MAGISTER NEGI MAGI from Hell

虐【いじめ】

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匿名ユーザー

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目が覚めると憂鬱になる。理由は一つ。学校があるからだ。
ああ、授業が嫌なのか。と思う人がいるかもしれない。
そんな生易しい理由じゃない。
私は怖いのだ。学校へ行ってクラスメート達と顔を会わせるのが。
それは下で寝ているアキラも同じだろう。
ベッドがカタカタと小さな音をたてる。原因は私達の震えだ。
この時、このまま時が止まってしまえばどんなに楽な事か…
私達の部屋には時計がない。
夜、静かになると聞こえて来る時計の針が動く音。
何も変哲もない音だが、今の私達を脅かすには十分だ。
「裕奈…、そろそろ…。」
ついに来てしまった。6:30 起床の時間
あのころだったら私は遅刻ギリギリまで布団に籠っていただろう。
しかし今は早く起きなければならない理由がある。

テーブルには二人分のトーストと目玉焼きが置かれている。
会話はない。一言でも話せば情が沸いて来るからだ。
あのクラスでは情を持てば負けなのだ。情をかければこっちがやられる。
私はトーストと目玉焼きをペロッと平らげ、制服を身に纏う。
アキラはまだトーストにかじりついている。
何時からだろうか…。こんなつまらない朝食が始まったのは…。
もう覚えてない。

もちろん部屋を出るのもバラバラだ。
私が部屋を出る時には、アキラは台所で食器を洗っていた。
アキラは優しすぎる。アキラは毎朝、私の分の朝食を作り、食べ終わった全ての食器を洗ってから学校へ行く。
アキラは陰ながら私の世話をしてくれているのだ。
それにくらべて私は何もできない。何も…

ガチャ
「あ…」
「まき絵…」
なんてことだ
私は偶然、隣の部屋の住人である佐々木まき絵と鉢合わせてしまった。
「お、おはよう裕奈…。」
まき絵は心配そうに私の顔を覗きこんでくる。
なぜ、私の周りの人達はこんなにも優しすぎる人ばかりなのだろう。
その優しさが今の私には重荷になる。
「(まき絵…ごめん!)」
ドンッ!
「きゃ!!」
私はまき絵を突き飛ばし、全力で走った。これ以上、まき絵と一緒にいたくなかったのだ。
「(最低だ…、最低だよ。私!!)」
私は、こんな自分が大嫌いだ。

―一番ホーム、電車出発しま~す。
7:10の電車に乗れた。こんなに早いとまだ学園の生徒たちもあまり見かけない。
いや、その方が落ち着く。

「(あ、あれは…。)」
よく見ると、隣の車両にはいいんちょと夏美が座っていた。
あまりよく見えないが、どうやら二人ともお互いに手をつないでいるようだ。
心の落ち着かせ方は人それぞれ。
私の様に独りでいる人もいれば、彼女たちの様に恐怖を和らげるために馴れ合いを欲する者もいる。
しかし、あの二人を見ていると、馴れ合う事がどんなに酷な事か思い知らされる。

彼女達の部屋の住人は今、一人欠けている。
『あなた達、こんな事して恥ずかしくないの?』
始めの頃は私達の様な弱者を守ってくれた母親的存在。
『大丈夫?…フフ、もう泣かないの!』
とても暖かく、そして優しかった千鶴さん。
『あ、ちづ姉!危ないっ!!』
『えっ?』
ドスンッ
『キャアアアア!!』
『おいっ、こりゃヤバいぞ!先生と救急車呼んで来い!』
ピーポーピーポー

千鶴さんは天文部の機材の下敷きになり、全治四ヶ月の重傷をおった。
犯人はわかっている。しかし、先生に言う事は出来なかった。
後が怖かったから…
あの事件の後、このかはこう言った。
『全く千鶴さんは馬鹿やなぁ。大人しくしとけばこんな事にはならずにすんだのに。まぁ、これで守る鎧を無くした虫ケラ達の悪足掻きが見られるからええけどな。』

思わず自分の拳が堅くなる。
とても腹立たしい。
奴らにじゃない。自分にだ。
千鶴さんは懸命に私達を守ってくれたのに、私はあの時このかを殴る事さえ出来なかった。
本当に最低だな…、私…。
―まもなく~、麻帆良学園前~、麻帆良学園前です。

ついにここまで来てしまった。
迷う事はない。前に進む事しか方法がないのだから。
最初の頃はここに来るだけで吐きそうな気分になった。しかし今はもう慣れた。
一歩一歩、地獄へと近づいていく。
ドン!!
突然、私に何かがぶつかった。
私の足下に転がっていたのはバレーボール
「あ、すいません。」
おそらく私より下級生だろう。ヘラヘラした顔でボールを拾いに来ると、一礼してどこかに消えてしまった。
気がつくと私の周りには朝練を楽しそうに励んでいる生徒たちの声が聞こえてくる。
ムカツク。何でお前らはそんなに楽しそうに笑えるんだ?
私はこんなに苦しんでいるのに!!
…なに嫉妬してるんだろう。

私はこんな自分が情けなくて仕方がなかった。

「あ…!!」
自分の足はいつの間にか3ーAの教室の前に立っていた。
「(…よし、いくぞっ!)」
心の中で気合いを入れ、扉に手をかける。
…やはり震えている手。

私はベクトルが向かない様に懸命に祈りながら扉を開いた。
ガラッ
教室にはほとんどの生徒がいた。
時計は7:30。間に合った…。
私はひとまず安心して席についた。
…みんな表情が暗い。
まあ、こんな状態で明るい人がいたら、その人は狂ってしまっているに違いない。
いわゆる現実逃避。
…私もできる事ならこのクラスから逃げて、どこか私の事を知らない人達だけの町に行きたい。
なぜ、そう思ったのか…。それは…
「はい!キーンコーンカーンコーン!これ以降に登校した人は遅刻でーす!」
…時計の針はいつの間にか7:45を指していた。
教卓には桜子が満面の笑みで立っている。
「え~と、遅刻者は…」
この女は本当に腹立たしい。
いつもヘラヘラして、まるで人の不幸を嘲り笑うかのように…
なんでこの女が今まで袋叩きに遭わなかったのか私は不思議でならない。
ガラッ
「(えっ?)」
このクラスでの遅刻はご法度だ。破ればそれなりの罰がある。…それなのに…
「こんにちは。大河内アキラさん。」
なんで…
桜子の笑顔がどんどん醜く歪み始める。
「残念だったね~、アキラ。」
桜子は教壇を降りると、静かにアキラのほうへ歩み寄っていく。

「あ、あの…、で、電車が混んで…て。」
アキラは歯をガタガタと鳴らしながら、必死に遅刻理由を語る。
おそらくアキラの事だ。本当に電車が混んでいたのだろう。
「ダメだよ~、言い訳なんて。未練がましいよっ。」
しかしこのクラスには、そんな事は通用しないのだ。
嘘か真実かなんて彼女達にはどうでもいい。重要なのは…
「それじゃあアキラは二度と遅刻をしないように罰を受けましょ~!!」
そう、重要なのは違反者のペナルティー。
ペナルティーという大義名文を手に入れた桜子はアキラになにをしても責められる事はないのだ。

「円、縄跳び持ってる~?」
桜子は振り替えると、かつての旧友にチャラけた笑顔を向けた。
「い、いや、持ってない…。」
円もどこか分が悪そうな顔をしている。
「そっか~、残念。じゃあ取って来て。」
無茶な注文をする。中等部に入ってからというもの、縄跳びなど授業で使った事など一度もなかったのに。
断言しよう。縄跳びを借りてくるなら、小等部まで恥を忍んで借りてくるしか方法はない。
「わかった…。」
逆らえば地獄。円には最初からやるべき事は決められていたのだ。


「それじゃあヨロシクね~!あ、なるべく早くお願いね~。く・ぎ・み・ん☆」
「――!!」
円の堅く握られた拳が震えている。よほど悔しかったのだろう。
円は何も言わず教室を出ていった。

『くぎみんって言うなー!』
…つい昔の事を思い出してしまった。
あんなに仲のよかったチアガールが今ではお互いにいがみ、憎みあっている。
正直、こんなチア三人組見たくなかった。

「…ほう…わかった。それじゃあ。」
今気づいたのだが、超鈴音が携帯電話で誰かと話している。
超は電話を切ると、突然立ち上がり、手をパンパン叩き始めた。
「桜子さん、お楽しみの所悪いガ、今日は中止ネ。」
「え~、なんで!それじゃつまらないじゃん! 」
桜子の笑顔が歪み始める。
自分の楽しみが潰されるのが気に食わないのだろう。
「まぁ、そう怒っちゃダメネ。そんな事よりも面白い話があるヨ。」
「え~!なになに!」
歪んだ笑顔から一変し、今度は目をキラキラと輝かせて超を見ている。
こういう所を見ると、超は人を操るのに長けていると毎回思う。
「取りあえず、ホームルームが始まれば分かる事ネ。少し我慢するヨロシ。」
「くぅ~、知りたい~!」
桜子は本気で悔しがっている様だ。
キーンコーンカーンコーン
ホームルームが始まる。


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