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0の関係、1の感情」(2023/06/22 (木) 07:44:05) の最新版変更点

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 私はかがみに“望まないキス”をした。  これから私達の関係がどう変化したとしても、その事実だけは永遠に消えないだろう。  それでも私は、前へと進まなければならない。  それが、マイナスとなってしまっている今の関係をリセットし、何も無いゼロの関係に戻る事になったとしても…。  ――今日、私はかがみに想いを告げる。     「ふとしたことで~0の関係、1の感情~」  終業式の日。全校集会での校長と生活指導の教師の無駄に長い話を耐え凌ぎ、これから始まるHRを適当にこなせば、いよいよ待ちに待った冬休みが幕を開ける。  学校中の雰囲気が冬休みムード一色に染まる中で、私は携帯電話とひらすら格闘を続けていた。  ディスプレイに表示される『送信しますか?』という文字列と、『はい』に合わされたカーソル。  『放課後、屋上まで来て』と簡潔に済ませた本文と、『柊かがみ』と表示された宛先が、私の親指にボタンを押させるのを躊躇わせる。 「…決着を付けるんですね?」  不意に背後から声を掛けられ振り向くと、優しげな表情で私を見つめるみゆきさんの姿と、複雑な表情で私を見つめるつかさの姿があった。  私は笑顔を作り、首を力強く縦に振ってそれに答えた。  みゆきさんがそうですか、と穏やかに微笑む。 「…私は、ゆきちゃんみたいに素直にこなちゃんの事を応援出来ないかもしれない」  つかさが意を決したかのように、私にそう告げる。 「私にとっては、けんちゃんも大切な友達に代わりは無いから、どっちの味方にもなれない。…でも、お姉ちゃんがどちらを選んだとしても、私はずっとこなちゃんの友達だからね」 「私もだよ、つかさ」  辛そうな顔をするつかさに、私は優しく微笑みかけた。  多分、今回の事で一番心を痛めたのはつかさなんだろうなと私は思う。  誰かを喜ばせたい、幸せにしたい。ただそれだけの思いでやったことが、逆に周りを傷つける結果になるなんて誰が想像するだろうか?  思えば、私達四人がこうして仲良くなれたのも、私とつかさのふとした出会いがきっかけだったんだ。  私はつかさに感謝したい。  あなたのお陰で、私はかがみに逢えたのだから…。 「じゃあ、押すよ」  私は二人にそう確認を取ると、携帯電話の決定ボタンを押した。 §  こなたはどうして私にキスなんかしたのだろう?  最近、私はそんな事ばかり考えている。  最初は熱のせいで正常な判断が出来ず、悪戯の延長線上で起きた出来事だと決め付けていた。  でも、それならこなたはすぐに自らの非を認めて謝りに来る筈だ。  少なくとも、廊下で私とすれ違った途端に逃げ出す程、臆病な行動を取るとは到底思えない。  なら、なぜあいつは私を避けるのか?  色々考えた末に、私はある一つの仮定に辿り着く。  …もしかして、私が最初に決め付けていた「単なる悪戯」という前提条件が間違っているのではないか、と。  もしも、あれが純粋な悪戯等ではなくて、恋煩いの末の暴走行動だったとしたら――。  そこまで考えて、ありえないと私はその仮定を全否定した。  世の中にはそういう恋愛を好む人々も居るし、その事自体を私は否定しようとは思わない。  確かに、あいつは女のくせに男のオタク同然の嗜好をしている。  ただ、だからといって、こなたがそういうシュミを持っていると考えるのは、あまりにも馬鹿げてると私は思う。  ましてや、その対象が私だなんて――。 「お~い、柊。さっきからケータイ鳴ってるぞ~」  なかなか結論が出ずに難航していた私の思考は、日下部の言葉によって遮られた。 「えっ? あっ、ホントだ…」  こんな休み時間の合間に誰からだろう?  そんな軽い気持ちで携帯電話を開いた私は、画面に表示された『送信者:泉こなた』の文字を見て、固まった。 『放課後、屋上まで来て』  簡潔に用件だけ書かれた本文に、私は震える手で『わかった。』とだけ、返信した。 §  ――いいか、こなた。人にはな、ダメだと分かっていてもやらなきゃいけない時があるんだ。  ――でも、かがみはもう…。  ――確かに、かがみちゃんにはもう彼氏が居て、いくらこなたがかがみちゃんの事を想っていても、かがみちゃんが同じ感情を持っていなきゃ、その恋は叶わないかもしれない。でもな、今ここで自分の気持ちを伝えられなかったら、いつかきっと後悔する事になる。お前はそれで良いのか?  ――いやだ。かがみに「好きだ」って伝えたい。自分の気持ちを伝えて、かがみと色んな所に行って、色んな話をして……ずっと一緒に居たい……。  ――それなら、まずは行動しないとな。  ――……うん。  あの日のお父さんの言葉で、私はようやく前に進む勇気を手に入れた。  これから私が起こす行動は、儀式のようなものだと思ってる。  私とかがみの関係を一旦全て清算して、また1からやり直す。  …いや、1に戻すだけじゃ、また同じような間違いを犯してしまう。  だから、これは0に戻す為の儀式なのだ。  0にすれば、友情という名の足し算でプラスの数字にはなるけれど、恋愛という掛け算はいくらやっても0のままだ。  だから――。 「こなた」  背後から懐かしい声が聴こえた。  その瞬間、溢れ出しそうになった感情を必死に抑止して、私は努めて穏やかに後ろを振り返った。 「久しぶりだね、かがみ」  1ヶ月ぶりにようやく直視する事の出来たかがみの顔は、緊張感からなのか、それともまた何かされるんじゃないだろうかという恐怖感からなのだろうか、普段の表情とはかけ離れた、とても強張った表情をしていて――私は改めて、自分のやってしまった事の大きさを噛み締めた。 § 「…話って、なに?」  自分でも声が震えているのが良く分かる。  久しぶりに見たこなたの表情は、以前よりも大人びていて、どこか悲しげだった。  私の脳裏に、嫌な予感が去来する。  私は何を怖がっているのだろう?  もし、あの仮定が現実の物として私に直面したとしても、私にはもう付き合っている人が居ると断れば良いだけなのに…。 「うん…。話したい事は色々あるんだけどね…」  そんな私の葛藤に気付かないまま、こなたは本題に入ろうとする。  私の緊張感が一気に高まっていく。 「…一番先に、かがみに謝らなきゃいけないよね…。この前はごめんね、かがみの気持ちを踏み躙るような事をして…。本当に、ごめんなさい」  こなたはそう言うと、真摯な態度で頭を下げた。  …どうやら、この謝罪にはそれ以上の意味は無さそうだ。  それを確認した私は、軽く胸を撫で下ろした。 「うん。私の方こそごめん。熱出して倒れそうだったのに、ビンタした上に、こなたの事を放って帰るような事をして…」 「それは仕方ないよ。あんな事をした私が悪かったんだし…」  …うん、今の所は順調に話が進んでいる。  このまま、今までのように友達で居ようと私が希望して、こなたがそれに同意すれば、私の抱いていた懸念は全て解消される…。 「ううん。私の方も、あの時は感情的になり過ぎてたから…。だから、もう全部水に流して今まで通りの関係に戻ろう? …キスの事だって、ノーカンって事にしとくから――」 「そうじゃないんだよ、かがみ」  一瞬、時が止まったようだった。  絶句する私を尻目に、こなたは静かに首を横に振った。 「…もう私達は、今までの関係には戻れないんだよ。悪いけど、私もそれを望んでない」 「……何それ? なにが…言いたいの?」  嘘だ。本当は分かっている。 「…実は、もう一つかがみに言わなきゃいけない事があるんだ。多分、それを聞けば、私が思ってる事が分かると思う……理解は出来ないかもしれないけど。私ね……」  解けた筈の緊張の糸が、再び雁字搦めのようにきつく私の体を縛り付ける。  これ以上は聞きたくない。 「…あ、あのさ、こな――」 「かがみの事が好きっ!」  慌てて話題を変えようと、話しかけようとした私を無視して、こなたは禁断の言葉を告げた。 「……ははっ、何言ってんのよ、こなた。私達は女同士じゃ――」 「関係無いよ」  決定的な一言を告げられても尚、冗談だと誤魔化そうとする私に、更なる言葉が突き刺さる。 「男だから、女だからなんて関係無いんだよ…。単純に、私はかがみの事を恋愛の相手としてずっと見るんだよ。……かがみじゃないとダメなんだよ…」  一つの曇りも無い真剣な眼差しで、こなたは私の顔を見つめる。  もう、私に逃げ場は無かった。 「…私、もう彼氏が居るのよ?」 「うん、それも判ってる」  私が非情な一言を告げると、こなたの表情に更なる悲しみが帯びていく。  それでも、こなたの決心を揺るがすまでには至らなかった。 「これは私なりのけじめの付け方なんだ。だから、かがみはそれに付き合ってくれなくてもいいから…ね?」  儚げな微笑みを向けながら、こなたはそう前置きすると更に話を続ける。 「……もしも、私の気持ちに応えてくれるなら、イブの日の午後8時に、糟日部駅の近くにある中央公園に来て欲しい…」 「……」  何も答えられない私を見て、こなたの表情に申し訳無さそうな感情が混じる。 「ごめんね…。私、いつも自分勝手な行動でかがみの事を困らせるよね…。ホント。……嫌われても仕方ないって思ってる。――でも、かがみに嫌われるのはやっぱり嫌だな…私……」 「っ!?」  悲しく微笑むこなたの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。 「…へへっ、こんなの卑怯だよね。自分が悪いのに泣いちゃったら、さ…」  制服の袖で目をごしごしと擦ると、ようやくこなたは私の顔から目を背けた。 「…じゃあ、私、待ってるから…」  そして、二度と私の顔を見る事無く、屋上を去っていった……。  …全てが終わった後、私はその場にへたり込んだ。 「……冗談じゃないわよ……」  誰も居なくなった屋上から映る風景を呆然と見つめながら、私は何度もそう呟いた。  ――全てが信じられなかった。  こなたが私に対して恋愛感情を抱いている事も、今までのような穏やかで平穏な関係をもう彼女は望んでいないという事も。  ……こなたとのやり取りを終えて間もない私の心臓が、尋常じゃない勢いでずっと高鳴っているという事にも――。 -[[聖なる夜に]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 心に来ますねぇ… -- 名無しさん (2009-04-27 02:21:20) - いや〜続きが気になる! -- 名無しさん (2009-02-28 04:25:50) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(1)
 私はかがみに“望まないキス”をした。  これから私達の関係がどう変化したとしても、その事実だけは永遠に消えないだろう。  それでも私は、前へと進まなければならない。  それが、マイナスとなってしまっている今の関係をリセットし、何も無いゼロの関係に戻る事になったとしても…。  ――今日、私はかがみに想いを告げる。     「ふとしたことで~0の関係、1の感情~」  終業式の日。全校集会での校長と生活指導の教師の無駄に長い話を耐え凌ぎ、これから始まるHRを適当にこなせば、いよいよ待ちに待った冬休みが幕を開ける。  学校中の雰囲気が冬休みムード一色に染まる中で、私は携帯電話とひらすら格闘を続けていた。  ディスプレイに表示される『送信しますか?』という文字列と、『はい』に合わされたカーソル。  『放課後、屋上まで来て』と簡潔に済ませた本文と、『柊かがみ』と表示された宛先が、私の親指にボタンを押させるのを躊躇わせる。 「…決着を付けるんですね?」  不意に背後から声を掛けられ振り向くと、優しげな表情で私を見つめるみゆきさんの姿と、複雑な表情で私を見つめるつかさの姿があった。  私は笑顔を作り、首を力強く縦に振ってそれに答えた。  みゆきさんがそうですか、と穏やかに微笑む。 「…私は、ゆきちゃんみたいに素直にこなちゃんの事を応援出来ないかもしれない」  つかさが意を決したかのように、私にそう告げる。 「私にとっては、けんちゃんも大切な友達に代わりは無いから、どっちの味方にもなれない。…でも、お姉ちゃんがどちらを選んだとしても、私はずっとこなちゃんの友達だからね」 「私もだよ、つかさ」  辛そうな顔をするつかさに、私は優しく微笑みかけた。  多分、今回の事で一番心を痛めたのはつかさなんだろうなと私は思う。  誰かを喜ばせたい、幸せにしたい。ただそれだけの思いでやったことが、逆に周りを傷つける結果になるなんて誰が想像するだろうか?  思えば、私達四人がこうして仲良くなれたのも、私とつかさのふとした出会いがきっかけだったんだ。  私はつかさに感謝したい。  あなたのお陰で、私はかがみに逢えたのだから…。 「じゃあ、押すよ」  私は二人にそう確認を取ると、携帯電話の決定ボタンを押した。 §  こなたはどうして私にキスなんかしたのだろう?  最近、私はそんな事ばかり考えている。  最初は熱のせいで正常な判断が出来ず、悪戯の延長線上で起きた出来事だと決め付けていた。  でも、それならこなたはすぐに自らの非を認めて謝りに来る筈だ。  少なくとも、廊下で私とすれ違った途端に逃げ出す程、臆病な行動を取るとは到底思えない。  なら、なぜあいつは私を避けるのか?  色々考えた末に、私はある一つの仮定に辿り着く。  …もしかして、私が最初に決め付けていた「単なる悪戯」という前提条件が間違っているのではないか、と。  もしも、あれが純粋な悪戯等ではなくて、恋煩いの末の暴走行動だったとしたら――。  そこまで考えて、ありえないと私はその仮定を全否定した。  世の中にはそういう恋愛を好む人々も居るし、その事自体を私は否定しようとは思わない。  確かに、あいつは女のくせに男のオタク同然の嗜好をしている。  ただ、だからといって、こなたがそういうシュミを持っていると考えるのは、あまりにも馬鹿げてると私は思う。  ましてや、その対象が私だなんて――。 「お~い、柊。さっきからケータイ鳴ってるぞ~」  なかなか結論が出ずに難航していた私の思考は、日下部の言葉によって遮られた。 「えっ? あっ、ホントだ…」  こんな休み時間の合間に誰からだろう?  そんな軽い気持ちで携帯電話を開いた私は、画面に表示された『送信者:泉こなた』の文字を見て、固まった。 『放課後、屋上まで来て』  簡潔に用件だけ書かれた本文に、私は震える手で『わかった。』とだけ、返信した。 §  ――いいか、こなた。人にはな、ダメだと分かっていてもやらなきゃいけない時があるんだ。  ――でも、かがみはもう…。  ――確かに、かがみちゃんにはもう彼氏が居て、いくらこなたがかがみちゃんの事を想っていても、かがみちゃんが同じ感情を持っていなきゃ、その恋は叶わないかもしれない。でもな、今ここで自分の気持ちを伝えられなかったら、いつかきっと後悔する事になる。お前はそれで良いのか?  ――いやだ。かがみに「好きだ」って伝えたい。自分の気持ちを伝えて、かがみと色んな所に行って、色んな話をして……ずっと一緒に居たい……。  ――それなら、まずは行動しないとな。  ――……うん。  あの日のお父さんの言葉で、私はようやく前に進む勇気を手に入れた。  これから私が起こす行動は、儀式のようなものだと思ってる。  私とかがみの関係を一旦全て清算して、また1からやり直す。  …いや、1に戻すだけじゃ、また同じような間違いを犯してしまう。  だから、これは0に戻す為の儀式なのだ。  0にすれば、友情という名の足し算でプラスの数字にはなるけれど、恋愛という掛け算はいくらやっても0のままだ。  だから――。 「こなた」  背後から懐かしい声が聴こえた。  その瞬間、溢れ出しそうになった感情を必死に抑止して、私は努めて穏やかに後ろを振り返った。 「久しぶりだね、かがみ」  1ヶ月ぶりにようやく直視する事の出来たかがみの顔は、緊張感からなのか、それともまた何かされるんじゃないだろうかという恐怖感からなのだろうか、普段の表情とはかけ離れた、とても強張った表情をしていて――私は改めて、自分のやってしまった事の大きさを噛み締めた。 § 「…話って、なに?」  自分でも声が震えているのが良く分かる。  久しぶりに見たこなたの表情は、以前よりも大人びていて、どこか悲しげだった。  私の脳裏に、嫌な予感が去来する。  私は何を怖がっているのだろう?  もし、あの仮定が現実の物として私に直面したとしても、私にはもう付き合っている人が居ると断れば良いだけなのに…。 「うん…。話したい事は色々あるんだけどね…」  そんな私の葛藤に気付かないまま、こなたは本題に入ろうとする。  私の緊張感が一気に高まっていく。 「…一番先に、かがみに謝らなきゃいけないよね…。この前はごめんね、かがみの気持ちを踏み躙るような事をして…。本当に、ごめんなさい」  こなたはそう言うと、真摯な態度で頭を下げた。  …どうやら、この謝罪にはそれ以上の意味は無さそうだ。  それを確認した私は、軽く胸を撫で下ろした。 「うん。私の方こそごめん。熱出して倒れそうだったのに、ビンタした上に、こなたの事を放って帰るような事をして…」 「それは仕方ないよ。あんな事をした私が悪かったんだし…」  …うん、今の所は順調に話が進んでいる。  このまま、今までのように友達で居ようと私が希望して、こなたがそれに同意すれば、私の抱いていた懸念は全て解消される…。 「ううん。私の方も、あの時は感情的になり過ぎてたから…。だから、もう全部水に流して今まで通りの関係に戻ろう? …キスの事だって、ノーカンって事にしとくから――」 「そうじゃないんだよ、かがみ」  一瞬、時が止まったようだった。  絶句する私を尻目に、こなたは静かに首を横に振った。 「…もう私達は、今までの関係には戻れないんだよ。悪いけど、私もそれを望んでない」 「……何それ? なにが…言いたいの?」  嘘だ。本当は分かっている。 「…実は、もう一つかがみに言わなきゃいけない事があるんだ。多分、それを聞けば、私が思ってる事が分かると思う……理解は出来ないかもしれないけど。私ね……」  解けた筈の緊張の糸が、再び雁字搦めのようにきつく私の体を縛り付ける。  これ以上は聞きたくない。 「…あ、あのさ、こな――」 「かがみの事が好きっ!」  慌てて話題を変えようと、話しかけようとした私を無視して、こなたは禁断の言葉を告げた。 「……ははっ、何言ってんのよ、こなた。私達は女同士じゃ――」 「関係無いよ」  決定的な一言を告げられても尚、冗談だと誤魔化そうとする私に、更なる言葉が突き刺さる。 「男だから、女だからなんて関係無いんだよ…。単純に、私はかがみの事を恋愛の相手としてずっと見るんだよ。……かがみじゃないとダメなんだよ…」  一つの曇りも無い真剣な眼差しで、こなたは私の顔を見つめる。  もう、私に逃げ場は無かった。 「…私、もう彼氏が居るのよ?」 「うん、それも判ってる」  私が非情な一言を告げると、こなたの表情に更なる悲しみが帯びていく。  それでも、こなたの決心を揺るがすまでには至らなかった。 「これは私なりのけじめの付け方なんだ。だから、かがみはそれに付き合ってくれなくてもいいから…ね?」  儚げな微笑みを向けながら、こなたはそう前置きすると更に話を続ける。 「……もしも、私の気持ちに応えてくれるなら、イブの日の午後8時に、糟日部駅の近くにある中央公園に来て欲しい…」 「……」  何も答えられない私を見て、こなたの表情に申し訳無さそうな感情が混じる。 「ごめんね…。私、いつも自分勝手な行動でかがみの事を困らせるよね…。ホント。……嫌われても仕方ないって思ってる。――でも、かがみに嫌われるのはやっぱり嫌だな…私……」 「っ!?」  悲しく微笑むこなたの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。 「…へへっ、こんなの卑怯だよね。自分が悪いのに泣いちゃったら、さ…」  制服の袖で目をごしごしと擦ると、ようやくこなたは私の顔から目を背けた。 「…じゃあ、私、待ってるから…」  そして、二度と私の顔を見る事無く、屋上を去っていった……。  …全てが終わった後、私はその場にへたり込んだ。 「……冗談じゃないわよ……」  誰も居なくなった屋上から映る風景を呆然と見つめながら、私は何度もそう呟いた。  ――全てが信じられなかった。  こなたが私に対して恋愛感情を抱いている事も、今までのような穏やかで平穏な関係をもう彼女は望んでいないという事も。  ……こなたとのやり取りを終えて間もない私の心臓が、尋常じゃない勢いでずっと高鳴っているという事にも――。 -[[聖なる夜に]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (T ^ T)b -- 名無しさん (2023-06-22 07:44:05) - 心に来ますねぇ… -- 名無しさん (2009-04-27 02:21:20) - いや〜続きが気になる! -- 名無しさん (2009-02-28 04:25:50) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(1)

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