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ドアの付近で何やら言い合っている。ひどく慌てた表情の桜子が円を追い掛けようとしたところを、柿崎が止めに
入ったらしい。
「桜子はここで待ってて。円と二人で話したい事があるから」
「私も行くよ! 円、絶対傷付いてる! 慰めてあげなきゃ!」
「桜子」  美砂が桜子に詰め寄る。何が何でも二人にならなければいけない、そんな気迫が籠もっていた。
「大事な話があるの。お願い、二人にしてちょうだい」
気迫に気圧されたのか、桜子が渋々引き下がった。いつも一緒だった三人が突然二対一になれば、不安になる
のは当然だろう。逆に言えば、第三者が話し掛ける恰好のタイミングだ。
「あ、あの……桜子さん」
「え?あ、あぁ、本屋ちゃん……」  表情が沈んでいるうえ、声のトーンが落ちた。これは仕方がない。
人は災難が起きた時、真実よりも目の前に見えている災厄だけを憎む。被害者が必要以上に騒ぎ立てなけれ
ばここまで話は大きくならなかったのに、という、あの精神だ。
「あのう、ちょっとお話が」
「本屋ちゃん、信じて! 円は絶対にやってないから! ね? 私からも謝るから! お願い、信じて!」
言いたい言葉の内容が崩れている。大分混乱しているんだろう。というよりは、謝罪する事で全ての解決を願って
いるようだった。
「いえ、別に釘宮さんを疑っている訳じゃないんです。というより、クラスからの疑いを晴らすために必要なお話
 なんです。一緒に来てくれませんか?」
納得のいかない表情のまま項垂れながらも、桜子は了承してくれた。これで真実に一歩でも近付ければいいの
だが。

ちょっとでも雰囲気のいい場所を選ぼうと、ダビデ像周辺のベンチに腰掛けて二人で昼食を摂った。桜子は
購買で買ったらしい焼きそばパンと牛乳、鮭のおにぎりという、一般的に見れば質素な、学生から見ればごく
普通のランチを持ってきていた。
「じゃあ、昨日は三人共一緒に帰ったんですね?」
桜子はやや不安げな表情で眉を下げ、頷きながらパンにかじりついた。
六限目終了は3時5分。着替えは三人一緒で、桜子は一人ラクロス部へ。後の二人はチアリーディング部の練習。
午後5時45分、ラクロス部終了。教室に戻るとチア部の二人は既に戻っていて、着替えを済ませていた。
「その時、他に誰が教室にいたか憶えてますか?」
ゆっくりとパンを噛みちぎりながら唸り声を上げている。
「いなかった……、と思う。ラクロス部は大会が近付いてるから、遅くまで練習してたんだ。それで二人とも、
 いつも待っててくれて……。だから教室には他に誰もいなくて、他の子達はみんな帰った後だったと思うよ」
時間を埋めるには少し足りない。誰にでも動くことが可能な時間が残り過ぎている。


「ごめんね、あんまり役に立てなくて。でも、ホントにホントに、絶っ対に円はやってないから」
「はい、私もそう思います。釘宮さんも柿崎さんも、いつも3-Aを応援してくれるいい人達ですから」
あまり探偵の真似をして根拠をつらつらと並べるのも何かイヤミな気がして、出来るだけ当たり障りのない言葉で
応えた。実際、あの二人があの様なイタズラをするとは思えなかったが、あくまで可能性の一つとして頭の隅に
置いておくことにした。
それからしばらく、気を紛らわすために二人で雑談にふけった。お互い、グループを抜け出してきた仲間意識の
ようなものが後押ししてくれているのか、思った以上に会話が弾んだ。
「ありがとね。お昼、付き合ってくれて。実は結構寂しかったんだ」  教室で話し掛けた時よりは大分表情が明るく
なっていて、やっぱり桜子の笑顔には、人を元気付ける力がある事を改めて実感した。
「い、いえ、こちらこそ付き合ってもらっちゃって。ありがとうございます」
「またいつでも、聞きたい事があったら呼んでね。円の疑いが晴れるなら、何でも協力するから」
「はい。私も、出来る限りの事はやってみようと思います」  その笑顔を絶やさないでくれるのなら、出来る限りの
事はやってみよう。そう思いながら、桜子と別れた。