MAGISTER NEGI MAGI from Hell

第一話―のどかいじめ―

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匿名ユーザー

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「ねぇ、本当にやるの?」
「そうよ」  当たり前の様に言う。まるでそうするのが当然である様に。ランチを食べに行く様な感覚で。
「別に大丈夫でしょ、単なるイタズラだし。逆に男に慣れるってもんよ」
美砂が宮崎のどかの机の中に男の裸の写真を入れようと提案したのが昨日。どうやら美砂は、彼氏と喧嘩をした
とかで鬱憤が貯まってたらしい。相当酷い喧嘩だったのか、理由は教えてくれなかった。
そういうわけで今、宮崎のどかの机の前にいる。他のクラスメートは部活に出てしまい、教室に残っているのは
美砂と私の二人だけだった。
「これでよしっと」  入れ終わったらしく、せいせいした顔つきになっている。一体何にせいせいしたのだろうか。
「どうして、本屋ちゃんなの?」  恐る恐る尋ねてみた。
「このイタズラが他の誰かに効くと思う?……あぁ、まぁいいんちょなら効き目ありそうだけど、『誰ですか、こんな
 破廉恥なイタズラをなさったのは!』とか、そんな感じで終わっちゃいそうな気がするし」
円は気が乗らなかった。イタズラにしては、いつもとは質が違う気がした。どこかに亀裂はが入ってしまいそうで、
説明のつかない悪寒がさっきから背中を撫でていた。
「ねぇ、終わったら、後で謝りに行くんだよね?反応を楽しんだら……」
「謝りに?何で?」
「いや、だって、そりゃあ……」  もごもごと言い訳を口にしてみようとするが、意外にも出てこない。
「そりゃあ、何?私達が謝ったから、何なの?どうせ本屋ちゃんなら許してくれるでしょ」
確かに、これぐらいのイタズラなら、あの優しいのどかなら許してくれそうな気がした。そんな都合のいい考えで
必死に自分を納得させようとした。それに、今日の美砂は格別不機嫌で、あまり口答えしているとすごい勢いで
怒られそうな気がして、だから、それ以上は何も言う事ができなかった。

「明日菜さん、一時間目から英語だからって、だらけないでくださいよ~」
いつもと同じ注意、そしていつもと同じく、あやかのフォローが入る。
「明日菜さん、ネギ先生の授業の時くらい、起きてなさいな!」
「ほ、他の授業でもですよ~!」  暖かい談笑が巻き起こる。 「それでは、教科書を開いて下さい」
教科書の角が木製の机にぶつかって、ゴトゴトと音を立てた。この時ばかりは、うるさいクラスもその騒音を
収め、皆が教科書と机の立てる音に聞き入っているかのように静かになる。
最初に気が付いたのは刹那だった。のどかの出した英語の教科書と一緒に、白い紙が出てきたのである。
「宮崎さん、何か落ちましたよ」
「へ?」
“ひらひら”というよりは、見事に裏面だけを上にしたまま、すんなりと隣の席、のどかの左側に流れていった
その紙を、あやかが拾って確認した。途端に、今度はあやかの声が裏返る。
「ひっ!!な、なんですの!こ、これは!!」
まるで汚いモノでも拾ってしまったかのようにあやかの手からこぼれ落ちたその紙を、今度は亜子が拾った。
「な、なんや、これ……」
一同不信そうな表情でその光景を眺めていたが、写真の正体が知れると、途端に騒ぎはクラス中に伝播した。
「ま、まさか、本屋ちゃんが……」 「ウソ……」
「ち、違います!わ、わた、私、こんな……」 必死に手を振って自分の無実をアピールしていたのどかだったが、
そののどか自身、手元の写真を見て失神しそうな自分をかろうじて堪えている状態だった。
「違う、違います!わた、ウプ……」
「み、みみ、みなさん、落ち着いて!落ち着いて下さい!!」  皆を落ち着けようとするネギも、突然の出来事に
パニックに陥っている。

この時点で円が、「私がやりました」と言っておけば、まだ収まりがついたかもしれない。ほんの悪戯です、と。
しかし、騒ぎが大きくなっていくにつれ、タイミングを見失ってしまう。声を出そうにも喉の奥が震えて、言おうと
した言葉が上手く出てこない。
「と、とにかく!今は授業中ですから、みなさん静かにしてください!」
大きく響いたネギの声で、事態は一応の収束を見せた。しかし勿論、まともな授業ができる筈もなく、のどかは
保健室に行く始末、噂を立てるざわめきの声も、静まる気配を見せない。
当の柿崎はと言えば、ただ自分の席で口元を歪め、一人で笑いを堪えているだけだった。
円の胸に不安が募っていく。これで完全にタイミングを逃してしまった。後々になって、「実はさっきのは……」
だなんて、カッコがつかないし、自分だけが犯罪者であるかのような晒し者にはされたくない。
このまま噂が流れてくれれば……。
どうせ、あんな小さな出来事、すぐにみんな忘れてくれる……。
心の中で誰かが囁いている。いや、その“誰か”の所為にしたいんだろう、多分。
円は自責の念に駆られながらも、ひたすらその日の授業を耐えていた。
周りから迫り立ててくる噂は、自分に対するものなのではないのか、そんな疑心暗鬼に心を揺さぶられながらも。

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