「何気ない日々:想い流るる前日“互いに違う答え”」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

何気ない日々:想い流るる前日“互いに違う答え”」(2014/07/20 (日) 23:28:24) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

何気ない日々:想い流るる前日“互いに違う答え”  あのまま、つかさの胸で泣いたまま眠ってしまったらしい。時計を見ると朝だった。もし、今日が日曜日で無かったら完全に遅刻だけどね。我ながら良く眠れたものだわ。 相変わらず雨は降っていて、つかさはつかさで、私を優しく抱きしめたまま眠っている。そんな私達の上には厚めのブランケットが掛けてあり、そのお陰で風邪をひかずにすんだ様だった。私が乗っかっていてもこの子は重くないのかしら、そんな言葉と共にずっと傍にいてくれたつかさに感謝の気持ちを送る。 「つかさに抱きついて泣きじゃくる日が来るなんて思わなかったなぁ」 私はまだつかさの上にいる。本当は退いてあげたいのだが、未だ昨日と同じように上手く力が入らないでいるのだ。それでも気になるものがあったので、私は手を伸ばしてそれを掴んだ。携帯電話・・・なんのアニメのキャラかわからないけど、ストラップが一つ。前にUFOキャッチャーに熱を入れて何も取れずに落ち込んでいた私に、こなたがストラップをとるタイプの奴でとってくれたのだ。それ以来、ちょっと恥ずかしかったりして、着けたりはずしたりだ。  携帯電話の方は、電源を押しても動かない、完全に水没したらしい。だからつかさにメールを送るしかなかったのね、こなたは。それだけの雨に打たれながら、私はよく風邪もひいてないものだ。昨日より、雨音は静かとはいえ今日も梅雨らしく土砂降りだ。 「う~・・・あ、お姉ちゃんおはよぉうぅぅ」 つかさが眠たそうに言う。お姉ちゃんでいないのは、ほんの少しの間だけという約束だから。私は彼女の姉だから、しっかりしなくてはいけない。でも、動けない。なんだか、体が硬直してしまったみたいに上手く力が入らなかった。力を入れる事も上手く出来なかった。雨に打たれて冷えすぎてしまった所為だろうか、その弊害が今頃やって来ているとは、何とも情けない。 「何だか、二人で寝たのは久しぶりだよねぇ~」 「この間、ホラー映画見た後、私の布団に潜りこんできてたでしょ?」 「えへへっ、そ、そうだったっけ」 「ごめん、つかさ。ちょっと今動けなくて、横に転がしてもまだベッドから落ちないから、そうやって起きてくれる?」 「う~ん、私はもうちょっとこのままでもいいよ~」 まだあんまり起きてないのかもしれない。つかさの目は開いてなかった。寝言で受け答えが出来るとは・・・我が妹ながら凄いわ。 「つかさは、私がこなたを好きだって言う事・・・どう思う?」 その質問を投げかけるとつかさの目はパッチリと開いた。そして、しばらく考え込んでいた。 「う~ん、本当はね、ゆきちゃんが言うような難しい事はわかんないなぁって。でも、お姉ちゃんとこなちゃんが好き同士ならそれでもいいかなって思うかな」 「女、同士なのよ?」 「私は、お姉ちゃんもこなちゃんもゆきちゃんも好きだし、そのゆきちゃんにはちょっと特別な気持ちもあるかも・・・」 ん・・・つかさ、あんたもしかして、みゆきの事を? 「それは、みゆきの事が好きなの?」 「う~ん、まだよくわかんないの。でもね、特別な好きじゃなくても、皆好きだから、力になりたい、頼りになれるようにがんばりたいなって思ったの」 でもね・・・そう言ってつかさは口を閉じた。そして目を瞑って言葉を探している様だった。 「お姉ちゃんはちゃんと、こなちゃんの事を考えてた?覚悟って言うのかな、そういうのしっかり胸にあった?」 つかさの言葉が胸に突き刺さる。決して冷たい言葉じゃないんだ、ただ、私はこなたの気持ちを考えるとか、覚悟を決めるとかぜんぜん出来てなかった。それだけの事だけど、つかさの言葉は胸に深々と突き刺さるようだった。痛いんじゃなくて、なんだろう・・・わからないな、わからないけど、罪悪感が広がっていく。 「こなたの事、たぶん考えられてなかったし、覚悟も決まってなかったかな。自分では、しっかり覚悟を決めたつもりだったのよ。でも、走って逃げるあいつを追いかけられなかった時点で、覚悟無いわよね」 そうだ、突き飛ばされた後に呆然として、その場にへたり込んでいた私に覚悟があっただなんて、冗談にも程があるわ。 「苦しいのはお姉ちゃんも、こなちゃんも同じだと思うんだ。どっちも、自分が傷ついてる事を考えないで、相手を傷つけてしまった事だけ考えてないかな?・・・似た者同士なんだよ、お姉ちゃんも、こなちゃんも」 そうかもしれない。突き飛ばされて当然の事をしたとはいえ、私も傷ついていたのかもしれない。でも、その痛みよりこなたを傷つけてしまった事の方が痛くて、苦しくて・・・だからかな、こんな考え方しか出来ない。 「私が傷ついていいはずないでしょ?こなたを傷つけたんだから」 そう、私は自分の身勝手でこなたを傷つけたのに、私の傷など気にしていいはずが無いんだ。それは自分勝手をした罰なのだから。 「う~ん、そうじゃなくて、えっと、その・・・」 つかさが返答に困っている。わかっているのだけど、素直じゃないわね・・・私。つかさが言いたい事はちゃんと理解している。私だって傷ついてもいいのだ、それを受け入れなければいけないのだと。昨日、涙を流して、今日はもう強がりな私に戻ってしまっているらしい。でもそれじゃ、だめなんだよね?つかさ。 「つかさは、双子の私がこなたを好きだって事、嫌がらないのね」 やっと体に力が入るようになったので、私はつかさの上から退き、その隣に座る。 「えへへっ、どうして嫌がると思うのかな~。そこが私にはわからないよ、お姉ちゃん」 それがわかる様になった時、つかさと私の関係も変わってしまうのだろうか。そんな事を考えていると、それが表情に出たらしくつかさが笑顔で 「大丈夫だよ、お姉ちゃん」 そう言う。何の根拠もないが、つかさがそう言うなら大丈夫なんだろうなぁ、そう思ってしまう。何時もそういう根拠のないつかさの“大丈夫だよ”を信じてしまう。私は、つかさの頭を軽く撫でながら、これからどうしようかと考えていた。言うべきだろうか、昨日の事は、覚悟を決めたつもりの軽はずみな行動に過ぎないはずだ。 「昨日の事は私の気持ちの暴走だっただけだから、やっぱりちゃんと告げたいな」 「こなちゃんに、もう一回言うの?」 つかさが不安げな表情をしていた。当然か、つかさの方がこなたとの付き合いは長いし、親友を心配するのは当たり前の事よね。 「私は、もう少しだけ我侭になりたくて。たぶん、つかさやみゆきにも迷惑をかけると思うんだけど・・・こめんね、つかさ」 「そうじゃない、そうじゃないんだよ!」 つかさが私の手を跳ね除けて、起き上がって、強く抱きしめてくる。何が、そうじゃないんだろう。 「こなちゃんにもう一回言って、傷つくお姉ちゃんをみるのは不安だけど・・・でもね、私やゆきちゃんに迷惑なんてそんなの考えちゃだめだよ、そんな事ないから!私じゃ頼りないかもしれないけど・・・けどね、信じて欲しいな、お姉ちゃん」 つかさはどうして、自分の事を頼りないだなんて言うんだろう。つかさって本当はとても頼りになるのに、本人が自覚していないんだろうな。目に見えない部分でと付け加えなくちゃいけないけど、でも、それはとても重要な事。 「つかさは頼りないなんて事ないのよ」 でも、私に言えるのはその一言だけだから。もっと上手く言えればいいんだけど、つかさが頼りなくない部分を言葉にするのは難しい。 「本当にそう思ってる?」 「思ってる・・・でも、つかさに相談しなかったのはそれとはまた違う思いがあったからなのよ」 実の姉が、自分の親友を好きだったら、しかもその相手がよりにもよって女性であったなんて知ったら、つかさが嫌がると思ったから、相談したくなかった。 「つかさはこなたの味方で、みゆきは私の味方・・・か。お互い友人には苦労してないわね・・・本当に」 思わず笑ってしまった。ようするに私が抱えていた悩みは最初から存在しなかったのだ。二人ともわかってくれている。日下部や峰岸にもその内、打ち明けなくちゃいけないことだけど、今は、私とこなたの事を考えよう。  それが全ての始まりになる気がするから・・・。そんな事を思い、考えを巡らせながら、未だ私に抱きついたままのつかさの頭を少し乱暴にクシャクシャと撫でていた。 ◆  私―泉 こなたは、一つどころではない懸案事項を抱えていた。なんて、某アニメの主人公っぽい人みたいな言い方をしても何も変わらない。眠たいのに昨日は上手く寝付けず、それでも疲れきると眠ってしまうのが人間って奴らしくってさ・・・今、起きたところなんだけど・・・何だか一歩も動く気になれませんよっと。まぁ、懸案事項って言ってもそんなに時間がたってないから言葉としては間違ってる気がしないでもないけど。 「どうすればいいんだろう」 こんな時につかさがいたら、なんて声をかけてくれたかな。やっぱり“大丈夫だよ、こなちゃん”かなぁ。でも、つかさの大丈夫って何処か説得力あるんだよね。  私に選べる選択肢はたぶん二つだけ。  一つは、つかさやみゆきさん・・・それからかがみを傷つけて、距離をおいてこの気持ちを胸にしまって封印してしまう事。それは、すごく寂しくて辛い事だけど、これから先のかがみの事やみんなの事を思えば、悪くない選択だと・・・私は思うんだ。  もう一つは、かがみに想いを告げてしまう事だ。かがみにはっきりと好きだって言う事でひらける道、その先はかがみの反応で変わるけど、そこは茶化したりフォローを入れれば何とか上手くやっていけるはずだから。 「はぁ、かがみ・・・」 昨日つけてもらって、そのまま着替えずに寝ちゃったから首にチョーカーは着けたまま。それのハートの部分を指でなぞる。正直いうと・・・どんなプレゼントより嬉しかった。そりゃ、欲しいグッズもあったけど・・・でも、かがみが私を、オタク以外の部分の私を見てくれた事が純粋に嬉しかった。それなのに、私はかがみを突き飛ばして逃げてしまった。 「かがみぃ・・・」 まさにそうつぶやいた瞬間だった、ドアが開いたのは・・・。 「おっす~、こなたぁ、ゆい姉さんだよ~」 「ゆ、ゆい姉さん、や、やふー」 びっくりして心臓が止まるかと思ったよ。ゆい姉さんの来襲は何時も突然だけど、考え事してる時は、さすがにびっくりするもんだねぇ。 「おやおや、物思いにふけってるねぇ、青春だねぇ」 「そ、そんなことないヨ?」 想いっきり声が裏返ってしまった。バレバレもいい所だヨ、何かで話題を逸らさないと、えっと何があったかな、あぁ、あれだ。 「昨日は、かがみを送ってくれたんだって?ありがとねー、ゆい姉さん」 「お礼を言われるようなことじゃないよー。警察官としての勤めというより大人の務めだからねぇ。でも、こなたにまでお礼を言われるとは思わなかったなぁ。昨日はかがみちゃんとデートだったのかな?いやーこなたに彼女がいたなんてお姉さんびっくりだ!」 しまった・・・地雷を自分で設置して踏んじゃった気分だよ。というか、突っ込み所は彼女がいたって所ですか!その前に“彼女がいた”という事に疑問を覚えないんですか、貴女は。と頭は冷静になっても、心のほうが狼狽してるみたいで言葉が引っかかってしまう。 「デ、デートじゃないよ!付き合ってないし・・・でも、喧嘩みたいになっちゃったけど」 まぁ、私が悪いんだけどね。これだけは謝っておかなくちゃいけないことだね。かがみを傷つけてでも、嫌われるにしても・・・ね。 「ふーん。まぁ、いいや~。こなたぁ、とりあえず漫画借りるね」 「好きなだけどうぞ、持ってって下さいなー。ちゃんと戻しといてねー」 「いやいやいや、今日はこなたに用があったから来たんだよ。そもそも、ゆたかはみなみちゃんの家にお泊りだしねぇ」 そういえば、昨日帰ってからゆーちゃんの姿を見てないし、ゆい姉さんも来なかったっけ。あんまり眠れなかった割に記憶が曖昧だなぁ。って、もうお昼過ぎてるんだ・・・何時もの事だけど、私って寝る時間不規則だ。 「ねーさんが私だけに用事って珍しいね」 「そ~んな事ないよぅ。何時もゆたかに会うついでにこなたに会ってる様に言わないでおくれよぉ」 いや、それはあながち嘘とも言えないと思うのですが・・・。でも、ゆい姉さんが私に用事って何だろう。 「ねーさん、用事って?」 気分転換になる話題だと思ったんだけど、世の中そんなに甘くはないみたいだ。 「いや~、ちょっと確認しときたいことがあってねぇ。お姉さん、あんまりはぐらかすの得意じゃないから単刀直入に聞いちゃうよ~?」 言葉遣いは何時もと同じだけど、声色にどこか真剣な響きが感じられた。そこで、私は、あぁ、かがみの事を聞かれるんだろうなぁと、どこか他人事の様に思った。今までが理解者が多すぎたのだ、そろそろそれを受け入れられない人間が出てきてもおかしくはないなと何時からか思っていたからかもしれない。だからなのか、気がついた時には、私から聞き返していた。 「かがみの事でしょ。ゆーちゃんがいないこのタイミングだとさ・・・他になさそうだしね、姉さん」 「そ~だよ、こなた。いや~かがみちゃんがこなたに告白しそうになってこなたを傷つけたって言ってたから・・・ちょっと気になったんだよ」 先ほどの真剣さはどこへ行ったのだろう。ゆい姉さんの声は何時も通りだった。もしかするとさっきも何時も通りだったのかもしれない。何を怖がっているんだろう、私。  でも、かがみが私を傷つけたってどういう事なんだろ。私がかがみを傷つけたはずなのに。 「こなたは、かがみちゃんの事、どう思ってるのかなぁって、聞きたくなっちゃって」 「それは、やっぱ真剣に答えた方がいいの?ここははぐらかした方がいいのかな」 「こなたの思った通りでいいよ~」 「というか、ねーさんは、私とかがみが付き合ってもいいと思ってるの?」 「う~ん、難しい問題だねぇ。でも、結局は当人同士の問題だからねぇ・・・」 中立的な意見は初めてかも知れない。当人同士の問題かぁ、確かにそうだけど、その他に感じる事はないのだろうか。 「ただ、世間の風は冷たいと思うよ~?だから私まで、こなたにとって冷たい風にはなりたくないな~って思うけどね」 「それは、もしも、そうなったとしてもねーさんは私の味方でいてくれるって事?」 「う~ん、絶対とは言えないけど味方にはなってあげたいねぇ。それはそうと、さっきの答えをまだ聞いてないよ~」 どういえばいいんだろう。正直、私は本当にかがみが好きかどうかわからなくなってきてる。かがみが好きと言いそうになれば突き飛ばしてしまったり、かがみがいないと寂しかったり・・・よくわからなくなってきてる気がするんだ。でも、このチョーカーを撫でると好きなのかも知れないって思えてきたりで頭の中で気持ちの整理がまったくできてなかったりするんだよネ。 「昨日までは凄く好きってそういう想いがあるんだって思ってた。でも、わかんなくなってきちゃってさ。自分の事なのに・・・」 それが今の私の本音だった。それに対して、ゆい姉さんからどんな答えが出てくるのか、ちょっと怖かった。 「なるほど~、こなたはかがみちゃんが好きなんだねぇ」 いや、わからなくなってるって言ったんですけど、姉さん聞いてくれてるのかな? 「いや、だから、わからなくなってきてるって言ったじゃん。ねーさん、話聞いてる?」 「好きな相手に告白もしないで本当に好きかどうかなんてわからないもんだよ~」 「そもそも、かがみはなんで私を傷つけたって思ったんだろう、ねーさんは何か聞いてない?」 「う~ん、そうだねぇ。そうだねぇ~・・・かがみちゃんは、たぶん、こなたが自分の事を好きだって思ってくれてる事にまだ気がついてないんじゃないかな。こなたからは一度も言ってないんだったよねぇ?」 そういえば、私からは一度も言ってない。寝込みに勝手に唇を奪ったりはしたけど、でもそれはかがみの記憶にない事だから。あの所為かどうかはわからないけど、あの後かがみは風邪ひいたんだったなぁ。ちょっと悪い事したなって思った気がする・・・唇を奪った事と風邪を感染しちゃった事。 「昨日のかがみちゃんの落ち込み様は凄かったから、ほっとけなくて車で送ったけどねぇ。きっと自分の事を責めちゃったんだと思うよ~」 「謝りたかったんだけど、かがみの携帯、繋がらなくてつかさに伝言頼んだよ」 「かがみちゃん、びしょびしょだったからねぇ・・・風邪ひいてないといいけど」 かがみ、大丈夫だろうか、凄く気にはなったのだが・・・電話をするのは少し怖かった。電話をして確認しようかと携帯を開いたが結局かけれなくて、明日の朝に待ち合わせ場所へ行けばわかる事だと強引に納得してから、今はどうするかを考えなくてはいけないと頭を切り替える。  そんな、私の様子を曖昧な表情でゆい姉さんが見ているのはわかったけれど、あえて私から声はかけなかったし、ゆい姉さんもかけてはこなかった。 「かがみ、ごめん・・・」 目を閉じて祈るようにゆい姉さんにも聞こえないような小さな声で呟いた。私にはこういう結論しか出せそうに無いから。そして、しばらく沈黙があり、ゆい姉さんが立ち上がって、読まずにページを捲っていただけの漫画を本棚に戻した。 「こなた、好きな想いってのはねぇ、意外と押さえ込めるものでもないよ。じゃ、私は帰るね~。明日がんばりなよ~」 「ねーさんも気をつけてねー」 好きな気持ちは押さえ込めないか。でも、押さえ込むしかないんだ。だって・・・。  私が突き飛ばしてしまっただけで、傷ついて落ち込んでしまう・・・そんな、かがみが世間の冷たい風に耐えられるだろうか。私の所為で、今、傷ついたとしてもそれは時間がきっと元に戻してくれるはず。でも、世間という冷たい風の吹く茨道を一緒に歩んで出来た傷は、時間でさえ癒せないかもしれない。  そりゃ、私だって、かがみを傷つけたくはない。けれど、そうしてでもお互いの想いを諦める方向に持っていこう。  きっと、つかさやみゆきさんに迷惑かけちゃうけど、でも・・・きっとそれが正しい答えなんだと私は思うんだ。かがみに、世間の冷たい風を、茨道を歩かせたくはないから。  ごめん、ごめんなさい・・・かがみ。大好きだけど・・・。  私の選んだ選択肢は、かがみを傷つけてしまうと思う。  首のチョーカーを指でなぞる。これが最後の思い出なんだ。そう思い噛み締めた。  かがみ・・・大好きだから・・・でも明日、貴女を傷つけてしまう事をどうか許して・・・。  ただ、一つ考えていなかった事があった。結論はでたけど、納得は出来ていなかったんだ。それほどまでに私は、柊かがみという人間を好きになっていた事実を。 ◆  久しぶりに、つかさと色んな事を話した。初恋の事、友達の事、これからの事、私がどういう答えを出せばいいのか、わからない事とか・・・全て。 「私は、できればこなちゃんにもお姉ちゃんにも傷ついて欲しくないな」 「それは無理だって・・・だって、もし付き合う事になったとしても傷つく事はあるだろうし」 「そしたら、私とゆきちゃんで手当てするよ。冷たい風に耐えられなくなったら、壁になるよ。だから、きっと大丈夫なんだよ」 「つかさもみゆきも・・・なんでそんなに積極的なんだか。でも、ありがたいわね」 心からそう思う。一番の心配がこの二人だったし、まだ日下部や峰岸には話せない。だから、とても心強かった。 「でも、実際どうすればいいのか、やっぱりわからないわね。普通に考えたら、やっぱり、友人としての関係を取り戻す事だけを考えた方がいいんだけど・・・」 きっと、それは難しい事だと思う。私は、どうしようもなく、泉こなたという一人の人間が好きだ。つかさに感じるものとも、みゆきに感じるものとも違う好きをこなたに抱いている。だから、この気持ちを無視して今更元通りなんて事にはならない。 「私はちゃんと言うべきだと思うな。こなちゃんは、たぶん・・・言えないと思うから。でも、本当はお姉ちゃんも同じなんだよね?」 「そうね・・・お互い傷つくのは自分だけでいい、一時の傷は時間が癒してくれる。つかさが言うように私とこなたが似たもの同士なら、そういう結論を選ぶと思うわ」 「でも、それじゃだめなんだよ。だって、どっちも傷ついて、きっと癒されないと思うから」 「つかさ、あんたは・・・また泣いちゃって」 私達は、私のベッドに並んで腰掛けている。涙を零し始めたつかさを軽く抱きしめる。この話を始めてから、この子はすぐに泣いてしまう。本当は私が流すべき涙を変わりに流してくれているのかもしれないわね。 「えへへっ、ごめんね、お姉ちゃん」 「いいのよ。それに私はもう決めたから・・・明日どうするかについてはね」 「どうするの?」 つかさの声が震えていた。それは怯えや不安とは違う、心配してくれているのだ。私が最悪の選択肢を選ばないように。 「とりあえず、こなたに気持ちをぶつける。私は素直じゃないから、素直にぶつけてみようと思うの。今度は突き飛ばされても、挫けずに・・・ね」 「それでいいの?」 「どうせ、このままじゃずっと止まったままだから、私とこなたの距離は、今のままじゃずっと変わらないから、気持ちをぶつけて縮まるか、遠くなるかはわからないけど」 でも・・・そう言って私は、言葉を止めて目を閉じた。昨日、こなたは“かがみは絶対そんな事を言わない”そう言っていた。だから想いは同じはずだと信じたい。伝わる可能性を信じたい。そんな事を考えながら、私は言葉を再び続ける。 「きっと、今よりはいいのよ。ただ、もしも遠くなってしまったら、みゆきとつかさはこなたの傍にいてあげてね」 それだけが心配な事だった。私にはまだ日下部や峰岸がいる。でも、こなたはどうなんだろう。せめて・・・一人で昼食をとるような事にならないで欲しい、誰かが傍にいてあげて欲しい。あいつは、私の事を寂しんぼうさぎと言ったけど、悪戯好きの子狐も寂しがり屋なのだから。  私は、こなたと一緒なら・・・ううん、つかさやみゆきにまだ他にも味方はいる。それだけいれば、たとえ世間が冷たい風になっても、進む道が茨道であっても、歩いていける。 こなたが傍にいてくれるなら、茨の道で傷ついたって構わない。  大好きな貴女がいれば、私は強くなれるから。だから大丈夫なんだ。  言おう、私の想いを。ぶつけよう、私の気持ちを・・・それをこなたが望んでいなくてもそこから始めるしか、私達に道は無いんだから。何があっても怯えるな、怖がるな。  決意を、想いを・・・強く固めて心をしっかりとして置かなければ。私がこなたならきっと、この選択はしない。相手を傷つけるのが嫌だから、自分が傷つく事よりも相手の傷を心配してしまうから。  だから、私は言うんだ。全てはそこから始まるんだと信じて。 [[何気ない日々:想い流るる日“固い決意、揺らぐ決意”]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(14)
何気ない日々:想い流るる前日“互いに違う答え”  あのまま、つかさの胸で泣いたまま眠ってしまったらしい。時計を見ると朝だった。もし、今日が日曜日で無かったら完全に遅刻だけどね。我ながら良く眠れたものだわ。 相変わらず雨は降っていて、つかさはつかさで、私を優しく抱きしめたまま眠っている。そんな私達の上には厚めのブランケットが掛けてあり、そのお陰で風邪をひかずにすんだ様だった。私が乗っかっていてもこの子は重くないのかしら、そんな言葉と共にずっと傍にいてくれたつかさに感謝の気持ちを送る。 「つかさに抱きついて泣きじゃくる日が来るなんて思わなかったなぁ」 私はまだつかさの上にいる。本当は退いてあげたいのだが、未だ昨日と同じように上手く力が入らないでいるのだ。それでも気になるものがあったので、私は手を伸ばしてそれを掴んだ。携帯電話・・・なんのアニメのキャラかわからないけど、ストラップが一つ。前にUFOキャッチャーに熱を入れて何も取れずに落ち込んでいた私に、こなたがストラップをとるタイプの奴でとってくれたのだ。それ以来、ちょっと恥ずかしかったりして、着けたりはずしたりだ。  携帯電話の方は、電源を押しても動かない、完全に水没したらしい。だからつかさにメールを送るしかなかったのね、こなたは。それだけの雨に打たれながら、私はよく風邪もひいてないものだ。昨日より、雨音は静かとはいえ今日も梅雨らしく土砂降りだ。 「う~・・・あ、お姉ちゃんおはよぉうぅぅ」 つかさが眠たそうに言う。お姉ちゃんでいないのは、ほんの少しの間だけという約束だから。私は彼女の姉だから、しっかりしなくてはいけない。でも、動けない。なんだか、体が硬直してしまったみたいに上手く力が入らなかった。力を入れる事も上手く出来なかった。雨に打たれて冷えすぎてしまった所為だろうか、その弊害が今頃やって来ているとは、何とも情けない。 「何だか、二人で寝たのは久しぶりだよねぇ~」 「この間、ホラー映画見た後、私の布団に潜りこんできてたでしょ?」 「えへへっ、そ、そうだったっけ」 「ごめん、つかさ。ちょっと今動けなくて、横に転がしてもまだベッドから落ちないから、そうやって起きてくれる?」 「う~ん、私はもうちょっとこのままでもいいよ~」 まだあんまり起きてないのかもしれない。つかさの目は開いてなかった。寝言で受け答えが出来るとは・・・我が妹ながら凄いわ。 「つかさは、私がこなたを好きだって言う事・・・どう思う?」 その質問を投げかけるとつかさの目はパッチリと開いた。そして、しばらく考え込んでいた。 「う~ん、本当はね、ゆきちゃんが言うような難しい事はわかんないなぁって。でも、お姉ちゃんとこなちゃんが好き同士ならそれでもいいかなって思うかな」 「女、同士なのよ?」 「私は、お姉ちゃんもこなちゃんもゆきちゃんも好きだし、そのゆきちゃんにはちょっと特別な気持ちもあるかも・・・」 ん・・・つかさ、あんたもしかして、みゆきの事を? 「それは、みゆきの事が好きなの?」 「う~ん、まだよくわかんないの。でもね、特別な好きじゃなくても、皆好きだから、力になりたい、頼りになれるようにがんばりたいなって思ったの」 でもね・・・そう言ってつかさは口を閉じた。そして目を瞑って言葉を探している様だった。 「お姉ちゃんはちゃんと、こなちゃんの事を考えてた?覚悟って言うのかな、そういうのしっかり胸にあった?」 つかさの言葉が胸に突き刺さる。決して冷たい言葉じゃないんだ、ただ、私はこなたの気持ちを考えるとか、覚悟を決めるとかぜんぜん出来てなかった。それだけの事だけど、つかさの言葉は胸に深々と突き刺さるようだった。痛いんじゃなくて、なんだろう・・・わからないな、わからないけど、罪悪感が広がっていく。 「こなたの事、たぶん考えられてなかったし、覚悟も決まってなかったかな。自分では、しっかり覚悟を決めたつもりだったのよ。でも、走って逃げるあいつを追いかけられなかった時点で、覚悟無いわよね」 そうだ、突き飛ばされた後に呆然として、その場にへたり込んでいた私に覚悟があっただなんて、冗談にも程があるわ。 「苦しいのはお姉ちゃんも、こなちゃんも同じだと思うんだ。どっちも、自分が傷ついてる事を考えないで、相手を傷つけてしまった事だけ考えてないかな?・・・似た者同士なんだよ、お姉ちゃんも、こなちゃんも」 そうかもしれない。突き飛ばされて当然の事をしたとはいえ、私も傷ついていたのかもしれない。でも、その痛みよりこなたを傷つけてしまった事の方が痛くて、苦しくて・・・だからかな、こんな考え方しか出来ない。 「私が傷ついていいはずないでしょ?こなたを傷つけたんだから」 そう、私は自分の身勝手でこなたを傷つけたのに、私の傷など気にしていいはずが無いんだ。それは自分勝手をした罰なのだから。 「う~ん、そうじゃなくて、えっと、その・・・」 つかさが返答に困っている。わかっているのだけど、素直じゃないわね・・・私。つかさが言いたい事はちゃんと理解している。私だって傷ついてもいいのだ、それを受け入れなければいけないのだと。昨日、涙を流して、今日はもう強がりな私に戻ってしまっているらしい。でもそれじゃ、だめなんだよね?つかさ。 「つかさは、双子の私がこなたを好きだって事、嫌がらないのね」 やっと体に力が入るようになったので、私はつかさの上から退き、その隣に座る。 「えへへっ、どうして嫌がると思うのかな~。そこが私にはわからないよ、お姉ちゃん」 それがわかる様になった時、つかさと私の関係も変わってしまうのだろうか。そんな事を考えていると、それが表情に出たらしくつかさが笑顔で 「大丈夫だよ、お姉ちゃん」 そう言う。何の根拠もないが、つかさがそう言うなら大丈夫なんだろうなぁ、そう思ってしまう。何時もそういう根拠のないつかさの“大丈夫だよ”を信じてしまう。私は、つかさの頭を軽く撫でながら、これからどうしようかと考えていた。言うべきだろうか、昨日の事は、覚悟を決めたつもりの軽はずみな行動に過ぎないはずだ。 「昨日の事は私の気持ちの暴走だっただけだから、やっぱりちゃんと告げたいな」 「こなちゃんに、もう一回言うの?」 つかさが不安げな表情をしていた。当然か、つかさの方がこなたとの付き合いは長いし、親友を心配するのは当たり前の事よね。 「私は、もう少しだけ我侭になりたくて。たぶん、つかさやみゆきにも迷惑をかけると思うんだけど・・・こめんね、つかさ」 「そうじゃない、そうじゃないんだよ!」 つかさが私の手を跳ね除けて、起き上がって、強く抱きしめてくる。何が、そうじゃないんだろう。 「こなちゃんにもう一回言って、傷つくお姉ちゃんをみるのは不安だけど・・・でもね、私やゆきちゃんに迷惑なんてそんなの考えちゃだめだよ、そんな事ないから!私じゃ頼りないかもしれないけど・・・けどね、信じて欲しいな、お姉ちゃん」 つかさはどうして、自分の事を頼りないだなんて言うんだろう。つかさって本当はとても頼りになるのに、本人が自覚していないんだろうな。目に見えない部分でと付け加えなくちゃいけないけど、でも、それはとても重要な事。 「つかさは頼りないなんて事ないのよ」 でも、私に言えるのはその一言だけだから。もっと上手く言えればいいんだけど、つかさが頼りなくない部分を言葉にするのは難しい。 「本当にそう思ってる?」 「思ってる・・・でも、つかさに相談しなかったのはそれとはまた違う思いがあったからなのよ」 実の姉が、自分の親友を好きだったら、しかもその相手がよりにもよって女性であったなんて知ったら、つかさが嫌がると思ったから、相談したくなかった。 「つかさはこなたの味方で、みゆきは私の味方・・・か。お互い友人には苦労してないわね・・・本当に」 思わず笑ってしまった。ようするに私が抱えていた悩みは最初から存在しなかったのだ。二人ともわかってくれている。日下部や峰岸にもその内、打ち明けなくちゃいけないことだけど、今は、私とこなたの事を考えよう。  それが全ての始まりになる気がするから・・・。そんな事を思い、考えを巡らせながら、未だ私に抱きついたままのつかさの頭を少し乱暴にクシャクシャと撫でていた。 ◆  私―泉 こなたは、一つどころではない懸案事項を抱えていた。なんて、某アニメの主人公っぽい人みたいな言い方をしても何も変わらない。眠たいのに昨日は上手く寝付けず、それでも疲れきると眠ってしまうのが人間って奴らしくってさ・・・今、起きたところなんだけど・・・何だか一歩も動く気になれませんよっと。まぁ、懸案事項って言ってもそんなに時間がたってないから言葉としては間違ってる気がしないでもないけど。 「どうすればいいんだろう」 こんな時につかさがいたら、なんて声をかけてくれたかな。やっぱり“大丈夫だよ、こなちゃん”かなぁ。でも、つかさの大丈夫って何処か説得力あるんだよね。  私に選べる選択肢はたぶん二つだけ。  一つは、つかさやみゆきさん・・・それからかがみを傷つけて、距離をおいてこの気持ちを胸にしまって封印してしまう事。それは、すごく寂しくて辛い事だけど、これから先のかがみの事やみんなの事を思えば、悪くない選択だと・・・私は思うんだ。  もう一つは、かがみに想いを告げてしまう事だ。かがみにはっきりと好きだって言う事でひらける道、その先はかがみの反応で変わるけど、そこは茶化したりフォローを入れれば何とか上手くやっていけるはずだから。 「はぁ、かがみ・・・」 昨日つけてもらって、そのまま着替えずに寝ちゃったから首にチョーカーは着けたまま。それのハートの部分を指でなぞる。正直いうと・・・どんなプレゼントより嬉しかった。そりゃ、欲しいグッズもあったけど・・・でも、かがみが私を、オタク以外の部分の私を見てくれた事が純粋に嬉しかった。それなのに、私はかがみを突き飛ばして逃げてしまった。 「かがみぃ・・・」 まさにそうつぶやいた瞬間だった、ドアが開いたのは・・・。 「おっす~、こなたぁ、ゆい姉さんだよ~」 「ゆ、ゆい姉さん、や、やふー」 びっくりして心臓が止まるかと思ったよ。ゆい姉さんの来襲は何時も突然だけど、考え事してる時は、さすがにびっくりするもんだねぇ。 「おやおや、物思いにふけってるねぇ、青春だねぇ」 「そ、そんなことないヨ?」 想いっきり声が裏返ってしまった。バレバレもいい所だヨ、何かで話題を逸らさないと、えっと何があったかな、あぁ、あれだ。 「昨日は、かがみを送ってくれたんだって?ありがとねー、ゆい姉さん」 「お礼を言われるようなことじゃないよー。警察官としての勤めというより大人の務めだからねぇ。でも、こなたにまでお礼を言われるとは思わなかったなぁ。昨日はかがみちゃんとデートだったのかな?いやーこなたに彼女がいたなんてお姉さんびっくりだ!」 しまった・・・地雷を自分で設置して踏んじゃった気分だよ。というか、突っ込み所は彼女がいたって所ですか!その前に“彼女がいた”という事に疑問を覚えないんですか、貴女は。と頭は冷静になっても、心のほうが狼狽してるみたいで言葉が引っかかってしまう。 「デ、デートじゃないよ!付き合ってないし・・・でも、喧嘩みたいになっちゃったけど」 まぁ、私が悪いんだけどね。これだけは謝っておかなくちゃいけないことだね。かがみを傷つけてでも、嫌われるにしても・・・ね。 「ふーん。まぁ、いいや~。こなたぁ、とりあえず漫画借りるね」 「好きなだけどうぞ、持ってって下さいなー。ちゃんと戻しといてねー」 「いやいやいや、今日はこなたに用があったから来たんだよ。そもそも、ゆたかはみなみちゃんの家にお泊りだしねぇ」 そういえば、昨日帰ってからゆーちゃんの姿を見てないし、ゆい姉さんも来なかったっけ。あんまり眠れなかった割に記憶が曖昧だなぁ。って、もうお昼過ぎてるんだ・・・何時もの事だけど、私って寝る時間不規則だ。 「ねーさんが私だけに用事って珍しいね」 「そ~んな事ないよぅ。何時もゆたかに会うついでにこなたに会ってる様に言わないでおくれよぉ」 いや、それはあながち嘘とも言えないと思うのですが・・・。でも、ゆい姉さんが私に用事って何だろう。 「ねーさん、用事って?」 気分転換になる話題だと思ったんだけど、世の中そんなに甘くはないみたいだ。 「いや~、ちょっと確認しときたいことがあってねぇ。お姉さん、あんまりはぐらかすの得意じゃないから単刀直入に聞いちゃうよ~?」 言葉遣いは何時もと同じだけど、声色にどこか真剣な響きが感じられた。そこで、私は、あぁ、かがみの事を聞かれるんだろうなぁと、どこか他人事の様に思った。今までが理解者が多すぎたのだ、そろそろそれを受け入れられない人間が出てきてもおかしくはないなと何時からか思っていたからかもしれない。だからなのか、気がついた時には、私から聞き返していた。 「かがみの事でしょ。ゆーちゃんがいないこのタイミングだとさ・・・他になさそうだしね、姉さん」 「そ~だよ、こなた。いや~かがみちゃんがこなたに告白しそうになってこなたを傷つけたって言ってたから・・・ちょっと気になったんだよ」 先ほどの真剣さはどこへ行ったのだろう。ゆい姉さんの声は何時も通りだった。もしかするとさっきも何時も通りだったのかもしれない。何を怖がっているんだろう、私。  でも、かがみが私を傷つけたってどういう事なんだろ。私がかがみを傷つけたはずなのに。 「こなたは、かがみちゃんの事、どう思ってるのかなぁって、聞きたくなっちゃって」 「それは、やっぱ真剣に答えた方がいいの?ここははぐらかした方がいいのかな」 「こなたの思った通りでいいよ~」 「というか、ねーさんは、私とかがみが付き合ってもいいと思ってるの?」 「う~ん、難しい問題だねぇ。でも、結局は当人同士の問題だからねぇ・・・」 中立的な意見は初めてかも知れない。当人同士の問題かぁ、確かにそうだけど、その他に感じる事はないのだろうか。 「ただ、世間の風は冷たいと思うよ~?だから私まで、こなたにとって冷たい風にはなりたくないな~って思うけどね」 「それは、もしも、そうなったとしてもねーさんは私の味方でいてくれるって事?」 「う~ん、絶対とは言えないけど味方にはなってあげたいねぇ。それはそうと、さっきの答えをまだ聞いてないよ~」 どういえばいいんだろう。正直、私は本当にかがみが好きかどうかわからなくなってきてる。かがみが好きと言いそうになれば突き飛ばしてしまったり、かがみがいないと寂しかったり・・・よくわからなくなってきてる気がするんだ。でも、このチョーカーを撫でると好きなのかも知れないって思えてきたりで頭の中で気持ちの整理がまったくできてなかったりするんだよネ。 「昨日までは凄く好きってそういう想いがあるんだって思ってた。でも、わかんなくなってきちゃってさ。自分の事なのに・・・」 それが今の私の本音だった。それに対して、ゆい姉さんからどんな答えが出てくるのか、ちょっと怖かった。 「なるほど~、こなたはかがみちゃんが好きなんだねぇ」 いや、わからなくなってるって言ったんですけど、姉さん聞いてくれてるのかな? 「いや、だから、わからなくなってきてるって言ったじゃん。ねーさん、話聞いてる?」 「好きな相手に告白もしないで本当に好きかどうかなんてわからないもんだよ~」 「そもそも、かがみはなんで私を傷つけたって思ったんだろう、ねーさんは何か聞いてない?」 「う~ん、そうだねぇ。そうだねぇ~・・・かがみちゃんは、たぶん、こなたが自分の事を好きだって思ってくれてる事にまだ気がついてないんじゃないかな。こなたからは一度も言ってないんだったよねぇ?」 そういえば、私からは一度も言ってない。寝込みに勝手に唇を奪ったりはしたけど、でもそれはかがみの記憶にない事だから。あの所為かどうかはわからないけど、あの後かがみは風邪ひいたんだったなぁ。ちょっと悪い事したなって思った気がする・・・唇を奪った事と風邪を感染しちゃった事。 「昨日のかがみちゃんの落ち込み様は凄かったから、ほっとけなくて車で送ったけどねぇ。きっと自分の事を責めちゃったんだと思うよ~」 「謝りたかったんだけど、かがみの携帯、繋がらなくてつかさに伝言頼んだよ」 「かがみちゃん、びしょびしょだったからねぇ・・・風邪ひいてないといいけど」 かがみ、大丈夫だろうか、凄く気にはなったのだが・・・電話をするのは少し怖かった。電話をして確認しようかと携帯を開いたが結局かけれなくて、明日の朝に待ち合わせ場所へ行けばわかる事だと強引に納得してから、今はどうするかを考えなくてはいけないと頭を切り替える。  そんな、私の様子を曖昧な表情でゆい姉さんが見ているのはわかったけれど、あえて私から声はかけなかったし、ゆい姉さんもかけてはこなかった。 「かがみ、ごめん・・・」 目を閉じて祈るようにゆい姉さんにも聞こえないような小さな声で呟いた。私にはこういう結論しか出せそうに無いから。そして、しばらく沈黙があり、ゆい姉さんが立ち上がって、読まずにページを捲っていただけの漫画を本棚に戻した。 「こなた、好きな想いってのはねぇ、意外と押さえ込めるものでもないよ。じゃ、私は帰るね~。明日がんばりなよ~」 「ねーさんも気をつけてねー」 好きな気持ちは押さえ込めないか。でも、押さえ込むしかないんだ。だって・・・。  私が突き飛ばしてしまっただけで、傷ついて落ち込んでしまう・・・そんな、かがみが世間の冷たい風に耐えられるだろうか。私の所為で、今、傷ついたとしてもそれは時間がきっと元に戻してくれるはず。でも、世間という冷たい風の吹く茨道を一緒に歩んで出来た傷は、時間でさえ癒せないかもしれない。  そりゃ、私だって、かがみを傷つけたくはない。けれど、そうしてでもお互いの想いを諦める方向に持っていこう。  きっと、つかさやみゆきさんに迷惑かけちゃうけど、でも・・・きっとそれが正しい答えなんだと私は思うんだ。かがみに、世間の冷たい風を、茨道を歩かせたくはないから。  ごめん、ごめんなさい・・・かがみ。大好きだけど・・・。  私の選んだ選択肢は、かがみを傷つけてしまうと思う。  首のチョーカーを指でなぞる。これが最後の思い出なんだ。そう思い噛み締めた。  かがみ・・・大好きだから・・・でも明日、貴女を傷つけてしまう事をどうか許して・・・。  ただ、一つ考えていなかった事があった。結論はでたけど、納得は出来ていなかったんだ。それほどまでに私は、柊かがみという人間を好きになっていた事実を。 ◆  久しぶりに、つかさと色んな事を話した。初恋の事、友達の事、これからの事、私がどういう答えを出せばいいのか、わからない事とか・・・全て。 「私は、できればこなちゃんにもお姉ちゃんにも傷ついて欲しくないな」 「それは無理だって・・・だって、もし付き合う事になったとしても傷つく事はあるだろうし」 「そしたら、私とゆきちゃんで手当てするよ。冷たい風に耐えられなくなったら、壁になるよ。だから、きっと大丈夫なんだよ」 「つかさもみゆきも・・・なんでそんなに積極的なんだか。でも、ありがたいわね」 心からそう思う。一番の心配がこの二人だったし、まだ日下部や峰岸には話せない。だから、とても心強かった。 「でも、実際どうすればいいのか、やっぱりわからないわね。普通に考えたら、やっぱり、友人としての関係を取り戻す事だけを考えた方がいいんだけど・・・」 きっと、それは難しい事だと思う。私は、どうしようもなく、泉こなたという一人の人間が好きだ。つかさに感じるものとも、みゆきに感じるものとも違う好きをこなたに抱いている。だから、この気持ちを無視して今更元通りなんて事にはならない。 「私はちゃんと言うべきだと思うな。こなちゃんは、たぶん・・・言えないと思うから。でも、本当はお姉ちゃんも同じなんだよね?」 「そうね・・・お互い傷つくのは自分だけでいい、一時の傷は時間が癒してくれる。つかさが言うように私とこなたが似たもの同士なら、そういう結論を選ぶと思うわ」 「でも、それじゃだめなんだよ。だって、どっちも傷ついて、きっと癒されないと思うから」 「つかさ、あんたは・・・また泣いちゃって」 私達は、私のベッドに並んで腰掛けている。涙を零し始めたつかさを軽く抱きしめる。この話を始めてから、この子はすぐに泣いてしまう。本当は私が流すべき涙を変わりに流してくれているのかもしれないわね。 「えへへっ、ごめんね、お姉ちゃん」 「いいのよ。それに私はもう決めたから・・・明日どうするかについてはね」 「どうするの?」 つかさの声が震えていた。それは怯えや不安とは違う、心配してくれているのだ。私が最悪の選択肢を選ばないように。 「とりあえず、こなたに気持ちをぶつける。私は素直じゃないから、素直にぶつけてみようと思うの。今度は突き飛ばされても、挫けずに・・・ね」 「それでいいの?」 「どうせ、このままじゃずっと止まったままだから、私とこなたの距離は、今のままじゃずっと変わらないから、気持ちをぶつけて縮まるか、遠くなるかはわからないけど」 でも・・・そう言って私は、言葉を止めて目を閉じた。昨日、こなたは“かがみは絶対そんな事を言わない”そう言っていた。だから想いは同じはずだと信じたい。伝わる可能性を信じたい。そんな事を考えながら、私は言葉を再び続ける。 「きっと、今よりはいいのよ。ただ、もしも遠くなってしまったら、みゆきとつかさはこなたの傍にいてあげてね」 それだけが心配な事だった。私にはまだ日下部や峰岸がいる。でも、こなたはどうなんだろう。せめて・・・一人で昼食をとるような事にならないで欲しい、誰かが傍にいてあげて欲しい。あいつは、私の事を寂しんぼうさぎと言ったけど、悪戯好きの子狐も寂しがり屋なのだから。  私は、こなたと一緒なら・・・ううん、つかさやみゆきにまだ他にも味方はいる。それだけいれば、たとえ世間が冷たい風になっても、進む道が茨道であっても、歩いていける。 こなたが傍にいてくれるなら、茨の道で傷ついたって構わない。  大好きな貴女がいれば、私は強くなれるから。だから大丈夫なんだ。  言おう、私の想いを。ぶつけよう、私の気持ちを・・・それをこなたが望んでいなくてもそこから始めるしか、私達に道は無いんだから。何があっても怯えるな、怖がるな。  決意を、想いを・・・強く固めて心をしっかりとして置かなければ。私がこなたならきっと、この選択はしない。相手を傷つけるのが嫌だから、自分が傷つく事よりも相手の傷を心配してしまうから。  だから、私は言うんだ。全てはそこから始まるんだと信じて。 [[何気ない日々:想い流るる日“固い決意、揺らぐ決意”]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - なんて、歯痒いのだろう。 &br()うるせーの一言でいろんなことを蹴散らして一緒になればいいのに。 &br() -- 774 (2014-07-20 23:28:24) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(16)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー