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レイディアント・シルバーガン 4」(2021/10/21 (木) 23:55:02) の最新版変更点

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誰も来ない場末のゲームセンター。 真っ暗な店内で筐体の明かりだけが道標のように光り、がなりたてる音響が耳を圧する。 打ち捨てられた店内に並ぶのはゲームらしいゲームばかり。 誰も知らないようなその場所の端に、レイディアントシルバーガンがある。 古い古いシューティング・ゲーム。 私以外が、この店でシルバーガンをやっているのを見たことはなかった。 「お、また来たね」 と言って、店長が笑う。 私は何も答えず指定席に座り、コインを指で弾いた。 空中に投げ出されたコインは綺麗に回り、手に取った私には、パシっ、という小気味良い音が聞こえる気がした。 「さて、はじめますか」 楽しい楽しいゲームの時間だ。  『レイディアント・シルバーガン』 レイディアントシルバーガンは、長い。 昨今のゲームセンターの回転率からすれば異様なほど、長い。百円で数分の格闘ゲームと比べたらもちろんのこと、同じような一周、二週一発勝負のSTGと比べても、圧倒的に長い。 アーケード版で40分程度、サターン版なら一時間以上の長丁場、その間、気が抜ける場面など一度もない。 STGキチガイが作った、STGキチガイのためのSTG。 かつてゲームセンターでは、上手ければワンコインで朝から晩までプレイが可能だったが、今はそんな時代ではない。 にも関わらず回転率の悪いゲームをわざわざ出す、トレジャーの狂った心意気。 しかもここの店長は頭がおかしいのか、筐体に映し出されているのはサターン版なのだ。百円を入れたらサターン版がプレイできる、そんな頭のおかしいゲームセンターは全世界でここだけだ。 だが逆にいえば、店長はシルバーガンをわかっている、とも言えた。 打ち捨てられた者たちだけがわかる世界。 長い長い、最高の一時間の始まりだ。 シルバーガンが、人類最後の戦いに発進する。 私達にできることは、ただシルバーガンを操縦することだけ。 STGなら、格好いいのが当たり前、そんな時代が確かにあった。 そして稼ぎが熱ければ、言うこと無しだ。 そんな銀銃の稼ぎ──それは集中力の維持との勝負となる。 一時間、一度も息を切らさず駆け抜ける。 プレイヤーにそのための能力が要求される。 そしてまた、レイディアントシルバーガンは複雑でもある。 普通のSTGなら、Aはショット、Bは別のショット、Cはボム、せいぜいがこの程度、下手すればAしか使わず、あとはレバーのみという場合さえある。 だが銀銃は、ABCどころか、同時押しさえ駆使することになるのだ。 Aボタン: 前方向へのバルカンレーザー Bボタン: 高命中率のホーミング弾 Cボタン: 斜め方向へのスプレッド弾 A+Bボタン: 敵をサーチするホーミングプラズマ A+Cボタン: 後方に広がるワイドショット B+Cボタン: 射程距離内の敵を狙うホーミングスプレッド弾 A+B+Cボタン: 丸い敵弾を消し去るレイディアントソード 敵弾を消し、ソードのゲージをMAXまで溜めると A+B+CボタンでHYPER SWORDが使える これらが飾りではなく、本当に全種類を状況に応じて使い分けて進んでいかなければならない。 一見さんお断り。 素人ガン無視。 ユーザーに全くフレンドリーではないゲーム、人によってはクソゲーだなんだと批判するだろう。 しかし、『その先にしか存在しないもの』は、確かにある。 篝さんのこと、かがみのこと、考えなきゃいけないたくさんのこと。 戸惑い、思い悩む私の前に、敵の編隊が現れた。 私はただ無心に敵を狙い撃ち、チェーンを繋げる、黄チェーンから赤チェーンに繋げてウェポンボーナスも狙いつつ、ボスを百パーセント破壊する、スコアは34万くらい、悪くないスタート。 スコアによって武器が強化される銀銃は、計画的でないと乗り切れない、スコアを稼がなければ生き残れないのだ。 茨の道。 ちなみに、クリア時スコアが2600万超というのが、アーケード版シルバーガンの凄腕ゲーマーの基準だろうか。 サターン版なら3300万以上。 先はひたすらに長い。 レイディアントシルバーガンのストーリーでは、地球人類は突如現れた「石のような物体」のせいで絶滅し、衛星軌道上に逃れていたシルバーガンだけが生き残る。 そして始まる最後の戦い。 なんのために? もう人類は絶滅しているのに。 さらには衛星軌道上で生き残っていた仲間までも死に絶え、シルバーガンの乗員以外は完全に死滅してしまう。 それでも、私達は戦うしかない。 生き残りを賭けた、最後の意地。 本当に厳しい敵の攻撃を、赤チェーンでどこまでも通し、敵をあえて見逃し、ウェポンボーナスを狙う。 一瞬でも集中が切れればおしまいだ。 どこまでもプレイヤーに技量を要求する。それが、STGなのだ。 「何のために……」 STGなんかやっているのか? ハイスコアを取ったからって、誰かが褒めてくれるのか? こんな場末のゲームセンターで、スコアを更新したって誰も見ちゃいない。 大体、すでにスコアランキングは自分の名前で埋まっている。 一位の数字を塗り替えたところで、同じ名前の数字部分が変わるだけだ。 それなのに、なぜSTGなんかやっている? カスリ点を稼ぐために安全地帯を探し、ギリギリで敵弾をかすり続ける、少しでも指が震えたらおしまいだ。 厳しく、ギリギリまで点を稼ぐ。 何のために? シューティングをやって、何の意味がある? どう考えても無意味。 何も得をしない。 誰も褒めてくれない。 完全な自己満足。 そう。 『ssを書いて、何の意味がある?』 赤チェーンの後の赤青黄の秘密チェーン、私の指は意識しなくても自然に動いた。大丈夫、それでも、戦う意思はある。 篝さんは一人で暴走し、人々はもうこなかがbbsに興味がない。 時代は過ぎ去り私達は取り残され、篝さんは一人で暴走している。 何をしてるんだ、私達は……? 赤で押すか、黄で高得点を狙うか……赤なら安定して7万ぐらい、黄色なら難しいが11万が狙える。私は、今日は自分の限界に挑戦したい気分だった。 迷わず黄編隊を全滅させようとする。大丈夫、いける。 手が震えそうになるのを止める。確かに存在する戦う意志。しかし何故? 無意味なこと。 でも『意味』ってなんだ? カガク的に測定できたり、数字で測れたりするのか、意味が? 自然界や、動物が、意味を語るのか? もしそこから意味を勝手に読み取るなら、人間は遺伝子の乗り物とかそんな事になって、かがみが好きな私の想いは否定されるだろう。 「迷ってんのかよ」 不意に聞こえる声。 「とうとう、現れたかあ……」 気づけば周囲は真っ暗になって、そこには私と、現れた幻覚──浅見篝だけが居た。    ……… 「何を悩む、何を迷う、なあ、泉こなた?」 篝さんは、どこまでも不敵に笑っている。 幻覚だと分かっても、闇に浮かび上がる篝さんの表情は、現実そのものだ。 「篝さんには分からないよ。仲の良い同性の女の子を好きになった、私の気持ちなんて」 「確かにわかんねーな。自分が熱くなったなら、ぶつかればいい、それだけだろ?」 「失敗するよ、迷惑だってかかる」 「ふーん」 篝さんは黙って腕を組んで、空を仰いだ。対する私は下を向いて、今もシルバーガンと共に戦っている。 美しいグラフィック、華麗なBGM、淡々と流れていく。 不意に、篝さんが身を乗り出して言った。 「あのさ」 一瞬だけ、頭は動かさず目だけで篝さんを見る。 もちろん現実の私は一瞥もせず下を向いてシルバーガンをプレイしているが、幻覚の私は篝さんの声に視線を向け、つい、その目を見てしまうのだ。 「失敗すんのは、駄目なことか?」 駄目じゃない、と篝さんの目は言っていた。 「私なんかさ、ゲーム作ったら総スカン、動画作れば晒される、でも後悔はしてねーよ。まあ、傍から見れば綺麗に立ち回れなくて、馬鹿だって思われてんのかもな。格好わりー奴、ってさ」 そうだ、篝さんを批判したり、馬鹿にする声は一杯聞いた。人格を否定する声も。 でもこの人は性懲りもなく、BBSを終わらせるとか吹いてssを書いている。そんなの、終わらせられる訳がない、当然失敗する。でもぜんぜん、この人は失敗を恐れないんだ、きっと。 「篝さんは、傷つくのが怖くないの?」 「そう見えるのか?」 にやりと笑う篝さんは、確かに怖いものがないみたいに見える。でもたぶん、違う。 「痛いのは嫌だし、批判されるのは凹むけどよ、なんつーか……思いついて、やらなかったら後悔する。そうじゃないのか?」 「そんな自分の都合で、かがみを巻き込めないよ」 「巻き込めよ」 「はあ?」 篝さんが、いつの間にか持っていた缶ビールの蓋を開けた。 「ちょ!?篝さん未成年!?」 「おっと、こなかが飲酒ss、なんて思いついちまった。好奇心からお酒を飲んでみた二人は、今まで言えなかった気持ちや想いをぶつけあう。どうだ?」 「どうだ、じゃないよ、そんなこといきなり言われても」 「はは、そうかよ。でも、なんつーかさ……」 篝さんが、舐めるようにビールを飲みだした。 「私は、そんな舌が回る方じゃねーから、上手く言えねーんだけど……人間って熱くなった時に、色んなもんが邪魔すると思うんだよな。常識とか、そういう色々……そういうのが大事な時ってのも、確かにあるんだ」 なんでもかんでも、やってみたいからやってみる、では子供だ。社会で生きていけない。 「でもなんつーかな……本当に大事なものなら、理屈じゃなくて、魂にとって大事っつーのかな……世の中には口だけで魂とか言って、迷惑かける奴もいるじゃん、ss荒らしとか」 自分の作品の価値がどうこう、とか言って板を汚す迷惑者達。 「他人事の社会問題をさ、理屈だけつけて弄んで、自分は真剣に考えてますよってポーズとかさ、そういうんじゃねえんだよ。泉が同性愛について語るのと、私が語るのじゃ、意味が違うだろ。言葉は語られたものがすべてなんつーのはさ、嘘だろ」 「ちょっと、篝さんが何を言いたいのか、分からなくなってきました」 「あー、やっぱ、賢い奴らの真似はできねーな」 篝さんは、無邪気な子供のように笑う。 「要は、泉なら、後悔しないようにぶつかったらいいってこと」 「そんなの、無責任だよ」 「そりゃなんの責任だ一体? 上を見ろよ」 そういえば私はずっと、この幻覚の中で下を向いていた。 篝さんに言われて初めて、私は空を見上げた。 「綺麗な星空だろーが」 闇の中では、今まで私が気づかなかっただけで、星が瞬いていた。 無限の星空、どこまでも、どこまでも広がる。 「世界はさ、本当はもっとでかいんだ、もっともっとでかいんだよ。でも私ら人間は、小さいことでくよくよ悩んで生きていく。でもさ、泉、ちっさい人間になんなよ、自分の枠を決め付けてどうする? 迷惑かけろよ、巻き込めよ、周りの人間が信じられないのか? 別に失敗したって、ふられたって、いいじゃねえか。いくらでも生きていける。道はあるんだ、心さえ閉ざさなきゃ。全力で泣きついてくる奴を、放り出すような奴ばかりじゃねーよ」 「でも」 「これは、泉だから言ってるんだ。他の奴はしらねー、世界中の、『仲良い同性の友達に恋心を持った奴』の責任までは取れねえ。人間は一人一人ぜんぜん違う、でも泉、お前は『心のままに行動しても誰かを傷つけない』奴だ。そうだろ? 私とは違う。悩める、迷える心があるから」 「でもかがみと恋して、何の意味があるの? 恋人になっても何の利益もない、何の展望もない、ただ苦しいだけじゃないの? 世間に弾かれて、変な目で見られて、悲しい思いばかりすることになるよ!」 「お前は『何かのため』に恋すんのかよ。そうじゃねーだろ?」 篝さんが、極めて、極めて珍しいことに、優しく笑った。まるで、すべてを包み込むみたいに。 「何のためにSTGしてるか、まだ思い出せないのかよ、いずみん?」 気づいたら、もうシルバーガンは佳境だ、次々と現れるボス達を裁いていく。スコアは天井知らずに伸び、約2900万、3300万に届こうかという数値だ。もしも届けば、ハイスコアを塗り替えられる。 生物の進化をなぞるように出てくる動物ボス達を倒すシルバーガン、私たちは、人類の進化をこえられるのか? スコアを塗りかえられる、そう思うと血が熱くなる。 塗り替えるのは自分のスコアなのに。 いや。 そうか。 画面を埋め尽くすような弾幕をギリギリでかわす瞬間、確かに血の温度が上がる。 スコアがうなぎ上りに上昇し、ハイスコアに届くと思うと、胸が高鳴る。 そう、そうなんだ。 私は知る。 いや、最初から知っていた。 ハイスコアは、誰かと競うためのものじゃない。 弾をかわせば血が滾る。 スコアが上がれば熱くなる。 それが、STGだ……! そのために苦行のような敵の攻撃をかわし、どこまでも自分を磨く。 それが、その苦行こそが、スーパープレイをした時の血の温度をあげるのだ。 本気になるからこそ、楽しいんだ。 ハイスコアは己を超えるためのもので、マリオカートでゴーストを追い抜く時、求めているのは誰かとの競争じゃない。 自分を超える。 それだけだ。 そして遂に現れる人型のボス、サイガ。 シルバーガンの画面が警告の文章を打ち出す。 6A:XIGA BE ATTITUDE FOR GAINS... 1:BE PRAYING 2:BE PRAYING 3:BE PRAYING この文章は、『祈りなさい』と訳されることが多い。 でも、そうじゃない。 この言葉は、そのまんまの意味なんだ。      ”BE PRAYING”    ”さあ、ゲームしようぜ” 「私、分かった」 何でSTGするのか、思い出した。 「篝さん!」 声をかけようとしたら、もう篝さんの幻影は消えていて、私は少し、苦笑する。 単純な話なんだ。 ゲームが好きだったから、ゲームをしていた。それだけ。 『ゲームが楽しいから、ゲームをしていた』 そして私はとうとう、石のような物体と向き合う。 私はこれから、ただひたすら60秒間、石のような物体の攻撃をかわし続けなきゃいけない。 世界で一番濃密な60秒。 最高の時間だ。 背後で、人々が叫んでいる。 私的代弁者:「この世に生まれた11番目の作品、『シルバーガン』をもって人々に訴えかけるのだ」 私的かつ客観的代弁者:「お願い、あきらめないで」 正しき主観を持つ者:「愚かだよ、俺たちは…」 無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ!この金を生む業界は我々の為にあるのだ」 道理を理解する者:「あんた、正気なのか?自分のやっていることがわかってるのか?」 道理を理解する者:「なっ、何をする!」 気休めの言葉:「希望を持ちましょう、そしていつの日か必ず」 正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」 無知な商売人:「クビだ!奴等を全員クビにしろ!」 客観的代弁者:「争いを止めることはできない。創造者も商売人もお互いが正義だと思っているからな…」 私的かつ客観的代弁者:「お願い、あきらめないで」 去りし者1:「ここには夢や希望なんてない…」 創造者:「ゲームそのものが楽しいと思っていた頃の感覚はなくなってしまった」 私的かつ客観的代弁者:「あきらめないで」 去りし者2:「わたしにだって夢はあったわ、でもどうしてかしらね」 視野の狭い商売人:「これからは視野を広く、ライトユーザーを中心としたゲーム作りが必要なのだよ」 客観的代弁者:「このことにより両者の対立は避けられないものとなりました」 私的代弁者:「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ」 客観的代弁者:「サイは投げられてしまっている…もう誰にも止めることはできない」 希望的観測者:「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」 私的かつ客観的代弁者:「あきらめないで」 私的代弁者:「俺の夢はね…この創造空間にあると思いたい…」 ゲームたる者の存在:「わたしのこと、愛してる?」 全員:「!?」(爆発) ゲームは終わる。 すべてが閃光に飲み込まれ、しかし生き残ったロボットはパイロット二人のクローンを作り、人類の歴史が再び始まる。 これは始めから決まっていたこと… そう、幾度となく繰り返されていること… 時代にとり残された私にできることは… 再びゲームを再生させること… そう幾度となく繰り返されていること… 私はゲームがゲームらしかった頃のクローンを作る… ゲームがゲームらしく生き残るために… 長い時間をかけて、再び創造空間は発展していくだろう… そして我々が同じあやまち(切り捨て文化の道)を繰り返さないように、祈りたい… 同じ志を持っている数少ない経営者、販売者、開発者、ゲームプレイヤー達に祝福を… スコアは、3300万点を超えていた、もちろん、ぶっちぎりのトップスコア。 最高の気分の中で、私は閃く。 「そうか……」 私は、自分のするべきことを悟った。    ……… 運命の日、4月25日。 [[その日の某所>http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6076/1258337900/331-354]] 浅見篝はこなかがBBSを終わらせるためのssを、投下しようとしていた。 しかし、日付が24から25に変わる瞬間、浅見篝は自分以外の誰かがssを投下するのを目撃する。 「眼鏡っこ激ラブ? なんだこのコテハン?」 拙い、短いss、しかし、こなかがを愛している事だけは分かる。 だが、遅すぎる。 いまさら、一人下手なss書きが増えたところでどうなる? どうせこれ一作で終わりの花火、板を変える事は出来ない、と浅見篝は思う。 「今日は終わりの日だ。全てを私が仕切りなおす」 ss投下のための準備を進めようとして、浅見篝は手を止めた。続いて、また新たなssが投下されたからだ。 「H4-53、いまさら、何故?」 もはや去った筈の人間が、再びssを投下している。 しかも、ルール無用の無茶な内容の上に投げっぱなしだ。 「何を考えている? 今更クロスオーバーの連載などと、正気か? サイトでやればいいだけの筈だろう??」 こなかがBBSにペルソナ4ファンがどれだけ居るか分からない。このssが受け入れられるかも分からない。 「趣味に走りすぎたな、H4-53」 もはや流れは変えられないのだ。 一瞬だけの投下では、後が続かない。 終わりは避けられない。 だからこそ、私は……。 浅見篝は自分のssを書き進めようとし、だがそこへ更に、また新たなssが投下された。 「h5-455だと!? 何故だ!?」 おかしい。 引退した筈の連中や、今まで投下しなかった人間が、ssを投下し始めている。 続々と増えるss。 まるで、これでは……。 その時、不意にチャイムが鳴った。 浅見篝は乱暴に返事を返す。 「開いてるぞ!」 開いたドアの向こうには、見覚えのある小さな姿だ。 「失礼します、篝さん」 現れたのは、泉こなただ。 「泉、何しに来た」 「篝さんは、私を止めたければ魂を見せろって言ったよね。だから」 泉が不敵に笑う。  「魂、見せに来たよ」 浅見篝が立ち上がる。魂を持つ相手ならば、それはもう立ち上がるしかない。 「へえ、いずみん、面白いこと言うじゃねえか。見せてみろよ、お前の『魂』」 「もう、見てるよ」 見れば、泉の後ろには、他にも見覚えのある連中が揃っている。 H4-53、h5-455、h6-43、柊かがみ。 「何故、今更来た」 「言われっぱなしじゃ、面白くないんでな」 と、へいしさんが言う。 「もう、一つや二つのssで、変わる状況じゃない」 「そう、それが変なんだよ、かがりさん、状況を変えるために、ss書いてる訳じゃないでしょ?」 こなたは、ようやく自分が、浅見篝と戦える魂を見つけたのに気づいていた。 「それでも、私はssを書く。だらだらと続く状況を断ち切るために。全てを終わらせるためにssを書く」 「それなら私は、『続ける』ためにssを書くよ。ううん、本当はそんな事関係ない」 何のためにssを書くのか? 「BBSを終わらせるとか、誰かの感想が欲しいとか、盛り上がりたいとか、誰が魂を持ってるとか持ってないとか、全部全部、本当は関係ないんだよ。かがりさんだって、元々そうだった筈でしょ? だから他人も、板の状況も関係なくssを書ける。そうじゃないの?」 「なんだと?」 「『ssを書くのが楽しいからssを書く』   そうでしょ?」 関係ない。 最初から、何も関係が無かったんだ。 何かのために書いてる訳じゃない。 ssは、ただそこにあった。 書くこと自体が、楽しいんだ、と。 そう信じられる。 「ss書いた事もない奴が、ずいぶん吹くじゃないか」 「篝さんは、どうしてみんなが集まって、ssまで書いてくれたと思ってるの?」 「私へのあてつけか?」 「みんなそんなに暇じゃないよ。私、みんなともう一度話して回ったんだ」 レイディアントシルバーガンのハイスコアを更新したあと、こなたは全員にもう一度会った。 へいしさんは言っていた。 「なんだよ、泉、もう俺は次の場所を見つけてる」 「でもそこには、こなかがは居ないんじゃないですか?」 「何が言いたい?」 「へいしさんが本当のss書きなら、ただ誰かに褒められたいだけじゃないなら、こなかがを好きになってssを書いた時、こなかがを書くからこそ得られる楽しさがあった筈です。違いますか?」 へいしさんはこなたを睨んだ。 へいしさんはリアルでの職業で暴力団と関わりがある、という噂があった。そういう目だった。 それでも、こなたは目を逸らさない。 「お前は、俺に、一人で走ってる浅見の真似をしろって言う気か?」 「そうです。今、浅見さんは一人で走ってる。でもそれなら」  「みんなで一緒に、走りませんか?」 「そうすれば」「BBSが元に戻るとでも?」「いいえ」 こなたは断言する。 「きっと、楽しい」 へいしさんが鼻で笑う。 「それならまず、お前が走れ」 「もう走ってます」 「なに?」 こなたは、へいしに『自分の書いたss』を提出した。 へいしは困ったように苦笑して、頭を掻いた。 「お前、これ……そうか。。。書いてみてどうだった?」 「最高でした」 「たぶん、感想なんかろくにもらえないぞ」 「構いません」 ssを書くこと、それ自体が楽しいことだから。 まず、とにかく書くこと、それがきっと大事だから。 こなたは、ssを書いた。 浅見篝が、驚きを露にする。 「じゃあ、まさか……」 「そうだよ、眼鏡っ娘激ラブは私だよ。私、一時期メールアドレスこれにしてたし。かがりさんは、もう私の魂を見てるよ」 今日、最初に見た、ss。 ──私は、何と思った? 『拙い、短いss、しかし、こなかがを愛している事だけは分かる。 だが、遅すぎた。 いまさら、一人下手なss書きが増えたところでどうなる? どうせこれ一作で終わりの花火、板を変える事は出来ない』 「下手なss書きが、気まぐれで書いた一作だけのssで、板を変える事は出来ない、とでも思った? 篝さん」 「泉……」 「ねえ、ssは、BBSを変えなきゃいけないのかな。気まぐれで一作だけ書いちゃ駄目なのかな。仮にそうだとしても、そんなルールに従って、ssを書く時はああじゃなきゃいけないとか、こうじゃなきゃいけないとか言うと、きっと誰もssを書けなくなる」 気まぐれで一作だけ書いてssを投下してもいい。 下手でも構わない。 短くても構わない。 感想がなくたっていいんだ。 今、すぐに書こう。 ただ、書くこと。 それだけで楽しいんだ。 不意に、BBSが更新される。 「なんだ?」 ここに居るメンバー以外の、かつてこなかがを書き、去っていった者達。 今までssを書かなかった見る専達。 そんな人々が、続々とBBSにssを投下していく! 「馬鹿な!?」 まるで、全盛期のBBSのような光景。 ありえない。 「何故……?」 「まだ気づかない? 篝さん」 「何をだ」  「こなかがBBSは、終わってなんかないんだよ」 「誰か一人でも魂を持つ限り、こなかがBBSは終わらない。でもこれには、篝さんの力もあるよ、篝さんが走り出したから、私も、みんなも、走ろうって思ったんだ」 「何のことだよ」 「篝さんはss書き始めると周りが見えなくなるし、ネットに接続しなくなるもんね。だから冬の寒い中にss投下するって決めたのに、投下する日を4月25日なんて言って、春にしちゃうほど時間がかかる」 「それがどうした?」 「私達に、時間を与えすぎたよ」 そう言って、こなたはこなかがBBSのトップページを示す。 そこには既にssのタイトルがこうあった。  『レイディアント・シルバーガン』 「まさか!? 私はまだ投下してないぞ!? 待て、これは?」 篝さんは、ある事に気づいた。 H6-43氏のレイディアント・シルバーガン 3- New! (レイディアント・シルバーガン 2の続き)※実在する人物、場所、団体とは関係ありません 『作者、h6-43』 それに気づいた篝さんがジミーさんを睨むと、それまで黙っていたジミーさんが口を開いた。 「俺達とお前の経緯をssにして、BBSに投下した」 「何故!」 「俺達の狭い人間関係の中でごちゃごちゃやるより、BBSの事はBBSに問えばいい、そう思ったから。まあ、思いついたのはそこにいる柊さんだけどな」 篝さんがかがみに目を向け、かがみは少し困った顔をした。 「いや、思いつきで言っただけなんだけど、思ったよりみんな乗り気になったというか……」 「さっすが、かがみん。私の嫁、って思ったよ!」 「誰がお前の嫁だ!」 こうしている内にも、次々とssが投下されていく。 拙くてもいい、一行でもいい。 ssがそこにあること。 そう、ssを書くこと、投下すること自体が、楽しいことの筈なんだ。 しり込みする必要はない。 下手かもしれないとか、恥ずかしいとか、思う必要もない。 「みんな、まだ、篝さんの意見には賛成しないってさ」 「私の意見?」 「『こなかがBBSを終わらせる』って奴。これを見たら、みんなの意見は分かるでしょ?」 みんなの想い。  『こなかがBBSは、終わらせない』 そのためにはただ、ssを投下すれば良い。 「あのね、篝さん」 しごこさんが、篝さんに語りかける。 「私、感想を貰えないのがずっと怖かった。篝さんから見れば、私なんて弱い、馬鹿な子に見えるんだと思うけど……」 「んなこたねぇよ、被害妄想だ。そういう風に何でも悪く考えるから、感想のことで悩む羽目になる。あんたは評判のいいss書きだったし、私もあんたの事は嫌いじゃねえ」 「ふふ、ありがと、こうやって直接聞けたら、何でもないことなのにね」 ずっとずっと、他人も、板も、篝さんも怖かった。 「私ね、気づいたの」 「何に?」 「感想欲しい欲しいって言いながら、私、誰かのssに感想書いたことなかったな、って」 自分はss書きだから、感想書かなくてもいいとか。 感想に何を書いていいか分からないとか。 本当に感動した時だけ感想を書けばいいとか。 「全部、私にとっては言い訳だったんだな、って」 ssを書くのは、感想書くよりずっと大変だって知ってたのに。 GJの二文字さえ書くのを怖がって。 そのくせ、板が盛り上がらない、とか嘆いてた。 「何でもいいから、感想書けばいいんだ、って。そこからしか始まらないって、分かった」 「いいんじゃねえか?」 そう言って、篝さんが柔らかく笑った。 その目は、PC画面の向こうのこなかがBBS、更にその向こうにいる人々を見ているようだった。 更新ボタンを押すたびに感想が、ssが、続々と現れスレを埋めていく。 まるで祭りだ。 篝さんはその祭りを愛しそうに眺めている。 「みんな楽しそうじゃねえか。455もさ、始まるとか始まらないとかじゃなくてさ、楽しめよ。感想書くのを楽しめばいい」 「篝さん……」 「私は、今日はss落とすのやめとくわ。『レイディアント・シルバーガン』は封印だ。タイトルかぶっちまうしな」 そう言って笑ってみせる篝さんは、思いつめた様子が消え、憑き物が落ちたみたいだった。  「魂、見せて貰ったぜ」 その私達の魂の結晶は、したらばスレを流れていく。 永遠に続くかはわからない。でもまだそこにある魂の灯火。 私は信じたい。 信じさせて欲しい。 この世界に永遠に続くものが一つもなく、一瞬だけ楽しんで早々に忘れられるものばかりなら、私達の人生で真に真剣なものや深刻なものは存在せず、人間も動物も何も変わりはしないんだ。 どれだけ愚かで無駄で下らなくても、世界中に笑われても、それでも私は私が楽しいと信じたこの時間に価値があると信じたい。 だから私は、信じるために呟いた。 「こなかがは、永遠に不滅だよ」        ……… 全ては終わったのか? いや、そうではない。 私にとって凄く大事な問題が残っている。 「あのさ」 かがみと二人きり。 篝さんの家からの帰り道。 「なによ、こなた」 「投下されたSSの中に、眼鏡っこ激ラブの書いたSSの、かがり視点、みたいなSSあったじゃん」 「あったわね」 名無しでいいです、というコテハンの書いたSS。 あれは明らかに、私のSSを知っていた誰かが書いたSSだ。 私は、意を決して聞く。 「あれ書いたの、かがみ?」 「そうだ、って言ったら、何なの?」 「何で、書いたの?」 「そりゃ、あんだけみんなが頑張って、こなたまでSS書いてるのに、私だけ知らん振りなんて無理じゃない?」 「じゃあさ……」 あのSSに書かれていた内容……。 『素直になれば、何か良いことあるかもよ?』 「あのSSに書かれてる内容は、本当なのかな?」 「さあ? どう思う?」 「そうだね……」 こなみはかがりのことが好きだけど、言い出せなくてごまかしてしまう。 かがりはこなみのことが好きだけど、こなみが素直になるのを待っている。 そんな、一組のSSになっていた。 「質問を変えていい? かがみ?」 「どうぞ」 恋心なんて狂気みたいな一瞬の幻で無意味とか、若いとか青臭いとか中二とか、一瞬の情熱を否定するための言葉は幾らでもある。 でも。 そういうの、聞き飽きたんだ。 私は私の一瞬の『熱』を、魂を信じたい。 それが信じられないなら、何を信じて生きていくのか分からないから。 同性とか若いとか将来とかそういう山積みの問題を吹き飛ばして、どこまでも戦って戦って、勝ち取らなければ、永遠は手に入らない。 だから、一度だけ、素直になってみる。 本当に素直な問いを、かがみにぶつける。 時間が私達から情熱や仲間や誇りを奪い去るとしても、それでも抵抗し続ける魂が人間にあると私は信じる、信じたい。 だから私は不意の想いに打たれて、かがみと、世界の全てに、同時に問うように言うんだ。 今から、みんなに、世界のすべてに、そしてかがみに……問うよ。   「私のこと、愛してる?」  爆発……なんてね。 [[前 レイディアント・シルバーガン 3>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1265.html]] **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - ありがとう。 -- 名無しさん (2020-01-21 21:09:50) - GJ! -- 名無しさん (2017-04-21 17:04:31) - Progress. -- 名無しさん (2010-05-01 14:35:39) - >>貴方のおかげで、このssは生まれました。少しでも楽しんでいただけたら幸いです! &br() &br() &br()>>いつまでも好きでいられると、信じたいです。でも、無理に好きでい続けるものでもないし、ただ篝さんのような異常さを持つときだけ、好きでい続けられるのかもしれません。でも、それでも、私も、こなかがを大切にしていきたいです! 私も、愛してます!! &br()あと、言い忘れてたんですけども、保管してくれた方、ありがとうございます。大変保管しにくい形式で、板で見ないと意味わからないな、とずっと思ってて、それをこんな形で保管してくれて、本当にありがとうございます。そういう意味も含めて、このssに関わった全ての人に感謝します。ありがとうございました! -- h6-43 (2010-04-30 01:04:38) - 凄く感動しました! &br() &br() &br()それにこのssを読めたことに感謝です! &br() &br() &br()流行っていた物がやがて衰退していく…。 &br() &br() &br()でも本当に好きな物ならいつまでも好きでいられますよね!! &br() &br() &br()私も自分が好きになった物は大切にしていきたいです! &br() &br() &br()私も愛してます!!! -- こなかが好きの一人 (2010-04-30 00:38:21) - こんな綺麗に完結するなんて…なんて素晴らしい! &br()静かに4/25を待っていましたが &br()心情的にすごくすっきりさせて頂きました。 &br() &br() &br()銀銃を薦めてしまったばかりにH6-43氏に &br()変なプレッシャーを与えてしまったのでは無いだろうかとか &br()色々考えた時期もありましたが、 &br()『3rd』を嗜み、『銀銃』を薦めた者として &br()リアルタイムでこのSSが完成していく様を &br()見守る事が出来、(変な言い方ですが)とても誇らしく思っています。 &br() &br() &br()僭越ながら私も書かせて頂きましょう。 &br() &br() &br()『俺も愛してる!!』 -- 名無しさん (2010-04-29 13:16:29) - 続きです! &br()>>仰る通り、浅見篝という名は、斑鳩から取りました。斑鳩は最高のSTGの一つだと思います! &br()>>このssで初書き込みをしてもらえたのは、本当に嬉しいです。そして、もしも書き込むことの楽しさや喜びを知って頂けたら、もっと嬉しいです。少しでも、らきすたや、こなかがを好きになってもらえて、そして魂が届けば、これ以上に嬉しいことはありません。ありがとうございました! &br() &br() &br()そして、保管庫感想へ! &br() &br() &br()>>もちろん、私も愛してる!! &br()>>そう!私も愛してる!! このSSに関しては、俺も愛してる!! で十分じゃないでしょうか。だって、感想の欄に、俺も、俺も愛してる!! 俺も俺も!! ってコメントが並んだら、それは作者として最高に嬉しいです。 &br() &br() &br()すべてのこなかがの先人と原作者、そして銀銃はどうですかと言ってくれた人に感謝します。ありがとうございました。 -- H6-43 (2010-04-28 21:36:56) - 悩みに悩みましたが、感想に返信があった方が嬉しいかな、と思い、全レス返信します。尊敬するこなかが4コマ絵師さまが頻繁に返信していましたし、ここなら迷惑にならないと思うので! &br()まずは、BBSの感想から! &br() &br() &br()>>こちらこそ、読んで頂いてありがとう!! &br()>>大仕掛けで、あの頃の夢よもう一度! そんな感じでした。 &br()>>現実とのリンクは、ほんと危ない危ないと思いながら書いていました。少しでも楽しんで頂けたなら光栄です。望外の言葉を頂いて、本当にありがとうございます。 &br()どんな世界でも、似たような問題はありますよね。私も篝さんのように書きたいものを書くようにしたいとは思っているのです。貴方のssの凍結が解けるのを、楽しみに待っていますね。こちらこそありがとうございました! -- H6-43 (2010-04-28 21:35:19) - そうさ!俺も愛してるっ!! スミマセン、色々いっぱいいっぱいで &br()、今はこれしか言えません。GJ!!! -- kk (2010-04-28 20:20:40) - もちろん愛してるさっ!! -- 名無しさん (2010-04-28 14:41:25) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(17)
誰も来ない場末のゲームセンター。 真っ暗な店内で筐体の明かりだけが道標のように光り、がなりたてる音響が耳を圧する。 打ち捨てられた店内に並ぶのはゲームらしいゲームばかり。 誰も知らないようなその場所の端に、レイディアントシルバーガンがある。 古い古いシューティング・ゲーム。 私以外が、この店でシルバーガンをやっているのを見たことはなかった。 「お、また来たね」 と言って、店長が笑う。 私は何も答えず指定席に座り、コインを指で弾いた。 空中に投げ出されたコインは綺麗に回り、手に取った私には、パシっ、という小気味良い音が聞こえる気がした。 「さて、はじめますか」 楽しい楽しいゲームの時間だ。  『レイディアント・シルバーガン』 レイディアントシルバーガンは、長い。 昨今のゲームセンターの回転率からすれば異様なほど、長い。百円で数分の格闘ゲームと比べたらもちろんのこと、同じような一周、二週一発勝負のSTGと比べても、圧倒的に長い。 アーケード版で40分程度、サターン版なら一時間以上の長丁場、その間、気が抜ける場面など一度もない。 STGキチガイが作った、STGキチガイのためのSTG。 かつてゲームセンターでは、上手ければワンコインで朝から晩までプレイが可能だったが、今はそんな時代ではない。 にも関わらず回転率の悪いゲームをわざわざ出す、トレジャーの狂った心意気。 しかもここの店長は頭がおかしいのか、筐体に映し出されているのはサターン版なのだ。百円を入れたらサターン版がプレイできる、そんな頭のおかしいゲームセンターは全世界でここだけだ。 だが逆にいえば、店長はシルバーガンをわかっている、とも言えた。 打ち捨てられた者たちだけがわかる世界。 長い長い、最高の一時間の始まりだ。 シルバーガンが、人類最後の戦いに発進する。 私達にできることは、ただシルバーガンを操縦することだけ。 STGなら、格好いいのが当たり前、そんな時代が確かにあった。 そして稼ぎが熱ければ、言うこと無しだ。 そんな銀銃の稼ぎ──それは集中力の維持との勝負となる。 一時間、一度も息を切らさず駆け抜ける。 プレイヤーにそのための能力が要求される。 そしてまた、レイディアントシルバーガンは複雑でもある。 普通のSTGなら、Aはショット、Bは別のショット、Cはボム、せいぜいがこの程度、下手すればAしか使わず、あとはレバーのみという場合さえある。 だが銀銃は、ABCどころか、同時押しさえ駆使することになるのだ。 Aボタン: 前方向へのバルカンレーザー Bボタン: 高命中率のホーミング弾 Cボタン: 斜め方向へのスプレッド弾 A+Bボタン: 敵をサーチするホーミングプラズマ A+Cボタン: 後方に広がるワイドショット B+Cボタン: 射程距離内の敵を狙うホーミングスプレッド弾 A+B+Cボタン: 丸い敵弾を消し去るレイディアントソード 敵弾を消し、ソードのゲージをMAXまで溜めると A+B+CボタンでHYPER SWORDが使える これらが飾りではなく、本当に全種類を状況に応じて使い分けて進んでいかなければならない。 一見さんお断り。 素人ガン無視。 ユーザーに全くフレンドリーではないゲーム、人によってはクソゲーだなんだと批判するだろう。 しかし、『その先にしか存在しないもの』は、確かにある。 篝さんのこと、かがみのこと、考えなきゃいけないたくさんのこと。 戸惑い、思い悩む私の前に、敵の編隊が現れた。 私はただ無心に敵を狙い撃ち、チェーンを繋げる、黄チェーンから赤チェーンに繋げてウェポンボーナスも狙いつつ、ボスを百パーセント破壊する、スコアは34万くらい、悪くないスタート。 スコアによって武器が強化される銀銃は、計画的でないと乗り切れない、スコアを稼がなければ生き残れないのだ。 茨の道。 ちなみに、クリア時スコアが2600万超というのが、アーケード版シルバーガンの凄腕ゲーマーの基準だろうか。 サターン版なら3300万以上。 先はひたすらに長い。 レイディアントシルバーガンのストーリーでは、地球人類は突如現れた「石のような物体」のせいで絶滅し、衛星軌道上に逃れていたシルバーガンだけが生き残る。 そして始まる最後の戦い。 なんのために? もう人類は絶滅しているのに。 さらには衛星軌道上で生き残っていた仲間までも死に絶え、シルバーガンの乗員以外は完全に死滅してしまう。 それでも、私達は戦うしかない。 生き残りを賭けた、最後の意地。 本当に厳しい敵の攻撃を、赤チェーンでどこまでも通し、敵をあえて見逃し、ウェポンボーナスを狙う。 一瞬でも集中が切れればおしまいだ。 どこまでもプレイヤーに技量を要求する。それが、STGなのだ。 「何のために……」 STGなんかやっているのか? ハイスコアを取ったからって、誰かが褒めてくれるのか? こんな場末のゲームセンターで、スコアを更新したって誰も見ちゃいない。 大体、すでにスコアランキングは自分の名前で埋まっている。 一位の数字を塗り替えたところで、同じ名前の数字部分が変わるだけだ。 それなのに、なぜSTGなんかやっている? カスリ点を稼ぐために安全地帯を探し、ギリギリで敵弾をかすり続ける、少しでも指が震えたらおしまいだ。 厳しく、ギリギリまで点を稼ぐ。 何のために? シューティングをやって、何の意味がある? どう考えても無意味。 何も得をしない。 誰も褒めてくれない。 完全な自己満足。 そう。 『ssを書いて、何の意味がある?』 赤チェーンの後の赤青黄の秘密チェーン、私の指は意識しなくても自然に動いた。大丈夫、それでも、戦う意思はある。 篝さんは一人で暴走し、人々はもうこなかがbbsに興味がない。 時代は過ぎ去り私達は取り残され、篝さんは一人で暴走している。 何をしてるんだ、私達は……? 赤で押すか、黄で高得点を狙うか……赤なら安定して7万ぐらい、黄色なら難しいが11万が狙える。私は、今日は自分の限界に挑戦したい気分だった。 迷わず黄編隊を全滅させようとする。大丈夫、いける。 手が震えそうになるのを止める。確かに存在する戦う意志。しかし何故? 無意味なこと。 でも『意味』ってなんだ? カガク的に測定できたり、数字で測れたりするのか、意味が? 自然界や、動物が、意味を語るのか? もしそこから意味を勝手に読み取るなら、人間は遺伝子の乗り物とかそんな事になって、かがみが好きな私の想いは否定されるだろう。 「迷ってんのかよ」 不意に聞こえる声。 「とうとう、現れたかあ……」 気づけば周囲は真っ暗になって、そこには私と、現れた幻覚──浅見篝だけが居た。    ……… 「何を悩む、何を迷う、なあ、泉こなた?」 篝さんは、どこまでも不敵に笑っている。 幻覚だと分かっても、闇に浮かび上がる篝さんの表情は、現実そのものだ。 「篝さんには分からないよ。仲の良い同性の女の子を好きになった、私の気持ちなんて」 「確かにわかんねーな。自分が熱くなったなら、ぶつかればいい、それだけだろ?」 「失敗するよ、迷惑だってかかる」 「ふーん」 篝さんは黙って腕を組んで、空を仰いだ。対する私は下を向いて、今もシルバーガンと共に戦っている。 美しいグラフィック、華麗なBGM、淡々と流れていく。 不意に、篝さんが身を乗り出して言った。 「あのさ」 一瞬だけ、頭は動かさず目だけで篝さんを見る。 もちろん現実の私は一瞥もせず下を向いてシルバーガンをプレイしているが、幻覚の私は篝さんの声に視線を向け、つい、その目を見てしまうのだ。 「失敗すんのは、駄目なことか?」 駄目じゃない、と篝さんの目は言っていた。 「私なんかさ、ゲーム作ったら総スカン、動画作れば晒される、でも後悔はしてねーよ。まあ、傍から見れば綺麗に立ち回れなくて、馬鹿だって思われてんのかもな。格好わりー奴、ってさ」 そうだ、篝さんを批判したり、馬鹿にする声は一杯聞いた。人格を否定する声も。 でもこの人は性懲りもなく、BBSを終わらせるとか吹いてssを書いている。そんなの、終わらせられる訳がない、当然失敗する。でもぜんぜん、この人は失敗を恐れないんだ、きっと。 「篝さんは、傷つくのが怖くないの?」 「そう見えるのか?」 にやりと笑う篝さんは、確かに怖いものがないみたいに見える。でもたぶん、違う。 「痛いのは嫌だし、批判されるのは凹むけどよ、なんつーか……思いついて、やらなかったら後悔する。そうじゃないのか?」 「そんな自分の都合で、かがみを巻き込めないよ」 「巻き込めよ」 「はあ?」 篝さんが、いつの間にか持っていた缶ビールの蓋を開けた。 「ちょ!?篝さん未成年!?」 「おっと、こなかが飲酒ss、なんて思いついちまった。好奇心からお酒を飲んでみた二人は、今まで言えなかった気持ちや想いをぶつけあう。どうだ?」 「どうだ、じゃないよ、そんなこといきなり言われても」 「はは、そうかよ。でも、なんつーかさ……」 篝さんが、舐めるようにビールを飲みだした。 「私は、そんな舌が回る方じゃねーから、上手く言えねーんだけど……人間って熱くなった時に、色んなもんが邪魔すると思うんだよな。常識とか、そういう色々……そういうのが大事な時ってのも、確かにあるんだ」 なんでもかんでも、やってみたいからやってみる、では子供だ。社会で生きていけない。 「でもなんつーかな……本当に大事なものなら、理屈じゃなくて、魂にとって大事っつーのかな……世の中には口だけで魂とか言って、迷惑かける奴もいるじゃん、ss荒らしとか」 自分の作品の価値がどうこう、とか言って板を汚す迷惑者達。 「他人事の社会問題をさ、理屈だけつけて弄んで、自分は真剣に考えてますよってポーズとかさ、そういうんじゃねえんだよ。泉が同性愛について語るのと、私が語るのじゃ、意味が違うだろ。言葉は語られたものがすべてなんつーのはさ、嘘だろ」 「ちょっと、篝さんが何を言いたいのか、分からなくなってきました」 「あー、やっぱ、賢い奴らの真似はできねーな」 篝さんは、無邪気な子供のように笑う。 「要は、泉なら、後悔しないようにぶつかったらいいってこと」 「そんなの、無責任だよ」 「そりゃなんの責任だ一体? 上を見ろよ」 そういえば私はずっと、この幻覚の中で下を向いていた。 篝さんに言われて初めて、私は空を見上げた。 「綺麗な星空だろーが」 闇の中では、今まで私が気づかなかっただけで、星が瞬いていた。 無限の星空、どこまでも、どこまでも広がる。 「世界はさ、本当はもっとでかいんだ、もっともっとでかいんだよ。でも私ら人間は、小さいことでくよくよ悩んで生きていく。でもさ、泉、ちっさい人間になんなよ、自分の枠を決め付けてどうする? 迷惑かけろよ、巻き込めよ、周りの人間が信じられないのか? 別に失敗したって、ふられたって、いいじゃねえか。いくらでも生きていける。道はあるんだ、心さえ閉ざさなきゃ。全力で泣きついてくる奴を、放り出すような奴ばかりじゃねーよ」 「でも」 「これは、泉だから言ってるんだ。他の奴はしらねー、世界中の、『仲良い同性の友達に恋心を持った奴』の責任までは取れねえ。人間は一人一人ぜんぜん違う、でも泉、お前は『心のままに行動しても誰かを傷つけない』奴だ。そうだろ? 私とは違う。悩める、迷える心があるから」 「でもかがみと恋して、何の意味があるの? 恋人になっても何の利益もない、何の展望もない、ただ苦しいだけじゃないの? 世間に弾かれて、変な目で見られて、悲しい思いばかりすることになるよ!」 「お前は『何かのため』に恋すんのかよ。そうじゃねーだろ?」 篝さんが、極めて、極めて珍しいことに、優しく笑った。まるで、すべてを包み込むみたいに。 「何のためにSTGしてるか、まだ思い出せないのかよ、いずみん?」 気づいたら、もうシルバーガンは佳境だ、次々と現れるボス達を裁いていく。スコアは天井知らずに伸び、約2900万、3300万に届こうかという数値だ。もしも届けば、ハイスコアを塗り替えられる。 生物の進化をなぞるように出てくる動物ボス達を倒すシルバーガン、私たちは、人類の進化をこえられるのか? スコアを塗りかえられる、そう思うと血が熱くなる。 塗り替えるのは自分のスコアなのに。 いや。 そうか。 画面を埋め尽くすような弾幕をギリギリでかわす瞬間、確かに血の温度が上がる。 スコアがうなぎ上りに上昇し、ハイスコアに届くと思うと、胸が高鳴る。 そう、そうなんだ。 私は知る。 いや、最初から知っていた。 ハイスコアは、誰かと競うためのものじゃない。 弾をかわせば血が滾る。 スコアが上がれば熱くなる。 それが、STGだ……! そのために苦行のような敵の攻撃をかわし、どこまでも自分を磨く。 それが、その苦行こそが、スーパープレイをした時の血の温度をあげるのだ。 本気になるからこそ、楽しいんだ。 ハイスコアは己を超えるためのもので、マリオカートでゴーストを追い抜く時、求めているのは誰かとの競争じゃない。 自分を超える。 それだけだ。 そして遂に現れる人型のボス、サイガ。 シルバーガンの画面が警告の文章を打ち出す。 6A:XIGA BE ATTITUDE FOR GAINS... 1:BE PRAYING 2:BE PRAYING 3:BE PRAYING この文章は、『祈りなさい』と訳されることが多い。 でも、そうじゃない。 この言葉は、そのまんまの意味なんだ。      ”BE PRAYING”    ”さあ、ゲームしようぜ” 「私、分かった」 何でSTGするのか、思い出した。 「篝さん!」 声をかけようとしたら、もう篝さんの幻影は消えていて、私は少し、苦笑する。 単純な話なんだ。 ゲームが好きだったから、ゲームをしていた。それだけ。 『ゲームが楽しいから、ゲームをしていた』 そして私はとうとう、石のような物体と向き合う。 私はこれから、ただひたすら60秒間、石のような物体の攻撃をかわし続けなきゃいけない。 世界で一番濃密な60秒。 最高の時間だ。 背後で、人々が叫んでいる。 私的代弁者:「この世に生まれた11番目の作品、『シルバーガン』をもって人々に訴えかけるのだ」 私的かつ客観的代弁者:「お願い、あきらめないで」 正しき主観を持つ者:「愚かだよ、俺たちは…」 無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ!この金を生む業界は我々の為にあるのだ」 道理を理解する者:「あんた、正気なのか?自分のやっていることがわかってるのか?」 道理を理解する者:「なっ、何をする!」 気休めの言葉:「希望を持ちましょう、そしていつの日か必ず」 正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」 無知な商売人:「クビだ!奴等を全員クビにしろ!」 客観的代弁者:「争いを止めることはできない。創造者も商売人もお互いが正義だと思っているからな…」 私的かつ客観的代弁者:「お願い、あきらめないで」 去りし者1:「ここには夢や希望なんてない…」 創造者:「ゲームそのものが楽しいと思っていた頃の感覚はなくなってしまった」 私的かつ客観的代弁者:「あきらめないで」 去りし者2:「わたしにだって夢はあったわ、でもどうしてかしらね」 視野の狭い商売人:「これからは視野を広く、ライトユーザーを中心としたゲーム作りが必要なのだよ」 客観的代弁者:「このことにより両者の対立は避けられないものとなりました」 私的代弁者:「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ」 客観的代弁者:「サイは投げられてしまっている…もう誰にも止めることはできない」 希望的観測者:「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」 私的かつ客観的代弁者:「あきらめないで」 私的代弁者:「俺の夢はね…この創造空間にあると思いたい…」 ゲームたる者の存在:「わたしのこと、愛してる?」 全員:「!?」(爆発) ゲームは終わる。 すべてが閃光に飲み込まれ、しかし生き残ったロボットはパイロット二人のクローンを作り、人類の歴史が再び始まる。 これは始めから決まっていたこと… そう、幾度となく繰り返されていること… 時代にとり残された私にできることは… 再びゲームを再生させること… そう幾度となく繰り返されていること… 私はゲームがゲームらしかった頃のクローンを作る… ゲームがゲームらしく生き残るために… 長い時間をかけて、再び創造空間は発展していくだろう… そして我々が同じあやまち(切り捨て文化の道)を繰り返さないように、祈りたい… 同じ志を持っている数少ない経営者、販売者、開発者、ゲームプレイヤー達に祝福を… スコアは、3300万点を超えていた、もちろん、ぶっちぎりのトップスコア。 最高の気分の中で、私は閃く。 「そうか……」 私は、自分のするべきことを悟った。    ……… 運命の日、4月25日。 [[その日の某所>http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6076/1258337900/331-354]] 浅見篝はこなかがBBSを終わらせるためのssを、投下しようとしていた。 しかし、日付が24から25に変わる瞬間、浅見篝は自分以外の誰かがssを投下するのを目撃する。 「眼鏡っこ激ラブ? なんだこのコテハン?」 拙い、短いss、しかし、こなかがを愛している事だけは分かる。 だが、遅すぎる。 いまさら、一人下手なss書きが増えたところでどうなる? どうせこれ一作で終わりの花火、板を変える事は出来ない、と浅見篝は思う。 「今日は終わりの日だ。全てを私が仕切りなおす」 ss投下のための準備を進めようとして、浅見篝は手を止めた。続いて、また新たなssが投下されたからだ。 「H4-53、いまさら、何故?」 もはや去った筈の人間が、再びssを投下している。 しかも、ルール無用の無茶な内容の上に投げっぱなしだ。 「何を考えている? 今更クロスオーバーの連載などと、正気か? サイトでやればいいだけの筈だろう??」 こなかがBBSにペルソナ4ファンがどれだけ居るか分からない。このssが受け入れられるかも分からない。 「趣味に走りすぎたな、H4-53」 もはや流れは変えられないのだ。 一瞬だけの投下では、後が続かない。 終わりは避けられない。 だからこそ、私は……。 浅見篝は自分のssを書き進めようとし、だがそこへ更に、また新たなssが投下された。 「h5-455だと!? 何故だ!?」 おかしい。 引退した筈の連中や、今まで投下しなかった人間が、ssを投下し始めている。 続々と増えるss。 まるで、これでは……。 その時、不意にチャイムが鳴った。 浅見篝は乱暴に返事を返す。 「開いてるぞ!」 開いたドアの向こうには、見覚えのある小さな姿だ。 「失礼します、篝さん」 現れたのは、泉こなただ。 「泉、何しに来た」 「篝さんは、私を止めたければ魂を見せろって言ったよね。だから」 泉が不敵に笑う。  「魂、見せに来たよ」 浅見篝が立ち上がる。魂を持つ相手ならば、それはもう立ち上がるしかない。 「へえ、いずみん、面白いこと言うじゃねえか。見せてみろよ、お前の『魂』」 「もう、見てるよ」 見れば、泉の後ろには、他にも見覚えのある連中が揃っている。 H4-53、h5-455、h6-43、柊かがみ。 「何故、今更来た」 「言われっぱなしじゃ、面白くないんでな」 と、へいしさんが言う。 「もう、一つや二つのssで、変わる状況じゃない」 「そう、それが変なんだよ、かがりさん、状況を変えるために、ss書いてる訳じゃないでしょ?」 こなたは、ようやく自分が、浅見篝と戦える魂を見つけたのに気づいていた。 「それでも、私はssを書く。だらだらと続く状況を断ち切るために。全てを終わらせるためにssを書く」 「それなら私は、『続ける』ためにssを書くよ。ううん、本当はそんな事関係ない」 何のためにssを書くのか? 「BBSを終わらせるとか、誰かの感想が欲しいとか、盛り上がりたいとか、誰が魂を持ってるとか持ってないとか、全部全部、本当は関係ないんだよ。かがりさんだって、元々そうだった筈でしょ? だから他人も、板の状況も関係なくssを書ける。そうじゃないの?」 「なんだと?」 「『ssを書くのが楽しいからssを書く』   そうでしょ?」 関係ない。 最初から、何も関係が無かったんだ。 何かのために書いてる訳じゃない。 ssは、ただそこにあった。 書くこと自体が、楽しいんだ、と。 そう信じられる。 「ss書いた事もない奴が、ずいぶん吹くじゃないか」 「篝さんは、どうしてみんなが集まって、ssまで書いてくれたと思ってるの?」 「私へのあてつけか?」 「みんなそんなに暇じゃないよ。私、みんなともう一度話して回ったんだ」 レイディアントシルバーガンのハイスコアを更新したあと、こなたは全員にもう一度会った。 へいしさんは言っていた。 「なんだよ、泉、もう俺は次の場所を見つけてる」 「でもそこには、こなかがは居ないんじゃないですか?」 「何が言いたい?」 「へいしさんが本当のss書きなら、ただ誰かに褒められたいだけじゃないなら、こなかがを好きになってssを書いた時、こなかがを書くからこそ得られる楽しさがあった筈です。違いますか?」 へいしさんはこなたを睨んだ。 へいしさんはリアルでの職業で暴力団と関わりがある、という噂があった。そういう目だった。 それでも、こなたは目を逸らさない。 「お前は、俺に、一人で走ってる浅見の真似をしろって言う気か?」 「そうです。今、浅見さんは一人で走ってる。でもそれなら」  「みんなで一緒に、走りませんか?」 「そうすれば」「BBSが元に戻るとでも?」「いいえ」 こなたは断言する。 「きっと、楽しい」 へいしさんが鼻で笑う。 「それならまず、お前が走れ」 「もう走ってます」 「なに?」 こなたは、へいしに『自分の書いたss』を提出した。 へいしは困ったように苦笑して、頭を掻いた。 「お前、これ……そうか。。。書いてみてどうだった?」 「最高でした」 「たぶん、感想なんかろくにもらえないぞ」 「構いません」 ssを書くこと、それ自体が楽しいことだから。 まず、とにかく書くこと、それがきっと大事だから。 こなたは、ssを書いた。 浅見篝が、驚きを露にする。 「じゃあ、まさか……」 「そうだよ、眼鏡っ娘激ラブは私だよ。私、一時期メールアドレスこれにしてたし。かがりさんは、もう私の魂を見てるよ」 今日、最初に見た、ss。 ──私は、何と思った? 『拙い、短いss、しかし、こなかがを愛している事だけは分かる。 だが、遅すぎた。 いまさら、一人下手なss書きが増えたところでどうなる? どうせこれ一作で終わりの花火、板を変える事は出来ない』 「下手なss書きが、気まぐれで書いた一作だけのssで、板を変える事は出来ない、とでも思った? 篝さん」 「泉……」 「ねえ、ssは、BBSを変えなきゃいけないのかな。気まぐれで一作だけ書いちゃ駄目なのかな。仮にそうだとしても、そんなルールに従って、ssを書く時はああじゃなきゃいけないとか、こうじゃなきゃいけないとか言うと、きっと誰もssを書けなくなる」 気まぐれで一作だけ書いてssを投下してもいい。 下手でも構わない。 短くても構わない。 感想がなくたっていいんだ。 今、すぐに書こう。 ただ、書くこと。 それだけで楽しいんだ。 不意に、BBSが更新される。 「なんだ?」 ここに居るメンバー以外の、かつてこなかがを書き、去っていった者達。 今までssを書かなかった見る専達。 そんな人々が、続々とBBSにssを投下していく! 「馬鹿な!?」 まるで、全盛期のBBSのような光景。 ありえない。 「何故……?」 「まだ気づかない? 篝さん」 「何をだ」  「こなかがBBSは、終わってなんかないんだよ」 「誰か一人でも魂を持つ限り、こなかがBBSは終わらない。でもこれには、篝さんの力もあるよ、篝さんが走り出したから、私も、みんなも、走ろうって思ったんだ」 「何のことだよ」 「篝さんはss書き始めると周りが見えなくなるし、ネットに接続しなくなるもんね。だから冬の寒い中にss投下するって決めたのに、投下する日を4月25日なんて言って、春にしちゃうほど時間がかかる」 「それがどうした?」 「私達に、時間を与えすぎたよ」 そう言って、こなたはこなかがBBSのトップページを示す。 そこには既にssのタイトルがこうあった。  『レイディアント・シルバーガン』 「まさか!? 私はまだ投下してないぞ!? 待て、これは?」 篝さんは、ある事に気づいた。 H6-43氏のレイディアント・シルバーガン 3- New! (レイディアント・シルバーガン 2の続き)※実在する人物、場所、団体とは関係ありません 『作者、h6-43』 それに気づいた篝さんがジミーさんを睨むと、それまで黙っていたジミーさんが口を開いた。 「俺達とお前の経緯をssにして、BBSに投下した」 「何故!」 「俺達の狭い人間関係の中でごちゃごちゃやるより、BBSの事はBBSに問えばいい、そう思ったから。まあ、思いついたのはそこにいる柊さんだけどな」 篝さんがかがみに目を向け、かがみは少し困った顔をした。 「いや、思いつきで言っただけなんだけど、思ったよりみんな乗り気になったというか……」 「さっすが、かがみん。私の嫁、って思ったよ!」 「誰がお前の嫁だ!」 こうしている内にも、次々とssが投下されていく。 拙くてもいい、一行でもいい。 ssがそこにあること。 そう、ssを書くこと、投下すること自体が、楽しいことの筈なんだ。 しり込みする必要はない。 下手かもしれないとか、恥ずかしいとか、思う必要もない。 「みんな、まだ、篝さんの意見には賛成しないってさ」 「私の意見?」 「『こなかがBBSを終わらせる』って奴。これを見たら、みんなの意見は分かるでしょ?」 みんなの想い。  『こなかがBBSは、終わらせない』 そのためにはただ、ssを投下すれば良い。 「あのね、篝さん」 しごこさんが、篝さんに語りかける。 「私、感想を貰えないのがずっと怖かった。篝さんから見れば、私なんて弱い、馬鹿な子に見えるんだと思うけど……」 「んなこたねぇよ、被害妄想だ。そういう風に何でも悪く考えるから、感想のことで悩む羽目になる。あんたは評判のいいss書きだったし、私もあんたの事は嫌いじゃねえ」 「ふふ、ありがと、こうやって直接聞けたら、何でもないことなのにね」 ずっとずっと、他人も、板も、篝さんも怖かった。 「私ね、気づいたの」 「何に?」 「感想欲しい欲しいって言いながら、私、誰かのssに感想書いたことなかったな、って」 自分はss書きだから、感想書かなくてもいいとか。 感想に何を書いていいか分からないとか。 本当に感動した時だけ感想を書けばいいとか。 「全部、私にとっては言い訳だったんだな、って」 ssを書くのは、感想書くよりずっと大変だって知ってたのに。 GJの二文字さえ書くのを怖がって。 そのくせ、板が盛り上がらない、とか嘆いてた。 「何でもいいから、感想書けばいいんだ、って。そこからしか始まらないって、分かった」 「いいんじゃねえか?」 そう言って、篝さんが柔らかく笑った。 その目は、PC画面の向こうのこなかがBBS、更にその向こうにいる人々を見ているようだった。 更新ボタンを押すたびに感想が、ssが、続々と現れスレを埋めていく。 まるで祭りだ。 篝さんはその祭りを愛しそうに眺めている。 「みんな楽しそうじゃねえか。455もさ、始まるとか始まらないとかじゃなくてさ、楽しめよ。感想書くのを楽しめばいい」 「篝さん……」 「私は、今日はss落とすのやめとくわ。『レイディアント・シルバーガン』は封印だ。タイトルかぶっちまうしな」 そう言って笑ってみせる篝さんは、思いつめた様子が消え、憑き物が落ちたみたいだった。  「魂、見せて貰ったぜ」 その私達の魂の結晶は、したらばスレを流れていく。 永遠に続くかはわからない。でもまだそこにある魂の灯火。 私は信じたい。 信じさせて欲しい。 この世界に永遠に続くものが一つもなく、一瞬だけ楽しんで早々に忘れられるものばかりなら、私達の人生で真に真剣なものや深刻なものは存在せず、人間も動物も何も変わりはしないんだ。 どれだけ愚かで無駄で下らなくても、世界中に笑われても、それでも私は私が楽しいと信じたこの時間に価値があると信じたい。 だから私は、信じるために呟いた。 「こなかがは、永遠に不滅だよ」        ……… 全ては終わったのか? いや、そうではない。 私にとって凄く大事な問題が残っている。 「あのさ」 かがみと二人きり。 篝さんの家からの帰り道。 「なによ、こなた」 「投下されたSSの中に、眼鏡っこ激ラブの書いたSSの、かがり視点、みたいなSSあったじゃん」 「あったわね」 名無しでいいです、というコテハンの書いたSS。 あれは明らかに、私のSSを知っていた誰かが書いたSSだ。 私は、意を決して聞く。 「あれ書いたの、かがみ?」 「そうだ、って言ったら、何なの?」 「何で、書いたの?」 「そりゃ、あんだけみんなが頑張って、こなたまでSS書いてるのに、私だけ知らん振りなんて無理じゃない?」 「じゃあさ……」 あのSSに書かれていた内容……。 『素直になれば、何か良いことあるかもよ?』 「あのSSに書かれてる内容は、本当なのかな?」 「さあ? どう思う?」 「そうだね……」 こなみはかがりのことが好きだけど、言い出せなくてごまかしてしまう。 かがりはこなみのことが好きだけど、こなみが素直になるのを待っている。 そんな、一組のSSになっていた。 「質問を変えていい? かがみ?」 「どうぞ」 恋心なんて狂気みたいな一瞬の幻で無意味とか、若いとか青臭いとか中二とか、一瞬の情熱を否定するための言葉は幾らでもある。 でも。 そういうの、聞き飽きたんだ。 私は私の一瞬の『熱』を、魂を信じたい。 それが信じられないなら、何を信じて生きていくのか分からないから。 同性とか若いとか将来とかそういう山積みの問題を吹き飛ばして、どこまでも戦って戦って、勝ち取らなければ、永遠は手に入らない。 だから、一度だけ、素直になってみる。 本当に素直な問いを、かがみにぶつける。 時間が私達から情熱や仲間や誇りを奪い去るとしても、それでも抵抗し続ける魂が人間にあると私は信じる、信じたい。 だから私は不意の想いに打たれて、かがみと、世界の全てに、同時に問うように言うんだ。 今から、みんなに、世界のすべてに、そしてかがみに……問うよ。   「私のこと、愛してる?」  爆発……なんてね。 [[前 レイディアント・シルバーガン 3>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1265.html]] **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - ありがとう。 -- 名無しさん (2020-01-21 21:09:50) - GJ! -- 名無しさん (2017-04-21 17:04:31) - Progress. -- 名無しさん (2010-05-01 14:35:39) - >>貴方のおかげで、このssは生まれました。少しでも楽しんでいただけたら幸いです! &br() &br() &br()>>いつまでも好きでいられると、信じたいです。でも、無理に好きでい続けるものでもないし、ただ篝さんのような異常さを持つときだけ、好きでい続けられるのかもしれません。でも、それでも、私も、こなかがを大切にしていきたいです! 私も、愛してます!! &br()あと、言い忘れてたんですけども、保管してくれた方、ありがとうございます。大変保管しにくい形式で、板で見ないと意味わからないな、とずっと思ってて、それをこんな形で保管してくれて、本当にありがとうございます。そういう意味も含めて、このssに関わった全ての人に感謝します。ありがとうございました! -- h6-43 (2010-04-30 01:04:38) - 凄く感動しました! &br() &br() &br()それにこのssを読めたことに感謝です! &br() &br() &br()流行っていた物がやがて衰退していく…。 &br() &br() &br()でも本当に好きな物ならいつまでも好きでいられますよね!! &br() &br() &br()私も自分が好きになった物は大切にしていきたいです! &br() &br() &br()私も愛してます!!! -- こなかが好きの一人 (2010-04-30 00:38:21) - こんな綺麗に完結するなんて…なんて素晴らしい! &br()静かに4/25を待っていましたが &br()心情的にすごくすっきりさせて頂きました。 &br() &br() &br()銀銃を薦めてしまったばかりにH6-43氏に &br()変なプレッシャーを与えてしまったのでは無いだろうかとか &br()色々考えた時期もありましたが、 &br()『3rd』を嗜み、『銀銃』を薦めた者として &br()リアルタイムでこのSSが完成していく様を &br()見守る事が出来、(変な言い方ですが)とても誇らしく思っています。 &br() &br() &br()僭越ながら私も書かせて頂きましょう。 &br() &br() &br()『俺も愛してる!!』 -- 名無しさん (2010-04-29 13:16:29) - 続きです! &br()>>仰る通り、浅見篝という名は、斑鳩から取りました。斑鳩は最高のSTGの一つだと思います! &br()>>このssで初書き込みをしてもらえたのは、本当に嬉しいです。そして、もしも書き込むことの楽しさや喜びを知って頂けたら、もっと嬉しいです。少しでも、らきすたや、こなかがを好きになってもらえて、そして魂が届けば、これ以上に嬉しいことはありません。ありがとうございました! &br() &br() &br()そして、保管庫感想へ! &br() &br() &br()>>もちろん、私も愛してる!! &br()>>そう!私も愛してる!! このSSに関しては、俺も愛してる!! で十分じゃないでしょうか。だって、感想の欄に、俺も、俺も愛してる!! 俺も俺も!! ってコメントが並んだら、それは作者として最高に嬉しいです。 &br() &br() &br()すべてのこなかがの先人と原作者、そして銀銃はどうですかと言ってくれた人に感謝します。ありがとうございました。 -- H6-43 (2010-04-28 21:36:56) - 悩みに悩みましたが、感想に返信があった方が嬉しいかな、と思い、全レス返信します。尊敬するこなかが4コマ絵師さまが頻繁に返信していましたし、ここなら迷惑にならないと思うので! &br()まずは、BBSの感想から! &br() &br() &br()>>こちらこそ、読んで頂いてありがとう!! &br()>>大仕掛けで、あの頃の夢よもう一度! そんな感じでした。 &br()>>現実とのリンクは、ほんと危ない危ないと思いながら書いていました。少しでも楽しんで頂けたなら光栄です。望外の言葉を頂いて、本当にありがとうございます。 &br()どんな世界でも、似たような問題はありますよね。私も篝さんのように書きたいものを書くようにしたいとは思っているのです。貴方のssの凍結が解けるのを、楽しみに待っていますね。こちらこそありがとうございました! -- H6-43 (2010-04-28 21:35:19) - そうさ!俺も愛してるっ!! スミマセン、色々いっぱいいっぱいで &br()、今はこれしか言えません。GJ!!! -- kk (2010-04-28 20:20:40) - もちろん愛してるさっ!! -- 名無しさん (2010-04-28 14:41:25) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(18)

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