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視点② 宮崎のどか
授業には関係のない本の、中身を隠したまま円の方を向くのはあまりに不自然だと思ったので、ちょっと強引な
方法で円に近付く事にした。
ノートの切れ端を破り、ゴミを捨てに行く振りをして、円に近付く。幸いゴミ箱は教室の一番後ろ、円の座る席の
側にあったため、不自然な移動ルートではなかった。
一番新しい白紙のページを人差し指で挟み、円の真横を通り過ぎる。上手く描かれていればいいのだが。

普段、無闇やたらとアーティファクトを使わないのどかが、円の頭を探ってみようと思ったのは、円が先程の
出来事をすぐに否定しなかったせいだった。本当に疑われたくない者は、即座に否定する筈だ。言い逃れる
方法はいくらでもあるし、確定していない場合は、バレた時の言い訳を先に考えておく場合が多い。
自分も悪戯に合っただとか、もしくは、終始白を切るだけでもいい。
推測の域は出ていないが、全てが露呈してしまった今、犯人探しを遠慮していても仕方がない。もし誰かに
騙されているのなら、あるいはそれに近い何か裏があるのなら、彼女は被害者という事になる。

ゴミを捨てて戻ってきたのどかは、自分の席に戻って本を机の中に仕舞った。あまりにも教室が静まり返って
いたため、消去する呪文を唱えることは躊躇われた。
「では、宮崎、村上、雪広、ザジ。前に出て、この問題を解いて」
のどかは席を立ち、黒板の前まで出た。教室を見渡してみると、何故かこちらを見て同情の目を向ける者が
多かった。どうして皆、そう簡単に人を疑えるのだろう。そう思ったが、一番前の席の桜子だけは、円の方を
向いて心配そうな目を向けていた。

一時間目が終了すると、急いで本を持ってトイレの中に入り、中身を確認する。

『違う。私じゃない。でも、説明できない。美砂に仕組まれたのかも。全ての罪を私になすり付けるために?
 分からない。昨日一日を切り離してしまいたい。みんなこっちを見ないで。誰か側にいる。誰?早く行って』

どうやら柿崎が絡んでいるらしい。昨日、私の机に写真を入れたのは事実のようだ。そして、円は今日の事件を
柿崎がやったことなのではないのか、と疑っている。文字の上に表示された絵柄は、ついさっきの、写真が
落ちた瞬間だった。余程ショックが強かったのだろう。
真相、というには一歩足りない。円が柿崎の事を疑っている、ということは、それなりの要素があるのだろうが、
それはあくまで円の推測に過ぎない。確たる証拠でない限り、決めつけることはできない。
描かれているのはこれだけだろうか。見開きの二ページ目だったので、念のため次ページをめくった。

『罰』

一言だけ描かれていて、絵柄はない。円のものだろうか。そう捉えられなくもないが、前のページの続きという
には、どこか違う印象を受けた。妙に迫力があって、一文字だけ、というのが不気味さを引き立たせている。
名前を意識しなければその人間の心は描かれない筈だが、常にクラスの顔が目に入っているから、無意識の
内に描かれてしまったのかもしれない。
誰の心だろうかと考えてはみたものの、あれだけ疑われていれば、『罰が当たって当然だ』と考える者がい
てもおかしくないかもしれない。
のどかはひとまず本を閉じて、トイレを出た。話を聞いてみる価値はある。円が先か、周辺が先か。
頭の中で会話をシミュレーションしながら、出来るだけ相手を傷付けない方法を考えて、教室までの廊下を
進んだ。

釘宮 円
「あ、あの、くぎみ……」
後ろから聞こえた声を振り切った。今は誰の顔も見たくない。廊下にいる生徒を次々に追い抜き、屋上まで
全力疾走で駆け昇る。開け放たれた扉を抜けて端まで辿り着くと、縁に手を突いて荒くなった呼吸を落ち着か
せた。そのままその場にへたり込み、空を見上げる。昨日までの出来事を嘲笑うかのような嫌味な青。
呼吸が元に戻った頃、メールで呼び出しておいた柿崎が現れる。怯えているのか、虚勢を張っているのか、
それとも必死で言い逃れの言葉を探しているのか、目が泳いでいる。
「ねぇ、先に言っておくけどさ、円。私じゃ、ないから」  第一声は、円の想像通りだった。
「こんなこと……言いたくないんだけどさ……」
柿崎の目の前まで歩を進め、眼前で声を荒げた。
「アンタ以外に誰がいるの!? 誰かが私達のやった事を見てて、それで私だけに復讐したっての!?
 嘘吐くにしてももうちょっとマシなの考えなさいよ! 全部私のせいにしたかったんでしょ!?」
一気にまくし立てると、さすがに柿崎も両手を前に突き出してたじろいでいた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、円。確かに、アンタだけってのは私もおかしいと思ったわよ。でも私達、昨日一緒に
 帰ったよね?」
今度は円が言葉を無くした。確かに、考えてみれば美砂には無理かもしれない。登校も昨日の下校も一緒だった
のだから。昨日の下校時にはちゃんと机の中身を確認したし、今日の朝は、教室に着いてからずっと美砂と一緒
に始業時間まで喋っていた。

昨日の下校前にはちゃんと机の中身を確認した筈……。
記憶を掘り返してみる。が、昨日の記憶がボヤけているのに気が付いた。

宮崎のどか
「あ、あの、くぎみ……」
昼休みのチャイムが鳴ると、真っ先に背後から円に声を掛けたが、全力で振り切られてしまった。
やっぱり本人に聞くのが一番手っ取り早いと考えたが、逃げられてしまっては仕方ないと思い、周辺調査に切り
替えた。
「ひどいよねぇ。あんな事しておいて一言も謝らないなんて。放っておきなよ」
円のすぐ前の席の佐々木まき絵が、あからさまな敵愾心を向き出しにして、円の背中を追い掛けるように言い
放った。そう考えるにはまだ早い、と、のどかは慌てて否定する。
「あぁ、でも、まだ分からないよ。本人も違うって否定してたし」
「甘いよ本屋ちゃん!」  突然声のトーンが変わった。試験の点数が悪くて叱られたのかと思ってしまう。
「本屋ちゃんは人を信じ過ぎる! そんなんじゃあ、また昨日みたいな事が起こっちゃうよ!」
「で、でも、もし釘宮さんじゃないんだったら、それこそまた昨日みたいな事が起こっちゃうんじゃあ……」
「違う! 違うよ……」  どうやら、具体的に何が疑わしいのか、何が“違う”のかまでは考えてないらしく、
まき絵の次の言葉は続かなかった。
「それじゃあ、ごめんなさい……。私、調べなきゃいけない事があるから」  豹変したまき絵の態度は、自分が
原因のような気がして、何か悪い事をした気分になってしまう。自然と『ごめんなさい』が口をついて出てきた。
何か言いたそうなまき絵の視線を背中に浴びながら、桜子の元へ向かった。