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聖なる夜に」(2023/06/22 (木) 07:52:08) の最新版変更点

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 ここで一度自分の気持ちを整理しておきたい。  結論から言おう。  私はこなたに恋愛感情を抱いている。  あまりに突飛過ぎるし、これまでの私の行動を考えれば無責任極まりない発想だと非難されても仕方が無いと自分でも思う。  こなたは自分の事を卑怯だと自嘲したが、それは違う。  ――本当の卑怯者は私だ。     「ふとしたことで~聖なる夜に~」  私は、心のどこかでこなたに好意を抱いていた。  だけど、同性愛なんて誰も認めてくれないという私の現実的な考え方が、その感情を無意識の内に拒絶していた。  そして、その感情に自分自身が気付かないように、私は全てを騙して過ごしてきたのだ。  正真正銘の初恋の相手であるけんたとの再会は、そんな私にとって好都合以外の何者でも無かったのだろう。  私はこなたへの恋愛感情を誤魔化す為に――こなたの代替として、けんたに恋愛感情を抱いているように思い込んだのだ。  こなたに告白された時、私があれほど恐怖したのは、それを自覚する事に深く恐れを抱いていたからに違いない。  私は最低な人間だ。  今までの行動に反吐が出そうになる。  自分自身の気持ちから逃げ出して、気心知れた幼なじみの純情を利用して、自分が傷つきたく無いが為に、こなたを――皆を現在進行形で傷つけている。  自分の気持ちと向き合って、最終的にその想いを意中の相手に伝え切ったこなたは卑怯者でもなんでもない。  本当の卑怯者は私なのだから。  12月24日。  私はこなたを選ばずに、けんたと二人で過ごす道を選択する――。 §  洗面台で私は家を出る前の最後の身だしなみのチェックをする。  精一杯のおめかしはしたつもりだ。  ――その内面はどうしようもなく醜いのだけれど……。 「…全く、そのトシで妙に色気付いちゃって…」  背後から、まつり姉さんが寝癖の付いた髪を掻き揚げながら私にいちゃもんを付けてくる。 「いいじゃない…。別に…」 「まぁ、別に良いけどね~。それよりもさ、知ってる? デートでランドに行ったカップルは別れるっていうジンクスがあるんだけどさぁ――」 「こら、まつり。大事なデートの日なのに、そんな不安にさせるような事言っちゃダメじゃない」  横から顔を出したお母さんが、やっかみを入れるまつり姉さんを軽く説教する。 「かがみ、時間の方は大丈夫なの?」  お母さんにそう言われ、私は腕時計を確認する。 「いっけない! そろそろ出ないと電車に乗り遅れちゃう」  急ぎ足で洗面台を出た私は、玄関先であの日以来会話らしい会話が出来なくなったつかさと遭遇した。  でも、今はつかさに構っている時間も無い。 「お姉ちゃん」  何も声を掛けず、黙々と靴を履いて出て行こうとする私をつかさが呼び止めた。  私はビックリして後ろを振り返る。 「…何?」 「……頑張ってね」  何か言いたそうな顔をしたままのつかさは、多くは語らず、ただそれだけを私に伝えた。 「……ありがとう」  私はそんなつかさに、微笑みの表情を作ると、ゆっくりと玄関のドアを開けた。  家に帰ったら、つかさと仲直りしよう。  その思いだけは強く心に秘めて――。 §  待ち合わせ場所の北千寿駅のホームで、私はまだ現れないけんたの姿を探す。  思えば、私がけんたと再会したのもこのホームだった。  秋葉で買った大量の荷物を持っていたこなたのせいで、電車に乗り遅れてしまい、次の電車に乗った時に出会った偶然のような運命のような出会い。  …もしも、あの時、乗り遅れた筈の電車に乗れていたとしたら――私達の運命はどうなっていたのだろう?  誰も苦しめず、誰も傷つけず、何も変わらない幸せな日常がずっとずっと続いていたのだろうか…?  そこまで考えて、私はこの思考を一旦ストップさせた。  けんたがやって来たのだ。 「おっす、かがみ」 「うん、おはよう…」 「ん? どうした、俺の格好がまずかったか?」 「い、いや、別にそんな事は無いと思うけど…」 「そういう時は、お世辞でも良いから似合ってるとか言ってくれよ…」 「あっ…ごめん」 「まぁ、別に良いけどさ。それじゃあ、行こっか?」 「うん」  何の屈託も無いけんたの笑顔を見ると、私はなんて矮小な存在なんだろうと思う。  でも、もう後戻りは出来ない。  私は、茨の道ではなく、平穏無事な道を選んだ。  例え、それが偽りの自分を作り上げる行為だったとしても――。 「…手、繋ごっか」 「おっ、珍しいな。かがみからそんな事言ってくるなんて」 「ふふっ、たまには私もそういう気分になる時があるわよ」 「あはは…、じゃあ、お言葉に甘えて…」  ――せめての罪滅ぼしとして、私はけんたの理想の恋人像に近い存在になれたら…。  そう心に誓う私の左手に、自分の物ではない別の温もりが加わった。 §  それからの私は、順調に、円満に、デートという名のイベントをこなしていった。  場所が世界有数の巨大テーマパークというだけあって、特有のアトラクションや、隅々までお客を楽しませようとする演出、クリスマスらしいデコレーションの全てが一級品だった。  日時が日時だけに、園内の至る所にカップルが居て、アトラクションの待ち時間もそれなりに長かったけれど、それを差し引いても、私は一定の満足をしていた。  …それなのに、腕時計の時針が進むにつれ、私の意識は次第に散漫になっていった。  ――もしも、私の気持ちに応えてくれるなら、イブの日の午後8時に、糟日部駅の近くにある中央公園に来て欲しい…。  忘れたくても忘れられない、今にも泣き出しそうな、壊れそうな表情で微笑むこなたの姿が何度も私の脳裏を過ぎっていく。  既に太陽は沈み、園内では豪華絢爛な光のイルミネーションが暖かく彩っている。  こんな華やかさとは対照的な、暗い寒空の下で、アイツは私が現れるのをずっと一人で待ち続けるのだろうか……? 「…かがみ?」 「えっ!? な、なに…?」  つい、思案に耽ってしまっていた私は、けんたの声で現実世界に戻ってくる。 「ひょっとしてつまらなかったか? 今日のデート。…なんか、さっきから時計ばっかり気にしてるし…」 「そっ、そんな事無いわよ! ただ、ちょっとハシャギ過ぎて疲れちゃったかな…って思っただけで…」 「そうか……。じゃあ、ちょっとどこかで休憩しようか? あと一時間ぐらいしたらナイトパレードが始まるから、その時の為に体力を温存させておかないといけないしな」 「うん…。ごめんね」  私の手を引き、気にするなよ、と笑うけんたの姿すらも、今の私にとっては罪悪感を煽るスパイスにしかならない。  その時、周囲の人々から嘆声が上がった。 「雪だ……」  そう呟いたけんたの声に驚いて、私は空を見上げる。  そこには、誰もがドラマチックだと感じるくらいの、大きな氷の結晶が空を舞い踊っていた。 §  幻想的な光景が、私の目の前をゆっくりと、そして何度も駆け抜けていく。  漆黒の闇を切り裂く多彩な光のイルミネーションと、激しく舞い落ちる粉雪のコントラストが、聖なる夜のパレードを最高のショーへと仕立て上げる。  吹雪の寒さを掻き消すように、巻き上がる歓声。  この世界には、あらゆる夢と希望が詰まっているように感じた。  このまま、時が止まってしまえば良いのに…。 「…俺、今日ここに来れて良かったよ…」  満足そうに微笑みながら、けんたが私の方に顔を向けて、そう呟く。 「うん…。私もそう思う」  私も同じぐらいの笑顔を作って、そう返答する。 「そう言ってくれると凄く嬉しいよ。…こんな最高の場所に、かがみを連れて来れて本当に良かったよ…」  私は何も言わず、ただそれに頷いた。 「なぁ、かがみ」  また視線をパレードの方に戻そうとした私を、穏やかな表情をしたままのけんたが呼び止める。 「ん、なぁに?」 「……別れよっか」 「えっ…?」  私はけんたが何を言ってるのか理解できなかった。 「…冗談にしても、笑えないわよ。それ」 「悪いけど、冗談じゃないんだ…」  頭の中が真っ白になって、何の言葉も紡ぎ出せない私とは対照的に、けんたの表情は寒さで凍ってしまったんじゃないかと思うぐらいに、穏やかなままだった。  そして、変わらない表情のまま、決定的な一言を告げた。 「…好きなんだろ? あの娘のこと」 「っ!?」 「やっぱり図星だったか…」  驚愕する私の姿を見て、ようやくけんたの笑顔に陰りが見えた。 「……な、なんで……?」  なんで、分かったの? と聞こうとした私だったが、あまりの衝撃に上手く言葉を繋げる事が出来ない。 「ん? まぁ、な…」  言葉を濁したけんたは、苦笑しながら私の頭に手をポンと乗せた。 「損な役回りだよな、幼なじみってのは…。知りたい事だけじゃなくて、知りたくない事までもすぐに分かっちまう……」  固唾を呑む私に、けんたは更に続ける。 「時間を気にしてた所から察するに、待ち合わせがあるんだろ? …行って来てやれよ」 「…でも、私はけんたの事を――」  それ以上は言うな、とけんたは人差し指で私の唇を塞いだ。 「――そりゃ、俺だってかがみがこのまま俺を選んでくれるなら素直に嬉しいよ。エゴイストだのなんだの言われても、俺はそれだけかがみの事が好きだし、俺に付いて来てくれるのなら、幸せにしてやれる自信もある。でもさ、お前、前に言ってたじゃないか、『もう二度と後悔するような事はしたくない』って」 「あっ……」 「最後にどうするのかを決めるのはお前の意思だ。でも、俺はお前に後悔だけはして欲しくない。それが俺の最後の願いだ……」  そう告げると、けんたはくるりと私から背を向けた。  そして、そのまま私の元を離れていく……。  こうして、全ての選択権は私に委ねられた。  脳裏に浮かぶのは、糟日部の公園で一人寂しく私を待ち続けるこなたの姿。  そして、カップル達が楽しそうにパレードを見つめる中で、寂しげな背中を見せて私から去っていくけんたの姿。  私は――。 -[[静かな夜に]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - けんた・・・・この男こそ真の日本男児と言えよう。 こんなしっかりした男は今の時代に何人いるのだろうか? -- 名無しさん (2012-08-17 23:57:01) - 作者にやられた!ちょっとこの段階でのかがみの設定を考えながら最初から読み直してくる! &br()お約束ですが、あたし男だけどけんたくんに惚れた! -- 名無しさん (2009-06-01 02:47:11) - けんた・・男前だな~~ &br()かがみの選択が気になって気になって。 &br()とりあえず、かがみにもこなたにも幸せを・・・どうか。 -- 名無しさん (2009-03-01 11:56:15) - うむ 続き期待 &br()こなたのほうにいくのか(こなかがスレ的に いや、しかし親友でいることもある意味こなかがか、こなかがorかがこな好き的にはハッピーエンドだったらいいなぁw シリアス系は苦手だww &br()続きどうなることか期待していますw -- 名無しさん (2009-03-01 08:52:06) - かがみがこなたに恋愛感情を持つ(あるいは気付く)のはもう少し後かと思ってましたが既にあったんですね〜。でも素直にこなたを選ばない可能性なくないですから次回作楽しみにしてます! -- 名無しさん (2009-02-28 15:13:57) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(4)
 ここで一度自分の気持ちを整理しておきたい。  結論から言おう。  私はこなたに恋愛感情を抱いている。  あまりに突飛過ぎるし、これまでの私の行動を考えれば無責任極まりない発想だと非難されても仕方が無いと自分でも思う。  こなたは自分の事を卑怯だと自嘲したが、それは違う。  ――本当の卑怯者は私だ。     「ふとしたことで~聖なる夜に~」  私は、心のどこかでこなたに好意を抱いていた。  だけど、同性愛なんて誰も認めてくれないという私の現実的な考え方が、その感情を無意識の内に拒絶していた。  そして、その感情に自分自身が気付かないように、私は全てを騙して過ごしてきたのだ。  正真正銘の初恋の相手であるけんたとの再会は、そんな私にとって好都合以外の何者でも無かったのだろう。  私はこなたへの恋愛感情を誤魔化す為に――こなたの代替として、けんたに恋愛感情を抱いているように思い込んだのだ。  こなたに告白された時、私があれほど恐怖したのは、それを自覚する事に深く恐れを抱いていたからに違いない。  私は最低な人間だ。  今までの行動に反吐が出そうになる。  自分自身の気持ちから逃げ出して、気心知れた幼なじみの純情を利用して、自分が傷つきたく無いが為に、こなたを――皆を現在進行形で傷つけている。  自分の気持ちと向き合って、最終的にその想いを意中の相手に伝え切ったこなたは卑怯者でもなんでもない。  本当の卑怯者は私なのだから。  12月24日。  私はこなたを選ばずに、けんたと二人で過ごす道を選択する――。 §  洗面台で私は家を出る前の最後の身だしなみのチェックをする。  精一杯のおめかしはしたつもりだ。  ――その内面はどうしようもなく醜いのだけれど……。 「…全く、そのトシで妙に色気付いちゃって…」  背後から、まつり姉さんが寝癖の付いた髪を掻き揚げながら私にいちゃもんを付けてくる。 「いいじゃない…。別に…」 「まぁ、別に良いけどね~。それよりもさ、知ってる? デートでランドに行ったカップルは別れるっていうジンクスがあるんだけどさぁ――」 「こら、まつり。大事なデートの日なのに、そんな不安にさせるような事言っちゃダメじゃない」  横から顔を出したお母さんが、やっかみを入れるまつり姉さんを軽く説教する。 「かがみ、時間の方は大丈夫なの?」  お母さんにそう言われ、私は腕時計を確認する。 「いっけない! そろそろ出ないと電車に乗り遅れちゃう」  急ぎ足で洗面台を出た私は、玄関先であの日以来会話らしい会話が出来なくなったつかさと遭遇した。  でも、今はつかさに構っている時間も無い。 「お姉ちゃん」  何も声を掛けず、黙々と靴を履いて出て行こうとする私をつかさが呼び止めた。  私はビックリして後ろを振り返る。 「…何?」 「……頑張ってね」  何か言いたそうな顔をしたままのつかさは、多くは語らず、ただそれだけを私に伝えた。 「……ありがとう」  私はそんなつかさに、微笑みの表情を作ると、ゆっくりと玄関のドアを開けた。  家に帰ったら、つかさと仲直りしよう。  その思いだけは強く心に秘めて――。 §  待ち合わせ場所の北千寿駅のホームで、私はまだ現れないけんたの姿を探す。  思えば、私がけんたと再会したのもこのホームだった。  秋葉で買った大量の荷物を持っていたこなたのせいで、電車に乗り遅れてしまい、次の電車に乗った時に出会った偶然のような運命のような出会い。  …もしも、あの時、乗り遅れた筈の電車に乗れていたとしたら――私達の運命はどうなっていたのだろう?  誰も苦しめず、誰も傷つけず、何も変わらない幸せな日常がずっとずっと続いていたのだろうか…?  そこまで考えて、私はこの思考を一旦ストップさせた。  けんたがやって来たのだ。 「おっす、かがみ」 「うん、おはよう…」 「ん? どうした、俺の格好がまずかったか?」 「い、いや、別にそんな事は無いと思うけど…」 「そういう時は、お世辞でも良いから似合ってるとか言ってくれよ…」 「あっ…ごめん」 「まぁ、別に良いけどさ。それじゃあ、行こっか?」 「うん」  何の屈託も無いけんたの笑顔を見ると、私はなんて矮小な存在なんだろうと思う。  でも、もう後戻りは出来ない。  私は、茨の道ではなく、平穏無事な道を選んだ。  例え、それが偽りの自分を作り上げる行為だったとしても――。 「…手、繋ごっか」 「おっ、珍しいな。かがみからそんな事言ってくるなんて」 「ふふっ、たまには私もそういう気分になる時があるわよ」 「あはは…、じゃあ、お言葉に甘えて…」  ――せめての罪滅ぼしとして、私はけんたの理想の恋人像に近い存在になれたら…。  そう心に誓う私の左手に、自分の物ではない別の温もりが加わった。 §  それからの私は、順調に、円満に、デートという名のイベントをこなしていった。  場所が世界有数の巨大テーマパークというだけあって、特有のアトラクションや、隅々までお客を楽しませようとする演出、クリスマスらしいデコレーションの全てが一級品だった。  日時が日時だけに、園内の至る所にカップルが居て、アトラクションの待ち時間もそれなりに長かったけれど、それを差し引いても、私は一定の満足をしていた。  …それなのに、腕時計の時針が進むにつれ、私の意識は次第に散漫になっていった。  ――もしも、私の気持ちに応えてくれるなら、イブの日の午後8時に、糟日部駅の近くにある中央公園に来て欲しい…。  忘れたくても忘れられない、今にも泣き出しそうな、壊れそうな表情で微笑むこなたの姿が何度も私の脳裏を過ぎっていく。  既に太陽は沈み、園内では豪華絢爛な光のイルミネーションが暖かく彩っている。  こんな華やかさとは対照的な、暗い寒空の下で、アイツは私が現れるのをずっと一人で待ち続けるのだろうか……? 「…かがみ?」 「えっ!? な、なに…?」  つい、思案に耽ってしまっていた私は、けんたの声で現実世界に戻ってくる。 「ひょっとしてつまらなかったか? 今日のデート。…なんか、さっきから時計ばっかり気にしてるし…」 「そっ、そんな事無いわよ! ただ、ちょっとハシャギ過ぎて疲れちゃったかな…って思っただけで…」 「そうか……。じゃあ、ちょっとどこかで休憩しようか? あと一時間ぐらいしたらナイトパレードが始まるから、その時の為に体力を温存させておかないといけないしな」 「うん…。ごめんね」  私の手を引き、気にするなよ、と笑うけんたの姿すらも、今の私にとっては罪悪感を煽るスパイスにしかならない。  その時、周囲の人々から嘆声が上がった。 「雪だ……」  そう呟いたけんたの声に驚いて、私は空を見上げる。  そこには、誰もがドラマチックだと感じるくらいの、大きな氷の結晶が空を舞い踊っていた。 §  幻想的な光景が、私の目の前をゆっくりと、そして何度も駆け抜けていく。  漆黒の闇を切り裂く多彩な光のイルミネーションと、激しく舞い落ちる粉雪のコントラストが、聖なる夜のパレードを最高のショーへと仕立て上げる。  吹雪の寒さを掻き消すように、巻き上がる歓声。  この世界には、あらゆる夢と希望が詰まっているように感じた。  このまま、時が止まってしまえば良いのに…。 「…俺、今日ここに来れて良かったよ…」  満足そうに微笑みながら、けんたが私の方に顔を向けて、そう呟く。 「うん…。私もそう思う」  私も同じぐらいの笑顔を作って、そう返答する。 「そう言ってくれると凄く嬉しいよ。…こんな最高の場所に、かがみを連れて来れて本当に良かったよ…」  私は何も言わず、ただそれに頷いた。 「なぁ、かがみ」  また視線をパレードの方に戻そうとした私を、穏やかな表情をしたままのけんたが呼び止める。 「ん、なぁに?」 「……別れよっか」 「えっ…?」  私はけんたが何を言ってるのか理解できなかった。 「…冗談にしても、笑えないわよ。それ」 「悪いけど、冗談じゃないんだ…」  頭の中が真っ白になって、何の言葉も紡ぎ出せない私とは対照的に、けんたの表情は寒さで凍ってしまったんじゃないかと思うぐらいに、穏やかなままだった。  そして、変わらない表情のまま、決定的な一言を告げた。 「…好きなんだろ? あの娘のこと」 「っ!?」 「やっぱり図星だったか…」  驚愕する私の姿を見て、ようやくけんたの笑顔に陰りが見えた。 「……な、なんで……?」  なんで、分かったの? と聞こうとした私だったが、あまりの衝撃に上手く言葉を繋げる事が出来ない。 「ん? まぁ、な…」  言葉を濁したけんたは、苦笑しながら私の頭に手をポンと乗せた。 「損な役回りだよな、幼なじみってのは…。知りたい事だけじゃなくて、知りたくない事までもすぐに分かっちまう……」  固唾を呑む私に、けんたは更に続ける。 「時間を気にしてた所から察するに、待ち合わせがあるんだろ? …行って来てやれよ」 「…でも、私はけんたの事を――」  それ以上は言うな、とけんたは人差し指で私の唇を塞いだ。 「――そりゃ、俺だってかがみがこのまま俺を選んでくれるなら素直に嬉しいよ。エゴイストだのなんだの言われても、俺はそれだけかがみの事が好きだし、俺に付いて来てくれるのなら、幸せにしてやれる自信もある。でもさ、お前、前に言ってたじゃないか、『もう二度と後悔するような事はしたくない』って」 「あっ……」 「最後にどうするのかを決めるのはお前の意思だ。でも、俺はお前に後悔だけはして欲しくない。それが俺の最後の願いだ……」  そう告げると、けんたはくるりと私から背を向けた。  そして、そのまま私の元を離れていく……。  こうして、全ての選択権は私に委ねられた。  脳裏に浮かぶのは、糟日部の公園で一人寂しく私を待ち続けるこなたの姿。  そして、カップル達が楽しそうにパレードを見つめる中で、寂しげな背中を見せて私から去っていくけんたの姿。  私は――。 -[[静かな夜に]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (T ^ T)b -- 名無しさん (2023-06-22 07:52:08) - けんた・・・・この男こそ真の日本男児と言えよう。 こんなしっかりした男は今の時代に何人いるのだろうか? -- 名無しさん (2012-08-17 23:57:01) - 作者にやられた!ちょっとこの段階でのかがみの設定を考えながら最初から読み直してくる! &br()お約束ですが、あたし男だけどけんたくんに惚れた! -- 名無しさん (2009-06-01 02:47:11) - けんた・・男前だな~~ &br()かがみの選択が気になって気になって。 &br()とりあえず、かがみにもこなたにも幸せを・・・どうか。 -- 名無しさん (2009-03-01 11:56:15) - うむ 続き期待 &br()こなたのほうにいくのか(こなかがスレ的に いや、しかし親友でいることもある意味こなかがか、こなかがorかがこな好き的にはハッピーエンドだったらいいなぁw シリアス系は苦手だww &br()続きどうなることか期待していますw -- 名無しさん (2009-03-01 08:52:06) - かがみがこなたに恋愛感情を持つ(あるいは気付く)のはもう少し後かと思ってましたが既にあったんですね〜。でも素直にこなたを選ばない可能性なくないですから次回作楽しみにしてます! -- 名無しさん (2009-02-28 15:13:57) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(4)

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