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「遠いあなたとお花見を」(2023/08/16 (水) 18:03:31) の最新版変更点
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「二人でお花見しようよ」
そうこなたに誘われたのが昨日の夜の事。
最初に聞いたときは何を考えているのだと思った。
なぜなら、その日に私達はみゆきとつかさも合わせた四人でお花見に出かけていたのだから。
桜はとても綺麗だったし、もう一回ぐらい行ってもいいかなとは思ったけれど、さすがに二日連続で行く気はない。
だけどお花見に誘うこなたのどこか真剣な声に、私はそれを断る事が出来なかった。
『遠いあなたとお花見を』
「おーっす、こなた」
「おお、いらっしゃい。かがみん!」
玄関のチャイムを押すと、ドアを勢いよく開けてこなたが出迎えてくれた。
「一応、約束通り来たけど…私、用意とか何にもしてないけど大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫。ほら、上がってよかがみ!」
「えっ?お花見に行くんでしょう?……もしかして、準備とかまだ出来てないわけ?!」
私はジーッとこなたの服装を確認した。
うん、いつも通りの部屋着のままだ。ということは、準備とかまったくしてないな。
「いやいや、準備ならもう済んでるんだよ。いいから上がってよ、かがみん!」
こなたはそう言うと私の手を引っ張った。
「分かった!分かったから、ちょっと待ちなさいって!!」
私は慌てて靴を脱ぐと、こなたの家に上がりこんだ。
「ささっ、こっちだよー」
こなたは私の手を握ったまま家の奥へと歩いていった。
そうしてこなたに連れてこられた部屋。それは私が今まで一度も入った事のない部屋だった。
いや、入る機会があったとしても入ろうとしたかどうか。
なぜならその部屋はこなたのお母さん―――かなたさんの仏壇が飾られている部屋なのだから。
たった一度だけ、私はこの部屋を遠くから見た事がある。部屋のドアが偶然にも開いていたのだ。
その時見たのは、仏壇の前で手を合わしているこなたの姿。その寂しげな顔は今でもよく覚えている。
「どうしたの?かがみ。はやく入りなよ」
「う、うん……」
こなたが催促してくるが、私はどうしても部屋に入るのを躊躇ってしまう。
なんというか……場違いというのだろうか?漂ってくる空気が違うというのだろうか?
私の様な部外者が立ち入ってはいけない、肉親だけが入る事が出来る神聖な場所。
そのように感じてしまうのだ。宗教の聖地なんかに行ったらそんな風に感じるのかもしれない。
「もう、かがみってばなにしてるの?!ほら、入った、入った!!」
痺れを切らしたこなたが再び私の手を引っ張った。そして無理やり部屋へと引きずり込む。
中に入ると、お弁当箱と飲み物が畳みの上に敷かれたシートに乗っかっていた。
そしてこなたもその上に座り込んだ。
「ねえ、こなた。お花見って、もしかしてここでするの?」
「そうだよ。まあとりあえず、こっち来て座ったら?」
こなたに言われるがままに、私はシートの上に座り込んだ。
下が畳みなのにシートが敷いてあるので、なんだか違和感を感じる。
「そうだよって……ここには桜なんてないじゃない?!」
「ふっふっふっ、流石だと言いたいが……甘いぞかがみん!!これを見給え~!!」
こなたはそう言うと前の方を指差した。
「あっ……」
桜はあった。50センチくらいはあるだろうか?
立派な枝に小枝がいくつも分かれ、そこには葉っぱと一緒に綺麗な花が咲き誇っていた。
ソメイヨシノではなさそうだったが、それは確かに桜の枝だった。
そしてその立派な枝がお供えのように仏壇の前に置かれている。
気が付かなかったが、かなたさんの仏壇は私達の目の前にあったのだ。
「どうしたのよ?この枝……まさか、あんた?!」
「いや、もちろん折ったりはしてないから安心してよ。今日ね、拾ってきたの」
「拾った?」
「今日の朝にさ、昨日四人でお花見に行ったところに枝が落ちてないかな~って探しに行ったら偶然にね!
いや~、なかったら桜の花びらでも持って帰ろうかなって思ってたんだけど。いや、ラッキーだったよ!」
「そう……」
こんな立派な枝が落ちてるなんてことがあるのだろうか?
私はこなたに気付かれないように、そっと枝の太くなっているの方を見てみた。
枝が切れているところはギザギザになっていた。どうやら、ノコギリやなにかて切ったって訳ではなさそうだ。
私は隣にいるこなたの瞳を見つめた。やましいところなんてどこにもない、きれいな深緑の瞳だった。
うん、どうやら本当に落ちていたのを拾ってきたみたいだ。私はこなたに気付かれないように安堵のため息を吐いた。
「かがみ?なにさっきからジロジロ見てるの?」
「いや、ごめんごめん。あんたが本当は桜の枝を折ってきたんじゃないかと思ってさ。心配してたのよ。」
「そんなことするわけ無いじゃん!!少しは恋人のことを信用して欲しいよ」
こなたは拗ねた声を出すと膨れ面で反対側に向いてしまった。
こんなこなたの行動が子供っぽくて可愛い……なんて思ってしまう私は、きっと末期なんだろう。
「だから謝ってるだろ~。ほら、機嫌直しなさいよ」
お詫びの印にこなたの頭をやさしく撫でてあげる。
「まったく、今回だけだからね」
どうやら機嫌も直ってくれたようで、こなたは甘えた声を出しながら私に擦り寄ってきた。
「はいはい。で、今日はこの桜の枝を見ながらお花見って訳か」
「うん。私とかがみ、それと……お母さんの三人で……ね」
こなたの『お母さん』の言葉にどれほどの想いが込められているのか、私には分からなかった。
淡々と話しているけれど、きっとそれはどんな人よりも深い想いが込められているに違いない。
その想いを僅かばかりでも受け止めてあげられない自分が少し悔しい。
「あはは……ごめんね、かがみ。変な事言っちゃったよ。」
「そんなこと無いわよ。そんなこと……絶対にない!!」
私はこなたの言葉を全力で否定した。なぜ、こんなにも否定したかったのか?自分でもよく分からなかった。
きっと許せなかったのだろう。こなたが自分の気持ちを隠そうとしたのを。あろうことか、私の前で。
「かがみ……」
「大声出してごめん。……ほら、始めようお花見。その……三人で」
「うん……」
こなたは一瞬凄く嬉しそうな顔をすると、照れくさそうに顔を背けた。
そして紙コップを3つ用意すると、それぞれにジュースを注いでいく。
「それじゃあ、乾杯しようか。何に乾杯する?」
紙コップを一つ取りながらこなたに質問する。
「んー、おおっ!そうだ!!」
何か思いついたらしい。が、それはきっととんでもない事なのだと思う。
こなたの顔はいつものからかい顔なのだから。
「それでは……私の未来の嫁に!」
「なっ!!」
まったく、二人っきりだからって何てことをいうのだろうか、こいつは!!……いや、三人か。
そ、それはともかく、とんでもなく恥ずかしい事を言ってくれたものだ。
こなたの言葉に顔が耳まで赤くなっているのが、自分でも分かった。
そんな私をこなたが見て面白がってるものだから、それはもう悔しくて……
せめてもの仕返しに私もこんなことを言ってみる。
「そうね。それじゃあ、わ・た・し・の未来のお嫁さんに!」
「むぅ……」
『わ・た・し・の』のアクセントの意味が分かったようで、こなたも私と同じように顔を赤くした。
これでおあいこ、イーブンだ。
「ふふっ……」
「あはは……」
そんな互いの音頭に笑いあい、そして見つめあいながら……
「「乾杯!!」」
私達はコップに口をつけて、そして飲み干した。
後の時間はいつも過ごす私達の日常と同じ。
こなたのオタクな話に私が突っ込みを入れたり、あるあるネタで盛り上がったり。
話の合間にはこなたにお弁当のおかずを食べさせてもらったり、逆に食べさせてあげたりした。
何時もと変わらない私達の日常。
ただ唯一違うのは、私達のことをかなたさんが見守ってくれていること。
確かにかなたさんは目の前にはいないけど、なんだか傍にいてくれているような気がした。
それはきっとこなたもそうだったんじゃないかと思う。
だってこなたったら、時々仏壇の方を見つめてすごく安心したような顔をしてたから。
ちょっと……妬けちゃうな。
「ねえ、かがみ?」
「んー?」
話題も一通り出尽くくした頃、こなたが私に問いかけてきた。
私はというと、こなたお手製の卵焼きに舌鼓をうっていたところだった。
こなたの作る卵焼きは程よい甘みが効いていて、私好みで美味しいのだ。
こなた曰く、私の味の好みは全部分かるらしいから、この卵焼きにも反映されているのかもしれない。
「今日はありがとね」
「なに言ってるの。これくらい、何時でも言いなさいよ」
照れ隠しに今度は唐揚げを食べる。やっぱり私好みの味だった。
「かがみ達とお花見に行って、帰ってきたときにはさ、本当はこんなのする気なかったんだよ。
でも急にやる気になっちゃんだよね」
「そう…」
もう、何も食べる気なんかしなかった。私はこなたの言葉に耳を傾ける。
「多分私頼まれたんだよ、お母さんに。三人でお花見がしたいって。もちろん、声なんて聞こえないけどね。
だから桜の枝も見つかったんだと思う。だって気が付いたら私の隣に落ちてたんだもん。
お母さんが助けてくれたんだよ、きっと」
「なんでそこに私が含まれてるのか分からないけどね」
実の娘とお花見がしてみたいっていうのは分かるけど、赤の他人の私がなんで含まれているのか?
いや確かに私とこなたは恋人同士ではあるけれど、女の子同士だし……かなたさんが知ったら普通嫌われるのではないだろうか?
「そんなの決まってんじゃん!かがみが私の未来のお嫁さんだからだよ!」
私のひねくれた考えを打ち砕くように、笑いながらこなたは言った。
「お父さんによるとお母さん、待つのが苦手だったらしくてさ。
あんまりかがみが会いに来てくれなかったから、実の娘に頼んだじゃないかな。早く会わせてくれって」
「そう……かな?」
「そうなのだよ!」
こなたがあまりにも自信満々に言うもんだから、なんだか可笑しくなってしまう。
そんなこなたを見ていると、ちょっとからかってみたくなった。
「そうね。それじゃあ……」
私は立ちががると、かなたさんの仏壇の前に座りなおした。
そして芝居かかった口調でかなたさんの写真に向かってこういった。
「かなたさん、こなたの恋人の柊かがみです。こなたは私が幸せにしますので、どうかこなたを私にください」
「ちょっとかがみ!なに言ってるのさ!!」
こなたが慌てた口調で私に飛び掛ってくる。
よしよし、作戦成功っと……
「いや、将来の伴侶としてはやっぱ挨拶しておかないと不味いじゃない?」
「もう、かがみんってば暴走しすぎだよ!今そんなこと言わなくていいじゃん!」
「なに?こなた。もしかして照れてるの?」
「んー、かがみの馬鹿っ!!」
こなたがポカポカと泣きながら私の胸を叩いてくる。
そんなこなたもやっぱり可愛くて可愛くて仕方がなくて、思わず抱きしめたくなってくる。
だけどその前に……
私は仏壇に飾ってあるかなたさんの写真を見て、心の中で呟いた。
「今日は呼んでくれてありがとうございました」って。
「どういたしまして」とどこからともなく聞こえたのは、絶対に幻聴なんかじゃないと思う。
―――――――
もうすぐGWという時期の事だった。
「みんな~、これを見てくれ給え~!!」
いつもの昼休み、こなたが自慢げに一枚の写真を私達の前に取り出した。
写っていたのはあの時の桜の枝。それが鉢植えに綺麗に植えられてた。
写真なのでよく分からないが、新芽が出ているようにも見える。
「ああ、あんた試しに接木にしてみるとかって言ってたものね」
接木にしてみると聞いたときには本当に出来るのかと思ったが、こうしてちゃんと出来ているとはびっくりした。
「これは桜……ですか?」
みゆきが写真を見つめながら聞いてきた。
もう花もついていないのに桜と分かる辺り、みゆきの知識力の凄さが伺える。
私なら絶対に分からん。
「そうなのだよ、みゆきさん。近い将来私の家でお花見が出来るようになるかもね!」
「そりゃまた壮大な計画だな……」
本当にどれくらいの年月が必要なのだろう?思わず想像してしまう。
10年……いや、20年くらいだろうか?
私とこなたの子供が大人になるくらいには立派になってると嬉しいけど。
って、私は何を考えてるんだ!!
「あれ?かがみ何赤くなってるの?」
「なんでもない!!」
いけないいけない、冷静になれ……私。
こなたに気付かれないように、ゆっくりと深呼吸をする。
「でも、そうなったら凄いよね。満開になったら、私もこなちゃんちに行ってもいい?」
「うん、いいよ!」
つかさ…あんた一体何十年後の約束してるんだ?
…まあ、あんなこと考えてた私が言えたことじゃないか。
「ですが、ソメイヨシノではないようですね。葉っぱの色も違うようですし」
「そうみたいね。確か……葉っぱと花が同時についてたわね。みゆき、なんだか分かる?」
それについては私も気になっていた。綺麗だとは思っていたが、あんな桜は見たことが無かったからだ。
「でしたら、それはソメイヨシノではなくてヤマザクラですね。泉さん、これはいったいどうなさったんですか?」
「えっ?皆で花見に行ったところで拾ってきたんだけど?」
「あれ?あそこって、ソメイヨシノしかなかったはずだよ」
つかさの言葉に私とこなたは顔を見合わせた。ソメイヨシノしかない場所にヤマザクラの枝が落ちていた。
これは一体どういうことなのだろう?単なる偶然なのだろうか?
「ねえ、みゆき。ヤマザクラってどういう桜なの?」
「はい、ヤマザクラはバラ科サクラ属の落葉高木でソメイヨシノと同じく3月から4月頃に開花します。
ソメイヨシノと違って開花と同時に赤茶けた若葉が出るのが特徴でサクラの仲間では寿命が長く大木になりやすいそうです。
そうそう昔は桜と言ったらこのヤマザクラを指したそうですよ」
「へぇ~。そうなんだ~」
つかさが関心の声を上げた。だけどみゆきの言葉の中に、私の疑問を解消してくれる答えは無い。
「花言葉は確か……」
みゆきは『んー』といって考える素振りを少し見せた後、手を叩いてこう言った。
「そう、『あなたに微笑む』ですね」
私とこなたは再び顔を見合わせた。
お花見のときこなたは言った。「お母さんに頼まれた気がした」と。
そして桜の枝は「気が付いたら隣に落ちていた」と。
そしてこのヤマザクラの花言葉、これがもしかなたさんのメッセージだとしたら?
「微笑んでてくれたのかな?」
「……かもね」
偶然で片付ける事も出来るだろう。誰かが偶々枝を捨てたのかもしれない。
つかさの間違いで、本当はあそこにはヤマザクラが植えられていたのかもしれない。
だけど、そんな考えより私は私が思った事を信じたかった。
「おねえちゃん達どうしたの?なんだか嬉しそうだけど?」
「何でもないわよ」
「うん、何でもないよ」
つかさの質問に私達は笑いながら答えた。つかさもみゆきも釈然としない顔をしていたけど、今回だけは許して欲しい。
これは私とこなたとかなたさんの三人だけの秘密だから。
私はもう一度写真に写っているヤマザクラを見つめた。
綺麗な花は散ってしまい、葉っぱだけが力強く生えわたっていた。
桜の季節はお終いで……
もうすぐ、初夏の風が吹く。
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- 良い! -- 名無しさん (2010-06-25 02:09:03)
- 泣けました。うぅ・・ -- 涙もろし (2010-01-07 01:53:43)
- かつてここまでキレイにまとまったSSはあっただろうか -- 鉱石 (2010-01-06 04:06:11)
- すんごく面白かったです! &br()最後なんか、切なくも何かほんわりとするものが残る感じがものすごく好かったです!! -- なくた (2009-04-14 18:58:53)
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「二人でお花見しようよ」
そうこなたに誘われたのが昨日の夜の事。
最初に聞いたときは何を考えているのだと思った。
なぜなら、その日に私達はみゆきとつかさも合わせた四人でお花見に出かけていたのだから。
桜はとても綺麗だったし、もう一回ぐらい行ってもいいかなとは思ったけれど、さすがに二日連続で行く気はない。
だけどお花見に誘うこなたのどこか真剣な声に、私はそれを断る事が出来なかった。
『遠いあなたとお花見を』
「おーっす、こなた」
「おお、いらっしゃい。かがみん!」
玄関のチャイムを押すと、ドアを勢いよく開けてこなたが出迎えてくれた。
「一応、約束通り来たけど…私、用意とか何にもしてないけど大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫。ほら、上がってよかがみ!」
「えっ?お花見に行くんでしょう?……もしかして、準備とかまだ出来てないわけ?!」
私はジーッとこなたの服装を確認した。
うん、いつも通りの部屋着のままだ。ということは、準備とかまったくしてないな。
「いやいや、準備ならもう済んでるんだよ。いいから上がってよ、かがみん!」
こなたはそう言うと私の手を引っ張った。
「分かった!分かったから、ちょっと待ちなさいって!!」
私は慌てて靴を脱ぐと、こなたの家に上がりこんだ。
「ささっ、こっちだよー」
こなたは私の手を握ったまま家の奥へと歩いていった。
そうしてこなたに連れてこられた部屋。それは私が今まで一度も入った事のない部屋だった。
いや、入る機会があったとしても入ろうとしたかどうか。
なぜならその部屋はこなたのお母さん―――かなたさんの仏壇が飾られている部屋なのだから。
たった一度だけ、私はこの部屋を遠くから見た事がある。部屋のドアが偶然にも開いていたのだ。
その時見たのは、仏壇の前で手を合わしているこなたの姿。その寂しげな顔は今でもよく覚えている。
「どうしたの?かがみ。はやく入りなよ」
「う、うん……」
こなたが催促してくるが、私はどうしても部屋に入るのを躊躇ってしまう。
なんというか……場違いというのだろうか?漂ってくる空気が違うというのだろうか?
私の様な部外者が立ち入ってはいけない、肉親だけが入る事が出来る神聖な場所。
そのように感じてしまうのだ。宗教の聖地なんかに行ったらそんな風に感じるのかもしれない。
「もう、かがみってばなにしてるの?!ほら、入った、入った!!」
痺れを切らしたこなたが再び私の手を引っ張った。そして無理やり部屋へと引きずり込む。
中に入ると、お弁当箱と飲み物が畳みの上に敷かれたシートに乗っかっていた。
そしてこなたもその上に座り込んだ。
「ねえ、こなた。お花見って、もしかしてここでするの?」
「そうだよ。まあとりあえず、こっち来て座ったら?」
こなたに言われるがままに、私はシートの上に座り込んだ。
下が畳みなのにシートが敷いてあるので、なんだか違和感を感じる。
「そうだよって……ここには桜なんてないじゃない?!」
「ふっふっふっ、流石だと言いたいが……甘いぞかがみん!!これを見給え~!!」
こなたはそう言うと前の方を指差した。
「あっ……」
桜はあった。50センチくらいはあるだろうか?
立派な枝に小枝がいくつも分かれ、そこには葉っぱと一緒に綺麗な花が咲き誇っていた。
ソメイヨシノではなさそうだったが、それは確かに桜の枝だった。
そしてその立派な枝がお供えのように仏壇の前に置かれている。
気が付かなかったが、かなたさんの仏壇は私達の目の前にあったのだ。
「どうしたのよ?この枝……まさか、あんた?!」
「いや、もちろん折ったりはしてないから安心してよ。今日ね、拾ってきたの」
「拾った?」
「今日の朝にさ、昨日四人でお花見に行ったところに枝が落ちてないかな~って探しに行ったら偶然にね!
いや~、なかったら桜の花びらでも持って帰ろうかなって思ってたんだけど。いや、ラッキーだったよ!」
「そう……」
こんな立派な枝が落ちてるなんてことがあるのだろうか?
私はこなたに気付かれないように、そっと枝の太くなっているの方を見てみた。
枝が切れているところはギザギザになっていた。どうやら、ノコギリやなにかて切ったって訳ではなさそうだ。
私は隣にいるこなたの瞳を見つめた。やましいところなんてどこにもない、きれいな深緑の瞳だった。
うん、どうやら本当に落ちていたのを拾ってきたみたいだ。私はこなたに気付かれないように安堵のため息を吐いた。
「かがみ?なにさっきからジロジロ見てるの?」
「いや、ごめんごめん。あんたが本当は桜の枝を折ってきたんじゃないかと思ってさ。心配してたのよ。」
「そんなことするわけ無いじゃん!!少しは恋人のことを信用して欲しいよ」
こなたは拗ねた声を出すと膨れ面で反対側に向いてしまった。
こんなこなたの行動が子供っぽくて可愛い……なんて思ってしまう私は、きっと末期なんだろう。
「だから謝ってるだろ~。ほら、機嫌直しなさいよ」
お詫びの印にこなたの頭をやさしく撫でてあげる。
「まったく、今回だけだからね」
どうやら機嫌も直ってくれたようで、こなたは甘えた声を出しながら私に擦り寄ってきた。
「はいはい。で、今日はこの桜の枝を見ながらお花見って訳か」
「うん。私とかがみ、それと……お母さんの三人で……ね」
こなたの『お母さん』の言葉にどれほどの想いが込められているのか、私には分からなかった。
淡々と話しているけれど、きっとそれはどんな人よりも深い想いが込められているに違いない。
その想いを僅かばかりでも受け止めてあげられない自分が少し悔しい。
「あはは……ごめんね、かがみ。変な事言っちゃったよ。」
「そんなこと無いわよ。そんなこと……絶対にない!!」
私はこなたの言葉を全力で否定した。なぜ、こんなにも否定したかったのか?自分でもよく分からなかった。
きっと許せなかったのだろう。こなたが自分の気持ちを隠そうとしたのを。あろうことか、私の前で。
「かがみ……」
「大声出してごめん。……ほら、始めようお花見。その……三人で」
「うん……」
こなたは一瞬凄く嬉しそうな顔をすると、照れくさそうに顔を背けた。
そして紙コップを3つ用意すると、それぞれにジュースを注いでいく。
「それじゃあ、乾杯しようか。何に乾杯する?」
紙コップを一つ取りながらこなたに質問する。
「んー、おおっ!そうだ!!」
何か思いついたらしい。が、それはきっととんでもない事なのだと思う。
こなたの顔はいつものからかい顔なのだから。
「それでは……私の未来の嫁に!」
「なっ!!」
まったく、二人っきりだからって何てことをいうのだろうか、こいつは!!……いや、三人か。
そ、それはともかく、とんでもなく恥ずかしい事を言ってくれたものだ。
こなたの言葉に顔が耳まで赤くなっているのが、自分でも分かった。
そんな私をこなたが見て面白がってるものだから、それはもう悔しくて……
せめてもの仕返しに私もこんなことを言ってみる。
「そうね。それじゃあ、わ・た・し・の未来のお嫁さんに!」
「むぅ……」
『わ・た・し・の』のアクセントの意味が分かったようで、こなたも私と同じように顔を赤くした。
これでおあいこ、イーブンだ。
「ふふっ……」
「あはは……」
そんな互いの音頭に笑いあい、そして見つめあいながら……
「「乾杯!!」」
私達はコップに口をつけて、そして飲み干した。
後の時間はいつも過ごす私達の日常と同じ。
こなたのオタクな話に私が突っ込みを入れたり、あるあるネタで盛り上がったり。
話の合間にはこなたにお弁当のおかずを食べさせてもらったり、逆に食べさせてあげたりした。
何時もと変わらない私達の日常。
ただ唯一違うのは、私達のことをかなたさんが見守ってくれていること。
確かにかなたさんは目の前にはいないけど、なんだか傍にいてくれているような気がした。
それはきっとこなたもそうだったんじゃないかと思う。
だってこなたったら、時々仏壇の方を見つめてすごく安心したような顔をしてたから。
ちょっと……妬けちゃうな。
「ねえ、かがみ?」
「んー?」
話題も一通り出尽くくした頃、こなたが私に問いかけてきた。
私はというと、こなたお手製の卵焼きに舌鼓をうっていたところだった。
こなたの作る卵焼きは程よい甘みが効いていて、私好みで美味しいのだ。
こなた曰く、私の味の好みは全部分かるらしいから、この卵焼きにも反映されているのかもしれない。
「今日はありがとね」
「なに言ってるの。これくらい、何時でも言いなさいよ」
照れ隠しに今度は唐揚げを食べる。やっぱり私好みの味だった。
「かがみ達とお花見に行って、帰ってきたときにはさ、本当はこんなのする気なかったんだよ。
でも急にやる気になっちゃんだよね」
「そう…」
もう、何も食べる気なんかしなかった。私はこなたの言葉に耳を傾ける。
「多分私頼まれたんだよ、お母さんに。三人でお花見がしたいって。もちろん、声なんて聞こえないけどね。
だから桜の枝も見つかったんだと思う。だって気が付いたら私の隣に落ちてたんだもん。
お母さんが助けてくれたんだよ、きっと」
「なんでそこに私が含まれてるのか分からないけどね」
実の娘とお花見がしてみたいっていうのは分かるけど、赤の他人の私がなんで含まれているのか?
いや確かに私とこなたは恋人同士ではあるけれど、女の子同士だし……かなたさんが知ったら普通嫌われるのではないだろうか?
「そんなの決まってんじゃん!かがみが私の未来のお嫁さんだからだよ!」
私のひねくれた考えを打ち砕くように、笑いながらこなたは言った。
「お父さんによるとお母さん、待つのが苦手だったらしくてさ。
あんまりかがみが会いに来てくれなかったから、実の娘に頼んだじゃないかな。早く会わせてくれって」
「そう……かな?」
「そうなのだよ!」
こなたがあまりにも自信満々に言うもんだから、なんだか可笑しくなってしまう。
そんなこなたを見ていると、ちょっとからかってみたくなった。
「そうね。それじゃあ……」
私は立ちががると、かなたさんの仏壇の前に座りなおした。
そして芝居かかった口調でかなたさんの写真に向かってこういった。
「かなたさん、こなたの恋人の柊かがみです。こなたは私が幸せにしますので、どうかこなたを私にください」
「ちょっとかがみ!なに言ってるのさ!!」
こなたが慌てた口調で私に飛び掛ってくる。
よしよし、作戦成功っと……
「いや、将来の伴侶としてはやっぱ挨拶しておかないと不味いじゃない?」
「もう、かがみんってば暴走しすぎだよ!今そんなこと言わなくていいじゃん!」
「なに?こなた。もしかして照れてるの?」
「んー、かがみの馬鹿っ!!」
こなたがポカポカと泣きながら私の胸を叩いてくる。
そんなこなたもやっぱり可愛くて可愛くて仕方がなくて、思わず抱きしめたくなってくる。
だけどその前に……
私は仏壇に飾ってあるかなたさんの写真を見て、心の中で呟いた。
「今日は呼んでくれてありがとうございました」って。
「どういたしまして」とどこからともなく聞こえたのは、絶対に幻聴なんかじゃないと思う。
―――――――
もうすぐGWという時期の事だった。
「みんな~、これを見てくれ給え~!!」
いつもの昼休み、こなたが自慢げに一枚の写真を私達の前に取り出した。
写っていたのはあの時の桜の枝。それが鉢植えに綺麗に植えられてた。
写真なのでよく分からないが、新芽が出ているようにも見える。
「ああ、あんた試しに接木にしてみるとかって言ってたものね」
接木にしてみると聞いたときには本当に出来るのかと思ったが、こうしてちゃんと出来ているとはびっくりした。
「これは桜……ですか?」
みゆきが写真を見つめながら聞いてきた。
もう花もついていないのに桜と分かる辺り、みゆきの知識力の凄さが伺える。
私なら絶対に分からん。
「そうなのだよ、みゆきさん。近い将来私の家でお花見が出来るようになるかもね!」
「そりゃまた壮大な計画だな……」
本当にどれくらいの年月が必要なのだろう?思わず想像してしまう。
10年……いや、20年くらいだろうか?
私とこなたの子供が大人になるくらいには立派になってると嬉しいけど。
って、私は何を考えてるんだ!!
「あれ?かがみ何赤くなってるの?」
「なんでもない!!」
いけないいけない、冷静になれ……私。
こなたに気付かれないように、ゆっくりと深呼吸をする。
「でも、そうなったら凄いよね。満開になったら、私もこなちゃんちに行ってもいい?」
「うん、いいよ!」
つかさ…あんた一体何十年後の約束してるんだ?
…まあ、あんなこと考えてた私が言えたことじゃないか。
「ですが、ソメイヨシノではないようですね。葉っぱの色も違うようですし」
「そうみたいね。確か……葉っぱと花が同時についてたわね。みゆき、なんだか分かる?」
それについては私も気になっていた。綺麗だとは思っていたが、あんな桜は見たことが無かったからだ。
「でしたら、それはソメイヨシノではなくてヤマザクラですね。泉さん、これはいったいどうなさったんですか?」
「えっ?皆で花見に行ったところで拾ってきたんだけど?」
「あれ?あそこって、ソメイヨシノしかなかったはずだよ」
つかさの言葉に私とこなたは顔を見合わせた。ソメイヨシノしかない場所にヤマザクラの枝が落ちていた。
これは一体どういうことなのだろう?単なる偶然なのだろうか?
「ねえ、みゆき。ヤマザクラってどういう桜なの?」
「はい、ヤマザクラはバラ科サクラ属の落葉高木でソメイヨシノと同じく3月から4月頃に開花します。
ソメイヨシノと違って開花と同時に赤茶けた若葉が出るのが特徴でサクラの仲間では寿命が長く大木になりやすいそうです。
そうそう昔は桜と言ったらこのヤマザクラを指したそうですよ」
「へぇ~。そうなんだ~」
つかさが関心の声を上げた。だけどみゆきの言葉の中に、私の疑問を解消してくれる答えは無い。
「花言葉は確か……」
みゆきは『んー』といって考える素振りを少し見せた後、手を叩いてこう言った。
「そう、『あなたに微笑む』ですね」
私とこなたは再び顔を見合わせた。
お花見のときこなたは言った。「お母さんに頼まれた気がした」と。
そして桜の枝は「気が付いたら隣に落ちていた」と。
そしてこのヤマザクラの花言葉、これがもしかなたさんのメッセージだとしたら?
「微笑んでてくれたのかな?」
「……かもね」
偶然で片付ける事も出来るだろう。誰かが偶々枝を捨てたのかもしれない。
つかさの間違いで、本当はあそこにはヤマザクラが植えられていたのかもしれない。
だけど、そんな考えより私は私が思った事を信じたかった。
「おねえちゃん達どうしたの?なんだか嬉しそうだけど?」
「何でもないわよ」
「うん、何でもないよ」
つかさの質問に私達は笑いながら答えた。つかさもみゆきも釈然としない顔をしていたけど、今回だけは許して欲しい。
これは私とこなたとかなたさんの三人だけの秘密だから。
私はもう一度写真に写っているヤマザクラを見つめた。
綺麗な花は散ってしまい、葉っぱだけが力強く生えわたっていた。
桜の季節はお終いで……
もうすぐ、初夏の風が吹く。
**コメントフォーム
#comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
- GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-08-16 18:03:31)
- 良い! -- 名無しさん (2010-06-25 02:09:03)
- 泣けました。うぅ・・ -- 涙もろし (2010-01-07 01:53:43)
- かつてここまでキレイにまとまったSSはあっただろうか -- 鉱石 (2010-01-06 04:06:11)
- すんごく面白かったです! &br()最後なんか、切なくも何かほんわりとするものが残る感じがものすごく好かったです!! -- なくた (2009-04-14 18:58:53)
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