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レイディアント・シルバーガン 3」(2022/06/30 (木) 03:41:33) の最新版変更点

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磨き上げられた清潔な病院の廊下からは、硬い、非人間的な感触がした。 どこでも清潔で、明るく、消毒の匂いがする廊下、人工的な空間。 冷たい音をたててを歩きながら、私は病気がちだったという母のことを、一瞬だけ想起した。 死んで行ったもの、死に行くものはいつだって美しい。 倒れた篝さんは無事なのか。 私は、人間が、私の母のようにあっさり死ぬことを知っている。昨日まで元気だったのに、急に……。 だが生きている私達ときたら、命を助ける消毒の匂いすら、嫌なものだと思ってしまう、やれやれ、だぜ。 篝さんが倒れて病院に運ばれた、という情報だけで、どんな病気なのか、何があったのか、私は知らない たどり着いた治療室の前には困り顔の初老の人が居て、篝さんの母親かと思いきや、その人はアパートの管理人だった。 「あなたは?」 「浅見篝の親友です」 「ごめんなさいね、浅見さんの手帳に書いてあった電話番号、貴方しかなかったから……」 そういえば、私は学校での篝さんを知らない。 「いきなりアパートで倒れてねえ、一緒に救急車に乗ったけれど、家族と連絡が取れないのよ。貴方、浅見さんのお友達よね? ご家族の連絡先は分かる?」  私は首を振り答えるしかなかった。 「残念ながら……」  篝さんのことを、私は余り知らない。 「困ったわね」 私達の間にきまずい沈黙が下りた。私は年の離れたアパート管理人と話すべき話題を持ち合わせていない。なんせおたくだから、一般的コミュニケーション能力など皆無なのだ。 「根を詰めて何かやってたけど、倒れちゃうなんてねえ……ご家族の連絡先も分からないし、若いのにこんな風で……あの子と、仲良くしてあげてね」 管理人さんは、まったくの他人である篝さんを哀れんでいるようだった。 礼儀正しい優しさ、私は管理人さんに好感を抱いた。 そこからは沈黙も気まずくはなくなり、やがて病室の扉が開き、出てきた篝さんは私を見て、ニッ、と笑った。 「来てたのか、いずみん」 「篝さん、心配しましたよ」 「大丈夫なんですか?」 篝さんが真剣な顔をした。 「聞いて驚くなよ、私の病気は──」  「過労だ」 篝さんが噴出すように笑う。 「いやー、びっくりしたの何の、サラリーマンでもないのに、まさかこの年で過労で倒れるとは思わなかったよ。こなかがのために倒れたとあったら、本望ではあるけどな!」 私がそんな事を言う篝さんに何も言えずに呆然としていると、いきなり管理人さんが立ち上がり、篝さんを怒鳴りつけたつけた。 「こんなお友達にまで心配させて、そんな事しか言えないの! 少しは、反省なさいな!」 管理人さんの声は静かな病院によく通り、清潔な床に反響した。篝さんはまったくの他人にいきなり叱られて、やや面食らったようだった。  でもすぐに真面目な顔になって、頭を下げてから篝さんは言った。 「心配かけてすいませんでした。泉も……。でも私は、これしかない、と思うことを今やってるから、やめないし、後悔しない。だから、倒れないようにだけは気をつけます、今後」 「だけって……」 「ほんと、悪いと思うけど、私にはこれしかないから」  篝さんにふざけた様子はない。  下げた頭をあげて見れば、そこにあるのはどこまでも真っ直ぐな眼だ。  管理人さんは、もうそれ以上は何も言わず、無事も確認できたので、仕事もあるので帰ると言った。  私たちに止める理由はない。  そして帰る前に、管理人さんは私に尋ねた。 「あの子、何にそんなに打ち込んでるの?」  私は、ssです、などとはとても言えなかった。    『レイディアント・シルバーガン』 病院の外に出ると、夜の風が私達を歓迎する。心底から冷える冬の夜の風だ。そんなに歓迎するなよ、人気者って辛い、具体的には軽装で来たのが悔やまれる。 「上着貸してやるよ」 「え、でも」 「私がぶっ倒れたせいで急いで来たんだろ、ほら」 強引に着せられた上着からは、篝さんの匂いがした。 夜風にポニーテールをなびかせた篝さんは、だいぶ痩せたその横顔で、どこか遠くを見ているようだった。 私は、篝さんを止めないと、と思う。 「篝さん、ゲームは作り終わったのに、倒れるほど何してたの?」 うーん、と困ったように唸りながら、篝さんは空き缶を拾って駐車場脇のゴミ箱へ投げた、見事なホールインワン。 「私、思ったんだけどさ、みんな、そんなに時間割けないと思うんだ。ゲーム作るのって、やっぱ時間がかかるから。だからもうちょっと手軽で、流行って、なんかいいものないかなーって、思ってね」 「見つけたの?」 私の声はきっと、私たちに吹き付ける風よりも低い温度だっただろう。 だって、この人は……まだ気づかないのか? 嬉しそうに語る篝さんの声色は、私の気を滅入らせた。 「動画が流行ってるじゃん。ニヨニヨ動画。今、とりあえず有名ジャンルの動画作っててさ、そこで得た技術をこなかがに還元すれば、またこなかが動画が増えると思うんだよね。結局、立ち絵素材が豊富だから、ニヨニヨの動画も流行ってると思うんだけど、ほら、板に投下されてる、今日の小なみ、とかあるじゃん、あれを動画にしてアップするとかさ。なんとかこなかがを盛り上げて」「篝さん」 私は、体を壊すほどの篝さんの愚かさが、まったくの無意味だと篝さんに告げなければいけない、と思った。 いい加減、眼を覚ますべきなんだ。我々は。 「もう、こなかがは終わりなんだよ、動画なんか作ったって、誰も見ないし、誰もついてこない。篝さんは幻影を追いかけてるだけで、現実がぜんぜん見えてないよ。もう十分、こなかがはその役目を終えたのに」 こなかがは、その役割を終えた。 それが真実じゃないのか? 篝さんはそんな私の言葉を聞きながら、夜の病院の駐車場のさらに向こう、車道を流れる車のランプを見ていた。光の河、遠い場所を見る表情のままで、篝さんは私に言った。 「終わりってのは……誰が決めるんだ?」 熱のある、声だった。 「そんなの、もう、誰がどうみても終わってるじゃん、理屈じゃなく」 「終わってない。全然、終わってないよ」 篝さんが私の方を振り返ると、その眼には狂気に近い光が宿っている。 「私が終わらせない、私はまだ、すべてをやり尽くしてない、手はまだある。私たちには、やり残したことがある」 「動画なんか作ったって、誰か参加すると思ってるの!? ゲームだって誰も参加しなかった、動画だって同じだよ、無駄だよ、『流れは止められない』!!」 「動画や、ゲームや、楽しいことをしてれば人は集まってくる。動けば、走れば、人はついてくる」 「冷静に周りを見てよ、篝さん」 私は、狂気に満ちた篝さんの目を見返した。 「走ってるのはもう、篝さんだけだよ」 私の言葉が夜の風に流されて消えるまで、篝さんは黙っていた。 やがて篝さんは、シルバーガンの台詞だけを呟く。 「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」 いきなり、篝さんは私に背を向けた。 「篝さん!」 「私には、まだ道が見えてる。動画ジャンルはまだ流行ってる、そこにはまだ、熱を持った奴等がいるんだと、信じたい」 篝さんは夜の暗がりに消えた。 ──私的代弁者:「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ」  ………  数日が過ぎ、かがみの部屋。  私が篝さんとのことをかがみに話すと、かがみは少し首を傾げて私に言った。 「それはもう、止まるまで放っておくしかないんじゃないか?」  かがみの言うように、話して止まるような雰囲気ではなかった。 「う、暴走してるような感じだし、たしかに」  うーん、とかがみは迷ったように呟く。 「でもまあ、ss書く人も減ったわよねえ」  こなかが人口自体が激減している。  いや、でも同人誌を書く人や、ファン自体はまだまだ居る気がするし、そこまで残った人なら、そう簡単にはこなかがを捨てない筈だ。  それなのに、そういう人はBBSには寄り付かない、しかし、何故? 「そりゃあ、サイトなりなんなりで書けば安全だけど、BBSって変なことになったりするじゃない。面倒な事態が持ち上がったりさ。それに、ここまで人が減ったら、BBSでやってもサイトでやっても客の数変わらなくない?」 「うーむ、確かに。まさに終焉だよ……なのに篝さんは、どうしてそれが分からないんだろう?」  人の話なんか聞きやしない。 「でもさ、こなた、篝さんは何かいろいろやってるけど、私たちって何もしてないじゃない? そういう人間が止めたって、説得力がないんじゃないかな。ただ外野から、古いジャンルにしがみついて、って馬鹿にしてるのと、一緒にならない?」 「う、かがみ厳しいね」 「法学部志望だから、公平じゃないといけないからね」 確かにそうだ、私は口だけで篝さんを否定する人になっていた、よくある漫画で出てくる悪役と一緒。 いまどきそんな事してるなんてありえなーい、とかいうやつ。  そうなっているという自覚がしかも、かがみに指摘されるまでなかった。暴走している篝さんを止める、という大義名分のせいで。 「なに本気で凹んでるの?」 「反省してるのだよ、かがみん」 かがみはアホ毛が萎れた私にどこまでもクールに言う。 「そういうの、似合わないわよ」 「反省が似合わないって、考えなしの馬鹿じゃん、それじゃあ」 「あら、違うの?」 「ほんと厳しいね、かがみん」 「優しくしてほしい訳?」 「いや、猫撫で声のかがみんとか若干気持ち悪い、金魚相手の時のかがみんとか」 「殺す」 ぎゃーぎゃーとかがみと話しながら、私はふと、こなかが全盛時代のss書きの人々はどうしているのだろう、と思った。 「メッセのアドレスは登録しっぱなしなんだし、話してみればいいんじゃない? 最近は話してないけども」 「うん、なんでこなかがを書かなくなったのか、とか聞いてみる」 私は、サインインしていた、かつてのこなかがss書きの一人、シゴ子さんに話を聞いてみることにした。避難所の番号が、H5-455だからこういう名前、だそうな。 「こなかがssを、書かなくなった理由?」 455さんは、聞けば簡単に教えてくれた。 「感想が、少なくなっていったから……かな」 シンプルな理由。 「こんな事を言ったらね、いろんな人に怒られたんだ。見る専にも、ss書きにも」 感想乞食、感想は強制するものではない、私はGJだけでも十分、欲張りすぎ、etc……。 「たぶん、私が弱いから悪いんだとは思うんだ……でもね、自分の書いたものに自信がある訳じゃないし、『感想がかえってこないと、人格自体を否定されている』ような気になっちゃうの。もちろん、そんな風に思っちゃだめってわかってる。でも無理なの、ほかの人はたくさん感想貰ってたり、『熱』のある感想を貰ってるのに、自分のssだけ、GJが二回だけだったりとかするとね、心が折れちゃうの、ポキン、って」 「それは、他人と比べちゃうってこと?」 「だってそりゃ、比べちゃうよ、どうしても……。自分のssの感想はあんなだけど、他の人の感想はあんなだったとか、すごく、凄く気になるよ。ss書くのってとっても時間がかかるもの、凄くがんばって書いて、GJ一つで流されたら、すごく、すごく悲しい。だからまるで『悲しむためにss書いてる』みたいになっていって……書けなくなっちゃった」 素直な言葉、それだけに、私にとって455さんの言葉は重かった。 「篝さんは、感想なんて気にしないって言ってたけど……」 「そりゃあ、篝さんぐらい書けたら平気なのかもね。それにあのひとは、根拠があろうがなかろうが、自分に絶対の自信のある人だから……でも私はそうじゃない、『感想がほしいの』そう思うこと、言うことは、本当に悪いことなの?」 そして、今のこなかがBBSでは感想は貰えないという訳だ。 私は、やはり455さんの物言いには違和感を覚えたけど、その違和感の正体は分からなかった。 他のss書きにも話を聞いてみる。 H4ー53、へいしさん、と呼ばれているss書きに話を聞いてみた。 「こんだけ年月たったら、書きたいことだって書きつくすだろ、そりゃ」 へいしさんの物言いも、シンプルだった。 「俺がこなかがで書きたいものは全部書いた。だから書かなくなった。そりゃ、アイディアが浮かぶこともあるが、結局、BBSのルールじゃ『無茶』が出来ない」 「無茶?」 「こなみがスタンド能力に目覚めたり、巨大ロボットに乗ったりするようなssはノーサンキューだし、昔書いたちょっと黒い感じのssも、bbs的にはあんまりよくなかったりするだろ。それが悪い訳じゃないが、そういう窮屈な場所でいつまでも書かなきゃいけない理由はない。かがりが大学の法学部で水野蓉子と出会う、とかいうssが脳裏をよぎったりもするが、BBSとしては微妙だろ。だからこなかがBBSは、滅ぶべくして滅ぶというか、単純に役目を終えただけだ。俺はむしろ、そっとしておけよ、と篝に言いたいね」 「へいしさんの中では、こなかがBBSは終わってるってこと?」 「そうだ。『こなかがは書き尽くされた』もう研究され尽くしている。それでも続けるならオリジナル要素や、自由度を望むしかないが、BBSはそういう場所じゃない。こなみとかがりがいちゃいちゃしてて萌えるssが見たいなら、保管庫の中を探せばいい、『新しく書かれたものは、どこかでもう書かれたもの』だろ?」 本当に、そうかな? 過去と内容が被るからって、本当に意味がないのかな? でもへいしさんは、自分が正しいと信じて疑わないようだった。 私はメッセからサインアウトする。 「うーん、かがみん、時代はこなかがに厳しいねえ」 「厳しいっていうか、自然な流れって気がするけど……」 「感想がないと、悲しいし、辛い、かあ……」 「まあでも、普通の話よね」 私はかがみが好きだけど、それは何かの見返りのためなんだろうか。 確かに、かがみが私に冷たかったら、私は凄く凄く悲しい。 自分の存在を否定されているみたいに感じる。 でも、でも……。 それでも私は、かがみを嫌いにはなれないよ。 「こなた?」 ポッキーをくわえたまま首を傾げるかがみは可愛い。 何度だって言いたくなる、かがみは可愛い。 ……可愛い。 「感想だけが全てじゃない、そう思いたいけど……」 「まあでも、書くも書かないも自由だし、別にいいんじゃない? 感想が貰えないから書かないって、分かりやすくていいじゃない」 「うん……」 書くべきことは終わった。 そんな風に割り切れるものなのかな。 かがみから得られるものは終わった、とか思える時は、私には永遠に来ない気がする。 私はずっと、かがみが好きだから。 篝さんと同じく、私は愚かだ。 だけど篝さんと違うのは、同性同士の恋愛にかがみを巻き込まないように配慮できることだ。 好きだけでは、生きていけない。 それにもし、この想いを告げてかがみに拒絶されたら、私は耐えられない。 「こなた……」 不意に、どこか呆然とした様子でかがみが呟いた。 「どうしたの?」 「篝さんが、2chに晒されてる」 篝さんは、どこまでも愚者であることをやめない。 私は……。  ……… ──無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ!この金を生む業界は我々の為にあるのだ」 ──道理を理解する者:「あんた、正気なのか?自分のやっていることがわかってるのか?」 篝さんがニヨニヨ動画で晒されるようになった経緯は、理解不能な複雑怪奇なものだった。 とにかく、あらゆるところに悪意が溢れていた。 そして篝さんは、動画を作るのをやめた。 完全に、動画製作者を取り囲む政治的事情のせいらしかった。 「一度さ、ジミーさんもへいしさんもシゴ子さんもさ、全員で篝さんに会ったら? 篝さんが心配だし」 かがみはそう言う。 私達はかがみの提案に従い、篝さんを囲むオフ会、みたいな感じで集まることにした。 連絡をすれば篝さんは何事もなかったように、「お、私がこなかが動画を作るの、手伝ってくれるの?」とだけ答えて、私は……嫌な予感がした。   ……… 都内某所で集まった私達の間には、どこか微妙な空気が漂っていた。 こなかがはもう私達には関係がなく、そうなると──私達はどこまでも他人だから。 ただ、篝さんだけがその空気を読まなかった。 「みんな元気そうじゃん」 とパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、篝さんは言った。 「篝さんこそ、元気なの? だいぶ、晒されたみたいだけど」 「あー、あれね」 篝さんは、苦笑してみせた。 「なんつーかさ……時代に取り残されたのかな」 恥ずかしそうに頭を掻いた篝さんの目は、未だに濁らない。 「人気ジャンルだっつーから、魂を持つ人がいるんだろーな、って思ってたんよ。でもたぶん、魂なんて言ってんの、私だけだったんだな、って。みんなさ、麻雀やネトゲしてて、創作者の集まりでも創作の話しねーし、なんだろうな……」 巨大なジャンルに触れた筈の篝さんは、何故か疲れた顔をしていた。 「再生数が多いとさ、神みたいにあがめられるんだよ。私が作品の話をしたらさ、王様みたいにふんぞりかえってる奴が言うのさ、お前のしてほしい評価を言ってみろって。プロの作品としての評価か、同人としての評価か、個人の趣味としての評価か、って。もう質問の意図も態度もわかんねーけど、なんか傲慢な態度だったよ。だから私は事実として同人だから、同人としての評価を聞いたんだ」 「どうなりました?」 「句読点を多くしろ、ってさ。死ぬほど、どうでもいい批評だったよ。句読点で面白さの本質も魂も変わりゃしねえ、でもそのことより、そういう句読点みたいなどうでもいい評価をさ、周りの取り巻きみたいな奴らが『さすが、ためになる批評だねえ』って褒めそやすんだよ。タイトルのつけ方とか、紹介文の書き方とかさ、中身の話をしやがらねえ。ひたすら、外形の話、再生数を増やすための話しかしなかった……」 篝さんが、珍しくため息をついた。 「なんつーかな…………面白さって眼にみえねえから、眼に見える再生数の話しか信じないし、出来ない、そんな時代になっちまってたんだな……」 石のような物体は言った。見えないものが見え、聞こえないものが聞こえるのか、と。 篝さんは、疲れ切った声で言う。 「『人間は、物語の表面しか楽しめない』、熱い三流なら上等だ、って有名な麻雀漫画が言うだろ? でも実際、熱い人間に会ったら、その意味を忘れちまう。腹が立つのはさ、斑鳩の二次創作してるやつが、再生数多い奴に良いように言われてるんだよ。句読点男が、本当に作品を良くしたいなら、俺が指導してやる、とか、俺は元プロ的なことをやっていた、とか吹きまくってさ、みんなそれにひれ伏しちまう。句読点如きの話しか出来ない奴にだ。そうじゃない、斑鳩ってのはそうじゃねえだろ!? 何百万本売れようが、RPGなんて見向きもしない連中が作った、最高の魂を持ったSTGだろ!? 数じゃねえ、売れ行きじゃねえ、たとえプロに、神様のようにあがめられるプロに……大江だろうが富樫だろうが京極だろうが賀東だろうが、だ! 誰に文句を言われても曲げねえ、曲がらねえ! そんな意地と意志と魂だけが価値を持つんだ、それが信じられない人間に、斑鳩を語る資格はねえ!」 「ずいぶん、好き勝手吼えるじゃないか」 と、冷ややかな声を浴びせたのは、へいしさんだった。 「要はあれだろ? 動画の世界でちやほやされなかったから拗ねてるだけなんだろ? それで切れて、動画つくりもやめて愚痴か? 底が割れたな浅見篝」 「てめえみてえな下種と一緒にすんなよ」 かがりさんはパーカーのポケットに手を突っ込んだままへいしさんをにらみつけ、へいしさんは眼鏡の奥の目を、篝さんを侮蔑するように冷ややかに細めた。 侮蔑を恐れない、汚辱を恐れない、孤立を恐れない、だから、篝さんはへいしさんの侮蔑に全く怯まずに言った。 「私は、人を増やそうって数に頼る発想や、BBSを盛り上げようとか、そういう考えが誤っていたと知っただけだ。仮にもう一度、こなかがが人気ジャンルになったからって、何なんだ? その結果が生み出すものに、本当に価値があるのか? それをもう一度考える必要があるのを知った」 「はっ、言い訳乙。お前はさ、自分の慣れ親しんだこなかがBBSが盛り上がって、ちやほやされたいだけなんだろ? 誰もお前のssなんて待ってねーし、読まねーよ、誰も、お前なんて求めてない。『こなかがなんて、もう誰も求めてない』んだよ!!いい加減分かれ!」 ──正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」 人々は去った。 誰も、もうこなかがを待っていない。 管理人が去り、職人も去った。 全ては消え、ただこなかがBBSという荒野だけが残った。 その荒野の真ん中で──   ──篝さんは笑った。     「関係ねーよ」 理屈で負けて怯むなら、魂は要らない。篝さんだけが私たちの中で唯一、魂を持っていたのだ。 「こなかがはもう、時代じゃねーんだ、ってか。そうかもな。だがSTGが時代じゃなくなっても、それでもシルバーガンはそこにある。誰が求めてるとか、時代がどうとか、関係ねー、関係ねーよ。私は私のために、私の信じるもののためにssを書く。時代が読める賢いお前らにはわかんねーだろうが──私には、意地がある」 シルバーガンで、私達は石のような物体を倒せなかった。 そしてシルバーガンの結論は、かつて感動したゲームらしいゲームのクローンを再生産していくこと、だった。 井内ひろしは言っている。 これは始めから決まっていたこと… そう、幾度となく繰り返されていること… 時代にとり残された私にできることは… 再びゲームを再生させること… そう幾度となく繰り返されていること… 私はゲームがゲームらしかった頃のクローンを作る… ゲームがゲームらしく生き残るために… 長い時間をかけて、再び創造空間は発展していくだろう… そして我々が同じあやまち(切り捨て文化の道)を繰り返さないように、祈りたい… 同じ志を持っている数少ない経営者、販売者、開発者、ゲームプレイヤー達に祝福を… 「シルバーガンの結論じゃ、石のような物体は倒せなかった。斑鳩で石のような物体を倒せたのは、死と引き換えだ。一度、ゲームは死ななきゃならない。こなかがBBSも同じだ……。新しく、仕切りなおさなきゃいけない、だから」 篝さんは言った。  「私が、こなかがBBSを終わらせる」 へいしさんが鼻で笑った。 「何言ってんだお前、薬でもやってんのか? さっきから一人で盛り上がって、痛いんだよ!! いい加減現実を見ろメンヘラが!!」 「なんだそりゃ、やっすい言葉だな」 篝さんに、へいしさんの言葉は響かない。 『熱』のない言葉では、篝さんには届かないのだ。 「私達が自由を見れるかどうか、もうすぐ分かる。4月25日、私は私にとって終わりのssを書く。こなかがBBSを終わらせるためのssだ」 「うぬぼれんな、お前が百万本ssかいたって、何一つ終わりはしない」 「タイトルは決まってる、この状況ならこれしかないだろ? このタイトルしかない。全てを終わらせるss、そのタイトルだ」 いいから聞け、と、篝さんは言った。  「レイディアント・シルバーガン」 そうだ、篝さんならそうする、そのタイトルをつける。限りなく特別なSTG、しかし。 「私は、帰る」 「はあ?集まったばかりだぞ!」 「あんたら、私と話すことなんかあるのか? 私にはもう、私の意地と魂しか関係がない。だから、あんたらと話す意味はない」 「篝さん!」 それは、間違っている。一人になっては駄目なんだ。どんな時でも。 「いずみん、私を止めたきゃ、魂を示せよ、それしか、道はない」 「篝さん!待って!」 篝さんは、一度も振り返らない、立ち止まらない。 あとにはただ、取り残された者達だけがいた。 「ほんと、痛い奴は困る。自己陶酔のナルシス」「ねえ」 へいしさんを遮るように、それまで黙っていたかがみが口を開いた。  「みんな、このままでいいの?」 「はあ?別に浅見が何書こうが知ったことじゃねえよ。それより、これからカラオケに」「本当に?」 かがみは、もう一度、『みんな』に問う。  「『みんな、本当に、こなかがBBSがこのままで、いいの?』」 かがみの問いに、一瞬、全員が沈黙した。 全員、かつてこなかがを、こなかがbbsを、愛した人だったからだ。 「篝さんは、4月25日に、最後のssを投下するって言ってるけど、その日に、何かできることがあるんじゃないかなって」 「柊」 と、へいしさんがかがみの言葉を遮った。 「お前らは、見る専だから気軽に言うんだ。『俺たちはもう、他の楽しいことを見つけてる』。こなかがに割く時間はない」 455さんが目を逸らす。 「篝さんと被って、感想が貰えないと、悲しいから……」 ジミーさんは天を仰いだ。 「もう何も思いつかない、こなかがは書けんよ」 「そう……なら、仕方ないね」 所詮、ネットの片隅の出来事。 こんな下らないことで大騒ぎして、私たちは愚かだ。 たとえば、高校時代の青臭い勘違い。 仲のよい同性の女の子を好きになったこと。 時が過ぎれば、綺麗な思い出に変わる。  本当に? 「こなた?」 「ちょっと、頭を冷やしてくる」 私は休日の街中を歩き出す。 篝さんは、4月25日に終わりのssを投下するという。 私たちにできることは……。 終わらないと示すためにssを投下する? だが、誰もそんなことはしない。もう、こなかがは終わっている。 私は最後の決断をするために、ゲームセンターに向かった。  レイディアントシルバーガンをするために……。 [[前 レイディアント・シルバーガン 2>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1262.html]] **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 私は2010年になってかららきすたを知り、今日初めてココに来ました。 &br() &br()どのSSも愛情に溢れていて、おかげで、かがみとこなたを原作以上に好きになりました。 &br() &br() &br()本当に良いものを読ませて貰いました。感謝です。 -- 名無しさん (2010-03-27 13:28:45) - この作品に書かれていることは限りなく現実に近いのですよね・・・ &br()かつては共に楽しんだやつらもここにはいない・・・ &br()作者様はこの状況に区切りをつけるおつもりなのですね・・・ &br()4月25日・・・ &br()頑張って下さい。 &br() -- 白夜 (2010-03-25 01:23:07) - オリキャラだけども個人的には篝さんかなり好きかも &br()ていうか続きがめっちゃ気になる -- 名無しさん (2010-03-23 23:05:44) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(4)
磨き上げられた清潔な病院の廊下からは、硬い、非人間的な感触がした。 どこでも清潔で、明るく、消毒の匂いがする廊下、人工的な空間。 冷たい音をたててを歩きながら、私は病気がちだったという母のことを、一瞬だけ想起した。 死んで行ったもの、死に行くものはいつだって美しい。 倒れた篝さんは無事なのか。 私は、人間が、私の母のようにあっさり死ぬことを知っている。昨日まで元気だったのに、急に……。 だが生きている私達ときたら、命を助ける消毒の匂いすら、嫌なものだと思ってしまう、やれやれ、だぜ。 篝さんが倒れて病院に運ばれた、という情報だけで、どんな病気なのか、何があったのか、私は知らない たどり着いた治療室の前には困り顔の初老の人が居て、篝さんの母親かと思いきや、その人はアパートの管理人だった。 「あなたは?」 「浅見篝の親友です」 「ごめんなさいね、浅見さんの手帳に書いてあった電話番号、貴方しかなかったから……」 そういえば、私は学校での篝さんを知らない。 「いきなりアパートで倒れてねえ、一緒に救急車に乗ったけれど、家族と連絡が取れないのよ。貴方、浅見さんのお友達よね? ご家族の連絡先は分かる?」  私は首を振り答えるしかなかった。 「残念ながら……」  篝さんのことを、私は余り知らない。 「困ったわね」 私達の間にきまずい沈黙が下りた。私は年の離れたアパート管理人と話すべき話題を持ち合わせていない。なんせおたくだから、一般的コミュニケーション能力など皆無なのだ。 「根を詰めて何かやってたけど、倒れちゃうなんてねえ……ご家族の連絡先も分からないし、若いのにこんな風で……あの子と、仲良くしてあげてね」 管理人さんは、まったくの他人である篝さんを哀れんでいるようだった。 礼儀正しい優しさ、私は管理人さんに好感を抱いた。 そこからは沈黙も気まずくはなくなり、やがて病室の扉が開き、出てきた篝さんは私を見て、ニッ、と笑った。 「来てたのか、いずみん」 「篝さん、心配しましたよ」 「大丈夫なんですか?」 篝さんが真剣な顔をした。 「聞いて驚くなよ、私の病気は──」  「過労だ」 篝さんが噴出すように笑う。 「いやー、びっくりしたの何の、サラリーマンでもないのに、まさかこの年で過労で倒れるとは思わなかったよ。こなかがのために倒れたとあったら、本望ではあるけどな!」 私がそんな事を言う篝さんに何も言えずに呆然としていると、いきなり管理人さんが立ち上がり、篝さんを怒鳴りつけたつけた。 「こんなお友達にまで心配させて、そんな事しか言えないの! 少しは、反省なさいな!」 管理人さんの声は静かな病院によく通り、清潔な床に反響した。篝さんはまったくの他人にいきなり叱られて、やや面食らったようだった。  でもすぐに真面目な顔になって、頭を下げてから篝さんは言った。 「心配かけてすいませんでした。泉も……。でも私は、これしかない、と思うことを今やってるから、やめないし、後悔しない。だから、倒れないようにだけは気をつけます、今後」 「だけって……」 「ほんと、悪いと思うけど、私にはこれしかないから」  篝さんにふざけた様子はない。  下げた頭をあげて見れば、そこにあるのはどこまでも真っ直ぐな眼だ。  管理人さんは、もうそれ以上は何も言わず、無事も確認できたので、仕事もあるので帰ると言った。  私たちに止める理由はない。  そして帰る前に、管理人さんは私に尋ねた。 「あの子、何にそんなに打ち込んでるの?」  私は、ssです、などとはとても言えなかった。    『レイディアント・シルバーガン』 病院の外に出ると、夜の風が私達を歓迎する。心底から冷える冬の夜の風だ。そんなに歓迎するなよ、人気者って辛い、具体的には軽装で来たのが悔やまれる。 「上着貸してやるよ」 「え、でも」 「私がぶっ倒れたせいで急いで来たんだろ、ほら」 強引に着せられた上着からは、篝さんの匂いがした。 夜風にポニーテールをなびかせた篝さんは、だいぶ痩せたその横顔で、どこか遠くを見ているようだった。 私は、篝さんを止めないと、と思う。 「篝さん、ゲームは作り終わったのに、倒れるほど何してたの?」 うーん、と困ったように唸りながら、篝さんは空き缶を拾って駐車場脇のゴミ箱へ投げた、見事なホールインワン。 「私、思ったんだけどさ、みんな、そんなに時間割けないと思うんだ。ゲーム作るのって、やっぱ時間がかかるから。だからもうちょっと手軽で、流行って、なんかいいものないかなーって、思ってね」 「見つけたの?」 私の声はきっと、私たちに吹き付ける風よりも低い温度だっただろう。 だって、この人は……まだ気づかないのか? 嬉しそうに語る篝さんの声色は、私の気を滅入らせた。 「動画が流行ってるじゃん。ニヨニヨ動画。今、とりあえず有名ジャンルの動画作っててさ、そこで得た技術をこなかがに還元すれば、またこなかが動画が増えると思うんだよね。結局、立ち絵素材が豊富だから、ニヨニヨの動画も流行ってると思うんだけど、ほら、板に投下されてる、今日の小なみ、とかあるじゃん、あれを動画にしてアップするとかさ。なんとかこなかがを盛り上げて」「篝さん」 私は、体を壊すほどの篝さんの愚かさが、まったくの無意味だと篝さんに告げなければいけない、と思った。 いい加減、眼を覚ますべきなんだ。我々は。 「もう、こなかがは終わりなんだよ、動画なんか作ったって、誰も見ないし、誰もついてこない。篝さんは幻影を追いかけてるだけで、現実がぜんぜん見えてないよ。もう十分、こなかがはその役目を終えたのに」 こなかがは、その役割を終えた。 それが真実じゃないのか? 篝さんはそんな私の言葉を聞きながら、夜の病院の駐車場のさらに向こう、車道を流れる車のランプを見ていた。光の河、遠い場所を見る表情のままで、篝さんは私に言った。 「終わりってのは……誰が決めるんだ?」 熱のある、声だった。 「そんなの、もう、誰がどうみても終わってるじゃん、理屈じゃなく」 「終わってない。全然、終わってないよ」 篝さんが私の方を振り返ると、その眼には狂気に近い光が宿っている。 「私が終わらせない、私はまだ、すべてをやり尽くしてない、手はまだある。私たちには、やり残したことがある」 「動画なんか作ったって、誰か参加すると思ってるの!? ゲームだって誰も参加しなかった、動画だって同じだよ、無駄だよ、『流れは止められない』!!」 「動画や、ゲームや、楽しいことをしてれば人は集まってくる。動けば、走れば、人はついてくる」 「冷静に周りを見てよ、篝さん」 私は、狂気に満ちた篝さんの目を見返した。 「走ってるのはもう、篝さんだけだよ」 私の言葉が夜の風に流されて消えるまで、篝さんは黙っていた。 やがて篝さんは、シルバーガンの台詞だけを呟く。 「しかし、世の中が移り変わっていっても…変わらないものが一つだけあるはずだ」 いきなり、篝さんは私に背を向けた。 「篝さん!」 「私には、まだ道が見えてる。動画ジャンルはまだ流行ってる、そこにはまだ、熱を持った奴等がいるんだと、信じたい」 篝さんは夜の暗がりに消えた。 ──私的代弁者:「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ」  ………  数日が過ぎ、かがみの部屋。  私が篝さんとのことをかがみに話すと、かがみは少し首を傾げて私に言った。 「それはもう、止まるまで放っておくしかないんじゃないか?」  かがみの言うように、話して止まるような雰囲気ではなかった。 「う、暴走してるような感じだし、たしかに」  うーん、とかがみは迷ったように呟く。 「でもまあ、ss書く人も減ったわよねえ」  こなかが人口自体が激減している。  いや、でも同人誌を書く人や、ファン自体はまだまだ居る気がするし、そこまで残った人なら、そう簡単にはこなかがを捨てない筈だ。  それなのに、そういう人はBBSには寄り付かない、しかし、何故? 「そりゃあ、サイトなりなんなりで書けば安全だけど、BBSって変なことになったりするじゃない。面倒な事態が持ち上がったりさ。それに、ここまで人が減ったら、BBSでやってもサイトでやっても客の数変わらなくない?」 「うーむ、確かに。まさに終焉だよ……なのに篝さんは、どうしてそれが分からないんだろう?」  人の話なんか聞きやしない。 「でもさ、こなた、篝さんは何かいろいろやってるけど、私たちって何もしてないじゃない? そういう人間が止めたって、説得力がないんじゃないかな。ただ外野から、古いジャンルにしがみついて、って馬鹿にしてるのと、一緒にならない?」 「う、かがみ厳しいね」 「法学部志望だから、公平じゃないといけないからね」 確かにそうだ、私は口だけで篝さんを否定する人になっていた、よくある漫画で出てくる悪役と一緒。 いまどきそんな事してるなんてありえなーい、とかいうやつ。  そうなっているという自覚がしかも、かがみに指摘されるまでなかった。暴走している篝さんを止める、という大義名分のせいで。 「なに本気で凹んでるの?」 「反省してるのだよ、かがみん」 かがみはアホ毛が萎れた私にどこまでもクールに言う。 「そういうの、似合わないわよ」 「反省が似合わないって、考えなしの馬鹿じゃん、それじゃあ」 「あら、違うの?」 「ほんと厳しいね、かがみん」 「優しくしてほしい訳?」 「いや、猫撫で声のかがみんとか若干気持ち悪い、金魚相手の時のかがみんとか」 「殺す」 ぎゃーぎゃーとかがみと話しながら、私はふと、こなかが全盛時代のss書きの人々はどうしているのだろう、と思った。 「メッセのアドレスは登録しっぱなしなんだし、話してみればいいんじゃない? 最近は話してないけども」 「うん、なんでこなかがを書かなくなったのか、とか聞いてみる」 私は、サインインしていた、かつてのこなかがss書きの一人、シゴ子さんに話を聞いてみることにした。避難所の番号が、H5-455だからこういう名前、だそうな。 「こなかがssを、書かなくなった理由?」 455さんは、聞けば簡単に教えてくれた。 「感想が、少なくなっていったから……かな」 シンプルな理由。 「こんな事を言ったらね、いろんな人に怒られたんだ。見る専にも、ss書きにも」 感想乞食、感想は強制するものではない、私はGJだけでも十分、欲張りすぎ、etc……。 「たぶん、私が弱いから悪いんだとは思うんだ……でもね、自分の書いたものに自信がある訳じゃないし、『感想がかえってこないと、人格自体を否定されている』ような気になっちゃうの。もちろん、そんな風に思っちゃだめってわかってる。でも無理なの、ほかの人はたくさん感想貰ってたり、『熱』のある感想を貰ってるのに、自分のssだけ、GJが二回だけだったりとかするとね、心が折れちゃうの、ポキン、って」 「それは、他人と比べちゃうってこと?」 「だってそりゃ、比べちゃうよ、どうしても……。自分のssの感想はあんなだけど、他の人の感想はあんなだったとか、すごく、凄く気になるよ。ss書くのってとっても時間がかかるもの、凄くがんばって書いて、GJ一つで流されたら、すごく、すごく悲しい。だからまるで『悲しむためにss書いてる』みたいになっていって……書けなくなっちゃった」 素直な言葉、それだけに、私にとって455さんの言葉は重かった。 「篝さんは、感想なんて気にしないって言ってたけど……」 「そりゃあ、篝さんぐらい書けたら平気なのかもね。それにあのひとは、根拠があろうがなかろうが、自分に絶対の自信のある人だから……でも私はそうじゃない、『感想がほしいの』そう思うこと、言うことは、本当に悪いことなの?」 そして、今のこなかがBBSでは感想は貰えないという訳だ。 私は、やはり455さんの物言いには違和感を覚えたけど、その違和感の正体は分からなかった。 他のss書きにも話を聞いてみる。 H4ー53、へいしさん、と呼ばれているss書きに話を聞いてみた。 「こんだけ年月たったら、書きたいことだって書きつくすだろ、そりゃ」 へいしさんの物言いも、シンプルだった。 「俺がこなかがで書きたいものは全部書いた。だから書かなくなった。そりゃ、アイディアが浮かぶこともあるが、結局、BBSのルールじゃ『無茶』が出来ない」 「無茶?」 「こなみがスタンド能力に目覚めたり、巨大ロボットに乗ったりするようなssはノーサンキューだし、昔書いたちょっと黒い感じのssも、bbs的にはあんまりよくなかったりするだろ。それが悪い訳じゃないが、そういう窮屈な場所でいつまでも書かなきゃいけない理由はない。かがりが大学の法学部で水野蓉子と出会う、とかいうssが脳裏をよぎったりもするが、BBSとしては微妙だろ。だからこなかがBBSは、滅ぶべくして滅ぶというか、単純に役目を終えただけだ。俺はむしろ、そっとしておけよ、と篝に言いたいね」 「へいしさんの中では、こなかがBBSは終わってるってこと?」 「そうだ。『こなかがは書き尽くされた』もう研究され尽くしている。それでも続けるならオリジナル要素や、自由度を望むしかないが、BBSはそういう場所じゃない。こなみとかがりがいちゃいちゃしてて萌えるssが見たいなら、保管庫の中を探せばいい、『新しく書かれたものは、どこかでもう書かれたもの』だろ?」 本当に、そうかな? 過去と内容が被るからって、本当に意味がないのかな? でもへいしさんは、自分が正しいと信じて疑わないようだった。 私はメッセからサインアウトする。 「うーん、かがみん、時代はこなかがに厳しいねえ」 「厳しいっていうか、自然な流れって気がするけど……」 「感想がないと、悲しいし、辛い、かあ……」 「まあでも、普通の話よね」 私はかがみが好きだけど、それは何かの見返りのためなんだろうか。 確かに、かがみが私に冷たかったら、私は凄く凄く悲しい。 自分の存在を否定されているみたいに感じる。 でも、でも……。 それでも私は、かがみを嫌いにはなれないよ。 「こなた?」 ポッキーをくわえたまま首を傾げるかがみは可愛い。 何度だって言いたくなる、かがみは可愛い。 ……可愛い。 「感想だけが全てじゃない、そう思いたいけど……」 「まあでも、書くも書かないも自由だし、別にいいんじゃない? 感想が貰えないから書かないって、分かりやすくていいじゃない」 「うん……」 書くべきことは終わった。 そんな風に割り切れるものなのかな。 かがみから得られるものは終わった、とか思える時は、私には永遠に来ない気がする。 私はずっと、かがみが好きだから。 篝さんと同じく、私は愚かだ。 だけど篝さんと違うのは、同性同士の恋愛にかがみを巻き込まないように配慮できることだ。 好きだけでは、生きていけない。 それにもし、この想いを告げてかがみに拒絶されたら、私は耐えられない。 「こなた……」 不意に、どこか呆然とした様子でかがみが呟いた。 「どうしたの?」 「篝さんが、2chに晒されてる」 篝さんは、どこまでも愚者であることをやめない。 私は……。  ……… ──無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ!この金を生む業界は我々の為にあるのだ」 ──道理を理解する者:「あんた、正気なのか?自分のやっていることがわかってるのか?」 篝さんがニヨニヨ動画で晒されるようになった経緯は、理解不能な複雑怪奇なものだった。 とにかく、あらゆるところに悪意が溢れていた。 そして篝さんは、動画を作るのをやめた。 完全に、動画製作者を取り囲む政治的事情のせいらしかった。 「一度さ、ジミーさんもへいしさんもシゴ子さんもさ、全員で篝さんに会ったら? 篝さんが心配だし」 かがみはそう言う。 私達はかがみの提案に従い、篝さんを囲むオフ会、みたいな感じで集まることにした。 連絡をすれば篝さんは何事もなかったように、「お、私がこなかが動画を作るの、手伝ってくれるの?」とだけ答えて、私は……嫌な予感がした。   ……… 都内某所で集まった私達の間には、どこか微妙な空気が漂っていた。 こなかがはもう私達には関係がなく、そうなると──私達はどこまでも他人だから。 ただ、篝さんだけがその空気を読まなかった。 「みんな元気そうじゃん」 とパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、篝さんは言った。 「篝さんこそ、元気なの? だいぶ、晒されたみたいだけど」 「あー、あれね」 篝さんは、苦笑してみせた。 「なんつーかさ……時代に取り残されたのかな」 恥ずかしそうに頭を掻いた篝さんの目は、未だに濁らない。 「人気ジャンルだっつーから、魂を持つ人がいるんだろーな、って思ってたんよ。でもたぶん、魂なんて言ってんの、私だけだったんだな、って。みんなさ、麻雀やネトゲしてて、創作者の集まりでも創作の話しねーし、なんだろうな……」 巨大なジャンルに触れた筈の篝さんは、何故か疲れた顔をしていた。 「再生数が多いとさ、神みたいにあがめられるんだよ。私が作品の話をしたらさ、王様みたいにふんぞりかえってる奴が言うのさ、お前のしてほしい評価を言ってみろって。プロの作品としての評価か、同人としての評価か、個人の趣味としての評価か、って。もう質問の意図も態度もわかんねーけど、なんか傲慢な態度だったよ。だから私は事実として同人だから、同人としての評価を聞いたんだ」 「どうなりました?」 「句読点を多くしろ、ってさ。死ぬほど、どうでもいい批評だったよ。句読点で面白さの本質も魂も変わりゃしねえ、でもそのことより、そういう句読点みたいなどうでもいい評価をさ、周りの取り巻きみたいな奴らが『さすが、ためになる批評だねえ』って褒めそやすんだよ。タイトルのつけ方とか、紹介文の書き方とかさ、中身の話をしやがらねえ。ひたすら、外形の話、再生数を増やすための話しかしなかった……」 篝さんが、珍しくため息をついた。 「なんつーかな…………面白さって眼にみえねえから、眼に見える再生数の話しか信じないし、出来ない、そんな時代になっちまってたんだな……」 石のような物体は言った。見えないものが見え、聞こえないものが聞こえるのか、と。 篝さんは、疲れ切った声で言う。 「『人間は、物語の表面しか楽しめない』、熱い三流なら上等だ、って有名な麻雀漫画が言うだろ? でも実際、熱い人間に会ったら、その意味を忘れちまう。腹が立つのはさ、斑鳩の二次創作してるやつが、再生数多い奴に良いように言われてるんだよ。句読点男が、本当に作品を良くしたいなら、俺が指導してやる、とか、俺は元プロ的なことをやっていた、とか吹きまくってさ、みんなそれにひれ伏しちまう。句読点如きの話しか出来ない奴にだ。そうじゃない、斑鳩ってのはそうじゃねえだろ!? 何百万本売れようが、RPGなんて見向きもしない連中が作った、最高の魂を持ったSTGだろ!? 数じゃねえ、売れ行きじゃねえ、たとえプロに、神様のようにあがめられるプロに……大江だろうが富樫だろうが京極だろうが賀東だろうが、だ! 誰に文句を言われても曲げねえ、曲がらねえ! そんな意地と意志と魂だけが価値を持つんだ、それが信じられない人間に、斑鳩を語る資格はねえ!」 「ずいぶん、好き勝手吼えるじゃないか」 と、冷ややかな声を浴びせたのは、へいしさんだった。 「要はあれだろ? 動画の世界でちやほやされなかったから拗ねてるだけなんだろ? それで切れて、動画つくりもやめて愚痴か? 底が割れたな浅見篝」 「てめえみてえな下種と一緒にすんなよ」 かがりさんはパーカーのポケットに手を突っ込んだままへいしさんをにらみつけ、へいしさんは眼鏡の奥の目を、篝さんを侮蔑するように冷ややかに細めた。 侮蔑を恐れない、汚辱を恐れない、孤立を恐れない、だから、篝さんはへいしさんの侮蔑に全く怯まずに言った。 「私は、人を増やそうって数に頼る発想や、BBSを盛り上げようとか、そういう考えが誤っていたと知っただけだ。仮にもう一度、こなかがが人気ジャンルになったからって、何なんだ? その結果が生み出すものに、本当に価値があるのか? それをもう一度考える必要があるのを知った」 「はっ、言い訳乙。お前はさ、自分の慣れ親しんだこなかがBBSが盛り上がって、ちやほやされたいだけなんだろ? 誰もお前のssなんて待ってねーし、読まねーよ、誰も、お前なんて求めてない。『こなかがなんて、もう誰も求めてない』んだよ!!いい加減分かれ!」 ──正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」 人々は去った。 誰も、もうこなかがを待っていない。 管理人が去り、職人も去った。 全ては消え、ただこなかがBBSという荒野だけが残った。 その荒野の真ん中で──   ──篝さんは笑った。     「関係ねーよ」 理屈で負けて怯むなら、魂は要らない。篝さんだけが私たちの中で唯一、魂を持っていたのだ。 「こなかがはもう、時代じゃねーんだ、ってか。そうかもな。だがSTGが時代じゃなくなっても、それでもシルバーガンはそこにある。誰が求めてるとか、時代がどうとか、関係ねー、関係ねーよ。私は私のために、私の信じるもののためにssを書く。時代が読める賢いお前らにはわかんねーだろうが──私には、意地がある」 シルバーガンで、私達は石のような物体を倒せなかった。 そしてシルバーガンの結論は、かつて感動したゲームらしいゲームのクローンを再生産していくこと、だった。 井内ひろしは言っている。 これは始めから決まっていたこと… そう、幾度となく繰り返されていること… 時代にとり残された私にできることは… 再びゲームを再生させること… そう幾度となく繰り返されていること… 私はゲームがゲームらしかった頃のクローンを作る… ゲームがゲームらしく生き残るために… 長い時間をかけて、再び創造空間は発展していくだろう… そして我々が同じあやまち(切り捨て文化の道)を繰り返さないように、祈りたい… 同じ志を持っている数少ない経営者、販売者、開発者、ゲームプレイヤー達に祝福を… 「シルバーガンの結論じゃ、石のような物体は倒せなかった。斑鳩で石のような物体を倒せたのは、死と引き換えだ。一度、ゲームは死ななきゃならない。こなかがBBSも同じだ……。新しく、仕切りなおさなきゃいけない、だから」 篝さんは言った。  「私が、こなかがBBSを終わらせる」 へいしさんが鼻で笑った。 「何言ってんだお前、薬でもやってんのか? さっきから一人で盛り上がって、痛いんだよ!! いい加減現実を見ろメンヘラが!!」 「なんだそりゃ、やっすい言葉だな」 篝さんに、へいしさんの言葉は響かない。 『熱』のない言葉では、篝さんには届かないのだ。 「私達が自由を見れるかどうか、もうすぐ分かる。4月25日、私は私にとって終わりのssを書く。こなかがBBSを終わらせるためのssだ」 「うぬぼれんな、お前が百万本ssかいたって、何一つ終わりはしない」 「タイトルは決まってる、この状況ならこれしかないだろ? このタイトルしかない。全てを終わらせるss、そのタイトルだ」 いいから聞け、と、篝さんは言った。  「レイディアント・シルバーガン」 そうだ、篝さんならそうする、そのタイトルをつける。限りなく特別なSTG、しかし。 「私は、帰る」 「はあ?集まったばかりだぞ!」 「あんたら、私と話すことなんかあるのか? 私にはもう、私の意地と魂しか関係がない。だから、あんたらと話す意味はない」 「篝さん!」 それは、間違っている。一人になっては駄目なんだ。どんな時でも。 「いずみん、私を止めたきゃ、魂を示せよ、それしか、道はない」 「篝さん!待って!」 篝さんは、一度も振り返らない、立ち止まらない。 あとにはただ、取り残された者達だけがいた。 「ほんと、痛い奴は困る。自己陶酔のナルシス」「ねえ」 へいしさんを遮るように、それまで黙っていたかがみが口を開いた。  「みんな、このままでいいの?」 「はあ?別に浅見が何書こうが知ったことじゃねえよ。それより、これからカラオケに」「本当に?」 かがみは、もう一度、『みんな』に問う。  「『みんな、本当に、こなかがBBSがこのままで、いいの?』」 かがみの問いに、一瞬、全員が沈黙した。 全員、かつてこなかがを、こなかがbbsを、愛した人だったからだ。 「篝さんは、4月25日に、最後のssを投下するって言ってるけど、その日に、何かできることがあるんじゃないかなって」 「柊」 と、へいしさんがかがみの言葉を遮った。 「お前らは、見る専だから気軽に言うんだ。『俺たちはもう、他の楽しいことを見つけてる』。こなかがに割く時間はない」 455さんが目を逸らす。 「篝さんと被って、感想が貰えないと、悲しいから……」 ジミーさんは天を仰いだ。 「もう何も思いつかない、こなかがは書けんよ」 「そう……なら、仕方ないね」 所詮、ネットの片隅の出来事。 こんな下らないことで大騒ぎして、私たちは愚かだ。 たとえば、高校時代の青臭い勘違い。 仲のよい同性の女の子を好きになったこと。 時が過ぎれば、綺麗な思い出に変わる。  本当に? 「こなた?」 「ちょっと、頭を冷やしてくる」 私は休日の街中を歩き出す。 篝さんは、4月25日に終わりのssを投下するという。 私たちにできることは……。 終わらないと示すためにssを投下する? だが、誰もそんなことはしない。もう、こなかがは終わっている。 私は最後の決断をするために、ゲームセンターに向かった。  レイディアントシルバーガンをするために……。 [[前 レイディアント・シルバーガン 2>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1262.html]] **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 私は2010年になってかららきすたを知り、今日初めてココに来ました。 &br() &br()どのSSも愛情に溢れていて、おかげで、かがみとこなたを原作以上に好きになりました。 &br() &br() &br()本当に良いものを読ませて貰いました。感謝です。 -- 名無しさん (2010-03-27 13:28:45) - この作品に書かれていることは限りなく現実に近いのですよね・・・ &br()かつては共に楽しんだやつらもここにはいない・・・ &br()作者様はこの状況に区切りをつけるおつもりなのですね・・・ &br()4月25日・・・ &br()頑張って下さい。 &br() -- 白夜 (2010-03-25 01:23:07) - オリキャラだけども個人的には篝さんかなり好きかも &br()ていうか続きがめっちゃ気になる -- 名無しさん (2010-03-23 23:05:44) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(5)

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