 二人分のゴミを捨てるのを口実に少しだけこなたから離れて深呼吸。 テンポの早い鼓動が不思議と心地好い。 今度は私から手を握ってみよう。初めてだから驚くだろうか。 私もこなたと一緒で嬉しかった。 その言葉を伝えるのは不器用な私には難しいかもしれない。 でも確かなことがある。 答えも正解も見つかってないけど、一つだけ絶対に違わないこと。 昨夜悩みに悩んで書けたのはたった一言だけ。 噛みしめるように呟いて、こなたの元へと急いだ。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-11-30 09:02:09) - GJ! -- 名無しさん (2017-04-22 16:56:56) - 久しぶりに来たら更新されてるじゃないですか~ &br()しかも良作が・・・GJ &br()作者様、他の作品も一気に読ませてもらいますね。 -- kk (2014-07-22 21:47:12) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(5)

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